音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

ヨーク大学
SPRU

18カ国における障害者雇用政策
:レビュー No.3

パトリシア・ソーントン、ネイル・ラント

ヨーク大学社会政策研究所

Patricia Thornton and Neil Lunt
Social Policy Research Unit
University of York

ILO                                  HELIOS


カナダ 1)

政策と制度的情況

障害者政策と立法

 カナダの障害者問題へのアプローチとしては、アクセスの平等、経済的な統合、及び効果的な参加の3つのゴールが強調されている(1991年の政府の障害者対策の概況に描かれているように)。この目的を達成するために、連邦当局は、訓練と雇用の両方の機会を増大させるために努力してきた。人権憲章及び人権立法という形式で法的なアプローチを行っているが、これは差別撤廃を目的としている一方、雇用均等法の活用によって、労働力の中で他の不利益を受けているグループと同様に、障害者にも雇用の機会を増大させることをめざしている。

カナダは、10州及び2つの準州から構成されており、地方分権のきわめて強い連邦国家である。なお、3番目の準州(ヌナヴィート)が、ノース・ウェスト準州の再編により形成されそうである。

障害者政策は、連邦レベルと州レベルで責任を分担しているが、障害者対策全般を通じて双方の提携がなされている。連邦レベルと州レベルの間の分担のバランスは、現在も変化しつつあり、障害者プログラムとサービスは急速に変化している。連邦の権限が後退すると共に、各州は他の部局(例えば、社会サービスや教育)のプログラムによって労働市場プログラムを効果的に調整するために必要な多くの権限を獲得してきている。

連邦政府は、最近「障害者統合のための国家戦略(National Strategy for the Integration of Persons with Disabilities:NSIPD)」により、重要な指導的役割を果たした。1991年から1996年までは、NSIPDは、連邦のプログラムを利用している障害者や一般社会にいる障害者がもっとアクセスと参加ができるようにするために、連邦の省庁が利用できる基金1億1,200万ドルを新たに準備した。NSIPDの目的の1つは、雇用、及び訓練などの雇用関連活動によって障害者の経済的参加を増大させることであった。全体で、新しい基金の1,180万ドルは、NSIPDの下で雇用と訓練イニシアティブのために使われた。NSIPDは1995-96会計年度末において、公式に終了され、更新はされなかった。しかし、「障害者の地位と人権に関する議会常任委員会(Parliament Standing Committee on Human Rights and the Status of Disabled Persons)」は、「障害者問題に関する連邦特別委員会(Federal Task Force on Disability Issues)」と共に、連邦政府が障害者の経済的、社会的なインクルージョンと平等を促進する指導的役割を果たし続けることが重要であると強調してきた。連邦政府が、将来にわたってこの役割を果たすかどうかについてはまだ決定されていない。

カナダの障害者政策は、連邦レベルあるいは州/準州レベルにおいても、通常は個々の政策の取り扱いに当たっては特定の障害に限定することはしていない。しかし、州のレベルでは、特定のグループの具体的なニーズに呼応したプログラムを開発している。時には、それらのプログラムに関する政策は、例えば、オンタリオ州の発達障害プログラムやブリティッシュ・コロンビア州の主として知的障害者に焦点を当てた住宅と訓練・支援プログラムなどのように、特定の障害を持った人びと向けに作られている。州レベルでも、いくつかの障害者関連政策は本質的には一般的なもので、福祉制度、特別なニーズのデイケア、レスパイト・サービス、及びさまざまな雇用プログラムを通して利用できる所得支援プログラムのように、どのようなタイプの障害を持った個人をも対象としている。

1980年代初期以来、障害者運動が活発化し、一般国民の間で障害者関連問題への認識が高まってきている(Young,1992)。

労働市場政策

 国の雇用制度は流動的で、連邦政府は州と準州に対して、労働市場プログラムの実施について新しい調整方法を協議したいと提案している。すなわち、州と準州は、賃金補助金、所得補足、自営開業援助、職務創出のための提携、並びに、おそらく技能習得のための貸付金と助成をも行うことになりそうである。現在カナダ政府が行っているアセスメント、雇用指導、及び地域の職業紹介などを含んだ労働市場サービスは、州と準州が選択的に責任を負うことができるようになるであろう。1995年11月27日に首相が約束したように、そして、1996年2月に議会開院式の勅語で繰り返されたように、連邦政府の提案は労働市場における訓練から撤退することを示唆している。連邦の撤退は、各州が希望するならば、3年又はそれ以内に起こるものと思われる。

これらの展開と歩調を合わせて、1996年12月に、連邦政府とアルバータ州政府は、新しい労働市場開発協定(Labour Market Development Agreement)に署名した。この協定により、アルバータ州は、労働市場情報、アセスメント、指導と職業紹介と共に、訓練、仕事の経験、自営開始時の助成を含んだ労働市場対策の計画、運営、実施に責任を持つことになっている。全ての州が、このアルバータ州の例に続くことに興味を示したわけではないが、この協定が、労働市場プログラムに関する責任を連邦政府から州及び準州政府へ委譲する最初の可能性を示したといえる。

社会サービスと雇用の分野におけるこれらの展開は、障害者の中からは不安を持って見られている。例えば、「カナダ・保健と社会的委譲(Canada Health and Social Transfer:CHST)」として知られている資金調整の下で、国の基準が欠如していること、また、各州の財政が緊迫していることが、障害者が必要とする社会的支援と職業的サービスへ適切にアクセスできないという結果を生むのではないかという心配である。障害者は、労働市場プログラムのために、新しいカナダ-アルバータ・サービスセンターに物理的にアクセスすることになるわけだが、これらのセンターが将来も州の労働市場プログラムで重要な拠点となるかどうかは明確ではない。歴史的にみて、障害者はこのようなプログラムにおいて低い位置づけがされてきた。障害者の雇用促進のために連邦政府の資金を受け取った多くの非営利障害者団体の存続もまた確かではない。しかし同時に、社会サービスと労働市場の責任を分権化しようという動きは、州政府の調整がよくとれた政策とプログラムを創設する機会を新たにもたらしたといえる。これが過去には不足していたために障害者の雇用上の大きなバリアとなっていたのである。

カナダの労働市場プログラム、特に、障害者のためのプログラムを評価する上での、政府の失敗を非難する声も聞かれる(Raskin,1995)。

障害者雇用政策の変遷

 カナダでは、現在、雇用と障害に対する立法、政策、及びプログラムの枠組に関して重要な変化が進行しつつある。1995年の春までは、カナダ援助計画(Canada Assistance Plan :CAP)というメカニズムによって、連邦政府は、福祉、特別所得補足、及び、労働市場で非常に不利益を受けている人びとのための介護サービス、一部のリハビリテーション・プログラム、ワーク・アクティビティ・プログラムを含む広範な社会サービスの費用を各州と分担していた。CAPが出資したプログラムは、ニーズに基づいて資格を得た人が利用でき、障害者支援プログラムの重要な資金源であった。1995年4月に、CAPは廃止され、CHSTが後を継ぐこととなった。CHSTにより、連邦から州及び準州に委譲する連邦の現金総額は減少したが、州には基準又は他の要求はほとんど課せられなかった。したがって、CHSTは、CAPに比較して各州に対してより大きい自由裁量権を与えることとなり、各州は連邦の介入なしに自分自身の社会的プログラムを計画することができるようになった。CHSTはまた、連邦が各州へばらばらに委譲していた中等教育卒業後の教育と保健プログラムを、実質的に条件がつかない単一のプログラムに結合している。

最近まで、連邦の訓練手当と広範な他の雇用支援は、国民訓練法(National Training Act)と失業保険法(Unemployment Insurance Act)により認可されてきた。これらの法律は1996年6月に廃止され、雇用保険法(Employment Insurance Act)に引き継がれた。この法律は、所得援助に受動的に依存することを減少すること、雇用や再雇用を促進すること、連邦と各州の連携を強化すること、プログラムの柔軟性を増加すること、地方の優先権を増加すること、及び、公費を減らすこと、を主要な目的としている。この新しい法律は、障害者に対して特別の注意を払わなかった。しかし、障害者も、一般に新規に就職を希望している失業者で、雇用保険の資格を持っている者を対象にするという資格要項に従って、サービスを受ける資格を得ている。

近年、職業訓練と雇用サービスのいずれにおいても、障害者をメーンストリームに統合しようという傾向がみられる(Raskin,1995)。

政策策定と施行

 保健、中等教育卒業後の教育、及び、社会サービスに対しては、各州と準州が本質的責任を負っている。しかし、歴史的にみて、連邦政府が、州/準州に対し、支払いの均等化、条件付き費用分担、無条件助成、及び、対象を絞って一まとめにした委譲などの方法で、そのようなプログラムのための予算を補足するという重要な役割を果たしてきている。

連邦政府は、通商に関して憲法上の責任を持っており、国の労働市場政策とプログラム提供(delivery)について重要な役割を果たしている。現在は、人的資源開発省(Human Resources Development Canada)(以前の雇用移民省(Employment and Immigration Canada)及び現在は解散されている保健福祉省(Health and Welfare Canada)から選ばれた部局から構成される)に新しく設置された部局が、労働市場プログラムについて主要な責任を果たしている。

各州はそれぞれの労働市場サービスを行ってきているが、豊かな州ほど高度に発展する傾向がみられる。州レベルの労働市場プログラムは、労働、高度な教育・訓練、社会サービス、リハビリテーション、保健、及び福祉に責任を負う部門で行われている。プログラムは、州によって大きな差があり、障害者雇用の強調の度合いについても同様、州による差が大きい。

州労働者補償評議会(Provincial Workers' Compensation Boards)が行うプログラムにおいても同様に州によって大きく差があるが、職場での怪我により障害者となった労働者のための障害年金、保健、及びリハビリテーション・サービスの分野で重要な役割を果たしている。

障害者団体
カナダにおいては、障害者問題に関する政策作成はいくつかのレベルで行われている。1980年以来、「障害者の地位と人権に関する議会委員会(Committee of Parliament on Human Rights and the Status of Disabled Persons)」が設置され、定期的に地域の意見を聴取している。この方式は、カナダ在住の障害者の関心と意見に直接、連邦政府の注意を喚起させることができる重要な伝達手段となっている。この委員会は、与野党にかかわらず満場一致で報告を議会に提出できる、数少ない議会委員会の1つである。そして、この委員会は雇用問題に対して大きな注意を払ってきたのである。

障害者団体は、「障害者の地位と人権に関する議会委員会」へ定期的な陳述を行ってきただけではなく、人権、雇用、財政、及び人的資源を含むさまざまな議会委員会と非公式な協議を行い、意見を提出してきている。連邦の担当部局もまた、障害者問題についての知識を持った人を採用して、政策作成の仕事に従事させてきた。しかし、政策作成の最終責任は、担当部局が負うものである。

同様に、州の政策についての責任は、州及び準州の内閣が担っているが、一方、意見の聴取は、委員会や、政策作成者と組織間の1対1の会議による他、障害者団体から州政府に意見をインプットするためにほとんどの州に設置されている準政府協議会(quasi-
governmental councils)によって行われている。

歴史的にみると、政策作成に関して個人や団体を組織化することは、州や国のレベルと比較すると地方ではあまりうまく行われていない。国や州レベルであってさえ、政策作成や障害者団体が主張する政策の採用といった面からみた進歩は、歩みが遅いといえる2)。政策と意思決定についての権限と責任は、国あるいは州レベルから、地方や地域のレベルに急速に移ってきている。一方、障害者問題に国がアプローチをし、指導力を発揮するために、連邦政府が利用できる権限と範囲が急激に減少することについての懸念もある。

障害の定義

 連邦雇用均等法は、「この法律の目的からして、障害者とは、身体的、精神的、感覚的、精神医学的、又は学習障害が進行中または再発した結果、雇用の見込みが実質的に減退している人、及び、彼ら自身あるいは将来の雇用主が、障害があるために自分たちを雇用上不利がある人と考えている人たちである」と定義している。この法律では、障害の状態を正式に評価するよりは、自己申告に依存している。この法律では、現在の仕事又は職場に完全に、又は部分的に適応している人も障害者として含んでいる。

カナダの人権法における障害の定義は、より広いアプローチでなされており、形態異常や薬物又はアルコール依存(過去又は以前に)だけでなく、以前の精神的又は身体的な障害は如何なるものでも障害者に含まれている。

カナダにおける障害の定義は、プログラムによって大きな差異がある。いくつかのプログラムでは、障害に基づいたサービスを受けようとする人は、身体的、感覚的、知的、又は心理学的な機能の喪失が大きいために、失業の可能性があったり、雇用の可能性がきわめて限定されていることが必要である。自分から労働力であることをやめることによって、障害者関連の援助を受ける資格を得ようとする人も出てくる。雇用関連プログラムでは、障害者に関連したサービスを受けるためには雇用上の不利が大きいことが必要となることもあるのである。

統計

 カナダでは、障害に関する入手可能な主要な統計資料は2つある。1つは、カナダ統計局の健康と活動制限調査(Health and Activity Limitation Survey:HALS)で、1986年及び1991年の国勢調査の直後に実施された。この調査は、調査回答者の中から障害者をスクリーンするために、一般国勢調査の質問とWHO(世界保健機関)の「日常生活動作」指標に変更を加えたものを組み合わせて行われた。HALSは社会的及び経済的な問題を広範に調査したものである。もう1つは、全国人口健康調査(The National Population Health Survey:NPHS)で、現在実施中であり、長期的な健康状態又は障害から生じる活動制限に関する一般的な調査項目を使用している。NPHSは、第一に健康に関する指標に焦点が当てられているが、過去12ヶ月に就業した職業数などの労働市場活動の特定情報や家族の収入などの社会経済的な一般情報をも含んでいる。この報告書を準備している時点で入手可能な最も新しいNPHSのデータは、1994年のものである。本章では、この調査の素データも活用している。

HALSによると、障害者は、1986年の労働力人口(施設入所者を除く)の10.4%から、1991年には12.7%に増加した。つまり、障害者数は、230万人になる。カナダの障害種類別労働力人口は、表C.1のとおりである。

表 C.1 カナダの障害種類別労働力人口(施設入所者を除く)比率*
移動 6.6
機敏さ 6.4
聴覚 3.1
言語 1.0
視覚 1.2
その他(含認知障害、心理的障害) 4.4
不詳 1.1
重複障害 6.7

 * 1つ以上の障害を報告した回答者が何人かいる。
資料出所:「健康と活動制限調査」1991年,カナダ統計局

障害者の雇用状況

 1991年の15歳から64歳までの非障害者の雇用率は73%であった。失業率は7.9%で、19.1%は非労働力であった。ところが、障害者については、同じ1991年に、雇用率は僅か48.2%であり、8.1%は失業し、43.7%は非労働力であった。

NPHSによると,1994年現在、進行中の健康状態又は障害によって活動制限のある者は、カナダの労働力人口の17.3%(360万人)であった。活動制限ありと報告しなかった人びとのうち、72.1%は雇用されており、9.5%は前年には雇用されていたが調査時点では働いておらず、18.4%は労働力人口ではなかった。活動制限を持っている人びとのうち、雇用されている者は53.2%、調査時点で働いていなかった者は8.5%、及び非労働力人口は38.3%であった。

HALSとNPHSが、カナダにおける長期の健康状態又は障害による活動制限を持つ人びとの全数について異なった推計を下してはいるものの、両調査から、障害者が非障害者よりも雇用水準がきわめて低いこと、活発な労働市場から完全に脱落しそうであることが裏付けられる3)。

表C.2は、1991年のHALS及び1994年のNPHSで調査した全ての労働力人口の状況を年齢別及び障害状況別に示している。両調査とも、高年齢者層で、特に障害者において、雇用がかなり低い水準にあることを示している。

表 C.2 カナダの障害および非障害労働人口の年齢別雇用状況(%)
年齢 雇用されている% 失業中% 非労働力人口%
A.非障害者 15 - 34歳 70.1 9.8 20.2
35 - 54歳 81.6 6.2 12.2
55 - 64歳 55.1 5.7 38.2
  障害者 15 - 34歳 54.1 12.3 33.6
35 - 54歳 57.0 7.6 35.4
55 - 64歳 27.9 4.4 67.8
B.活動制限のない人 15 - 34歳 68.5 12.8 18.7
35 - 54歳 81.4 6.4 12.1
55 - 64歳 50.7 7.7 41.7
  活動制限のある人 15 - 34歳 58.9 13.3 27.8
35 - 54歳 60.5 7.3 32.3
55 - 64歳 28.6 3.8 67.6

 資料出所 A:健康と活動制限調査 1991年,カナダ統計局
B:全国人口健康調査 1994年

失業率からみると、また異なった様相を示すことができる。失業率は、有効労働力中の現在雇用されていない者の割合と定義される。有効労働力には、現在働いている人、及び、仕事を熱心に探している人、ないしは近い将来働くことを確実に考えている人、すなわち失業者が含まれる。HALSのデータに基づくと、1991年の非障害者の失業率を計算すると9.8%となるが、同年の障害者の失業率は14.4%となった。HALSによると、若い障害者(15歳から34歳まで)は、非障害の同じ年齢層で12.3%の失業率に対して、18.5%と非常に高い失業率を示している。

障害の重さで労働市場における障害者の雇用状態の低さを説明することはできない。障害者の雇用状態はまた、年齢、地理的条件、及び障害の種類によっても変わるのである(Roeher研究所,1993)。障害者の雇用水準は、障害の種類によって35%から38%までの幅がある。HALS(1991)によると、聴覚障害者の雇用水準は56%と、かなり高い。

表 C.3 支援の種類別労働年齢障害者の必要とする雇用支援パーセント、及び支援を必要とする労働者の支援利用可能性
必要な支援の種類* 支援を必要とする労働年齢障害者% 雇用されている人で必要な支援% 支援を必要とするもので、必要な支援を受けられる被用者%
支援を必要としない人 68.8 56.8 -
1つ以上支援を必要とする人 31.2 29.0 -
- 人的支援 3.4 27.0 53.4
技術的補助具/器具 1.8 42.6 41.2
コミュニケーション・サービス 1.5 35.4 11.0
職務再設計 16.9 25.7 64.5
時間/日数の調整 17.3 22.5 64.1
交通機関へのアクセス 6.9 19.3 50.2
他の非建築的支援 3.6 41.4 51.2
てすり、スロープ 4.8 20.1 71.9
適切な駐車場 15.1 20.8 68.0
エレベーターへのアクセス 6.0 17.0 66.6
作業場へのアクセス 5.4 17.9 68.8
トイレへのアクセス 4.5 19.6 73.8
その他の建築的支援 1.4 39.0 49.8

 * 1種類以上の支援を必要とする人が何人かいた。
資料出所:健康と活動制限調査 1991年,カナダ統計局

機能障害そのものは、作業上の制限を示す指標にはならない。表C.3は、働くためにさまざまな障害関連支援を必要とする労働年齢障害者の割合を示したものである。一般的に言って、支援を必要とする人の雇用水準は低い(29%)。職務の変更又は交代、働く時間や日数の変更といった職務再設計は、雇用のために群を抜いて最も広く必要とされた支援である。働いていて、このような支援を必要とした人びとの3分の2は、これらの手段を利用することができたことが示されている。70%近くの障害者は、働くために多くの作業施設改善の支援は必要としなかった。これらの人びとの雇用水準は、比較的に高い(56.9%)。しかし、最も広く必要とされる支援が必ずしも多額な現金を必要とするものではないにもかかわらず、必要とする支援を受けられた者は実際のニーズから見てかなり低い水準にとどまっている。

雇用支援サービス

 カナダ人的資源開発省(Human Resources Development Canada:HRDC)は、連邦の雇用関連プログラムを管理している。カナダ人的資源センター(Human Resource Centres)(以前のカナダ雇用センター(Canada Employment Centres))は、プログラムの提供について責任を持っている地方事務所である。新しい雇用保険法は、これらの雇用サービスを根本的に再編することを意図していた。労働力開発戦略(Labour Force Development Strategy:LFDS)は、以前のカナダ職業戦略(Canadian Job Strategy)とその複数のプログラム構成要素を引き継いだものであるが、簡素化、統合化されている。

訓練

 障害者職業リハビリテーション(Vocational Rehabilitation of Disabled Persons:VRDP)法により、連邦政府は雇用関連支援、補助機器、保護就労、及び障害者の訓練と所得のある雇用を促進するその他のプログラムについて、州及び準州と費用を分担している。VRDPは、1996-97会計年度末まで延長されたが、それ以後については不確定である。しかし、最近の障害者問題に関する連邦特別委員会は、的を絞った研究、新規事由、デモンストレーション・プロジェクト、及び、一般労働市場における障害者雇用を増進させるための啓発活動だけではなく、職業リハビリテーションへのより個別化されたアプローチを助長するようプログラムの焦点を合わせ直す必要があることを勧告した。この特別委員会は、新しいプログラムはVRDPの現在の水準で支出されるべきであると勧告している。(障害者問題に関する連邦特別委員会,1996)。

リハビリテーション・サービスは、州及び準州の保健組織、CAP、VRDP、労働者補償、及び公私の保険計画によって賄われている。これらは大都市に集中している。最近まで、(LFDSを通しての)HRDCは、失業しているクライエントのための訓練コースとプログラムを、コミュニティ・カレッジ、民間の訓練施設、及び他の地方組織から購入してきた。LFDSは、連携を促進、強化するために企画されたもので、特別なイニシアチブ(Special Initiatives)、雇用可能性の改善(Employability Improvement)、労働市場の調整(Labour Market Adjustment)、及び地域開発(Community Development)の4つの主要なプログラム領域の下で組織されたものである。HRDCは、訓練の購入を次第に停止し始めているけれども、いくつかの州/準州では、訓練経費を埋め合わせるための助成金や貸付金を個人に提供するようである。これらの調整が障害者にどのような効果をもたらすかは明らかではない。とはいえ、HRDC出資のプロジェクトに基づく訓練イニシアチブ、例えば、職場での実習と教室での学習を組み合わせた訓練は、過去において障害者の雇用増大に特に成果をあげてきたといわれる(カナダ人的資源開発局,年月なし)。しかし、訓練に参加するための費用は、大きな障害となっていた。特に、各州/準州が、訓練貸付金や助成金を利用できるようにしないと、費用の問題は続くことになろう。

従来から、教育と訓練プログラムを利用できる人に対して、制限基準が存在してきた(Roeher研究所,1993)。先に指摘したように、個人は雇用可能性があると思われないかもしれないし、また、基礎的な学力レベルが低い、訓練方法や訓練期間、訓練修了後の就職率が低いといった問題が存在している。また、連邦の雇用プログラムへの障害者の参加は非常に少なかった(Halliday,1990)。HRDCの雇用サービス介入を受けたのは、僅か1,110人の障害者に過ぎなかった(HRDC,1995)。連邦のプログラムを修了して3ヶ月後にフルタイムで就労したり、さらに訓練を受けている者で、雇用プログラムで獲得した技能を生かした者の数は、非常に少なかった。

1991年のHALSによると、労働年齢障害者のうち784,000人は、これまでのある時期に、職業能力を強化したり新しい技能を学ぶために、作業関連の訓練コースに参加したことがあると報告している。これらの人びとの59.5%は働いていた。訓練を受けなかった他の1,513,000人では、僅か42.3%しか働いていなかった。後者のグループの約299,000人は、訓練を受けたかったけれども叶えられなかったという。訓練を受けなかった主な理由としては、費用が高い(30.5%)、訓練の場所にアクセスできない(28.3%)に続き、訓練の行われる場所(18.6%は訓練場所が遠すぎる、又は、不便であると答えている)、訓練コースが適していない(16%)、交通機関が不十分(11.5%)、及び、子供の世話ができない(6.4%)であった。

その他の援助方策には、次のものが含まれる。

  • 「雇用援助サービス(Employment Assistance Services)」。これは、労働市場情報、助言、 行動計画、及び他の雇用サービスへのアクセスを容易にするために、地域の団体によっ て提供される。
  • 「地元労働市場パートナーシップ(Local Labour Market Partnerships)」。これは、地元 の雇用主、地域の団体、従業員協会、及び政府機関から構成されており、求職者に新し い雇用機会を創出するために連携している。

さらに、HRDCは、セルフサービスの売店、コンピュータ・ワークステーション、及び、インターネット・ウェブサイトを提供している。このウェブサイトでは、有効求人が一覧できる「ジョブ・バンク(Job Bank)」や、求人者と求職者を結合できるような情報を搭載した「電子職業紹介(Electronic Labour Exchange)」にアクセスできる。

リハビリテーション

労働災害による障害か否かを問わず、障害を受けた労働者は、カナダ年金計画(Canada Pension Plan:CPP)障害給付の権利を持っている。障害給付は、過去3年間に最低2年、又は過去10年間に最低5年、カナダ年金計画に払い込んだ労働者に提供される。このプログラムは、重い、長期の障害を持つ人びとに僅かながらも年金を提供する貴重なものである。この障害年金は、増大する取り扱い量や財政的裏付けのないカナダ年金計画の将来の債務の故に―障害年金も部分的にその責任があるが―最近厳重な検査の対象とされるようになった。

さらに、CPPの障害プログラムの適格基準やその他の要因によって、再雇用先を見つけることができるかもしれない一部の人たちが、仕事を探すことをやめてしまうということが明らかになった。カナダ年金計画の全国職業リハビリテーション・プロジェクト(National Vocational Rehabilitation Project)は、CPP障害給付受給者が直面している雇用、教育、及び訓練の障壁を除去するために企画されたものである。このプログラムは、アセスメント、カウンセリング、訓練、有資格者に対する授業料や本代といった他のリハビリテーション経費をカバーしており、また、雇用を確保するための移行期間中にも障害給付を継続して受けられるようにしている。

援助付き雇用

 障害者のメインストリーム対策への傾向が強まる中で、援助付き雇用モデルが助長されてきた(Raskin,1995)。これは、まず職場に配置されてから職業訓練を受けるというものである。援助付き雇用は、障害者が分離された作業活動から一般労働市場での正規雇用に移行するよう援助するために、カナダで広く用いられてきている。通常、社会サービス機関からの援助者又はジョブコーチが参画して個別的な援助と指導を行う。ジョブコーチは、概して、労働者が自分の仕事に熟練すると共に、また、一緒に働く同僚が時々に必要となる日常的な援助を快くしてくれるようになるにつれ、職場から徐々に引きあげることになる。

このモデルは、時には経費がかかるけれども、雇用促進に有用なアプローチであることを証明してきた。しかし、障害者を実質的に正規労働力の中にうまく統合することには限界があった。このようなイニシアチブには、障害のかなり軽い人たちでないと難しそうである。

しかし、このモデルに関する最新の評価はほとんど見られない。Raskin(1995)は、カナダ・リハビリテーション・作業協議会(Canadian Council of Rehabilitation and Work)が1989年に行った研究を最も包括的な入手可能なものとして、未だに引用している。

一般雇用:法的義務と権利

 連邦及び州レベルの多くの法律は、障害者を労働力に統合することを目的としている。これらの制度とその施行手続きは、共に以下で説明される。また、ある州が、連邦の立法に先立って、特に障害者を含めた人権コードを導入していることについても述べる。

権利と自由の憲章(Charter of Rights and Freedoms)

 カナダの権利と自由の憲章は、国の憲法の一部である。それは、全ての個人は法の前に、そして法の下で平等であって、人種、国民的又は民族的血統、皮膚の色、宗教、性、年齢、又は精神的・身体的障害に基づく差別を受けることなく、平等に法の保護及び利益を享受する権利を保証している(セクション15)。このセクションの中心的目的は、人権法のそれと同じである。すなわち、分離、孤立しているカナダのマイノリティを差別的な処遇と行為から守ることで、機会の均等を保証するのである。

この憲章は国の最高の法律である。すなわち、州の人権法を含め、全ての他の法律は憲章の条項と一致した方式と解釈がされなければならない(Molloy,1992)。この憲章は、政府も雇用主として、自分の従業員に対して、重大な支障にならない必要な環境整備を行うことを含んで、障害に基づく差別がないように行動することを規定している。

カナダにおいては、障害に対する人権尊重を公式化する上で、この憲章は重要な道具である。従来、障害は情け深い対応を必要とする慈善問題と考えられてきた。人権尊重とは、能力やその他の差異とは無関係に、全ての人が市民としての完全な権利と基本的人権を与えられることである。たとえ、これらの権利を実現するために、学校や作業環境の改善を含めて、各人が異なった処遇や条件を要求するとしても、これは必要なことである。このような見方から言えば、公共及び民間の施設は、障害者及びその他の境界線上の人びとの要求に応えるという基本的人権を守るだけではなく、権利の実現のために必要な条件を整えることを保証する積極的な義務も課せられている。

人権立法と委員会

 連邦及び州/準州レベルのいずれにおいても、人権コードは障害による雇用での差別の禁止を明確に述べている。民間の雇用主及び連邦と州/準州の政府はまた、人権コードに抵触せずに、障害者の雇用を増大させるために差別撤廃措置又は雇用均等プログラムを実行できる。雇用主が障害労働者のために変更を加えたいときは、人権委員会(Human Rights Commission)にその計画の承認を求める。

人権委員会が、カナダ人権法(Canadian Human Rights Act)(1977)を施行する。この委員会は、政府から距離を置いた活動をしている。この委員会は、人権法に関連して、差別に関する個人的な苦情を処理し、人権法の根底にある信条を周知させる運動を行っている。この法律は障害を含む11の根拠に基づいた差別を禁止していて、「この法律のめざすところにより、人種、国民的又は民族的血統、皮膚の色、宗教、年齢、性、配偶関係、家族の状態、障害、及び、恩赦を受けた罪科を差別の根拠とすることを禁止する」(セクション3)と述べている。

障害については、1985年にこの法律に追加された。この法律の中で、「障害」とは、過去あるいは現在の精神的又は身体的障害を意味し、これには形態異常や過去あるいは現在のアルコール又は薬物への依存症も含んでいる。

この法律は、何人たりとも雇用あるいは雇用の継続を拒否したり、雇用中に、一従業員を差別的逆境に置くことを違法としている(セクション7)。この法律の条件は、雇用志願者、広告、従業員組織、及び公平な賃金についても適用される。

カナダ人権委員会は、雇用における差別や苦情をケースごとに受理し、回答する。これに関しては、州委員会でもほとんど同様の方法で実施されている。しかし、連邦委員会では、雇用均等法の下で新しく制定された服従強制命令により、さらに積極的な行動を行うことができる。この命令によって、委員会は、雇用主が法の決めた手続上の義務を果たしているかどうかを現場訪問で確かめることができる。委員会代表者は、雇用主と服従について協議することを計画でき、また、協議による効果が限界に達した時は、雇用主に、特別な賠償の責任を負うことを命じることができる。

委員会は、被害を受けた人に代って行動することを委任されたり、委員会自身で訴えを起こすことができる。調査に当たって、委員会は召喚状を出す権限があり、委員会の仕事を妨害することは違法となる。委員会の調査が終了すると、人権法廷での継続調査を指示されるか、又は、その訴えは却下される。委員会の処理法としては、調停での和解に達することが望ましいと考えている。

訴えが法廷に持ち出される場合は、証人の出廷と証拠の提出を強制することができ、宣誓が行われる。委員会が強く主張する対処手段は、侵害された権利の回復か、損害賠償金の支払いである。

1992年12月、法律をさらに強化するために「妥当な環境整備(reasonable accommodation)」、及び「重大な支障(undue hardship)」という条項が導入された。妥当な環境整備の条項は、1991年の「障害者統合のための国家的戦略(National Strategy for the Integration of People With Disabilities)」で発表された目標の促進をめざしている。独立した法廷はまた、苦痛を強いる故意又は無頓着な差別行為に対して10,000ドルを賦課することができ、また、法廷を妨害したり、証人を脅迫する行為があれば、その会社や組合に対して、50,000ドルを賦課することができる。

人権委員会が直面する主要な課題は、膨大な取扱い件数と出資抑制であった。これらの要因によって、差別を主張した人への回答が遅くなったり、時には何年もの間、個人が公式の手続きで訴えることを妨げてきた。人権制度のもう1つの限界は、ケースが私的に解決される傾向があることである。このようなケースは、法廷で判決されたケースとして判例とはならないので、差別の根本原因を明らかにする効果が薄れる原因となっている。

「妥当な環境整備」の概念を含む法律は、知的、あるいは精神病理的障害よりも身体的障害に利益をもたらすように思われる。なぜならば、環境整備にはケアや援助よりも、むしろ、職場の変更などに関わりがあるからである(Roeher研究所,1993)。

明らかにされたどの年においても、障害者に対する差別のケースは、委員会に提出された全ての人権に関する苦情の中で大きな部分を占めている。しかし、これらのケースは「氷山の一角」にしか過ぎない。例えばHALS調査によると、労働年齢障害者の319,000人以上が、雇用や昇進、訓練へのアクセスを拒否された経験を持っており、又は自分の健康状態の故に過去5年の間に仕事を辞めさせられたと信じていた。この数字は、労働年齢障害者の13.9%に当たるものである。これらのうち、ほんの一握りの人(14.7%)だけが、組合の代表者や弁護士、地域の協会、連邦又は州の人権委員会に相談するなど、問題を訴える何らかの行動を起こしたに過ぎない。

州の人権立法

カナダの全ての州と準州は、多くの根拠に基づいて雇用における差別を禁止する人権法令を持っている。1977年、ニュー・ブランズウィック州は、差別禁止法を身体障害にも拡張した最初の州である。他の各州と準州は、これに続いた。各州と準州の関連法は以下のとおりである。

  • 個人の権利保護法(アルバータ州)1980年。1985、1988、及び1990年に改正。
  • 人権法 1984(ブリティッシュ・コロンビア州)。
  • 人権コード 1987-88(マニトバ州)。
  • 人権法 1973(ニュー・ブランズウィック州)1976年に再制定、1985年に改正。
  • 人権コード 1988(ニュー・ファウンドランド州)。
  • 公正実施法 1988(ノース・ウエスト準州)。
  • 人権法 1989(ノバ・スコティア州)。
  • 人権コード 1990(オンタリオ州)。
  • 人権法 1988(プリンス・エドワード・アイランド州)。
  • 人権と自由の憲章 1977(ケベック州)1982年に改正。
  • サスカチュワン州人権コード 1979。1989年に改正。
  • 人権法 1986(ユーコン準州)。

 これらの法律は、条項の適用方法には差異がみられる。各州に関連する広範囲にわたる判例が作られている(Molloy,1992)。

連邦の公共サービスにおける雇用の均等

 1986年、連邦政府は3つの強制的な雇用方策の1つととして、雇用均等方策を公表した。これは、財政委員会(Treasury Board)によって管理される。財政委員会傘下の部局と機関は、231,000人の労働者に対して責任を負っている。そして、連邦の各省庁で働く障害者の数を増加させることを目的としている。しかし、連邦省庁で働く障害者の数は、依然として低い水準で低迷している。

他の2つの方策は、民間部門に適用される雇用均等法(Employment Equity Act)と連邦契約者プログラム(Federal Contractors Programme)であり、両者とも、カナダ雇用・移民省が運営している。それらの概要は以下のとおりである。

雇用均等法
雇用均等法は、「長年の差別的な行為やその他の不利益を受けた結果として、雇用上の組織的な障壁に遭遇しているグループがあることを認めて」制定されたものである(Roeher研究所,1993,47ページ)。新しい雇用均等法と規則は、1996年10月に施行された。この法律は、雇用主が、障害者及び他の指定されたグループ(女性、原住民、及び少数民族)が直面している雇用上の障壁を除去するための計画を特定し、策定すると共に実施することにより、そうした労働力に歩み寄ることを要求している。新しい法律には、1986年の最初の連邦雇用均等法を増強するために、他の条項が追加されている。法遵守を監視する責任は、人権委員会が負っている。

1986年立法以来、このような一般条項は実施されてきた。特に雇用主は、指定されたグループの雇用状態を調査するために、また、雇用上の障壁となるような雇用制度、方針、及び行為を明らかにするために、情報の収集、分析を行うことを要求されている。雇用主は、低い雇用状況を改善するための、採用、訓練、昇進、定着、及び職場の環境整備に関する短期及び長期の計画を作成すべきである。そして、これらの計画を効果的に実行し、その効果を監視するために必要な努力をすること、必要に応じて計画を改訂すること、実行上の問題について従業員代表と相談すること、適切な記録を行うこと、さらに、遵守担当官に必要な援助と情報を提供すること、が求められている。この法律は、これらの点が遵守されているかどうかを現場訪問で確かめることを、カナダ人権委員会に命じている。雇用均等再審理法廷では、決定について討議し、必要な最終的実施方法を確定する。

この法律は、約350の民間雇用主と、銀行業務、州間輸送業、及び通信業などの連邦の規則で運営される王冠法人(Crown corporations)に適用される。現在、全ての連邦各省庁及び財政委員会が雇用主である機関、さらに、連邦のプロジェクトと契約している従業員100人以上を雇用する民間雇用主までに、その適用範囲が拡張されている。総計すると、この法律によってカバーされる従業員は、約900,000人となる(これは、カナダの労働力の8%に当たる)。この法律は、雇用主に、重大な支障を来たしたり、わざわざ新しいポストを創り出してまでして、資格のない個人を雇用したり昇進させることは要求していない。また、この法律は割当て雇用を課すものでもない。

雇用状態がよくないときは、再調査を要求されることもある。雇用状態が悪い原因が、組織的あるいは意図的な差別によると判明した場合は、雇用主はその問題を完全な雇用均等計画によって是正しなければならない。

雇用均等方策は、障害者の雇用全体としてみると効果が限られていた(Roeher研究所,1993)。「保護」雇用とエンクレーブ型雇用が雇用均等の目的を満たすために用いられてきたためと指摘されている。雇用均等での問題は、法的強制力がないこと、雇用主に障壁の除去をほとんど要求していないこと、また、参加目標が低いこと、などから起こっている(Roeher研究所,1993)。にもかかわらず、限られてはいるものの何らかの収穫はあったという一方、雇用均等問題に公的、政治的な注意を向けることが重要であるという議論がある。

連邦契約者プログラム(Federal Contractors Programme)
1986年に連邦政府により導入された連邦契約者プログラムは、連邦政府に商品やサービスを供給する者に適用される。このプログラムは、連邦との契約者が公正で適正な割合で労働者を雇用し、維持することを要求している。それは、政府と200,000ドル以上の契約を結んだ、従業員100人以上の組織を対象としている。このような組織では、雇用均等プログラムの実施を確約することを要求される。契約者は、指定グループのメンバーの選抜、採用、昇進、及び訓練に対して、人為的な障壁があれば、それを認識し、除去しなければならず、また、全てのレベルで、指定グループからの雇用を増大させなければならない。

このプログラムの下で、100万人以上の従業員が含まれる1,358の組織が、雇用均等の実行確認書に署名をしている。現在、このうちの約872人の雇用主が、服従再調査の対象になっている。政府契約を入札する権利のあるものが、不服従のために撤回されることは非常にまれで、入札者リストに再録されることが普通である。

OECDによると(OECD,1992)、この方法は、結果よりもむしろ経過に焦点を当てている。この法律は、連邦管轄下のグループに関する情報全体から斟酌し、雇用主が自分たちの環境と業務に合わせて作った均等計画の実施を認めている。その他の肯定的側面として、公的な監視、及び、雇用主間の競争の可能性があげられる。しかし、成功と認めるための明確な目標と手段が欠如していることは、合意に達した障害の定義がないことと共に、これらの法律の効果を弱める原因となっているかもしれない。雇用均等法の効果が影響を与える重要な要因は、見張り役として働く強力な消費者運動の存在であろう(OECD,1992)。

効果
雇用均等法に関する年次報告書は、常に、雇用と採用のレベルで、障害者の状況は低い水準にあることを示している。カナダの労働力における障害者の割合それ自体は非常に低く(雇用均等の目的で使われる計算方法に従うと6.5%)、HALSによる障害者は、カナダの労働年齢人口の12.7%を占めている。雇用均等法制定以来ほとんどの年で、障害者の退職数は、雇用均等法適用の職場における採用数を上回っていた(カナダ人的資源開発省,1994)。

障害者数の増加は、障害者の採用増というよりも、既に雇用されている従業員が自己認定することによる方がはるかに多い。全国雇用均等ネットワーク(National Employment Equity Network)は、強制的な目標がなければ、法は歯を欠くことになるであろうし、最終的に雇用均等は現実的なものにならないだろうと指摘している。ある人たちは、より効果的に運営するためには、強制的な目標と関係づけて罰金を徴収すること可能であると指摘している。そして、これらの罰金は、いろいろな対象グループの訓練に支出する基金に繰り入れることも可能である(Holmes および Young,1991)。

啓発政策

 自発的な雇用均等及び差別撤廃措置は、全国の公共及び民間の施設において創設されてきた。オンタリオ州政府は、雇用均等に向けて、法律によるアプローチよりも自発的なアプローチでと揺れ動きながら、以前の新民主党の下で制定された州雇用均等法を最近になって廃止し、機会均等計画(Equal Opportunity Plan)に置き換えた。廃止された雇用均等法は、公的、準公的、及び私的な組織に対して、セクター別に要求度を変えて、州レベルで雇用均等を法的に割り当てた最初の立法であった。一方、この機会均等計画は、障害者やその他の不利益を受けているグループの雇用を増大させるために、雇用主が行う自発的な努力に対してさまざまな支援を提供している。

この機会均等計画は、オンタリオ人権コードの雇用における一般的差別禁止に適合している。雇用均等委員会は事実上存在せず、一方、オンタリオ人権委員会のサービス、効率、及び有効性を改善するために、いくつかの施策が導入されている。

障害者に特に関係のあるプログラムの活動領域は、以下のとおりである。

  • 雇用主がどのように障害者のニーズに合わせた環境整備を行ったかといった多くの「成功事例」をはじめ、インターネットのウェブサイトや、広範囲の雇用関連問題(例えば、採用、環境改善等の配慮、仕事探し戦略)に関する自動的に流される情報やファックスでの請求に応えた情報。
  • 提携プロジェクト、訓練、及び教育。
  • 所得のある障害労働者やボランティアとして働く障害者を援助するための貸し付け基金。
  • オンタリオ州の公共サービスで機会均等を促進するための方策。
  • いかに障害者をよりよく援助できるかに対する政府内の雇用関連プログラムの再検討。

 他のプログラムの要素には、カナダ国外で訓練又は教育を受けた人たちの就職へのアクセス問題を処理するための方策、警察のサービスに対するガイドライン、並びに、教育施設に対する差別に関する政策声明などが含まれる。これらのプログラム促進に関する啓蒙書が十分でないことが、障害者が労働市場へより広いアクセスできるようにする訓練や、教育、保健・社会サービスを共同で行う戦略的行動に影響を与えている。

連携

 いくつかの地域社会においては、障害者とその支援者たちが、雇用機会を開発するために、労働者代表や商工会議所を含んだ地元経済界の重要人物とネットワークを形成している。多くは個別化雇用計画アプローチをとっているが、その他は障害者の能力と興味に職場や作業を適応させる方法を模索している。この目的の根底には、仕事に障害者を合わせて就職させるよりは、障害を持った個人に適するように、既存の仕事を修正したり、新しい仕事を創り出すことという理念が存在している。

一般雇用:財政的施策

 現行の再雇用施策は、大きく2つに区分できる。1つは、再雇用給付であり、もう1つは支援施策である(支援施策については、上記雇用支援サービスの章で記述済み)。

再雇用給付

活動制限のある人 再雇用給付を利用できる人は、地元の出資の優先順位と一致する雇用に求職応募している人で、現在雇用保険(EI)給付を受けているか、過去36ヶ月の間に雇用保険給付を受けたことがあるか、又は過去60ヶ月の間に出産手当か養育手当を受け、現在再雇用先を探している人である。

再雇用給付に含まれるものは、次のとおりである。

  • 対象者の賃金に対する補助金。再雇用求職者に直接的な仕事の経験を提供する雇用主に提供される。
  • 自営に対する財政援助及びその他の援助。自分の事業を始めようとしている個人に提供される。
  • 職務創出のための提携。地域社会のプロジェクトを通して働く経験を促進することを意図したもの。
  • 対象者の所得補足。所得給付金をもらうより、就職した方が収入が高くなるようにするために、前職より賃金が下がった人に一時的に賃金を補填する。
  • 技能習得のための貸付金と助成金。訓練や教育に要する費用をカバーするためのもので、連邦政府と当該州の間の協定により利用可能となる4)。

 これらは新しいプログラムであり、それらの活用に関する統計はまだない。

再雇用給付を受けるためには、復職行動計画を作らなければならない。また、この給付を受けることによって、安定した雇用を得られるという何らかの証拠が必要である。障害者は、過去に補助金を得て就職し、オンザジョブ・トレーニングを受けて成功した経験をしてきている5)。

特別の機器/職場の改善

 (LFDSを通しての)HRDCはまた、特別の機器やその他職務上の改善などに必要な費用を補助するために、雇用主に対して、適格者1人当たり10,000ドルまでの支給を行った。

しかし、職場での改造を容易にするための資金の調達は、「断片的で、統合されておらず、十分に宣伝されておらず、混乱を引き起こし、雇用主がこれらの資金へアクセスしようという気力をそがれている」ことは確かである(Roeher研究所,1993 p.79)。

障害給付が活動を妨げるもの

 多くの他のシステムにも同様のことが起こりやすいが、障害給付においても「~か、または~か」という支給資格要件には重要な問題がある。

....失敗を覚悟してでも労働市場に参加したいと思う人たちにとって、自分には所得保障制度から必要な支援を受けるニーズが十分あるということを示すと、雇用の可能性がない人と考えられて、訓練や職業リハビリテーション、職業カウンセリング/職業紹介などの制度の利用は必要ないということになり、これはジレンマである。しかし、ほとんどの所得保障プログラムの下では、最初に雇用の可能性がないと認められてしまうと、人びとは、大抵は障害給付にアクセスすることだけがきわめて重要な楽しみになりそうである(Roeher研究所,1993,p.157)。

 さらに、福祉制度が稼得を取り上げてしまうことや、職を失った際に、障害給付の再資格取得に必要な時間に柔軟性がないといった問題が存在することは周知のことである。

HALS(1991)が、現在は労働力ではない障害者に、求職していない主な理由を質問したところ、自分の現在の収入の全部あるいは一部がなくなることが心配(20%)、特に障害年金、又は、住宅や薬剤計画などの他の給付を失うことが心配(10%)が大きな理由であった。

自営業

 障害とは無関係に、自営業は労働市場で雇用機会を創出する方法として、ますます人気が出てきている。障害者は、さまざまなモデルを活用している。単独で、あるいは1人から数人の他人と提携するか、いずれかの方法で自営している。1991年のHALSによると、労働年齢障害者の12.4%が自営を営んでいる。労働者協同組合は、そのメンバー(障害の有無にかかわりなく)が事業の運営について意思決定を行うものである。障害者団体はまた、障害者と非障害者全てのメンバーのために仕事を創出する責任を負う子会社を創っている。

雇用機関は、援助付き雇用機関として伝統的な役割を拡げてきており、自営や小規模事業を開始しようとする個人も援助している。(Roeher研究所,1993)。

カナダの全土は、過去10年間に大きな経済的混乱を蒙ってきた。カナダの大西洋側では、誰にとっても仕事がほとんどなく、雇用機会はまれである。このような状態の下では、事業開始のために低利貸付金やその他の資本投下が求められている。いくつかの地区では、障害者が地域の経済開発プロセスに均等にアクセスすることを求め実現すると共に、広く地域の経済を動員する構成要素として小規模事業を始めている。

しかし、障害者の自営プログラムへの参加状況が分かる統計はきわめて少ない。HRDCが運営する初期のプログラムである自営援助プログラム(Self-Employment Assistance Programme)での障害者参加は、僅か3.3%を占めるに過ぎなかった(カナダ労働力開発評議会,1994)。指定されたグループを特にインクルージョン(支援付き統合)の対象とするという政策があるにもかかわらず、これらのプログラム施行責任者は指定されたグループを含めることにほとんど意を払わない傾向がみられた。

保護雇用

 州と準州は、非営利組織が行う保護的作業プログラムに責任を負っている。しかし、連邦政府は、障害者職業リハビリテーション法及び協定により、保護雇用制度に対して重要な財源を提供している。1996年、連邦政府からのVRDP資金は、約1億7,000万ドルであったが、その約半分が雇用関連プログラムを対象としたものであった。

知的障害者は、シェルタード・ワークショップのような分離されたプログラムにきわめて多い。最近出された障害者問題に関する連邦特別委員会のVRDP改革に関する提案は、個人が分離された雇用から一般雇用へ移行するのにこれまでよりも可能性がありそうに思われる。なぜならば、この提案どおり行えば、施設やプログラムに基づいて資金を流すのとは逆に、より個人の事情に応じた資金供与を考慮できるからである。しかし、シェルタード・ワークショップ制度がもともと知的障害者のために創設されたことから、この提案が一般雇用への厳しいチャレンジに直面する知的障害者のニーズをどう扱おうとしているのかは明らかではない。

保護雇用で働く人たちは、従来から最低賃金未満の賃金しか受け取っていない(Roeher研究所,1993)。1986年のHALSによれば、普通の世帯で暮らし、シェルタード・ワークショップで働いていた人は、約20,000人であった。この調査では、グループ・ホーム居住者を除外しているので、この結果は当然といえよう(Roeher研究所,1993)。1991年のHALSからの同様なデータは、まだ入手できていない。

保護雇用から一般雇用への移行は、従来からきわめて少数である。保護雇用による解決策と対比されるものとして、一般雇用への関心が大きくなってきている。しかし、現在の経済的状態では、障害者が適当な雇用機会を見つけることは難しい。ある障害者グループは、保護雇用制度を解消する前に、障害者を統合するための方策をもっと考える必要があると主張している。

要約

 障害者政策は、連邦と州レベルで責任を分担しているが、連邦のテーマはカナダ障害者政策に一環して存在している。連邦と州のレベルの間の関係は、現在も変化しつつあり、障害プログラムとサービスは急速に変化している。権限の移転によって、各州は労働市場プログラムの調整に必要な多くの権限を獲得しつつある。

カナダでは、障害者のための政策とプログラムは、混乱した状態にある。これは、他のセクターにおけると同様に、雇用分野においても真実である。カナダでは、連邦から州及び準州政府に、労働市場プログラムについての責任が逆行不可能な形で置き換えられ始めたところである。これが、障害者の雇用機会を増加させる主要な優先事項であるかどうかは明らかではない。

連邦雇用均等法は、「この法律の目的からして、障害者とは、身体的、精神的、感覚的、精神医学的、又は学習障害が進行中又は再発した結果、雇用の見込みが実質的に減退している人、及び、彼ら自身あるいは将来の雇用主が、障害があるために自分たちを雇用上不利がある人と考えている人たちである」と定義している。この法律では、障害の状態を正式に評価するよりは、自己申告に依存している。この法律では、現在の仕事又は職場に完全に、又は部分的に適応している人も障害者として含んでいる。カナダの人権法における障害の定義は、より広いアプローチでなされており、形態異常や薬物又はアルコール依存(過去又は以前に)だけでなく、以前の精神的又は身体的な障害は如何なるものでも障害者に含まれている。カナダにおける障害の定義は、プログラムによって大きな差異がある。いくつかのプログラムでは、障害に基づいたサービスを受けようとする人は、身体的、感覚的、知的、又は心理学的な機能の損失が大きいために、失業の可能性があったり、雇用の可能性がきわめて限定されていることが必要である。

「カナダ・保健と社会的委譲(CHST)」が、カナダ援助計画(CAP)の後を継ぐこととなった。CHSTにより、連邦から州及び準州に委譲する連邦の現金総額は減少したが、州には基準又は他の要求はほとんど課せられなかった。最近まで、連邦の訓練手当と広範な他の雇用支援は、国民訓練法と失業保険法により認可されてきた。これらの法律は1996年6月に廃止され、雇用保険法に引き継がれた。

カナダ人的資源開発省(HRDC)に新しく構成された部門は、労働市場プログラムに大きな責任を負っている。職業訓練と雇用サービスの両方とも、障害者を一般サービスに統合しようというのが近年の傾向である。HRDCは、連邦の雇用関連プログラムを管理している。新しい雇用保険法は、雇用サービスを根本的に再編することを意図していた。

障害者職業リハビリテーション(VRDP)法により、連邦政府は雇用関連の支援、補助機器、保護的作業、及び障害者の訓練や所得のある雇用を促進する他のプログラムについて、州及び準州と費用を分担している。しかし、リハビリテーション・サービスは、州及び準州の保健組織、CAP、VRDP、労働者補償、及び公的/私的な保険計画によって出資されている。

最近まで、HRDCは、失業しているクライエントのための訓練コースとプログラムを、コミュニティ・カレッジ、民間の訓練施設、及び他の地方組織から購入してきた。HRDCは、訓練の購入を次第に停止し始めたけれども、いくつかの州/準州では、訓練経費を埋め合わせるための助成金や貸付金を個人に提供するようである。これらの調整が障害者にどのような効果をもたらすかは明らかではない。

連邦及び州レベルの両方に存在する多くの法律は、障害者に機会を増大させている。これらの法律のうち最も基本的なものは、障害故の差別を禁止するカナダ人権法(1985年改正)と権利と自由の憲章である。全ての州はまた、州独自の反差別の法律を持っている。人権委員会が直面する主要な課題は、膨大な取扱い件数と出資抑制であり、それは、差別を主張した個人への回答を遅くしてきた。

雇用均等法(1986)及び連邦契約者プログラムの両方共が、連邦と関連を持つ契約者に対して、雇用均等を促進させており、広く宣伝をゆきわたらせ、高い成果をあげているように見える。また、公的機関自身においても雇用均等は促進されており、財政委員会によって監視されている。しかし、雇用均等方策によって障害者の雇用全体へ効果を及ぼすには限界がある。

財政的な誘因には、次のようなものが含まれている。すなわち、再雇用求職者に直接的な仕事の経験を提供する雇用主に提供される、対象者の賃金に対する補助金;自分の事業を始めようとしている個人に提供される自営に対する財政援助及びその他の援助;地域社会のプロジェクトにより働く経験を促進することを意図した職務創出のための提携;所得給付金をもらうより就職した方が収入が高くなるようにするため、前職より賃金が下がった人に一時的に賃金補填をする、対象者の所得補足;訓練や教育に要する費用をカバーするため、連邦政府と当該州の間の協定により利用可能となる、技能習得のための貸付金と助成金、などである。

HRDCはまた、特別の機器やその他の職務上の改善に必要な費用を補助するために、雇用主に対して、適格者1人当たり10,000ドルまでの支給を行った。雇用機関は、援助付き雇用機関として伝統的な役割を広げてきており、また、自営や小規模事業を開始しようとする個人も援助している。

障害年金は、増大する取り扱い量や財政的裏付けのないカナダ年金計画の将来の債務の故に―障害年金も部分的にその責任があるが―最近厳重な検査の対象とされるようになった。

州と準州は、非営利組織が行う保護的作業プログラムに責任を負っている。しかし、連邦政府は、障害者職業リハビリテーション法及び協定により、保護雇用制度に対して、重要な財源を提供している。知的障害者は、シェルタード・ワークショップのような分離されたプログラムに置かれることが多い。保護雇用で働く人たちは、従来から最低賃金未満の賃金しか受け取っておらず、保護雇用から一般雇用への移行はきわめて少数である。保護雇用による解決策と対比されるものとして、一般雇用への関心が大きくなってきている。

HALSによると、障害者は、1986年の労働力人口(施設入所者を除く)の10.4%から、1991年には12.7%に増加した。つまり、障害者数は230万人になる。1991年の15歳から64歳までの非障害者の就業率は73%であった。失業率は7.9%であった一方、19.1%は非労働力であった。ところが、障害者については、同じ1991年に、就業率は僅か48.2%であり、8.1%は失業し、43.7%は非労働力であった。

注)

  1. Roeher研究所のCameron Crawford 氏に多大の貢献をいただいたことに感謝する。
  2. 連邦障害者問題特別委員会(1996)の最近の報告が指摘したように、障害者政策の主要な検討期間中に、障害者による政策オプションの実行は僅かしか進展せず、「障害に関する特別議会委員会の障害報告(1980)」、「連邦-州統合への道報告(1993)」、及び「人権と障害者の地位に関する議会常設委員会の大設計報告(1995)」などのドキュメントで見られたのみである。
  3. HALSによると、大部分の障害者(91.5%)は、これまでの生涯のある時点で働いていたことがある。
  4. 州あるいは準州と協定された労働力開発協約(Labour Force Development Agreement)に従って、適格者への訓練や教育の費用に対する貸付金あるいは助成金が提供される。HRDCもまた、介護、移送、基礎的生活費用の一部といった費用の支出に援助が必要な、再雇用給付参加者に対して財政的援助を提供する数種の取り決めを導入している。
  5. 例えば、職業機会プログラム(Job Opportunities programs)があげられる。カナダ・人的資源開発省戦略的政策局評価・データ開発課「雇用可能性改善プログラムの評価(Evaluation of the Employability Improvement Program)」Ottawa, HRDC(年月記録なし)を参照されたい。

デンマーク

政策と制度的情況

障害者施策と法制

デンマークにおける障害者雇用への取り組みは、社会政策の文脈の中に見いだすことができる。デンマークの政策そのものは北欧の取り組みに連なり、その中心的な特徴は、市民の社会的権利は過去及び現在の労働市場との結びつきの強さに左右されないということである。障害者施策は、連帯、ノーマライゼーション、インテグレーションの原則に基づいて展開してきた(Hansen,1995)。サービスの提供に当たっても連帯の考え方に基づき、社会がニーズに応じてサービスを提供する責任を有すると考えられている。社会扶助に関する法(1974)は、指導、金銭的あるいは現物的な援助、職業能力の開発や再獲得、あるいはケア、特別な援助や教育的な支援の必要な者に対して、それらを給付することを規定している。つまり、援助される人はそのニーズによって規定され、障害によって規定されるのではない。同様にデンマークの法制と地方及び地域の機関による行政施策は、必要な場合には補償的対策を用いて、障害者を他の人と対等の条件で学校や労働市場、コミュニティでの生活の中に統合することをめざすものである(Isking及びWiederholt,1995)。Hansen(1995)が指摘するように、デンマークにおける政策目標は可能な限り一般の生活を送るための手段を個人に提供することなのである。

人種、肌の色、宗教その他の個人の特徴に基づく差別に対する特別法制には、障害者への差別は特に含まれてはいない。障害者に影響するデンマークの法律にとって、憲法上の根拠は憲法第75条第2節であり、同節では、自活したり扶養者を養うことが不可能であり、かつ、自分又は自分の扶養者の生活費をみてくれる人がいない場合には、いかなる人も公的扶助を受ける権利を有するとうたわれている(WHO,1990)。

障害者に関する法制は、聴覚障害者(1950)、視覚障害者(1956)、知的障害者(1959)などの特別なグループに関する特別な規則を、一般の社会的扶助、教育、医療法制に付加することに起源を発している。しかしながら、1974年の社会扶助法(Social Assistance Act)は、障害者のためだけの特別なサービスを排除し、障害者は他のグループと同じ位置づけとした。障害者と他の市民の平等の原則が政策の基礎となったわけである。主な法制によってもニーズが満たされない場合を除き、障害者のための特別な法制は存在しないという事実が、デンマークの誇りともいえる。

1993年にデンマーク議会が行った多くの決定を含む最近の発展により、全ての公私の機関や企業は、障害者と非障害者を同等に扱う原則に従わなければならないことになった。同時に、議会は、障害者のための機会均等センター(the Equal Opportunities Centre for Disabled Persons)を設立した。この議会の決定は、機会均等の原則がデンマークの障害者政策の要であることを明示するものであった。障害のある市民として取り扱われるということは、どこへ行く場合でもそのアクセスを保障するものであり、もしそれが難しければ、そのための活動が要求されるのである。社会における全てのセクターは、障害者のニーズを考慮に入れるようにする責任を有するのである。オンブズマンが監視する役割も確立してきている。

雇用対策と障害者

 政府は従来、労働市場における諸問題は「社会的なパートナーシップ」による解決に委ね、労働市場へは介入してこなかった。労働市場への不介入という政策的立場ゆえに、デンマークでは雇用主に職業的に不利な状態にある人びとを雇用したり、訓練すること、あるいは労働組合にそのような動きを強制するような伝統がなかったのである(Nielsen,1991)。

しかしながら、今日のデンマークでは失業との闘いが最優先の課題である。1990年代半ばを頂点とする失業率上昇を止めるべく行った努力の結果、従来のように受け身的な便益よりも、仕事を創出するプロジェクト、失業者のための訓練やリハビリテーションプログラムを新たな選択肢とするような労働市場政策に目が向けられるようになってきた(社会省,1995a)。同時に、新しい原則が導入され、権利には義務が伴なうという考え方がとられるようになった(労働省,1996年)。1994年1月以降の一連の労働市場の改革には、2つの目的がある。1つは、失業により影響を受けている全ての人びとに必要な訓練と雇用機会を提供することである。2つめは、休暇をとる機会を増やし、また、職務のローテーションをもっと頻繁に行うようにすることである(MISEP,1995)。これらの改革はデンマークの労働市場に従来よりアクティブなものをもたらすと思われるが、これが障害者にどの程度インパクトを与えるかについては不明である。

デンマークでは、障害者への雇用機会の提供は、全ての社会的に不利な人びとへの機会提供という、より広い問題の中でとらえられている(Bengtsson)。障害者の職業の場への統合を進める政策は、特別なサービスなしにはそれが達成できない場合にのみ適用するという原則に基づいている(Nielsen,1995)。割当雇用制度については、障害者団体は、障害者の平等とノーマライゼイションの原則を消し去ってしまうものと考えている。障害者として登録することは、それが定義するグループを障害者として決めてしまうので受け入れられないのである。障害は個人と環境の相互関係であると信じる以上、このような定義は受け入れられない。もっとも、障害者団体の割当雇用に対する否定的な見方があるといっても、障害者団体が、障害者は既に労働市場に統合されていると認めているわけではない。

近年、社会省は(社会省,1995年)、社会問題の解決について何から何まで公的な解決手段によることから転換し、企業にも新たな社会的連帯の一員として社会的責任を担ってもらう方向づけを推進してきている。企業は、時には地方政府と協力して社会問題を予防し、解決するよう奨励されるのである。その対策の中には、職業能力が減退した人びとの雇用や病気や事故に遭った人びとの仕事の継続などが含まれている。

労働力になり得る全ての人びとが労働市場へ統合されるべきであるとの考え方が重視されるようになってきたことが、特別な状況にある者のための職業委員会(Commission for Jobs on Special Conditions)を設立させた原動力となっている。同委員会は労働省と社会省が共同設置したもので、労働者が病気、事故、加齢によって労働能力を減じた時に雇用を継続させる方策について研究を行うものである。

障害者雇用政策の発展

 1950年代は、リハビリテーションに焦点を当てた政策の発展期であった。1960年代になると、身体障害に焦点を当てたリハビリテーションからあらゆる障害、つまり、身体、精神、知的、及び社会的障害を対象とするものへと変化した(Bengtsson ,1995年)。

特別な状況にある者が職業に優先的にアクセスできるようにするために、これまで長期にわたって行われてきた措置以上の政策が、1980年代半ば以降飛躍的に発展した。州が一般雇用において特定の障害者に賃金補填を行うことや、ごく最近導入された職場における障害者の介助者に対する州の助成や、特に失業により不利な状態にあるグループに対する特別な雇用促進策、障害者の統合の促進を目指した新しいボランタリーな取り組み等がその例である。特別な状況にある者のための職業委員会は、仕事の継続に関する政策を進展させることに特に重点を置いている。

政策策定とその実施

責務
障害者のための政策策定とその実施に当たっては、地方分権化と各セクターへの責任分担が、その原則として位置づけられている(Hansen,1995)。1970年代に、多くの改革によって中央政府と地方政府の果たすべき課題とその経済的責任について再編がなされた結果、責任のうちのかなりの部分が中央政府から地方政府へと移管された。デンマークは16の州と274の市に分かれ、政治的に選ばれた組織によって治められている。政策発展の目的は、地方又は州議会による実施を通じて、可能な限り国民に身近な政策実践を行うようにすることに置かれている(Nielsen,1995)。 

労働省は、障害者を含む多くのグループの一般雇用と訓練についての責任を負っている。しかしながら、1990年法では、州と市当局が、失業中でかつ保険もなく、不利な状態にあるグループの失業問題に対処するために雇用対策を始める権限を認めている。これらの対策には、募集補助金、職業紹介、訓練コースの提供が含まれている。

保健及び社会福祉サービスに関しては、指導、リハビリテーション及び年金支給について市当局が第一の責任を負っている。州はシェルタードワークショップにおける組織化、サービス提供とリハビリテーション対策、保険給付対象でない失業者の再訓練等に責任を負っている。社会省は、全国レベルのリハビリテーション及び保護雇用について包括的な責任を有している。教育省は教育と資格認定について責任を負っている。

公共職業サービス庁(Public Employment Service)は14の地域事務所によって組織され、傘下には多くの地方事務所がある。

ソーシャル・パートナー
労働省によって設立され、全国レベルで運営されている全国労働委員会(National Labour Committee)は、産業界における2つの立場を代表している。それぞれの地域には、社会連帯を形作るソーシャル・パートナーと市当局とで構成される労働市場協議会がある。

障害当事者団体の参画
1980年以降、デンマークにはさまざまな障害種類ごとの団体や各省庁、地域・州当局の代表者、専門家が参加する全国障害者協議会が存在している(Seyfried,Lambert,1989)。同協議会は、障害者に対する責任が中央から地方政府へと移行した段階に設立され、サービスの消費者としての障害者が全国レベルで影響力を持っていくことを意図したものであった(労働省,1992)。同協議会は政策の転換について率先して提言し、通常は、中央政府機関からの協議に応じている。

障害の定義

 デンマークでは公式の障害者の定義はないが、助成金支給の基準として職業能力の減退度が運用上用いられている(以下の議論を参照)。

統計

 デンマークはEUの中でも最高水準の就業率を示している。1995年では、16歳から66歳までのうち、女性の75%、男性の83%が労働市場に参加しており、失業者総数は28万8,000人、失業率は10.3%である1)(MISEP,1997)。失業率は、1993年には12.5%にまで上昇した(MISEP,1997)が、1996年まで下降してきているとデンマーク統計局は報告している。

障害に関する公式の定義がないため、障害者数、就業者数、失業者数に関する公式の統計は得られない(Hansen,1995)。

障害者の就労状況

 デンマークでは、他の全ての国々と同様に、障害者の失業率は障害のない人びとに比較してあらゆる分野で極めて高い傾向を示している(Isling及びWiederholt,1995)。全国組織の障害者団体では、6万人から7万人の障害者が通常の仕事に就き、障害者が適応しやすいような、あるいは補助具を用いた職場で仕事をしていると推定している(同上)。デンマーク国立社会調査研究所ですすめられているイニシアチブにより、障害者の就労問題が一層明らかになることが期待されている(Nielsen,1995)。

1993年には、全年齢層にわたる28万2,000人が、身体的、精神的又は社会的障害の結果、障害給付(先取り年金を含む)を受けていたが、その障害の種類別のデータはない。このうち、4万3,000人(15%)が職業に就いていた(特別な状況にある者の雇用委員会、1995)。この数字は、2万9,300人の給与所得労働者と1万4,100人の自営業従事者を加えたものである。給与所得労働者のうちの90%は公的機関に雇用されており、自営業の3分の1は農業に従事している。

デンマーク労働省(同省報告,1996)によれば、専門職(被用者及び自営者を含む)に従事する障害者は、就業人口全体よりは年齢が高く、高齢の自営業従事者は特に多い。

失業率の上昇は、労働市場における障害者の”真”の統合をめざす上で大きな問題となっている。(Bengtsson,1995)

雇用支援サービス

一般の評価と職業紹介

障害者のための職業紹介は、公共職業サービスを通じて提供されている。1990年の新しい法律によって、市当局は「職業的に障害を持ち」、現金給付を受給しているが保険対象になっていない人びとに訓練と雇用施策を講ずる責任を付与された。そこでは、障害の有無にかかわらず、若年の失業者に対して財政的に支援をすること、及び彼らのための訓練と雇用機会を創出する義務を要請している(Nielsen,1991)。

専門的評価と職業紹介

1994年、3年間の試行として14の地域雇用機関に障害者コンサルタントが配置された。Hansen(1995)は、「障害者コンサルタントの役割は、障害者に一般雇用における職業を提供することであり、障害者自身が障害者コンサルタントになるべきである」と指摘している。その目的は、障害者の労働市場への統合の促進である。コンサルタントの役割は職業紹介、職業指導、及び労働市場向け訓練、職場における介助者の管理調整やその選択的な採用等である。最初はパイロット的に始められたこれらの障害者コンサルタントは、今や恒久化している。これまでのところ、障害者コンサルタントは、公的セクターでの仕事への優先的アクセス及び介助者助成の規定に関する情報を雇用主と障害者に提供することを優先させてきた。

訓練

 Isling及びWiederholt(1995)によると、デンマークには、労働能力が減退した者に対する特別の訓練と教育、及び専門の職業コンサルタントによるサービスを提供する職業訓練センターが約50カ所ある。それらに加え、職業訓練と教育は、一般の企業、一般の学校及び教育機関でも提供されている。

一般訓練
 ほとんどの人の訓練ニーズに対しては、一般の職業訓練が対応している。このことは、一般の職業訓練機関内での若い障害者向けプログラムや、学校卒業後の”孤立”を減少させるための"KURATOR"のシステムなどにも見られる。"KURATOR"は、13歳以上の学校教育の最終段階にいる生徒を教育するもので、職業準備をねらいとしており、卒後の訓練から就労の初期段階までの間にいる本人及び家族が利用できるものである(Sailor,1991)。

特別訓練
 職業教育と職業訓練は、原則的には一般の枠組みの中で行われるべきであるが、障害の状況によってそれが不可能な場合には、特別なリハビリテーション機関においてされることもある。リハビリテーションセンターは、1974年7月19日の社会扶助法第333号の第91節に基づいて運営されている。各州の当局は、リハビリテーションセンターを自ら運営するか、あるいは職業リハビリテーション及び訓練を提供するために民間施設と取り決めをする。

州当局はその地域の状況に合わせて、リハビリテーションセンター、職業訓練機関、個別の保護就労(sheltered placement)及び保護雇用を含むシステムを構築する。

  • 職業リハビリテーションセンターは職業能力を評価するための特別な機関である。そこでは、訓練計画を策定し、場合によって先取り年金の取得を奨励する。
  • 職業訓練機関は訓練及び再訓練のコースを提供する。それらは障害の種類によって特徴のあるものとなる。
  • 個別の保護就労は、賃金補填の項でとりあげられる。それには2つのタイプがある。最低賃金の50%を公的機関が支払い、雇用主が少なくとも残りの50%を支払う場合。も う1つは、障害者が先取り年金を受け取り、市当局が最低賃金の3分の1に見合う金額を支払うものである。リハビリテーション計画がうまくいかない場合にこれらの対象者となる。

 リハビリテーション機関は、地方当局との密接な協力関係を持ちながら州当局によって運営されている。地方分権化の結果として、リハビリテーション活動は州に移ってきている。1993年には、デンマークには278のリハビリテーション機関がある(全国労働市場機関報告)。

さまざまな種類のサービス利用者数は表D.1に示すとおりである。

表D.1 年ごとのリハビリテーションサービスの種類と利用者数
1988 1989 1990 1991 1992 1993
リハビリテーションクリニック(職業能力の評価) 687 633 761 694 662 937
訓練/リハビリテーション 1,656 1,603 1,388 1,419 1,692 1,803
保護雇用 7,802 7,775 7,664 7,748 7,790 7,393
特別デイセンターにおける保護雇用 3,032 3,174 3,614 4,125 4,264 4,421
総計 13,716 13,191 13,427 13,986 14,408 14,549

出典:デンマーク統計局

表D.2は、州及び地方当局がリハビリテーション施設と一般労働市場における保護雇用のために支出した経費を示している。

Nielsen(1991)は、企業内における訓練は重要な要素であり、施設における訓練とは異なった訓練資源が用いられるべきであると論じている。職場における職業リハビリテーションのための総合的なシステムはないものの、リハビリテーションは施設においてではなく、実際の職場においてという方向が見られるようになってきている。1991年に、リハビリテーションセンターは私的・公的企業との密接な協力により、可能な限り訓練を実際の職場の方に移行させるべきであると報告されている(Nielsen,1991)。この傾向は現在も継続しており、それと共に、将来の専門的な訓練センターやそこでの訓練と実際の労働市場おけるニーズとの密接な関連づけについての議論が続けられている。

社会省の報告(1992)によると、一般の労働市場において再訓練された者に支払われる賃金の一定部分について、雇用主に対して助成金の支給が可能になっている。

訓練を受けている間、訓練生は一定のリハビリテーション奨励費を、月1万1,081DKR支給される。23歳未満の場合には、この総額の半分になる。訓練実施に必要な介助についてもそれに見合う助成金がある。これらの援助は、最高5年間まで延長される。一般雇用における再訓練及び訓練については、賃金、道具類の購入、短期間の訓練コース費用などについて助成金の制度がある(Hansen,1995)。

表D.2 州及び地方当局がリハビリテーション施設と一般労働市場(官民)における保護雇用のために支出した経費(単位は100万DKK,1994)
支出総額
1988 561.0
1989 580.5
1990 623.3
1991 622.7
1992 659.3
1993 706.2
1994 736.9

出典:デンマーク統計局

援助付き雇用

 社会省によると、デンマークには特別なニーズを持つ障害者の雇用を促進するための、多くの、小規模ではあるが革新的なプロジェクトが存在している。HORIZONの1つのプロジェクトでは、聴覚障害、盲聾者、重度障害者、知的障害者に対する雇用機会に焦点が当てられている。

一般雇用:法的義務と権利

 デンマークには、割当雇用制度はなく、またこのような雇用率を導入する計画もない。このようなシステムはデンマークの伝統とは相容れないという印象がある(特別な状況にある者のための職業委員会)。このようなシステムができてしまうと、障害者を登録するシステムを必要とするようになるからである。障害者団体からの反対が依然として根強いのである(Isling及びWiederholt1994)。

最近の動きは、法的規制による雇用対策を用いることを目指すようになってきている。労働省と社会省は、障害者のための仕事を見いだし、創出するための法制の可能性について、一般国民に知らせるための共同のキャンペーンを協力して実施している。障害者に関する唯一の法制は、特定な仕事に対する優先的アクセスである。デンマークのオンブズマンは、公共的仕事への障害者の優先的アクセスに関する規則を公的機関がどう運用しているかの調査結果をまとめたが、その中で、この法制への関心を高めるためのキャンペーンを始めるべきであると勧告している。

特定の職業への優先的アクセス

 1960年には、早くも職業への優先採用が法制化されている。1960年4月29日のリハビリテーション法(170号)である。第9項(1条)では、以下のように規定されている。

リハビリテーション調整委員会の勧告に基づき、デンマーク王国規則が発令され、国と 地域社会が実行することを(中略)、そして公的機関の公認及び援助を受けている施設 は、その障害のために一般労働市場で雇用されるのが困難である人を、一定のポストに優先的に採用するよう求めている。

1974年の社会扶助法第30条(第2節)では、「労働省は、障害があるために一般労働市場で仕事を見いだすことが困難な人びとを、一定の公的に想定された仕事に優先的に採用するための規則を設けるべきである」と規定している。この法律は1984年6月5日に施行された(法第413号)。これらの規定は1985年12月18日の総合法(Consolidation Act)(一定の公的に規定された職業への採用に関連した障害者の優先処遇に関する命令)(第613号)と連動している。

国、地方、地域の各機関、施設、及び賃金の半分以上を公的機関によって支払われている事業所は、障害者を優先的に雇用する義務がある。障害者は、他の応募者と同等の基準を満たしていれば採用のための面接を受ける権利を有する(Hansen,1995)。障害以外の全ての事項が同等であれば、公的機関及び事業主は、障害者を雇用する義務を有する。しかしながら、現実には、一定の種類の資格を比較することが困難であることから、障害を持つ応募者がふるい落とされるのであればその効果はほとんどないことになる(Isling及びWiederholt,1995)。

全国労働市場局提供の情報によると、優先雇用の措置はほとんど用いられておらず、実際その利用は決して高くはない。1991年に、この規定が適用されたのは76名にすぎない。1992年の初めの9ヶ月間の数字でも94名である。労働省によると(同省報告)、公的セクターへの優先配置の取り扱いを受けている障害者数についての統計は得られないとのことである。

公的機関には、新聞や類似の商品の販売への免許を与える際に、職業サービス機関と相談する義務もあるとしている(Hansen,1995)。

啓発政策

 ボランタリーな方法による態度変化や障害者雇用対策の方が、障害を持つ人たちのための特別な立法よりも望ましい(Isling及びWiederholt,1995)。

企業の社会的責任の推進

 任意のアプローチは、職場で発生しうる社会的問題の解決や、生産性が減退している人びとなど、さもなければ雇用の場から排除され得る人びとの統合に、企業セクターの参画を推進する最近の社会省のキャンペーンを支持するものである。同省は、身体障害者の職場への統合、慢性疾患にかかった人びとの雇用継続、病欠している人への即時フォローアップなどのプロジェクトを含む、発展のための多くのモデルプロジェクトを支援している(社会省,1995a)。

特に障害者に関連した他の施策としては、障害者のための機会均等センター(Equal Opportunities Centre for Disabled People)や、特別な状況にある者のための職業委員会の設立などがある。

障害者のための機会均等センター

 1993年4月、国会は、障害者が他の市民と同等の地位を確保すること、及び同等の取り扱いを受けることについての決議を採用すると共に、付帯決議として「障害者のための機会均等センター」を社会省の監督の下で設立することを決定した。この決議で、国会のオンブズマンは、機会均等分野での展開をモニターしたり、必要であれば公式の苦情申し立てを行うよう要請されている。オンブズマンの権限は、市、郡レベルでなく国レベルに限られているが、1997年1月からは拡大される。

このセンターは、各省庁、市当局、障害者団体、民間企業など全ての組織を包括して共同運営される独立組織である。このセンターは、全国障害者協議会との関連で設立された。センターの使命は、全国及び国際レベルで、障害者の状況や、ある特定障害が及ぼす影響に関する情報の収集及び普及である。この場合、障害者は差別に遭遇しているという状況を踏まえる必要がある。同センターは、現行及び将来の法制を含め障害者問題の重要課題を、協議会を通じて、あるいは必要に応じデンマーク国会オンブズマンを通じて示すことができる。同センターは、1994年に設立され、8名のスタッフと300万DKRの年間予算を持つ。センターは、障害者団体、国、地方・州機関を代表する6名の理事によって運営されている。

センターは、高度な情報の提供、平等な取り扱いを遵守させることの徹底、それがなされていない場合に注意を喚起すること、などについての貢献が求められている。その活動をまとめてみると以下のとおりとなる。

  • 障害者の状況に関する情報の収集と提供。
  • 障害者の平等な取り扱いを行おうとする公的機関、民間企業及び個人に対する相談サービス。
  • 全国レベル及び国際、特にEUレベルでの法制の進展状況についてのフォローアップ。
  • 障害者を平等に取り扱うことがどの程度重視されているのかの分析。
  • 将来の政策的な議論のために、障害者の差別状況について全国障害者協議会に報告すること。
  • 障害者の差別についてオンブズマンに報告すること。
  • 障害者の平等な取り扱いについてその年次報告で評価すること。社会省は、それに基づき、国会に報告することになっている。

 もし、センターが障害者に対する差別を発見した場合には、それぞれの関連する機関にその問題を投げかけることになっている。センター長は、「障害者のための機会均等センターが設立されたことは、統合政策の実際上の実施に関する限りは、我々にはなおなすべきことがかなりあるということを明らかに示している」と述べている。センター自体は、何ら権限を持つものではないが、その活動は、対話、情報、知識の集約に基づいたものである。

特別な状態にある者のための職業委員会

 1995年5月、「特別な状態にある者のための職業委員会が、特別委員会として労働省と社会省合同で設立された。州、地方機関、雇用主及び被用者の代表から構成されているこの委員会の目的は、病気、事故、高齢化によって労働能力が減退した、すでに雇用されている人びとの仕事に好影響を与えることのできる施策を研究することである。その目的は、労使間協定の社会条項に基づき導入された、特別な状況に置かれた人びとの雇用を促進することである。提案されたモデルは、公的補助金なしの協定に基づき設定された、仕事に関わる任意協定のそれである。ただし、公的補助金なしの協定についても、必要に応じて個人への助成は可能である。介助者や職場の改善については既存の機会がもっと活用されるべきである(特別な状態にある者のための職業委員会,1995)。

一般雇用:財政的施策

雇用主への援助

最近の展開の中には、企業による社会的イニシアチブを財政的に支援する法制上の機会を促進するための行動がある。「稼得能力が減退した時にとるべき行動」と称した小冊子が、デンマーク商業組合連合及びデンマーク雇用主協会並びに社会省によって出版された(社会省,1995)。

賃金補填
賃金補填の活用は、一般労働市場での個別の保護雇用と呼ばれてきた。1980年に採択された規則では、雇用主は生産性が減退した障害者の賃金コストの少なくとも60%を負担しなければならないが、残りは市と州当局がまかなうことになった。これは、「60%-40%システム」として知られている。この割合は、1995年1月1日から50%-50%に変更された。この措置については、毎年見直しされることになっている。

例えば、あるケースではリハビリテーション効果が確認され、その後、該当者が通常の賃金に見合うことがある(社会省,1992)。該当者が先取り年金に該当しないことが前提条件になることがある。SeyfriedとLambert(1989)は、60%-40%ルールの大半は、身体障害者のケースであるという非公式の見解を発表している。もう1つの措置は、年金を継続した上で、該当する地域で最も低額の賃金の3分の1を加えるもので、「3分の1システム」といわれている。

1994年には、50%-50%システム(旧60%-40%システム)に5,077名が、3分の1システムに350名がそれぞれ該当している。IslingとWiederholt(1994)は、それらの人びとは、生産性が減少しているとみなされているか、あるいは予測されており、助成金が雇用主への動機づけとして用いられていると述べている。賃金補填を受けている障害者は、デンマークにおける一般的な労働者の権利のある部分は享受しているが、全てではないといえる。彼らは、市当局からの現金給付は受けることができるものの、失業基金には加入できないし、先取り年金も受けられない。50%-50%システムの下で、退職または仕事を失った人びとに関連していくつかの問題が生じている。そしてこのことは、彼らの給付に影響を与えている(特別な状況にある者のための職業委員会,1995)といえる。賃金補填は、ある人びとを仕事の外の世界に追いやることになり、また賃金を下方へと減少させるという問題がある。特別な状況にある者のための職業委員会(1995)は、賃金補填の制度についてはさらに研究や評価が必要であると認識している。

労働市場における障害者の統合を奨励するためには、より多くのパートタイムの仕事、技術のよりよき活用の必要性があると何人かの解説者は唱えている(IslingとWiederholt,
1995)。

被用者への援助

先取り年金
18歳から67歳の年齢にある国民で、重度の障害を有する者は公的年金制度を通じた先取り年金受給資格がある。Hansen(1995)によると、4つのタイプの年金がある。

  • 一般先取り年金は、老齢年金と同等のレベルである。身体的、精神的又は社会的な理由により少なくとも50%の労働能力の減退がある、60歳から67歳までの国民に支給される。
  • 増額一般先取り年金は、身体的、精神的又は社会的な理由により少なくとも50%の労働能力の減退がある、18歳から59歳までの国民に支給される。支給額は、一般の先取り年金に1月当たり938DKRが加算されたものである。
  • 中間先取り年金は、労働能力が3分の2減退した障害者に支給される。支給額は、一般の先取り年金に1月当たり1,798DKRの障害給付が加算されたものである。
  • 最高先取り年金は、労働能力が全くない障害者に支給されるものである。支給額は一般の先取り年金に、1月当たり1,798DKRの障害給付と248DKRの雇用不可能給付が加算される。

 年金受給者は個別の評価に基いて、もしその家計状況が緊迫している場合には、個人的給付を受ける資格がある。それらには、医療費、歯科治療費、特別なダイエット食品ほか、その他これらに類するものに対して支給される。個人的給付はさまざまな目的のための給付といえよう。

自営のための奨励措置
障害者は、自営のための開業資金の貸付を受けることができる。また、一定の条件で開業のための助成金を受けることができる。1974年の社会扶助法の第43条では、「援助は商売や事業を始めるのに対して行われ、その事業を行う場合に通常必要とされる自動車も含まれる」としている。この援助は、貸付の形式で行われ、地域のリハビリテーション及び年金委員会によって決定され、地域当局に推薦される。自営業を営む障害者は、介助支援を受けることも可能である。

Hansen(1995)が指摘するように、新しい事業を始めるために新たに自動車を購入する場合に援助を得ることができる。後述の介助制度は、自営業の障害者も利用することができる。

障害のある労働者への介助
1991年12月、デンマーク議会は、障害者が健常者と同様に仕事に就く機会が持てるように、彼らがそれにより介助を受けられる法(12月27日付け、法第928号)を採択した。

新しい法は、障害のある労働者への介助を含む、試行プロジェクトの結果に基づいたものである。これは、1992年1月1日に法定の恒久的なシステムとなり、公共雇用サービス機関によって運営されている。この介助者を配置する新しい制度は、被用者ばかりでなく、視覚障害、聴覚障害、難聴及び他の重度な障害によって仕事の遂行に何らかの援助が必要な自営業を営む障害者にも適用される。介助者の役割は、仕事の遂行の観点から、それなしでは遂行が困難な障害者を援助することである。特に、視覚障害と聴覚障害に対する援助が際だっている。デンマークは聴覚障害者に対して最良のサービスを提供しているために、ECの社会政策研究からはずれたくらいである(Jones及びPullen,1993)。

介助者に対する給付は、1週間につき最高20時間まで可能である。このサービスの申し込み窓口は、公共雇用サービス機関であり、助成金は雇用に対して支給される。

職場における障害者のための介助者に関する法律は1995年に改正され、対象者を拡大し、社会省の50%-50%システムあるいは3分の1システムに該当する保護雇用の障害者にも同様に適用されることになった。訓練中の障害者についても介助者の配置のための助成金を受けることができる。

この助成金は、障害者を雇用する雇用主又は自営の障害者に適用される。介助者は、標準的な雇用条件の下に企業によって雇用され、障害者の採用に先だって承認されなければならない。公的セクターで働く学生の契約賃金に見合う額の助成金が、1週間に20時間まで支給され得る。

IslingとWiederholt(1995)は、1年につき7,000人の障害者が、通常の仕事を保持し得るように彼らを援助するために公的当局による費用負担で介助者を利用していると報告している。その半分以上が、聴覚障害者である。1995年において助成を受けた介助者は、表D.3に示すとおりである。

1995年の総支出額は1,385万4,828DKRである。

職場の改善とその他の支出
助成金は、職場における小規模な改善や仕事に必要な道具の調達にも支給される(Hansen,1995)。また、社会扶助法に基づき職場の改善に対する助成金もある。少額の支出(200DKR以下)及び消費材については助成金はない。

表D.3 介助のための補助を受けた人数(1995年)
機能障害の種類 人数
視覚障害 273
肢体不自由 72
聴覚障害 781
その他 80
データなし 42
雇用形態 人数
被用者 1090
自営 116
データなし 42
介助者助成金総人数 1248

出典:労働省

保護雇用

 シェルタード・ワークショップは、生産労働志向の主な施設である。特別なデイセンターでは、重度の障害者に生活技術の訓練を提供するほか、ごく限られた利用者については生産的な活動を提供している。しかしながら、これらのセンターもシェルタード・ワークショップとして連なるものであり、ワークショップの中でのエンクレーブやあるいは自治的な単位集団として組織されている(Samoy,1992)。

以下の議論はシェルタード・ワークショップにおける活動に焦点を当てている。

労働省によると、シェルタード・ワークショップに働く障害者の数についての統計は得られない。しかしながら、デンマーク統計局の数字によると、表D.4のとおりとなる。

表D.4 保護雇用の推移(1988-1993)
- 1988 1989 1990 1991 1992 1993
保護雇用 7,802 7,775 7,664 7,748 7,790 7,793
特別なデイセンターにおける保護雇用 3,032 3,174 3,614 4,125 4,264 4,421

出典:デンマーク統計局

Samoy(1992)は、非公式のデータを引用しながら、1991年始めには120のシェルタード・ワークショップに7,664人が雇用されており、1987年以降、シェルタード・ワークショップに雇用される障害者数は減少ぎみであると述べている。

目的と対象者

シェルタード・ワークショップは、「一般雇用の場では職業に就き、継続することができない人びと」に開かれている(1974年社会扶助法第91条)。このことは、何らかの援助や訓練の結果、仕事を見つけることのできる人は排除していることになる。同法により、社会的、心理的問題により仕事を見つけることができない、援助を必要とする全ての人びとを対象にしているが、運営者は「重度障害者」を優先しなければならない。

措置と財源

 1974年の社会扶助法(第91条第1項、2項)は、シェルタード・ワークショップを州議会の権限下に置いた(ヨーロッパ協議会,1996)。1974年法の前には、シェルタード・ワークショップは障害者に居住、リハビリテーション、教育、雇用を提供する巨大公共施設の一部として形成されていた(Samoy,1992)。

州は州立のシェルタード・ワークショップを設立するか、民間団体とアレンジすることができる。州は、その計画、検査、財政の調達などに責任を負っている。ほとんどのシェルタード・ワークショップは、州によって設立されているといえる。社会省(1992)は、現在では、シェルタード・ワークショップは保護就労とリハビリテーションの各部門に別れて、リハビリテーション施設と関連して運営されていると報告している。リハビリテーションセンターと保護雇用は、国と市、民間によって設立され、州は施設の運営と管理について協定を結んでいる(Hansen,1995)。

労働者の状況

 シェルタード・ワークショップの被用者は、一般的には最低賃金基準に基づく出来高払い賃金を受けている。Samoyは、最低賃金に何とか見合う者は10から15%に過ぎないが、ほとんどの人びとは障害給付を受けていると報告している。なお、この給付は工場の賃金が急激に上昇した際にはカットされる。シェルタード・ワークショップの被用者は、失業保険の被保険者でなく、また先取り年金の該当者にもなっていない。

要約

 デンマークの障害者の雇用状況は、デンマークにおける社会政策の文脈において見いだすことができる。障害者施策は、社会連帯、ノーマライゼーション、インテグレーションによって基礎づけられている。障害者は、障害の有無にかかわらず、財政的、実践的、社会的に援助を受けることができる。さまざまな権利は、労働市場に参加しているかいないかにかかわらず保障されている。障害者と健常者の間の平等の原則が、政策の基本であり特別な法制は存在しない。

政府は伝統的に労働市場への介入からは距離を置いており、そこでの問題は「社会的連帯」によって解決すべきであるとのスタンスにあった。しかしながら、失業との闘いがデンマークにおける主要優先課題になり、1994年以降における一連の労働市場の改革はこのことを目指すものとなった。1980年代半ば以降、さまざまな政策が出現、発展し、特別な状況にある者の雇用問題について優先的、長期的に取り組むようになった。これはまた、労働力になり得る全ての人びとの労働市場への統合を強調することになり、特別な状況にある者のための職業委員会を設置する大きな理由にもなり、そこでは労働者を離職させないためのさまざまな研究調査がなされた。

1970年代の改革以降、リハビリテーションとシェルタード・ワークショップを含む保健、社会、教育サービスにおける中央政府の責任のうち、かなりのものが地方政府に移譲された。訓練に関するほとんどのニーズは、一般の機関によって対応されるが、そこでは不可能な職業訓練は、特別な施設において実施されている。州議会は、独自にあるいは民間機関と協力してセンターを運営し、職業リハビリテーション、訓練の提供、地域環境に適合したシステムの構築を行っている。また、そこでは障害者コンサルタントという専門職が活用され、職業紹介、職業指導、労働市場における訓練、職場における介助者の確保や採用に関する調整の役割を果たしている。

一般の労働市場では、障害者に対する直接的な施策はほとんどない。割当雇用の考え方は排除されている。人を「障害者」とみなすことは原則に反することであり、障害者団体からも差別として捉えられている。障害者に関する唯一の法制は、1960年初頭に導入された特定職種についての優先配置であるが、近年はほとんど用いられていない。

態度変容を目的とした任意のイニシアチブの方が、障害者のための特別な法制よりも望まれる。デンマークでは、このような方策への関心が高まっており、その結果、障害者のための機会均等センターと特別な状況にある者の職業委員会が設立された。このセンターの役割は、全国及び国際的レベルで、障害者の状況や一定の障害のインパクトについての情報を収集し、作り、それらを広めることである。センター自体には権限はないが、その活動は議論や情報、知識の集約に基づいて行われている。特別な状況にある者のための職業委員会は、既に雇用されている障害者、特に病気、事故、高齢化などにより労働力が減退した障害者に影響を与えることのできる方法を研究している。特別な状況にある仕事は、労使協約の社会条項に基づくものである。

生産性の減退した被用者については賃金の助成がある。該当者の生産性は、毎年、市当局によって評価され(生産性は増大するものと思われるのだが)、新しい助成金が決定される。1994年には、被保護労働者5,077人が50%-50%方式により、また350人が3分の1方式によりそれぞれ評価されている。賃金補填を受けている障害者は、一般のデンマークの労働者と同等の権利を有している。しかし、失業保険や先取り年金には加入できない。

1992年から、障害者が健常者と同等に仕事を遂行できるように介助者が配置されるようになった。この制度は、雇用主と自営業者に適用される。これらの援助の窓口は公共職業サービス機関であり、助成金は雇用主に対し支給される。1995年には、1,248名がこの助成を受けていた。この他、職場の小規模の改善や道具の調達及びこれらに類するものに支給され、障害者は自営のための資金貸付、助成金給付を受けることができる。

シェルタード・ワークショップは、リハビリテーション施設と協力して運営されており、援助や訓練なしには仕事を得たり、継続できない障害者が利用できる。1993年には7,400人がシェルタード・ワークショップで就労していた。そこでの労働者は、最低賃金基準に基づき計算された出来高払い賃金を受ける。最低賃金水準までいく労働者はほとんどおらず、ほとんどが障害給付を受けている。ただし工場での賃金が高くなった場合にはカットされる。シェルタード・ワークショップの労働者は、失業保険にも先取り年金にも加入できない。

1995年の登録された失業者は27万8,854人であり、労働力の9.6%に当たる(デンマーク統計局)。障害者の公式な定義がないので、障害者数についての公式な統計はないし、障害者の雇用労働者数、失業者数もない。障害者の全国組織では、6万から7万人の障害者が―その一部は職場改造をしたり補助金を用いて―通常の職に就いていると推計している。

▲戻る


主題:
18カ国における障害者雇用政策:レビュー No.3

発行者:
ヨーク大学社会政策研究所 1997

発行年月:
1997

文献に関する問い合わせ先:
Publications Office Social Policy Research Unit University of York Heslington York YO15DD UK
Telephone:+44(0)1904 433608
Facsimile:+44(0)1904 433618
Email:Spruninfo@york.ac.uk