障害者自立支援調査研究データベース 事業実施報告内容 平成20年度 通番号141


項目 内容
通番号 141
番号 25
年度 平成20年度
指定テーマ 【一般】
事業名 新体系ビジネスモデル研究事業
入所施設の新体系移行への課題と転換モデルに関する調査研究事業
事業目的 わが国の知的障害者福祉は、「入所施設偏重から地域福祉へ」と大きく転換をせまられています。しかし、障害者自立支援法施行後も、ほとんどの入所施設は多くの不安を感じ、いまだ新事業への移行に慎重な状況にあります。
そこで、全国の入所施設における問題点や課題を把握し、新体系移行への推進をはかることを目的に、本研究事業を企画しました。
事業概要 (1)1次調査(全国知的障害者入所施設1717 ヶ所を対象)
 全国の入所施設の新体系移行状況を把握し、移行に踏み切れない理由・要因について、問題点と課題を明確にする。
 ・郵送によるアンケート調査方法
 2次調査(新体系に移行した障害者支援施設318 ヶ所を対象に、移行に伴う課題)
 移行に伴う課題を整理し事業展開モデルを類型化する。
・郵送によるアンケート調査方法
(2) 先進事業所訪問調査および事業所資料に基づく事例研究
 移行にいたるまでの決定機関や法人組織のあり方や、運営上の工夫、これからの施設のあり方や障害者福祉にかんする考え方について。
・訪問先/札幌この実会、北海道太陽の園、横浜てらん広場
・協力事業所/埼玉太陽の里、長野ライフステージかりがね、滋賀あかね寮、滋賀大津北部複合施設、福井足羽ワークセンター
事業実施結果及び効果 1. 第1次アンケート調査では971件より回答(57%)、新体系移行済みの施設に対する第2次アンケート調査では118件より回答(37%)をえられ、非常に高い回収率により入所施設の実態をかなり正確に把握することができた。
(1) 移行に進めない理由
 移行に進めない主な理由である、収入不安、区分不安(それぞれ60%)は、予測されたとおりである。そして、その不安を解消する方法が見つからずに「状況待ち」と回答した事業所の80%の数字をどのようにみたらよいのだろうか。今回の調査結果を読み取り、移行ビジネスモデルからヒントを得てほしい。
(2) 移行した事業所の傾向
 入所・通所・ホームの3事業を原則運営している「総合型経営」事業所ほど移行に踏み切っていることが分かった。歴史的に見ても、地域のニーズに応えてきた法人の蓄積あるところほど移行を進めているといえよう。障害程度別でみると重いほうが軽いよりも、定員規模別で見ると中規模、大規模より小規模のほうが移行率が高い傾向にある。経営戦略を移行理由として明確に回答している事業所が多いことから、「状況待ち」ではなく、困難をおそれず経営戦略を持ちえるかどうか、法人の姿勢が問われている。
(3) 移行に伴う変化
① 地域生活移行との関連性について、
 重度者の割合が高いところほど施設入所支援にとどまる傾向が強く9割を超えている。一方GH 移行割合は軽度利用者ほど高く、移行率10%を超える事業所は28%である。また移行済み事業所ほどGH 整備が進んでいる。
② 日中活動支援について
 ほぼ100%が「生活介護」事業を選択しているが、軽度利用者の割合が高い、大規模施設ほど多様な事業選択をしている。また、経営類型別にみると、多様性が目立つのは「超総合型」と「地域居住型」である。
③ 施設整備状況
 約半数が移行と同時に施設整備に着手。特別対策の基盤整備事業を活用して移行推進をはかる施策は効果的だったといえよう。しかし、半数はなんら環境整備に手をつけず移行したことになる。整備内容は入所改修とGH 整備の割合が高い。入所改修の内容は個室化20%、ユニット化が12%。日中活動の場の整備割合は低く、70%が既存のままと回答。
④ 定員の減少はすすんだか
 30%が新体系移行に伴い、入所施設定員を減少させている。減少が目立つのは、超総合型、総合型、と公立施設(事業団、社協立を含む)である。
 変化なしの60%の数字から、依然として入所施設の待機者がいるという社会的背景、および地域生活移行を推進しても、定員を削減しては経営的に成立しないという事業者側のジレンマが読み取れる。
(4) 移行後の経営変化
① 収入・支出・収益の変化について
・移行後の収入は障害程度区分による違いが顕著に現れた。1次調査では、平均区分4.5 を分析指標として障害種別で集計した結果、授産と更生では明らかな差異があった。区分4.5 以上の比率は授産24%、更生68%であり、収入変化は反比例した数字を示し、授産では62%、更生では27%が減収と回答している。
2次調査ではさらに詳しく収入、支出、収益の変化について調査項目を設定し、分析をした。62%が収入増との回答を得られたが、支出増も多く、結果的に収益増は50%であった。
・障害程度区分を以下のように分類し、収益パターンを集計した。
平均区分5以上を重度(34 事業所)
平均区分4.5以上5未満を中度(36 事業所)
平均区分4.5未満を軽度(43 事業所)
 その結果、重度では、収入・支出・収益ともに増が多く77%。中度でも69%が増収となっている。増収理由をさらに詳しく拾い出すと、もともと区分5,6 の利用者が多いとの回答に加え、障害程度区分の調査時の努力、重度利用者の新たな獲得が続く。
 しかし、軽度になると、69%が収入、収益ともに減の回答となっていることから、障害程度区分4.5 がひとつの境目と読み取れる。減収理由項目では、障害程度区分以外に、入所利用者数の減、日中活動収入の減、日割りによる減など複数回答が目立った。
② 多角的展開の内容
 以上の分析から、区分5以上の事業所の場合、増収は間違いないと言えるが、区分4.5未満の事業所では減収の予測が高くなる。だからといって、移行を先延ばししても始まらない。今回のモデル事例のように、多角的展開を進めながら、増収を図っている事業所も数少ないが存在する。
2.先進事業所訪問調査および事業所資料に基づく事例研究
①入所授産施設からケアホームに全面転換
 超総合型経営の足羽福祉会が運営する「足羽ワークセンター(旧定員50 名、分場22 名)平均区分2.8」は、入所授産施設時代より段階別自立支援体制の具現化を図ってきた。サテライト型の就労支援(通所分場)および地域生活支援(グループホーム)を拡充してきたが、自立支援法をきっかけに施設本体を改修。2 階部分の居住スペースの個室化を実現したうえで、50 名定員を31 名に減らし、3 ヶ所のグループホームを開設。より市街地にサポートセンターを新たに確保し、就労移行支援事業と地域活動支援事業(休日の余暇支援を中心として地域活動支援センターおよび長期休暇の児童対象にした日中一時支援)に積極的に取り組んでいる。こうした積極的な事業展開により、利用者数も旧法入所授産施設定員72 名から、居住で14 名増、日中活動で登録者数の大幅増となり、経営的にも増収に転じさせている。
②入所更生施設を廃止して、ケアホームに全面転換
 入所授産施設よりも障害が重い人が利用する入所更生施設では、障害者支援施設に移行している事業所がほとんどである。その中で、ほんの一握りではあるが、ケアホームに全面転換する事業所がある。
 北海道「札幌この実寮」はグループホーム制度化以前より寮内下宿から生活寮へと「人の暮らし」を追求し続け、地域分散型のグループホームを拡充してきた。支援費制度の始まりの中で、入所縮小の方針を堅持し、平成18 年度より順次定員を削減。同時に地域生活の拠点として「サテライト2・6」を開設し、支援体制の整備を進めている。平成20 年4 月には全国に先駆けて入所施設を廃止し、ケアホーム10ヶ所での暮らしに移行した。入所施設は「この実支援センター」として衣替えし、ケアホームへの支援や日中活動事業、さらに小規模多機能型居宅介護など新しい事業展開をしている。しかし、住み込み職員および世話人を配置しているケアホームの運営は厳しく、今回の報酬単価改正で減収はやや緩和されたが、人材確保に苦労をしている。福井の「ハスの実の家(定員32 名)」では、すでに法人内の通所授産、更生施設と一体的な実践を進めてきた。平成20 年度に基盤整備事業を活用し、6名分のケアホーム増築工事を着工。さらに短期入所施設に5名分居住スペースを増築。32 名の入所施設が2 つのケアホーム合計14 名として引き続き活用され、近隣の日中活動事業と一体型として運営する形態である。ケアホーム移行を方針に位置づけていたが、経営予測は大変厳しいものがあり大きな課題であった。08 年度実施された認定調査の結果32 名の平均区分は4.2 である。今回改正された報酬単価で試算すると、旧法入所施設時の収入の1.3 倍、約3000 万円の収入増の見込みとなる。利用者の生活も6~8 名のユニット単位となってより豊かに改善されるが、ケアホームを支える職員体制は不足し、課題は残る。
③障害者支援施設のモデルとして
 障害者支援施設に移行した施設の中から、移行するならこうあってほしいという2 施設を紹介したい。両施設の特徴は強度行動障害や矯正施設等を退所した福祉支援を必要とする人たちを対象とし、他の施設で断られてきた人たちを多く受け入れている点である。
 横浜の「てらん広場」は、入所施設の果たす役割を自ら限定した上で、期限付き利用という通過型を堅持している。入所したら一生面倒見ますという従来の入所施設役割論を否定し、次々とケアホームに送り出し続けている。さらに地域再生を共通の目標に、障害者福祉の分野にとどまらない事業を展開し、地域にとってなくてはならない存在として位置づいている。
 埼玉の「太陽の里(定員60 名中、区分6 が54 名)」では、やはり施設入所支援と生活介護をセットにした障害者支援施設に移行した。結果大幅な増収となったが、それでよしとせず、生活環境改善にむけて大事業に取り組んでいる。
④地域生活移行を推進する自治体の役割
 避けて通れないのが、昭和45 年より各地で建設が始まった大規模施設、コロニーの行く末である。伊達市の「北海道太陽の園」では、40 年に及ぶ地域生活移行の取り組みがある。今回現地訪問に行って、人口4万弱の小さな町に350人を超える障害者がホームなどに暮らしている様子を見てきた。わが国の障害者福祉の政策に大きな影響力を与えてきた歴史的重みを痛感したが、全国20 数ヵ所あるコロニーが次に続かないのはなぜだろう。その理由を知る上で、長野の西駒郷の取り組みと比較したい。
 長野県西駒郷の地域生活移行は全県あげての共同プロジェクトとして位置づけられ、県独自の推進事業が次々と打ち出された。また市町村や法人との協働作業により、現場の声が施策に反映され充実していった。平成15 年からの4 年間の地域移行者数は、西駒郷188 名、民間施設212 名、在宅261 名、長野県全体で661 名という効果をあげている。民間入所施設の地域生活移行に伴い、在宅者の「入所待機者」を解消させ、在宅者のニーズも地域生活へとシフトさせた。また長野県内入所施設の定員削減も確実に進み、23 年度までの数値目標は14%の約450 人を見込んでいる。「ライフステージかりがね(定員40 名、通所10 名)」の事例から、法人のとりくみをバックアップする長野県独自の補助金制度、さらに上小圏域障害者総合支援センターの果たす役割に注目したい。平成16 年度に設置された長野10 圏域の障害者総合支援センターは、地域生活移行システムづくりの中核的な機能を果たしてきた。そして地域にホームや日中活動の場など社会資源を整備して、ネットワークを広げてきた。この長野方式が全国に波及すると、この国の福祉はもっと大きく変わるにちがいない。
⑤今までの事例は、早くから地域生活移行を基本方針に取り組んできた法人である。しかし、全国の入所施設のすべてがこのような蓄積を持っているとは限らない。ようやく地域移行に取り組み始めた事例として、滋賀の「あかね寮」を参考にしてほしい。トップが変われば今からでもできる。そして地域のニーズにしっかり目を向けて、関係者の同意を形成していくプロセスを踏めば、将来展望は限りなく広がることを示している。
 一方、国の入所施設の定員削減、建設抑制政策が進む中、特に都市部における入所待機の切実な声も決して無視できない。「NPO 法人大阪障害者センター」による親の意識調査結果では、施設を求める家族の思いが切々と語られている。そうした実態をふまえて、20 年近く運動してきた入所施設建設が国の政策転換により不可能になった「おおつ福祉会」の大津北部複合型施設建設計画について事例としてとりあげた。21 年度から建設が始まる施設形態は、多機能型事業所と30 人のユニット型ケアホームの併設である。通所施設利用者約200人をかかえる法人が、グループホームケアホーム11 ヶ所をつくりながら、居住支援を進めてきた。しかし、地域分散型ではより障害の重い人への安定した生活支援ができないとして、ユニットタイプの生活拠点施設をめざしている。

 いくつかのモデル事業所の事例を紹介してきたが、法人のそれぞれの歴史や運営経営は実に多様である。さらに、都市部や農村部といった立地条件や自治体の福祉施策の格差も大きい中で、これが最高のモデルだと言い切れるものでもない。
 ただ、これらの事業所に共通するものがある。
・事業開始当初からより人間らしい暮らしを追求してきた。
・いつも利用者の声を事業の中心にすえてきた。
・制度がない時代から必要な社会資源を法人自ら創り上げてきた。
・制度を最大限活用して、ピンチをチャンスに変えていく姿勢。
・形態としての共通は職住分離。
・地域の中の居住の場は、少人数。
・分散型のホームをサポートする機能が必要。
 どの時代にも万全な制度はありえない。アンケート調査の自由記述に書き込まれているように自立支援法の不備は、不備として批判していかなければならないし、現場から制度改革に対する声を上げていかなければならない。しかし、事業者として大切にしたいのは、今日のこの日を生きている彼らの人生の伴走者として、今の願いを先延ばしさせてはいけないということだ。厳しい状況にひるまずに、希望に満ちた毎日をいっしょに創り出していく。経営戦略とは、障害福祉に携わる使命を常に問い直し、事業を発展させていくことに尽きるのではないだろうか。
事業所/団体名称 社会福祉法人ハスの実の家
事業所/団体〒 910-4103
事業所/団体住所 福井県あわら市二面87-26-2
事業所/団体TEL 0776-78-6743
事業所/団体FAX  
事業所/団体EMail  
事業所/団体URL http://www.hasunominoie.com/
報告書 入所施設からの転換モデル事業の調査研究「入所施設は変革をおそれるな」~利用者の暮らしと住まいを支える新しい転換を~
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