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平成17年度厚生労働科学研究

発表会:「障害のある人をサポートする情報を共有するには?」

-言語的意思伝達に制限のある重度障害者に対してIT技術等を活用した意思伝達手段の確保を支援するための技術開発に関する研究-

講演1「情報共有で障害のある人とのコミュニケーションを変える」

中邑 賢龍(東京大学 先端科学技術研究センター)
坂井 聡(香川大学 教育学部 障害児教育講座)

中邑:他のセッションが1時までということで、少し人がまだ集まりが悪いようですが、時間が参りましたので、そろそろ始めさせて頂きたいと思います。

この午後のセッションは厚生労働科学研究発表会という形で、財団法人日本障害者リハビリテーション協会様のご支援によって開催されるものです。企画者は、東京大学先端科学技術研究センターの中邑、私が企画者となりまして、これは昨年一昨年度と2年間にわたりまして、厚生労働省の厚生労働科学研究費の助成を受けましてやってきました研究の成果をここで発表するものです。

ここでは3つのコマに分けて今回発表させて頂きます。まず最初の時間はこの中邑の方から「情報共有で障害のある人とのコミュニケーションを考える」ということでお話をさせて頂きたいと思います。これはこの研究の概略をお話することでもあります。この後のセッションでは、皆様のプログラムにもございますように、丸岡玲子さんと、香川大学の、坂井聡さんは我々の共同研究者になります、から「情報共有を保障する道具・サポートブック」というものをご紹介頂こうと思います。三番目は、最後に我々の開発しました、いわゆる携帯電話を用いた情報共有支援システムにつきまして、広島大学の巖淵さん、巖淵先生も我々の共同研究者になりますから、そちらの方から発表させて頂きたいというふうに考えておりますのでよろしくお願い致します。あと、私の横にいるハシクラカヨコさん、ハシクラさんにもちょっとお手伝いを頂きたいと思いますので、よろしくお願いします。

では、まずなぜこういう研究を始めたかという、この辺のところからお話をさせて頂きたいと思います。

福祉のサービスの実現において、質の高いサービスというのが求められるようになってきているわけです。これは何度も皆さん、お話を聞いておられると思うのですが、できないからできるようにしようというふうな、いわゆる訓練を中心にしたADL日常生活動作の獲得というところから、実は当事者の意思を尊重することによって、本人の意思を最大限に引き出すことによって質の高い生活を実現しようという、そういう方向性に、今動いてきています。その中で、AAC(拡大代替コミュニケーション)という研究が、実は盛んになってきていまして、その中で、障害の重い人とのコミュニケーションというものも確保できるようになってきている、それはその人の能力に応じた形での確保が可能になってきているということです。

ところが、AACの技法を使えばすぐコミュニケーションが確立できるかというと、実はとんでもない。時間がかかるものは時間がかかるわけです。つまり即効的ではないということです。福祉施設の職員さん、あるいは親御さん、あるいは学校の先生方、こういった支援者の方々にとってみると、これは非常に負担の大きいことでもありますし、そのコミュニケーション知識の技量に依存する面が常に大きいということです。だから一見簡単なコミュニケーションの確立に見えるのですが、実はそこには非常に大きな努力を要するということが分かっているわけです。

これまでAACの研究の中心というのは、入力の保障と出力の保障ということが中心であったわけです。例えば、聞こえなければ補聴器をつけましょうかとか、しゃべれなければVOCAと呼ばれる音声出力装置を使いましょうとか、あるいは絵カードを使いましょうといったような代替機能を用いるということが中心でした。これは入力と出力という、このことを中心として行われてきたわけです。ここに書いてあります。聞こえなかったら補聴器、しゃべれなかったらこういうふうな文字盤を示すみたいなことをしましょうと。

実はここで言えるのは、困っている人は障害のある人も、その周りの人も同じだということです。周りにおられる方も実はコミュニケーションに困っているということです。ここが実は研究のメインになるわけです。コミュニケーション障害を支援するというと、ついつい我々は当事者の人を支援しようというふうに考えるのですが、実はその周りの人も支援してあげないと、みんな困っているということです。

もう一つ重要なのは、重度のある人にとってみて、入力と出力を保障するだけで、コミュニケーションは成立しないということです。これももう一つ大きなポイントになります。

例えばこういったような、いくつかの例をあげてみたいと思います。例えばどなたかにお願いをしてみたいと思うのですが。こちらの方にお願いしてもよろしいでしょうか。ちょっと前に出てきて頂けますか。お仕事は、失礼ですけれども。

会場・イシカワ:重度の障害の施設で。

中邑:重度障害のある人の施設で働いておられるということですね。お名前が。

会場・イシカワ:イシカワです。

中邑:イシカワさんは身体障害の方の施設で。

会場・イシカワ:重度重複の。

中邑:重度重複の方の施設で。ちょうどよかったです。

重度重複障害に勤めておられるイシカワさんが、中邑さんという初めて入ってきた方の、入所者の方に、お茶を飲ませるという場面になったとしましょう。ここにお茶があります。ではどうぞ、イシカワさん、この中邑さんにお茶を飲ませて下さい。というふうな事態になったとしましょう。どうされますか。中邑さんここに座っていますのでやってみて下さい。こういう形になります。

会場・イシカワ:中邑さん、お茶を飲まれますか。お茶を飲みましょうか。いらないですか。はい。

中邑:こうやると、イシカワさんをいじめているようですね。録音機能ある方はどうぞ録音して頂いて結構です。ビデオ撮影も全然かまいませんのでどうぞ。

こういったような場面で、今困りましたよね。実は中邑さん、全然飲めてないのです。普通こういう場面はあまりないわけです。いきなりという。やはりその人の情報がある程度あるわけです。ではイシカワさんにこういう情報があります。中邑さんは、飲もうとすると緊張が起きて口が開けにくくなりますので、口を開けて飲ませてあげて下さい。そういうふうに、だいたい申し送りというのはそういうふうになります。ではやってみて下さい。

会場・イシカワ:口を開けて。中邑さん、お茶を飲みますか。はい。口を開けます。手をよけて下さい。

中邑:なかなか困っておられますね。これどうしたらいいでしょう。こういう場面ってよくありますよね。口を開けて飲ませましょうと。口の開け方は人によって全然違いますよね。今のみたいな形で開けられる方って確かにおられますし、もっとここら辺からこうやって下げた方が開けやすい人もおられますし、こういう姿勢ではなくて寝てからの方がいい人もおられますしというふうに、色々あるわけですけど、そこのところを紙で書くのはすごく難しいと思います。そうなんですよね。どうもありがとうございました。ちょっと大変なお仕事をやって頂きまして。

というふうに、実は、一見簡単に思うようなことなのですが、お茶を飲ませて下さいという一言そのものも、実はイシカワさんはこういう失敗を繰り返しながら、その入所者の方にお茶をぶっかけながら練習をされて、そして上手になっていかれるという、こういう一つの流れがあるわけです。

ところが一年経って担当が代わって、そのお隣の方に代わったとしましょう。そうしたら、中邑さんはまたお茶をかけられながらお茶を飲んでいくということになっていくわけです。

つまり、こういった情報の伝達は、障害が重くなればなるほど非常に難しいということになるわけです。

では今度は、分かりやすく説明してみましょう。ハシクラさん、参加者の方に届ける資料が収納庫に入っていますからお願いします。ハシクラさん、参加者の方に届ける資料が収納庫に入っていますからお願いします。

ハシクラ:どこの収納庫に入っているのですか。

中邑:収納庫とは何か分かりますか。

ハシクラ:倉庫。

中邑:倉庫。それはすごい。それは、アネックスホールの奥の方の収納庫に入っています。それをこの、国際会館の担当の方にお願いして鍵を開けてもらって取って来てください。ちょっと難しかったかな。担任の先生の方の顔を。

ハシクラ:分からない。

中邑:分からない。ごめんね。

実はハシクラさんは、こちらにいます共同研究者の、香川大学の坂井さんの教え子さんでいらっしゃいます。現在、香川大学の、どこで働いているんだったっけ。

ハシクラ:坂井研究室。

中邑:そこだけでなく、一番主に働いているのはどこだったっけ。

ハシクラ:香川大学生協で働いています。

中邑:そうですね。主に働いているのはそれだったら分かるのです。では、常勤で働いているのはどこ。常勤というのはずっと、いつも、毎日毎日働いているところ。

ハシクラ:自分の持ち場。

中邑:うん。持ち場はどこかな。

ハシクラ:洗浄室。

中邑:洗浄室。どこの洗浄室。

ハシクラ:返却口。

中邑:返却口。大学の生協の返却口の洗うところで、ずっと毎日働いて下さっているのです。それで僕たちは、坂井先生は美味しい、生協のご飯を食べているということになるわけです。その後、ハシクラさんは坂井研究室に行って、毎日何分くらい働くの。

ハシクラ:えっと。

中邑:意地悪いね。

ハシクラ:15分。

中邑:15分働くんだ。何曜日と何曜日に行くんですか。

ハシクラ:月曜日と火曜日と水曜日に行きます。

中邑:というふうに。ごめんなさいね。ハシクラさん。いじわるな質問をして。