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特集/まちづくりと公共交通

福祉のまちづくり概論

野村歓

1.はじめに―社会的背景と現代的意義

 昭和40年代に入って地域福祉施策が積極的に推進され、高齢者・障害者は地域社会で次第に生活をするようになってきた。しかし、既存の住宅・公共建築物・交通機関などの生活環境は、健康な人たちのみを対象に設計・建設されていたために、高齢者・障害者にとって決して使用しやすいものでなかった。その後わずかずつではあるが高齢者・障害者の利用を考慮したまちづくりが推進されるようになってきたが、まだ十分な状態には程遠い。しかし、今後地域福祉施策はますます推進されることは明らかであり、それに伴って地域における高齢者・障害者が生活しやすい環境整備は早急に実施されねばならない状況にある。

 その理由は、まず高齢者人口増加に伴う人口の高齢化によりさまざまな社会問題を惹起するし、そしてこれを解決しなければならないことは既に指摘されているところであるが、高齢者が生活しやすい環境づくりの整備もそのうちの重要な項目の一つにあげられている。これからの生活環境整備は、高齢者の身体機能・動作特性・心理・生活構造に見合った生活環境整備が必要なのは言うまでもない。

 次に障害者関連の一連の動きである。1981(昭和56)年に国連が定めた国際障害者年は「完全参加と平等」の目標を掲げ、さまざまな活動が展開され、多くの国民にその意義を理解なさしめた。なかでも国際障害者年の5大目的の一つ「障害者が日常生活において実際に参加すること、例えば、公共建築物及び交通機関を利用しやすくすることなどについての調査研究プロジェクトを奨励すること」は、生活環境整備の必要性・重要性を示唆したものと受け止められ、多くの地方自治体で積極的な取り組みがなされた。しかし、全国的にみればまだまだ一部の動きでしかなく、今後の一層の取り組みが期待されているところである。第三に、アメリカで生まれた自立生活運動は、わが国においても都市に住む若い障害者に支持され、次第にその考えに共鳴し実践に移行する障害者が多くなってきている。この自立生活運動の考えの基盤は、地域社会の中で障害のない人たちと共に生き、共に生活することであり、その意味からも地域社会の生活環境整備は重要である、といえる。

 第四に都市構造の複雑化、である。従前の都市は平面的に広がり、しかも単純明快に構成されていたが、近年の都市構造は複雑化・高層化かつ大規模化してきた。そのために高齢者・障害者にはますます日常生活が不便・不自由になってきた。高齢化がさらに進展する将来において新たな問題が惹起することが容易に予想される。

 いま述べてきたように社会的背景には多くの理由が挙げられているが、ならばどうしていま生活環境整備が必要とされているのだろうか。その最大の理由はやはり人口の高齢化であろう。既に知られているように2020年には人口の23.4%が65歳以上の高齢者になる。その時の総人口に対する労働人口は現時点とあまり変わらないのだが、出生率低下による労働力人口の高齢化、また高齢者の比率が現在よりも増加する分だけ医療費・年金を始めとする社会保障費増が明らかであり、経済的には国民一人一人の負担増となる。従って、その時に高齢者・障害者に対して生活環境整備を行うのではあまりにも莫大な経費を必要とし、得策ではない。将来に備えて現在の社会投資のなかでできることは少しでも準備しておく、また社会基盤整備は余力のある今世紀中に行うべきである、というのが至極妥当な考え方であろう。

2.福祉のまちづくりの変遷

福祉のまちづくり略史

 1969(昭和44)年に宮城県仙台市で一人の障害者と一人のボランティアの間の話から始まった「福祉のまちづくり」は、1970(昭和45)年に大阪市で開かれた万国博覧会での施設改善をきっかけに障害者に使いやすい生活環境づくりのキャンペーンが全国的に展開され、この結果、東京都葛飾区・福島県郡山市・京都市・西宮市・神戸市など全国各地の障害者が自発的の進退障害者生活環境改善運動(一般に障害者生活圏拡大運動と言われている)に取り組み始めた。

 まちづくり運動は、このように市民運動から発生したものであるが、東京都町田市は、「地元」に市民の目を向けさせなければ「自分たちの町」意識が育たないことを憂慮して、1971(昭和46)年にまちづくりの専門家と共に15人の市民による市民懇談会を結成した。この活動の一環として「車いすで歩けるまちづくり」を標傍して活発な運動を展開した。

 その後厚生省は1973(昭和48)年に「身体障害者福祉モデル都市事業」を開始したのを始め、表1、表2、表3にみるように、「障害者福祉都市事業」「障害者の住みよいまちづくり事業」「住みよい福祉のまちづくり事業」など一連の事業を展開し、一方で多くの省庁で関連事業を行ってきた。

表1 障害者・高齢者のまちづくり対策年表

表1 障害者・高齢者のまちづくり対策年表

表2 生活環境整備のための施策の概要
厚生省の施策名 目的 概 要

事例

「身体障害者福祉モデル都市事業」

(厚生省)
(S48~50)

 身体障害者のための模範的な生活環境施設、設備を整備する身体障害者福祉モデル都市を設置し、これにより身体障害者の福祉についての一般住民の理解を深め、家庭に閉じこもりがちな身体障害者の生活圏の拡大を図るとともに、身体障害者の住みよい環境づくりの普及促進を図ろうとするものである。 〈実施主体〉

 原則として人口20万人以上(モデル都市)

〈事業内容〉

1 道路交通安全施設の整備

2 公共施設の構造設備

3 公共施設、公園等に車いすの配備

4 移動浴槽車、リフト付きバス、電話相談網等の整備

5 身体障害者福祉についての普及啓蒙

53市

「障害者福祉都市事業」

(厚生省)
(S54~60)

 この事業は障害者の生活環境の改善、障害者福祉サービスの実施、心身障害児の早期療育の推進及び市民啓発の各事業を総合的に実施し、障害者の住みよいまちづくりの推進を図ろうとするものである。
〈実施主体〉

 人口概ね10万人以上で、厚生大臣が指定する市(指定市)

〈事業内容〉

1 生活環境改善事業

ア 公共施設の構造設備の改善…出入口のスロープ化、自動ドア化、障害者用便所の整備、車いすの配備等

イ  道路交通安全施設の改善…歩道の切り下げ工事、視覚障害者用信号装置の整備、誘導ブロックの配置等

ウ 障害者のための住宅改善…障害者住宅整備融資貸付制度の実施、障害者公営住宅の建設等

2 障害者福祉サービス事業

3 心身障害児早期療育推進事業

4 市民啓発事業

156市

「障害者の住みよいまちづくり事業」

(厚生省)
(S61~H1)

 この事業は障害者の生活環境の改善、福祉サービスの実施、心身障害児の早期療育の推進及び市民啓発の各事業を総合的に実施し、障害者の住みよいまちづくりの推進を図ろうとするものである。

※「障害者福祉都市事業」と比較し、国庫補助の制限額は引き下げだが、実施主体の対象範囲を拡大している。
〈実施主体〉

 人口概ね5万人以上で、厚生大臣が指定する市町村(指定市町村)

〈事業内容〉

1 生活環境改善事業

ア 公共施設の構造設備の改善…出入口のスロープ化、自動ドア化、障害者用便所の整備、車いすの配備等

イ 道路交通安全施設の改善…歩道の切り下げ工事、視覚障害者用信号装置の整備、誘導ブロックの設置等

ウ 障害者のための住宅改善…障害者住宅整備融資貸付制度の実施、障害者公営住宅建設等

2 障害者福祉サービス事業

3 心身障害児早期療育推進事業

4 市民啓発事業

76市

「住みよい福祉のまちづくり事業」

(厚生省)
(H2~)

 この事業は障害者の生活環境改善、福祉サービスの実施及び啓発普及等の各種事業を総合的に実施することにより障害者や高齢者等が住みよいまちづくりの推進を図ろうとするものである。 〈実施主体〉

 人口概ね3万人以上で、厚生大臣が指定する市町村(指定市町村)

〈事業内容〉

1 生活環境改善事業

ア 庁舎、公民館、図書館、美術館、福祉センター等の公共施設の整備改善…自動ドア化、障害者用トイレの整備、段差解消、エレベーター設置等

イ 病院、映画館、スーパーマーケット、旅館、駅などの民間公共施設の設備改善

ウ 誘導ブロック、視覚障害者用信号機の設置

エ 車いすのまま利用できるバス、タクシーの改造助成

オ 障害者用住宅の整備(助成・融資)

カ 緊急通報体制の整備、ファックス通信ネットワークの整備等

2 福祉サービス事業

ア 外出時のガイド派遣

3 啓発普及事業

ア 児童を対象とした福祉教育の実施

イ 市民会議、講演会、福祉展の実施

ウ 公共的設備の[適]マーク制度の実施

エ まちづくりを題材とした啓発映画、ビデオ作り

オ 啓発パンフレットの作成

カ まちづくりに功労のあった者に対する表彰等

4 その他「住みよい福祉のまちづくり」推進のために必要な事業

79市
(H2  ~4)

「障害者や高齢者にやさしいまちづくり推進事業」

(厚生省)
(H5補正予算)

 高齢者や障害者の自立や社会参加の促進を図るため、日常生活における移動や生活上の支障を感じないような街づくりを目指し、公共施設のエレベーター、スロープの設置、段差の解消等の生活環境の整備を進める。
 高齢者や障害者の日常生活に不可欠なアクセス確保するため既存の公共施設の改造、改善を行う。
〈事業主体〉

 市町村

〈対象施設〉

 高齢者や障害者が日常生活において利用する頻度が高い次のような公共施設。

学校/病院、診療所/博物館、美術館、図書館/公会堂、集会場/児童、老人福祉施設等社会福祉施設
火葬場/体育館等スポーツ施設/劇場、ホール/展示場/官公庁舎等

(注)新設又は大規模に改修される施設については、それぞれの事業主体が責任を持って対応することとし、本事業は既存施設の改造改善に関する事業を対象とするものである。 

〈改善・改造項目〉

・エレベーター、エスカレーター、車椅子昇降機の設置

・スロープの設置

・階段への手すり設置

・自動ドア化

・段差の解消

・点字ブロックの設置

・障害者向けトイレの設置

・劇場、ホール等の車いす席の設置

・カウンターの低位置化

・休憩用スペースの確保とベンチ等の設置

・埋め込み型の盲人誘導システム等

〈実施市町村〉
(実験的モデル事業)3市
 


表3 生活環境整備のための施策の概要
施策名 目的
「福祉の街づくり
モデル事業」
(建設省・厚生省)
(H3.4~)
 長寿社会の到来、都市化の進展等に対応して高齢者・障害者に配慮した街づくりの推進を図るため、都市における高齢者・身体障害者の快適かつ安全な移動を確保するための施設整備を行うことを目的とする。
「人に優しい建築物整備促進事業」
(ハートフルビルディング)
(日本開発銀行ほか)
(H4~)
 高齢者及び障害者等の社会参加を促進する優良な建築物を実現するため、建築計画時から、障害者、その他子供連れの家族などあらゆる人々のバリアフリー化を総合的に配慮した先進的な“人に優しいビル(ハートフルビル)”の建築を推進する。
「高齢者等のための道路整備」
(建設省)
(H5)
 高齢者、身障者や児童等が、安心して日常生活を送れるよう、幅の広い歩道や利用しやすい立体横断施設など高齢者等の利用に配慮した道路整備を行なうとともに、通学路の点検を実施し、交通安全施設等の整備を推進する。
「公共交通機関の使いやすさの向上」
(地域モーダルミックス施策)
(建設省)
(H5)
 社会全体として調和のとれた総合的な交通政策が必要であり、地域特性、交通特性等に応じて各種交通機関のそれぞれが特性を十分発揮し、連携を強化して、国民のニーズを満足し得る交通体系を確保するモーダルミックス政策を推進する。
その一環として、空港、港湾、新幹線駅へのアクセス強化やバス利用促進のための道路整備、乗り継ぎの利便性を向上させるための交通結節施設の整備及び交通節点にかかる歩行優先の道路整備を行う地域モーダルミックス施策を推進する。
「人にやさしい福祉の生活空間づくり大綱」
〈仮称〉
(建設省)
(H6~)
 「高齢者・障害者にやさしい空間づくり」を推進するため、高齢者・障害者に配慮した公共施設や住宅・建築物の整備方向、基本指針、整備目標を定める。
「高齢者社会対応建築物整備促進事業」
(新法制定も含む)
(建設省)
(H6~)
 「高齢者・障害者にやさしい空間づくり」を推進するため、高齢者・障害者も利用しやすい建築物の基準を定め、これに適合する建築物に対して助成等を行う。
「スーパーペデストリアンデッキ整備事業」
(建設省)
(H6~)
 階段の上り下がりが多く、高齢者や障害者にとって移動が困難な駅や駅周辺の施設について、高架駅と周辺施設を連続して結ぶ歩道橋を設置し階段などを経由しない平行移動を可能にすることで、高齢者や障害者が外出しやすい環境を整える。
「幅の広い歩道の整備促進」
(建設省)
(H6~)
 「人にやさしい福祉の生活空間づくり大綱」を受けている。
「人にやさしいまちづくり事業」
(建設省)
(H6~)
 多数の高齢者・障害者の利用が見込まれる公共建築物の周辺地区における、動く通路や立体横断施設などの整備に対する助成。
「車いす歩道計画」策定
(建設省)
(H6~)
 「人にやさしい福祉の生活空間づくり大綱」を受けている。
「「人にやさしい」交通を実現するための調査等の実施」
(運輸省)
(H5)
 高齢化の進展、利用者ニーズの高度化・多様化等の状況を踏まえ、身障者等交通弱者対策の充実や、利用者利便の向上を図る「人にやさしい」交通の実現をめざす。
「高齢者・障害者等のためのモデル交通計画」
(運輸省)
(H5~)
 高齢者、身体障害者等の視点に立脚して、移動ニーズを充足することのできる最適な交通体系のあり方等についてモデル地区において具体的かつ総合的に検討することにより、今後全国的な高齢者、身体障害者等に対する交通対策に関する、基本的指針を明らかにする。
(財)生活基盤整備基金
〈仮称〉設立
 高齢者や障害者の移動を助けるため、これらの人々に配慮した公共交通の整備を支援するため、財団を設立する。
交通ターミナルへの高齢者用設備導入、電線類の地中化に対する低利融資制度
(日本開発銀行)
(H5~6)
 高齢者や障害者等の移動しやすい環境整備を促進するため、交通ターミナルにおけるエスカレーターやエレベーターの設置や、電線類の地中化に対して低利融資を行なう。
「道路構造令」
(第3次改正)
(建設省)
(S33制度)
 従来は自動車主体を主体とした安全で円滑な幹線交通計画に沿った道路構造令であったが、居住環境や歩行者交通の快適さを尊重した「人と環境にやさしい道路」を実現するために新しい道路構造のあり方を審議中である。
「エスカレーター整備指針」
(運輸省)
(H3~)
 構造上どうしても階段が多くなる鉄道駅では、高齢者や障害者は自力で移動することが難しい。一方、エスカレーターやエレベーターの普及率は低い。
 こうした現状を改善するために、整備指針を策定しエレベーターの設置を推進する。
「エレベーター整備指針」
(運輸省)
(H5~)
 構造上どうしても階段が多くなる鉄道駅では、高齢者や障害者は自力で移動することが難しい。ユーザーニーズとしてはエスカレーターよりエレベーターの方が高いが、エレベーター設置の取組みは鈍い。
 事業者への指導を強化するため、駅における整備指針を設置。
「心身障害者・高齢者のための公共交通機関の車輌構造に関するモデルデザイン」
(運輸省)
(H2)
 公共交通機関の車輌の構造的側面を中心に、心身障害者や高齢者が利用しやすい公共交通機関の在り方を示したもの。
「公共交通ターミナルにおける高齢者・障害者等のための施設整備ガイドライン」
(運輸省)
(H7)
 公共交通ターミナルにおいて高齢者・障害者等の移動ニーズに適切に対応した統一性のある施設整備を促進し、高齢者・障害者等のために安全かつ身体的負担の少ないモビリティを確保する。
福祉のまちづくり指針・要綱
(地方公共団体)
 地方公共団体による、高齢者や障害者を含む全ての人が、地域の中で自由に移動し、社会参加できる福祉のまちづくりを推進するための行政指導。
 ※法的強制力を持たないので、これらの趣旨が生かされにくい。
指針は技術的なガイドライン
要綱は技術的標準を実現するため、運用のルールが伴う。
 ※昭和49年、町田市の「ハンディキャップを持つ人のための施設整備基準」制定以後、多くの地方公共団体で同様の基準、要綱等が制定されている。
「高度化事業」
(通産省)
 中小企業が共同して行なう経営体質の改善。環境変化への対応を図るための事業及び第三セクターが中小企業のこれらへの対応などを支援する事業に対してコンサルタント面及び資金面から助成する制度(高度化資金助成制度)。
「街路事業」
(建設省)
 都市局が所管する都市計画道路から土地区画整理事業及び市街地再開発事業として整備する都市計画道路を除いた道路(街路)に関する事業。
 街路事業は目的毎に事業種別が細分化されており、それぞれを具体的に推進するための事業が実施されている。
「リーディングプロジェクト」
(自治省)
 今後の地方行政は、国際化、情報化、国民の価値観の多様化等の変化に的確に対応していくことが求められている。このような状況にかんがみ、21世紀に向けての重要な地域政策課題(特定政策課題)に係る地方公共団体等の先導的な地域づくりに対する取り組みを、…これに対し積極的な支援を行い、もって地域社会の一層の発展に資するものとする。
「地域福祉推進
特別対策事業」
(自治省)
 地域の特性に応じた高齢者保健福祉の向上を図るための基盤整備事業に対し、特別の対策を講じ地域主導による高齢者保健福祉対策の一層の推進を図る。
※地域住民に最も身近な行政主体である地方公共団体の、地域の実情に即した総合的・計画的な施策を積極的に推進している。

福祉のまちづくりとは

 あらためて「福祉のまちづくり」とは何なのか、整理しておきたい。この運動が始められた頃の対象者は身体障害者、特に車いす使用者に限定していた。当時の記録を見ると「身体障害者のために、車いす使用者のために」との表現が多いことからも明らかである。この考え方は次第に改められ、「身体障害者にも」「高齢者や障害者や一時的に障害をもつ人、妊婦、乳母車を押す母親」「障害者などを含めた一般の人にも」へと考え方が広がり、現在では「全ての市民」が対象となっている。言い替えれば、「福祉」は狭義から広義の意味に変わってきたということができる。

 また、「福祉のまちづくり」の目的は、当初身体障害者が街を歩きやすいように「道路、公共建築物、公園を整備すること」であった。しかし、現在は生活環境を整備することによって、市民としての日常生活を保障し、社会活動に参加できるようにする」ことが目標となっている。

 現時点で最も明確な定義は、「福祉のまちづくりとは、障害者や老人などハンディキャップをもつ人たちを含めた全ての都民の、日常生活を保障するものであり、地域の暖かい思いやりに支えられながら、都民一人一人が安全でかつ快適に都市施設が利用できるよう物心両面にわたる地域環境を創り出して行くことである。」(東京都福祉のまちづくり懇談会「東京都における総合的な福祉のまちづくりの推進について」昭和61年)に代表されている。

これからの福祉のまちづくり

 これからの福祉のまちづくりは、地域福祉だけを視点におくだけではなく、障害者基本法に裏付けられた新しい障害者観を意識した基本理念を持つべきである。筆者は四つの視点から整理している。

 1)人権の視点から

 国連憲章は、人間の権利と基本的自由、人間の尊厳と価値及び社会的正義の諸原則を宣言しているが、さらに、1975(昭和50)年に国連総会で採択された「障害者の権利宣言」の中で「障害者は、その人間としての尊厳が尊重される生まれながらの権利を有する。障害者は、その障害の原因、特質、及び程度に拘わらず、同年齢の市民と同等の基本的権利を有する。このことは、可能な限り通常のかつ十分満たされた相当の生活を送ることができる権利を意味する」「障害者は、可能な限り自立させるよう構成された施策を受ける資格がある」と唱っている。

 また、1993年に制定された障害者基本法は「すべて障害者は、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有するものとする」「すべて障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられるものとする」(第3条)とし、障害者の人権を保障している。

 2)ノーマライゼーションの視点から

 高齢者・障害者に対する施策は、かつての施設入所中心施策から地域福祉施策へと移行した背景には北欧から広がったノーマライゼーションの思想がある。これは既に充分に理解されていると思うので詳細は避けるが、簡言すれば「障害をもつ者ももたない者も共に社会の構成メンバーなのだから、共に生活できる環境の中で共に生きるのが当たり前である、そしてこれを前提としてあらゆる社会的サービスや社会政策は推進されなければならない」ということであろう。

 3)自立生活の視点から

 自立生活(Independent living)とは「意志決定あるいは日常生活における他人への依存を最小限にするため、自分の納得できる選択に基づいて自らの生活を管理すること、これには身辺処理、地域での日常生活への参加、社会的役割の遂行、自己決定、身体的・心理的な他人への依存を最小限にすることなども含まれる(障害者自立生活問題研究会「自立生活へのチャレンジ」P39,1986)」としている。この考え方は、1978(昭和53)年米国リハビリテーション法に示され、さきに触れたように、わが国でも重度肢体不自由者が中心になって自立生活運動が全国的に展開されている。これを現実のものとする基本は生活環境整備であろう。

 4)コミュニティ・ケアの視点から

 憲法22条は、国民の居住の自由を定め、憲法25条は健康で文化的な生活を保障している。このことを高齢者や障害者に当てはめるならば、地域社会で生活できるように、医療・保健・福祉・居住サービスが連携しあって提供されることが必須条件となる。高齢者社会を迎えて、かつてよりかなり良い状況になりつつあるが、まだまだ充分とはいえない。

3.福祉のまちづくりの法的規制

 高齢者・障害者に関する法律は、障害者基本法・身体障害者福祉法・精神薄弱者福祉法・精神保健法・老人福祉法が骨格となり、関連して児童福祉法・学校教育法・生活保護法・障害者雇用促進法等がある。

 生活環境整備に関しては障害者基本法がその中心となる。同法22条では既に述べたように障害者が地域社会の中に居住し、社会活動に参加できるように住居の確保、公共的建築物・交通機関などの整備を唱っている。しかし、同法は精神規定を行っているのみである。

 具体的施策について、国はいまだに法律として整備しておらず、わずかに1975(昭和50)年に建設省大臣官房官庁営繕部が「身体障害者の利用を考慮した設計資料」をまとめているに過ぎない。これは、官庁建築物に身体障害者の利用をもし考慮するならばという意味合いであり、強制力を伴うものではなかった。しかし、その後国会の質疑の中で身体障害者への利用を考慮するよう求められ、建設省はB4版1枚の通達を出し、古い建築物を改善するとき、新建築物を建設するときの身体障害者考慮を行うよう求めた経緯がある。

福祉のまちづくり基準の実際と問題点

 前節に述べたように、高齢者・障害者の生活環境整備に関する国の法制度は定められない状態のまま、地方自治体は厚生省が実施するさまざまなまちづくりに関する事業を推進する中で環境整備基準作成の必要性に迫られ、その結果自治体独自の「福祉環境整備基準」を作成することになる。

 福祉環境整備基準の最初は、東京都町田市で「ハンディキャップを持つ人のための施設整備基準」という名で1974(昭和49)年に作成された。以後東京都、横浜市、京都市、神戸市といった先進都市で相次いで作成され、他の多くの地方自治体に波及していった。また国際障害者年を契機にして再び多くの市で作成され、現在その数は正確に把握されていないが、おそらく200 は下らないと思われる。

 しかし、これらの福祉環境整備基準には共通した問題点を持っている。

 第1に、対象となる建築物を限定していることである。市役所や公会堂、デパート・劇場などの公共性の高い建築物や面積の大きい建築物には不特定多数の市民が利用することが予想され、従って障害者も多く利用されると思うのだが、翻って一人の市民としての障害者の生活を考えると、これら公共的建築物・面積の大きい建築物より日常生活に必要なスーパーマーケット、生鮮食料品店、美容院・理容店の利用のほうが利用度ははるかに高いのである。しかし、このような小規模建築物はその対象に含まれていない。

 第2に、整備基準には最低限必要なことから理想的な事項まですべて同じように記述されていることである。元来基準は守るべき最低限の記述にとどめるべきであるが、さまざまなレベルが記されており、整備基準の遵守を困難にしている。

 第3に、用途・規模に関わらずすべて同じ基準が適用されるために、小規模建築物には実現困難なこともある。例えば、車いす使用者用の便所は2m×2mと一般的に言われているが、面積の小さい建築物では困難なことが多い。

 第4に、環境整備基準は建築物への訪問者に対する考え方が中心であり、そこで働く障害者への配慮までなされていない。従って整備基準の対象外となることが多い。1976(昭和51)年に身体障害者雇用促進法が改正され障害者雇用が進んできた現在、雇用者の環境整備についても積極的に検討すべき時がきている。

 第5に、環境整備基準はアクセス、すなわち建築物にどのように近付けるかが中心の記述であり、建築物を利用して建築物を訪問する目的を達成できるかどうかは次の問題、といった感がなきにしもあらずである。さらに言うならば、非常時への配慮はほとんど一般的な考えに留まっていて、障害者・高齢者の行動特性を考慮したものではない。

 以上が、基準そのものの問題点である。一方で福祉環境整備基準の運用上の問題もあってうまく機能していない。最大の問題点は要綱であるために法的拘束力が担保されていないことにある。次に、要綱の運用上の取り決めが明確でないために、行政指導すら円滑に行われていない嫌いがある。かりに指導担当窓口が決まっていてもほとんどの市では十分な指導が行われていない、といえる。さらに要綱を作成すること自体で満足して積極的に市民を指導していこうとする気構えがみられないことも問題点の一つにあげられる。しかしなんといっても要綱の存在が市民に広く知らされていない現状、またそれをカバーしようとする意欲が行政体にみられないことが最大の原因であろう。

条例による環境整備

 地方自治体が独自に作成している福祉環境整備要綱は、多くの問題点を持つが、最近新たな動きとして条例を作成した自治体が現れた。

 実は福祉環境に関連する条例の最初の動きは神戸市であった。1977(昭和52)年「神戸市民の福祉をまもる条例」を制定し、その中で都市施設の整備を規則に委ねている。しかし、神奈川県では、1990(平成2)年10月から県建築安全条例を改正した。改正の趣旨は言うまでもなく高齢者や障害者が建築物を安全かつ快適に利用できるように「国際シンボルマーク」の交付条件を目安に特殊建築物(建築基準法に規定されている、筆者注)に対して建築基準法で制限を付加することが大きな目的となっている。

 これを、建築基準法による条例委任といっているが、問題は法に定められた建築物以外には言及されず、従って日常生活上重要な建築物が対象外となったり、交通機関・道路・公園等は対象外になってしまうのである。これでは不十分ということで、自治法に基づいて「福祉のまちづくり条例」を策定し、これらを含めて総合的に推進しようとしている府県も見られるようになり、全国的に活発な動きとなっているのが最近の状況である。これらの動きを含めて都道府県の取り組み状況を表4に整理してみた。

表4 他団体の取組状況
1994.4.1現在
福祉のまちづくり整備指針等の策定状況 北海道 青森県 岩手県 宮城県  秋田県 福島県 茨城県 埼玉県 千葉県 東京都 神奈川県 新潟県 富山県 福井県 長野県 岐阜県 静岡県 愛知県 三重県 滋賀県 京都府 大阪府 兵庫県 奈良県 和歌山県 鳥取県 島根県 岡山県 広島県 山口県 徳島県 香川県 高知県 愛媛県 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 大分県 宮崎県 鹿児島県 沖縄県
札幌市 仙台市 川崎市 横浜市 名古屋市 京都市 大阪市 広島市 北九州市 福岡市
建築条例に福祉のまちづくり整備指針等の内容の一部を取り込んでいる団体 神奈川県 大阪府 横浜市 東京都 兵庫県
(準備中、検討中:北海道 福島県 埼玉県 滋賀県)
福祉のまちづくり条例を制定している団体 神戸市 大阪府 兵庫県 山梨県
(準備中、検討中:北海道 岩手県 宮城県 埼玉県 東京都 神奈川県 岐阜県 静岡県 愛知県 和歌山県 広島県 徳島県 熊本県 大分県)

 福祉環境整備は基本理念にあるように高齢者・障害者の基本的人権に関わることから、全ての事業者が責任を持って整備していくべき性格のものであるのだが、わが国では国民の意識が十分でなく、このような考え方はなかなか受け入れられないのが現状である。そこで環境整備の推進策として融資や助成制度が国や地方自治体で行われている。国の制度は表3に紹介したので表5には地方自治体の状況を示した。

表5 助成・融資制度を実施している地方自治体
区分 融資対象 地方自治体名
補助

公共的建築物

愛知県、京都府、山口県、香川県、大阪府、(整備計画策定費のみ)
山梨県(障害者トイレモデル設置事業のみ)
山口県、高知県、大分県(リフト付きタクシー、バスの補助ステップ設置事業を含む)
駅舎の垂直移動手段の整備 神奈川県、大阪府、兵庫県、横浜市、川崎市、大阪市、神戸市
リフト付きバス 山梨県、兵庫県
融資 公共的建築物 福島県、大阪府、兵庫県、広島県、長崎県、名古屋市、神戸市

4.法制化にむけての動き

 既に触れたように、1990(平成2)年アメリカ合衆国では、障害者の差別を禁止する法律(ADA)を制定し、公共的施設に対して障害をもつ人が通常の日常生活としてアクセスできるように義務づけ、交通機関において新規に購入されるバスや鉄道車両はすべて障害者の利用可能なものとすることを義務づけている。これらの動きは既に紹介されているので詳述を避けるが、わが国でもこの影響もあってか法制化の動きがようやく見られるようになった。

 建設省は、1994(平成6)年度に厚生省と協議の上「人にやさしい福祉の生活づくり大綱(仮称)」を策定し、高齢者・障害者にやさしい空間造りを推進するためにその指針や目標を定めることにしているが、その中で創設する予定の「高齢者社会対応建築物整備促進事業」は公共性の高い建築物について整備基準を法律で定め、この建築物に対して助成を行おうとしている。これに関して、1994(平成6)年1月に建設省住宅局建築審議会が「高齢社会の到来及び障害者の社会参加の増進に配慮し優良な建築物のあり方に関する答申」を提出して公共建築物のバリアフリーのための基礎的基準及び目標基準の策定、費用助成制度の創設などを提案した。これを受けた形で、3月「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律案」が閣議決定された。法律案では、建築主の努力義務や都道府県知事の指導・助言・改善命令、容積率の緩和などが盛り込まれ、施設基準を備えた建築物については税制上の優遇措置や低利の特別融資を行うことになっている。残念ながらまだ国会を通過していないので法律としての効力を持たない。この法律が最終的な姿ではないにしても、とにかく法制化の第1歩を記すことの意味は大きい。

 これからは、この趣旨をよく踏まえた上で福祉のまちづくりを推進して行かねばなるまい。

参照文献 略

日本大学理工学部教授


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1994年6月(第80号)2頁~10頁