特集/リハビリテーションにおける国際技術協力 社団法人 銀鈴会

特集/リハビリテーションにおける国際技術協力

事例紹介

社団法人 銀鈴会

矢崎晴男

 (社)銀鈴会は1954年9月故重原勇治の私財により、喉頭摘出手術により、声を失った人たちの食道発声リハビリテーション教室としてスタートした。受講者の急増に対応して1965年厚生大臣認可による社団法人組織となり、創立以来40年、ボランティイア精神による技術指導は日本全国に普及した。

 また、アジア圏には30万人いる喉摘者の救済を行うため国連・障害者の10年に合わせて1982年第3回世界喉摘者大会を東京経団連会館において3日間開催し、全世界にアピールを行った。これが国連の同調するところとなり、1985年、喉摘者アジア連盟を創立しアジア13ヵ国・地域の喉摘者を救済するため発声指導者養成事業を開始した。各国より喉摘者中指導者となり得る適格者を東京に招致し、3ヵ月間集中的に研修を行い技術移転教育を実施している。幸いにしてこれらの人たちが各国に帰り、発声リハビリテーション組織の結成と運営の中核として献身的努力を行っていることは自助努力の芽が大きく成育しつつあり、誠に喜ばしい限りである。今年までに10ヵ年経過し、124人が研修を終了している。

 各国組織が100人以上となった国には指導員を日本から派遣して、指導員教育と併せて一般喉摘者の訓練など、効率的な活動を実施している。社会福祉行政の遅れている途上国においては行政関係者、医療関係者に社会福祉啓発に大きなインパクトを与えている。その一例として以下の新聞記事を紹介したいと思う。

パキスタン DOCTOR INTERNATIONAL

Vol.14 No.14 NOVE15―30

TH-1992

 カラチ発11月10日 パキスタンで初めて食道発声研修会がM.ジャリシ教授によって開催された。教授は1986年カラチ・ドウ医科大学耳鼻咽喉科教室に設立されたパキスタン喉頭癌クラブの初代顧問である。この研究会には日本からAFLA(アジア連盟)会長中村正司先生、船村、久永、松本、各指導員の先生によって行われた。日本の銀鈴会の役員である4氏の訪パはAFLAの援助で実施された。中村先生は両者の会長であり、食道発声の世界一の人格者である。

 これまでの経過を述べると、カラチ大学医学部長ドウ医科大学耳鼻咽喉科頭頸部外科主任のM.ジャワシ教授は最初にこのプログラムを始めた歴史的背景について説明された。彼は1964年にパキスタンで初めて喉頭摘出手術に成功した。その後この手術は日常的に行われている。しかし手術後に直面する大きな問題は発声リハビリテーションであった。

 以前は喉頭癌患者はどこでも手術と言われ、患者は逃げ出すか他の治療を希望した。

 約10年前教授はAFLA設立を日本グループからアプローチされた。彼は1986年第2回のアセアン頭頸部学会中であったが、AFLAの会議に出席して手術後の患者を食道発声のため日本に送ることが決定された。手術した同僚は日本に行って患者から食道発声訓練を受けることが期待された。このプログラムはAFLAの援助のもとに、パキスタンから日本へ8名の患者を3ヵ月間の訓練に送り出した。彼らは今、食道発声技術で他の患者を訓練している。これはAFLAによってなされた見事な事業であったとM.ジャリシ教授はつけ加えた。

 AKU医科大学病院ナシール・アーマド教授は、喉頭摘出後の発声訓練方法を医師と患者に贈ったことは賞賛すべきことである。少数の患者は電気式人工口頭(ラリンクス)を与えることができたが、多数の患者は食道発声をとりもどしていない。我々は喉頭癌クラブを国内に設立して患者を激励をする必要があり、教育資料や翻訳物が入手できない人たちに提供しなくてはならないと述べた。

 アバシ・シャヒード病院カラチ医科歯科大学のイシチアク・カン博士はパキスタンで、この会が喉摘者の発声に役に立っていることは我々にとって名誉なことであると述べた。約30年前不可能であった喉頭癌患者の手術をいやいやながらであった。食道発声で声を失わないでもよいと言われて手術を受ける動機づけになった。患者は喜んで手術を受けている。早く手術を受けることにより結果が安全であることを助言できる。AFLAのヒューマニティー・サービスの持続を祈ると述べた。

 サグヒール・アーマド教授はこの研修会がパキスタンで開催されることは我々にとって大きな出来事で、ジャリシ教授にクラブの設立、食道発声の努力に対して謝意を述べた。

 クラブ会長アブドル・マイード氏は1984年ジャリシ教授に手術を受け、それから日本で発声リハビリテーションをした。帰国してカラチ市民病院で手術者に食道発声訓練を継続して指導している。教授は日本から指導者と喉摘者、有名耳鼻科学会員、各市民病院の先生、ナース等関係者を自宅に招待して親善に尽くされた。

 AFLA加盟国は韓国、中国、台湾、タイ、香港、フイリピン、マレーシア、シンガポール、インドネシア、インド、ネパール、パキスタン、バングラデシュの各国である。

 研修生を日本に招致して教育方法と指導員を各国に設立された喉摘者団体に派遣して指導者の養成と一般喉摘者の発声指導とを併用して効率化を行っている。

 国連・障害者の10年の実績として、地道で組織的な活動は世界第一等であると国連事務総長より讃辞を戴いた。私どもは一人一人を救済することを通じて自助努力に力添えをして、今後も努力していく心算である。

社団法人銀鈴会事務局長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1993年12月(第78号)17頁~18頁

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