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平成18年度厚生労働科学研究
障害保健福祉総合研究成果発表会報告書

地域づくりと関連した効果的な地域生活支援サービス体制の在り方と「地域力」の再構築に関する研究

平成18年12月9日(土)

第1部 研究成果報告

第1に「家庭」と「親しく助け合える近隣社会」における生命維持活動として定義される「防御可能な生活空間」という要素については、障害をもつ人の地域生活ということから考えると、なんといっても「生命維持活動」のための「ケアサービス」の存在が欠かせない。障害の程度によるとしても、生活していくためにケアサービスを必要とする障害者にとって、生命を維持し、生活を成り立たせるための最低限のケアサービスが供給されていることが、最も重要なそして、基本的な地域生活を継続するための基盤である。

また、災害時といった「いざ」というときに、何らかの支援が自然に期待できること、障害者が地域住民として暮らしていくことが「当たり前のこと」として、排除されないこと、「そこに住み続けたい」と思える地域社会の存在なども、障害者が地域生活を継続していくためには、重要な要素である。

以上のように障害者にとって「防御可能な生活空間」とは、「生命を維持し、生活を継続するためのケアサービス」と、いざというときや、地域の中で排除されずに暮らしていくことができる「近隣社会とのつながり、安心して住める地域社会」という2つの要素に分解することができる。

第2に、「余剰時間」という要素については、生存のために必要な時間の確保を超えてもつことができる自由な時間と規定されていた。ここでも障害もつ人の地域生活という視点から見ると、「外出や余暇のために確保できる資源や時間」すなわち、仕事、余暇、生活のために必要な機関・施設への適切な移動手段が確保され、必要な余暇時間を確保できることは、地域社会の中で暮らしていくためには、極めて重要である。通院が必要な病院や、レクリエーションのための施設、交流のための場、教育の場などが地域社会の中になく、移動にかなりの時間を要するような場合、こうした「基盤」へのアクセスが制限されているとみることができるだろう。

第3に「知識と技能」について検討しよう。知識や技能は、教育や職業訓練といった要素であるが、障害をもつ人の地域生活という文脈では、こうした点に加え、自らの生活を構成し、管理していくために必要なノウハウや、必要な能力をえるための機会や場が確保されているかという点が社会的な基盤として重要である。

第4に「適正な情報」については、公共サービスへのアクセス、就労へのアクセスなどをふくめ、必要な福祉サービスや生活に必要な情報を得ることは、障害者が地域で生活していくうえで不可欠な要素である。第3の点とも重なり合うものであるが、適切な情報は行政や社協といった制度的な機関以外にも、当事者組織やグループ、また地域社会を超えたネットワーク等が考えられ、こうした「生きた情報」へのアクセスも当事者のエンパワメントにとって欠かせない基盤であろう。

「⑤社会的組織」と「⑥社会的ネットワーク」は、障害者の地域生活の基盤として、統合して考えることができると思われる。障害者が自分らしい地域生活を営んでいくためには、生活を楽しむための仲間同士の集まりや、意味のある情報を入手できたり、集団行動の手段となりうるようなフォーマル・インフォーマルな社会的組織の存在が欠かせないことはいうまでもない。同時にこうした組織への加入の厚みを社会的ネットワークとして規定することができよう。

「⑦労働と生計を立てるための手段」は、フリードマンのモデルでは、開発途上国における貧困を対象としているため、例えば、農村であれば、適当な土地であるとか水などへのアクセスや、生産器具へのアクセスなどを表している。所得を得るための手段へのアクセスと考えれば、本研究では、「⑧資金」と統合し、「就労や生活するための資金」として概念化できると思われる。

以上、フリードマンの「力の剥奪」モデルを参考にして、障害者が地域生活を営んでいくうえで、地域社会に必要とされる社会的な基盤としての資源について検討した。地域社会がこうした基盤としての資源をどのくらい保有し、またその資源へのアクセシビリティが本研究でいう「地域力」ということができよう。なお、以上を整理したものが次頁の表及び図である。

地域生活に必要とされる資源(基盤)とアクセス

●地域生活に必要とされる資源(基盤)

障害者が地域生活を営んでいくための基盤 (地域力を構成する資源)
①′生命を維持し、生活を継続するためのケアサービス
①′近隣社会とのつながり、安心して住める地域社会。排除されない地域社会。
②外出や余暇のために確保できる資源や時間
③生活を成り立たせるために必要な知識や技能を確保できる機会や場
④生活を成り立たせるために必要な情報を得ることができる機会や場
⑤社会的な組織・ネットワークの存在とアクセス可能性
⑥就労や生活するための資金の確保

●資源(基盤)へのアクセス

図

(2)地域力の主体

前節では障害をもつ人が地域の中で当たり前の暮らしを構成していくために必要な「基盤」を明らかにした。当然、こうした基盤が地域社会の中に存在していること、それへのアクセスが保障されていることが「地域力」を構成していると考えられる。それでは、こうした基盤はどのように提供されているのか。また、それへのアクセスはどのように保障されえているのか。本研究では、こうした障害者が地域生活をしていくうえでの基盤としての資源の源泉となりうる主体を以下の4つに分類した。「はじめに」で示したように、地域力は、「公的な」制度(公助)の充実度や、住民の福祉活動の充実度(共助・互助)のどちらかに力点をおいて論じられる傾向にあったが、本研究では、これを総合的にとらえる。まず、いわゆる公的な制度の充実度を、国や都道府県、市町村が定めて、支給決定した援助を「公助」として規定した。次に、地縁に基づいた相互支援組織・個人から提供される援助を「互助」、知縁・志縁に基づいた支援組織・個人から提供される援助を「共助」と自発的な福祉を2つに分類して考察することにした。さらに、自分自身の努力および血縁というものに基づかれた個人から提供される援助を「自助」とすることで、本人、及び家族の力にも着目する。したがって、本研究でいう地域資源の源泉となりうる主体は、従来のような限定された主体ではなく、制度的及び自発的福祉及び、本人の力を総合して機能する「力」としてとらえるところに特徴がある。

地域での暮らしを可能にするための資源の分類

■「公助」とは、国や都道府県、市町村が定めて、支給決定した援助をいう。

■「互助」とは、地縁に基づいた相互支援組織・個人から提供される援助をいう。主に、自治会・町内会、地区社協、民生委員が互助に基づく地域資源である。

■「共助」とは、知縁・志縁に基づいた支援組織・個人から提供される援助をいう。障害者の自立生活センターやセルフヘルプグループ等が、共助を構成する社会資源といえよう。

■「自助」とは、自分自身の努力および血縁というものに基づかれた個人から提供される援助をいう。→地域社会内外の市場的な手段による問題解決も含む。

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