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平成18年度厚生労働科学研究障害保健福祉総合研究成果発表会報告書

発表会:支援機器利用効果の科学的根拠算出に関する研究

講演1 エビデンスを基にした実践とは

パソコンに関しても、つまりコミュニケーションエイドに関しても同じように聞いているわけですが、今回電動車椅子のところについて詳しくお話をしていきたいと思います。

今回協力いただいた13人の方のプロフィールをここに書いてあります。だいたい平均年齢が28.2歳。全員がドゥシャンヌ型の筋ジストロフィーの方で、全員が男性であるということです。パソコンの利用歴、これも古い方はもう22年。いわゆるマイクロコンピューターが出てきた時代から使っている人もおられるというくらい、非常にヘビーユーザーがたくさんいる施設です。平均パソコン利用歴は12.6年。電動車椅子も非常に皆さん長く使っておられて、23年、3台目、4台目を乗り継いでいる人もおられるくらいで、この人たちのだいたい平均電動車椅子利用歴が14.2年。このうち、呼吸器を利用しておられる方が8名。電動車椅子に呼吸器を搭載するということも、八雲病院とか徳島病院では積極的にやっています。このあたりのところはPL法の問題もあって、なかなか改造をためらう業者さんも多いと聞いているのですが、患者さんの承諾のもと、作業療法士さんがそういう機器を搭載して、そして動いておられる。病院の中ですから、何かあればすぐにお医者さんが駆けつけることができる。そういったような形で生活しておられる方がほとんどです。ただ、現在、気管切開して呼吸ということよりも、開放型の呼吸器を全員の方が使っておられます。開放型の呼吸器というのはマウスピース型、こういうマイクを口にくわえて息をする、こういったようなタイプの方と、あとはシーパップという、鼻にマスクのようなものをつけて呼吸をする。こういった形で呼吸器管理をやっておられる方がほとんどだということも、申し添えておきます。ですから、この病院では、呼吸器をつけたからといってベッドの上で寝たきりにならない。呼吸器をつけて自由に移動できる状態で病院の中で生活しておられる方が大半であるということをご理解いただきたい。

もう一つ、北海道という特殊性もあるのですが、電動車椅子の利用というものを町の中ではやっていない。ほとんどやっていないということです。八雲町というところ自体が非常に、田舎と言ったら失礼ですけれども、北海道の典型的な町ですので、東京都内や京都や大阪のようにちょっと車椅子で買い物に行くという環境ではないということですね。冬は雪が積もって外に出るどころではない。つまり、病院の中で自由に動き回る生活のために車椅子を使っておられる人たちだということです。

実は、電動車椅子利用に伴う心理的変化について、7ポイントスケールで計っているのですが、これは先ほど言いました能力感を100としたものとはちょっと違う、参考データとしてここでお話申し上げますが、安心感とか、意欲、ストレス、周囲の評価、コミュニケーションの機会、コミュニケーションの相手、対人関係というものがどのように変化したかということを聞いています。安心感がない、つまり不安、安心というものを1、2、3、4、5、6、7のスケールのうえで聞いているというふうに考えていただきたいと思います。電動車椅子を使うことによって安心感はどうだったかというと、使う前、過去、使う前は3.2、どちらでもないというくらいだったのですが、使うようになって安心感は5.5、安心感は増しているわけです。未来というのは何か。電動車椅子が使えなくなったらどうだろうかということを聞いてみると、非常に不安だと皆さん答えられるわけです。

意欲にしてもそうなのです。意欲というのは、普通よりちょっとあったくらいだったのが、電動車椅子を使うようになって意欲は非常に増して、7ポイントスケールの6くらいまでいくわけです。無くなったら意欲は低下するだろうと答えられている。

ストレスもそうです。過去は4.9、非常に高かった。現在は2.8、ニュートラル、どちらでもない。どちらかというとあまりない、という声があって、無くなったら過去よりも高くなる、5.8という、非常にストレスが上がるということがわかると思います。

我々が彼らと聞き取りをする中で感じているのが、もう電動車椅子というのは我々で言うと眼鏡と一緒という、そんな感じなのですね。普段クルマで通勤している人のクルマと一緒なのですね。ですから、何が困りますかといったら、車椅子が故障したときのスペア機がない。つまり代替機がない、というのが一番困る。北海道から修理に出すとずいぶん時間がかかる。その間というのは、自分たちの生活が本当に辛い状況にまた戻ってしまう。このあたりはどなたも非常に強く訴える。ですから、複数の椅子が欲しい、スペア椅子が欲しいという要望が非常に強いということです。

それを現在の制度の中でいいましたら、皆さん、なんと考えるでしょう。それは我が儘ではないかというふうに思うのですが、この後のデータをみていただくと、やはり彼らにはそういうスペアの車椅子というものが必要なのではないかということが、少しご理解いただけるのではないかと思います。

もちろんこれは、個人個人にというとなかなかたいへんだとは思うのですが、こういう施設の中においてそういうスペア機の提供というのは非常に重要になっていくだろうと思います。

コミュニケーションの機会というものも、昔は普通だった。現在はやはり増えている。車椅子がコミュニケーションの機会を増やすという、非常に意外だと思うかもしれません。コミュニケーションの相手ということも高まっている。ですけれど、ベッドの上で寝ていると、コミュニケーションというのは非常に受け身的なものですね。相手が来てくれないとコミュニケーションが成り立たない。ところが、電動車椅子があると、そこに出かけていってコミュニケーションが増えるということです。これがなくなったらどうだろうというと、どちらも2.1、2.3という非常に下がっていることがわかると思います。ですから電動車椅子というものは、移動ということだけではなくて、こういうコミュニケーションにも大きく影響を及ぼしているということがご理解いただけると思います。

対人関係というものも、これは尺度としてまずかったと思っています。現在の対人関係というのを聞くわけにはいきませんので、現在の対人関係を0としたときに、過去はどうだったか、未来はどうだろうか。これはあまり変化が出ていない。そういう結果があります。

これが実は先ほど申し上げました、移動の効力感がどのように変化したかという図になります。これをご覧になっていただきたいと思いますが、横軸が年齢で、縦軸が移動の効力感ということになります。実際に歩けなくなる平均年齢というのが3歳から4歳、ちょっと早めなのですが、そういうことがわかる。要するに、手動車椅子を何らかの形で利用するようになったのが、だいたい4歳少し前くらいというデータになっているわけなのです。そこまでのデータというのはだいたい100なのですね。ここを100としているわけなのですからこれは絶対です。そして、手動車椅子を導入したときに、皆さんの移動の効力感はどれくらいですか(下がりますかとは言ってないですね)とうかがいましたところ、だいたい25から30くらいの数字になっていることがおわかりいただけると思います。

つまり、3歳から4歳のときに筋力低下が始まり、先ほどもちょっといいましたが、だいたい平均年齢10歳で手動車椅子の導入になっているということがわかります。このとき移動の効力感は25から30で、かなり落ちていますね。ここまで落ちないと、逆に言うと手動車椅子を導入しないということです。ここで、お医者様と相談して手動車椅子を導入すると、一気に能力は上がる。だいたい80くらいになる。ですけれど、本来の100というところまでは回復しないということです。

ここでまた、手動車椅子というものがだんだん漕げなくなってきます。上肢の筋肉も低下してきますので、漕げなくなってきます。そして、だいたい平均年齢16歳でまた電動車椅子を導入するわけですが、この時点でおもしろいのは、だいたいまた同じような25から30、これくらいまで落ちていくわけです。ここで我々が何を思ったかというと、実は筋ジストロフィーの子どもさんというのは2度挫折を味わうのだな、ということです。1回ここで歩けなくなった人が、もう1回手動車椅子が使えなくなっちゃった、この2度の挫折がここであるということが彼らの話からもわかるわけです。

ここで電動車椅子を導入すると、多くの人はここで自分の人生観が変わったといいます。どう変わったのと聞いたら、これがすごいのですが、平均でだいたい110いくわけです。ある人はだいたい自分の効力感が150とか120と訴える人がいるということです。これはすごいことだと思いませんか。こんな人たちがいる、つまり元の歩けたときよりも自分の効力感が上がったと感じる人がいるということです。それくらい電動車椅子の導入のインパクトは大きい、心理的なインパクトは大きい。実際の移動の機能というと、これは歩けていたころのほうがはるかに上です。階段も上れますし、いろいろな狭いところにも入っていけますし。だけど、実は子どもたちのとらえ方というのはそうではないということですね。電動車椅子を導入したときのほうが、心理的な効力感はあがってしまうということなのです。

もう一つおもしろいのは、15歳でだいたい導入して、今30歳前の人たち。この人たちの能力感というのはまだ100を維持しています。つまり、ほとんど変化しないということです。もちろんこれは個別のデータをお示しすれば、その中の個々にはあがったりさがったりというのはあるわけです。電動車椅子でもジョイスティックが使えなくなる人たちもおられますので、その人たちに関していいますと下がったりもしているのですが、けれど手動車椅子のような落ち込みはないということです。これは非常に重要なことだと思います。

私が最近思っているのは、なぜ最初から電動車椅子を導入しないのだろうということです。ここでPTさんと話をしてみますと、やはり手動車椅子を漕ぐということが上肢の機能訓練につながっているのだ、ということになります。ですが、同時に導入してもいいのではないか、とも思うのです。手動も電動も同時に給付を受けられると、彼らの生活というのはもっと広がるのではないだろうか、という考え方も成り立つということです。このあたりのところ、こういう1つのデータがあって実は初めて議論が開始できるということがおわかりいただけると思います。

これは私の考えでありまして、この後に専門家がこういうデータを持ち寄って議論していく。このデータに対して反証となるデータも研究の中では出てくるべきだと思うのですが、そういうふうな科学的なデータをもとにした議論の場というものがもう少し増えていく必要があるだろうと考えます。

日本でも、たとえば生活支援工学会やリハビリテーション工学協会の大会などというところで、少しずつこういうエビデンスの発表というものがでてきましたので、もう少しこの世の中が変わっていくかな、と期待しているところではあります。

ここでもう一つ聞いていることがあります。これも非常におもしろいグラフなのですが、自分というのと機器というものと他人(ひと)というもの、どれくらいの割合で頼っていますか、という。発症前はどうだったかというと、100%これは自分の力だった。歩行困難になってきたときはどうだったかというと、要するに先ほどの前の図で言うと、この時点ですね。歩行が少し不自由になった時点でどうだったかというと、他人に頼る力というのは2割で、自分が8割近い。機器にはほとんど頼っていない。手動車椅子に頼ったときはどうかというと、自分がだいたい5割、機器が3割、他人が2割。こういうふうに感じられています。手動操作が困難になったときはどうかというと、これは非常におもしろいのですが、3分割になる。自分の力と、機器の力と、他人の力、これがちょうど均等になる。だいたいこれくらいになる。

電動車椅子になると、やはり機器の力が非常に大きいですね。自分が2割、他人がだいたい15%、残りが機器。この電動車椅子を利用してもう十数年たつのですが、十数年間この比率はほとんど変わらない。非常に機器が大きな力を及ぼしているということがわかります。

生活の中で毎日使う機器というのはこういう形になるということがわかります。後ほど少しコミュニケーションエイドについてもふれますが、コミュニケーションエイドというのはこういうものではまったくないということがわかります。

これがもう一つおもしろい図なのですが、他者、自己、機器への依存と効力感というものを表に表したものです。先ほどのこういう図を、要するに人数でまとめた、どれくらいの人数の人がそういうふうな傾向を示したかという、このグラフの中にはこれは平均しているからこういう図になっているのですが、全員がこういうような図にはなっていないわけです。これは人数でこういうパターンになったかどうかというのを見たものがこれです。

他人に頼る割合が上がる、下がる。これはどういうことかというと、歩けなくなる、電動車椅子を使うというところで他人に頼る割合が変わってくるわけですが、この上の軸は抜けちゃっていますね。これは3つの導入の時点ということなのですが、最後のところ、これは電動車椅子に、何か軸を忘れて抜かしてきちゃいましたので、ここのところだけ詳しく説明しておきますと、機器に頼る割合が上がると、移動の効力感が増えたという人が20人いるということです。機器に頼る割合が下がって、移動の効力感が減った、自分が駄目になったと感じる人はほとんどいないというとこです。これは非常におもしろい結果なのですね。

他人に頼る割合が増えると、移動の効力感が上がったという人はもちろんいないわけで、移動の効力感が下がるのですから、他人に頼る割合が下がると移動の効力感が上がる、こういうふうに、非常におもしろい表裏の関係があるということがここでおわかりいただけると思います。

こういったように、電動車椅子の導入というものは心理的に非常に大きなインパクトを与えているわけですが、これがお金の面ではどういうふうに影響するのだろうかということを見てみました。これは、八雲病院という筋ジストロフィーの人たちではなくて、主として脳性麻痺の人たちを対象に行った結果です。この成人17名というのは東京都内と静岡県内に住む人たち。平均年齢43.5歳。いわゆる電動車椅子を使って自立した生活を行うという、普段移動している人たち。この人たちに研究協力を依頼しました。協力者には1週間の電動車椅子の利用を記録してもらいました。朝何時に起きて、何時から電動車椅子に乗って、何時に職場に行って、何時に帰ってきて何時に電動車椅子から降りた。電動車椅子に乗って買い物に行ったとかレストランに行ったとか、職場でずっと座っていたということも細かく記録してそれを聞き取った。どの時間帯に介護、ヘルパーさんがついているかということも記録してもらいました。

実際にこの利用というものを停止したらどのような経済的な負担が発生するかというものをシミュレーションしてみました。