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発表会
安心と安全
-在宅障害者とともに創るチームのかたち-

当日資料

厚生労働科学研究費補助金障害保健福祉総合研究事業
「在宅重度障害者に対する効果的な支援の在り方に関する研究」
平成18年度総括・分担研究報告書の概要(まとめ)

 

 

本研究班は、平成17年度から3ヵ年の計画で研究を遂行しており、これまでに、「重度障害の定義」、 「遷延性意識障害者およびALSによる障害者の生活実態と支援状況調査」を実施し、複雑で重 度の障害者の療養生活実態及び支援の実態と支援ニーズを明らかにした。 平成18年度は、これらの結果をもとに、「遷延性意識障害者に対する看護プログラムの作成」及び 「重度障害者に対する療養生活支援の実態調査に基づく効果的な関係職種連携のモデル作成」を検討し、 以下の通りまとめた。

本研究組織は4つの作業班を組み、それぞれが課題を分担して、相互の研究情報を交換し討論して それぞれの研究結果をまとめた。

Ⅰ.在宅ケア関係職種間連携の検討

研究目的:

米国在宅ケアシステム(HHAを中心に)における「関係職種間連携システム」と日本 の法律的視点からみた在宅ケア職種間連携の現状の比較検討。

研究方法:

米国職種間連携システム、及び日本の法律専門家の聞き取り調査。文献調査。

結果:

1.米国と日本の在宅ケアシステムの違いとして、以下の点が明らかとなった。

①在宅サービスの範囲とケアの業務分担:米国では、サービス利用者に対する「直接的ケア」を より細かい「業務」として分類している。実際は看護師が実施せず、無資格の補助職員である Unlicensed Assistive Personnel(以下、UAPとする)に委譲する業務についても、 看護師の責任において委譲するという点を明確にした連携方法をとっている。

②在宅ケア機関の管理者とその任務及び従事者との契約関係(Job Description等): 米国では、任務の遂行にあたり、管理者がその所属機関における「提供すべきサービス」や「方針」「連携及び評価手順」等を 明示し、各従事者との間で、「契約書」(または「Job Description」) による契約を行っている。

③複数のサービス提供機関間の提携:米国では、契約書によりサービス提供について、 事業所の任務や責任を明確化している。その契約とは、同一利用者に対して複数の機関が関わ る際の、複数機関間の「提携」を執り行なうものである。医師を中心としたケアプランに対す る実務レベルの機関間の調整を文書化している。

④提供するケアの決定と外部評価:医療・治療計画について、必ず医師の指示(意見)の下、実施 されている点は日米相違ない。しかし、米国の場合はそのケアプラン項目に、「診断」や「薬剤・治療法」等から 療養生活に関する幅広い内容が含まれている。ケア評価については、日米ともにモニタリング機能はあるが、 米国では看護師による「初回評価訪問」やサービス提供機関組織内でも「専門職従事者グループ」による定期的な 評価がされている点が異なっている。

2.米国と日本の在宅ケア関係職種の連携の違いとして、以下の点が明らかになった。

有資格者である専門職と無資格である職種の間には厳密な委譲の規定(委任業務内容、委任のために必要な UAPの条件、教育・研修内容等)や段階、委譲方法(指示方法と報告方法の明記)が明らかにされている。

米国において「委譲関係」が成立する要素は、①業務における責任の一元化(例:看護業務につ いての責務は看護師のみにある)、②「委譲」可能な業務の明確化、③法律による委譲の条件、委譲方法 (指示・報告)の明記という点である。

一方、日本の在宅ケアの関係職種についても、米国同様、様々な職種が関係しているが、その業務内容(分担)を はじめ背景要因も日米では相異があるため、米国のシステムを即、応用することは困難である。 しかし、一定のケアの質保障のために、医療(看護)と介護の連携を安全かつ効果的に実施できるよう、 米国のシステム(ガイドライン)を参考としながら、わが国固有の現状に根ざした、職種間連携方法を確立する必要がある。

Ⅱ.遷延性意識障害者の療養生活支援の実態調査及び看護プログラム開発・評価

研究目的:

1)在宅遷延性意識障害者数の把握および介護の現状、在宅療養の継続に必要な要因の探求、 障害者自立支援法施行に伴う介護上の問題の明確化、2)在宅遷延性意識障害者の重度化予防と 介護負担の軽減を目的とした看護プログラム開発と評価

研究方法:

目的1)の研究方法:①質問紙調査(対象:訪問看護ステーションを利用している意識障害者と主介護者、遷延性意識障害患者・家族会)、 ②遷延性意識障害患者・家族会に所属している患者・家族への聞き取り調査

目的2)の研究方法:①長期に在宅療養を続ける遷延性意識障害者の看護による回復過程の分析、 ②意識障害者の重度化予防、回復を目的とする看護プログラムを作成し、重度の在宅障害者に新 看護プログラムを実践・有効性の評価。

結果及び今後の課題:

  1. 平成17年度遷延性意識障害患者の実態調査結果を再検討し、全国調査に向けて新たな調査票を作成し、 遷延性意識障害者・家族会員に対して10月に予備調査を実施した。予備調査結果からは2006年に施行された 障害者自立支援法において、医療依存度の高い意識障害者はサービス提供の事業所との契約が困難であることや、 一部負担金による経済的な圧迫などの問題が生じていることがわかった。 この結果を調査票の見直しに反映させ、全国の特性ある主要地域を選択し、調査を進行中である。
  2. 在宅遷延性意識障害者の重度化予防と介護負担の軽減を目的とした看護プログラムを開発した。
  3. 新看護プログラムを5名の対象者に実践した。新しく開発された看護プログラムは、これまで不可能と 言われてきた強制姿勢としての除皮質硬直、さらには年余を経た関節拘縮の改善に対して、 従来の理学療法訓練より著明な効果をあげることができた。また、身体各所の関節拘縮が改善・解除されたことで、 患者の表現手段も拡大し、コミュニケーションをはじめとする生活行為の再獲得を促進させることができた。 身体機能の改善のみならずコミュニケーションレベルの向上、ならびに家族の介護負担を軽減する効果を確認した。
  4. 今後の課題は、新看護プログラムを普及させ、その効果を更に確実なものにしていくためには、症例数を増やして 改良を加えていくこと、さらには新看護プログラムを実践できる看護師の研修の機会と場を設ける必要がある。 また、短期集中的看護を実践できる施設の確保を含めたシステムの構築、ならびにレストパイトプログラムの検討などが必要である。

Ⅲ.ALS療養者と介護者双方の生活を支援するケア提供のあり方に関する調査

研究目的:

ALS療養者の介護における諸問題の原因を分析・検討し、障害者自立支援法の制度的枠組みの中で、ALS療養者と介護者双方の生活を支援する介助 /介護サービスの在り方について検討。

研究方法:

障害者自立支援法施行と同時に、24時間体制による介護派遣実施事業者や協会支部支援者、ALS療養者に対する事例調査(制度移行に伴う相談事例の検討)、 及び聞き取り調査。

結果:

ALS療養者の介護において現在生じている諸問題の原因を分析・検討した結果、以下のような解決策の必要性が明らかになった。

  1. ALS療養者への支援:「制度利用の手引き」(仮称)と「自立支援プログラム」(仮称)をそれぞれ用意し、医師によるインフォームドコンセントに平行して受講を進める システムを確立する。
  2. 同居家族に対する支援:家族には介護をしながらも、自由で自己実現が目指せる生活を送ることができるよう支援する。 そのため、地域の福祉行政には、家族構成員の個々の福祉がALS療養者の介護によって低下することがないよう見守り、 支援する体制作りが求められている。 具体的には、障害者施策と育児や高齢者の健康増進に関する制度の併用を進める。そのためにも、個々の場面での ソーシャルワークが十分に工夫され、なされること、制度と実際の支援との架け橋になるファシリテーターの活動に対する 積極的な評価が重要である。
  3. ケアのプロバイダー(病院・施設、訪問看護、介護派遣事業所など)に対する支援:ALS療養者の尊厳を守るために必要な介護の具体的内容(日常的ケアの中心は「見守り」、「身体の微調整」「痛みからの解放」、 「コミュニケーション介助」「社会参加支援」等であり、医療的ケアに関する内容ばかりではない)の重要性を認識するための研修、 および看護と介護、病院施設と在宅における業務の分担と連携(ケアミックス)のためのケアシステムを新たに創設し推進する。 また、従業者の安定的確保は制度の持続性を高める上でも最重要課題である。そのために、ケアワーカーの資産形成や福利厚生において、 他職種と比較して格差が生じないように行政的に支援することは重要である。
  4. 支援の時期:告知直後から将来にわたって実施する。
  5. 支援の目的・理念:ALSの療養に関わる全員が、ALS療養者における自立支援の理念を共有すること。また、ケアマネージャーや相談支援員は ケアプラン作成において、介護保険と自立支援法のサービスを効果的に組み合わせ、利用者と同居家族双方の生活の支援となるように 心がけること。(患者家族の生活をケアプランに合わせるのではない)
  6. サービスの在り方:在宅と病院施設を柔軟に利用できる包括的な支援の在り方の枠組みとして、重度包括支援サービスが利用できる。ただし、報酬の包括払いから 結果的にサービス単価が安くなり、収益減になる恐れから、全国的に、これを実施する事業者がほとんどいない状況にある。 よって、重度包括支援サービスの制度設計を再度分析しなおし、上記に掲げたような柔軟性のある支援を実現するシステムを考案することが課題と して残された。

Ⅳ.看護と介護の連携モデル(ケアミックスモデル)作成に関する研究

研究目的:

訪問看護師による24時間滞在型のケアが困難な実態において、「吸引」など24時間・365日、いつ発生するか予測できない状態では、 在宅重度障害者および介護家族を支援するために、看護と介護のケアミックスが必要となる。ケアミックスの実態から現実的な連携の 在り方を検討し、研修プログラム作成の基礎資料とする。

研究方法:

  1. 厚生労働省通知等をもとに、理想的なケアミックスモデル試案を作成した。
  2. 訪問看護師と訪問介護員あわせて23名にインタビューガイドを用いて1時間30分程度の インタビューを行い、ケアミックスが発生する医行為を伴う在宅重度障害者のケアをどのよ うに連携して実施しているかを把握した。
  3. 質問紙によるケアミックスの実態調査
    訪問介護事業所を併設している訪問看護ステーション239ヶ所を対象とし、在宅重度障害者への10項目の医行為に関する訪問看護と 介護の連携状況を把握した。

結果:

  1. インタビュー調査の結果では、個々の在宅重度障害者宅での技術指導や観察のポイントなど の情報共有の必要性が確認された。また、看護と介護が導入されている在宅重度障害者の医行為に 関して10項目を抽出した。
  2. 訪問看護ステーションへの看護と介護の連携に関するアンケート調査では、抽出した10項目 の医行為について、それぞれの職種が関与する状況、関与する不安の有無などの実態把握を行った。
    ホームヘルパーがなんらかの行為を実施している割合が高かったのは、「口腔内・鼻腔内吸引及び 気管内吸引」が必要な状態で、不安を持ちながら実施していることがわかった。また、その場合は、 訪問看護師による同行訪問、指導・助言の実施率が高かった。一方、ケアマネジャーからの両職種が 同時間帯に関わることに対する苦情、医師も含めた連携の必要、ホームヘルパーへの指導時間が負担 など制度上の課題が多く出された。
  3. 在宅重度障害者のケアミックスの実現に向けて
    必要な場合の「吸引」の実施については関係者の了解と責任の所在を明確にするために、「同意書」、 「連携協定書(仮)」を作成する。看護師はサービス開始時期から、個々の在宅重度障害者の住まいで、 ケアチームのメンバーとケアカンファレンスを実施し、本人の心身の状態、観察のポイントと結果の報告のしかた、 ケアを提供するときの注意点を申し合わせておく。
    また、吸引に関する知識・技術の指導・確認を行うことが不可欠である。体制的には訪問看護ステーションと 訪問介護事業所が併設されていること、ケアマネジャーは保健師・看護師の保有資格者であることが望ましい。

実施内容に関しては、それぞれの職種に対して、実質的なサービス提供とその責任に見合った制度上の評価が必要である。 障害者自立支援法のサービス「療養介護」の在宅版を制度上位置づけ、訪問看護と介護のケアミックスを活用すべきである。 ホームヘルパー個人への過重な負担軽減と、ケアの安全性・質を保障すべきである。