特集/視・聴覚障害者と情報アクセス 録音図書の現状

特集/視・聴覚障害者と情報アクセス

録音図書の現状

田中徹二

 欧米では、レコード盤に朗読を吹き込んだトーキング・ブックが早くから普及していた。しかし、わが国で視覚障害者用の録音図書が一般化したのは、オープン式のテープレコーダーが一般の家庭に普及し始めてからである。日本点字図書館が本格的なテープ・ライブラリーを発足させたのは1958年であった。当初から読み手は無償ボランティアがあたり、点字出版所のように販売を目的にした機関は、長い間存在しなかった。

図書

 日本盲人社会福祉施設協議会点字図書館部会の1993年度の調査によると、回答のあった78館の録音図書総タイトル数は276,954で、1館あたりの平均は3,550.7タイトルであった。67館がボランティアによる自館製作を行っているが、それらの館の蔵書に占める自館製作の割合は約半数となっている。自館製作数のもっとも多いのは、日本点字図書館の9,460タイトルであった。

 1年間に製作される録音図書は、回答のあった79館で8,627(平均109.2)タイトルで、もっとも多いのは日本点字図書館の365タイトルで、約150人のボランティアによるものである。

 また、点字図書と同じように、厚生省が日本点字図書館、日本ライトハウス盲人情報文化センターに委託して、年間90巻ずつ、成人向けと児童向けに製作、点字図書館71館に配布している。

 このほかに、主に対面朗読サービス(注)をしている公共図書館の中にも、相当数の録音図書を製作し、地域内の視覚障害者に貸出している館がある。

(注)対面朗読とは、来館した視覚障害者にボランティアが1対1で本を読むというサービスである。視覚障害者にとっては、もっとも基本的な情報入手法である。

販売図書

 これには、カセット・ブックと視覚障害者用に製作された録音図書の2種がある。

 カセット・ブック(注)は、一般の出版社が製作・販売しているもので、視覚障害者にサービスしている公共図書館では、それらを蔵書として購入している。点字図書館でも蔵書として購入している館があり、1993年度の調査では、66館で542タイトルにものぼっている。

(注)カセット・ブックは出版社が編集した脚本を声優らが録音したものが多く、原本を忠実に読む視覚障害者用図書とはかなり異なっている。

 一方、視覚障害者用録音図書の製作基準に従って製作し、公共図書館や一部の点字図書館、視覚障害者個人を対象に販売している録音社が最近出現した。関東に2社あるが、いずれも元ボランティアの主婦が設立したもので、それまでの無償ボランティアによる製作しか考えていなかった関係者に強いインパクトを与えている。ただ、著作権者に許諾をえなければならないことと(注)、設立されてまもないため販売数はそれほど多くはない。

(注)著作権法第37条には、視覚障害者用に点訳、録音する際の著作権の取扱いが規定されている。点訳はすべて著作権者の許諾を得る必要がないが、録音は点字図書館等で視覚障害者のために録音するときにだけ、著作権者の許諾を得なくてもよい。それ以外の場合、つまり公共図書館やボランティア・グループがたとえ視覚障害者のためであっても、録音図書・雑誌を製作するときには必ず著作権者の承諾を必要とするのである。

 この著作権法の条項については、視覚障害者や図書館関係者から改正してほしいという要望が強く出されている。視覚障害者の情報障害を少しでも緩和するために、たとえ公共図書館であっても視覚障害者を目的にサービスするのなら、許諾を得なくても製作できるようにしてほしいという主張である。

 そこへ昨年、日本ライトハウス盲人情報文化センターが、コピー・サービスと称した有償の事業が問題になった。ボランティアが録音した自館製作の図書をダビングし、希望する公共図書館等に譲渡していたのである。同センターは点字図書館であるから、当然著作権者には許諾を得ていなかった。その図書が公共図書館で貸し出されるのは著作権法違反だというものである。

 同センターではそのサービスを中止したが、公共図書館からは「予算が消化できない」という声も出ており、安易な一部の公共図書館の姿勢に批判が出ている。

雑誌

 点字図書館が製作している録音雑誌は、78館で287誌にのぼっている。もっとも多く製作しているのは、神奈川県ライトセンターの19誌である。

 このほかに、全国のボランティア・グループが100種近い雑誌を製作し、全国の視覚障害者に提供している。録音の質は別にして、製作しやすい点では、点字雑誌とは比較にならない。重複しているものも多いが、これだけ製作されていると、現在発行されている有名な雑誌はほとんど含まれているといってよい。ただ、大部分がカセットテープ1、2巻なので、内容をすべて録音するわけにはいかず、抜粋した記事しか入っていないところに問題がある。

 こうした中で、数は少ないが、雑誌の内容をすべて録音しているものもある。たとえば、『文藝春秋』、『小説新潮』、週刊誌では『AERA』などである。この『AERA』は、原本と同じ購読料を、視覚障害者からも徴収しているが、それと同じように有料の雑誌も数種発行されるようになっている。その多くは自主製作で、オーディオ専門誌とか、『点字毎日』のような取材・企画ものである。

 日本点字図書館でも月刊6誌、月2回1誌を発行しているが、年間総貸出数は200,000巻に近く、図書総貸出数の約半分に達している。雑誌の場合、一度申し込んでおくと、雑誌が発行されしだい自動的に郵送されてくるので、読者に便利な点はあるが、図書に比べて雑誌へのニーズが非常に高いことがわかる。

 これだけ多くなると、種々送られてくるものをすべて聞いているわけにはいかない。今より情報量の少なかった時代は、点字でも録音でも、内容のいかんにかかわらず、端から端まで読むという視覚障害者が多かった。しかし、現在では飛ばし読みが普通になっており、その点では、晴眼者ガ雑誌や新聞を読むときの習性に近づいているといえるであろう。

今後の録音方式

 今年の4月20、21の両日、カナダのトロントで、「オーディオ技術―盲人図書館サービスへの応用」と題する会議が開かれた。世界の主要12ヶ国が集まって、現在のアナログ録音によるカセット方式をデジタル録音に切り換える方策を検討しようというものである。日本点字図書館からも評議員を一人派遣したが、アメリカの議会図書館、英国盲人援護協会、スペイン盲人協会など財政的にも非常にゆとりのある機関が参加しただけに、媒体をCDにするか、視覚障害者が持つ端末はどんなものがよいか、などかなり具体的な討議が行われたという。世界的な規模で意見が一致すれば、カセットのときに見られたようなばらばらな企画ではなく、世界共通のハードの製作に一気に向かう可能性が出てきたのである。

 わが国のあるメーカーでは、すでに通常のCDに約5時間収録できる方式を開発しており、そうした技術が認められれば、視覚障害者用録音図書は、カセットからその形態を一変させることになるであろう。それがいつになるか、関係者はこの動向をしっかり見守っていかなければならない。

日本点字図書館 館長


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1994年12月(第82号)6頁~7頁

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