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平成18年度厚生労働科学研究障害保健福祉総合研究成果発表会報告書

発表会:支援機器利用効果の科学的根拠算出に関する研究

講演2 支援機器の効果をどのように測定するか

次、物理的データも重要ですけれども、その機械を使いたい、持っててよかった、自信がついたといった心理的効果も非常に重要です。

ここで紹介するのは、たくさんある中のPIADSということで、私どもの報告の中でも後半に出てきますけれども、一つのスケールです。日本語では、福祉用具心理評価スケールというふうに、既に、国立身体障害者リハビリテーションセンターが日本語化を図っています。皆さんが使いたいといえば、すぐに使えるようなものというわけですね。実際に作られたのは、カナダにあります、西オンタリオ大学の先ほど出ました、Jutai先生という方が最初に作られて、発展してきたものです。このPIADSの中には、三つのサブスケールとして、この内容を計りますということですね、使ったことによる効力感、積極的適応性、自尊心、ちょっと今あいまいになっていますけれども、この三つについて計ります。重要なのは一番下の辺りで、例えば、「あなたはこの機械をつかうことによって、どれぐらい自信を持つことが出来るようになりましたか?」といったような質問を聞いていくわけです。この質問に対して、-3から3、-3、-2、-1、といったように刻まれた七段階のスケールのどこかに丸をつけるといった試験になります。このマイナスを含めておくというのがとても重要で、みなさん、機械など、特にハイテクなんかの場合を見ると、この機械を使うと、夢のようなことが起こるのではないかといったような淡い期待を持つ。でも実際に使ってみたら、ないほうがマシだというような効果もありますので、マイナスも用意する、ということになっています。

具体的な内容を見ますと、この三つ。例えば、効力感については、能力や自立度、対処能力、とまどい、などの12項目が具体的にはあります。積極的適応性に関しては、生活がうまくいっている度合い、自分が感じることですね、自己申告のテストになります。チャンスを活かす、等々。最後に、自尊心は、幸福感、安心感、欲求不満などの8項目が含まれています。これ、シートで、慣れてくると大体15分ぐらいでこのシートが埋まるようになっています。おそらくですね、ここにいらっしゃる方々であれば、知的障害等の障害があって自分で答えられない人はどうなんだ、という疑問があるかと思いますが、実はPIADSはそこまでは対応していないんですね。子どもさんの場合も同じです。自分で答える事が難しい人には今は使えませんけれども、今、実は開発中の段階です。とにかく、今は自分で自己申告で答えることができる人に対して、様々な研究がなされてきた、ということになっています。

では、これを使ったらどんなことがわかっているかということで、また、一つ例をお見せしますが、Jutai先生の研究報告の一つの例なんですけれども、先ほど三つの指標がありましたけれども、そのどの三つに対しても、同じようなグラフの形になっています。例えば効力感みたいなものだと思って下さい。横軸に、これ、補聴器利用の研究だったんですけれども、横軸に時間ですね。縦軸にPIADS、例えば自己効力感、自分がこれを付けて自身がついた、よかったと思うような度合いを、横軸のほうに書いています。時間のほうを見てみますと、使用前、どれぐらい、期待、その使うことによる自信が出ると思いますか?この使用前というのは、実際は使っていないんですね。使ったらどうなりますかという予測です。

二つ目以降は、実際使ってから六週間、一年、十年たったときを見てますと、面白いデータですね。使用前から、六週間、実感に使ってみると、値が下がっています。これは、どういうことかというと、使用前、これを付けることによって、きっと聞こえがよくなるはずだって最初は信じていたのに、実際付けてみると、思ったほどいってないという現実が見えてきたと。ただ、その後使い続けていくと、また値は上がってくるわけですね。

これは、支援者として、どのようなことを見るかというと、最初に、補聴器いいですよと導入してみた。もう、これはだめだと、6週間ぐらいで返されたら、待てよと。今は、とにかく幻想が崩れてきている。こんな人はたくさんいるんだよということを、先にもし伝えておけば、もうちょっと頑張ってみる。ただ単に、暗黙で、暗闇を突っ走っていただくわけでは決してなくて、このデータを見せて、たくさんの人が同じように感じているんだよ、こんな結果がありますよ、科学的データです。もしかして、二ヶ月、三ヶ月と使っていくうちに聞こえが変わってくるかもしれない、といった支援が可能になります、これで。こんなデータがあるんですね。

最後に、経済的効果についての物を一つ紹介します。イタリアにある支援技術の研究機関にSIVAというところがあるんですけれども、そこが作ったものです。SCAI(SIVA Cost Analysis Instrument)というものなんですけれども、このSCAIの中で議論されるのは、コストと支出なんですけれども、このコストは、社会的コストを指しています。支出は実際のお金なんですけれども、経済的コスト、お金だけでない全体を含めましょうということになります。この、社会的コストの中に含まれるものは、機器、サービス、専門家、ヘルパー、家族などに対する人的支援ですね。どれぐらい、マンパワーが必要なのかということと、時間や移動手段、最終的には、ここで項目を挙げていますけれども、これをお金に勘定します。ただ単に、支払ったお金ではなくて、例えば家族からの支援というのは大きいですね。家族なんだから、嫌でもボランティアみたいなものですね。どこからお金が出るんだろう、でないけどつかっているということもたくさんあると思うんですけれども、それは、本来であれば、他の人に頼めばお金がかかりますよ。それをお金に換算して行きましょう。ということで、当初はコストということで考えて、最終的には全てお金で換算するような考え方です。このSIVAの中には三つのステップがありまして、それぞれフォームを作っていくんですが、第一のステップは、ここは、様々な関係者から感じていることを拾い上げようということになります。上から順番に見ていきますと、ATというのは、Assistive Technology、支援機器のことです。その支援機器を導入するそのプログラムの全体的な目標。その支援機器のプログラムが実際になかった場合に予想される結果。三番目。個人、ご本人の目標、期待に関して予想される結果。次、家族の期待に関して予想される結果。導入する際に関わらず専門家の期待に関して予想される結果。周囲の期待に関して予想される結果というふうに、自由記述です。好きなことを書いて下さい、ということで、様々に感じていることの拾い上げというのが、まず最初のフォームになります。

それで、これをした後、実際に具体的な話になっていきます。ここで例を挙げていますのは、車椅子のユーザーさんが階段の上り下りですね、階段昇降に関してどんな支援技術、テクノロジーが利用できるかという代表的なものを四つ挙げて議論しています。ここにあるのは、階段昇降機、壁に設置するタイプのもの。あるいは、移動式、介助者が操作する、移動式の階段昇降機。それと、あと、エレベータ。それ以外に二名の介助者、というもので、一番に、階段を下りる、あるいは外出に関する議論をしているわけですが、それぞれ、ユーザーさんが希望するのはあれ、けれども、専門家はこれを薦めるよというものを区別しながら、実際にはどれが選択され、開始時期を0とすると、完了、設置するまでに何ヶ月かかるかといったことを書いています。エレベータなんかは半年ぐらいかかるよ、という話ですね。実際に、持続の例を考えるんですけれども、多くの場合は、SCAIの中では、10年というのが基本とされます。10年単位で、10年たったら、どれぐらいのコストがかかるのか。ただ、進行性の障害などありますから、そういった場合は、2年、3年、あるいは数ヶ月とったような基準で考える場合もあります。できるだけ長いスパンで考えます、ということですね。つまり、技術の持ちですね、すぐに壊れちゃうようなものであるとか、廃れてしまうものなんかもあるので、そういったものも考慮に入れながらやっていきますが、これをベースに、最後に細かい話になりますが、ここに数値を入れていく、ということをしていきます。1年目の投資とかメンテナンスにかかるもの、10年後はどうなるかというような細かいことをやっていきます。一番下に書いてある、そのレベルA、B、Cという介助者に関する欄がありますが、先ほど言ったように、多くの場面では家族がやっているんだけれども、本来であれば、社会的コストから考えれば、そういった家事等も含めて全てお金に換算してから議論しましょう、無償のそういったものはないといったことで、レベルAというのは、専門的な知識が要される作業、そういった人を雇った場合ですね。例えば、言語聴覚士の先生にサポートしてもらった、あるいは、医師に関わってもらった場合などをいいます。レベルBは、どちらかといったら体力的な部分、特に専門的知識ではないけれども、そういったある程度限定される場合は、レベルBです。レベルCはだれでもOK。おおよそ予想されるのは、徐々に時給が下がってくるだろうということで議論します。これ、全部表を作成するのは、実際にご自身の環境に最終的に合わせて、この人の周りには本当は専門家を雇いたいのだけれども、地方でそういった人がいない。だから、なんとか、でも、レベルCの人だけでまかなった場合にはこうなるといった議論が出来るように、一応表としてはその中身を作成するということを行います。

こういったふうにすると、SIVAが出した結果で、このような物があります。先ほどの例なんですけれども、実際そのような状況になった人が、10年間に対して、どのぐらいのコストがかかるのかという、先ほど挙げたものですね。壁に設置した階段昇降機、移動式のもの、エレベータ。これを見るとですね、一番最初に設置したもの、設置が一番安いのは当然二名の介助者なんですけれども、こういったテクノロジーを使わない方法が10年間で換算すると、これ、ユーロが単位なんですけれども、最もお金が高いということになります。一番最初に設置にかかるもの、それは、エレベータなんですけれども、それを10年間というコストで考えた場合、つけたほうがよいですよということになります。

ただ単に、そういうふうに思うんだけどというだけではなくて、ちゃんとしたデータを示しましょうということが、流れとして起こっています。ただ、SIVAの開発者が論文の中に記述している文章の中に、経済的コストから考えるのは、社会的な意味からも重要です。重要だけれども、本来は、そういった障害のある人たちが、どうしてその社会の中で困っているのか、それを制度で解決することができるのであれば、当然先にそれをやるべきであって、社会的コストがほとんど同じ、最終的な方法、他に手段がないという状況になって初めて、やっぱりこっちのほうが安く仕上がるからそうしましょうという判断に使って欲しいと、そうあるべきであるというふうに、研究者は、傾向しています。

最後に、最近の動向ですけれども、前半にややこしい表がありました。今、紹介したのはたった三つですけれども、世界的にはもっとたくさんのものがあります。我こそはという感じで今、名乗りをたくさん上げています。我々も、今日、発表するメンバーの中でも、日本の福祉の事情に合った方法で、独自のものを提案できれば、あるいは、従来のものを使うんだけれども、そこにはなかった視点というものを提起出来ればというふうに考えています。いろいろなところで乱立するような状態の中で、けれどもある一つの傾向があります。当然使う側から見ると、どれを使ったらいいのということで、標準化が求められています。複数のチームが組んでやるようなものが、特にアメリカを中心に起こっています。かつ、国際的なプロジェクトですね。先ほどのPIADSなんかは、日本の身体障害者リハビリテーションセンターが、これ、とてもいいからこういうものを使いたいということで日本語化をしている、このような活動もあります。

かつ、今までは紙と鉛筆でやっていたものを、なるべく処理がしやすいように、すぐにこういった議論ができるような、インターネットを使ったシステムなどが登場しつつあります。

どうもありがとうございました。また、何か質問がありましたら…。(拍手)