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平成18年度厚生労働科学研究
障害保健福祉総合研究成果発表会報告書

講演3-1 支援技術導入の効果を科学する

東京大学先端科学技術研究センター
近藤 武夫

聞こえていますか、後ろの方の皆さん。それでは、発表を始めさせていただきます。

東京大学の近藤です。よろしくお願いします。今日発表させていただくのは、「支援技術導入の効果を科学する」というタイトルで、実際に何かの支援技術を導入した時に、どういった効果があるのかというのを一つ評価してみた実例というのを、私の方からお話をさせていただきたいと思います。今回ご紹介させていただくその支援技術の効果についてなのですが、使用した機器というのは、我々のほうで作っている訓練機器の試作機があるんですけれども、この試作機の効果を試作段階でどういった効果があるのかというのを評価するということをやってみたのですが、それについてご紹介させていただきたいと思います。

今回、今からご紹介するツールというのは、何のツールかというと、我々としては言語訓練のためのツールということで開発した機器をご紹介させていただこうと思っています。特に、言語訓練と言っても、言語の障害、脳卒中なんかで脳のある言語に関係する部分に障害を受けた場合というのは、例えば、何かお話をする時、言葉を言おうと思っても、例えば、何がいいかな、「コンピュータ、あのコンピュータこっちに持ってきて」と言おうと思っても、そのコンピュータという言葉が出てこなくて、あれあれ、あれなんだっけ、とか言って、きちんとした語彙がうまく言うことが出来ないとか、もちろん名詞だけではなくて、動詞の方がうまく言えないということもあります。何はともあれ、まず話したいと思っていることがうまく出てこない、こういう障害を、運動性の言語障害と言ったりしますが、そういうようなうまく言葉が出てこないような障害が言語障害で往々にして起こるのですけれども、それの訓練として何かツールが用意できないかということで、我々が開発したものというのを使ってみました。どんなものを用意したのかと言いますと、これ、見ていただいたほうが早いと思うんですけれども。

たとえば、最近ですね、世の中にはRFIDタグと言われるタグがだんだん世の中に出回り始めています。たとえば皆さんがお持ちの、関西圏であればICOCAというカードがありますけれども、あれ、電車に乗ったときに、改札の所でピッと通すと、直接触れなくても、近くまで近づけると、ピッと内容を読み取って、あとお金がいくらぐらいチャージされているのかと情報を読み取ることが出来ます。その中に入っているのはRFIDチップと言われる、非常に小さい、大体1mm角ぐらいのチップなんですね。そのチップで、情報を記録したりすることができるのですけれども、我々もそのチップを使用して、そのチップは非常に小さいので、会場の皆さんは多分見えないと思うんですけれど、ここにほんとに1mm角ぐらいの小さなチップが入っています。周りにアンテナが張り巡らされているんですけれども、これ、薄いシールですね。これ、ちょっと大き目のシールなんですが、もうちょっと少さいものもあります。こういうものを物品に貼り付けて、それがなんであるかというのを登録しておくわけです。実際には、これは試作段階なので軍手に貼り付けているんですけれど、こういった、ここに読み取り用のアンテナがついていて、それをその登録した物品に対して近づけると、それが何であるかというのを読み上げをしてくれるというツールです。はい。ありがとうございます。

たとえば、いろいろ持ってきてみたのですが、たとえばこれは、リンゴです。これをこの読み取りの、「りんご」、もう読んじゃいましたね。これを近づけると、「りんご」、「りんご」、「りんご」、「りんご」(機械が読み上げている)。内容を読み取っています。リンゴというふうに読み上げていますね。たとえば、これは何だろう、CDかな。「CD」というふうに読み上げをしてくれる。これは何でも、家にあるものに何でもこう今小さなシールを貼り付けているわけですね。これを貼り付けてこれを読み取り部に近づけることによって、「メモ帳」、そういうふうに、何であるかというのを読み取ることができます。そういったツールです。

本当に小さいので、何にでも貼り付けることができます。もちろん今回は単語を登録させていただいているのですけれども、もちろん単語だけではなくてもっと長い文章を登録することもできます。そういったものを使うことによって、なかなか出てこない言葉というのを、こういった機器によって支援をすると。この効果というのが、実際に見られるかどうかというのを測定をしました。

この測定のいいところというのは、何でわざわざこういったものを作ったかというと、例えばですね、これまでの言語訓練の中で、よくやられていることというのが、こういった画カードみたいなものですよね。発語に非常に困難のある人たちに、こういった絵カードを見せて、これは何ですかというふうに発話をしてもらう。どういうふうに言葉を構成しているかというのを実際にセラピストがそれを見ながら、目の前でうまく発話するためのやり方を示したりして、言葉をどんどん言えるようにしていくという訓練が取られることがあります。そういったセラピストの先生の方々から、確かにこのカードというのは非常に取り回しが良いのでよく使っているのですけれども、たとえばもっと現実のものに、たとえばボールを使って訓練をしようと思ったときに、ボールの絵を見せてではなくて、ボールを実際に投げるようなしぐさをするとか、後は何か物を試用しながら訓練をするといったことをやりたいのだけれども、なかなか訓練の場面の中で、狭い言語療法室の中ではやりにくい所があるので、もっと自由にやれるようになったらいいなと思っているというような話を、一度聞き取りの調査を行った時に多数伺いました。

たとえば、まあ、であれば、実際にリアルな物体を使って、そのものに対して働きかけることによって、本当に言語訓練の効果があるのかということをまず調べて、それによって、もし効果があるのであれば、そういった今回のようなシステムを適用して使うということが、実際に言語訓練について効果を持つであろうというふうに考えました。そこで、今のこのシステムの評価の観点としては、実際にこういったリアルなオブジェクトですね。実際の物体を使って、それを例えば、ボールを投げるとかですね、何かカップであれば、持ってみるとか、ペンであれば実際に書くしぐさをしてみるとか、そういった動作をすることによって、言語の流ちょう性というのが向上するのかどうかというのをまず一つの観点として調べました。

そしてもう一つの観点としては、やはり言語障害、例えば失語症ですから、うまく出てこなくなってしまった言葉というのを、もう一度獲得するというか、もう一度言えるようになる、新しく忘れていたものというのをもう一度言えるようになるという、再獲得ですね。この再獲得自体を促進することがあるのかどうかということを実証的に評価しようという観点から評価を行いました。

一つ目の、まずこの流ちょう性を促進するのかどうか、ということなのですが、ただ、物品、もしくは絵カードのようなシンボルですね、そういったものを観察して実際にそれに手を触れて使用してみた時は、実際に流ちょう性に差が出るかどうかということを調べることを目的としています。次に、では実際にどうなるのかという仮説ですけれども、やはり仮説としては実際の物品を使ったほうがシンボルよりも言語流ちょう性を促進するだろうということを考えました。では実際に結論がどうなったのかというのを見てみましょう。

今回使ったのは、Verbal Fluency Taskと言って、言語流ちょう性課題という、そのものの課題を使っています。これはどれくらいあるオブジェクトを見て、ものを見て、今回の場合はものを見る場合に使ってみるという場合があるのですが、その物という刺激によって、実際にどれくらいの動詞が生成されるのか。何個ぐらいそれに関わる動詞を言えるかというのを指標として、取っています。それから、提示した実際の刺激というのは、カップと携帯電話とペンという、本当に日ごろ、日常的にありふれているものを使用しています。条件としては、そのカップと携帯電話とペンというのを、シンボルとして画カードで表示する時と、文字で表示する時と、音声で表示する時。それから実際に実物を使用してみるという条件ですね。この条件でどういった言語流ちょう性の違いがあるかというのを調べてみました。

まずですね、今のVerbal Fluency Taskを行ってみて、それぞれの条件で再生された動詞の種類、何種類の動詞が生成されたかというのを、これは数を表にしたものですね。ここを見ていただければわかるように、やはりシンボルと、画カードですね。シンボルと実物というのはほぼ同程度。実数としては少し実物のほうが数は多いのですが、こちらのほうが種類が多いということがわかりました。音声が一番少なくて、文字はそれよりも少し少ない、というような、こういった違いがあることがまずわかりました。

それと、もう一つの観点としては、今のは本当に量的な、何種類の動詞の数が生成されたのかという観点なのですけれども、今度は、被実験者の間で、どれくらい参加してくれた人たちの間で、再生されたその動詞の内容ですね、質的な部分、どういった動詞が再生されたのかというのを見てみました。ここでまとめた観点というのは、どのシンボルとか音声とか、実物とかいろいろありますが、そのどの種類がもっともよくありがちな動詞を形成して、どの種類がありがちではない、珍しいものを生成したかというのを調べました。それを見てみるとですね、シンボルのほうが、シンボルがいちばんありがちなものを生成した、たとえば、ペンであれば、「書く」とかですね。そういったものを生成しました。この文字と音声については、再生された実数自体、種類自体が少ないという違いがあるので、これは差っ引いて考えるとして、注目していただきたいのは、この実物に対する結果と、シンボルに対する結果の違いですね。実物とシンボルというのはほぼ同じだけの動詞の種類が出ているのに、どちらがよくあるものが再生されたかというのを比べてみると、実物のほうが低いんですね。この結果が示していることは何かというと、つまり実物のほうが、何か珍しい言葉をより出したということが考えられるわけです。

その結果から、ではもっと質的にそのもの自体の違い、再生された言葉自体の違いという部分に注目をしてみました。そうすると、たとえば携帯電話と、携帯電話のシンボルについて再生された動詞、実物に対して再生された動詞のトップ5位ぐらいを引っ張り出してきたものなのですが、注目していただきたいのは、このペンについてですね。ペンについて見てみると、シンボルと実物で再生された語を比べてみるとですね、シンボルでは「押す」というのが比較的上位に入っているんですね、第3位くらいに入っているんです。ペンは、「ノックする」ということですね。ところが実物のほうでは、全く、「押す(ノックする)」というような言葉が出てこなかったという結果があります。これは何でかなと後で思ったのですけれど、よく考えてみると、今回この時使ったペンのタイプがノックしないタイプのペンであったという違いがあったんですね。つまり、実物を使うことによって、この質的な検討から分かる事というのは、ノックしないものを使った場合には、その使っていたオブジェクトに関してかなり関連した反応というか、語が生成されるということがわかります。今のがまず一点目ですね。つまり再生された言語流ちょう性の違いというのは、量的な観点から見るとつまりより多くの語を再生することが出来る。ところが、再生される動詞の数は、シンボルと実際のオブジェクトでは、それほどの大きな違いはないけれども、さらに詳しく見ていくと、動詞のバリエーションには違いがあるということがわかりました。これはどういったことを意味するかということを考えてみると、たとえば実際の訓練の場面では、ペンはペンであっても、そのペンについて思うことであるとか、どういうシチュエーションで使うかというのは違っていたりすると思うんですよね。特に、日常の、家庭の文脈の中でとか、例えば茶碗と箸を使っているという訓練をしていた場合であっても、その茶碗と箸が、一般的な茶碗と箸なのか、それとも、いつも自分が使っている茶碗と箸なのかという違いはあると思うんです。自分の使っている茶碗であれば、もっとそれに関係するエピソードというのが含まれていると思います。だから、そういった文脈の違いのようなものを反映している可能性はあるだろうと。もちろんこの点に関しては、考察というか推察なので、もっとさらにきちんとした検討をする必要があるだろうけど、こういった、質的な違いがあるだろうということがまず一つわかりました。

次に2つ目の目的です。2つ目の目的は、今度は通常の物品ですね、物品を使った時と、シンボルを使った時では、記憶の成績です、実際にたとえば新たな言葉を取得するということをやろうと思ったとき、、忘れてしまった、障害によって忘れてしまった言葉というのを再獲得しようとしたときに、どちらのほうがそれを使った訓練と言うのが効果があるのかというのを調べましょうと。仮説としては、やはり実際の物品を使用している時のほうが記憶成績が向上するだろうというふうに推測しました。実際にどうだったのかというのを調べてみました。今回の課題の説明なのですが、課題としては、無意味つづりと物品の組み合わせを覚えるということをやってもらっています。参加していただいた人は、先ほどもそうだったのですが、12名の健常の被験者さん、一般の被験者さんにお願いしています。無意味つづりと物品の組み合わせをまず始めに、完全に覚えるまでやっていただきます。どういった組み合わせがあったかというと、たとえばホッチキスみたいなものがあったとすると、それに対して非常に無意味性の高い語彙、これはもう既に連想感の低い、つまり、より多くの人に無意味だと考えられやすい語彙というのが既に調べられているので、そういった語彙をマッチングして覚えていただくということを参加者さんにはやっていただいています。つまりホッチキスに対して「ヌネ」、スパナに対して「テハ」、そういうような無意味な語彙をマッチングして、完全に記憶するまでそれを学習してもらうという課題をやってもらいました。七つの物品を、無意味なものと組み合わせて、完全に覚えるまで何回も繰り返してもらうということをやっています。それからその次に、翌日もう1回、このたとえばこのホッチキスというのはなんというものでしたか、というのを再生してもらう。それから今度は2週間後にもう一度それをやっていただくと。翌日と2週間後にどのくらいそれが定着しているかということを追跡するということを行いました。この課題というのは、もちろんそれが、失語症の人が再び語彙を獲得する過程を完全にトレースしているとはとても思いませんけれども、少なくとも新しい言語のラベルをものに対して与えたときに、それが名詞であれ動詞であれ、どの程度定着するのかというのを実際の物品を使うという条件と、単純に絵を見るだけという条件でどう違うのかというのを調べたというものだと思ってください。

その時の成績ですね、こちらはまず完全学習までにかかった試行の数というのを、比べています。つまり、何回やったらその無意味なものとか無意味な語彙というのを覚えられたかという違いを調べています。このオレンジのほうが実演の、実際にものを使いながらそれ対して「ヌネ」とか「テハ」とか、そういった無意味語を割り当てて覚えた時。こちらの青いほうが、シンボルを見た時、見ながらそれに対して割り当てたというような時ですね。それを比べてみると、明らかに実演しながら覚えた時のほうが優位に、少ない試行数で記憶することが出来るという結果が出てきました。さらにこちらは、1日後と2週間後の被験者さんの再生する時の確信度ですね。つまりたとえば、次の日にホッチキスを見せて、これはなんでしたか?と言って、うん、これは「テハ」ですね、と答えたとしますね。それと同時にそれに対する確信度を1から5段階で取っています。1から5までで言うと、どれくらい自信がありますかというのを同時に評定しているわけですね。そうして見てみるとですね、実際に下の線、黒い線のほうが、実際にこれは使用しながら確信度を答えたもので、こちらが上のピンク色の線のほうが、見て観察しただけでそれに対しての確信度を答えた場合ですね。そうすると、次の日と2週間後では、時間が経つにつれて確信度が下がっているんですね。これ、実際にやった時のほうがより確信度が低いように見えますが、この効果というのは、統計的には出ていません。両方とも同じように、ただ時が経つにつれて自信が下がっていったという結果しか出ませんでした。確信度についてはこういう結果です。

ところが、こちらは実際に記憶の成績です。どれくらい正しく、無意味な語というのを再生することが出来たかということを見てみると、これが非常に面白い結果なのですが、次の日では、実際に自分でやったときと観察した時では、実際に自分がやった時の方が成績が低くて、ただ観察しただけの時のほうが成績が高かったんですね。ところが、2週間後になってみると、この関係が逆転していて、観察しただけの時よりも実際に自分で使ってみた時のほうが、再生の成績が良くなるという結果が出ました。こちらは統計的に有意な結果が得られています。つまり、ここから言えることというのは、非常におもしろい結果なのですが、確信度には差がないわけですね。実際に使用する時と、ただ見るだけでは、確信度には差がない。にもかかわらず、時間が経ってもより覚えているものというのは、実際に使用したもののほうを覚えている。だから本人は、実際にやってみている時ときというのは、本人はより多くのものを2週間後に再生できているなんてとても思っていないわけなんです。とても思っていないのにも関わらず、自覚はないのに、使っていた条件のほうがよりたくさんのことを再生することができるという結果が得られるという、そういう違いが得られています。

今後の課題としては、今やったものというのは、本当に試作品の段階で、まだ安定性なんかが低いものなんですよね。実際に効果があるらしいということは、今のところこの検討の結果から分かってきているので、今度はこの実際の装置というのをさらにもっと安定性を上げて、使用出来るのものを作ろうと思っているということと、今のはあくまで実験室段階での評価、実験室段階での評価なので、今度はそれをより臨床に即した場面で実際に患者さんに使ってもらったときに、どの程度の効果があるかという評価を比較する必要があるだろうというふうに思っています。これを、だいたい、本年度来年度をかけてやっていければいいなあと思っているという段階です。

以上です、どうもありがとうございました。(拍手)