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特集/障害の定義

日本における障害者の法的定義

―その現状と課題―

日本社会事業大学 障害者の法的定義研究会

 資格制限諸法を除くと、障害者関係法の対象は一般にその法によるサービスを必要とする人とするのが自然である。しかし実際には年齢、障害の発生原因(労災に限るなど)、国籍などの制約があり、さらに法の一般的対象とされても個別の給付・サービスについては保険料納付要件、家族や住宅の状況、情報不足、交通困難、自己負担、予算不足などで利用できないことも多い。2人以上の聴覚障害者を雇用する事業主への助成制度(手話通訳者委嘱など)と1人づつ雇用されている実態との矛盾も指摘される。

 このように対象をめぐる問題は広範囲にわたるが、本小論では障害(の種類や程度)の側面を考察する。とりあげる法律は障害者基本法、福祉各法、障害者雇用促進法、国民年金法とした。基本法は実定法のあり方に影響する重要なものであり、他の3つは障害者施策の中心となる分野である。

1.障害者基本法

障害者の定義

 1993年の「心身障害者対策基本法」改正は、法名称の「障害者基本法」への変更、国と地方自治体の障害者計画の策定義務、障害者施策推進協議会への障害者の参加などをもたらしたほか、第2条の障害者の定義をめぐっても表1のように大きな変化(とくに精神障害の明記)を生み出した。さらに法改正の趣旨を明確にするとともに、立法者の意志の表明として、政府に対する付帯決議が採択された(表1)。

表1 基本法の障害者の定義に関する新旧条文、付帯決議、行政説明
障害者の定義  この法律において「心身障害者」とは、肢体不自由、視覚障害、聴覚障害、平衡機能障害、音声機能障害若しくは言語機能障害、心臓機能障害、呼吸器機能障害等の固定的臓器機能障害又は精神薄弱等の精神的欠陥(以下「心身障害」と総称する。)があるため、長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう。
 この法律において「障害者」とは、身体障害、精神薄弱又は精神障害(以下「障害」と総称する。)があるため、長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう。
付帯決議  てんかん及び自閉症を有する者並びに難病に起因する身体又は精神上の障害を有する者であって長期にわたり生活上の支障があるものは、この法律の障害者の範囲に含まれるものであり、これらの者に対する施策をきめ細かく推進するよう努めること。(抄)
てんかん、自閉症、難病に関する法律的、行政的見解 てんかん (1)わが国においては、てんかん発作及び意識障害発作を精神症状としてとらえることが広く定着しており、これらを主症状とする「てんかん」は精神障害としてとらえられている。

(2)また、行政的にもてんかんを有する者は、精神保健法において精神障害者として通院医療費の公費負担等の対象となっているほか、国民年金法、所得税法等の法令においても精神障害者として障害年金、税制上の優遇措置等の対象となっている。

(3)以上のことから、改正法における「精神障害」の中で「てんかん」をとらえることができる。

自閉症 (1)自閉症においては、その概念が必ずしも十分確立している段階とは考えられておらず、また自閉症の症状を示す者の多くは知能の障害を有するため、自閉症と精神薄弱の区分にあたっては困難な点が多い。

(2)精神薄弱者福祉法においては、「精神薄弱者」の定義を設けておらず、知能が一定以上であっても精神薄弱者として法律の対象として必要な援護措置を講じている。

(3)以上のことから、改正法案における「精神薄弱」の中で「自閉症」をとらえることができる。

難病 (1)病気により身体上あるいは精神上の障害があれば、それぞれ身体障害あるいは精神障害となる。難病患者についてはその相当多くの患者が肢体不自由等の身体又は精神上の障害を有している。

(2)この障害に該当する場合は、改正法の「身体障害」又は精神障害の中でとらえることができる。

 しかしながら今回の定義改正の最大の限界は、依然として制限列挙方式をとり、現行諸法の改正を必要としないよう「配慮」されたことである。この背景については、当初の包括的な原案が大蔵省の反対で修正されたと指摘されており、旧法制定時に厳しく批判された実定法への従属が再び繰り返されたといえる。

てんかん、自閉症、難病の位置づけ

 付帯決議にも政府見解にもいくつか問題があると思われる。

 第1に、個別障害が基本法の定義に含まれるかどうかという心配が生まれた理由は、厚生省の更生課がいうように広くとらえる規定へと改正した結果個別名が書かれなくなったためではなく、広くとらえる規定への変更が不徹底で、依然として制限列挙的なものにとどまったからである。すなわち精神障害という中分類とそのなかの1小分類である精神薄弱とを並べたために、てんかんなどその他の小分類の位置づけが疑問となった(より根本的には実定法上の施策からほとんどあるいは全く除外されているからであるが)。

 第2に、「見解」はてんかん=精神障害、自閉症=精神薄弱、難病=状態により身体障害または精神障害と分類するが、なぜ個別障害を「3大カテゴリー」のどれかに割り振る必要があるのか疑問である。精神薄弱は医療や年金に関しては精神障害のなかに含まれ、福祉や雇用では精神障害とは別に位置づけられている。自閉症は1970年の通知以降、精神保健法の精神障害者として医療の対象ともなってきたし、同時に精神薄弱児者福祉の対象ともなってきた。

 第3に、たしかにてんかんは精神保健法でカバーされている面があるが、問題になっているのはてんかんという疾患のことではなく、それにともなう生活上の支障への対応である。たとえば頭部保護帽を補装具とすることや風呂場などの住宅改造は1995年の法改正でも実現していない。いずれも発作時の安全確保のために必要である。

 第4に、基本法に関係する説明と精神保健法に関係する説明とが混乱している。精神保健法の定義は国際疾病分類(ICD)に準拠するとされるが、ICD―10の第5章(精神及び行動の障害)にはてんかん(第6章神経系の疾患)はなく自閉症がある。

 また付帯決議では病者は必ずしも障害者ではないといい、精神保健法では精神障害者を疾患を有するもの、とする。そしてこの精神障害者が基本法のいう精神障害者と一致するとされる。

 第5に、これはとくに重要な点だと思われるが、付帯決議ではなぜ難病にだけ「に起因する身体又は精神上の障害を有する」がつくのかという問題である。ここでの「身体又は精神上の障害」とは身体障害者福祉法などの実定法の障害の定義が念頭におかれている。

 関係者が求めたことはすでに対象とされている人の明記ではなく、もれている人の救済である。この要望を受けたはずなのに、現行範囲に限定するとわざわざ宣言する結果となった(しかし決議の背景が理解されて難病対策の新たな動きが生まれているのは不幸中の幸いといえよう)。生活上の(相当な)支障を有する難病患者はすべて(機能)障害をもつのである。

定義改正の影響

 精神障害の明確化以外には実質的な変更のない改正であったが、この過程での国会内外での論議と運動の影響はかなり大きい。最も直接的な影響は1995年の精神保健法の改正で、精神保健福祉法への法名称の変更をも含むものである。

 一方、1994年には厚生省内に障害者保健福祉推進本部が設置された。主要目的は障害種別を超えた横断的・総合的な障害者施策の整備を検討することとされている。ここでは「3大カテゴリー」の枠にとらわれず真に総合的な検討が期待される。また難病対策自身に関しても、付帯決議で要請されたことを要因のひとつとして、従来の医療面だけでなく福祉面をも含む総合的対応を図れとの公衆衛生審議会難病対策専門委員会中間報告(1994年7月)が提出された。

 これらの基本法の定義改正に影響された新たな動きは、それとは直接関連はしない次のような近年の動向と相まって、包括的な障害者施策の実現を準備しつつある。すなわち日本障害者協議会を中心とした総合福祉法への運動、長期計画で包括的な障害者定義を採用する自治体の増加、高齢者施策と障害者施策の統合の必要性への認識の高まり、援助場面での「対象外障害者」の増加(例えば職業センター新規利用者の4分の1が「その他」)とそれへの対応としての調査研究の進展(後術の脳障害の調査等)などである。さらに国連、WHO、ILOなどの基準や各国の実際の包括的な施策展開の日本への影響も重要であろう。韓国やタイでも近年障害者への総合援助法が制定された。

今後の課題

 包括的な対象者への施策の展開は、すでに旧基本法制定時に政府の担当者自身(山懸社会局更正課長)によって表明され、予定されていたことでもあり(肝臓機能障害、血液疾患、自閉症などの対象化)、決して無理な要求ではない。

 今回の改正で5年後の見直し規定は設けられなかったが、これは当分改正しないためではなく、とくに精神薄弱という用語の早期改正がありえるからであるという(各政党関係者の話)。早期の突然の再改正にそなえ定義についても十分な調査検討と世論形成が求められている。

 例えば東京都MSW・PSW自主業務研究会では1994年11月から「高次脳機能障害による生活障害アンケート調査」を開始したが、こうした現実に根ざした調査とそれに基づく問題提起が多くの障害についてなされる必要がある。

2.福祉関係諸法

身体障害者福祉法

 成人病等の増加を背景に、除外されている人々のことが社会問題化しつつある。都道府県からの疑義への回答や当事者団体からの問題提起を紹介する。

 〈種類による除外〉

 日常生活活動が著しく制限されてはいても解離性大動脈、大動脈瘤、大動脈炎症候群は心臓そのものの障害ではないとして除外されている。皮膚障害、体温調節ができない発汗障害、糖尿病、血液疾患などは疑義の余地なく明確に除外されている。要介助として基礎年金1級とされた肝臓機能障害者に介助のための福祉法がない。道路交通法は140㎝以下の者を身体障害者として運転免許取得時に自動車改造を義務づけるが、福祉は改造費の助成対象にしていない。

 〈原因疾患による除外〉

 昔から障害の原因を問わない(ただ精神的障害によるものは除く)とされてきた。しかし二分脊椎によるもの以外の膀胱機能障害、食道起因の嚥下機能障害、起立性低血圧による起立・歩行の障害、酵素欠損症による、あるいは原因が肺か心臓か不明の肺高血圧症による呼吸機能障害などは除外される(呼吸器機能障害と呼吸機能障害の差!)。とくに脳起因の機能障害が複雑で、言語障害はアルツハイマー症によるものは除外、失語症や聴覚障害によるものは含めている。脊髄小脳変性症や脳卒中による運動障害は対象となり、脳挫傷による呼吸障害は除外されている。この合理的説明はほとんど不可能であろう。

 〈永続要件による除外〉

 発作性頻脈や夜間の人工呼吸器依存は障害が永続しないとして除外されている。永続する基礎疾患・能力障害・社会的不利を無視し、永続しない発作症状(機能障害)のみを見ている。

 また、1992年には肝硬変を障害と認める請願が国会で採択されたものの、厚生省は病状が可変的で障害の永続性が確定できないとしているという。これはその他多くの慢性疾患・内部障害を除外する「理由」ともなっている。この後者の永続要件に関して、必要に応じて「再認定」制度を活用することになっているはずであり、さらに精神障害者手帳で導入される「有期認定」も有効であろう。

 以上、種類、原因疾患、永続要件などによる除外を見てきたが、これらはすでに1966年の身体障害者福祉審議会答申がきびしく批判していたものである。

 そこでは、「内部障害者も日常生活、社会生活上の障害をもち、リハビリテーションと援護を必要とする点において、外部障害者となんら変わるところはない」ので法の対象とすべきである。その際当面は「比較的認定の容易な障害のみを対象とすべきであるとの意見もあった。しかし、すでに各種の公的年金制度において、すべての内部障害者がとり入れられ、現実に障害認定が実施されている実態があり、認定技術の面についても、本年8月の沖中重雄博士を座長とする障害等級調整問題研究会の答申もなされており、対象障害の種類を限定する理由は考えられない。」そして事情により段階的拡大が必要とされる場合においても、種類によってではなく程度によって区別し、まず中・重度のものから対象にするべきであるとしていた。

 〈障害程度による除外〉

 聴覚障害が重度に限定されているため、福祉法による補聴器の交付率(一定人口あたり)がヨーロッパの10分の1以下で、文字放送アダプターの普及台数は「聴覚障害者数」の2~3倍にもなっている。内部障害には5、6級がなく対象が狭い。

 〈等級の問題〉

 1993年5月20日の朝日新聞は「矛盾だらけの障害者の等級」(編集委員、田辺功)という記事を載せ、人工臓器の場合は術前状態で判定する制度の下で、ペースメーカーを埋め込んで仕事に飛び回りゴルフを楽しむ人が最重度の1級となっている現実、視野に厳しい基準の下で、1級の視力障害者が3級の視野狭窄の人を手引きする現実など、認定基準の問題を指摘した。

 ここでは補装具・人工臓器なしの機能を測定する原則、つまり「等級は機能障害(impairment)のレベルで認定される」(法施行細則準則様式第3)という原則が問題とされている。等級は社会的不利を推測させる能力障害の程度区分であり、機能障害で測定する、というのが現行制度である。

 ところが機能障害、能力障害、社会的不利は障害の3つの異なるレベルであり、前者が後者を100%反映するものではなく、その途中には補装具、訓練、環境、意志・意欲などの修飾因子が大きく作用する。手帳の等級がその人の不利を示さなくなりつつある。この矛盾を解決すべく考えられるのは、社会的不利とより高い相関を示すように機能障害の診断基準や区分を変えることであろう。視野狭窄をより高い等級にすることや四肢よりも言語を重視することなどがその例である。さらに直接能力障害を測定することも考えられる。しかし3つのレベルの間の「独立性」を高めようというのが障害者福祉や雇用・年金対策の目的である。その間の「依存性」に立脚した制度はうまく機能しない。

 したがって身体障害等級という概念それ自体が歴史的役割を終えつつあり、その廃止を本格的に検討すべきであろう。もともと等級という制度は徴税機関の便宜のために法施行1年半後に導入された。雇用、交通機関利用、経済生活、テレビ視聴などの不利を一つの等級表で表示するという、もともと不可能な仕事が福祉行政に持ち込まれてきたのである。とにもかかわらず福祉行政自体は手帳制度とくに等級制度を使って機械的に福祉サービスを提供することはなく、個別のニーズの評価・判定を重視してきた。

精神薄弱者福祉法

 精神薄弱者福祉法は「精神薄弱者」の定義を設けていない。療育手帳では「重度」については詳しいが、その他については明示していない。このため都道府県による認定の差があり、転居によりサービスの継続が損なわれる場合もあると指摘されている。

 一方「精神薄弱」の用語の変更が検討されているが、これに合わせて、明確に自閉症や学習障害などより広い発達障害に対応するために発達障害者福祉法として再編することも望まれる。

精神保健法

 1993年の改正で精神障害の定義は、従来の「精神病」より広い範囲を示す「精神疾患」へと変更されたが、この改正は1965年になされるべきものであった。1993年の改正では疾患から障害への変更・拡充が求められていたのである。精神疾患を有する者と精神障害者とに区分し、前者に現行の新しい精神障害者の定義をあて、後者を「精神疾患を有する者あるいは有した者で、日常生活または社会生活に相当な制限を受ける者」などと規定することが適当であろう。

総合福祉法

 数100種類の難病の細かい認定基準はおそらく不可能であり、失行・失認・失語・知的障害などの高次脳機能障害者をどの法律でみるかの問題も大きい。しかしこれらの人々は授産施設、更生施設、ヘルパーなどの福祉施策の法的根拠を必要としている。「谷間」を生み出す縦割りを改め、ニーズに応じたサービスを提供する総合福祉法が望まれる。既存の福祉法の間の格差の解決にも、行財政の効率化にもつながる。個別法の拡充の努力と並行して、早期に法案が示され、実質的な論議が開始されることが期待される。

 こうした改正に際して、障害者手帳とそれに関係する各種サービス(とくに恩典的なもの)の存続について十分な再検討が必要である。しかし社会サービス手帳といったものは必要だと思われる。そこには利用資格のある社会サービスのリストが示され、手帳の提示で簡単に利用できるものとする。例えば、交通機関介助者無料、駐車禁止除外ステッカー、NHK放送受信料割引、有料道路割引など。

3.国民年金法の障害基礎年金

障害の種類別認定基準

 認定にあたって、保険料納付要件と初診日要件の他にはもっぱら障害の種類と程度が考慮される。そして機能障害の種類別に認定の基準・考え方が異なっているのが大きな問題である。

 第1に、対象外の障害がある。神経症、喘息などの発作性障害、疼痛や脱力によるもの、検査値ではっきり出にくいもの、自殺未遂によるものなどが認定されにくい。

 第2に、肢体、目、耳などの「外部」障害は法施行令別表に基準が明記され、該当すれば受給となる。

 第3に、肺結核、心臓疾患などの内部疾患の一部は、この別表ではわからないが「障害認定基準」のなかで詳しい症状や検査所見が示されている。

 第4に、その他の慢性疾患や精神障害で、別表でも認定基準でもはっきりせず、社会保険庁が示す「障害の状態の基本」に照らして判断する。

 この「基本」によれば、1級は「身体の機能の状態又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものとする。この日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度とは、他人の介助を受けなければほとんど自分の用を弁ずることができない程度のものである。」

 2級は「身体の機能の状態又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。この日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度とは、必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度のものである。」

 3級は「傷病が治ゆしたものにあっては、労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。また、傷病が治ゆしないものにあっては、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものとする。」などとなっている。

 また活動の範囲は、1級が「おおむね病室内」、2級が「おおむね家屋内」に限られるとされる。

 この「基本」はすべてに適用される根本の基準とされるが、上記第2、第3の障害ではより具体的な認定基準が実際上優先されるので、単に理念にとどまる。

障害種類別の格差

 車椅子の下肢障害者であれば正社員でも1級が支給されるが、アルバイトとして通常の3分の1以下の賃金で働きはじめたら「労働が制限を受ける」とは認められず3級年金すら打ち切られた精神障害者がいる。作業所に通う知的障害者で、交通費程度の工賃しか働けないのに日常生活能力は高いとされて年金がもらえない例がある。リウマチの痛みで働けなくなり、手帳は6級で年金ももらえないという人がいる。「両足の指をなくした」人と、難病や精神病で「長期の安静を必要とし日常生活が著しい制限を受ける」人とが同じ2級ではだれがみても不公平である。

 1994年、宮城県の関根萬司氏は医療過誤(係争中)による記憶障害で3級の認定を受け、2級への変更を求める再々審査請求を行っている。3級の根拠は労働はできないが日常生活活動はすべて可能、というものであり、食事、用便、入浴、洗面、着衣、簡単な買い物が一人でできること、家族や家族以外の者と話が通じること、刃物・火・戸外などの危険はわかる、ということである。

 審査官が認定にあたって考慮した「日常生活」が生命の安全や生理的なレベルに大きく片寄っており、前述の「障害認定基準」が求める「社会的な適応性の程度によって判断するよう努める」という指針も生かされていないことがうかがわれる。実際には「…話しをしている間でさえ、質問や話題を忘れてしまう。帰るべき家までの道がわからなくなる。食事をしたことも忘れてしまう。自分を助けてくれる大切な人と会っても、その人を覚えていられない。」という状態である。トイレや入浴などは自立していても日常生活はそのような身辺処理だけではなく、留守番、電話の対応を含むコミュニケーション、買い物や外出なども含むものであり、これらがひとりではおぼつかないために妻が常に援助している状況である。

 「必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難」という状態が2級であり、1級は「他人の介助を受けなければほとんど自分の用を弁ずることができない程度のもの」(「基本」)とされているので、関根氏の場合は1級と2級の中間に位置するものといえる(校正の直前の1995年7月、2級に認定する旨の通知が来た)。

課題

 障害年金、とくに基礎年金が精神障害者等にとって所得保障制度として十分機能していないこと、とくに障害の種類による格差が大きいことをみてきた。その原因は、肢体不自由等は機能障害の程度で能力障害(日常生活能力)を類推し、たとえば両足関節切断者は「日常生活の用を弁ずること不能」として1級と認定されるが、知的障害を含む精神障害や多くの慢性疾患は、はっきりしたルールがないままほとんど直接「基本」が評価基準として使われ、しかもこの「基本」は日常生活能力の程度を示すものといわれながら実際にはほとんど身辺処理能力区分であり、かつごく重度のもののみを対象としていることである。この結果、自分で食べられる、衣類の着脱もできる、しかし社会的自立能力が低くて就職できないという障害者が年金制度できわめて不利な状態におかれることになっている。

 したがって諸外国のように稼得状態を重視した年金給付への移行が望まれるが、もしこの方式が就労意欲をそぐなどの理由で採用できない場合には、経済面の社会的不利の程度を最もよく反映する能力障害の程度等級を作成することになる。その際重要なことは、身体障害者福祉法の項でふれたように経済面の社会的不利と能力障害との関係(両者の相対的独立と関連の変化)に関する基本的理解である。能力障害をモノサシとする障害認定基準は定期的に見直される必要がある、ということである。

 その見直しの方式とは、全国的な障害者の実態調査を行い、機能障害の種類と程度、日常生活や社会生活の能力の種類と程度に関して、どのような属性をもつグループがどのような稼得の状況であり、障害にともなう余計な出費がどうなっているかを調べ、認定基準に修正を加えるというものである。こうした基準の見直しとともに、それでも生じる不公平を減らすために学際的認定委員会で審査する事が必要であろう。これは既得権に触れる難しい問題だが、しかしどうみてもたとえば固定的身体障害と精神面の障害や難病にともなう障害との間の不公平な事態は早期の解決を要すると思われる。

4.障害者の雇用の促進等に関する法律

障害種別の格差

 職業安定法が「特別な指導を加える」としている障害者の範囲と、身体障害者雇用促進法の障害者の範囲との差は昔から問題とされてきた。前者は職業上の不利となるすべての障害者であり、後者は1960年の法制定時は身体障害者に限定され、1976年改正で精神薄弱者が一部の条項の対象とされた。ようやく1987年の改正すなわち障害者雇用促進法の制定によって、理念的にはすべての障害者が法の対象となり、職業安定法との整合をみた。

 またこの改正では従来の厚生行政の基準の「借用」から一歩踏みだし、職業面に着目した精神薄弱者の認定を地域障害者職業センターで行うことになった(この方向は1993年度からの重度精神薄弱者の認定にあたっても生かされた)。

 さらにその後、1991年度より在宅勤務が雇用率にカウントされることとなったこと、1992年度より短時間勤務(週22時間以上33時間未満)の重度身体障害者・重度精神薄弱者が雇用率にカウントされるようになったこと、1986年度からの職場適応訓練制度の適用に続いて1992年度より精神障害回復者等(精神分裂病、そううつ病、てんかん)が助成金制度や職業訓練制度の対象となったことなど、法対象の実質的拡大がなされてきた。

 しかし依然として大きな格差が残されている。完全な法対象とされる身体障害者、雇用率にカウントされるものの雇用義務からはずれている精神薄弱者、雇用率にカウントされないが助成金などの対象となる一部の精神障害者、最後に相談指導程度しか援助が受けられないその他の慢性疾患をともなう障害者など、という4つのグループである。

 この最後のグループに入るものとして、たとえば小児癌回復者がある。治癒率と告知の増加を背景にして小児癌経験者で就職に困難をかかえる人が増え、表面化しつつある。癌やその治療にともなう身体的障害(内分泌障害、外見的障害、斜視、内部障害など)や知的・情緒的障害などの障害、長い療養により友達も少なく勉強は中途半端になり、親の過保護も加わっての精神的な弱さを持つなど本人の条件、さらに雇用主サイドでの「癌は死病」という偏見などが就職を不利にしていると考えられる。一部の者は各手帳の対象となるが、その他には雇用面の援助はない。

 このような障害の種類による格差は前述のように福祉や年金でもみられたが、雇用面では特に深刻な問題を生み出す。1976年の身体障害者雇用促進法改正で雇用率制度が強化され、納付金制度が導入された際に、精神薄弱者も納付金減額の対象とされた。その理由は、精神薄弱者も身体障害者同様雇用にあたって事業主に経済的負担をかけるものであり、その負担軽減をねらった納付金制度の対象を身体障害者のみとすれば、知的障害者の雇用の促進と安定を妨げる恐れがある、というものであった。事業主が精神薄弱者の雇用に消極的になるばかりか、現に雇用されている精神薄弱者を解雇して身体障害者に切り替える可能性も予想されたための措置であった。これは現実的で重要な認識であり、障害者の中の一部に限定した雇用促進対策はその他の雇用を損ねる可能性があるということである。

 現に公的機関を通じて採用寸前まで行きながら「手帳がない」、「雇用率にカウントされない」ことが分かって契約を解消される事例は珍しくない。雇用率にカウントされない障害者はもともとそこへの就職の可能性はなかったのだといえなくもない。しかし以前には障害のない求職者との競争だけですんでいた者が、制度の発足によって雇用率にカウントされる障害者とも競争しなければならなくなったことは事実である。

障害者職業総合センターの研究

 雇用対策の対象となる障害者・重度障害者の範囲のあり方をめぐって、最近注目すべき研究がなされた。それは障害者職業総合センターの伊達木らによるもので、全国の地域障害者職業センターの援助活動を通じて把握された実証的な資料をもとにしている。以下その要点と考えられる事項を紹介する。まず障害者の範囲について、

①法的な助成の対象とならない障害者が増加している。具体的には脳損傷・高次脳機能障害(あるいは中途知的障害)、精神病周辺領域の社会適応障害(神経症や自律神経失調症等)、行動・情緒障害による社会適応障害(自閉症、登校拒否、対人不適応、緘黙、学習障害等)、知的ボーダー層(IQ75~90程度で職場から脱落しがちな人々)、軽度多重障害、難病・病弱、「社会的ハンディキャップ」(小人症や火傷痕等)など。

②これらは法内の重度身体障害者とほぼ等しい就職困難度を示すが雇用率や助成金など主要な雇用対策の対象になっていない。

③多くの障害者職業カウンセラーは脳損傷、自閉症、神経症、小人症などへの法的助成が必要だと考えている。就職困難度が高く、助成の必要性に関するカウンセラーの意見の一致がみられるものは障害名によって助成対象に加え、その他のものは一定期間の援助活動の経過によって個別に判断する方式が望ましい。

 次に、重度障害者の範囲については、

①等級にかかわらず職業面の困難度の大きいものは、脳性マヒ、精神薄弱者と他の障害の重複、片マヒ、軽度多重障害、人工透析をうける腎臓機能障害など。

②身体障害と精神薄弱の重複者、適応行動尺度等で職業生活に重度の障害があると認められた者、不採用頻度・失業期間・解雇による離転職回数などからみて重度と考えられる者という3種類のどれかに該当する障害者を総合的に判定して重度障害者とする。それを実験的に3年程度実施した上で基準を見直すことが望ましい。

 この研究は、地域障害者職業センターのサービスと専門スタッフが充実し、職業リハビリテーションサービスのニーズを客観的に評価する条件が生まれてきたことを背景にしたものであり、今後の政策への還元に注目される。なお、これは職業センター利用者を基礎にした研究であり、慢性肝炎など内臓の慢性疾患だけをもつ人々が数の上であまり表面にでてきていないように思われる。職業安定所の一般援護部門を通じて病気を隠してなんとか就職することはできるが、無理して病状が悪化し、失業を繰り返すというような障害者である。

おわりに

 近年、障害者基本法、精神保健法、障害者雇用促進法などの障害者の定義があいついで改正された。これらの法律の対象規定はまだ問題が多いとはいえ、国会内や関係者の間で活発に議論され、ニーズに応じ、かつ国際的動向に沿ったものに向かって改善されてきた。それに比べると年金各法と身体障害者福祉法の障害(者)の定義・等級・認定基準に関する検討はきわめて低調で、国連障害者の10年や障害者基本法とは無縁であったかのようにすら感じられる。

 基本法の制定を機に障害種別の格差をなくす研究と運動が進み、この原始的宿題を今世紀中に解消することが期待される。その際最も重要なことは、心身の障害にともなってどのような「特別な困難」が生まれているのか、なぜその困難が生まれており、どうしたら解決できるのか、そのためにどの現行施策が役立つのか、あるいは新たに何が必要なのか、ということを具体的に示すことであろう。

 さらに以上の検討を通じて、技術的表面的な問題の背景に、各種法律の目的は何か、そこにおける障害とは何か、障害が重いとは何を意味するのか、などの本質的な問題があることもいっそう明白になった。とくに障害の3つのレベルの考え方(障害の構造的階層的理解)の深化と活用が急がれている。

〈文献〉 略

佐藤久夫(代表)、大塚丈彦、岡部泉、近藤博子、田中亜季、渡辺洋美(以上1993年度卒)、小倉明子、柏井共子、小山菜生小、鈴木重則、中山薫、麦倉亜季、柳春銘(以上4年生)、秋田博治、出原敬宏、今里真紀、大澤美佐子、小川江美、柿木靖子、北川進、柴啓子、[鄭]鐘和、内藤由季、林美里、松尾武思、松本史朗、和田直基、淀夕季(以上3年)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1995年3月(第83号)5頁~13頁