特集/リハビリテーションにおける国際技術協力
初山泰弘*
わが国の政府開発援助ODA(Official Development Assistance)は、発展途上国への経済開発や福祉の向上に寄与する目的で、政府ないし政府の実施機関により供与される資金協力である。1991年度には総額110億3,400万ドルとなり、アメリカを抜き先進諸国のなかでは第一位を占めるにいたった。ODAの中身には無償資金協力、技術協力、国連諸機関・国連金融機関などへの出資・拠出および政府借款などが含まれている。海外開発途上国に対する援助は、資金支援や建物・器材などの無償協力を実施しても、専門的知識・技術をもつ人材が不足しているために、それらの援助を十分活用できない例もあるため、開発途上国への援助はハード面のみでなく技術移転・人材養成などソフト面からも検討し必要な場合には技術協力をも併せ行うことも重要であると指摘されていた。
この技術協力は図1のように技術協力、研究協力、教育協力に分けられ、実施にあたっては政府ベース、民間ベース、のほかWHO、UNICEFなど国際機関を介する方法がある。
図1 技術協力の種類と内容
通常、政府べースは発展途上国からの公的な要請に基づいて国際協力事業団を中心に実施され、民間ベースでは技術協力事業に対して補助金等により援助し、国際機関には拠出金を介して技術協力を果たしている。
参考までにわが国の技術協力の現状を表にすると表1のようになる。額そのものは増額されているが、ODA全体に占める率は16.9%と年度毎には不変で、2国間の技術協力実績を諸外国と比べると18ヵ国中14位に留まっている。
年 態形 |
1987 | 1988 | 1989 | 1990 | 1991 |
1.留学生及び研修生受入 | 246.52 | 339.82 | 337.99 | 508.28 | 474.47 |
留学生 | 79.67 | 137.69 | 135.25 | 285.43 | 212.95 |
研修生 | 166.86 | 201.62 | 202.74 | 222.85 | 261.52 |
2.専門家及び協力隊員派遣 | 381.38 | 483.44 | 508.97 | 532.34 | 592.47 |
専門家 | 384.10 | 431.99 | 451.35 | 466.88 | 521.24 |
青年海外協力隊員 | 47.28 | 51.45 | 57.62 | 65.46 | 71.23 |
3.その他 | 439.14 | 601.73 | 634.23 | 604.73 | 366.21 |
技術協力合計(A) | 1,067.04 | 1,424.49 | 1,481.20 | 1,645.25 | 1,870.11 |
政府開発援助(B) | 7,454.44 | 9,133.68 | 8,964.89 | 9,221.88 | 11,033.63 |
政府開発援助に占める割合 (A)/(B) |
14.3% | 15.6% | 16.5% | 17.8% | 16.9% |
注 専門家には、調査団を含まない
技術協力合計には、行政経費等を含む
また国際協力事業団(JICA)を主体とした専門家派遣事業および専門家受け入れ事業の派遣総数については表2の通りとなる。
機関 年度 |
JICA | 政府ベース小計 (含むJICA) |
民間ベース | 合計 |
1981 | 3,772 | 4,161 | 2,109 | 6,271 |
1985 | 5,549 | 6,002 | 2,913 | 8,317 |
1990 | 7,556 | 8,118 | 3,835 | 11,953 |
1991 | 8,096 | 8,550 | 3,894 | 12,444 |
機関
年度 |
JICA | 政府ベース小計 (含むJICA) |
民間ベース | 合計 |
1981 | 1,168 | 6,310 | 149 | 6,450 |
1985 | 1,732 | 7,758 | 121 | 7,879 |
1990 | 2,509 | 9,165 | 220 | 9,382 |
1991 | 2,571 | 9,948 | 260 | 10,280 |
注 派遣事業では政府ベースではJICAの調査団派遣人数が専門家派遣の2倍以上を数える。
JICA派遣人数内には調査団人数は含まれていない
1991年度国際協力事業団がおこなった研修生受け入れおよび専門家派遣実績の地域別表は表3の通りである。
研修生受入 | 専門家派遣 | |||||
JICA** | 総計 | (%) | JICA | 総計 | (%) | |
東アジア | 3,692 | 6,829 | (54.9) | 1,278 | 4,125 | (40.4) |
南アジア | 733 | 1,171 | (9.4) | 262 | 1,091 | (10.7) |
中東 | 259 | 351 | (2.8) | 154 | 393 | (3.8) |
北アフリカ | 236 | 279 | (2.2) | 85 | 413 | (4.0) |
南アフリカ | 712 | 817 | (6.6) | 165 | 1,090 | (10.7) |
中南米 | 1,707 | 2,027 | (16.3) | 472 | 1,799 | (17.6) |
大洋州 | 276 | 355 | (2.9) | 52 | 327 | (3.2) |
欧州 | 473 | 585 | (4.7) | 47 | 290 | (2.8) |
その他 | 8 | 19 | (0.2) | 13 | 497 | (4.9) |
国際機関43 | 58 | (0.6) | ||||
合計 | 8,096 | 12,444 | (100) | 2,571 | 10,209 | (100)* |
注* 区分不能が1.2%あり
**JICAによる調査団派遣数は専門家派遣人数には含まれない(表2も同じ)
なお専門家派遣の専門職種別にみると保健医療分野は総数の20%を占めている。
専門家の派遣および受け入れのほか技術協力には以下のような方法がある。
①専門家派遣 ②研修生の受け入れ ③器材供与、の3方式を組み合わせ協力期間を4~5年とし総合的に援助を行うもので、国際協力事業団と相手国実施機関との間で責任分担の合意文書「討議議事録(R/D:Record of Discussion)」が取り交わされる。中国の中日友好病院、中国リハビリテーション研究センターなどは保健医療協力プロジェクトのひとつとして行われたものである。
(1)補装具制作技術者コース
国立身体障害者リハビリテーションセンターは1979年(昭和54年)7月に在京の国立の身体障害、聴覚言語障害、視力障害センターの3センターが合併して所沢に移転、病院、研究所、学院を併設し発足した総合リハビリテーションセンターである。設立2年後の1981年に国際障害者年記念事業として、アジア太平洋地域の義肢装具製作技術者の研修コースをJICAから委託を受け研修を開始した。
このコースは毎年4~5名の義肢装具製作技術者を招聘し講義と実習を併せ4ヵ月間の研修を行うもので、現在まで12年間、表4のように20ヵ国、60名の技術者が研修を終え帰国している。わが国で使用している義肢装具の部品と現地で使用可能な部品との違い、義肢装具士の国際的な養成期間3~4年に比べ短期間であるなどの批判はあるが、第一線で義肢装具を製作している途上国の技術者に「義肢装具士の在るべき姿」「新しい義肢装具の製作技術、将来支給されるようになるであろう材料の利用法」などを伝えると共に、この研修会を通じてわずかでも日本への理解を得ていこうという考えのもとに毎年続けている。ただし国によっては、義肢装具製作技術者は英語を話さないグループに属するため、医師、理学療法士などが推薦されてくることもある。
国名 |
1981 | 1982 | 1983 | 1984 | 1985 | 1986 | 1987 | 1988 | 1989 | 1990 | 1991 | 1992 | 1993 | 計 |
バングラデシュ | 2 | 2 | ||||||||||||
中国 | 1 | 1 | 1 | 1 | 4 | |||||||||
インドネシア | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 9 | ||||
香港 | 1 | 1 | ||||||||||||
韓国 | 1 | 1 | 2 | |||||||||||
マレーシア | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 11 | ||
ミャンマー | 1 | 1 | ||||||||||||
ネパール | 1 | 1 | ||||||||||||
フィリピン | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 8 | |||||
シンガポール | 1 | 1 | 2 | |||||||||||
スリランカ |
1 |
1 | 1 | 3 | ||||||||||
タイ | 1 | 1 | 2 | 2 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 11 | ||||
イラク | 1 | 1 | 1 | 3 | ||||||||||
ケニア | 1 | 1 | ||||||||||||
チリ | 1 | 1 | ||||||||||||
ジャマイカ | 1 | 1 | ||||||||||||
計 |
9 | 3 | 5 | 4 | 4 | 4 | 6 | 5 | 6 | 4 | 3 | 4 | 4 | 61 |
(国際協力事業団より委託)
(2)中国リハビリテーション研究センター
中国には公式には5,164万人が、実際にははるかに多い8,000万人が障害者であるといわれている。このような背景のもとに1984年に中国障害者福利基金が設立され、この傘下にリハビリテーション研究センターが開設されることになった。
このセンターは建築資器材と医療材料を日本から無償資金協力を行い建設される予定であったが、中国政府から近代的な総合リハビリテーションセンターを設立したいという強い要請があり、その結果プロジェクト事業として1986年から1991年までの5年間の技術協力とその後のフォローアップ2年間を加えた、計7年間にわたる技術協力が実施されることとなった。
本年9月上旬、この技術協力の最終調査団が派遣され日本側の責任者である津山直一団長と中国側代表の[とうぼく]方中国身体障害者連合会主席との間で調印式が行われた。また日本側からは五味重春団長、野島元雄副団長ほか30名ほどが参加し、9月6日から8日にわたり両国関係者による最終セミナーが開催され、リハビリテーション関連職種による活発な討論が交わされた。
北京市の南外れの荒地であった地域に建てられた、建物面積51,000平方メートル、373床の病棟と1,000名を超える職員を擁するリハビリテーション研究センターの全容をみると、この7年間の中国の発展を反映しているようにも思えた。
ちなみにこの7年間に派遣された日本側の専門家は延べ190名、中国側から受け入れた研修生は78名にのぼる。今後はこれまでの関係者の方々のご努力に報いるためにも、このセンターを教育研修の中核機関とするための努力を続けていきたいと考えている。
(3)その他
NGOの委託を受けリハビリテーション関連職種のいくつかの短期研修も受け入れている。また研究所ではカナダ、フィンランドなどの大学研究機関との間で交換研究員制度も利用している。
以上国立身体障害者リハビリテーションセンターの技術協力の現状を紹介した。アジア太平洋の10年の一環として国立身体障害者リハビリテーションセンターの役割のひとつとして今後とも国際的な技術協力に力を注いでいきたいと考えている。
文献 略
*国立身体障害者リハビリテーションセンター総長
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1993年12月(第78号)6頁~9頁