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平成18年度厚生労働科学研究障害保健福祉総合研究成果発表会報告書

発表会:支援機器利用効果の科学的根拠算出に関する研究

講演2 支援機器の効果をどのように測定するか

広島大学大学院 教育学研究科
巖淵 守

坂井 平成18年度の厚生労働科学研究の成果発表の午後の部ですけれども、1時からスタートいたします。午後の予定ですが、一番最初に、広島大学大学院教育学研究科の巖淵守先生に、支援機器の効果をどのように測定するのかということで、評価ということについてお話をいただきます。その後、東京大学先端科学技術研究センターの近藤さんに支援技術の導入効果の一番最初、それから、愛媛大学の苅田さん、それから香川大学の私、坂井が続けて行います。

14時半ぐらいから、質疑応答の時間を少し設けまして、今回の研究、支援機器利用効果の科学的根拠算出に関する研究についての質問をお聞きしたいと思います。このフロアから、質問等していただいて、我々が答えるという形でお願いしたいと思います。司会は、香川大学の坂井が行いますので、どうぞよろしくお願いいたします。それでは、まず最初に巖淵先生のほうから、よろしくお願いいたします。

巖淵 みなさん、こんにちは。広島大学の巖淵と申します。最初の30分間、効果をどのように測定するかというタイトルでお付き合いいただければと思います。よろしくお願いいたします。中邑先生がお昼前に一時間話された内容の少し復習ということで、参加されていなかった方もいらっしゃるかもしれませんので、簡単に触れておきたいと思うんですけれども。

支援機器、このATAC(エイタック)カンファレンスのメインテーマ、テクノロジーを使って彼ら(障害のある方々)の支援をするということなんですけれども、出来なかったことが可能になる、例えば発話が出来なかった人が、VOCA(ヴォカ)という音声出力の装置を使うことによって話が出来るようになった。わーすごい、0が1になるということが大きなことで、多くの方が喜ばれてきた。時には人生を変える、そんな方々にも出会ったりします。そういったことで、影響力は高く評価されてきたんですけれども、その評価は本当に客観的に見て正しいものなのだろうか。もちろん、思いとしてはすばらしいということが出来ると思うんですけれども、主観的なことばかりではなくて、かつ曖昧なのではないか、という指摘があります。例えば、エビデンスということの話で登場するんですけれども、ご本人が自分の障害は自分が一番よく知っている、障害に関わらず例えばこれ、お医者さんのところで、「先生、どうも胃が痛い。胃薬出してくれたら直ると思うよ。」と言うとですね、「あなたのことは、あなたが一番よく知ってますから。じゃあ、胃薬出しましょう。」お医者さんがそう言ったらですね、(先生ちゃんと見てくれたのかな?)と。医者というのは、本人が訴えること、困っていることに対して、総合的に判断をしてこういった処方がいいですよ、ということでやります。例えばただ、お医者さんにとって、胃が痛いといっているけれども、胃薬で治るようなものではない。どうやら原因は他にあるので、ちゃんとしたお薬を出す、ということで、薬Aを出したとしましょう。お医者さんとしては、実はよく似たような薬Bもある。薬Cもある。いったい、A、B、Cのどれが一番効くんだろうか。ということをちゃんと判断した上で、処方されるというのが念頭に置かれます。

同じような状況が支援機器にもあります。例えば、コミュニケーションにとってもたくさんの素晴らしい機械が、隣のところにも置かれているんですけれども、みなさん、よく似た物がたくさんあって、自分が接している子どもたちにどれが一番いいだろうかということをすごく悩んでいらっしゃる。こういった状況を何かこう、解決するために、客観的・量的なエビデンス(科学的な根拠)がいるのではないか?というところが、我々の研究のスタート地点でした。

ただ、それで議論となる対象は今まで0が1にかわるということでしたが、むしろそれも大切なんですけれども、自立した活動時間というのをとらえた場合、どの程度変わるのか。製品Aを使った場合、製品Bを使った場合、これで程度が変わるのではないか。たとえばストレス、あるいは介護疲労など様々なこういった仕様に対して化学的な根拠を取っていきましょう。ということになります。この時間は、じゃあ、問題はわかった、具体的にどうやって測ればいいんだろうという所に焦点を当てたいと思います。

効果の測定について、この分野では有名なDeRuyterとJutaiという二人の研究者がいます。彼らが語っているのは、支援機器に対して測定するような項目にはたくさんある。使うことの快適性であるとか、かかるコスト、というように続いていくんですけれども、ただ彼らがその測定ということに対して一つ注意していることがあります。彼らが引用するRossiという研究者が「確認できる形での目標がないプログラムは評価できない」と。つまり、その機器を使うことによって何をしたいのか、目標を明確にした上で、その目標が機器を使うことでちゃんと達成されているかということを、そういう状況を見て、初めて、測定に入りましょう。アメリカに関わらず欧米のほうでは、支援機器の導入にあたって、特にその国や保健機関、実際に支給をする側が、50万円の機械を提供したんだけれども本当にそれだけ役立っているのか、実際に耐用費用が浮いているのか、といったような経済的な理由を中心にして、今エビデンスを取ろうという圧力が強まっています。

学校の先生方は、実際その提供する現場にいらっしゃるので、どうやらそういった数値、代評価ですね。それに対して答えなければならない、測定しないといけないという意識が先立っている。でも、一体何を測っているんだろうということが、本当に明確にされていますか、ということをこの二人は聞いているわけですね。目標を明確にした段階で、安易にデータを取得する、特にたくさんのツールがあります。そのツールのいくつかを、今日、ご紹介します。使うだけでは意味がないんですよ、ということをまさに言っているわけですね。ツールそのものは、何の整合性も備えていないということです。

実際、効果の測定をするにあたって、一点、重要な視点としてどんな効果があるのかという種類を大まかに三つここであげます。

一つは、物理的な効果。例えば、車イスの利用の方に対して、それが本当に役立っているかということを調べるために、利用時の移動距離であるとか、平均速度であるとか、最高速度であるとか、ということをいくつかの製品に対して試してみる。コミュニケーションエイドに関しましては、例えばそれを使うことによって発言数が増えるといったような、発言数であるとか、単語の種類、分間あたりの平均単語数などを比べて、ある製品は、この製品群の中では効率的に話すことができる。といったような市場があるわけですね。このような、物理的な効果の他に、心理的効果。例えばその機械を使うということによって、喜び、満足が得られる、といった満足度。あるいはそれを使うことによって、自分自身の能力が上がったと感じられる、という自尊心などがあります。他に経済的効果がありますけれども、ご本人だけでなく、支援者や給付者、日本であれば、地方自治体、国になりますけれども、そういったその立場によって、三つのどれが重要かという視点がかわります。ですから、データを取る際に、一体何を目的にしているかと、先ほどの彼らの主張と質問に戻るんですけれども、そこを明確にしたうえで測りましょうということになります。明確にした段階で、測るということになるのですが、支援機器を導入するということを考えますと、皆さん、経験されている方も多いと思いますが、たくさんのステップが、実は、これ、表をお見せしたいと思いますが、ややこしい表で、彼らがこんなことを言っています。支援機器を導入するにあたっては、最初に、チェックリスト等を用意して、今どういうことに困っていらっしゃるのか、そして、次にどういうことを期待されているかといったことを明確にした上で、目標を設定し、機器を決めて導入し、その適合性を図る、等々のステップがあるわけです。各々のステップの段階で、海外なんかを見渡しますと、たくさんのツールがあります。この表で(難しい表ですけど)、分かっていただきたいのは、見て、一点目は、知らない間に、世の中にはたくさんの測定のツールがあるんだということ。二点目は、それぞれその支援機器を導入するにあたっては、たくさんの段階があって、各々いろんなものがあって、それを組み合わせて使うんだなということです。あるところに注目されて、目標が明確になれば、その中の一つを取り上げて使うこともいいでしょう。全体的な評価に、最初のインテーク、ニーズを把握して、最後のフォローアップまでされるような機関であれば、その中の複数を組み合わせて使うという流れが想像できます。

さあ、そこで三つの視点をみなさんに紹介しました。物理的効果、心理的効果、経済的効果。それぞれについて、さきほどたくさんのツールを紹介しましたが、どんなものがあるかという具体的な例を一つずつ、一つの例を挙げて、紹介したいと思います。

まず一つ目、物理的効果の測定の例なんですけれども、コミュニケーションエイドについてちょっと考えてみたいと思います。ハイテクコミュニケーションエイドを利用する方が、どんな機器がいいかということを、戦後すぐ、カナダやアメリカではどういうふうにされているかの例です。彼らの使っているシステムにLAMというのがあります。これ、言語(Language)の活動(Activity)をモニターするというものなんですけれども、コミュニケーションエイドに対して行われた操作、実際に活動する際に、50音のようなキーボード(アルファベットになっていますが)を選択し、その中の単語の一つといったように、先頭を選べば他の表現がでてくるような、組み合わせで文章を作成したそのキーの押し方、その時刻、選んだものが、これ、会話ログというんですけれども、それを記録するシステムです。これ、実際のデータ例なんですけれども、午後の4時26分5秒に、「its」、これは一つのボタンなんですけれども、ここに書かれているのは、一つの操作です。一回でこの表現がでるようなボタンを押しましたということです。このあたりを見ていきますと、Spelling、英語で恐縮なんですけれども、これは、一文字一文字打っている入力方法ですね。このあたり、とにかく、一回の操作で一つの語が入るような方法と組み合わせて打たれているという様子が分かります。

これが、日本と比べて驚きなのは、欧米のハイテク機器、コミュニケーションエイドの大半に、このLAMという機能が標準で備わっています。言語聴覚士の先生方は例えば、実際にセンターに来てもらって、訓練してみましょう、日常会話をしてみませんかということで、このLAMの機能をONにして、その人がどういうふうな言葉を選んだのか、継続的にやっていくことで、言葉の語彙が増えていっているかということや、効率が上がってきているかということを調べる。それで、許可を得ると、実際に家に帰っている間もONにしてくださいということで、日常会話なども、全て録音しているような感じですね。そして、次に来た時にそれを解析する、といったことをされる、そんなところまで行っています。でも、それだと、プライバシーのことはいいのかと思われますよね。家に帰ったら、まったく違う、家族の、内輪だけの話をされているかもしれない。ということで、一応、ご本人がOFFに出来るようにはなっています。この辺り、まだとにかくエビデンス(科学的根拠)、データを取りましょうということが、アメリカやカナダでは先行していますから、STの先生方、圧力を感じて、まあ、とにかくやらなきゃというふうな雰囲気にはなっていますが、まだ現場のほうでは、議論が紛争しています。本当にここまで我々がやっていいのか、そんな状況で進んでいます。

古い機械を使っている人は、このLAMというのがまだないので、実際の機器をシリアルケーブル、これも古い規格ですけれども、パソコンにつないで、パソコンのほうで今何を打ったかということがでるような感じで、記録を取っているという方もいらっしゃいます。ともにどちらもデジタルのデータが残りますので、それを後ほど、パソコンで集計するということになります。集計する様子は時間の関係で、画面だけ見せますが、今取ったあのデータですね。これが、左側のこのパネルに出ています。それを、どんな機能で打ったかと。実は、緑色で出ている部分がSpellingといって、一文字一文字打っている方法です。こういったエイドを使っていらっしゃる方は、手は震えながらゆっくり打たれる方、なんかを考えると、一文字一文字で打つよりも一回押すと、一気に表現が入ったほうが早いというようなことから、この青色とかはですね、一回で入力が入るものを使われています。どっちの方が表現が豊かで、かつ効率的に話ができるか等をこういうふうに調べていくわけですね。こういったソフトの良さは、いったんデータが入りますと、一気にこういったグラフを作成してくれます。こういったものを学校であれば、個別支援教育プログラムといったような文章にして、教育委員会に提出するわけですね。もう、提出してくださいと求められているわけですが、提出しないと、子どもたちにコミュニケーションエイドを提供される機会がすごく減るので、かつSTの先生のいろいろな訓練の時間も減らされるとか、そんな圧力も今かかっているという状況です。ただ、我々は圧力がかかるからやるのではなくて、本当に子どもたちにとって、一番いいエイドを選びましょうということが中心な視点です。

もう一つですね、面白いのは、私が個人的な興味があるのは、こういったデータから何が取れるかといいますと、そのコミュニケーションエイドを使っているユーザーさんが、もっとも良く使ったトップ100語です。ここに並んでいるのは。これは、言語の発達という視点からはとても大切です。学校なんかに行くと、やっぱり教育という内容から、今は社会で、例えば日本のことを勉強している。だから、地名をいっぱいのせておこう、というわけで、コミュニケーションエイドに登録されたりするんですね。こういった研究者が何を言っているかというと、例えば、ある問題を出して、地理上の名前を選ぶといった(コミュニケーションエイドでですよ)やっている内容は、かれらの言語を育てているのんではなくて、知識だと。それはお勉強の一つであり、それも大切なんですが、言語というのはいくつかたくさんある言葉の中から組み合わせて使うようなものです。言語で使っている脳の部分と知識で、海馬というんですけれども、そこから、地理の名前を取ってくるといった活動は、脳の違う部位で起こっています。ですから、できるだけ日常会話でたくさん使っている表現を子どもたちに組み合わせて使っていくような環境で言語を育てていくという方法を取っていくと、こういった生のデータから、これがコミュニケーションエイドに乗っていると、彼らの言語能力の発達が早いということなんです。かつたくさん話せる。こういったエビデンスに基づいてコミュニケーションエイドを設計する方法が、欧米のほうで進んでいます。