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厚生労働科学研究・障害保健福祉総合研究成果発表会

みて、きいて、はなしあおう、元気の出る話

地域移行・本人支援・地域生活支援 東京国際フォーラム

分科会4「地域移行と地域生活支援を考える」

では話をコミュニティでの生活に移したいと思います。現在のオーストラリアの状況はどうかということでお話いたします。オーストラリアでの地域でのサポートの仕方ですが、住宅を変えるというよりもむしろその障害者の周りに支援を提供するという形で進んでおります。現在の状況ですが、普通の家に住んでいるという割合が多くなっています。公共住宅を賃貸で借りている人もいますし、自分で家を購入したという人もいます。ただスケールメリットを生かすという意味から、何人かが共同で住宅に住む、いわゆるシェアをしてそれによって一緒にサポートを受けようという形もたくさんあります。

現在のコミュニティでの生活の主流はどうなっているかというと、やはりグループホームという形になります。クイーンズランドで見てみますと、グループホームの人数は3~4人ぐらいが最高。そのぐらいの人数で住んでいます。一人暮らしをしている人もいます。家が2軒続きになっているところに住んで一緒にサポートを受けている人たちも見られます。

私どもは何回もいろいろな調査研究をやっております。コミュニティに生活することによってどういう結果が出ているのかを整理してみました。私の同僚の1人でありますルイジオンという人が最近行った調査によりますと、やはりコミュニティで生活をする方が、施設で生活するより優れた結果が出ています。適応行動の点でも選択肢が増えるという点でも優れています。生活の質といった点から見ても、コミュニティで生活するほうがよりよい生活になっているということが結果でわかっております。多くの人たちが、よりフォーマルなサポートを受けています。有料のサポートを受けている人もいれば、インフォーマル、家族も参加するような形でのサポートを受けている人もいます。長年施設で暮らしてきたため、家族とは全然接触がないという方もたくさんいます。そういった方々は、有料のサポートを受けていることが多いようです。

いろいろな障害を持った人たちがコミュニティで生活をするようになってきましたので、それに伴うサポートの需要が非常に高まってきています。

オーストラリアでは、コミュニティでの生活をいろいろと支援をしてきましたが、コミュニティでの生活をサポートするには何が必要かということでの教訓も学びました。そのプロセスの中でいろいろな失敗をし、それによる教訓も得てきましたので、そのお話をしたいと思います。最近では、当事者を中心に据えたアプローチへのニーズが高まってきております。これはサービスの計画段階においても、提供する段階においても当事者を中心に据えたアプローチでなければいけないということです。ご承知のとおり、当事者中心型のアプローチというのは北米に端を発しており、この考え方が普及したのは80年代の後半でした。いろいろな考え方があるとは思いますが、サービスの計画実施にあたっては、当事者を真ん中に据えて行うという基本路線があります。

イギリスの研究結果を見てみましても、当事者中心のアプローチが、コミュニティでの生活を行っていく際極めて効果が大きい優れた方法であるということが証明されております。当事者中心の考え方というのは、障害者自身が自分たちがどうしたいか、選択肢は何かをきちんと言えるということが大事ですので、そういった観点から見ても、コミュニケーションということが当事者中心のアプローチの中では大きな意味合いを持ってくると思いますし、とても重要です。

計画をつくるという段階においても、できる限り家族が関与することが必要です。社会的なネットワークも用意することや当人をよく知っているスタッフも計画に深くかかわることが重要です。家族に計画の段階に参画してもらうことも極めて重要です。

私どもが調べましたところ、多くの親御さんたちが最初はコミュニティで生活するということに対して疑念を持ったり、不安を持ったりするわけですが、だんだんコミュニティでの生活が行われ、慣れてくる中で、そのよさに気づいていただけるようになってきます。私がかかわっていたある施設でも、コミュニティ生活に移行することになっていました。そのとき施設を出て行きたいと願った人たちが150人おりました。最初、地域移行を求めたところ、親御さんの90%が地域での生活はできないとおっしゃいましたが、実際に地域移行が始まって2年位たちますと、やはり施設のほうがいいと言っているのは28家族だけになりました。このような気持ちの変容は、ニュージーランド、カナダ、米国の研究結果でも明らかになっております。従いまして、やはり、両親と私どもが手を携えてコミュニティでの生活の計画を一緒になって練り上げていくことがとても重要だということです。

次に考えなくてはいけない問題は、資源を施設で使うという形態から、コミュニティでの生活のサービスにどう移管していくかということです。地域移行・移管というのが極めて複雑で難しく注意深く慎重にやらないといけません。地域移行を実行していく過程では矛盾したことも起こってきます。在籍人数は少なくなっても、依然として施設という巨大な建物を運営していくのには、ものすごいコストがかかっているわけです。ですから、ごくわずかな施設に住む人たちに対して、膨大なコストを一方でかけながら、なおかつ限られた資源を、コミュニティでの生活や地域移行のほうに割り振っていくということをやらなくてはいけないわけです。

このようなときに必要となってくるのは、二重の資金の裏付けがなければいけないということになります。二つのモデルに対して同時に予算をつけてくれということを政府に説得するのはなかなか困難で、場合によっては政府をうまく説得して予算をつけてもらったこともありますし、説得したけれどだめだったという事例もあります。それからもう一つ、資源が足りないということから、バックフィリングという現象が起きてきます。これは親とかそのほかの人たちからの圧力で、施設から人が出た後、空いたところにまた新しい人を入れてしまうということをやることがありますが、そうすることによって、施設の閉鎖が難しくなります。実際にニューサウスウエールズ州で、バックフィリングが起こりました。そのために施設の閉鎖が難しく、今でも施設が残っています。

それからもう一つの問題点は、これも私どもは苦労しているわけですが、単に地域社会に障害者が存在するというのではなくて、地域社会に参加をしているということを確実にしなければいけないということです。単に地域社会に住んでいるだけではなくて、障害者が地域に積極的にかかわっていかれるようにするためにはどうするかということです。私どもがいろいろと調べてみてよくわかったことは、障害者は単に物理的に地域社会に統合されたり、地域社会に存在するということは極めて簡単で、社会的な意味で地域社会に溶け込んでいくというほうがはるかに難しいということに気づきました。それから、二つ目の問題点は、時間がかかるということです。政治家は何とか早く結果を出せと言います。きちんとした関係をつくっていくということになると時間がかかるということです。

この意味するところは、コミュニティでの生活ということになりますと、コミュニティの側の参画も必要になるということです。コミュニティ側の姿勢も変わらなければいけないし、アクセスもきちんと確保されなければいけないということです。そして障害というものは優れて人権の問題であるという認識を持ってもらうことが必要になってきます。それからもう一つ申し上げておきたいのは、スタッフの教育訓練の問題です。施設でこれまで働いてきた方というのは、持っている技能や知識というのが、障害者のコミュニティでの生活を支援する上であまり役に立たないということです。コミュニティでの生活を支援するために、スタッフに教育訓練を施すか、全く新しい人を雇ってくるということが必要になってきます。

オーストラリアで施設を閉鎖するということに関して調査をしてわかったのですが、専門職グループからの反対、場合によっては労働組合からの反対が強いということがわかりました。自分たちの将来の雇用がどうなるかという懸念がありますから、この点を乗り越えるのもなかなか難しい問題です。また、技能・スキルというのは大変重要ですが、最も重要なのはやはりスタッフの価値観や態度、心の中で障害というものについてどう考えているかということだと思います。従って、こういった心のありよう、あるいは態度というものがしっかりしている人であれば、技能は後から身につけることができると思います。

まとめに入りたいと思います。この問題は二つの次元で考える必要があるのではないかと思います。一つは個人のレベルです。どういったニーズがあって、どういったサービス組織があって、どのようなスタッフの教育訓練をやらなければいけないのかという個人のレベルでの対応です。もう一つはコミュニティやシステムの次元でどう考えるのかということです。これはコミュニティの側の障害に対する態度といったものやサービスの組織全体をどうしていくか、アクセスをどのようにしていくか、障害を人権の問題としてどうとらえていくのか、差別をしてはいけないという次元でどうとらえていくのかということです。

さらに2、3点つけ加えさせてください。コミュニティでの生活や地域移行を進めるときに注意しなくてはいけない点が幾つかあります。一つは、施設を閉鎖したけれども、また別の施設をつくってしまうことにならないかということです。コミュニティで生活をするといった場合に、生活の形態、サポートの形態というのはさまざま考えられます。そういう状況の中で考えられることを二つ申し上げたいと思います。一つは、形を変えた施設化です。すなわち施設文化がそのままグループホームに移行してしまうという形で、これでは十分な変革が行われたとは言いがたいわけです。

次なる問題は再施設収容で、施設を出た、ところが地域社会で十分な支援が得られないといったような場合に、特に軽度の知的障害を持った人たちが、支援がないがゆえに刑務所暮らしをしてしまうというようなことになりかねないということです。この問題が起きているのは、特に早い段階で施設から出て行き、障害自体は軽かったけれども、家族と離れて暮らしていたがゆえに十分なサポートが得られなかった、ゆえにそういうことになってしまったという人です。