平成18年度厚生労働科学研究
障害保健福祉総合研究成果発表会報告書
調査地域の各事例に見る「地域力」の状況
当日資料
フリードマンの「力の剥奪」モデルを参考とし、各地域の状況は第3章第1節で述べているが、その各地で生活する障害当事者はそれぞれの地域とどのような関係となっているのか。この点地域という総体での分析とあわせ、個々の当事者の状況を捉える必要がある。その状況は、必ずしも地域の資源や基盤と結びついているものではない。各地域で調査した障害当事者の状況のその特徴的な点を以下に示す。
取り上げた事例は、表1のとおりであり。それぞれの事例内容は第2章を参照されたい。
表1 取り上げた事例
NO | 地域 | 氏名 | 機能障害 | 地域の規模区分 |
---|---|---|---|---|
1 | 旭川市 | Aくん | 身体障害者 | 中堅都市 |
2 | 郡山市 | Aさん | 身体障害者 | |
3 | 郡山市 | Cさん | 知的障害者 | |
4 | 渋谷区 | cさん | 知的障害者 | 大都市 |
5 | 渋谷区 | bさん | 知的障害者 | |
6 | 和泉村 | Bさん | 知的障害者 | 小規模地域 |
7 | 和泉村 | A君 | 知的障害児 | |
8 | 十津川村 | K君 | 知的障害児 | 小規模地域 |
9 | 尾道市 | Aさん | 精神障害者 | 中堅都市 |
10 | 尾道市 | K氏 | 身体障害者 | |
11 | 善通寺市 | Kさん | 身体障害者 | 小都市 |
12 | 狩俣地区 | Tさん | 身体障害者 | 小規模地域 |
13 | 狩俣地区 | Sさん | 身体障害者 | |
14 | 狩俣地区 | Mさん | 知的障害者 |
表2は、各事例と障害者が地域を営んでいくための6つの基盤との関係を簡潔に示したものである。表中の「関係性」とは取り上げた事例で6つの基盤との関係性を表す記述があった場合に印がついている。「課題や要望」とは「関係性」の有無に関わらず、各事例の中に課題や要望と解釈できる記述があれば印をつけたものである。
以下にそれぞれの基盤との関係性における特徴を述べる。
表2 各事例と障害者が地域生活を営んでいくための6つの基盤の関係
防御可能な生活空間 | 外出や余暇のために確保できる資源や時間 | 生活を成り立たせるために必要な知識や技能を確保できる機会や場 | 生活を成り立たせるために必要な情報をえることができる機会や場 | 社会的な組織・ネットワークの存在とアクセス可能性 | 就労や生活するための資金の確保 | |||||||||
関係性 | 課題や要望 | 関係性 | 課題や要望 | 関係性 | 課題や要望 | 関係性 | 課題や要望 | 関係性 | 課題や要望 | 関係性 | 課題や要望 | |||
1 | 旭川市 | A君 | ○ | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |||
2 | 郡山市 | Aさん | ◎ | ◎ | △ | ○ | ○ | ○ | ||||||
3 | 郡山市 | Cさん | △ | ◎ | ○ | ○ | ||||||||
4 | 渋谷区 | cさん | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ◎ | ○ | ○ | ||||
5 | 渋谷区 | bさん | ○ | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||||
6 | 和泉村 | Bさん | △ | ○ | ○ | ○ | ||||||||
7 | 和泉村 | A君 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |||||||
8 | 十津川村 | K君 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |||||||
9 | 尾道市 | Aさん | ◎ | ○ | ||||||||||
10 | 尾道市 | K氏 | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | ○ | |||||||
11 | 善通寺市 | Kさん | △ | △ | ○ | △ | ○ | ○ | ||||||
12 | 狩俣地区 | Tさん | ○ | ○ | ◎ | ○ | ||||||||
13 | 狩俣地区 | Sさん | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||||||
14 | 狩俣地区 | Mさん | △ | ○ | △ | ○ | ○ |
※ ◎…顕著にあり ○…あり △…僅かにあり 空欄…無し又は不明
1.「防御可能な生活空間」との関係
この基盤の構成要素は安心した生活を営むために必要な基盤として2つに分けられる。ひとつは、居宅介護に代表される在宅ケアサービスであり、今ひとつは、近隣との関係である。
(1)在宅ケアサービス
- 居宅介護では比較的行動力のある知的障害者を除く事例で利用している状況がみられる。
- 事例2郡山市のAさんの場合、複数の業者が1日に何回か出入りするため、その都度緊張を強いられているといった課題がある。
(2)近隣との関係
- あまり関係性がないか孤立している状況が見られた。(事例2、3、12、13、14)
- 公共サービスである居宅介護は必要に応じ受けられる環境が地域の規模を問わず、ある程度可能となっているが、近隣との関係はケースにより異なることがわかる。
- 近隣の住民の中で障害児(者)を見守る体制がある程度存在している。(事例1、7、8、11)このような互助の仕組みは、当事者の父母が地域の一員として認められていることに起因すると思われる。
- 小規模で地域の互助による資源があると思われる、狩俣地区の事例12、13、14において、成人の障害者が近隣の住民との間に接点があまり見られず、家族と暮らしている場合であっても、互助による支援はあまり見られない。
- 誰か地域で認められている人によってサポートされているか否かが、近隣の人々に違和感を与えず、自然と支援する意識が醸造されているといえる。(事例3)
- 地域に認められていないと思うことが、関係性を持つことに自信をなくしている。利用者の思いを代弁する人が必要。(事例13)
- 受障前の地域内で関係性も重要。(事例9)
- 本人が主観的に過度な見守りと感じてしまう場合もある。(事例12)