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平成18年度厚生労働科学研究
障害保健福祉総合研究成果発表会報告書

当日資料 中邑氏資料

エビデンスを基にした実践とは

主任研究者 中邑 賢龍
(東京大学 先端科学技術研究センター)

●ハイブリディアンの時代

障害の有無に関わらず誰もがハイテク機器を自分の能力の一部に取り込んで生活するようになってきています。カーナビに頼るドライバー、分からないことはGoogleで検索して生活している人も多いのではないでしょうか。このようにハイテク技術を生活能力として取り込んだ人を我々はHybridian(Hybridからの造語)と呼ぶことにします。障害のある人も同様で、支援技術(AT: Assistive Technology)を利用することで新たな能力を獲得する時代が到来していますが、障害のある人にとってそれは容易ではないようです。

●なぜハイテク国家日本で支援技術の利用が進まないのだろうか?

1990年にホーキング博士が来日し、コミュニケーションエイドで講演する姿は多くの人に感動を与えました。それから16年、わが国でも様々な製品が市販され、障害のある人に利用されてきましたが、生活の中で実用的にコミュニケーションエイドを利用する人を目にする機会が増えたとも思えません。

障害のある人に対する優しく保護的な態度が、コミュニケーションエイドなどの支援技術の利用機会を奪っているかもしれません。1つだけ確実なことは、支援技術を利用した効果の科学的検証が不十分であるため、その開発や普及を動かす力が生まれていない点です。そのため、何を優先すべきかプライオリティもつけられず、主張の強い人たちの提案がその場限りで実施され、連携が叫ばれながら様々な機関を結びつける求心力もありません。結果として、支援技術を組み込んだ進学や就労などの社会システムが整備されないままです。

●公平な社会の実現の鍵となるエビデンス

わが国において、福祉機器に対する開発助成や利用者に対する給付は随分と行なわれてきましたが、それでもまだ不十分だと言う声を聞きます。それを主張する人たちも、無ければ困ると言いながら、どこに何がどの程度欠けているかについて、誰も明らかにしていません。その効果の検証無しに今後も予算が投入されるのは合理的とは言えないような気がします。

感情的な議論だけでなく、また、意見の強い当事者に引きずられることなく、多くの人に公平に支援技術のメリットが及ぶ社会の構築には、科学的なエビデンスを求める必要があります。エビデンスに基づく長期的なビジョンに立った取り組みがこれからのテクノ福祉社会を実現するに違いありません。