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平成18年度厚生労働科学研究障害保健福祉総合研究成果発表会報告書

発表会:支援機器利用効果の科学的根拠算出に関する研究

講演1 エビデンスを基にした実践とは

つまり、電動車椅子を利用していなかったらどういうことが起こるかというものを、その人の生活パターンから見るわけです。たとえば、ヘルパーさんがいないとこの人が移動できないという時間がどれくらいあるかということから、実際のコストが算出できることになります。

その結果をお見せしますと、電動車椅子の値段、標準の車椅子というのはだいたい給付額というのは40万円なのですね、電動車椅子というというのは。その上に皆さんがいろいろなオプションを付けていかれますので、平均の購入価格は61万4,000円。高い車椅子は1台120万円とか、100万円以上の車椅子に乗っているかたも数人おられます。だいたい6年で今の給付制度の中では電動車椅子は償却されると考えられるわけですが、だいたい1週間あたりのコストに換算しますと、1,970円。1週間1,970円。つまり1日あたりにしますと300円を切るくらいの値段になります。電動車椅子が60万円というと非常に高いなあと思いますが、1日あたりの値段にすると非常に安いものだということがおわかりいただけると思います。

1週間あたりの介護者なしでの平均利用時間というのは16.6時間。一人で電動車椅子に乗って動き回っている時間というのはだいたい16.6時間。この部分に移動の介護が必要だと仮定しますと、1週間あたりの介護費用は33,294円。これくらい実はかかるということです。その部分を電動車椅子が吸収しているというふうに考えれば、実は機器というのは非常に安いものだということがわかります。もっと積極的に導入していく必要がある。ただ、現状では、今回の調査でわかったのですが、電動車椅子を利用する人たちにも、常時介護者がついているという実態もあるわけで、このあたりは少し考えていかなければならないという部分もあります。

ですから、介助者は電動車椅子の人の後ろをついて歩く。もちろん何か落とした、何か取って、というところで大きな役割はあるのですが、そういった状況があります。

これは、想像以上に大きな額だなということがおわかりいただけると思います。

これと同時に、実は携帯用会話補助装置についても、我々はデータを測定しようと試みました。携帯用会話補助装置というのは、VOCA(ヴォカ)と呼ばれるもので、今隣の展示会場にたくさん展示してあるものです。五十音を押して喋る装置であるとか、あるいは必要なメッセージを録音して喋らせるという装置があります。

実際にこれらのものを日常生活の中で就労に役立てている。本当に日常生活活動の中で常時使っているという人を探したのですが、統計データに載せられるほど人が見つからなかったという、悲しい現状というのがあるわけです。皆さんのまわりにおられますでしょうか。電動車椅子にそういった携帯用会話補助装置を付けて、いつも使っている。首から会話補助装置をぶら下げていつも使っているというかたが身の回りにいるというかた、ちょっと手を挙げていただけますか。1、2、3人。3人しか今手が挙がらない。身体障害のかたですか、知的障害のかたですか。はい。トーキングエイドか何かをお使いで。はい、そういうかたがおられますね。お隣のかたはいかがでしょう。身体(障害)。トーキングエイド。トーキングエイドのユーザーのかたのなかにはそういうかたもおられるのですが、実際に非常に少ないのが現状だということです。就労かなにかしておられますか。働いておられますか。働いていない。いかがですか、前のかた。働いていない。では日常生活で、首からぶら下げるとか電動車椅子に付けるとかしてコミュニケーションをとっておられるということですね。

アテトーゼ型の脳性麻痺のかたには非常によくそういうものを使っておられるかたがおられます。いかがです、脳性麻痺のかたですか。そうですか。診断名はよくわからない。はい。多くのかたはそうなのですね、脳性麻痺のかたにとっては非常にいい道具です。ところが今、実際にそれを利用できる脳性麻痺のかたは非常に減ってきているということで、小児からみていくと、ほとんどこれを日常から使っている人は少なくなってきているというのが実情だと思います。

アメリカを見ますと、実は100万円近くするコミュニケーションエイドがたくさん市販されているわけですが、それを電動車椅子に装着して、これがまた折り畳んでホールディングの後ろに収納できるようになっているのですが、これを使って就労している人たちがおられるということです。就労まで結びつくから、かなりハイエンドのコミュニケーションエイド。実際に我々と日常的なコミュニケーションというものが、少し時間の遅れはあるものの、ある程度実現できるようなコミュニケーションエイドまでアメリカでは出てきて、それが保険でカバーされて使われるような現状がでてきているということです。

ところが、日本ではそれがほとんどない。しかも購入後使われなくなった人も非常に多い。また、いろいろ意見をまとめますと、これはまだきちんとまとめられていないのでなんとも言えないのですが、設定等の手間、車椅子に取り付ける。あるいは、会話を聞き取るのに要する時間というものを考えていくと、介護のコストを増大させているという、逆の部分も実はそこには存在するという、あまり言いたくはないのですが、そういう効果、効果と言ってはいけませんね、そういう面が見えてくる部分というのもあるわけです。

ところが一方で、教育的、心理的には非常に大きな効果を果たしているということが報告されています。たとえばコミュニケーションエイド、トーキングエイドを使うことによって、発語が出るようになった。だから今はトーキングエイドを使っていない、かつては常時持っていたけれども、という発達障害の人たちがずいぶんいるということですね。知的障害、自閉症の人がいるということ。もう一つ、心理的なパニックが減少した。これがないとイライラして、机を叩いたりしなければいけないのが、そういったVOCA(ヴォカ)があることによって、そういったパニック行動のようなものが起こらなくなったという、そんな意見も実際には聞き取られているわけです。ですから、心理的、教育的には大きな効果があるのですが、実際の自立した活動という、社会の中に目を向けますと、あまりコミュニケーションエイドは大きな役割を果たしていないということが言えるわけです。マクドナルドでコミュニケーションエイドを使って買い物をしたという話は聞きますが、これは経験を積むとか教育の中で練習をするという意味ではよく聞くわけです。ところが実際に日常的には使われていない。だから使われなくなる。このように私は今考えています。この部分はまだ残念ながらデータがあがってきていませんのでなんとも言えませんが、こういったような実態がある。

つまり、福祉機器として社会の中できちんと位置づけて、それが当事者の自立生活を支え、また企業さんたちが経済活動の一環としてそういうものを売るようになっていくためには、やはり社会の中にそれを根付かせていく必要があるということです。電動車椅子というのは、乗ればすぐ使える、非常にインターフェイスが簡単なものであるということです。ところがコミュニケーションエイドというのは非常にやっかいなものです。パソコンも非常にやっかいなものです。そこに至るまでの訓練がいるということです。それを使って今度は会話の練習をしなければいけない。メールのやりとりの練習をしなければいけない。その相手を探さなければいけないという、いくつもの問題をクリアしていかないと、実はそれは社会で使う、就労するというところまで結びついていかないということが、こういうデータをとってみて初めて明らかになるというのは、本当に専門家として恥ずかしい限りなのですが、よく見えてくる、浮かび上がってきた。

では実際にどうしたらいいのだろうかというと、最近考えていることは、こういう機器というものは、福祉制度の中で給付されるものではないのではないのだろうかとちょっと思っています。もちろんこれはありですよ、もっとこれは教育制度の中で、学校が提供する。学校の中にこれを備えつけるという、こういうふうな中で、特別支援教育の中でやはりトレーニングしていく必要があると思うのです。その延長線上に、福祉制度の中でコミュニケーションエイドというものが位置づけられれば、皆さん間違いなく日常生活の中でエイドを使っていくだろうな、と思っているわけです。このあたりが縦割り行政のネックなのですが、こういうデータをもう少しきちんと示すことによって、積極的に働きかけていくということができるのではないだろうか、と感じております。

エビデンスに基づく日本の支援技術サービスの方向性というものを、もう少し我々は考えていかなければならないと思うのです。北欧型のように、支援技術利用が障害のある人の基本的権利であると宣言し、国がすべて保障するのか。現在の日常生活用具給付制度をベースに改善を図っていくのか。民間保険に組み入れて、新たな支援技術サービスを開始するのか。これはまだ、私の中でも整理できていないところで、もう少しデータを集めていかなければならないと思うのですね。今、行政、保険会社と利用者の中で、福祉機器、支援技術機器というものは、綱引きを行っているような状況だと思います。行政側、保険会社サイドは、予算に制限がある。本当に適切な執行が行われているのか。利用者は、これがあると我々の生活は変わるのだ、という漠然とした要求がある。何が変わるのですかと言うとよくわからないけれど、自分の生活がよくなるだろう。このあたりのところ、経済的な指標というのはこれから求められていくでしょうし、利用者側はもう少し教育的、社会的なインパクトを示していくという必要性もあるのではないかと、私自身は考えています。

ということで、ここまでで私の発表を終わらせていただきたいと思うのですが、質問があればお受けしたいと思うのですが、何かございませんでしょうか。

よろしいでしょうか。午後もこのセッションが続いていきますので、私もおりますので、また、最後の時間に質問の時間を取ろうと思いますので、また、一時にお集まりいただきたいと思います。

どうもありがとうございました。(拍手)

男性:今のデータというのは何かを覗けば見られるのですか?どこからか?

まだちょっとあまり出したくないのですが、まとまりましたら、またメールで差し上げようと思いますので、メールをいただけますか?名刺をお渡ししておきます。あるいは報告書が出ますので。よろしくお願いします。