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厚生労働科学研究・障害保健福祉総合研究成果発表会

みて、きいて、はなしあおう、元気の出る話

地域移行・本人支援・地域生活支援 東京国際フォーラム

分科会4「地域移行と地域生活支援を考える」

次に、「あなたのグループホームでは何か決まりがありますか」という、質問をしました。A施設の本人たちは、回答が得られた10人全員が「決まりがある」と答えました。どんな決まりかというと、就寝時間、起床時間、帰宅時間、禁酒、あいさつ、人の物を取らない、仲よくする……というようにさまざまな規則が語られました。ある本人は、決まりは帰宅あいさつ、手洗い、うがい、食事準備、就寝9時、起床6時、洗面をして食事用意、しなければ世話人に怒られていた。この間自分も食べないで捨てたら職員に怒られて怖かったと語っておられました。A施設の特徴ですが、決まりについて尋ねると、回答内容も、「帰宅あいさつ、就寝9時、起床6時」というように、私たちが日ごろ生活の中で使うような言葉ではなくて、かたい言葉で語っていたのも一つの特徴であったと思います。

さらにこのA施設では、グループホームでのお酒が禁止されており、ここでも飲めればいいと思っているとか、入居時に地域サービスセンターとの約束で帰宅時間は5時になっているがもう少し遅くしてほしいと思うというように、決まりは変えたいと思っているけれども、それを言ってみたらどうかと言うと、「それは職員には絶対に言えません」というような言葉が返ってきました。私が不自然だと思ったのは、多くのグループホームでは洗濯当番というのが決まっていて、その当番の日は、グループホームの仲間の4人分、5人分の洗濯をその人が全部するというような当番を決めていたことです。このような決まりには、入所施設での日課の影響がとても色濃く見られていると思います。

一方でB施設では、決まりは「あると思う」と答えた人が4人、「ないと思う」と答えた人が7人でした。例えば、ある本人は、「起きる時間は仕事によってみんな違う、寝る時間も違う、決まりは夕食を一緒に食べることだ」と語りました。それから別の本人は、「決まりは特にない、遅くなるときや友達と遊びに行くときは前もって電話をしておけば大丈夫」と答えていました。また、私がインタビューをした日に、今朝は何を食べてきたのかと聞くと、「実は今日は寝坊をしたので、朝は何も食べていません」と、ちょっと決まり悪そうな顔をする人がいたり、インタビューのときに、グループホームを訪問したときもありましたが、「ちょっと部屋が散らかりすぎているので居間でやりましょう」と、自分の部屋に入られるのを躊躇する人がいました。あるいは休みの日にビールを飲むことが一番の楽しみと語る人もいました。このような語りは、私自身の日ごろの生活に非常に近いと感じました。

でも、グループホームですから、トイレやおふろを共同で使っているということは、A施設もB施設も同じでした。グループホームによっては、B施設の場合は当番制を取っているグループホームもありました。どんなふうに当番を決めたかと訪ねると、ある人は、最初は順番を決めないで適当に気づいた人がやっていたら、いつも同じ人ばかり、気の利く人がいつもやることになって、それに気づいて自分がこれではおかしいから順番を決めようと言って、みんなで決めたと語ってくれました。こんなふうに、問題があれば本人たちが自分で自然に解決している様子がうかがえました。こんなふうにB施設では、一人ひとりが、制限はありますが自分の生活や仕事に合わせて比較的自由に生活している様子がうかがえました。

それから、帰省回数についても比較をしてみました。このインタビュー調査をお願いするときに、条件として親御さんへのインタビューもする関係で、親御さんとの関係が切れていない方、つながっている方というのをわざわざ選択していただきました。それでもA施設の場合は、毎週帰るという人はだれもいませんでした。年に4~6回という人が2人、年に1~3回という人が6人でした。入所施設というのは、地域から離れたところにあるというのが一般的で、このA施設も例外ではありません。実際に、家族との距離が離れている人が多く見られました。入所期間が非常に長期化している人たちの多くは、家族がいらっしゃっても既に関係はなくて帰省できないというのが実態でした。

一方B施設では、毎週帰省するという人が5人、4~6回という人が1人、1~3回の人が8人、帰省しないという人も1人おられました。特に毎週帰省する5人の方たちにとっては、帰省するということは生活の変化、生活の一部になっていて、例えばある本人は、土曜日はゆっくりしてグループホームにいて、日曜日に家に帰ると。家族ではテレビを見たりカラオケに行ったりして特別なことはしないけれどもすごく楽しいとか、実家でテレビを見たり、自転車に乗ってみたり、散歩や釣りに行ったり、おふろ屋さんに行ったり、犬と散歩をしたり、特別にどこかに行くということではないですが、とても楽しく生活をしているということがわかりました。

こういう結果から、一体入所施設の意義というのは何なのかということをもう一度問い直す時期に来ているのではないかと思います。A施設においてグループホームへの移行のプロセスで、自分に関する重要な決定を本人ではなくて職員が行っているという実態がありましたが、地域生活においても職員の決めたことには従わなくてはならないという上下関係をつくりだしていました。そしてそのことは、生活の決まりを変えるという、自分に関することも自分で決めたらいけないんだという考え方をつくり出していたと思います。それから、地域生活においても施設の日課の影響というのが色濃く見られていました。そして最後に示しましたように、家族との関係の希薄さが見られたと思います。

なぜ入所施設がつくられてきたかという背景には、いろいろな理由があると思いますが、その一つに、知的障害を持つ人は自分の重要なことは決められないのではないかということ、あるいは知的障害の人は訓練をしなければならないのではないか、地域で生活するために訓練しなければならないのではないかという、私たちの今までの思い込みがあったのではないかと思います。

しかし、今報告してきたB施設のように、本人たちが非常によく考えてグループホームにだれと住むとか、なぜ住みたいかということを自分たちで選択していることがよくわかったと思います。それから、グループホームという共同生活ですが、初めから決まりがあるというのではなくて、生活の中で課題が出てきたらみんなの力で解決していく、そういう力もあるということがわかりました。このようなことが可能になるためには、グループホームに入る前の今の生活が、入所施設のようにとてもひどいからどこでもいいから行きたいというのではなくて、現在の生活が安定し、生活がひどくないこと、情報提供もきっちりなされていること、体験を伴って考える機会が十分に与えられていること、職員に対等に自分の意見を言えること、「これを言ったら自分はグループホームのチャンスを与えてもらえないのではないか」とかそういうことではなくて、対等に「嫌なら嫌」という意見を言える、そういう関係性が求められてくるのではないかと思います。このことは、このような配慮があれば知的障害を持つ人も十分自分に関する重要なことを決定する力を十分に持っているということを示しています。

これまでは能力のある人だけが地域で生活ができると思われてきましたが、今はだれもが地域で当たり前に生活できるようにしようという考え方に変わってきています。今回、本人だけではなくて、親御さんや職員の方にもインタビューをしましたが、入所施設について今後も必要だと思うかと尋ねると、例えば自分の娘や息子が地域に移っている親御さんであっても、「やはりうちの子供は軽いけれど、重度の人のためには必要ではないか」という回答が多く見られました。しかし重度障害者のためのグループホームというのは、国の制度としては現在は不十分ですが、地方自治体の補助を受けたり、各地で地道な実践が継続されていて可能だということがわかってきていると思います。今後は、24時間体制で支援できるようなグループホームを、国の制度として整えていく必要があると思います。

この間成立しました障害者自立支援法の中のケアホームというのが、そのような範疇にあるのかもしれませんが、福祉関係者の話題の多くは利用料のことです。1割負担ということに大きな関心が向けられていますが、私自身は、入所施設というものが、まだ自立支援法の中で障害者支援施設と位置づけられているということに非常に大きな疑問を感じています。入所施設も、生活の場と日中活動の場が分けられるという決まりができましたが、その内容はまだ何も詳しく決まっていません。お金が分けて配分されるというだけで、どのように離さなければいけないかということもあいまいなままだと思います。私自身は、入所施設は、今入っていらっしゃる方の希望に添いながら、地域への移行をどんどん加速させるとともに、大事なのは、新規の入所者を受け入れないことではないかと思います。そして、その役割を終えていく必要があるのではないか、新たな地域移行者をつくりださないということも、地域移行の非常に大事な課題ではないかと思っています。

例えばB施設のように、入所施設を経ずに在宅からグループホームへの移行というのが、今後の知的障害者の地域生活の主流になっていくということが必要ではないかと思っています。また皆さんのお考えをお伺いしたいと思います。ありがとうございました。(拍手)