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社会の中で働く自閉症者 -就労事例集-

池田輝子記念福祉基金障がい者ジョブコーチ支援事業

事例16 コミュニケーション面の問題で離職した人の再就職支援について

~リサイクル業に再就職したAさんについて~

金子 毅司
横浜南部就労援助センター

1.本人の状況

(1)本人について

性別:
男性
年齢:
34歳(平成17年10月現在)
障がいの特徴:
知的障がいを伴う自閉症、療育手帳B1(中度知的障がい)
教育歴:
小・中学校の普通学級を経て、高等専修学校を卒業

(2)福祉施設の利用歴

高等専修学校卒業後、神奈川能力開発センターに通所

(3)職歴

神奈川能力開発センターを経て、部品製造の工場で就労の経験があります。仕事の内容は、部品の運搬と工場内での製造作業を行なっていましたが、会社より出来高払いの内職へ身分移行をしてほしいとの打診があり、将来のことを考えて離職。その後、就労援助センターに相談があり、特別養護老人ホームのベッドメイキング作業に再就職をしました。作業は問題なく行うことができましたが、仕事中にも関わらず入居者や職員への会話が多く見られてしまったこと、不特定多数の方が出入りする場でのコミュニケーション面が問題となり、1年3ヶ月で離職しています。今回は、その後の再就労を取り上げます。

(4)本人の収入

障害基礎年金2級を受給。現職は、週30時間、最低賃金をクリアしています。

(5)生活状況

家族と同居しています。身辺自立をしており、将来的にはグループホームへの入居を視野に入れています。

2.就労支援

(1)職場が決まるまでの経緯

前職(特別養護老人ホーム)の就労から横浜南部就労援助センター(社会福祉法人 電機神奈川福祉センター)が関わっています。離職後、再就職を希望しているAさんは、就労援助センターの登録を継続し、就労の機会を待っていました。新たな職場は、横浜市内にあるリサイクル業の会社です。その会社では、障がい者雇用のプロジェクトが立ち上がり、採用手順について就労援助センターと打ち合わせがもたれました。結果的に、業務内容や通勤圏などで、就労の可能性のある知的障がい者数名の現場実習を行い、その中から複数名の採用を行うことになりました。

業務の内容は「再生資源の仕分け」で主に缶とペットボトルの仕分けです。

(2)制度活用について

会社から特定求職者雇用開発助成金を申請しています。

(3)受け入れ先の状況について

業種:
リサイクル業
規模:
総従業員54名、当該事業所従業員10名
障がい者雇用スタッフ体制:
所長、現場責任者、スタッフ1名
障がい者雇用の動機:
社内プロジェクトとして障がい者雇用に取り組んでいます。一度に、複数名の障がい者雇用ならびに実習は、今回が初めてです。

(4)支援のプロセス

1) 利用者のアセスメント

前回の就労先での状況から、与えられた作業については確実にこなすことができ、体力もあるとの評価を得ています。しかし、集中力に欠き、不特定多数の人の出入りする場所での作業は難しいこと、また、ある程度の指導体制の整っている場所(単独での作業は難しい)でなければ作業は難しいことも同時に指摘されています。

2) 職場のアセスメント

Aさんの実習を行うにあたり、援助センター職員が現場の視察を行いました。その結果、現場が狭く、仕分け前のものが散乱していること。また、現場に納入のトラックが乗り入れるため安全面での配慮も必要であることがわかりました。

仕分けのベルトコンベアについても、手が入ってしまう危険性が高かったため、設備等の物理的な改善を要望しました。

作業量については、日によってバラつきがあるためスケジュールの作成は難しいことがわかりました。作業指示については、現場責任者の方にその日の大まかな流れを説明していただき、現場責任者の指示のもと、作業を行うことにしました。

写真1
ベルトコンベアの写真

当初はこのようなベルトコンベアでしたが、手が巻き込まれる、ビンなどが割れて跳ね返るなどの危険性がありました。

写真2
ガードを付けたベルトコンベアの写真

改善により、このようにガードを職場で取り付けてもらい、安全面の確保をしました。

3) 職場における集中支援(実習期間2週間)

実際に現場での実習を開始しました(Aさんの他2名も同時に実習)。職員も同行し、Aさんへの作業指示の一貫性(指示系統の体系化)を図りました。当初の課題であった安全面については、作業場所を限定し、トラックの出入り付近へ近づかないこととしました。

缶やビン、ペットボトルの仕分けの際、置き場所が分かれており、なおかつそれぞれの仕分け場所までの距離があり、かなりの時間的ロスが生じていることが判明しました。さらに、仕分け場所までが遠いため、Aさんは缶やビンを投げてしまうという行動が見られたため、仕分け方法の調整を行いました。実習中の知的障がい者それぞれが缶係、ビン係となり、ビニール袋に入れていく方法を取ることにしました。これにより、缶やビンを投げつける行動はなくなりました。

休憩時間等は、従業員の方と過ごし、コミュニケーションを図り、同時に休憩室のルール(冷蔵庫の使い方等)を確認しました。

4) 移行支援(雇用後~)

実習終了後、Aさんの採用が決まりました。

当面の課題として、安全面(物を投げてしまう)、作業時の離席(トイレ)が多い、などが指摘されました。また、屋外での作業になるため、暑さや寒さへの対応も必要となりました。

採用にあたり、個別の業務日誌作成を行い、目標を意識づけることとしました。

従業員の方からは、独語や独特のことばによるコミュニケーションへの対応に関する質問がありました。原則として、仕事中と作業時間のけじめをつける対応をお願いしています(例;業務に直接関係しない話題を仕事中に話しかけてきた場合は注意をする、など)。

業務日誌の表の写真

5) フォローアップ

就職後、約半年間は週に1度の巡回を継続していました。その後は、2週間に1度程度の巡回に移行しています。

慣れるに従い、自分の興味のある機械の近くに行ってしまう、他の従業員の未開封ジュースを飲もうとしてしまう、などが指摘されるようになりました。その都度、訪問し個別にミーティングを持ち対応にあたっています。また、職場に対しては、なるべく物量の多い作業場所への配置をお願いしました。実際に、手の空く時間が減ると、作業時間中にウロウロすることがなくなり、従業員から指摘されていた問題のいくつかが軽減しました。

週に1度の訪問巡回とは別に帰宅時に援助センターに立ち寄ってもらいミーティングを持つことも継続して行なっています(週に1度)。訪問時は仕事中のため、なかなか行うことができない業務日誌のチェックを中心として、仕事上の相談、仲間同士の関係について話し合いを持っています。

3.まとめ

前職で、同僚や不特定多数の訪問者とのコミュニケーションの問題が指摘され、離職してしまったAさんの再就職においては、その問題が起きない職場環境の構築を中心に支援を行なってきました。採用時に、会社側にも前回の離職の経緯を説明し、今回の就労での環境的配慮の重要性を説明しています。

安全面の配慮として、ベルトコンベアの改善、作業位置の確な限定を行い、結果的にAさんにとって作業に集中できる環境になりました。その他、業務日誌と定期ミーティングを持つことで、職場における行動上の目標を本人が意識すると同時に、職場で抱えている問題点を早期に見つけることに役立ちました。

職場で自分の能力を最大限発揮し続け、離職することなく長期間、同じ職場で働き続けることは大切なことであり、支援者としても継続的な支援によりこの長期間の定着を目指しています。しかし残念ながら、就労支援をする障がい者が増えれば、離職者数も増えるのが現実です。支援者としては、離職時の経過や離職原因を整理し、再就職の際に類似した問題が発生しないよう、最大限努力する必要があります。