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第3節 フランス:「福祉的就労」分野における労働保護法の現状

永野 仁美(東京大学大学院法学政治学研究科 GCOE特任研究員)

フランスでは、2005年2月、障害者関連政策の大改正を行う「障害者の権利と機会の平等、参加、市民権に関する法律114」が成立した。同法は、障害者問題への高い社会的関心の中で、障害者関連政策を多領域にわたり再検討したもので、雇用の分野にもいくつかの重要な見直しをもたらした。本研究テーマとの関連で、特に重要な点は、保護作業所(atelier protege(いわゆる保護雇用の場))の適応企業(entreprise adaptee)への改編、適応企業が一般の労働市場に属することの確認、そして、保護された環境(いわゆる福祉的就労の場)における就労条件の整備である。

以下では、こうした2005年法による改正点に留意しつつ、労働能力の低減した障害者を対象とする現行の雇用制度及び所得保障制度について、検討していくこととする。

1.障害者雇用の構造

フランスでは、障害者雇用政策の対象となる障害労働者は、「身体的、知的、精神的機能又は感覚器官の機能の悪化により雇用を獲得し維持する可能性が現実に減退しているすべての者」と定義されている(労働法典L5213-1条)。

このように定義される障害労働者が働く場合、自営の場合を除くと、次の3つの道がある。①通常の民間企業・公的部門での労働、②適応企業(entreprise adaptee)・在宅労働供給センター(CDTD:centre de distribution de travail a domicile)での労働、③労働支援機関・サービス(ESAT:etablissements ou services d'aide par le travail)での労働である。

これらのうち、①及び②は、通常の労働市場での労働とされ、労働法典の適用がある。したがって、ここで働く障害者は、他の被用者と同様に被用者としての地位を有し、この地位に付随する様々な利益を当然に享受できる。なお、②の適応企業やCDTDは、労働能力の低減した障害者を多く雇用することから様々な助成を受けるが、一般企業と同列で経済的競争にさらされることとなっている。

他方、③のESATは、社会福祉・家族法典の定める医療・社会福祉機関であり、様々な職業活動を提供すると同時に、医療福祉的、教育的支援も提供する(いわゆる福祉的就労の場)。ここでの労働は、保護された環境下での労働とされ、安全衛生等に関する一定の規定の他は労働法典の適用はない。

障害者が、通常の労働市場で働くのか、保護された環境で働くのかは、障害者権利自立委員会(CDAPH)115が決定する(労働法典L5213-20条)。

表1 フランスにおける障害労働者数(2007年12月31日(推計))
雇用に就いている障害者 725,000人 通常の労働市場 581,000人 公的セクター:172,000人
民間センター:409,000人*
  • 従業員数20名未満の事業所:95,000人
  • 従業員数20名以上の事業所:314,000人
自営業者:33,000人
ESAT(労働支援機関・サービス):111,000人
求職者 206,000人 カテゴリー1(フルタイム無期労働契約):129,000人
カテゴリー2(パートタイム無期労働契約):63,000人
カテゴリー3(有期契約・季節契約):14,000人

*適応企業で働く障害者26,000人を含む

出典:Rapport annuel 2007,Agefiph,p.4.

本稿では、研究テーマとの関連から、まず、適応企業・CDTD(2)及びESAT(3)について制度の概要を明らかにする。次いで、社会保障・扶助制度による障害者への所得保障制度の概要、及び、就労所得と社会保障・扶助制度による所得保障給付との間の支給調整の方法について紹介し(4)、生産性の低減した障害者を対象とする雇用制度及び所得保障制度の全体を把握することとしたい。

2.適応企業・在宅労働供給センター(CDTD)

適応企業・在宅労働供給センター(CDTD)は、障害労働者を少なくとも80%116雇用する通常の労働市場に属する企業である117。適応企業・CDTDに関する規定は、労働法典で定められている。2005年法改正以前、適応企業・CDTDの前身である保護作業所は、保護雇用の場として位置づけられていた。しかし、現在の適応企業・CDTDは、通常の労働市場に属するとされている。適応企業・CDTDは、通常の企業とESAT(後述)との中間に位置づけられ、通常の企業での雇用に向けた踏み台としての機能を持っている。

(1)適応企業・CDTDの利用対象者

適応企業・CDTDは、障害者権利自立委員会(CDAPH)によって、通常の労働市場での就労が可能とされた障害労働者を雇用する(労働法典 R.5213-63条)。

(2)就労条件

適応企業・CDTDで働く障害労働者には、労働法典の適用がある(L.5213-14条)。彼らは、適応企業・CDTDと有期労働契約(CDD)又は無期労働契約(CDI)を締結し、適応企業・CDTDと労働契約関係に入る。適応企業・CDTDは、労働法上の使用者であり、障害労働者は、被用者である。したがって、適応企業・CDTDで働く障害労働者は、被用者としての地位に付随する様々な利益を当然に享受できる(社会保障(年金・医療保険・労災等)に関する権利もここに含まれる)。

賃金については、特に、L.5213-15条で最低賃金の保障が定められている118。また、適応企業・CDTDで働く障害労働者の賃金は、法令や当該産業で適用される協約を参照した上で、従事している雇用や資格を考慮して決定されることとなっている。なお、最低賃金の保障のために、適応企業・CDTDには、国からポストへの助成金(後述)が支給される。

(3)国からの助成

適応企業・CDTDに対しては、一定の条件の下、国から助成金や補助金が支給される。

①ポストへの助成金(aide au poste

まず、最低賃金を障害労働者に支払うための助成金として、ポストへの助成金がある(L.5213-19条1項)。

ポストへの助成金の額は、障害労働者1人につき、適応企業・CDTDで適用される労働時間×SMIC(全職域成長最低賃金(法定最低賃金))の80%に等しい。パートタイムの場合、助成金の額は、労働時間数に比例する(D.5213-76条)。

②特別補助金(subvention specifique

次に、効率性の低減した障害労働者を多く雇用していることによって生じる超過コストを勘案して、特別補助金が支給される。この特別補助金は、労働ポストに就いている障害労働者への社会的なフォローや特別な職業訓練の実施を目的とする(L.5213-19条2項)。

特別補助金の内容は、以下の通りである:

  • -障害労働者ごとに支払われる定額補助金:900ユーロ(年額)(2006年2月13日のアレテ1191条)。
  • -定額補助金に上乗せされる2種類の変額補助金:
    • ・社会経済の現代化の基準(①経済的発展と生産手段の現代化、②高齢障害労働者の雇用維持、③労働市場での雇用へ向けたモビリティ(mobilite)促進策)に応じて支給されるもの(同2条);
    • ・適応企業・CDTDの発展又は立直しに関するプロジェクトの支援を目的として支給されるもの(同4条)。

(4)通常の企業への移行促進策

さらに、通常の企業への移行を容易にするための手段として、以下のような制度も用意されている。

①優先雇用

まず、通常の企業で働くために適応企業・CDTDを辞職した障害労働者が、適応企業・CDTDでの再雇用を希望する場合、契約の破棄から1年間は、適応企業・CDTDへの優先雇用が保障されることとなっている(L.5213-17条)。このような優先雇用の存在により、通常の企業での就労が上手く行かなかった場合にも、適応企業・CDTDへ復職できるため、思い切って通常の企業へ飛び込むことが可能となっている。

②出向

次に、適応企業で働く障害労働者は、合意により、他の使用者の下に出向して働くことができる(L.5213-16条)。これは、出向先での雇用の可能性を見出すために行われるもので、出向中も、上記の助成金・補助金への権利は認められ続ける(D.5213-81条1項)。出向期間は最大1年間で、更新は1回のみ可能である。出向は、労働監督官の承認を受けなければならならず、また、適応企業および出向先企業の双方の企業委員会(企業委員会不在の場合従業員代表)への諮問の対象となる(D.5213-83条)。

③Agefiphからの助成

さらに、適用企業やESAT(後述)から退出した障害労働者を採用した通常の労働環境に属する企業は、一定の条件の下、Agefiphから助成金(保護・適応環境から退出した障害者の雇用に対する助成金)を支給される120。この助成金は、雇用の1年目のみに支給される。適応企業からの退出者を採用した場合の助成金の額は、下記の通りである:

  • -労働時間が、フルタイムかフルタイムの80%以上:4,500ユーロ;
  • -労働時間が、フルタイムの50%~80%:3,375ユーロ;
  • -労働時間が、フルタイムの50%未満で週16時間以上:2,250ユーロ。

(5)小括

適応企業・CDTDでの労働は、通常の労働市場での労働とされ、ここで働く障害労働者には、労働法典の適用がある。賃金についても最低賃金が保障されている。ただし、適応企業・CDTDは、効率性の低減した障害者を多く雇用することから、国から助成金や補助金を支給されることとなっている。特に、ポストへの助成金は、適応企業・CDTDによる障害者への最低賃金の支払いを支援することを目的とするものであり、賃金補填の役割を果たしている。また、適応企業・CDTDから通常の企業への移行を容易にするための諸手段(優先雇用、出向、受入企業への助成)についても、整備がなされている。

3.労働支援機関・サービス(ESAT)

それでは、次に、ESATの概要を確認していく。ESATは、労働法典ではなく、社会福祉・家族法典の規定に服する医療・社会福祉機関である121。ESATは、障害者に対して、彼らの個人的社会的な発展を促進する観点から、様々な職業活動を提供すると同時に、医療・福祉的、教育的支援を提供する(社会福祉・家族法典L.344-2条)。ESATでの労働は、通常の労働環境との対比で、保護された環境下での労働とされる。

(1)ESATの利用対象者

ESATで就労するのは、障害者権利自立委員会(CDAPH)により、一時的又は永続的に、通常の企業や適応企業・CDTDにおいてフルタイム又はパートタイムでの就労に従事することが不可能であると判断された障害者、又は、自営での職業活動が不可能と判断された障害者である(社会福祉・家族法典 L.344-2条)。具体的には、稼得能力の喪失が3分の2以上であるが、ESATでの労働能力は有する障害者(R.243-1条)、又は、稼得能力は3分の1以上有しているが、医学的、教育的、社会的、心理学的支援を必要とする障害者(R.243-3条 1項)がESATで就労することになる。

CDAPHの決定に不満がある場合には、調停の申立122を行うことが可能である。CDAPHによる稼得能力の評価や調停の申立等によって、本来、一般の労働市場での労働が可能な者が、何らの監視もなく、福祉的就労の場に放置されるという事態が防止されている。

(2)就労条件

ESATで受け入れられた障害者は、医療・社会福祉機関の利用者と位置づけられる。彼らがESATと締結する契約は、労働契約ではなく労働支援契約(contrat de soutien et d'aide par le travail)である(社会福祉・家族法典L.311-4条4項)123。ESATでの就労には、安全衛生及び労働医に関する規定の他は労働法典の適用はなく(R.344-8条)、したがって、ESATで働く障害者は、被用者としての地位に付随する様々な利益を享受することはできない。ただし、同時に、解雇の対象にもならない。

ESATでの就労条件については、社会福祉・家族法典にいくつかの定めがある。

①保障報酬(rémunération garantie

まず、ESATでの就労に対する報酬に関する定めがある。ESATでの就労に対しては、労働法典に言う賃金は支払われないが、保障報酬が支払われることとなっている。これにより、ESATで働く障害者には、最低賃金の55%から110%が保障される(L243-4条、R.243-5条 1項)。

保障報酬は、ESATが直接に支払う部分と、国からの助成による部分(ポストへの助成金)とで構成されている。ESATの最低負担分はSMICの5%、国の最高負担分はSMICの50%である。ESATの負担分が、SMICの5~20%の場合、国からの助成は50%まで認められ、ESATの負担分がSMICの20%を超えると、1%増えるごとに国からの助成が50%から0.5%ずつ差し引かれる計算になる(R.243-6条1-3項)。なお、パートタイムの場合には、時間に応じた減額がある(R.243-5条 3項)

②利益配分手当(prime d'intéressement

次に、経営により生じた黒字の一部は、利益配分手当として障害労働者に支給することができるとされている(R.314-51条)。ただし、各障害者に支給される手当の額は、黒字が確認された活動に就いていた労働者に対してESATが直接支払う保障報酬の年額10%までという上限がつく。なお、この手当は、社会保険料の算定基礎ともなる(R.243-6条 5項)124

③休暇への権利

さらに、ESATで働く障害者には、休暇への権利が認められている。従前より休暇の取得は認められていたが、それは、法的根拠を伴わないものであった。そこで、2005年法において、年次有給休暇125、出産休暇、育児休暇、子の看護休暇等126の休暇の取得に法的根拠が付与されることとなった(L.344-2-2条、L.344-2-3条)。

④職業訓練等へのアクセス

最後に、ESATは、受け入れた障害者に対し、職業訓練や教育活動等へのアクセスを保障するよう義務付けられている。また、獲得経験の有効化(VAE:validation des acquis de l'expérience127も行われる(L344-2-1条)。

(3)保護された環境から通常の労働市場への移行促進策

このようにESATで働く障害者の就労条件を整える一方で、通常の労働市場への移行促進策も講じられている。

①出向

まず、ESATで働く障害者は、ESATに所属したまま企業に出向できる(L344-2-4条)。この出向は、通常の労働市場での就労が、障害者の個人的職業的な発展を促進し、その雇用能力を発展させると考えられた場合に、本人の合意を得た上で、行われる。その間、当該障害者は、ESATが補償する医療・福祉的、職業的支援を享受し続けることができる(R.344-16条)。障害労働者を個別に出向させる場合、その出向期間は最大2年間である。また、契約への署名の日から15日以内に、この契約についてMDPH(県障害者センター)に通知しなければならない。2年を超えて出向を延長する場合には、CDAPHの合意が必要である(R.344-18条)。

②支援付き労働契約の締結

次に、ESATで働く障害者が、CAE(雇用支援契約)やCIE(雇用発意契約)等の支援付き労働契約や職業訓練を補足する有期労働契約を締結した場合には、ESATと使用者との間で締結される協約に基づいて、当該障害者と使用者に対して支援がなされることになっている。最終的に通常の労働市場での採用に至らなかった場合には、当該障害者は、ESATに復職できる(L344-2-5条)。

③Agefiphからの支援

さらに、適応企業からの退出者を採用した場合と同様、ESATからの退出者を採用した場合にも、通常の労働環境に属する企業にはAgefiphから助成金が支給される。助成金の額は、下記の通りである:

  • -労働時間が、フルタイムかフルタイムの80%以上:9,000ユーロ;
  • -労働時間が、フルタイムの50%~80%:6,750ユーロ;
  • -労働時間が、フルタイムの50%未満で週16時間以上:4,500ユーロ。

(4)小括

ESATでの労働は、保護された環境下での労働とされ、安全衛生等に関する一定の規定の他は労働法典の適用はない。しかしながら、社会福祉・家族法典において、ESATでの就労条件がいくつか規定されている。とりわけ、ESATで働く障害者は、国がその一部を負担する保障報酬によって、最低賃金の55%から110%の報酬を保障される点は重要である。また、その他にも、休暇に対する権利や職業訓練等へのアクセスが法によって保障されており、ESATでの就労条件を向上させるための規定が整えられている。

加えて、ESATから通常の労働市場への移行を容易にするために、出向やAgefiphからの助成金等の諸手段が採られている。障害者がESATに滞留することがないよう、通常の労働市場への移行促進策が講じられていると言える。

4.社会保障・扶助制度による所得保障制度(就労所得との併給調整の方法)

それでは、次に、社会保障・扶助制度による障害者への所得保障制度の概要と、就労所得と社会保障・扶助制度による所得保障給付との間の支給調整の方法について確認していく。

社会保障・社会扶助制度による障害者への所得保障の制度として、フランスには、社会保険給付として疾病保険から支給される障害年金、そして、非拠出制給付として家族手当金庫から支給される成人障害者手当(AAH)がある。これらが、障害者の生活の基本的部分を保障するものとしての機能を有している。

(1)障害年金

まず、社会保険給付として支給されるのが、障害年金である。日本では、障害のリスクを老齢のリスクと同じ年金制度でカバーしているが、フランスでは、障害は疾病の延長とみなされ、障害年金は、疾病保険制度から支給される。この障害年金は、支給が認められると、老齢年金の受給が開始されるまで、支給される。

以下では、フランスの社会保障制度の中核である一般制度(商工業の被用者を対象とする)が提供している障害年金(社会保障法典第3編第4部)の概要を確認していく。

①支給条件

まず、障害年金で言うところの障害(invalidité)は、労働・稼得能力の減退として定義されている。したがって、障害年金の支給には、労働・稼得能力の減退に関する条件が課せられている。

支給条件は、労働・稼得能力の減退に関する条件も含めて、以下の通りである:

  • -疾病保険の被保険者であること(社会保障法典L.341-1条);
  • -私傷病の結果128、労働・稼得能力が3分の2以上減退していること(L.341-1条、R.341-2 条);
  • -労働の停止又は障害の確認があった月の初日の時点で12ヶ月以上の被保険者期間があること(L.341-2条、R.313-5条);
  • -直前の12ヶ月に800時間の労働時間がある、又は、SMICの2030倍にあたる賃金に課せられる保険料を納付していること(同上)。

社会保険給付であることから、労働の停止・障害の確認の時点において、一定の被保険者期間を持ち、保険料納入に関する条件を満たしていることが求められている。そのため、障害年金による所得保障を得られるのは、被保険者資格を取得してから1年を経た後に障害を負った者に限られ、それ以前に障害を負った者は、保障の対象外となる(→これらの者は成人障害者手当(AAH)を受給することになる)。

②支給内容

障害年金の額は、被保険者期間のうちで賃金の高かった10年129の平均賃金を基に計算される。ただし、受け取る額は、就労を継続しているか否か、第三者による介護が必要か否かに応じて異なる。

まず、就労が可能な者(カテゴリー1)には、被保険者期間のうちで賃金の高かった10年の平均賃金130の30%が支給される(L.341-4条、R.341-4条)。

次に、就労は不可能だが、第三者の介護を必要としない者(カテゴリー2)には、同平均賃金の50%が支給される(L.341-4条、R.341-5条)。

最後に、就労が不可能で第三者の介護を必要とする者(カテゴリー3)には、同平均賃金の50%に加え、第三者介護加算として+40%が支給される(L.341-4条、R.341-6条)。

なお、報酬比例年金であることから、算定基礎となる平均賃金が低ければ年金額も少なくなる。そこで、年金額が小額になることを防ぐために、障害年金については、最低保障額がデクレで設定されている(L.341-5条)131

③支給停止・廃止

障害年金は、一定の条件にあてはまると支給を停止・廃止される。まず、障害年金受給者の稼得能力が50%以上となった場合には、支給が停止又は廃止される(L.341-13条、R.341-14条)。次に、障害年金と賃金の合計が、2四半期にわたり、労働の停止の前年における四半期ごとの平均賃金を超えた場合にも、支給の一部又は全部の停止がなされる(L.341-12条、R.341-15条1項)。さらに、年金と賃金以外の職業活動による所得132の合計が、1年につき単身で6117.10ユーロ、世帯で8469.86ユーロ(2008年1月1日現在)を超える場合にも、支給は廃止される(L.341-10条、R.341-16条、D.341-2条、L.341-6条)133。障害年金は、労働・稼得能力の減退に対する保障であるため、労働・稼得能力が回復した場合には、支給の停止・廃止がある134

(2)成人障害者手当(AAH)

以上が、疾病保険から支給される障害年金であるが、他方で、この障害年金の支給条件を満たさず、障害年金を受給できない者も存在する(例えば、20歳未満で重度障害を負った者等)。そこで、障害年金の支給条件を満たさない者で、かつ、一定の条件を満たす者に対しては、非拠出制の給付として成人障害者手当(AAH)が支給されることとなっている。このAAHは、国による障害者への最低所得保障の制度として性格づけられており、他の給付が支給されない場合に補足的に支給される点に特徴がある。

AAHの支給決定は、MDPH内に設置されたCDAPH(障害者権利自立委員会)が行い、支払いはCAF(家族手当金庫)が行うこととなっている。

①支給条件

AAHは、以下の条件を満たす者に対し支給される(社会保障法典L.821-1条):

-年齢:20歳以上の成人135
ただし、家族手当の受給条件を満たさなくなった場合には、16歳以上20歳未満の者にも支給がある(R.821-1条)。
-障害率:80%以上(D.821-1条1項);
ただし、障害率が50~80%の者であっても、1年以上にわたり雇用につけておらず、雇用へのアクセスが実質的永続的に困難な者に対しては、支給がある(L.821-2条、D.821-1条2項)。
-所得(等)要件:
-AAHと同額以上の高齢・障害を対象とする給付を受給していないこと;
-AAHの12ヶ月分136を超える他の収入(ressources)を持っていないこと(L.821-3条1項、D.821-2条1項)。

なお、この収入として考慮されるのは、①フランス国内で受け取った課税所得、②疾病・出産・労災の場合の傷病手当金(indemnités journalières)、③場合によっては、フランス国外で受け取った所得、国際機関から支払われた所得である(R.532-3条1項)。これらに0.8の係数を掛けたものが、収入と認定される(R.821-4条1項)137。また、カップルの場合には、カップルの所得が考慮される。

他方、障害者のために積み立てられた終身年金(1830ユーロ未満:2009年1月1日現在)、家族が介護した場合に補償給付(人的支援)によって支払われる賃金、将来契約(CA)や就業最低所得参入契約(CI-RMA)138の締結により生じた収入等は、この計算から排除される(R.821-4条2項以下)。

また、通常の労働市場での就労により得た所得も、その一部が控除される(L.821-3条2項)。すなわち、就労による課税所得が、SMICの300倍未満のときは40%、300倍以上700倍未満のときは30%、700倍以上1100倍未満のときは20%、1100倍以上1500倍未満のときには10%が差し引かれることになっている(D.821-9条)。この計算においても、境界線の前後で手取りが減少することはあるが、控除された分だけ確実に手取りを増やすことが可能となっており、AAH受給者に就労インセンティブを与えている。2005年法改正以前には、このような就労所得を控除する規定はなく、障害者の就労インセンティブを阻害していた。就労所得の控除の導入により、この点が改善されたことになる。

②支給内容

AAHの月額は、満額で681.63ユーロである(2009年9月現在)。他の年金・手当や所得(上記計算後のもの)等がある場合には、満額のAAHとこれらの差額分が支給される(D.821-2条3項)。なお、医療施設や福祉施設に入所して60日が経過すると、原則として、その月の初日からAAHの支給額は30%に減額されることになる(L.821-6条1項、R.821-8条)。また、AAH受給者という資格を利用して、将来契約(CA)や就業最低所得参入契約(CI-RMA)を締結する場合には、使用者に支給される補助金分(=参入最低所得(RMI)の額)だけAAHは減額される(L.821-7-2条)。

③AAHと保障報酬との間の調整

保障報酬との間のAAHの支給調整の方法も、別途定められており、AAHと保障報酬との合計がSMICの151.67時間分139を超える場合には、超えた分につき、AAHが減額されることとなっている(社会保障法典D.821-5条1項)140

なお、この計算において考慮される保障報酬も、ESATが直接支払う額に応じて、一定の控除がなされる。すなわち、ESATが支払う額が、SMICの5%以上10%未満の場合には3.5%、SMICの10%以上15%未満の場合には4%、SMICの15%以上20%未満の場合には4.5%、SMICの20%以上50%以下の場合には5%の控除がある。以降の控除は、就労所得の場合と同じである(D.821-10条)。わずかではあるが、ここでも、就労インセンティブが損なわれることがないよう、配慮がなされていると言える。

(3)小活

フランスでは、社会保険給付として疾病保険から支給される拠出制の障害年金と、非拠出制給付として家族手当金庫から支給されるAAHが、障害者への主たる所得保障制度として機能している。

障害年金は、労働・稼得能力の減退に対する保障であるため、支給要件には、労働・稼得能力が3分の2以上減退していることという要件が含まれている。また、稼得能力が回復した場合には、支給の停止・廃止がある。

他方、AAHは、原則として障害率80%以上の重度障害者を支給対象としている。したがって、働くことのできない障害者も多いと思われるが、働いて就労所得を得ることができる場合には、AAHの支給に際して考慮される所得(等)の計算において、就労所得が一定の割合で控除されることとなっている。この措置によって、AAH受給者の就労インセンティブが阻害されないよう配慮がなされているといえる。なお、同様の配慮は、AAHと保障報酬との間の支給調整にも見られている。

5.おわりに

フランスにおける適応企業・CDTD、ESATの仕組み、及び、社会保障・扶助制度による所得保障制度について確認してきた。

まず、フランスでは、生産性の減退した障害者を数多く雇用している適応企業・CDTDは、通常の労働市場に属する企業として位置づけられている。そして、そこで働く障害者には労働法の適用がある。他方、ESATでの労働は、保護された環境下での労働とされており、ESATで働く障害者には、安全衛生等に関する一定の規定の他は労働法典の適用はない。しかし、ESATで働く者の保護のために、ESATでの就労条件については、社会福祉・家族法典において整備が図られている。こうした就労条件の保障方法は、1つの選択肢としてありうるものである。

次に、適応企業・CDTD及びESATの双方において、生産性の減退した障害者に最低賃金又は保障報酬を保障するために、国から賃金補填がなされている。この賃金補填の仕組みは、日本の福祉的就労の場で働いている障害者に、いかに賃金(工賃)を保障するかを考える上で、参考となる。

さらに、フランスでは、就労所得・保障報酬がある場合のAAHの支給調整において、働く障害者の就労インセンティブが阻害されないよう配慮がなされている。すなわち、AAHの支給に際して考慮される所得(等)の計算において、就労所得を一定の割合で控除することが行われている。こうした支給調整の仕組みも、障害者の就労インセンティブを阻害しない制度の構築を目指す際に、参考となろう。

略語一覧

AAH(Allocation aux adultes handicapées):
成人障害者手当
Agefiph(Association pour la gestion du fonds pour l'insertion professionnelle des personnes handicapées):
障害者職業参入基金管理運営機関
CA(Contrat d'avenir):
将来契約
CAE(Contrat d'accompagnement dans l'emploi):
雇用支援契約
CAF(Caisses d'allocations familiales):
家族手当金庫
CDAPH(Commission des droits et de l'autonomie des personnes handicapées):
障害者権利自立委員会
CDES(Commission départementale de l'éducation spéciale):
県特別教育委員会
CDTD(Centre de distribution de travail à domicile):
在宅労働供給センター
CIE(Contrat initiative-emploi):
雇用発意契約
CI-RMA(Contrat insertion-revenu minimum d'activité):
就業最低所得参入契約
COTOREP(Commission techniqued'orientation et de reclassement professionnel):
職業指導・職業再配置専門委員会
ESAT(Etablissements ou services d'aide par le travail):
労働支援機関・サービス
MDPH(Maison départementale des personnes handicapées):
県障害者センター
PACS(Pacte civil de solidarité):
民事連帯契約
RMI(Revenu minimum d'insertion):
参入最低所得
SMIC(Salaire minimum interprofessionnel de croissance):
全職域成長最低賃金(法定最低賃金)
VAE(Validation des acquis de l'expérience):
既得経験の有効化