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厚生労働科学研究・障害保健福祉総合研究成果発表会

みて、きいて、はなしあおう、元気の出る話

地域移行・本人支援・地域生活支援 東京国際フォーラム

分科会3「本人活動の支援のあり方」

コーチをすることで、一番大事なことは、人と人との関係を問われますから、我々がそこに一緒にいるんだ、共にいるのだということが非常に大事です。同じ状況の中にいて同じ時間を共有し、その状況の持つ意味や目的を共有すること。よい形で同じ状況の持つ意味・目的を共有するためには、私たちは個人として、グループとして、チームとして、相手にお互いに依存し合っているのだということを理解する必要があります。

メンバーとのいろいろな話し合いの中で、さまざまな状況に置かれた人たちのとの関係に役立つ幾つかの要素を選んできました。コーチをするということは職業です。仕事です。この仕事をするために雇われて、そして使われているのです。従って、大切なことは、持てる力量、自分が持つすべてのリソース、力をフルに発揮して、その場にいて話を聞き、出会い、話をし、信頼し、見守り、理解することです。ここから人間関係が生まれます。私たちは、お互いが相手の持つ力量を引き出して使うということについても話をしてきました。

よく言うのですが、人間にはだれでも一人ひとりの物語があるということを忘れてはならないでしょう。だれもが持っている一人ひとりの歴史というものが、一緒に話したり討議したり行動するときにあらわれてくるのです。真剣な会話をするということの価値を見つけ、活用できるようその機会をとらえていく必要があります。

ミッション(伝えたいもの)は何かということを知っておく必要があります。ミッションを知らなければ、何かをする際に意見を一致させることが難しくなります。何を期待されているのかを検討する必要があります。雇い主はだれで、依頼した人はだれなのか、そのミッションを出しているのはだれか、出したミッションの責任を取るのはだれなのか、出されたミッションは可能か不可能か、そしてそれをだれが決めるのか、などを検討していく必要があります。

人間としての価値を認めるということ。コーチはほかの人たちの人間としての価値を認めていく必要があります。ほかの人たちの中に物理的、心理的、社会的な能力があるということを認識することが必要です。そうして初めて適切な形の出会いが可能となります。その理由は簡単です。私たちは、生まれながらにしてほかの人とのやりとり、接触のために使えるように備わった物理的な、心理的な、あるいは社会的な能力があるからです。私たちは自分の経験、あるいは周りの例から知っていることですが、すぐレッテルを張ったり、すぐ診断しがちです。あるいは施設のこれまでのやり方・伝統などに影響されてしまいがちです。そうすることによって人間関係を発展させることが難しくなり、むしろ距離を置いてしまうということがあります。今でもこのような距離の取り方を、専門的な対応だと呼ばれることがあります。しかし私たちは、グルンデンの経験からこれほど間違ったことはないということに気づきました。

私たちは、親しくなること、あるいは感情ということに「Yes」と言い続けています。そしてそれは我々の現実の一部なのですから、その対応の仕方を学習していきます。私たちは、出会う相手や自分が見たり聞いたり感じた対象に対して自分を出し、さらけ出すことが大切だと説いています。現実を理解し、受け入れるためには、自分に対して正直であることが必要です。私たちは時間をかけて、自分が理解したことをよく考察して、その考えた結果をどうするのかということについてもさらに考えを深める必要があります。要は、現実そのものをどう理解するかということです。私たちはよく言います。「施設を壊してしまえ、ぶち破れ、現実に『ようこそ』」と。

コーチイングは、今後もどんどん進んでいくプロセスの一つの過程に過ぎません。その出発点は人間であり、個人であり、ミッションや目的であり、もちろん環境でもあります。このプロセスでは、引き続きコーチの役割や位置づけを探し求め決定します。それによって人と人との結びつき、段階が深まったり、さらには意見の一致、不一致を求めて葛藤も続きます。このプロセスは、考え、討論し、決定する、そして行動することを伴って進んでいきます。そしてそれは、結果、経験、知識、技能をもたらすことになり、再びそこからプロセスが出発します。しかしそのときには、今までよりも一層大きな自尊心、自信、コントロールとエンパワーメントを持って再出発することになるのです。そうすれば、私たちは新しい挑戦に挑む用意ができていきます。

やっとのことで私たちは、仕事の上で使うことのできる指針となる幾つかの言葉を見出しました。私たちが確実だと言えることが一つあります。それは今、私たちはここにいる、しかし同時に、いつでもそこから逃れられるということです。現実の中に踏みとどまって、本物で生き生きとしたやり方で他人と出会っていくということは、大きな挑戦なのです。

以上です。ご静聴ありがとうございました。皆さんのコーチングがご成功することをお祈りします。(拍手)

花崎  アンデシュさん、ありがとうございました。もう、しょっぱなからいきなり、私たちが支援と言う言葉を使いながら普段考えていることがいかに幅が狭かったのかということを、感じさせられながらお話を伺っていました。人間と人間とのものすごく深くて広い関係のつけかたから始まるのだということを、今お話されたと思います。中に「コーチ」という言葉が出てきましたが、日本では初めて聞く言葉ではないかと思います。後ほど改めて、「コーチ」ということの意味を、お聞きしたいと思います。ありがとうございました。

それでは次に、オランダのオンダリングシュタルク連盟のロール・コックさん、お願いいたします。

ロール・コック  皆さんに先ほど申しましたように、私は以前も今もコーチです。当事者活動の中におけるコーチングということについて、今日はお話をしたいと思います。

これまでコーチングということについて本を書いたり、いろいろな活動の中で考えてきました。コーチングというのを人に話すときには、まず「皆さんは、コーチングというのはどういうことだと思いますか」ということを聞いてきました。そして私が今から説明するコーチングの考えの中には、私の問いに答えてくれた人たちからの意見も含まれています。コーチということに対して、私がこういうことがコーチングですよということを説明して、皆さんにもご賛同いただけたらと思います。

いくつか大事なことを確認しておきたいと思います。1、コーチというのは、自分自身であるということです。そうでなければこの仕事をすることはできません。2、コーチというのは人を変えるということが仕事ではありません。3、コーチというのは人をどう扱うか、人にどう対処するかという例を示すことではありません。4、コーチというのはテンポ、ペースをきちんと意識しないといけません。5、コーチというのは抑えることができる、ということが必要です。

当事者活動の中でコーチングを行う際、まず、客観的になれるということが大事です。グルンデンの人たちも、そして我々の組織でもそう信じています。また、コーチというのは、彼自身、あるいは彼女自身の可能性ということを信じることができる人間でなければいけないということです。さらに、コーチというのは「受け身的になれる」、「何か起こったときに反応できる」、「積極的にかかわることができる」、それから「創造的になれる」ことが大事です。そして、コーチというのは、彼自身を、あるいは彼女自身を実際にきちんと見つめることができなければなりません。また、非常に大事なことは、コーチというのはユーモアが必要です。みんな嫌な状況よりは、とてもいい状況のほうを好むでしょうし、笑いがあるということは非常に大事なことです。そしてともに一緒に笑うということも大事です。今それをここでやってみることもできますが、それは後回しにいたしましょう。

コーチングを当事者活動でやるときに大事なことは、コントロールするのではない、調整する、合わせる、相手に合わせて調整していくということです。入所施設には、非常にがっちりとした構造があります。私の同僚のアンデシュも私も、もうそういう施設は要らないと言っています。

我々の人生の歩みの中で、重要なシグナルというものがあります。コーチ、あるいはコーチの周りで仕事をする人たちにも、それぞれにプロセスを持っています。構造よりもプロセスが大事なのです。プロセスというのは、流れる川のようなものだと考えます。水が流れています。冬には水位が上がります。夏には下がります。それはプロセスです。自分たちがそれを高くしたり低くしたりするのではありません。それは自然が自然にやっていることです。構造というのはいつでも構造です。

グルンデンの人たちも、それからLFBの人たちも、いつも言っていることは、皆さん自身が経験から学ぶことができる専門家だということです。皆さん自身が皆さんの経験から学べる専門家なのです。自分の経験から多くを学ぶことができます。また、私たちは私たち自身のコーチングできる能力を信じる必要があります。そうすることで、信頼に満ちた関係というものをすることができるのです。

一人ひとりの中にいろいろな資質を見出すことが大事です。多くの資質は表に出ず、隠れているのが実態です。このことは、だれにとっても大事なことです。なぜ大事かというと、自分の資質を使ってみずからをコントロールしていくことができるからです。当事者活動のコーチングにおいて一番大事なことは、あなた自身の生活の質ということです。あなたたち自身が自分の人生というものをつくっていくのであり、それをうまくやっていけるように自分でつくっていくのです。ノーマライゼーションや解放するということが、だれにとっても非常に重要です。それからインクルージョン(包み込む)ということも大事です。

最後に、自分自身の生活や人生の中で、経験をするということが大事です。ご静聴ありがとうございました。(拍手)