音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

平成17年度厚生労働科学研究

発表会:「障害のある人をサポートする情報を共有するには?」

-言語的意思伝達に制限のある重度障害者に対してIT技術等を活用した意思伝達手段の確保を支援するための技術開発に関する研究-

講演1 「情報共有で障害のある人とのコミュニケーションを変える」

中邑:だいたいそうです。人間ってそうなんですよ。いつも同じ話題を繰り返していくとみなさんどうなりますか。いつもどこ行っても1300の話しかしませんから、だんだんみんな嫌がって近づかなくなっていく。ということが実際に起こってくるわけです。

子供たちってそうじゃないですか。特に、自閉性、子供はみんな同じです。大人になると自閉性傾向がある方って、同じことをずっと繰り返されるという方が、たくさんおられると思うんですね。皆さん、また同じ話を聞かなければならないかと思う方もたくさんおられます。

僕は最近、毎日電話がかかってくる。先生、今日紙コップ、450円。今月は4535円たまった。じゃあね。毎日紙コップを何個拾ったか。大学の中には紙コップのリサイクル機があって、それを入れて10円ということで生活しておられる方がおられる。毎日間違いなく報告があるという。これは僕は楽しいんですけど、おそらくほとんどの方、嫌になると思うんです。

ここで、支援者としていったいどうするかというと。はい、やーい、今日阪神勝った。

坂井:えっ、ケンちゃん、阪神ファンだった。俺巨人ファンだからなー。

中邑:あー。あー。

坂井:今日は負けたね,

中邑:これだけの話が面白くなるということですよね。次の日は先生給料でたか。先生いつもかっこいいな。こういう話題を周りの人が入れ替えるだけで、実は話題というのは非常に豊富なものになっていくということです。ここらにあるVOCAというのは一つの言葉しか入らないVOCAですけど、そういう話題を提供するというか、記憶エイドとしては不適切ですね、話題を提供するものとしては非常に有効なものです、ということになるわけです。写真もそうですね。

坂井:我々もまた、むしろ私の方が寄って来て見せてほしい。

中邑:そうですね。そういうふうな題材があれば人が寄って来るようになるということです。そうすることでコミュニケーションの機会が増えていくということですね。それだけではありません。写真なんかも一つのいい題材です。

坂井:そうですね。僕は連絡帳をインターネットで送ってたんですけれども、必ず、その日撮ってあった写真をぱしっと撮ってインターネットに貼り付けて、メールで送る。例えば携帯電話の写真でもいいと思うんですけれども、それを見ながらおうちでお話をするということができれば、学校でやったことを思い出してお母さんと話をできる。逆におうちでやったことを学校にそうやって送ってもらえば、それで見ながらお話ができるということになります。

中邑:そうですね。あるいは、音だってそうですね。この中に着歌を入れておく。美空ひばりの音楽を入れて、おじいちゃん、おばあちゃんのところに行く。歩きながらいつも美空ひばりの音楽が流れているヘルパーさんがいたら、どうです、考えただけで楽しいですよね。こういうふうなことで、あー、あんたの歌、演歌だ、という話が成り立つという、これも一つの話題作りです。

ですから、我々の身の回りにはそういう題材がたくさんある。もっとそういう活用をしましょう。ただ、そこで重要なのは、そのおじいちゃんやおばあちゃんが、美空ひばりが好きだという、そういう情報を持ってるかどうかということが重要であるということです。そうですね。その時にキャンディーズの音楽を聞かせても、ちっとも面白くない。

坂井:キャンディーズならまだいいかもしれませんよ。でも最近のモーニング娘。とかはわかないでしょうね。

中邑:そうですね。といったようなことです。本当に、話題としては単純なことですが、実はそれが非常に難しいということです。

もう一つは、興味を共有するということで、コミュニケーションの相手を知るということ。例えば、これは話題だけではなくて、例えば食べ物が何が好きかとか、好きな場所はどこかとか、こういったようなコミュニケーションの相手、そのものに対する色々な情報というものも、我々は所有していなければいけないということです。

坂井:そうです。皆さんも共有して下さい。今日は、実は、今日のプログラムの基本を決めたのは中邑先生なんだけれども、1時までは‘ネットワークを作りましょう’という会議をしていて、1時から次のセッションが入ってたりするわけですよ。それで、坂井おまえは長い間やり過ぎたとか言って、引っ張り出されたような状態で、ネットワークの方からもブーブー言われて,大変だったんです。そういう人なんです、この人は。それでその後、こういうふうに共有するだけで、中邑先生のイメージが皆さんと共有できたわけです。分かりましたね、皆さん。

中邑:少々間違えても、皆さん、怒らなくなるんですよ。先程も午前中、坂井のセッションに行って、お前いつまでやってるんだ、早くやめろと。

坂井:半までですよ。

中邑:え、20分じゃなかった。

坂井:というわけですね。本当に、セッションの中乱入してくるわけですよ。お前20分までだろうと言って。いや半ですよって言ったら、一回引いたんですけれども、もう一回くらい見に来て、ちゃんとプログラム見て、ちゃんと帰って行きましたけど。そういう人をとても怒れませんよ、私達は。笑えることを共有できることが分かっているから。

中邑:そうなんですよね。相手がこうだと知ることによって、上手く付き合えることってあると思うんです。それを知って頂く。

障害を開示するということは、これは烙印を押す、スティグマを作るということで反対する人もいますが、僕はこれからの障害のある人たちの生き方というのは、障害情報をまさに共有していくことだと思います。同じ人間として、同じ生活をする人間として一緒に共にやろうという時に何が重要かというと、その人の障害特性を知るということが一番重要であるということです。

この部分というのは、今、個人情報保護法案等もスタートして非常に難しいところでもあるんです。ですから、当事者がその情報を開示するというふうな、いわゆる決定をもっていくということが非常に重要です。

我々は、今回のシステム、これはまさに個人情報を人に開示するシステムなんですが、それを作るにあたって、法律の専門家等を入れてずいぶん議論したわけです。今の法律上でいいますと、当人が承諾していればそれは何ら問題はないということです。そういうことです。

ただ問題は、知的障害の方。こういう方の場合、どうするかということになるわけです。知的障害のある方の場合、成人していない場合は、これは親権者の承諾があればいいということです。ところが、その人が成人してからその後というのが問題になるわけです。実は、後見人の承諾がいるということです。ところが、今の後見制度がスタートしても、後見人をたてている知的障害のある方、要するに判断能力の無い方というのは、ほとんどいないということです。こういうふうな世の中の整備の遅れというんですか、世の中の人の意識の遅れというものが、実はこういったようなことを進めていくうえでの、一つのネックになっているということが事実です。

坂井:後見人の方、知っているという方、ほとんどいらっしゃらない。

中邑:ちょっとお話して下さい。

坂井:どうですか。後見人の制度ってことで知っていらっしゃる方、ちょっといたら。

会場・女性:はい。

坂井:名前は聞いたことある。

会場・女性:名前だけ聞いたことがある。

坂井:前聞いたことある方が半分くらい。

中邑:そうですね。

坂井:自己決定とか自己責任で生活できなくなる方が、契約をして、弁護士さんとか、人権擁護の仕事をしている人たちに、自分の人権を守ってもらう、例えば貯金の引き出しということであったりとか、生活費用をおろすことであったりとか、自分でできない時に依頼をして、別の方に色々とサポートしてもらうという制度の機会があるわけですけれども。

中邑:そうですね。ですけどこれは非常に重要なポイントになっていくと思います。特に知的障害のある人たちと関わる方という者は、これからやはり彼らを守るという意味でも、そういう後見人をきちんと立てていくということを、是非お勧めしたいと思います。

では実際に、話をもう少し進めていこうと思うのですが、私は今コミュニケーション手段というものを共有しなければいけないと。話題を提供しなければいけないと言ったのですが、当事者自身がそれを提供するということが難しい場合があるということです。

二つのタイプがありまして、一つは、情報作成が困難な人というのがおいでになるということです。言語障害のある方。自分で上手く説明しようとしても、声が出ないという方がおられますよね。知的障害のある方。上手くいきませんか。はい。知的障害のある方。誰かが説明を代行、この人もそうですね、上手く書けない。だから誰かが説明を代行する必要性があるということです。この説明を代行するというところも、非常に重要なところです。勝手に書いてはいけないということです。

もう一つは説明困難な状況があるということです。例えば、先程の飲ませる状況というのも、口を開けて、ストローを口の中に入れて飲ませて下さい、というふうな説明をしても、なかなか難しいですよね。食事介護の方法というのは。これは写真や映像だとよく分かる。あるいは、パニックの状況。こういう時にこういうパニックが起きるから気を付けて下さいというようなことも、これは非常に説明としては難しいということです。こういうところに映像等を活用する必要があるということです。