特集/障害者施策の最近の動向 障害者総合福祉法と諸外国の動向

障害者総合福祉法と諸外国の動向

佐藤久夫

 

はじめに

 わが国には障害者を対象とした福祉サービスの根拠法として、身体障害者福祉法、精神薄弱者福祉法、精神保健福祉法、児童福祉法、老人福祉法の5つがある。後2者は、社会福祉の分類に際して一般には障害者福祉には含めないが、肢体不自由児施設、特別養護老人ホーム、ホームヘルプなど明確に障害を受給要件とするサービスが多く規定されているので、ここではこれらを含めた。この5法が対象とする障害の種類と対象者の年齢は、おおむね下図のようになっている。

 図 日本の障害者福祉関係法の対象

図 日本の障害者福祉関係法の対象

 情緒障害児短期治療施設などを考えれば、児童福祉法も一部の精神障害児に対応しているともいえる。また18歳と65歳という区分は実際には厳密なものではなく、必要に応じて中学卒業後に「者」施設に入所したり、年齢を越えて「児」施設にとどまったりすることも認められている。老人福祉法部分の点線は、65歳以上になると、特別養護老人ホームに入所して補装具を利用するなどの「2法併用」や、精神薄弱者援護施設にとどまることも老人福祉施設に入所することもできる「2法選択」が可能になることを示す。

 このような障害種類別、年齢別の法制度の分立状態は、国際的にもきわめて異例である。世界の動向として、対象の面では高齢者などを含め、サービスの面では住宅なども含めた「生活支援」法へという大きな流れが感じられる。

 本小論では、まず障害者総合福祉法が求められる背景を分析し、アイスランド、韓国、タイの障害者福祉関係法の進んだ面を検討し、わが国の課題を述べることとする。

障害者総合福祉法が求められる背景

 5法のうち、特に障害の種類別の縦割り状態は、次にあげるような障害者福祉をめぐる変化に対応できないものとなっており、総合的な障害者福祉法が求められている。

 第1に、求められる福祉サービスの変化である。重点が、障害種別の特異的なものから種別を超えた共通のものへ、医学的なものから社会的なものへと変化してきた。(医学的)リハビリテーションを中心とする障害者福祉の時代から、これに加えて社会参加や機会均等化をも含む障害者福祉の時代へと変化してきた。

 かつては、視覚障害、肢体不自由、知的障害など障害(機能障害)の種類の違いに主な関心が向けられ、補装具、更生医療、職能訓練、職親委託などの独特のサービスが開発された。法目的も身体障害者福祉法=更生=職業自立、精神薄弱者福祉法=更生と保護、精神衛生法=医療と保護と、特異性が明らかであった。 

 しかし近年、自立と社会参加を促進するという共通の目標が掲げられ、そのためには機能障害の治療や訓練だけでなく、サポートや環境の改善もまた重要であると考えられるようになった。共通して必要とされるサービス(グループホームや相談員制度など)や、共同して利用できるサービス(ホームヘルプや障害者福祉センターなど)の重要性が増してきた。これは、社会経済の発展の反映でもあり、障害者を中心とする国民の要求と意識の発展の反映でもある。

 似たようなサービスが各種の法律に規定され、基準・手続き・利用資格・費用徴収なども食い違っている状態は、問題である。総合的な障害者福祉法の中で必要に応じて障害種別の特異的なサービスを設ける方式のほうが効果的である。

 第2の変化は、福祉サービスの実施責任を基礎自治体におろす地方分権化の進行であり、施設福祉から在宅福祉へのサービスの重点の変化である。

 利用者の側からみれば、住み慣れた地域で暮らしながら必要なサービスを自宅であるいは身近な場所で利用する方式への転換である。各都道府県に1、2カ所程度の専門分化した重装備の施設・機関も依然として必要であろうが、日々利用する在宅福祉サービスがより重視される。そのためには縦割り制度を改め、障害種別や年齢で区分するのでなく、ニーズによって利用できるような制度が必要とされる。

 第3に、従来から高次脳機能障害、植物状態、慢性身体疾患、学習障害、自閉症、エイズなど多様な障害像にも対応できる柔軟性をもった法制度が求められていた。最近では1993年の障害者基本法で障害の定義に精神障害が含められ、さらにすべての種類の障害者に対応するきめ細かな施策の確立が付帯決議で政府の義務とされた。1995年の障害者プランでは、障害の「永続」という要件にからんで手帳の取得が困難な難病患者にもホームヘルプサービスを提供する方針が示され、1996年度予算に反映されている。これは基本法付帯決議の尊重として評価されるが、本来は法内事業とすべきであろう。

 いずれにせよ障害の種類別の縦割り福祉法は、専門化・特殊化に眼目があり、対象の限定を志向しているために、普遍化と拡大の要求に応じにくいものといえる。この点からも総合的な障害者福祉法を制定し、「谷間」の障害者をなくすことが求められている。

アイスランド:1992年障害者法

 アイスランドは,人口約26万人という小さな国であるが、北欧諸国の一員として社会福祉の充実に努めてきている。障害者施策の主な担当は、社会問題省である。

 1983年の障害者法の制定で精神薄弱者援護法を廃止・統合し(Council of Europe 1990)、さらに障害者法は1992年に大改正された。この法律の特徴は、すべての障害の種類と年齢の障害者を対象とし、障害の評価、リハビリテーション、福祉機器、サポート、住宅、職業、教育、交通・移動、権利擁護など幅広いサービスを規定し、政策決定と実施管理に障害者団体の参加を保障し、地方分権化を促しているという点にある。

 アイスランドでは,障害者サービスの実施責任を自治体におろしてゆく途上にあり、その分権化を促進するために、また各種サービス提供を調整するために、全国を8つの地域に分け、それぞれに国の出先機関であるがやや独立した意思決定ができる障害者に関する「地域理事会」・「地域事務所」を設置している。直接的なサービスは国、自治体、民間団体によって提供される。以下、主な点をみてゆく(Ministry of Social Affairs 1994)。

・障害者の定義

 第2条で「この法の対象者は、この目的達成のために特別なサービスと支援を要する精神的または身体的障害をもつ人である。それは精神発達遅滞、精神疾患、身体障害、視覚障害、聴覚障害のことである。また障害には事故のほか慢性疾患によるものも含まれる。」としている。

 そして特に手帳も登録制度もない。乳児・児童に障害が発見された場合、医療・教育・福祉の担当者は国立診断相談センターや両親に報告することとされているのみである(第17、18条)。サービスを希望する障害者は、サービスの種類にもよるが、一般的には地域事務所に申請する。そこでは専門家の協力も得てニーズアセスメントを行い、サービスプランを作る。ただしグループホーム入居などの場合は、すでにそこに住んでいる人々の了解や(国立以外の場合)運営主体の了解も得る。本人の希望を尊重してプランを作るが、もし内容に不満であれば地域理事会、さらに全国理事会が取り扱う。

・障害者団体の代表の参加

 まず第1条で、「この法の目的は障害者に他の市民と等しい権利と生活条件を確保し、彼らが正常な生活を送るために必要な条件を提供することである。この法の目的を達成するため、障害者団体の連合団体とその構成団体には、障害者に関する政策形成と諸決定に影響を与える機会が保障される。」と基本的な考え方を述べている。

 さらに社会問題大臣が任命する審議会的な「障害者事項全国理事会」(第4条)、「地域理事会」(第6条)および「国立診断相談センター」の理事会について、それぞれアイスランド障害者連盟および全国精神障害者支援連盟から1人ずつの委員を選出することとされている。このように政策を提言したり実行状況を評価する役割をもつ機関に当事者団体・関係団体の代表を参加させるようになっている。さらにこの法律は4年以内に「地方自治体連盟や障害者団体の連合会との協議を経た上で」改正される、と付則に記している。

・計画

 地域事務所は、地域理事会の意見を聞いた上で障害者サービスに関する地域計画を立て、社会問題大臣はこの地域計画をふまえて、かつ全国理事会の意見を聞いて、総合計画を立てることとされている。

・障害者のための特別信頼人

 第37条では、施設などで生活する人の権利を守るために次のように規定している。『10条3―6項の障害者のホーム(引用者注 グループホーム、居住施設、児童ホーム、およびハーフウエイホームのこと、)に居住する障害者の、個人的な問題や貴重品に関する権利をより確実に守るために、地域理事会はそれぞれの地域に「障害者のための特別信頼人」を任命する。

 「特別信頼人」は障害者の状態を見守り、またホームの所長は「特別信頼人」にすべての必要な情報を提供する。その際、障害者の個人的な記録情報や貴重品に関する情報の提供については、当人の合意を得るよう努める。

 障害者が自らの権利が侵されていると信じる場合、「特別信頼人」に報告することができる。「特別信頼人」は、その障害者を支援するとともに直ちに事態を調査する。調査の後「特別信頼人」はそのケースが地域理事会に持ち出されるべきものかどうかを評価する。障害者からの報告がない場合で、「特別信頼人」が障害者の権利が尊重されていないと信じる理由がある場合にも、同じ手続きがとられる。

 もし障害者の家族、障害者の団体あるいは障害者に係わるその他の者が、10条3―6項のホームに居住する障害者の人権が尊重されていないと信じる場合、「特別信頼人」に報告するものとし、「特別信頼人」は、直ちに調査する。調査の後「特別信頼人」はそのケースが地域理事会に持ち出されるべきものかどうかを評価する。

 地域理事会は、本条に規定されている手続きが、法的に適切にすすめられるよう責任をもつ。「特別信頼人」は、障害者から求められた場合、障害者がどのように対処したらよいかについて障害者を援助する。』

・分かりやすい表現

 この法律は非常に読みやすい。「読みにくいのが法律であり、厳密な解釈のためにはしかたない。分かりやすくすべきは法律ではなく市民向け解説書だ」との「常識」を覆してくれる。読みやすい理由は、文章が短く平易であるほか、例えば社会リハや作業訓練を規定した条文(26条)の末尾にていねいにも、「医学リハは保健サービス法で規定している」との「解説」を記すような配慮による。「役人的」発想ではこうした「解説」は不要だが、障害者団体の政策決定への参加を本気で考えるのであれば、法律を国民に近づけるこうした工夫が必要である。

韓国:1989年障碍人福祉法

 これは1981年に心身障碍者福祉法として制定され、1989年に全面改正で現名称に変更されたものである(Chon Jyonwa 1995)。

 日本の障害者基本法、身体障害者福祉法、精神薄弱者福祉法および児童福祉法のなかの障害児福祉部分を合わせたような内容である。日本が学ぶべき点は、身体障害と知的障害を1つの福祉法の対象としている点であり、その他団体の育成や参加なども参考になる。

・障碍人(障害者)の定義

 第2条(定義)で「この法で言う『障碍人』とは肢体障碍、視覚障碍、聴覚障碍、言語障碍又は精神遅滞等精神的欠陥(以下「障碍」という)により長期間にわたり日常生活又は社会生活に相当な制約を受ける者とし、大統領令で定める基準に該当する者を言う。」としている。

 「大統領令で定める基準」とは日本の法別表とほぼ同じで、視覚、聴覚、肢体、言語、精神遅滞の5種類とその程度範囲を示している。「精神遅滞等精神的欠陥」と定義しているが、大統領令にも施行規則(等級表)にも精神遅滞以外の「精神的欠陥」は取り上げられていない。

 日本の身体障害者福祉法と異なるのは、まず18歳以上という限定がないことで、補装具や施設なども1つの法律で対応している。さらに知的障碍が統合されていることや、内部障害やそしゃく機能障害が含まれていないことも特徴である。

・知的障害者の等級

 精神遅滞人(知的障害者)は1~3級までに区分され、4級以下はない。1級「知能指数34以下の人で、日常生活と社会生活の適応が著しく困難で一生他人の保護が必要な人」、2級「知能指数35以上49以下の人で、日常生活の単純な行動が訓練可能で、ある程度の監督と援助を受ければ複雑でない特殊技術を要しない職業をもつことができる人」、3級「知能指数50以上70以下の人で教育を通じ社会的、職業的再活(更生)が可能な人」となっている。

・等級区分の日韓比較 

 対象とする障害の種類に関する違いを除くと、日本と韓国の制度は非常に似ており、上肢、下肢、体幹、視覚、聴覚、平衡機能、言語などの区分ごとに1級から6級までの等級に区分され、それぞれのセル枠内に記述されている事項も似ている。等級表を一見しただけでは、これが日本のものか韓国のものか分からないほどである。

 比較してみると、部分的には韓国のほうが広く対象をとっている点もあるが、日本の下肢障害6級が韓国では除外されているなど全体としては日本のほうが広く、また指数制度や脳原性運動障害の区別などきめ細かさの点でも日本の歴史の長さがうかがわれる。

・差別の禁止

 第3条(個人の尊厳等)の2項では「誰でも障碍を理由に政治的、経済的、社会的、文化的生活のすべての領域において差別を受けない」としている。この規定は、罰則規定を伴ってはいないものの、日本にはないものである。

・実態調査

 第18条で、保健社会部長官は障碍人の実態調査を5年ごとに実施するとしており、大統領令で詳しく調査の方法や項目を示している。なお90年の実態調査では956,000人と推定された。

・障害者団体の育成と参加

 第6条で、中央と地方(道レベル)に障碍人福祉委員会を設け、障害者福祉に関して審議、建議するとしている。大統領令では、委員の3分の1以上は障碍人で構成するとしている。さらに第45条(団体の保護、育成)では「①国家又は地方自治団体は障碍人の福祉を増進し、自立を促すために障碍人団体又は障碍人のための団体を保護、育成するよう努めなければならない。②国家又は地方自治団体は予算の範囲内で第1項の規定による団体の事業又は活動、その施設に要する経費の一部又は全部を補助することができる」としており、注目される。

タイ:1991年障害者リハ法

 タイの障害者リハ法は、1979年に素案ができてから10年以上たって、1991年に成立、さらに施行規則に手間取り(萩原康生1994)、1995年ようやく実施されるようになった(Department of Public Welfare 1995)。この法律は、あらゆる種類の障害者を対象として手帳と登録制度を設け、障害者リハビリテーション委員会(行政担当者のほか6人の有識者を委員とし、うち2人以上を障害者関係団体を代表する障害者とする)を設置して政策を審議し、具体的なサービスとして医学的リハ、医療費、補助器具、障害者教育、職業に関する助言・相談と職業訓練、割り当て雇用、社会活動への参加、各種施設とサービス、建築物のアクセスなどを規定し、財源として「障害者リハ基金」を設けるというものである。日本にとって特に注目されるのは、その包括的な障害者の定義である。

・障害者の定義

 第4条では、「この法で障害者とは、省令で分類され記述される身体的、知的あるいは心理的異常または損傷をもつ人を意味する。」と規定している。そしてこの法に基づく援助を受けようとする障害者は、障害者リハ委員会事務局または各県の福祉事務所に登録しなければならない、と登録制度を規定し(14条)、登録した障害者には障害者手帳が交付される。手帳にも「障害者ハンドブック」にも「サービス利用時は常にこの手帳を携帯すること。」と記載されている(障害者リハビリテーション委員会事務局 1993)。手帳の有効期限は5年間であり、更新できることとなっている。

 登録に必要な書類として、国民IDカード、住所登録の写し、未成年者の場合の両親による書類、写真、医師の診断書の5点が示されている。登録を受け付ける各事務所には「障害者登録評価冊子」が備えてあり、医師の診断書その他の書類と面接に基づいて本人と登録担当官とが記入する。

 その評価項目第18は「障害の種類・程度と発生時期・原因」で、次のとおりである。

―障害の種類と程度:

 視覚障害(盲、弱視、その他)

 聴覚障害(ろう、難聴、その他)

 言語障害(全く話せない、話せるが困難、言語不明瞭など)

 身体欠損(頭、体幹、手足、その他)

 運動障害(腕・手・指、脚・足・足指、神経疾患)

 慢性疾患(ハンセン病、関節の痛み、内部臓器の病気)

 精神障害・行動の障害(精神病、薬物依存等)

 知的障害・学習障害(精神発達遅滞、痴呆、学習障害など)

―発生時期:出生時か出生後か

―障害の原因:交通事故、労働災害、その他の事故、遺伝、感染、疾患、その他、不明

 以上のように、第4条の障害者の定義は、障害(機能障害)の要件のみ、つまり日常生活や社会生活の困難という要素を含めないものであり、日本や欧米のそれとかなり異なるが、しかし、障害(機能障害)の種類を非常に包括的に規定していることが特徴である。

おわりに

 1996年7月には、それまで厚生省内で3局3課に別れていた障害児者福祉の担当部局が障害保健福祉部として統合されることになっている。法律統合の条件ができることを意味する。

 一方、60以上の障害者団体・専門職団体からなる日本障害者協議会(JD)では1995年8月より障害者法制定特別委員会を設置して検討を本格的に開始し、1996年末にはJD案が示される予定である。

 前述のように、「福祉先進国」のみならずアジアの「福祉途上国」の障害者福祉法制でも、広く対象を規定するものがでてきている。こうした諸外国の経験にも学びつつ、法体系・内容の改革が進められなければならない。その際、次の点が特に重要であろう。

 第1に、機能障害の種類を限定せず、「永続」という要件も緩和して対象を広げる。本人の希望とニーズ評価によって福祉サービスが提供され、公費が支弁される。これは医療サービスの提供と健康保険による支払いと同じ仕組みである。

 第2に、手帳制度は、障害者手帳または社会サービス手帳として存続させ、主に福祉以外の分野で利用手続きの簡便化を図る。交付対象の基準は、経済面での社会的不利との相関を重視した上で、機能障害と能力障害の状態によって定義する。

 第3に、障害者基本法や障害者の機会均等化に関する基準規則などをふまえて、障害者団体の参加と育成や、不服申し立てなどを規定する。

 第4に、実施機関は市区町村とする。

 第5に、施策を地域福祉の時代にふさわしいものに体系化するとともに、個々の福祉サービスについてはできるだけ障害種別の縦割りを廃し、共同利用を促す。

 第6に、費用に関して、障害による出費は利用者無料とし、障害に関係ない食費・住居費などは自己負担とする。

〈参考文献〉 略

日本社会事業大学教授


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1996年4月(第86号)21頁~26頁

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