特集/障害者施策の最近の動向 障害者プランと障害者施策の計画化

障害者プランと障害者施策の計画化

寺島彰

 

1.障害者プラン策定の経緯

 平成7年12月18日の障害者対策推進本部(本部長:内閣総理大臣)の会議において、平成8年度を初年度とし、平成14年度までの7か年を計画期間とする「障害者プラン~ノーマライゼーション7か年戦略~」が決定された。この計画は、関係19省庁からなる障害者対策推進本部(平成8年1月19日「障害者施策推進本部」に改称)において平成5年3月に策定された「障害者対策に関する新長期計画」をさらに具体的に推進していくための重点施策実施計画として位置付けされたものである。そこで、まず、「障害者対策に関する新長期計画」から振り返ってみる。

 「障害者対策に関する新長期計画」が策定される前年の平成4年には、2月から約1年かけて全国で400万人といわれている障害者の今後の対策の在り方について調査審議し、平成5年1月12日、中央心身障害者対策協議会が今後の取組みについての意見具申をとりまとめ、「『国連・障害者の10年』以降の障害者対策の在り方について」として内閣総理大臣に提出した。その審議では、本委員20名に専門委員47名を加え67名により、「国連・障害者の十年」の評価を行っている。そのなかで、「国連・障害者の十年」が「障害者の『完全参加と平等』を目指すとの観点からは、十分な状態が達成されているとは言えず、今後も一層施策の推進を図っていく必要がある」とし、平成5年度から平成14年度までを想定した新たな「『障害者対策に関する長期行動計画』を策定し、その着実な施策展開を図っていく必要がある。」ということを提案している。

 新たに長期計画が提案された背景としては、1992(平成3)年4月23日、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)第48回総会で「アジア・太平洋障害者の十年」(1993~2002年)が決議されたことがあった。

 この「アジア・太平洋障害者の十年」というのは、国連障害者の十年を振り返って見ると開発途上国において障害者の格差が目立つということで、アジア太平洋地域においては、さらに「障害者の十年」を継続し、障害者対策の推進を図っていくこととしたもので、日本もその提案国になっている。この決議では、各国がこの10年間の国内行動計画を定めることとされた。

 この中央心身障害者対策協議会の意見を受けて平成5年3月22日に「障害者対策に関する新長期計画」が障害者対策推進本部により策定されたのである。

 新長期計画は、基本的な考え方として「リハビリテーション」と「ノーマライゼーション」という2つの理念のもとに「完全参加と平等」を目指すという考え方を引き継ぎ、これまでの成果を発展させ、新たな時代のニーズにも対応するとしている。その内容をまとめると表1のようになる。

表1  「障害者対策に関する新長期計画」の内容

1.基本的な考え方

 「リハビリテーション」と「ノーマライゼーション」という2つの理念のもとに「完全参加と平等」を目指すという考え方を引き継ぎ、これまでの成果を発展させ、新たな時代のニーズにも対応する。

 [5つの目標]

①障害者の主体性、自立性の確立

②全ての人の参加による全ての人のための平等な社会づくり

③障害の重度化・重複化への対応

④高齢化への対応

⑤アジア・太平洋障害者の十年への対応

2.分野別施策の基本的課題と具体的方策

①啓蒙広報

・啓発後方の推進

・福祉教育の推進

・ボランティア活動の推進

②教育・育成

・心身障害児に対する教育施策の充実

・心身障害児に対する育成施策の充実

③雇用・就業

・障害種類別対策の推進

・重度障害者対策等の推進

・職業リハビリテーションの推進

④保健・医療

・心身障害の発生予防、早期発見及び研究の推進

・医療・リハビリテーション医療の充実

・精神保健対策の推進

・専門従事者の確保

⑤福祉

・生活安定のための施策の充実

・福祉サービスの充実

・福祉機器の研究開発・普及

⑥生活環境

・建築物の構造の改善

・住宅整備の推進

・移動・交通対策の推進

・情報提供の充実

⑦スポーツ、レクリエーション及び文化

・地域におけるスポーツ、レクリエーション施設の整備

・レクリエーションや交流を楽しめるスポーツの推進

・展覧会等の開催の支援

⑧国際協力

 「アジア太平洋障害者の十年」を念頭に、特にアジア太平洋地域での国際協力の推進  

3.推進体制等

①関係機関相互の連携

②地方公共団体の主体的取り組み

 長期的な計画の下に障害者の意見を反映した総合的かつ体系的な施策の推進を図ることを期待するということが書かれている

③社会のすべての構成員の積極的な行動

 そして、この「障害者対策に関する新長期計画」により日本の障害者福祉は、新たな展開を迎える。それまでは、ともすれば、厚生省・文部省・労働省などの省庁だけが取り組めばよしとされがちであった障害者福祉に他省庁が前向きに取り組み始めたのである。

 例えば、平成5年4月には、「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律」が成立し、通産省が、福祉用具の研究開発及び普及の中核的な役割を果たすこととなった。

 平成5年9月には、「身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利用円滑化事業の推進に関する法律」が成立し、郵政省が、身体障害者の通信・放送サービスに対する助成をすることとなり、聴覚障害者向けの字幕放送や視覚障害者向けの解説放送等の番組制作に対する助成、視聴覚障害者むけ専用放送局の研究などを行っている。

 平成6年9月には建設省関係で、「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」いわゆるハートビル法が成立し、「不特定多数の者の利用に供する建築物を建築しようとする者は、出入口、廊下、階段、便所等を高齢者、身体障害者等が円滑に利用できるようにするための措置を講ずるよう努めなければならない。」とし、建築主に対し努力義務を課すようになった。

 また、運輸省では、平成6年9月に「財団法人交通アメニティ推進機構」を設立し、高齢者や障害者が、公共交通機関を円滑に利用できるための施設整備・啓発広報を進めている。

 その他、農水省や警察庁など、取り組みも始まっている。

 また、平成5年11月には、心身障害者対策基本法が一部改正され、「障害者基本法」となった。これにより、この法律の対象が、身体障害、精神薄弱、精神障害の3つの大きな括りで規定された。また、国に障害者基本計画の策定を義務づけ、都道府県、市町村に対し、それぞれ「都道府県障害者計画」、「市町村障害者計画」を策定するよう努めなければならないこととしている。この障害者基本法により障害者についての計画策定が国、地方とも法律の根拠を持つことになり、「障害者対策に関する新長期計画」が、この法律の付則によって、障害者基本法に根拠を置く計画に位置づけられた。

 このように「障害者対策に関する新長期計画」が具体的に展開され、その効果が着実に現れていく中、平成6年9月に開催された与党福祉プロジェクトチームの会合で、障害者行政推進体制、とりわけ厚生省の保健福祉施策の推進体制すなわち3局3課の問題が強く指摘されるとともに、同時に、具体的な目標を持った障害者計画、例えば高齢者のゴールドプランのような障害者計画の策定や地方障害者計画の促進についての検討が強く要請された。

 このような中で、平成6年9月22日に、厚生省内に事務次官を本部長とする障害者保健福祉施策推進本部が設置され、第1回の本部会議が開催され、検討が始まったのである。

 与党福祉プロジェクトでは、平成6年12月に、ゴールドプランの見直し(新ゴールドプラン)と、今後の子育て支援のための施策の基本的方向について(エンゼルプラン)の取りまとめが実現したが、障害者のためのプランについては策定に至らなかった。そこで、福祉プロジェクトにおいては平成7年初めからすぐに精力的に作業に取り組み、6月に、方向性についての中間的な取りまとめを行い、年末までに数値目標を含む総合プランを策定することを強調されたのである。

 一方、厚生省においても障害者保健福祉施策推進本部において、障害者施策の総合的な推進方策について積極的に検討を進め、与党の取りまとめの1か月余り後の平成7年7月に中間報告を公表した。この中間報告においては、①障害者保健福祉分野において、具体的目標を明示した新たなプランを策定すること、②新たなプランに基づき、市町村などによる介護等のサービス供給体制を整備し、その充実を図ること、③厚生省における障害者施策を総合的に推進する組織の整備を図ること、などを提言し、また、平成7年末までにプランを作ることとした。

 これを受け、厚生省においてプランづくりを検討してきたが、厚生省がその担当する保健福祉分野だけでプランを策定したとしても、住宅、教育、雇用など障害者に必要とされる施策全体をカバーすることはできないことから、総理府(障害者対策推進本部担当室)が各省との調整に当たり、最終的には新長期計画の重点施策実施計画としての位置付けで障害者プランを策定することとなり、関係省庁一体となった取り組みにより、障害者の生活全般にわたる施策が横断的、総合的に充実されることになった。

 そして、平成7年12月18日の障害者対策推進本部(本部長:内閣総理大臣)の会議において、平成8年度を初年度とし、平成14年度までの7か年を計画期間とする「障害者プラン~ノーマライゼーション7か年戦略~」が決定されたのである。そして、最初に述べたように、この計画は、「障害者対策に関する新長期計画」をさらに具体的に推進していくための重点施策実施計画として位置付けされた。

 また、平成8年1月19日、障害者対策推進本部は、「障害者施策推進本部」に改称された。

2.障害者プランの内容

 障害者プランの骨子は次のとおりである。

(1) 地域で共に生活するために

 障害のある人々が社会の構成員として地域の中で共に生活を送れるよう、住まい、働く場・活動の場や必要な保健福祉サービス等が的確に提供される体制の確立

・住まい(公共賃貸住宅、グループホーム等)や働く場(授産施設等)の確保

・障害児の地域療育体制の構築

・精神障害者の社会復帰・福祉施策の充実等

・介護サービス(ホームヘルパー、入所施設等)の充実

・移動やコミュニケーション支援など社会参加の促進

・難病を有する者への介護サービスの提供など

(2) 社会的自立を促進するために

 障害の特性に応じたきめ細かい教育体制の確保及び障害者がその適性と能力に応じて可能な限り雇用の場に就き、職業を通じて社会参加できるような施策の展開

・各段階ごとの適切な教育の充実

・法定雇用率達成のための各種雇用対策の推進

・第3セクター重度障害者雇用企業等の設置促進など

(3) バリアフリー化を促進するために

 障害者の活動の場を拡げ、自由な社会参加が可能となる社会にしていくため、道路、駅、建物等生活環境面での物理的な障壁の除去への積極的な取り組み

・車いすがすれ違える幅の広い歩道の整備

・公共交通ターミナルにおけるバリアフリー化の推進

・高速道路等のSA・PA及び・「道の駅」・における障害者への配慮

・公共性の高い民間建築物、官庁施設のバリアフリー化の推進など

(4) 生活の質(QOL)の向上を目指して

 障害者のコミュニケーション、文化活動等自己表現や社会参加を通じた生活の質的向上を図るため、先端技術を活用しつつ実用的な福祉用具や情報処理機器の開発普及等を推進

・福祉用具等の研究開発体制の整備

・情報通信機器等の研究開発・普及

・情報提供、放送サービスの充実、スポーツ、レクリエーション振興など

(5) 安全な暮らしを確保するために

 災害弱者といわれる障害者を災害や犯罪から守るため、地域の防犯・防災ネットワークや緊急通報システムの構築、災害を防ぐための基盤づくりを推進

・手話交番の設置、手話バッジの装着の推進

・ファックス110番の整備

・災害時の障害者援護マニュアルの作成・周知など

(6) 心のバリアを取り除くために

 ボランティア活動等を通じた障害者との交流、様々な機会を通じた啓発・広報の展開等による障害及び障害者についての国民の理解の増進

・交流教育の推進

・ボランティア活動の振興

・精神障害者についての社会的な誤解や偏見の是正など

(7) わが国にふさわしい国際協力・国際交流を

 わが国の障害者施策で集積されたノウハウの移転や施策推進のための経済的支援を行うとともに、各国の障害者や障害者福祉従事者との交流を推進

・ODAにおける障害者への配慮、国際協調の推進など

3.障害者プランの障害者施策への反映

 障害者プランを障害者施策に反映させるためには、次のような点に着目する必要があると考えられる。

(1) 3つのプランによる保健福祉施策の強力な推進

 第1の着目点は、高齢者施策として新ゴールドプラン、児童家庭対策としてのエンゼルプランに加えて、障害者プランがスタートすることで、保健福祉施策の3つのプランが出そろったことにより、これらの3つのプランの有機的な活用により、保健福祉施策を強力かつ計画的に推進していくことが必要である。

(2) 数値目標の達成

 障害者プランでは、障害者の生活を支える基幹的な事業について、数値目標が設定された。例えば、厚生省においては、グループホームや福祉ホームについて障害者のニーズに対応できるようにすることを目標に、また、精神障害者の社会復帰施設については、地域の社会復帰や福祉の基盤を整備することにより、退院可能な患者の社会復婦を促進することを目標に、また、ホームヘルパーについては障害者のニーズに対応することができるよう新ゴールドプランの整備目標に上乗せすべき増員目標として、それぞれの具体的な整備目標を示している(表2参照)。

表2 厚生省関係の具体的な施策目標(平成14年度末の目標)

1.住まいや働く場ないし活動の場の確保

 ◎障害者のニーズに対応できるようにするため、施設・事業を計画的に整備・充実

  (平成7年度)   (平成14年度)
○グループホーム・福祉ホーム 5千人分 2万人分
○授産施設・福祉工場 4万人分 6.8万人分
○小規模作業所について、助成措置の充実を図る。

2.地域における自立の支援

 ○障害児の地域療育体制の整備

  ◎障害児が安心して成長することのできる地域療育体制を計画的に整備

  (平成7年度) (平成14年度)
・重症心身障害児(者)等の通園事業 3百か所 1.3千か所
・全都道府県域において、障害児療育の拠点となる施設の機能を充実する。

 ○精神障害者の社会復帰の促進

  ◎地域の社会復帰や福祉の基盤を整備することにより、退院可能な患者の社会復帰を促進

  (平成7年度)   (平成14年度)
・精神障害者生活訓練施設(援護寮) 1.5千人分 6千人分
・精神障害者社会適応訓練事業 3.5千人分 5千人分
・精神科デイケア施設 370か所 1千か所

  (注)グループホーム、授産施設等の整備については、1.に含まれている。

 ○地域での生活を支援する事業の実施

  ◎障害者の生活全般にわたる相談等に応じ、また社会参加を促進するための事業を計画的に充実

   ・障害児の療育、精神障害者の社会復帰、障害者の総合的な相談・生活支援を地域で支える事業を、概ね人口30万人当たり、それぞれ2か所ずつ実施

   ・障害者の社会参加を促進する事業を、概ね人口5万人規模を単位として実施

3.介護サービスの充実

 ○在宅サービス

  ◎障害者のニーズに対応することができるよう、サービス提供体制を整備

  (平成7年度)   (平成14年度)
・ホームヘルパー     4.5万人上乗せ
・ショートステイ 1千人分 4.5千人分
・デイサービス 5百か所 1千か所

 ○施設サービス

  ◎待機者を解消することができるよう、特に不足している施設を整備

  (平成7年度)   (平成14年度)
・身体障害者療護施設 1.7万人分 2.5万人分
・精神薄弱者更生施設 8.5万人分 9.5万人分

 ○難病を有する者に対して、関連施策としてホームヘルプサービス等適切な介護サービスの提供を推進する。

4.障害者雇用の促進

  第3セクターによる重度障害者雇用企業の、全都道府県領域への設置を促進する。

5.バリアフリー化の促進等

 ・21世紀初頭までに幅の広い歩道(幅員3m以上が約13万㎞)となるよう整備する。

 ・新設・大改良駅及び段差5m以上、1日の乗客5千人以上の既設駅について、エレベーター等の設置を計画的に整備するよう指導する。

 ・新たに設置する窓口業務を持つ官庁施設等は全てバリアフリーのものとする。

 ・高速道路等のSA・PAや主要道路の「道の駅」には、全て障害者用トイレや障害者用駐車スペースを整備する。

 ・緊急通報を受理するファックス110番を全都道府県警察に整備する。

 他の省庁においても、新たに整備する全ての公共賃貸住宅は、身体機能の低下に配慮した仕様とする(建設省)、第3セクターによる重度障害者雇用企業等の全都道府県域への設置を促進する(労働省)、段差5メートル以上、1日の乗降客5千人以上の既設駅について、エレベーター等の設置を計画的に整備するよう指導する(運輸省)等、具体的な施策目標を盛り込んでいる。

 第2番目の着目点としては、このような数値目標が設定されたことを受け、その達成に向けた国、地方一体となった取り組みにより、障害者施策を強力に推進することが必要である。

(3) 横断的・総合的な充実

 第3番目の着目点は、関係省庁一体となった取り組みにより、障害者の生活全般にわたる施策を横断的、総合的に充実することである。

 障害者プランの策定時にも、厚生省がその担当する分野だけでプランを策定しても、住宅、教育、雇用、都市環境、通信放送など、障害者に必要とされる施策をカバーすることはできないことから、関係省庁一体となってプランを策定すべきとの声が強くあったため、これを受けた総理府(障害者対策推進本部担当室)が各省との調整に当たり、最終的に新長期計画の重点施策実施計画としての位置付けで、関係省庁の参加する障害者プランが実現したものである。

おわりに

 平成5年12月に公布された障害者基本法第7条の2の規定により、都道府県及び市町村は障害者計画を策定するように努めなければならないこととされた。これは、国が策定した新長期計画を基本としつつ、それぞれの都道府県、市町村が管内における障害者の状況等を踏まえ、障害者計画を策定することにより、地域の実情に応じた障害者のための施策を総合的かつ計画的に推進し、障害者の自立と社会、経済、文化その他あらゆる分野への参加を促進しようとするものである。

 しかし、都道府県においては、障害者計画が策定されているものの、全国の市町村で障害者計画を策定しているのは約1割であり、計画づくりが十分進んでいない状況にある。また、都道府県においても、数値目標を設定しているところは、少数である。

 今後は、都道府県や市町村において、障害者団体の代表、医療・教育・福祉等に従事する専門家、学識経験者等の各方面の幅広い意見を反映させながら、地域の障害者のニーズに対応できるようにするための数値目標を設定するなど、具体的な施策目標を障害者計画に盛り込むことが必要と考えられる。

厚生省社会援護局更生課身体障害者福祉専門官


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1996年4月(第86号)9頁~14頁

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