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国連世界情報社会サミット(World Summit on the Information Society : WSIS)

ケベックの障害者コミュニティにおけるキャパシティー・ビルディング

キャサリン・ロイ
ワールドワイド・ウェブ・コンソーシアム ケベック
http://www.catherine-roy.net

項目 内容
会議名 WSIS フェーズ2 サイドイベント:障害者コーカス主催「第2回情報社会における障害者のグローバル・フォーラム」
発表年月 2005年11月15日、チュニス(チュニジア)
備考 英語版:原文

はじめに

講演をしているキャサリン氏の写真

みなさんこんにちは。私は第2回情報社会における障害者のグローバル・フ ォーラムに参加し、この分野に非常に造詣の深い著名な関係者の方々にお目にか かることができて、大変喜ばしくまた光栄に思っております。

今日は、ケベック州の障害者団体のネットワーク内に、インターネットで結ば れた実践共同体をつくるという、昨年実施された実験プロジェクトについて発表 いたします。

概要

今日のプレゼンテーションでは、以下のことを検討していきます。

  • プロジェクトの背景、目的及び協力者
  • プロジェクトの経過の概要
  • プロジェクトの課題と成果
  • 最後に、将来的な方向性

背景

はじめに、このプロジェクトの背景を理解するために必要な予備知識を少し ご紹介しましょう。

ケベック州はカナダの州のひとつで、主に英語が使われている国内の他の地域 と異なり、フランス語が主要な言語となっております。ケベック州は地理的には 非常に大きな州で、人口はおよそ700万人です。

この700万人のうち、100万人を越える人々が障害をもつとされています。です から全人口の15%以上が障害者であるというわけです。この割合は高いと思われ るかもしれませんが、私たちの社会では絶えず高齢者が増え続けていること、そ してその多くは、程度こそ異なりますが、身体上或いは健康上の問題を抱えてい ることを考えに入れなければなりません。

障害のあるケベック州住民の社会経済的なプロフィールは、全体として他の多 くの先進国のものと似通っています。つまり、過去30年ほどの間に進展が見られ 、(法律や各種プログラム、サービスなどの面で)社会参加が容易になりました 。しかし、ケベック州の障害者は同州に住む障害のない人々に比べて、教育、雇 用、自立生活サービスの利用、収入などの面で大きく遅れをとっています。一言 で言えば、障害者は、最も教育を受けておらず、労働市場において最も活動して おらず、そしてケベック州のすべての恵まれない人々の中でも最も貧しいのです 。

多くの組織がケベック州の障害者の生活を改善しようと活動しています。文字 通り何百もの組織があり、州レベル、地方レベル或いは地域レベルで、或いは特 定のテーマを持って、活動をしています。驚くほどのことではありませんが、こ れらの組織は資金も人材も不足する中、たいていは非常に基本的なニーズ(在宅 医療サービス、送迎サービス、バリアフリー建築、教育など)に取り組んでおり 、大量の仕事をこなしています。これらの組織が行っている多くの活動は、協力 、コミュニケーション、共同支援、そして情報の利用と共有によって支えられて いるのです。

これらの組織の多くは技術的に遅れており、ICTの利用は非常に限られていま す。たいていの組織ではeメールは利用していますが、大部分はウェブサイトを持 っていません。ICTのアクセシビリティに関する問題に関与することは更に少なく 、この問題に当てる資金も時間もありません。そして問題の複雑性を理由にしり 込みしてしまっています。フランス語による支援や文献が限られていることも問 題だといえるでしょう。

PHAREプロジェクトは、障害者団体にもっとお互いに緊密に、そして効果的に 活動するための技術的な手段を提供しようという目的で実施されました。このプ ロジェクトでは、ケベック州の様々な行政地域で活動している地域組織間の特別 なネットワークであるl’AQRIPHに焦点を当てることが決まりました。このネット ワークは逆ピラミッド型をなしており、350の地域会員組織に対して障害者から表 明されたニーズに基づいて、行政側が決定を下すというしくみになっています。 ニーズを受け取った350の地域会員組織は、次々にこの情報を地域の連合団体に伝 え、その連合団体が州理事会を通じてAQRIPHの方向性を決定するのです。

このネットワークは協力と情報の共有によって成り立っていますが、会員組織 を隔てる地理的な距離という、大きな課題に直面しています。

目的

PHAREは、「障害者とインターネット上で共有される情報へのアクセス」と いう意味の略で、英語では“phare”は「かがり火」を意味しています。

このプロジェクトの主な目的は、ケベック州の障害者団体のために、インター ネットで結ばれた実践共同体を構築することです。この実践共同体は、ケベック 州の障害者団体に対し、以下のような支援を提供することができます。

  • 現実的な問題(距離、費用、移動の困難さなど)を解決する。
  • 情報について議論し、情報を作り出し、まとめ、共有し、普及するための専 用のプラットフォームをもつことによって、よりよい情報管理及びコミュニケー ションをはかる。
  • 意思決定と共同活動を容易にする。
  • この結果、各障害者団体がお互いにとって協力組織となるので、各団体の活 動全般によりよい支援が提供される。
  • また、ICTやウェブの一般的な情報の理解を深める。
  • そして、ICTのアクセシビリティに関する問題について、参加する障害者団体 のコミュニティを教育する手助けができると期待される。

このプロジェクトは、ネットワークに関わるすべての従業員と協力者が共同で 利用できるプラットフォームを導入することを目的に実施されたので、障害があ る従業員でも利用できるようになる。

協力者

プロジェクトの推進者は、CAMOというケベック州の障害者のための労働調整 局で、その主な任務は障害者のケベック労働市場への統合を促進する戦略を開発 することです。

Communautiqueは、ボランタリー・セクターの組織におけるICTの利用を推進す るためにケベック州で活動している組織で、デジタル・ディバイド、電子政府、ICT を通じた社会改革などに関連する様々な問題に積極的に取り組んでいます。非営 利団体に対するICT利用研修という分野では広い知識と技術を持っていることから 、Communautiqueに対し、プロジェクト全体を通じて、参加者にすべての研修を確 実に実施することが課せられました。

L’AQRIPHは実験を行う現場で、19の地域連合団体からの参加者に、プロジェ クトに参加し、ネットワークの利用を促進することが義務付けられました。

M3K Solutionという、共同技術を専門とするケベックのICT企業が、プロジェ クトのためのプラットフォームを提供し、コンサルタントとともにそれを改良し て、全体的な技術支援をしました。

最後に、このプロジェクトはケベック州の全労働者のキャパシティー・ビルデ ィングと資質の向上を目的とした雇用省の基金から資金を得ていました。同基金 は、コンピューターを利用した学習方法を実験するためのパイロットファンドを 作り、9つのプロジェクトに資金を提供しましたが、その中にPHAREプロジェクト も含まれており、同プロジェクトのために25万ドルが提供されました。

経過

このプロジェクトは2005年の1月から11月のはじめまで実施されました。参 加組織とAQRIPHの本部から、それぞれ1、 2名の研修参加者が選ばれました。です から全体でおよそ40名が研 修に参加したわけです。そのうち、3名は視覚障害があり支援技術を利用していま した。また、3名は重度身体障害者で、1名は聴覚障害者でした。もっと多くの障 害者が第一段階で参加してくれたと報告できればよかったのですが、私たちが知 る限り、障害のある従業員は組織の中で非常に少数派なのです。これはまた全く 別の課題といえます。

2名の指導者がプロジェクト全体を通じて参加者を支援する役に選ばれました 。2回にわたり、実際に対面してのミーティングが開かれました。一回は、最初に プラットフォームと基本的な作業を紹介するためのミーティングで、もう一回は 最後に全体のプロセスに関するフィードバックを得るためのミーティングでした 。障害のある参加者はこれとは別に一対一の入門研修を受けました。

参加者によって、様々な点(決まった時期にやらなければならない作業、タス ク管理、文書管理、ディスカッション・フォーラムなど)に関して、オンライン による学習モジュールの実験が行われました。また、インターネットを利用した 共同活動の有用性を示すために、「現実世界」における実際的な課題への取り組 みも実験的に行われました。ネットワークは、現実世界での課題の中で達成した いと考えているのは何かを問われ、国際障害者の日に向けて準備しなければなら ない要件に、プラットフォーム上で共同で取り組むことを実習として行うことに 決定しました。

課題

このプロジェクトの最大の課題の一つは、AQRIPHネットワークという組織の 文化に関連していました。前に述べたように、このネットワークに参加している 組織は、ほとんどeメールのみを使って活動しており、共同のプラットフォームを 使って活動したことがないのはもちろんのこと、これについてほとんど聞いたこ とがないというところが多かったのです。また、従業員のほとんどが、ICTの利用 に関して基本的な技術を持ってはいましたが、そのレベルは様々でした。

従業員には、新たな技術や新たな作業環境を学ぶための時間も資金も限られて いました。また、政府による一時的なプログラムを通じて資金を得ていたので、 人の入れ替わりも激しい上、資金が限られているので、これらの組織の大部分が 夏の間休業し、研修も約2ヶ月間中断されてしまうため、秋の始めに活動が再開さ れたとき、指導者は参加者に再度動機付けをし、研修に対する理解を新たにしな ければなりませんでした。

最後に、l’AQRIPHはボランティア・セクターのネットワークなので、このプ ラットフォームのようなツールが広く利用されている商業セクターとは大きく様 子が異なっています。ですから簡単に言えば、多くの場合やむを得ずではありま すが、これまでの方法で作業することに慣れてしまっていたので、相互の通信方 法や協力方法を変えることに対して、かなり抵抗があったわけです。

これに対応するためプロジェクトでは、シンプルなeメールとは対照的な、プ ラットフォームの有用性に対する認識を高めるような特徴と特別なアプリケーシ ョンにターゲットを絞りました。プロジェクトではまた、ボランティア・セクタ ーの組織を対象としたICT研修について広い知識と技術を持つCommunautiqueに協 力を求めました。

その他の大きな課題は、プロジェクトのために選ばれた共同作業用ツールに関 わるものでした。それは、ケベックのICT企業、M3K Solutionsによって、IBMの技 術に基づいて開発された SynkroTMです。このプラットフォームが利用されたのは、主に以下の2つの理由に よります。

  • ICTのアクセシビリティに関連する問題に対して敏感になってもらえるよう 、地域の企業を採用し、プロジェクトへの協力を得るため。その結果複数の関係 者が協力し合う体制が作られる。(これは資金獲得において重要な影響を及ぼす 。)
  • W3Cのアクセシビリティ基準を満たすよう、主流のプラットフォームを改善 することを強く望んでいるため。(全従業員によって通常の雇用環境のもとで利 用されているツールを試行し、改良するため。このようにすることで、障害のあ る従業員と障害のない従業員が同じ環境のもとで、同じツールを利用して働く際 の課題に目を向けられる。)

プラットフォーム自体は当初全くアクセシビリティ機能を備えておらず、JavaScript に大きく依存していました。「ふたを開けてみる」までは、これがどのように改 良できるのかはわかりませんでした。(また、特許技術であったため、私たちが いじることができる部分は限られていました。)この課題に対応するため、プロ ジェクトではアクセシビリティに関する専門知識と技術を持つコンサルタントを 招き、プラットフォームの改良を手伝ってもらいました。その結果、プラットフ ォームをWCAG(ウェブ・コンテント・アクセシビリティ・ガイドライン)に準拠 した形にすることはできませんでしたが、実際のニーズを満たすために支援技術 を使用している人々を含め、すべての参加者が使うことができる形にすることは できました。しかし、実を言えば、それにはいくつもの難しい選択をしなければ なりませんでした。

基本的に:

  • グラフィックリンクよりもテキストリンクが多用されました。
  • アクセシブルなコンテントを直接インターフェース上に作成することは できなかったので、マイクロソフトのワードの文書からコンテントを移すために 、インポート機能が使われました。
  • ヘディング、表、画像記述の使用に関して、参加者に対し非常に具体的 な指示が与えられました。

成果

ケベック州に住む私たちにとって、これはICTの分野における大変革新的な プロジェクトでした。公共セクター、ボランティア・セクター及び民間セクター から障害者団体を支援するために協力者が集まった結果、情報管理について効率 化が進み、また競争も進んだため、私たちの地域にこれまで以上に貢献すること になったからです。

更に前にもあげたように、すべてのW3C基準を満たすようプラットフォームを 改良することはできませんでしたが、すべての参加者が、作業目的の達成に必要 なものについては重大な妥協をすることなく利用できる程度には改良できました 。

プラットフォームはネットワークによって使用され、研修とツールの使用を通 じて、会員組織をより緊密にするのに役立ちました。

プロジェクトはまたCommunautiqueに、障害者に対する研修方法に関する専門 知識を広め、技術を強化するよう求めました。これは私たちのコミュニティにと って貴重な資源となるでしょう。

組織の中から自然発生的に、プロジェクトを通じて研修を受けた最初の中心グ ループ以外の従業員に対しても内部指導を行う組織が現れてきました。そしてい くつかの地域組織がプラットフォームに貢献し始めました。(私たちの将来に向 けた目的が正しかったことが立証されました。)

このバーチャル・コミュニティの実現は、将来障害をもつ従業員がネットワー クに雇用されるのを妨げることはないでしょう。

最後に、このプロジェクトは、これらの参加組織がICTのアクセシビリティに 関連する課題をより深く理解するために役立ちました。

将来

3年間の補助金を受けるための申請が、カナダ政府の技術学習局に提出され ました。もし申請が通れば、私たちは350の地域会員組織全体を含むバーチャル・ コミュニティを展開する第二段階を始めることになります。そこで私たちは更に 多くの障害をもつ従業員に手を差し伸べることができればよいと考えています。

私たちはプラットフォームを変更すべきかどうか討議しています。おそらくは 、A-Collabを利用することになるでしょう。しかし、このネットワークがオープ ン・ソースのプラットフォームを維持できるかどうかという問題点は残ります。 なぜなら、これらの参加組織では、独自にプラットフォームを維持する責任を負 うための資金と技術知識が限られているからです。しかし、既に各組織は、この レベルでネットワークをサポートするために、更に進んだ技術をもつ従業員数名 からなる作業グループを結成することを検討しています。

以上のように、簡単に言えば、問題はあるのですが、このバーチャル・コミュ ニティの未来は明るく、更に先へ進む可能性が確かにあるといってよいと思いま す。