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厚生労働科学研究・障害保健福祉総合研究成果発表会

みて、きいて、はなしあおう、元気の出る話

地域移行・本人支援・地域生活支援 東京国際フォーラム

分科会4「地域移行と地域生活支援を考える」

●午後の部

河東田  では、午後の部を始めたいと思います。これから杉田穏子さんに私たちが行ってきた取り組みの一端を、皆さんに報告させていただきます。では、杉田さんよろしくお願いいたします。

杉田  よろしくお願いします。『地域移行に関する調査結果から「入所施設の意義」を考える』というタイトルで発表させていただきます。

2002年度から2003年度にかけて、私たちの研究グループは2種類の調査を行いました。その一つは、地域移行、本人支援、地域生活支援について全国の知的障害者入所施設を対象に、郵送によるアンケート調査を行ったというものです。もう一つは、2003年度、日本において早くから地域移行に取り組んでいるA施設において、本人、家族、職員の方を対象にインタビュー調査を行ったというものです。さらに2004年度には、入所施設を持たないで在宅からグループホームへの支援を積極的に行っているB施設においても同様の調査を行いました。

今回は、これらの結果をもとに、全国のアンケート調査からは日本の地域移行の現状をお伝えし、インタビュー調査からは、二つの施設の調査結果を比較しながら今後の入所施設の意義に焦点を当てて発表していきたいと思います。

まず、全国のアンケート調査の概要ですが、調査の期間は2004年2月から3月、調査の方法としては、郵送法を採用しました。対象となった施設は、全国の知的障害者入所施設、つまり入所の更生施設、授産施設、障害児施設、通勤寮です。全対象施設は2.036施設で、そのうち回答を返してくださった施設は1,365施設で、回答率は67%でした。

次に調査の結果を示します。対象となった施設の入所者数は80,330人でしたが、調査の中で2001年度、2002年度に施設を退所された方は何名いるかと聞くと、2年間で施設を退所された方は3,867人という数字でした。しかし、この人たちの移行先はどこかということをさらに尋ねますと、私たちが地域の住まいとして考えていますグループホーム、アパート、福祉ホーム、社員寮というようなところに移動した人は1.973人で、そのほかの人は家族や親戚に引き取られたり、ほかの施設や病院に移っているという人が1,894人おられました。これらの結果から、つまり1年間では入所施設から地域の住まいへ移行した人は、平均すると987人であるということがわかり、全体の入所者数80,330人のたった1.2%という結果でした。

次に地域生活を支援する事業について、グループホーム事業を行っているか、日中活動の提供をしているか、自活訓練事業を行っているかの三つについて尋ねました。その結果、グループホーム事業を行っていた施設は、46.7%でしたが、グループホーム事業を行っていないという施設は半数以上の52.4%でした。

次に、地域生活者への日中活動の提供、つまり通所授産施設や通所の更生施設などを実施していた施設は64.6%でした。実施していないという施設も30.7%でした。次に、自活訓練事業の実施状況について伺いました。自活訓練事業というのは、入所施設から地域の住まいへ移行する際に準備をするために一時的に住む生活の場です。自活訓練事業には、国の自活訓練事業と自治体の補助事業、あるいは法人が独自で行っている無認可の自活訓練事業というものがありますが、そのどちらも実施していないところが59.6%という結果でした。

日本においても長野県の「西駒郷」でありますとか、宮城県福祉事業団の「船形コロニー」、独立行政法人国立「のぞみの園」に見られるように、大型の公立、国立の施設が施設解体、定員削減といった方針を打ち出しています。しかし今見てきましたように、私たちが調査したアンケート結果の数字を見ると、施設から地域の住まいへ移行している人は1.2%で、ほぼ100人に1人という数字でした。また半数以上の施設は、グループホーム事業を行っていなかったり、自活訓練事業も行っていませんでした。このようなことから、日本の地域移行の動きはまだまだ主流にはなっていないということがわかりました。

このように全国のアンケート調査の結果を見ると、現在までに地域移行を推し進めているという施設はむしろ少数派で、その意味で次の調査に協力してくださったA施設というのは、先駆的な取り組みであると考えることができると思います。しかし、次に示しますように、A施設での実践というのは訓練中心、能力重視の地域移行、地域生活支援となっています。ここでは訓練中心に行った地域移行の取り組みというのは、地域生活において本人にどんな影響を与えるのかということを示していきたいと思います。そのことを明らかにするために、入所施設は経ずに在宅からグループホームへの移行を推し進めているB施設でも同じ調査をしてみました。その結果を示しながら話をしていきたいと思います。

二つの施設の概要ですが、運営主体はどちらも民間の社会福祉法人です。A施設は開設してからもう既に30年経っていました。地域移行をし始めてからも20年経っています。一方B施設というのは、親の会が中心になってできた通所の授産施設で、15年前に始められました。12年前からグループホーム事業も行っており、在宅からグループホームへの移行を積極的に行っておられる施設です。

どちらの施設でも本人、それから職員、家族にインタビューを行いました。調査人数は、本人がA・12人、B・18人、職員は、A・10人、B・9人、家族は、A・10人、Bも10人でした。対象となった本人の平均年齢は、A施設では34.2歳、B施設では36.5歳でした。A施設での本人の地域に住んでからの年数は平均で11年でした。

次に、調査の結果から特徴的に見られたものをお話ししたいと思います。まず、グループホーム等への移行プロセスですが、A施設では非常に多くの段階が設けられていました。入所施設、施設内自立訓練棟、地域自立訓練棟、グループホームというような段階です。各段階の移行時には、説明や見学、それから体験というものが行われていて、そのことは本人の不安感をとても軽減させるのに役立っていました。しかし、だれが移行するのかという移行可能者、それからいつ移行するのかという時期、どのグループホームに移行するのかという場所、だれと生活するのかという共同入居者、そして地域移行をしてからの引っ越しの決定については、本人はほとんど関与していませんで、実質的に職員や施設の側が決定していました。

A施設のインタビューの中で、ある本人は、入所施設から出られるだけでうれしかったと語ってくれました。施設を出るのを決めたのはだれかと尋ねると、ある本人は、頑張った人から順番に出していく、自分たちで掃除やいろいろなものを努力して、それを職員が見ていて頑張った人から順番に出ていく。職員が「OK」と言ってくれたら出られると語ってくれました。このA施設では、本人が規則を守れないと罰を与えるということを行っていたり、職員が決めた本人のそれぞれの目標というものがあり、その目標の達成度を職員が評価します。そのために、自然に職員と本人の間にははっきりとした上下関係ができていました。それでも、自分のことなのにそう決められて怒っているかと言えばそうではなくて、移行可能者に選ばれたということが非常にうれしいこととしてとらえられていました。その背景には、プライバシーがない集団管理的な入所施設からとにかく抜け出したいという強い動機があったと思われます。

一方B施設のほうは非常に単純で、在宅から直接グループホームという流れだけです。通所授産施設に通っている人たちに対して、職員たちがグループホームへの移行を促すために宿泊体験をしませんかというような募集をやってらっしゃいました。ほかにはグループホーム入居者の体験談を聞くという試みもされていました。もし、本人が興味を示せば、実際にはグループホームではないようなところで宿泊の体験をして、その結果、もっとグループホームへの興味が出てくれば、実際のグループホームでの宿泊体験ということを行っており、その結果を踏まえて、本人、親、職員で話し合いがなされて、さらに本人が入居したいグループホームに既に入っているメンバーの意見、「この人が入ってきたらどうですか」という意見も聞きながら、グループホームへの入居が決定していました。このようにB施設では、グループホームに入居すること、どのグループホームに入るか、いつ入るか、だれと生活するのかということについても、宿泊体験を行いながら基本的には本人の気持ちや希望を尊重しながら対応していました。

インタビューの中で、ある本人は、長い間自宅から通所授産施設に通っていて、父親に「自立してくれ」と言われたのでグループホームの練習を始めて、2週間練習をして、その結果職員にどうするかと言われて、自分で「入ります」と答えたと語ってくれました。それから別の人は、自分から入りたいと思ってグループホームに入った。初めはホームで宿泊体験をして、「うわ、こんなことができるんだ」と思って、「入れるところはありませんか?」と尋ねたら、AというグループホームとBというグループホームがあると言われ、自分はBを選んだ。それはAというグループホームには日中活動であまり気が合わない人がいるからBを選んだと答えてくれました。また別の本人は、初めは家から日中活動の場に通っていたけれども非常に遠かったので、グループホームに入りたいと自分から希望をした。Cというグループホームを見たけれども、非常に若くてにぎやかな人が多かったので、自分は静かに暮らしたいと思ったのでDというグループホームに入ったと語ってくれました。

このように、考えながら余裕を持って選択できるのは、A施設のグループホームへの移行と比べて在宅からグループホームへの移行の方でした。在宅での生活はひどいものではなくて、むしろ在宅からグループホームへの移行というのは家族からの自立という点に力点が置かれていたからではないかと思います。