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「共生のまち」ガイド

第3章 共生を阻む生活上の問題点

はじめに

身体の機能障害は、同じ程度の障害であっても障害をもつ人の周囲の物的環境や、人的・社会的環境によって、生活上の不便や不利といったハンディキャップは大きく変わることがよく知られています。ここでは、ハンディキャップの要因となる物的環境-その中でも都市などのまちづくり環境が、障害をもつ者にとってどのようなハンディキャップをもたらしているかを問題点として整理します。
 これらの物的な問題点は、例えば車いす使用者は階段昇降ができない-といった、機能障害の内容から誰もが想像できるものがあります。その反面、視覚障害者や聴覚障害者のハンディキヤップとなる「情報障害」は周囲から理解しにくく、あまり注目されません。しかし、場合によっては生命にも影響を及ぼすものも少なくないのです、こうした目に見えないものは当事者以外にわからないことも多く、それだけに障害者にとって問題はより深刻なものが多くあるのです。
 そこで本項では、こうした生活環境の上で共生を阻む問題点を障害別に概観し、まとめることにしました。これらの障害の分類は大ざっぱであり、必ずしもすべての障害をもつ人の内容が、この表に当てはまるとは限りません。しかし、こうした問題点を理解し、それらのバリアを除去することは、そのほとんどが現在の技術で十分に可能なのです。バリアのないまちづくりが実現できれば、ハンディキャップのない-すなわち障害をもっていても、もっていなくても同じように生活することができるのです。物的環境の整備は、少なくともハンディキャップという障害を除去することに大いに貢献するでしょう。


1 肢体不自由者

(表1参照)

障害の原因、機能障害のようすなど、一人ひとりによって全く異なるといってよいほど、さまざまな人々で構成されています。ここでは、機能障害の内容を「杖使用者等の歩行困難者」「車いす使用者」「上肢障害者」の三つに区分しています。当然、車いす使用であり上肢障害を伴わせもつ者もいますから、こうした人々は両方の障害の問題点を併わせもつことになるのです。

(1)杖使用者等の歩行困難者

機能障害の内容は、立って歩行できるが不安定であることです。もしくは、歩行において杖などの補装具が必要な者をいいます。
 道路や公共建築物では、路面の障害物や表面の滑りやすさが移動に影響を与えるだけでなく、安全上の観点からは車いす使用者よりも危険が多いと考えられる場面も多いわけです。一般には、移動のハンディキャップはさほど多くないと考えられがちであることが、しばしば問題点として指摘されます。公共交通機関においては、特に生命に危険を伴うことが多く、より優先的な解決が望まれます。また、階段や狭い幅の通路など、基本的に解決すべき点も多くあります。

(2)車いす使用者

基本的には立って歩行できないか、できても歩行速度や安全の面で実用的でなく、主な移動方法は車いすを使用する者をいいます。車いす駆動は上肢障害が少なければ手動車いす、上肢障害が著しければ電動車いすを使用します。
 道路や公共建築物では、段差をはじめとした路面の障害物が移動に影響を与えます。これは、単に利用しにくいというだけでなく、わずかな段差があるだけで、全く移動ができなくなることが特徴なのです。また、通路の幅ではある程度の幅が確保されていないと、全く通ることができません。このように、移動地点間のわずか1地点に障壁があるだけで、実質的には単独で移動ができないことになるのが、車いす使用者の特質なのです。
 公共交通機関においても、上記の問題点がほぼそのまま当てはめられます。現在の公共交通機関は、車いす使用者にとって現実には利用がたいへん困難といわれています。階段や狭い幅の通路など、基本的に解決されるべき点も多くあります。

(3)上肢障害者

手指を使って物を持ったり、扱ったりすることが困難です。あるいは、できたとしても重量が重い物や大きな物が扱えない、もしくは細かい動作やいろいろな動作を組み合わせたような複雑な動作はできないことが障害の特徴です。
 日常生活のさまざまな場面において、物を操作するといった動作が必要なときにハンディキャップが多くあります。これらは、切符等の自動販売機、金融機関等のキャッシュディスペンサーといった機械設備に関する利用に問題が多いようです。これらは最近たいへん多くなり、これからもますます増加していくと考えられますが、障害者の利用が配慮されたものはほとんどありません。
 道路や公共交通機関では、上肢障害があるからといって、全く利用できないという場面はむしろ少ないのです。しかし、段差や認知しにくい路面の障害物、さらには滑りやすい路面などは転倒の危険があります。さらに下肢に障害がなくてもバランスをとりにくく転倒しやすいこと、ひとたび転倒するとけがの程度が大きくなります。よって、転倒の原因となる路面の状況には十分注意が必要なのです。
 公共交通機関においても、上記の問題点がほぼそのまま当てはめられ、下肢障害者のように生命に危険を伴うこともあります。


2 視覚障害者

(表2参照)

(1)全盲者

この中には光を認識できる者、目の前にある手や指程度の大きさの物を認識できる者などを含みます。しかし、基本的には目で見る視覚情報を、実用的なレベルにおいて得ることができない者をいいます。歩行も単独では困難ですが、歩行訓練によって単独歩行が可能なことも多いようです。また、通い慣れた道なども比較的容易に歩行できます。しかし、単独歩行に関しては、障害をもった年齢や訓練の成果など、個人差が大きいのです。
 また、一般に考えられているほど点字が使用できる者は多くはいません。情報を音声によって耳から得ている者がほとんどです。
 道路や公共交通機関では、その障壁となると考えられるものは歩行能力との関係が大きいのです。肢体不自由者のように、段差などの路上障害物によって移動が妨げられることは少ないのですが、段差や路面の障害物、さらに滑りやすい路面などは、肢体不自由者と同様に転倒の危険があります。そして、ふたの開けられたままのマンホールやホームから線路上への転落の危険といった、目で安全を確認することが求められる場面における安全性の確保に問題点が集約されます。
 また、鉄道やバス、タクシーなどの公共交通機関では、切符や各種特別利用券などの自動販売機化、路線のインフォメーションなど、その利用に視覚情報が必要な場面は年々多くなる傾向にあります。特に鉄道においては、先に述べた安全上の問題点とともに、乗車に当たってさまざまな情報を視覚で確認する必要が多く、最も利用しにくいものの一つなのです。

(2)弱視者

視力があり、拡大すれば文字を読むこともできるなど・日常生活において視力は実用的なレベルにあります。しかし、日常生活や歩行等において、危険回避の必要があるときなど、そうした情報を得にくいこともあります。
 拡大すると文字情報を得られるものの、大量の文書による情報を早く正確に読み書きすることは困難なのです。したがって、文字と併せて補助的な音声情報があることは、弱視者にとっても有益なのです。
 全盲者と同様、道路や公共交通機関では、その障壁となると考えられるものは歩行能力との関係が大きいわけです。視力があるため、問題は少ないと考えられがちですが、路上の段差や障害物、滑りやすい路面など、安全上の配慮が重要な点は全盲者とほとんど変わりないのです。
 また、公共交通機関では、利用に視覚情報が必要な場面は年々多くなる傾向にあります。都市内にある表示や看板などは大きく書いてあっても、それ自体がどこにあるかがわからないといった問題点も多く指摘されています。


3 聴覚障害者

(表3左側参照)

(1)高度難聴者(全ろう者)

耳で聞く聴覚情報を、実用的なレベルにおいて得ることができません。ただし、補聴器などによって音の有無や大まかな方向などがわかる者もいます。
 最近では、手話が使える者が多くなりましたが、すべての聴覚障害者が手話によって実用的なコミュニケーションができるわけではありません。また、先天的、あるいは乳幼児期以前に障害をもつと言語理解等の発達に影響がでて、複雑な内容の会話や文書理解が困難なことが多くあります。一般には、手話を知らない耳の聞こえる健聴者とのコミュニケーションとして、紙に書いて会話をする筆談が有効とされています。しかし、文書理解が困難な者には、短い文で簡潔に提示する必要があるなど、文書を媒体にしたコミュニケーションは難しい面もあります。
 また、発声・発語訓練が行われ、その成果がでている者は先天的に障害をもっていても、自分の意志を言葉によって相手に伝えることができます。
 相手の口の動きを見て話の内容を理解する口話は、教育の場面で多く用いられていますが、それ単独では完全な理解は困難です。また、話す側も意識して大きく口を開けるなどすると、かえって理解しにくくなります。手話や筆談、身ぶり手振りなどを併用する必要があります。 また、音が聞こえないことから、日常生活や特に戸外における歩行等において、危険回避の必要がある場面でそうした情報を得にくいのです。また、屋内では災害時の非常警報や避難・誘導の情報が得にくいことから、取り残される危険も多くあります。ホテル等では、いったん部屋へ入ると外部から連絡のとりようがなく、この点についてはしばしば指摘されています。

(2)軽度難聴者

わずかに聴力があり、補聴器などを利用して他人と会話することができる者も多くいます。しかし、コミュニケーションにおいては、一般の補聴器だけで十分な情報を得ることは必ずしも容易ではありません。相手の口の動き、身ぶり、手話、そして文書などの併用によって情報を類推していることも多いのです。ある程度聞こえることから、周囲からは「聞こえている」ものと認識され、多くの情報から知らず知らずのうちに取り残されることがあります。
 また、日常生活や歩行等において、危険回避の必要があるときなど、そうした情報を得にくいことなどは、程度の差こそあれ高度難聴者とほぼ変わらないほど問題があります。


4 精神薄弱者等理解困難者

(表3右側参照)

精神薄弱者の他にも、脳卒中や頭部外傷など脳に障害を受けた場合も、質的にはやや異なるものの、こうした理解困難というハンディキャップをもつことが多くあります。これらの内容は、障害の種類や程度によって個人差が大きいのですが、情報をできるだけ単純でわかりやすい形で提示することによって、理解を援助することができます。
 都市内においては「情報障害者」の性格をもち、この点においては視・聴覚障害者と同様の問題があります。例えば、鉄道やバス、タクシーなどの公共交通機関では、切符や各種特別利用券などの自動販売機化、路線のインフォメーションなど、その利用にさまざまな情報理解が必要となり、またそうした場面は年々多くなる傾向にあります。ただし、視覚障害者のように、音声や点字の併用によって理解が助けられるというものがなく、最終的には人的な配慮によって利用者のニーズを理解し、的確な情報を人が与え、場合によっては誘導する必要も多くあります。
 また、軽度な障害で、日常通い慣れた経路であれば、複数の公共交通機関を利用して通勤・通学が可能です。ただし、事故で運休するなど日常的な事態以外には単独で対応することは難しく、人的援助が必要となる場面が多くあります。


主題・副題:「共生のまち」ガイド 43頁~47頁