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平成18年度厚生労働科学研究
障害保健福祉総合研究成果発表会報告書

当日資料 苅田氏資料

<支援技術導入の効果を科学する>

視覚障害者の支援技術利用に関する効果測定

愛媛大学教育学部 苅田 知則

本研究では、視覚障害者の生活を支援する支援技術の費用対効果と、支援技術利用が当事者に及ぼす精神的効果について検討を加えた。

1.費用対効果

(目的)支援技術の利用は、日常生活における困難さの解決という点で、問題解決状況といえる。問題解決という目標を達成するための手段としては、支援技術の利用と、人的資源の利用が想定される。したがって、それぞれの手段を利用した際の費用を概算し、各手段の費用対効果を検討した。

(方法)盲ろう(弱視難聴)者1名に、(1)外出状況、(2)事務処理状況について、現在保有している支援機器購入費用と、人的資源利用に必要な費用についてヒアリングを行った。

(結果)(1)外出場面に関しては、通訳介助者が必要不可欠である。調査協力者も白杖を使って一人で外出することは可能であるが、公務等では必ず通訳介助者を2名依頼している。なお、白杖と電子白杖を併用するには熟達が必要であり、調査協力者は電子白杖も購入しているが、日常的には利用していない。ゆえに、外出状況では、人的資源を利用することが前提であり、費用対効果も人的資源の方が高いことが考えられる。

一方で、(2)事務処理場面に関しては、パソコンは必需品であるという。特に、調査協力者の場合、盲ろう者友の会の事務局を担当しており、その事務処理においてワープロ、表計算、Webブラウズ、電子メールソフトは必要不可欠である。調査協力者は、職場・自宅・携帯用に3台のパソコンを購入し使用しており、周辺機器・補聴器等を含めて購入には合計120万円程度(耐用年数5年)必要である。パソコンの耐用年数5年間を人的資源で同程度の処理(時給700円、週10時間)を行うためには、最低168万円が必要になる。また、ICT技術を使わない場合、調査協力者だけでなく、会報等の連絡を受ける会員側にも通訳介助者が必要となり、2倍の人件費が発生する。これらのことを考えると、事務処理状況に関しては、支援技術を利用した方が、費用対効果が高いといえる。

2.精神的効果

(目的)障害者が支援技術を利用するのは、費用対効果上のメリットだけではなく、他者の支援がなくても一人で困難さを克服できる(課題達成ができる)ことにある。その意味では、費用対効果だけでは支援技術の効果を十分に検討したとは言えない。そこで、本研究では、日常的に支援技術を利用している視覚障害者に、支援技術を使わない状況(困難条件)を設定し、統制条件と困難条件での精神的負荷量(ストレス量)を比較した。

(方法)視覚障害者2名(全盲、弱視難聴)に対して、各協力者が最も支援技術の依存度が高い状況について、使用する状況(統制条件)での課題遂行と使用しない状況(困難条件)での課題遂行を実施し、生理指標を用いてストレス量を測定した。ストレス量の数量化にはニプロ社の「こころメーター」を利用し、唾液中のアミラーゼを測定した。

(結果)事前に行った予備調査の中で、調査協力者の一人(弱視難聴)は、小さなテレビとワイヤレスヘッドホンを利用することで、初めてテレビ視聴が面白いものだとわかったと述べている。視野狭窄がある調査協力者にとっては、少し離れたところに座って小さな画面を使って画面全体を見て、補聴器ではなくワイヤレスヘッドホンを使うことで雑音が少ない音声を聞き取ることができるという。こうした状況は、人的資源で補完が難しい例と言えよう。なお、ストレス量の数量化調査は現在継続中であり、詳細は発表時に示す。