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平成12年度厚生科学研究 障害保健福祉総合研究事業外国人研究者招へい報告書
ディヴィッド・ルコントレポート

入院日数

 プレゼンテーション並びに病院訪問から得られた病院に関する情報を用いると、以下の図が入院日数について浮かび上がる。前述したように、47%の人は5年以上入院している。日本全体では平均入院日数は420日だが、北海道十勝地区では222日である。帯広の非常に優れた民間病院の平均入院日数は210日である。最短は1日で、最長は1969年からである。この民間病院では3割だけが強制入院であり、7割は任意入院だった。地域での住宅や他の地域支援の整備に伴って平均入院日数は減少している。名古屋の民間精神病院で責任者の精神科医は平均入院日数は約1年と考えていた。こうした環境にある人は最も施設収容の影響を受けている。40年も入院している人もいる。その精神科医は入院の手続きについては明快だったが、退院手続きに関しては曖昧だった。「患者さん次第です」と語っていた。川崎市リハビリテーション医療センターでは4年間が最長の入院だった。ここは優れた施設に思われた。患者は個別の対応がなされ、とても丁寧な対応を受けていた。川崎市リハビリテーション医療センターの職員は1万人あたりの精神科ベッド数、多地域よりも短い平均入院日数を誇りに思っていた。埼玉県立精神保健総合センターでは平均入院日数は3ヶ月と説明された。

心理社会的リハビリテーション

 心理社会的リハビリテーションの試みは訪問した病院の多くで見られた。その中で保護型ケアが中心となっている病院が一つあった。それは名古屋の民間病院である。そこでは看護職員はナースステーションで主に見受けられ、患者は共用エリアでスタッフの目がないままだった。多くの病院は作業療法や他のなどの付加的心理社会的リハビリテーションサービスを病院内で行っている。埼玉県立精神保健総合センターは最も体系的で継続的な活動を病院内で行っている。日常生活動作(ADL)は教室のような講義形式で教えられている。指導のもとに時間が定められ体系だったルーティンワークも教えられている。この活発なトレーニングは毎日のプログラムの一部であり、コンシューマーを後の地域での生活に対して準備させるものである。私の経験から見るに、人工的な施設内の環境で教えられる技術は一般化されてしまっているという問題がある。特に最も重度の精神障害を持っている人についてはそうである。地域で生きる技術を身につけるのに最適の場所はまさに地域で、自然なルーティンの一部として毎日の実践を通すのが良いという証拠がある。

入院頻度を減少させる方向性

 最大36万人だった入院が33万から34万に減少しているという証拠がある。将来の法律、政策は入院を主要な治療の形態としてさらに減少させなければならない。東京、帯広、川崎でのセミナーで示された将来の方向性は地域へ動きを強調している。今後5年間にわたって提案されている新法は地域ベースのサービス提供をいっそう強調している。その法は身体障害、知的障害、高齢者と横並びのサービスを精神保健分野でももたらそうとするものである。この理にかなったサービス動向は、心理社会的リハビリテーションを強調し、就労機会、介助サービスなどの生活機会、コンシューマー(消費者・当事者)の選択を<全て地域の中で>拡大する新たな試みと関連するものである。
入院の減少により、予算が地域ベースのサービスに転換され、従来よりも多くの予算が地域を拠点とする施策に振り向けられるという希望がある。しかし、空になる病棟が何に用いられるのかという議論はなかった。帯広の民間病院に見られるように、病院の入院患者の3分の1がアルツハイマーもしくは他の痴呆と診断されている現状はこのジレンマに対する回答をだしているのかもしれない。入院患者はこうした病気が進行した状態にあり、継続的介護・保護が必要である。日本の人口の高齢化を考えると、高齢化による症状により施設的介護が必要とする人は増えるだろう。病気が最終期にあり、在宅、デイサービスでは対応しきれない人については、病院が適切な環境かもしれない。

 国全体が従うべきマスタープラン、青写真が欠けているように思われる。国家的視点からの方向性の欠如について専門職従事者の間にも不満、混乱がある。それは地域ベースのサービスへの予算不足に関しても同様である。精神科入院者関連予算、精神科入院者数に関する全国的統計の信頼度に関して疑問を呈する専門職従事者も一部にはいた。こうしたコメント、私自身の観察の結果として、本報告書には病院の規模縮小に関して予算、転換戦略という視点からの情報を盛り込む。さらに地域での取り組みを促進する方法についても触れる。

3章 地域でのとりくみ

地域での実践

 私の訪問でみる限り、地域での取り組みには日本全国で共通性があった。病院産業と比較して、地域には非常に少ないスタッフと予算しかない。マディソンでの地域精神保健と比較すると、私が日本で目にしたのは、私たちが20年前にいた地点である。入院者の数は1950年代の米国に似ている。当時は精神病で56万人の入院者がいた。日本の名誉のために言えば、退院する前に何らかの支援があるようにという意識的な努力が見られている。これは米国で必ずしもなかったものである。多くの優れた、創造的な作業所、就労の場がある。しかし、本来推進されるべき、一般の社会に統合された就労環境を強調しているところはほとんどない。