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18カ国における障害者雇用政策:レビュー No.1

ISBN 1871713277

報告書作成には次の組織からの援助を受けた
ヨーロッパ地域会議 HELIOS Ⅱ プログラムのDGVE.3(障害者の社会統合)

ILO

ヨーク大学社会政策研究所
製版 社会政策研究所 Jenny Bowes
印刷 ヨーク大学印刷所

Copyright:Social Policy Research Unit 1997

ISBN 1871713277

This report has been produced with the support of:Commission of the European Communities DGVE.3,Integration of Disabled People within the framework of the HELIOS Ⅱ programme International Labour Office Social Policy Research Unit,University of York/ Typeset in the Social Policy Research Unit by Jenny Bowes Printed by the University of York Printing Unit.

SPRUでは本報告書の英語版を無料で提供している。

Employment Policies for Disabled People in Eighteen Countries:A Review

ISBN 1871713277

Copies of SPRU publications available from: Publications Office Social Policy Research Unit University of York Heslington York YO15DD

UK

Telephone:+44(0)1904 433608
Facsimile:+44(0)1904 433618
Emaile:Spruninfo@york.ac.uk

18カ国における障害者雇用政策:レビュー
ISBN 1871713277
本書は上記アドレスのヨーク大学出版局から入手できる

18カ国における障害者雇用政策:レビュー

パトリシア・ソーントン、ネイル・ラント
ヨーク大学社会政策研究所
Patricia Thornton and Neil Lunt
Social Policy Research Unit
University of York

日本語版まえがき

本書は、本文のまえがきにあるように、1993年に英国雇用省(現・雇用教育省)の研究シリーズとして刊行された「障害者雇用政策15カ国における法律とサービスのレビュー」の改訂版であり、1993年版には含まれていなかった英国、スウェーデン及びフィンランドが新たに加えられている。つまり、本書では現ヨーロッパ連合(EU)加盟15カ国、及びそれ以外の国としてアメリカ、カナダ及オーストラリアにおける障害者雇用政策について詳細なレビューが行われている。欧米諸国に限られているとはいえ、これほど多数の国における障害者雇用施策をきわめて多面的な角度から取り扱ったものはこれまでになく、その意味でもきわめて貴重な資料と思われる。

本書は、欧州委員会(European Commission)及び国際労働事務局(ILO)の助成によりヨーク大学社会政策研究所(SPRU)から出版されると共に、インターネットのGLADNET(Global Applied Disability Research and Information Networt:国際障害応用研究及び情報ネットワーク)のウェブサイトで公開されている。
このたび、SPRUから本書の日本語への翻訳について了解が得られると共に、(財)日本障害者リハビリテーション協会から助成が受けられたので、本書の日本語版の刊行が可能になった。ここに関係者を代表してSPRU及び(財)日本障害者リハビリテーション協会に対し、厚くお礼申し上げる次第である。

本書日本語版の作成に当たっては、この分野での関心、経験のあるメンバーで分担翻訳し、全体的な翻訳の監修は松井亮輔が担当した。翻訳原稿の表現及び体裁の統一整理は、翻訳メンバーの1人である池田勗氏に担当してもらったが、その膨大な作業の労に謝意を表したい。翻訳担当者と各国別分担はは次のとおりである。(50音順。所属は当時のもの。)

なお、原本では、各国別報告の末尾に謝辞と大量の文献が掲載されているが、この部分は訳出していない。

朝日雅也(埼玉県看護福祉系大学設立準備室):デンマーク 池田勗(元障害者職業総合センター):はじめに、ギリシャ、アメリカ 上野博(リサイクル洗びんセンター):ポルトガル、スペイン 植村英晴(日本社会事業大学):アイルランド 大木勉(貴峰荘職業更生センター):ルクセンブルグ、オランダ 大漉憲一(東京都心身障害者福祉センター):オーストリア 大曽根寛(愛知県立大学):フランス 奥野英子(筑波大学):イタリア 工藤正(障害者職業総合センター):オーストラリア 指田忠司(障害者職業総合センター):ドイツ 沢辺みさ子(障害者職業総合センター):イギリス 高木美子(アビリティーズ総合研究所):カナダ 佐藤宏(陸上貨物運送事業労働災害防止協会):ベルギー 中島和(八代英太事務所):フィンランド 松井亮輔(北星学園大学):結論 山田文典(国立職業リハビリテーションセンター):スウェーデン

1999年3月
北星学園大学社会福祉学部
教授 松井亮輔

目次

まえがきと謝辞
はじめに
オーストラリア
政策と制度的情況
障害の定義
統計
雇用支援サービス
一般雇用:法的義務と権利
啓発政策
一般雇用:奨励金
保護雇用
要約

オーストリア
政策と制度的情況
障害の定義
統計
雇用支援サービス
一般雇用:法的義務と権利
一般雇用:財政的施策
保護雇用
要約

ベルギー
政策と制度的状況
障害の定義
統計
雇用支援サービス
啓発政策
一般雇用:法的義務と権利
一般雇用:財政的施策
保護雇用
要約

カナダ
政策と制度的情況
障害の定義
統計
雇用支援サービス
一般雇用:法的義務と権利
啓発政策
一般雇用:財政的施策
保護雇用
要約

デンマーク
政策と制度的情況
障害の定義
統計
雇用支援サービス
一般雇用:法的義務と権利
啓発政策
一般雇用:財政的施策
保護雇用
要約

フィンランド
政策と制度的情況
障害の定義
統計
雇用支援サービス
一般雇用:法的義務と権利
一般雇用:財政的奨励
啓発政策
保護雇用
要約

フランス
政策と制度的情況
障害の定義
統計
雇用支援サービス
一般雇用:法的義務と権利
啓発政策
一般雇用:財政的奨励
保護雇用
要約

ドイツ
政策と制度的情況
障害の定義
統計
雇用支援サービス
一般雇用:法的義務と権利
一般雇用:財政的施策
保護雇用
その他の雇用形態
要約

ギリシャ
政策と制度的情況
障害の定義
統計
雇用支援サービス
一般雇用:法的義務と権利
一般雇用:財政的施策
保護雇用
要約

アイルランド
政策と制度的情況
障害の定義
統計
雇用支援サービス
一般雇用:法的義務と権利
啓発政策
一般雇用:財政的奨励
保護雇用
新たな就労形態
要約

イタリア
政策と制度的情況
障害の定義
統計
雇用支援サービス
一般雇用:法的義務と権利
一般雇用:財政的施策
シェルタードワークショップ
労働統合の協同組合(生産協同組合)
要約

ルクセンブルグ
政策と制度的情況
障害の定義
統計
雇用支援サービス
一般雇用:法的義務と権利
一般雇用:財政的奨励
保護雇用
要約

オランダ
政策と制度的状況
障害の定義
統計
雇用支援サービス
一般雇用:法的義務と権利
一般雇用:財政的施策
障害給付を制限する方策
保護雇用
要約

ポルトガル
政策と制度的情況
障害の定義
統計
雇用支援サービス
一般雇用:法的義務と権利
啓発政策
一般雇用:財政的施策
保護雇用
要約

スペイン


政策と制度的情況
障害の定義
統計
雇用支援サービス
一般雇用:法的義務と権利
一般雇用:財政的施策
保護雇用
新たな就労形態
要約

スウェーデン
政策と制度的情況
障害の定義
統計
雇用支援サービス
一般雇用:法的義務と権利
啓発政策
一般雇用:財政的施策
保護雇用
要約

イギリス
政策と制度的情況
障害の定義
統計
雇用支援サービス
一般雇用:法的義務と権利
啓発政策
一般雇用:財政的奨励
保護・援助付き雇用
要約

アメリカ
政策と制度的情況
障害の定義
統計
雇用支援サービス
一般雇用:法的義務と権利
一般雇用:財政的施策
啓発政策
保護雇用
要約
結論

まえがきと謝辞

 1992年12月に英国雇用省(United Kingdom Department of Employment)からヨーク大学社会政策研究所(Social Policy Research Unit at the University of York(SPRU))へ研究が委託され、その成果が同省の研究シリーズ「障害者雇用政策:15カ国における法律とサービスのレビュー」として1993年10月に刊行された。雇用省のおかげで、その後の最新の研究をここに報告できるようになったことに私たちは大変感謝している。
1993年版を拡大し、時宜にかなうように改訂するという案は、1996年の初期に3つのきっかけから出てきた。第1は、ジュネーブにある国際労働事務局(ILO)が、研究報告を最近構築された電子化データベースであるGLADNET(Global Applied Disability Research and Information Network;応用的障害研究及び情報ネットワーク)に掲示することの了解を求めてきたことである。
これによって、研究報告がインターネットを通じて容易にアクセスできるようになると共に、容易に修正し最新のものに改訂できる利点をも持つことになったのである。その少し後に、GLADNET の第2回年次会議で、世界中の政策策定担当者、キャンペーン実施者、情報ユーザー、研究者が、障害者雇用政策のソースブックに関心を持っていることを知り、また、情報を更新することの必要性があることを知ったのである。そして、GLADNET の会員は、改訂版作成に貢献すると共に、このネットワークの最初の共同事業として協力することに熱心であった。
同時期に、欧州委員会の DVG-E局3課(European Commission(DGVE.3))が我々の成果に関心をもっていること、及び、EU 加盟諸国における障害者雇用政策の発展状況について総合的にレビューする必要性を感じていることを知った。改訂作業について HELIOS Ⅱ プログラム(訳注)での研究助成へ応募したところ承認され、また、ILO と SPRU が、前の研究の大幅な改訂及び拡大を行うのに必要な諸資源を提供してくれることになった。
これら初期段階で勇気づけ、支援してくれた人達及び財政的支援を可能にしてくれた人達全てに対し、特に、Willi Momm、Bernard Wehrens、Andre Gubbels に対し謝意を表したい。
この新版は、まさに共同事業の成果である。EU 加盟諸国は、1988年以降の発展に関しての報告文書を提供してくれたし、HELIOS Ⅱ 経済統合プログラム(HELIOS Ⅱ Economic Integration progamme)のうちの雇用に関する作業グループへ参加した各国の代表者は、求めに応じて詳細な情報を提供してくれた。また、政府関係部門の多くの方々が回答を寄せてくれたが、これらの人達に対し、特に、政策・プログラムに関する我々の報告にていねいな注釈をしてくれた方々に感謝する。
1996年のレビュー改訂に際し、多くの調査対象国の GLADNET メンバーの協力を得られたのは幸であった。この人達は、研究者や情報提供者として、非政府組織が国の政策・プログラムをどのように見ているかを教えてくれた。これらの人びとの中には、当プロジェクトに公式な立場で参加してくれた人もあり、また、個人的な時間の中で大量な情報やコメントをくれた人もある。これらの人達全てに感謝するが、特に、各国の情報を集め、解釈するのに多大な貢献をしてくれた次の方々に感謝したい:Cameron Crowford、Mathilde Niehaus、Bryan Palmer、Paul O'Leary、Erik Samoy、Charlotte Strumpel、Dominique Velche、Edwin de Vos、Albrecht Winkler。さらに、それ以外にも、調査対象となった18カ国の多くの関係者、関係団体が、情報やコメントを自らすすんで、こころよく提供してくれたことが、このレビューに価値を添えてくれた。
SPRU 及び社会政策・ソーシャルワーク部の同僚は、源資料の翻訳や諸国からの報告の収集をしてくれた、特に Andrew Nocon、Anne Shepherd の尽力は大きい。タイプ原稿を準備してくれた Teresa Frank、タイプ浄書してくれた Jenny Bowes、編集と校正をした Lorna Foster のきめこまかな配慮がなかったならばこの出版物も最終完成はしなかったであろう。
本書のフルテキストは、SPRU からもコンピュータ・ディスクで得られる。また、ILO とGLADNET 協会の支援により、GLADNET メンバーは GLADNET オンライン・テキストデータベースを通じてアクセスできる。
パトリシア・ソーントン(ヨーク大学社会政策研究所)
ネイル・ラント(マッセイ大学社会政策・社会事業学部)
(訳注)HERLIOS Ⅱ:EUの「障害者のための第3次行動計画(1993年~1996年)」。
EUでは1983年~1987年に「障害者の社会的統合のための第1次行動計画」に取り  組み、その結果を踏まえて1988年~1991年には「障害者のための第2次行動計画(HELIOSⅠ)」を実行した。これに続いて実行されたのがHELIOS Ⅱである。HELIOSは Handicapped people in the European community Living Independently in an Open Society の略で、ヘリオスはギリシャ語の太陽の意を持つ。

はじめに

 ここに報告する研究の最初の意図は地味なものであった。すなわち、1993年の15カ国における障害者雇用政策、法律、サービスに関する研究結果を改定することと、EU 加盟諸国全部と、それにオーストラリア、カナダ、アメリカを加えた18カ国に拡大することであった。
結果としては大変違ったものになった。1993年以降の発展と変化は大規模であったため、単に統計を最新のものにすることと、現存する方策の細部の改訂をすることという作業をはるかに超えるプロジェクトとなった。多くの国々に関する各章の記述は、新政策の規模を考慮して根本的に書き変えることになった。いくつかの国で評価をするための資料が入手しやすくなった結果、本来記述的な政策資料集をひと味違ったものにすることができた。

背景

英国雇用省1は、1992年にヨーク大学社会政策研究所に対して、障害者と雇用に関して机上レビューを委託した。この研究では、英国を除く当時の EU 加盟諸国及びアメリカ、カナダ、オーストラリア、スウェーデンにおける、「障害者を労働力に統合することを目的とした法律、制度、及び、サービスを概観すること」をねらいとしていた。このレビューでは、各国の対策の類型を概説すると共に、法的、行政的実施の詳細を見、かつ、それらが目的達成のためにどう効果的かについて検討するよう努めた。
この研究は1992年の遅い時期に委託され、筆者らは4カ月以上をかけて調査を実施したが、原稿著述と出版用の最終原稿を準備するのにはもっと長期間を要した。報告書は、1993年10月に雇用省の研究シリーズの1つとして、「障害者雇用政策:15カ国における法律とサービスのレビュー」のタイトルで出版された。
1996年に、筆者らはこの研究を改訂するよう勧奨された。関係者からのフィードバックは、この研究が有用であったことを示唆していた。それまで散乱していた資料を寄せ集め、しょっちゅう「一から出直す」ことを止め得たように思われる。1993年の出版物は、障害者雇用政策作りにとり組んだり、それをさらに進める方法を考えていた諸国にとって、とりわけ有効であった。ユーザーは、新しい政策作りを求めている途上国や市場経済への移行中の国から、政策と伝統はある程度確立しているが、障害者雇用戦略を刷新しようとしている国にまで及んだ。国際的状況への関心は、政府部門に限らず、この問題への議論に影響力を持とうとする団体からも寄せられた。
ここに報告する研究は、HELIOS Ⅱ の枠組での欧州委員会からの研究助成と、ILO 職業リハビリテーション部、及び、社会政策研究所の支援により可能となったものである。

情報源と方法

1996年の研究は、1993年の出版物に用いた情報源と新しく付け加えた情報源との両方に基づいている。
国レベルでの主要情報源は、労働、福祉、保健、社会保障の部門を含め、障害者とその雇用の何らかの側面を担当する種々の政府部門である。我々研究者は、法に基づくサービス提供者及び法には基づかないそれはもとより、法律の各部のモニタや実施に責任を持つ団体にも接近した。1993年のものでは、障害者雇用政策とサービスに関する責任はどの省にあるのかは必ずしもはっきりしていない。責任は概して複数の省に分散しており、必ずしも調整されていなかった。
1996年の研究では、我々研究者と、HELIOS Ⅱ の雇用に関する作業グループに参加した EU 加盟諸国の政府職員との公式な連携が成立した。我々研究者は、「ECにおける障害者雇用に関する会議勧告86/379 EECの適用委員会報告(Report from the Commission on the Application of Council Recommendation 86/379 EEC on the Employment of Disabled People in the Community)」のフォローアップとしての国別アンケート調査回答を利用することができた。我々はまた、公的な代表者に対して必要に応じてさらに情報を求める権限を与えられた。
1993年にも1996年にも、筆者らは、識者と目されている人びと、及び、特定の諸国の発展状況について十分説明できる立場にいる人びとの援助を得るようにした。前の研究では、コンタクトはその都度の形でしかできなかったが、1996年には、6カ国で、有給の「国内報告者」(National Informants)として行動する現地の研究者と正式の取決めをかわした。国内報告者を置くことによって、各国の報告の正確性と適切性を確実にするだけでなく、自国語の資料に当たることを通して、国の政策を評価するに当たって他の方法では得られない重要な視点をもち込むことができた。
その他のほとんどの国では、研究者、活動家、実践者、及び、何人かの政策担当者が非公式ベースで援助をしてくれた。調査期間中いくつかのネットワークが形成されたが、特に GLADNET は、1996年に最も適切な援助者を特定するのをはるかに容易にした。
1996年に行った改訂のための作業は、「国家政策」をより幅広く解釈すると共に、雇用主団体、被用者団体、障害者団体サイドの政策イニシアティブと実践をレビューする機会となった。1993年と同様、DPI の代表にも研究への参画を依頼した。ヨーロッパの研究対象国で国を代表する雇用主団体、被用者団体にもアプローチしたが、その反応は限られていた。
1993年及び1996年の研究とも、法律条文、公表された文書、会議での報告文書、作業グループ報告、さらに各種非公式資料といった範囲のものを利用した。公表文書には、ILO、国連、OECD、欧州委員会(European Commission)、欧州会議(Council of Europe)等の国際的組織、欧州組織から提供されたものが含まれる。これらの中には、法律や保護雇用といった特定領域に関する調査のレビューもある。また、世界ろう連盟(World Deaf Federation)、世界盲人会連合(World Blind Union)といった、汎国家的な障害者団体からの文書も利用した。さらに、その他の国際的及びヨーロッパ地域の障害者団体へもコンタクトした。
出版された文書へは、データベース検索とアブストラクト・サービスを通じてアクセスした。1996年には、GLADNET にある障害、雇用、訓練に関する専門家データベースのような、電子化されたデータベースへアクセスすることによって、文書検索は簡単になった。
当研究は、原則的に英文資料に依拠し、それに国内報告者から提供された資料による補追をしている。

研究領域

これは、(「専門」あるいは「メインストリーム」を問わず)原則的に、障害者と認定された、あるいは、認定し得る人びとのための政策とプログラムの研究である。しかし、公式なプログラムの枠外にいる障害者の雇用についてはほとんど知られていない。特別の、及び、優先的政策やサービスに焦点を当てると、障害者は全ての人を対象にしたサービスの消費者でもあるという事実が無視されるからである。
それぞれの国について、障害者対象の雇用政策をその国の社会政策の脈略の中に位置づけるように努力したが、労働市場政策の情況の描写は大ざっぱになってしまっている。情報が得られた場合には、障害者への対策が、労働市場、その他の「不利益を受けている集団」向けの対策と調和しているかどうかも示すよう試みた。しかし、この種の情報が入手できるかどうかは、部分的には、障害者が利用するサービスの制度的情況次第である。例えば、障害者も、特定目的の施策が対象とするいくつかの集団の1つであるが、これらの施策は、この研究に情報を提供する専門サービスではなく、一般労働市場担当行政部門によって管理されている。
1993年には、障害者の新規雇用の対策に集中していること、障害を持つ被雇用者が就労を通じて能力開発・キャリア昇進するための情報が不足していることを指摘した。しかし、1996年には、職業の維持や獲得した就労の質の面への関心が増大してきていることを報告することができた。
前回には欠けていたが、1996年の研究で特にとりあげようと努めた領域は、障害給付と雇用政策間のインターフェースについてであった。この政策領域は、1993年以後の数年間にきわだってきている。このことは、主として、それを主要な政策事項と認識している国々においてある程度述べることができた。
障害者の雇用政策を規定する側面としては他にもあるが、本研究ではそれらについて十分に触れることができなかった。雇用に関するインフラとしては、交通手段、アクセス対策、教育、住居、保健・社会サービスも必須なものであるが、これらの側面は欠けている。たしかに、公的情報源では、障害者の職業的統合へのこうした対策の貢献度を強調しているものはほとんどなかったのである。

有効性の評価

1996年の研究では調査範囲を広げてはいるが、政府によって定められた「国家政策」及び同じ見地から見たその有効性に焦点がしぼられている点は変わっていない。
第1の問題は、政策目的の同定である。政策目的が明確に述べられているのは、法律が最近のもので、伝統をやぶっている場合のみであった。そうした場合でも、相対的優先度は実施と共に変わる。いくつかの国では、政策は漸進的で、周囲の社会的、経済的状況でわずかに変わるだけであるが、目的を同定することは大変に困難である。そのうえ、現場の条件により政策がおし進められかねず、その逆ではないということである。第2の関連した問題は、多くの研究対象国では、現状の評価については明らかに重視していないことである。明確な政策目標の評価がないことはもちろん問題である。
入手し得た結果データのほとんど全ては、量的なものであった。我々は、数字を全体的文脈の中で判断するための質的データを持ち合わせていない。つまり、サービスを受けた人や就職した人の数が大きいことは、必ずしもユーザの満足度が高いとか、適職に就けたものが多いということを意味しない。同様に、職場改善のための助成金の量は、仕事で求められることが個人の状況に合うように調整された度合いを必ずしも反映してはいないのである。
1993年に我々は、政策の目的がプロセスや態度の変化に置かれている場合には、モニタリング・システムはあまり整備されていないと指摘した。しかし、政策が強制的なものから自発的な活動や態度の変化に移行し、また、より個別化した雇用支援のための対策に変わってきている中で、プロセスを重視する立場から評価をしようとする有望なきざしがある。

国別報告の記述形式

全ての国から同じ形式での情報を得ることはできなかったので、記述の形式を完全には標準化することはできなかった。そこで、以下のような章立てを通例とした。
  • 政策と制度的情況
  • 障害の定義
  • 統計的雇用支援サービス状況
  • 一般雇用:法的義務と権利
  • 啓発政策
  • 一般雇用:財政的施策
  • 保護雇用
  • 新しい就労形態

記述した情報量のバランスは、研究対象諸国で最近どの程度政策が重視されているかで異なっている。フランス、ドイツ、アメリカの部分は他の15カ国のものより長くなっているが、それは、15カ国のものは1993年の報告に詳細が述べられているからである。
国別報告は国名のアルファベット順になっている。最終章は、政策と実施の発展状況及び今後の問題についての所見で締めくくられている。
注 1 現在は雇用・教育省(Department for Employment and Education)

オーストラリア

政策と制度的背景

障害者に関する政策と立法

 障害を持つ人びとがコミュニティーの活動に参加する権利、及び最も重要な権利である有意義な仕事に就く機会を与えられる権利を含めて、他のオーストラリア人と同一の権利、選択及び機会を保障する政策は、連邦政府の社会的公平戦略の下に、1993~94年に導入された。しかしながら、この中には、ニーズに基づいてサービスを受ける権利、あるいは雇用される権利という考えは一切含まれていない(Baume and Kay, 1995)。
オーストラリアでは、障害者の統合に関する規定は、連邦や州レベルの立法措置と密接な関係がある。人権・機会均等委員会法(1986年)は、人種、肌の色、性、宗教、政治的見解等による差別への不服申し立てを調査する権限を委員会に与えている。1990年、人権・機会均等委員会への付託事項が拡張され、職場における障害者への差別も含まれるようになった。しかしながら、同法では差別それ自体を禁止していない。そこで、性や人種による差別に関し、それぞれ性的差別禁止法及び人種差別禁止法が定められた。そして障害を理由とする差別に関しては、新たに障害者差別禁止法(1992年)が制定されたのである。
障害者向けのサービスの利用において、従来から不利な立場に置かれていたグループに多くの関心が寄せられるようになった。これらのグループには、オーストラリア原住民のアボリジニー、トレス海峡の島民、非英語系住民、精神障害者、並びに高度の支援を要する人びとが含まれている。

労働市場政策

 オーストラリアの失業率は、1989~90年の6.2%から、94年には9.5%に上昇した。97年初めの失業率は8.7%であった。失業の増大により、特に仕事の経験のない障害者の就職及び雇用を維持することが難しくなった(Office of Disability, 1995)。オーストラリア経済において労働市場の構造は変化しており、パートタイマーや臨時雇いが増加している。就業から見た産業の構成は変化してきており、サービス業が増える一方、製造部門は長期的に減少してきている(Office of Disability,1995)。
現在進められている一連の重要な政策変更は、労働人口全体に影響を及ぼしている。96年3月の総選挙により、労働党政権に代わって、自由党・国民党連合の政権が誕生した。1996度予算では、主流の労働市場プログラムに対し、18億ドル削減が提案された(28%のカット)。その効果の1つとしてあげられたのは、主流の労働市場へのアクセスが一層競争的になることであった。さらに、そのプログラムの恩典を受ける可能性のある求職者を雇用支援の対象とすることにより、高レベルのニーズを持つ人びとをプログラムから排除できることであった。

障害者雇用政策の展開

 1970年代及び80年代において、障害者の所得維持及びサービスの提供に関する政府の基本的考えやアプローチに関し、見直しが行われた(Office of Disability. 1995)。1983年の障害者プログラムの見直しでは、連邦政府が提供するサービスについて検討がなされ、その結果、1986年障害者サービス法が成立した。同法は、連邦リハビリテーション・サービスの維持に加えて、2つの雇用モデル(競争的モデル及び援助付きモデル)を示すと共に、社会から分離された雇用のサービスに重点を置くことをやめ、補助金交付システムを設置した。91年に調印された連邦/州の障害者協定は、障害者へのサービスの改善及び合理化の枠組みを定め、近年、見直しが行われた(Yeatman, 1996)。
91年11月に開始された障害改革パッケージ(DRP)は、障害者の所得維持のために、より積極的な制度を設けることをねらいとしていた。この改革で利益を受けられる障害者は、政府の障害者委員会で示されたとおり、リハビリテーション、訓練及び労働市場プログラムを通じて労働能力の可能性を最大限にすると共に、パートタイムの仕事を選択するよう促された。DRPの主要な事項として、障害年金受給資格の変更、プログラムやリハビリテーションの実施場所の増加、並びに社会保障省、雇用教育訓練省及び連邦リハビリテーション・サービス局の間で調整を図ることが含まれている。また、DRPは政府機関が一緒に活動できるようにするために、専門スタッフのポストを設置した。
1996~97年度連邦予算において、雇用サービスの必要な障害者のために、一連の重要な改革が発表された。これらの改革は、サービスの改善、より多くの選択、並びに公的部門、民間及びコミュニティー部門によるサービスの間に柔軟性を持たせることをめざしている。また、連邦政府は雇用サービス全体で、障害者のために新たに1,000の雇用の場を創出する意向である。公平を期するために、1997~98年には、障害者雇用サービス及び職業リハビリテーションへの補助金交付に関して主要な改革が行われる。補助金交付システムはブロックごとの支給から、個別的ケースに基づく支給に変更され、また、障害年金の受給資格を有し、かつ高度の支援の必要な、求職中の障害者が対象となる。連邦リハビリテーション・サービスが市場に占める割合を少なくし、民間のサービス提供者のマーケット・シェアを増大させる予定である。サービスの提供において政府の役割を小さくし、そのかわり、民間のサービス提供者の数や種類を増す予定である。
連邦雇用サービス(CES)及び連邦リハビリテーション・サービス(CRS)は、従来のような形式で機能しなくなる。CESの一部は社会保障省に合併され、「ワン・ストップ」のサービス提供機関となる。予算書によると、障害者は以下の3種の活動をしている職業紹介所に行くよう仕向けられる。すなわち、それは職業紹介サービス、求職者支援、及び集中的雇用支援の活動である。
効率を高めるために、成果に関連させた補助金の交付がなされている。1996~97年度予算における成果の指標は、障害者雇用サービスの支援を受ける人びとの数を4%増加させること、並びに一般雇用市場で就業した人数に関する信頼できる基準データ作りを目標としている。また、公平の目的上、一般人口に対して、補助金を交付される障害者雇用サービスで特別のニーズを持つグループ(原住民のアボリジニー、トレス海峡の島民、性及び地理的場所に基づくグループ)が占める割合に関する基準データを確立する試みがなされている。

政策の立案及び実施

責務

  • 保健・家族サービス省(DH&FS)(以前の人的サービス・保健省)は、1986年障害 者サービス法に基づく専門サービスに補助金を交付する主要な責務を負っている。DH &FS内の障害局(Office of Disability)は、全ての障害者のニーズに関して政府に政策 上の助言を行う他、サービスの提供に関する政府のプログラムの有効性を分析する。ま た、DH&FSは、障害者にリハビリテーション・サービスを提供する連邦リハビリテ ーション・サービス(CRS)の職務について責任を負っている。
  • 教育・雇用・訓練・青少年問題省(DEETYA)(以前の教育・雇用・訓練省、DEET) は、メインストリームの労働市場プログラムについて責務を担っている。また、連邦雇 用サービス(CES)は、労働者のためのメインストリームの公共雇用サービス機関である。
  • 社会保障省(DSS)は障害者の所得維持と労働市場に参加できる障害者の支援機関である。

 障害改革パッケージは障害者の雇用機会の増大を図るため、(現在の)DH&FS,DEETYA及びDSSの連携を進めた。
1988年に設置された障害者タスク・フォースには、DSS,DEETYA,DH&FS及び財務省の代表に加えて、首相内閣省の社会公平事務局及び復員軍人問題省も参加している。タスク・フォースは障害者に関する広範な政策に関わっている。障害局が実施したタスク・フォースの見直し(1995年)では、関係する省の政策の策定、実施、調整及び情報交換において、タスク・フォースが有効であったことを示唆している。また、タスク・フォースは、障害改革パッケージの策定、実施、モニター及び評価を行っている。タスク・フォースはこれまで通り職務を続行しており、98年に再びタスク・フォースの見直しが行われる。

障害者の団体

 オーストラリアの障害者の権利運動は断片的であり、障害別に組織化されているため、政策推進へのインパクトは少ない(Newell, 1996)。障害者インターナショナル(DPI)(オーストラリア)の組織は縮小したため、政策に重大な影響を及ぼしていない。障害者差別禁止法の下で基準を設定する場合に、障害者の代表者数は最小限に留まっており、基準の設定過程において非障害者である官僚やサービス提供者が支配している(Newell, 1996)。障害局が実施した障害者タスク・フォースの見直し(Office of Disability, 1995)では、対策を打ち出す前の審議において、障害者からのさらに多くの情報インプットを保障すべきことが認められた。
連邦レベルでは、1996年3月の総選挙で戦った政党の政策に障害者問題を掲げているものはほとんどなかった(Newell,1996)。オーストラリア法律改革委員会(1996年)は、障害者全体の利益を図るために、連邦政府が障害者の社会的地位の平等を推進する国の部局を設置するよう提言している。この部局につき、省内に置くよりも、中心的機関の中に置くべきだとしている。

障害の定義

 障害者団体と州政府及び連邦政府との間で障害の定義に関する論争がある。障害の定義は省庁間でも異なっており、厳密にどのグループの人びとを指しているのか不明で、また、障害の種類や程度によってプログラムが一連のニーズを満たすことができるのかどうか判断することが難しい(Senate Standing Committee,1992)。
1992年障害者差別禁止法は、障害について広義に解釈しており、身体障害、知的障害、精神障害、感覚障害、神経障害、あるいは学習障害を包含している。また同法は、体内に一定の病原菌(エイズ・ウィルスなど)を持っている人びとへの差別も含んでいる。
1986年障害者サービス法は障害の定義をしていないものの、同法の規定の2つの部分で対象となるグループを明記している。この対象となるグループは、以下の障害を持つ人びとである。

  1. 知的、精神的、感覚的もしくは身体的機能障害、又はこれらの機能障害の組み合わせを基因とする障害
  2. 障害が永久的なものであること、又は永久に続く可能性のあること
  3. その結果、
    1. 言語能力、学習能力又は移動する能力がかなり低く、
    2. 継続的支援サービスが必要なこと

統計

 オーストラリアの障害者数に関するデータを収集する一貫したシステムは存在しない。とはいえ、ABS(オーストラリア統計局)及びオーストラリア保健福祉研究所は、総人口の約18%が障害者であるとみている(Australian Law Reform Commission,1996)。オーストラリア統計局の1993年調査では、オーストラリアの人口のうち、317万6,000人(18%)が能力障害、14.2%が社会的不利であると推定している。障害を機能障害、能力障害及び社会的不利に分けた国際障害分類に従って、オーストラリア統計局は次のように定義している。能力障害とは、機能障害の範囲又は制約が6カ月以上続く恐れがあること、また、社会的不利とは、日常生活における活動(例えば、自分の身の回りの世話、移動、口頭による意志の伝達)を行う能力が限定されることによる障害である。表A.1は障害程度別発生率である。また、表A.2 は障害種類別構成比である。

表A.1 オーストラリアの人口に占める障害程度別発生率
障害の程度 人数及び割合
程度につき不明 382,000(2.2%)
軽度の障害 941,000(5.3%)
中度の障害 455,500(2.6%)
やや重い障害 310,100(1.7%)
重度の障害 419,000(2.4%)

出所: ABS(オーストラリア統計局)、「障害と加齢並びに介護者に関する調査」(1993年)

表 A.2 障害種類別構成比
障害の種類 割合(%)
精神障害 11.1
視覚障害 3.8
聴覚障害 14.2
神経障害 5.6
循環器障害 8.7
呼吸器障害 9.1
筋骨障害 27.2
その他の障害 20.2
100

出所: ABS(オーストラリア統計局)、「障害と加齢並びに介護者に関する調査」(1993年)

 1993年に、15~64歳までの年齢で、在宅の能力障害又は社会的不利を持つ障害者のうち、半数をやや下回る人が労働力人口(就業ないしは失業中)に含まれていた。これは、非障害者の4分の3の割合であった。非障害者(訳注:原文では障害者となっているがこれはミスプリと思われる)の労働力人口に対する就業率は79%であり、それは男女とも同様な水準であった。
Baume and Kay (1995)は、ABSの数字を引用し、さらに12万3,000人の人びとが障害者サービス・プログラムの恩恵を受けられると示唆している(うち、3万8,000人は失業中、5万7,000人は永久に働くことができず、また、2万6,700人が労働力人口に含まれていない)。サービスのニーズは、施設の数をはるかに超えており、また、サービスの提供は不平等である(Australian Institute of Health and Welfare,1996)。

雇用支援サービス

メインストリーム・サービス

 教育・雇用・訓練・青少年問題省(DEETYA)は、主として労働市場の訓練に関わり、訓練や勤労体験プログラムを実施している。連邦雇用サービス(CES)は、労働力人口に対する雇用サービスの主要な提供者である。1991年、専門スタッフの採用により、障害者のニーズに対応するCESの能力は一段と高まった。そして、現在、CESには職を求める障害者のために約120名のアドバイザーが置かれている。
DEETYAの特別雇用・教育・所得支援プログラムの2つの部分は、障害者の統合に関連するものである。すなわち、ジョブトレイン(JobTrain)、ジョブスタート(JobStart)、ジョブサーチ・アシスタンス(JobSearch Assistance)及び特別介入からなる雇用アクセス・プログラム(EAP)、並びにコミュニティーをベースとしたプログラム(スキルシェア)である。これらの計画は地域のCES事務所を通じて調整される。計画の目的は、能力の評価及び訓練、雇用主への賃金補助、求職の技術に関する訓練、職業訓練及び移動の支援を通じて、労働市場で不利な立場にある求職者が長期雇用にアクセスし、仕事を確保できるよう助力することである。
ジョブトレイン・プログラムは、適切なコースを開設し、労働市場への参加に必要な職業訓練をすることにより、長期の失業者やその他の不利な求職者を助けることを目的としている。ジョブトレインにおいて、個別的ニーズを満たすために、地方レベルで短期職業コースが開講されている。コースは技術教育や成人教育機関を通じて、あるいは連邦雇用サービス(CES)に代わって訓練する機関を通じて、地域レベルで実施されている。プログラムでは、12カ月間までのコースが用意されている。通常の期間内に特定のコースを修了できない障害者のために、ジョブトレイン・プログラムの期間を延長することができる。
ジョブトレイン・プログラムの参加者は、正規訓練手当(FTA)に付加された補助手当を受けることができる。また、21歳以上の参加者は、21歳未満の未婚の親と同様、訓練の一部として週30ドルを受け取る。
ジョブトレイン・プログラムの下で補助金を交付される訓練機関は、1991年後期より、特別助成金(1人当たり、最高5,000ドル)を受けられるようになった。これは、特定の障害者を助けるために特別の器具を借りたり、専門的サービスを利用できるようにしたものである。
ジョブトレイン・プログラムは、一定のグループを優遇している。つまり、コースの性格からみて、ある程度の読み書き能力や基本的計算能力を持つ身体障害者、知的障害者又は精神障害者で、早い時期に就労する用意ができている者に対して訓練を行っているのである(Senate Standing Committee,1992)。
ジョブサーチ・アシスタンス・プログラムでは、就職に不利な求職者のニーズと取り組み、職を見つけるための技術を教えている。ジョブ・クラブ及びジョブサーチ・トレーニングの参加者の10分の1以上が障害者である。そして、そのほとんどは軽度の障害者である。
障害改革パッケージが導入された当時の政府の考えは、ジョブトレイン、ジョブスタート(奨励金の項を参照)、及びジョブサーチ・トレーニング等、主として既存の労働市場プログラムにおいて、8,000の追加的実施場所を設けることであった。さらに、一部のプログラムでは、特定の障害者グループを対象としている。例えば、障害改革パッケージにおける障害年金受給者を対象とした、障害者勤労経験プログラム、及び障害者のための職業紹介後の支援/訓練支援プログラムである。
障害年金受給者のみを対象とした新たなプログラムである障害者作業経験プログラム(WEPD)は、主として民間部門での完全に補助された作業経験プログラムである。これは、メインストリームの賃金補助プログラムに参加できない重い障害者に対するものである(奨励金の項を参照)。
障害者のための職業紹介後の支援/訓練支援プログラム(PP/TSD)は、訓練中又は雇用の当初において、やや重い障害者に個別的支援を与え、職場になじませたり、新たな機器に関する監督や、職場/訓練場所への行き方、食事・休憩のとり方を教え、助言や励ましを与えるために障害者と定期的に接触している。
障害者の統合を助けるための、教育・雇用・訓練・青少年問題省(DEETYA)による2番目のタイプのプログラムは、コミュニティーを基盤としたものである。スキルシェアは、コミュニティー・ベース・プログラム(コミュニティー青少年支援計画、コミュニティー訓練プログラム、及びコミュニティー・ボランティア・プログラム)を一緒に集めた労働市場プログラムであり、長期の失業者や雇用上、「最も不利な」その他の人びとを助けることを目的としている。
スキルシェアは、情報技術センターや障害者アクセス支援部門(DASUs)を含めて、オーストラリア全体のほぼ400プロジェクトのネットワークとして機能している。DASUsが創設されたのは、スキルシェアのやり方に欠陥があることが以前の見直しで指摘されたためである。DASUsは主に、中程度又はそれよりも低いニーズに取り組む機関とみられている。1990~91年に障害者戦略が策定され、その結果、10カ所のDASUsが活動を始めるようになった。
スキルシェアの目的は、雇用の獲得ないしは維持、あるいは継続的教育に進ませることにある。スキルシェアの参加者は、正規訓練手当(FTA)を受けている。1994年、体系的技能訓練、個人的支援及び職業紹介サービス、並びに事業活動を基盤としたスキルシェア・プロジェクトにより、13万人が支援を受けた。
特別介入計画は、4つの主要な問題と取り組んでいる。すなわち、第2言語としての英語、読み書き能力、時代遅れとなった技能及び雇用を基礎とした人的開発のニーズである。障害者は、この種の支援サービスの優先グループの1つとなっている。

 表A.3は、障害者が参加した1991~94年までのプログラムの種類を示している。

表 A.3  障害者の参加したプログラムの種類(1991~94年) 教育・雇用・訓練・青少年問題省(DEET/DEETYA)のプログラムの利用者(障害者)割合(%)

プログラム名 1991年 1992年 1993年 1994年
(1月~6月)
アボリジニー・プログラム 1 1 1 1
スキルシェア 13 12 13 10
特別介入計画 1 1 1 1
WEPD(勤労経験) 無回答 1 3 3
ジョブサーチ 13 8 6 9
ジョブトレイン 42 26 17 17
ジョブスタート 21 23 30 23
その他 1 1 1 2
合計 100 100 100 100
DEET利用者総数(人) 41,572 59,380 77,071 41,154

出所:Office of Disability (1995)

また、表A.4は障害改革パッケージ(DRP)の受給者の参加したプログラムの種類である。DRPの受給者は、障害年金もしくは疾病手当を受けているか、又は障害者委員会の一定の基準を満たす者で、連邦雇用サービス(CES)登録者として定義されている。
1990年のRonalds報告書は、主流の訓練プログラムによって、障害者に多くの機会を与えられなかったことを指摘している。また、障害者の訓練の実際的ニーズを満たすことよりも、失業給付を受ける人数を減らすことに重点を置いたプログラムに対して批判が向けられた。しかしながら、1994~95年にDRPの下で、約6,500人が障害給付から職場に復帰した。これは前年に比べて70%増である。

表 A.4  障害改革パッケージ(DRP)の利用者のプログラムの種類別参加人数
DRP利用者のプログラム参加総数に対する割合(%)
プログラム名 1992年 1993年 1994年
(1月~6月)
スキルシェア 5 12 11
特別介入計画 18 17 18
WEDP(勤労経験) 21 20 16
ジョブトレイン 15 18 30
ジョブスタート 23 20 17
ジョブサーチ・トレーニング 5 5 1
PP/TSD(訓練支援等) 4 2 1
ジョブスキル 1 1 2
プログラム参加総数 1,023 7.598 5,763

出所:Office of Disability (1995)

障害改革パッケージ(DRP)の結果、所得支援に完全に依存する人は少なくなり、より多くの人がリハビリテーション、教育や訓練に参加している。雇用についてもプラスの結果をもたらしている。1994~95年に、2万5,970人がDRPの支援を受け、うち49%は連邦リハビリテーション・サービス(CRS)の下に、28%が教育・雇用・訓練・青少年問題省(DEETYA)の下に、また、22%が競争的雇用訓練・職業紹介サービス(CETP)/援助付き雇用(SE)の下に置かれた。1994~5年に1万7,973人がプログラムを終了し、8,721人が雇用に結びつく結果となった。
1996年度予算の修正は懸念を生じさせた。労働市場プログラムの予算の削減は、ジョブスキルやスキルシェア等のプログラムの実施場所が20万カ所減少することを意味し、これは障害者にとって特に問題となる。しかしながら、政府は1996~97年に420万ドルを支出することにより、新たに1,000カ所の障害者サービス・プログラムの実施場所を設置し、それに続く3年間にも700万ドルを支出する予定である。この増大は、1996~97年度予算における追加資金の新たな計上ではなく、プログラム内の他の節減並びに継続的な早期予算決定によるものである。
近年、ジョブトレイン等の訓練プログラムにあまり重点が置かれなくなり、代わって賃金補助プログラムやジョブスタートや障害者作業経験プログラム等に重点が置かれるようになった(Office of Disability,1995)。
1992年3月、教育・雇用・訓練省(DEET)は、連邦雇用サービス(CES)の策定した障害者外部評価プログラム(能力評価の実施)を含めて、障害改革パッケーッジ(DRP)における受給者向けのプログラムに関し、年間9,000の実施場所を設けるための追加資金を受けた。障害者のニーズに関してスキルシェアのスタッフを助けるべく、1991年、スキルシェア・プログラムに障害者アクセス支援部門が包含されるようになった。

専門的サービス

 保健・家族サービス省は訓練プログラムを持つのではなく、実際の雇用に対する主要な補助金交付者である。また、同省は、障害者にリハビリテーション・サービスを提供する連邦リハビリテーション・サービス(CRS)に関して責任を負うだけでなく、1986年障害者サービス法(DSA)に基づく専門的雇用支援サービスに関する責務を負っている。

連邦リハビリテーション・サービス(CRS)
障害者サービス法(DSA)は、連邦がCRSを通じてリハビリテーション・サービスを直接、提供することを認めている。また、同法では、リハビリテーション・プログラムに以下の事項を包含できることを定めている。すなわち、雇用・職業訓練、教育コース及びプログラム、移動の訓練及びその他の自立生活訓練、福祉機器、自宅/職場改善並びに道具である。
連邦リハビリテーション・サービス(CRS)には、オーストラリア全国で活動する90以上のリハビリテーション部門(units)がある。そのサービスには、職業カウンセリングや技能訓練、雇用及び支援が含まれている。それらのサービスは、技能達成の能力を有するとみられる労働年齢の障害者に対して行われる。1990~91年度予算以後、CRSは1,200カ所に特別リハビリテーション部門を設置し、精神障害者が職場に復帰できるよう支援している。
障害改革パッケージの一部として、CRSの役割が拡大され、1993~94年には年間でさらに4,500カ所でサービスが提供できるようになった。これは、障害者に関する積極的雇用政策の導入により、さらにCRSへの需要が高まったことに対応できるようにしたためである。1994~95年に、CRSは4万1,509人を支援し、うち6,840人が就業した。職業的支援及び訓練プログラムには、カウンセリングや計画策定、技能の向上、職場の改善、設備、並びに職業訓練場所への配置が含まれている。現在、CRSは分散化されている。CRSプログラムの平均的実施期間は、6カ月~9カ月である。
ワーク・トレーニングはCRSのプログラムで、障害者のために実際の職場での訓練を行っている。このプログラムでは事業主との間に取り決めがなされ、合意した期間につき、仕事の実地訓練や指示が与えられる。このプログラムは、特定の仕事に関し、事業主に参加者の適格性を評価する機会を与える一方、参加者が一般労働市場において技能を習得する機会を与えている。事業主には一切の費用がかからない。CRSはプログラムの参加者のほとんどに訓練手当を支払い、訓練に必要な衣服あるいは道具を支給することができる。このプログラムは、オーストラリア労働組合評議会により承認されている。
また、障害者サービス法(DSA)は、障害者サービスの提供及び補助金交付に関する主要な改革をした。同法は、障害者の雇用サービスについて刷新を促すものであった。同法には、連邦政府の助成金を受けられるさまざまなサービスが列記されている。障害者サービス法では、サービスへの補助金の交付を、DSAの原則、目的及びガイドラインに従うことを条件としている。前述のように、DSAの根底にある目的は、保護雇用から、援助付き雇用及び一般雇用に移ることであり、その主たる目的は、賃金の支払われる実質的な仕事を提供することにある。
DSAの下で、セクション10の給付を受けている障害者を助けるべく、以下の2種類のサービスが提供されている。すなわち、1つは競争的雇用の訓練・職業紹介サービス(CETP)、2つは雇用者の個別的必要性により、高度の支援の必要を満たす援助付き雇用サービス(SE)である。
競争的雇用訓練・職業紹介サービス(CETP)
障害者サービス法(DSA)の下で、CETPには労働市場で有給雇用を獲得あるいは有給雇用を維持するために障害者を助けるサービスとして、以下のものが含まれる。

  1. 職場において障害者の自立、労働生産性あるいは統合を高めるサービス
  2. 雇用の準備、雇用及び職業訓練サービス
  3. 障害者が特殊教育又は援助付き雇用から、労働市場での有給雇用に移行できるように支援するサービス

 CETPは、一般労働市場で就労するために時間的に限られた支援サービスを必要とする人びとを対象としている。また、CETPは、大半の労働者が非障害者である職場へ障害者を就職させることを目的としている。CETPは一般的訓練に重点を置くのではなく、実際の職場での訓練や特定の仕事に関する訓練を行っている。競争的雇用において職を確保するのためにとった方法には、飛び込み募集が含まれている。一般的には障害者の能力評価をしたのち、最初の訓練プログラム及び支援が決定される。サービス提供者には、民間組織、公共機関及び慈善団体が含まれる(Roy Morgan Research Centre,1992)。
サービス提供者と政府との契約(ターゲット・グループ、サービス・タイプ及びターゲットになる利用者の数を定めた契約)に応じて、サービスに対してDH&FS(保健・家族サービス省)から補助金が交付される。サービスの利用者(障害者)は、主に労働者又は未熟連労働者(71%)、事務員(12%)及び販売員(9%)として、さまざまな職場で雇用されている。産業別にみると、製造業が34%、人的サービス、宿泊及びレクリエーション産業が17%、そして卸売り業及び小売業が16%であった(Purdon,1992)。
メインストリームの連邦雇用サービス(CES)よりも、障害者サービス・プログラムの雇用サービスを利用している障害者の方が、よりよいサービスを受けられると考えられている。しかしながら、障害者サービス・プログラムの欠点は、スタッフの不足や資金上の制約から、職を求める全ての障害者に助力できないこと、及びウェイティング・リストが長いことである。このため、サービスを当然に受けられるのではなく、最良の部分だけをすくい上げる問題が起きている。つまり、支援の高度なニーズがあるにもかかわらず、支援の困難な人びとがサービスの対象に選ばれないことである(Purdon,1992)。

援助付き雇用サービス(SE)
障害者サービス法(DSA)に基づいて補助金を受けられる雇用サービスの2番目のタイプは、援助付き雇用サービスである。同法は、援助付き雇用を「障害者の有給雇用を支援するためのサービス」と定義している。その場合の障害者は、以下の要件を備えるものでなければならない。

  1. 賃金裁定額以上の競争的雇用の可能性がないこと、また
  2. 障害があることから、有給雇用を獲得又は維持するためには、継続的に相当な支援が必要であること

 1992年の上院常設委員会の報告では、援助付き雇用のねらいには雇用、統合及び支援が含まれている。統合は重要な要素とみなされ、非障害者との接触や関係を最大限にすることに重点が置かれている。サービスの利用者に対し、集中的ベースで継続的に支援することが重要である。支援には、永続的ジョブ・コーチの配置や、仕事の進展について話し合い、問題及び解決法を見つけるために定期的に話を聞く等の断続的支援がある。
援助付き雇用には、以下のさまざまな形態がある。
エンクレーブとは、通常の商業部門又は工業部門の職場内で1つの生産単位を形成している障害者の小グループである。
スモールビジネスとは、既存の工業からの請負、協同組合の一種、あるいは家内工業である。それらの経営管理は異なっており、より斬新な事業活動が進められているものの、収益性の概念は維持されている(Roy Morgan Research Centre,1992)。
移動作業チームは、通常の業務で、いわゆる「サービス」業務を請け負っている。伝統的には、それらは広範な支援を必要とする庭園メインテナンス・タイプの仕事である。しかし、このアプローチは非障害者との最小限の統合を意味する。この種の仕事は、作業所から一般雇用への移行の一部と見ることができる。
個別的に支援を受ける職、及び通常のコミュニティー・ベースの仕事への継続的支援は、雇用の新たなモデルとなり、共働者(協力者)の概念を導入するものである(Roy Morgan Research Centre,1992)。このモデルでは、他の形態の援助付き雇用に比べて、障害者は高度の支援を必要としたり、また、職場には数人の障害者が働いている場合があろう。
個別的に支援を受ける職及びエンクレーブは、援助付き雇用全体で小さな部分を占めているにすぎない(Roy Morgan Research Centre,1992)。スモールビジネス・モデルは援助付き雇用の圧倒的部分を占めているが、憂慮すべきことである。というのは、スモールビジネスは、「通常」の職場環境の最低限度のものしか備えていないかもしれないからである。競争的雇用では賃金裁定額が一般的標準であるのに対し、援助付き雇用の根底にある考えは、生産性と賃金との関係を必然的に作り出している(Senate Standing Committee, 1992)。
州政府は、援助付き雇用サービスに関し直接及び間接に支援を行っている(Senate Standing Committee,1992)。連邦あるいは他の州(オーストラリア首都特別地域を除く)の公共部門は、多くの援助付き雇用の機会を提供してきたが、このことは、公共部門での雇用確保で競争的雇用訓練・職業紹介サービス(CETP)が直面した問題に関する前述の評論で裏付けられる(Senate Standing Committee,1992)。これで分かったことは、他の評論でも確認できる(Purdon,1992)。
評価
競争的雇用訓練・職業紹介サービス(CETP)及び援助付き雇用(SE)サービスの待機者リストはかなり長い。連邦障害者サービス・プログラムの戦略的見直しに関する報告書では、サービスの目標が不明瞭である点を認め、また、データ不足に関して懸念を示した。「戦略的見直しの開始において、障害者サービス・プログラム(DSP)の補助金を交付されるサービスに関し、プログラムの策定あるいは成果に関するデータが不足していることは驚くに値する」と述べている(Baume and Kay,1995)。
最大の職業グループは肉体労働者と未熟練労働者であり、次いで事務員、販売員及び小売商人である。男性は筋肉労働者や小売商人グループに集中し、女性は事務員や販売員として採用されている傾向が見られる。
サービス利用者の62%が男性であった。競争的雇用訓練・職業紹介サービス(CETP)の利用者数は5,639人、援助付き雇用(SE)サービスは3,059人、そして保護雇用サービスの利用者数は26,015人である。またサービス利用者の障害についてみた場合、73%が知的障害、7%が精神障害、6%が感覚障害、そして10%が身体障害である。障害者サービス・プログラム(DSP)の補助金を交付されるサービスの中で、CETPの利用者は平均週給で最高258ドル(平均30時間)を受けている。SEにおける平均は132ドル(平均26時間)、また保護雇用では49ドル(平均32時間)であった。これらのレートによる支給額はCETP利用者の93%に、SE利用者の67%に、そして保護雇用されている者の19%に支払われている。
サービスの利用に関する問題は明らかであり、原住民のアボリジニー、トレス海峡の島民、非英語系住民、並びに農村や過疎地に住む人びとはこれらのサービスを十分に受けていない。補助金の交付に対する批判は、補助金のレベルに関する再交渉がないことや、条件が満たされているかどうかの検討がないことである(Baume and Kay,1995)。問題は、補助金の交付が障害者のコミュニティー全体に向けられていないことや、補助金の交付に関する国の計画がないことである(Australian Law Reform Commission,1996)。
障害改革パッケージの一部として、より重い障害を持つ若い人びとのために、3年間にわたり、さらに4,000人分の援助付き雇用プログラムが提供された。
雇用及び雇用の準備を与えるサービスに対してのみ、障害者サービス・プログラム(DSP)の下で補助金を交付すべきである。そして、プロセスよりも成果に重点を置くべきである(就業、持続性、満足度、賃金、組織に受け入れられること)(Baume and Kay,1995)。
社会保障省(DSS)の障害を持つ受給者に関する調査では、その30%が働く意欲のあることを示している。特にそれは若い人たちで、しかも自分の体の回復について楽観的である人たちに当てはまる(Jonczyk and Smith,1990)。受給者間では、主として労働プログラムの支援を受けられることが、職場復帰の可能性につながると考えられている。とはいえ、障害者において、利用できるサービスに関する知識は不十分であった。さらに、多くの障害者はその機能障害、教育程度が低いことや、時代遅れの技能により、制約があると感じている。他方、事業主も障害者の採用を差し控えている。Jonczyk and Smith (1990)は、「雇用の決定は複雑であり、障害者が情報を得た上で選択できるよう教育し、支援する必要がある。これをベースにすると、個別的支援により、労働意欲に違いをもたらされると結論づけることが妥当と思われる」と述べている(P.16)。

州訓練対策

 州において、訓練委員会、労働局、産業コミュニティー・サービス局を含む州の一連の機関が訓練を担当している。障害者サービス法(DSA)に基づく多くのサービスは、州政府の補助金を受けている。また、州による見習い工訓練の例がいくつか見られる(Senate Standing Committee,1992)。

一般雇用:法的権利・義務

障害者差別禁止法

 障害者差別禁止法(DDA)は、障害者の社会的公平に関する案件の一部として、政府が導入したものである。当時、ほとんどの州や地方に差別禁止法が置かれていたとはいえ、実質的影響力のあったRonalds Report (1990)では、国の法律を制定すべきであると述べていた。その結果、1992年10月、DDAが連邦議会を通過し(同年11月5日に承認され)た。DDAは障害者差別禁止コミッショナーの監督の下に、人権・機会均等委員会より実施されている。
障害者差別禁止法は、連邦、州又は地方政府の措置、並びに民間部門の活動に適用される。従業員名簿に記載された雇用者の人数が少ない企業に対しても特例は認められていない。
同法の第3条に定められているように、この法律の目的は次の通りである。
以下の領域において、障害を理由に差別することを可能な限りなくすこと、

  • 職場、宿泊設備、教育、建物/店舗、クラブ及びスポーツ施設の利用
  • 物品、施設、サービス及び土地の提供
  • 現行法
  • 連邦の法律及びプログラムの実施


また、一般の人びとと同様、障害者も法の前において平等であり、かつ同一の権利を享受するようできるだけ保障すること
さらに、一般の人びとと同様、障害者も同一の基本的権利を有するとの原則をコミュニティ内で認めるように促進することである。
障害者差別禁止法は、募集(広告、申込書及び面接の方法)、採用、昇進、解雇、及び建物へのアクセスを含めて、仕事に関する全ての分野を定めている。
同法には、労働に関するあらゆるカテゴリーが含まれている。すなわち、雇用、雇用の義務づけ、請負の仕事、パートナーシップ、資格のある機関、登録された組織、職業紹介所などである。
この種の全ての法律と同様に、障害者差別禁止法(DDA)は、求職者が当該仕事で「要求される基本的事項」を遂行できることを要件として含んでいる。また、事業主が特別のサービス、あるいは設備を取り付けなければならないことに関し、「著しく困難」である場合の免除条項も定められている。DDAでは、どんな調整・改造あるいは対応が著しく困難であるかについては具体的に明記していない。これはケース・バイ・ケースで判断されることになる。DDAの規定には、障害者と関係を持つ人びとへの嫌がらせや差別が含まれている。
人権・機会均等委員会には一定の監視機能が付与されている。例えば、権利の侵害に対する調査及び調停、基準の監視、障害者差別禁止法への理解、承認及び遵守を促すこと、調査、並びに勧告することである。
権利の侵害に対する不服申し立てに関し、次の2つの方法がある。第1に、DDAの規定により任命された障害者差別禁止コミッショナーが、人権・機会均等委員会の定めた法律に対する違反について通知を受けた場合、違反の調査に関して委員会を代表して行動することである。第2に、法律で定められているように、コミッショナーが独自に知った問題に関して調査をすることができる。また、DDAは付託事項として、「法律に関する調査、並びに法律に関連する事項を解決するために調停に努めること」を定めている(障害者差別禁止法第71条1項)。
もし法律違反を正すことが困難な場合、救済のためにコミッショナーには別の方法が用意されている。DDAによると、もしコミッショナーが以下のように考えた場合、すなわち、

  1. 当該事項が調停により解決できないこと、もしくは
  2. 当該事項を調停で解決しようと努力したものの、失敗に終わったこと、又は
  3. 当該事項を委員会に付託すべきと考えた場合、

コミッショナーは、当該事項につき自ら調査したことに関する報告書と共に、委員会に当該事項を付託しなければならない(障害者差別禁止法第71条6項)。
違反事項はコミッショナー又は大臣により、委員会に付託される。委員会は付託されたケースを調査すると共に、証人が呼び出しに応ぜず、あるいは書類が提出されなかった場合に罰則を適用することができる。最終的に、委員会は決定を実施するために、連邦裁判所に訴訟を提起することができる。
障害者差別禁止法(DDA)の実施及び初期の頃に経験したことに関し、重要な点が指摘されている(Newell,1995)。第1に、DDAは、「教育のある熟練した障害者運動家が多数参加」することなく、上から押しつけた措置であったこと。第2に、不服申し立て者の利用可能な支援サービスが不十分であること。第3に、差別されたことの立証責任は障害者側にあるものの、障害者の立証を助けるための十分な資源がないこと。第4に、DDAにより障害者への態度を改善できるかどうかにつき、不安があること。第5に、例えば女性であり、かつアボリジニー・グループに属する、「二重」の社会的疎外を受けているグループの経験を、DDAの規定に反映させる必要があることである。重要な要件は、利用者がDDAや障害者差別禁止コミッショナー室の有効性を評価することである(Newell,1995)。
1993年3月1日にDDAが施行されて以来、同法に基づいて人権・機会均等委員会に500件以上の苦情が寄せられた。近年、人権・機会均等に関するその他の法律よりも、多くのDDAに関する質問や調査がなされている(Office of Disability,1995)。一部の大きな企業はDDAに基づく行動計画を策定ないしは検討中である。大半の第三次産業は、支援サービスの利用に備えて行動計画をすでに策定した。次の段階は、小規模の事業主にそのような計画を策定させることである。

州の反差別法

 DDAは、同じような分野に関して州の立法を排除することを意図していない。むしろ、州の定めた法律は、DDAと矛盾せずに実施できるものと見なされている。オーストラリアの7つの州が、障害による差別の禁止に関し、以下のような法律を制定している。
ニューサウスウェールズ州(1997年差別禁止法)
ビクトリア州(1984年機会均等法)
サウスオーストラリア州(1984年機会均等法)
ウェスタンオーストラリア州(1984年機会均等法)
オーストラリア首都特別地域(1991年差別禁止法)
クインズランド州(1991年差別禁止法)
北部地方(1992年差別禁止法)
州の法律は、身体障害又は知的障害を理由に、直接又は間接的に差別することを違法としている。それらの規定は求職者、従業員、仲買人、請負人、パートナーシップ及び労働組合メンバーに適用される。連邦法と同様、州法には「相応な調整・改造」あるいは「相応な対応」条項が含まれている。外観上違いが認められるのはサウス・オーストラリア州の法律である。同州では、「身体障害者に異なった率による給与、賃金、その他の報酬を支払うことは違法ではない」と規定している。
州レベルでは、不服は州機会均等コミッショナーに申し立てられる。最終的に、州は自ら下した決定を実施できるのに対し、人権・機会均等委員会では1992年の法律制定までできなかった。ほとんどの不服申し立ては調停によって解決され、ほんの少数が裁判に持ち込まれるに過ぎない。

機会均等に関する州の法律

 相応な対応を義務づけた差別禁止法法に加えて、一部の州や政府の部局は機会均等法を制定している。ニューサウスウェールズ州の1977年差別禁止法の第9部Aは、身体障害者を含むいくつかのグループのために、政府部局や一部の法定機関が機会均等管理計画を策定・実施しなければならないと定めている。また、同法は、公共職業安定所の機会均等ディレクターに年次報告書を提出すべきことを規定している。多くの方法により、これらの機会均等計画には、いわゆる弱者のための差別撤廃措置が含まれている。上記のディレクターが機会均等計画に不満であった場合、当該計画を調査するために差別禁止委員会に付託することができる。以上のことは、1984年ウェスタン・オーストラリア州機会均等法の規定とほぼ同一である。
ビクトリア州の1974年公共サービス法第15条Aは、一般的に「公平な取り扱い」原則を定めており、同法の実施においてこの原則を遵守しなければならない。サウス・オーストラリアの1984年機会均等法第82条では、身体障害に対して雇用機会均等措置を認めた規定を定めている。

連邦の規定

 障害者を職場に統合させる機会を与えるその他の法律は以下の通りである。
1922年公共サービス法 この法律の雇用機会均等規定に基づき、連邦政府の省庁は「障害者に対する不当な差別を排除する責務」を負っている。同法第7条は、指定されたグループ内の身体障害者又は精神障害者を含んでおり、これらの障害者のために雇用機会均等プログラムを策定しなければならないと定めている。しかしながら、「著しく困難である場合」、「妥当な調整・改造」をしなくてもよいことも容認されている。
1987年連邦機関(EEO)法 この法律は、連邦の法定機関において「指定されたグループ」の利益を保護することを目的としている。これらの法定機関は年次報告書を所管の大臣又は公共サービス委員会に提出しなけばならない。
近年、公共サービス法は見直されており、政府は新しい、合理化された公共サービス法を導入するために取り組んでいる。新しく制定された1996年職場関係法では、公共部門における障害者雇用にどのような影響を及ぼすかについて明らかにされていない。

啓発政策

 障害者サービス・プログラムは、障害者の雇用を奨励するために企業セクターに向けた、いくつかの産業ベース・イニシアティブを包含している。これらは主要な事業主の支持を得ており、障害者の就職に関係したり、態度や方針の改善にも関わっている。これらの計画は、次の3つの広範なアプローチをとっている。すなわち、時々の会社ベース、会社全般、及びより広範なベースの3つである。
単一の会社ベースのアプローチでは、障害者雇用を直接に達成するために、募集や雇用方針を改めることに重点を置いている。大規模の事業主と協力して障害者を採用・配置するために、1992年に特別雇用担当者(SEPOs)制度が導入された。連邦は、銀行やスーパーのチェーンを含む事業主に雇われている特別雇用担当者の給与を補助している。
会社全般のイニシアティブは、障害者の雇用及び広報・宣伝に焦点が当てられている。企業とのパートナーシップ・プロジェクト(PWIP)は、大規模の事業主と協力して障害者を主流の雇用の場に就職させるために、障害者雇用サービスに補助金を交付することにした。しかし、PWIPが利用できる新たな予算措置ができなかったため、PWIPは政府と企業との協力及び調整の単なる呼び名となった。このパートナーシップ・プロジェクトは1995年12月まで実施され、1,000人の就職を目標とした。
1994~95年、特別雇用担当者(SEPO)により285人が支援を受け、またPWIPにより533人が支援を受けた(Health and Family Services,1994-5 Annual Report)。1995~96年次報告書では、これらの計画については全く触れられていない。
より広範なベース・イニシアティブは、政府改革(たとえば、国の障害者プロジェクト)および労働市場における障害者の能力や権利に対する認識を高めるべく、産業全般に関わるものである(Office of Disability, 1995)。
首相が授与する年間事業主賞は、事業主の態度を改善させるための試みである。この賞は、国の基本方針として障害を持つ労働者やその雇用主の存在を認めるために、1990年に開始されたものである。首相は毎年、主流の雇用の場で障害者に最大の雇用機会を与えた事業主を表彰している。
この賞に関し、事業主は自ら立候補したり、あるいは補助金を受ける一般労働市場のサービス機関ないしは連邦リハビリテーション・サービスにより、ノミネートされる。社会的パートナーが賞のスポンサーとなっている。また、新政権の下でこの賞は継続されている。この授賞プログラムは成功しており、1990年は90人が候補者に推薦され、93年には260人に達している。
障害改革パッケージ(DRP)の広報・宣伝プログラムは、DRPによって得られる利益について、個人や企業等に周知させることをねらいとしていた。広報・宣伝プログラムは事業主間に障害者雇用への積極的態度をもたらしたものの、この態度の変化は、1986年障害者サービス法や、1992年障害者差別禁止法による改革という広い背景の中でみる必要がある。全体的に、障害者を採用する事業主の数が多少増加したと見られている(Office of Disability,1995)。
労働組合/事業主に向けた一連の障害者問題啓発パイロット・プログラムは、1993年末に終了した(1993~94年 プログラムの成果報告書)。

一般雇用:財政的施策

障害者への奨励金

賃金補助制度
賃金補助管理部編の賃金補助制度ハンドブック(1995年6月版)に記載された賃金補助制度(SWS)は、1994年7月に開始された自発的プログラムである。その目的は、オーストラリア全国で毎年、1,000人の個人がこのプログラムを利用し、97年には3,000人をカバーする予定である。SWSは保健・家族サービス省内の管理部により運営されており、各地方や州に代表が置かれている。SWSが導入されたのは、一部の障害者が労働生産性に基づいた賃金システムを必要としていることが、さまざまな調査で判明したからである(Department of Human Services and Health,1995)。SWSは、一般労働市場への障害者の就労に努める職業紹介所(障害者サービス・プログラムから補助金を受ける)の一連のサービスを補うことを目的としている。
(この賃金補助制度の)適用を受けるには、労働者は障害年金に関する障害基準を満たすと共に、最低、週30時間の通常レートの賃金裁定額による労働ができないと評価される必要がある。また、その職務は、裁定額又は比例的割合による賃金裁定額を合法とする企業の規定によりカバーされていなければならない。
SWSは、雇用中の障害者の生産性を決定するために、労働組合や事業主グループとの協議により編み出した、特別の賃金裁定方法を使用している。この方法は全国的に一致しており、連邦政府の基準に従わなければならない。賃金評価システムは裁定に基づくもので、障害者の技能や生産性をはかる基準として、同等な地位にある人の仕事の達成度を利用している。SWSは以前のシステムに比べて改善されている。というのは、前のシステムでは、国の評価システムの使用及び賃金裁定に労働組合が関与することにより、裁定額が厳格に統制されていたため、障害者は通常レートの賃金裁定額を下回る金額を受けるようになっていたからである。賃金の裁定は、事業主及び登録された査定者、または事業主と組合の代表が行っている。
賃金裁定の後、以前に障害年金(DSP)を受けていた人は、障害者賃金補助(DWS)制度に移行する。DWSの率は障害者の賃金やその他の所得に依存する。もし仕事がなくなった場合、DWSからDSPに転換する簡単な移行ルールが作られている。収入テストを条件として、障害者は十分な賃金裁定額に達した以降も12カ月まで、DWSを受けることができる(DSS,1995)。
障害者賃金補助制度を利用している人の4分の3は男性であり、また、4分の3以上の人が35歳未満、そして4分の3以上が何らかの知的障害を持つ人たちである。ケースの36%は肉体労働者/掃除夫給付、また、15%は店の手伝い/工員給付であった。生産性の平均的評価は60%であり、労働時間は23時間、週給140ドルである。事業主は厳然たる経済的根拠に基づいて、雇用に関する決定をし始めている(Work in Progress,1996)。賃金補助制度(SWS)の正式な評価は、実施から3年後に行われる予定である。
また、SWSは以下のサービスを提供している。

  • 職場での訓練への支援
  • 試用期間中、事業主による最低、週45ドルの賃金の支払い。12週間までの試用期間 の後、評価がなされる。この期間中、多くの労働者は同時に障害年金を受けることに なる。
  • 新たな障害者賃金補助(DWS)制度を利用できる人のための所得支援
  • 仕事に就く上で必要な費用を援助するために、就職支度金として300ドル
  • 職場に必要な改造費として、5,000ドルまでの資金援助

移動手当
訓練中の障害者又は週に最低8時間働いている障害者で、介助なしに公共輸送機関を利用できない人(さらに過去2年以内に車を購入せず、かつ売上税の控除を受けなかった人)に、移動手当を交付される。移動手当を利用している障害者の数は、1991年11月の1万3,462人から、94年6月には2万943人に達している。手当は、2週間につき、51.50ドルである。
補助器具・装置
売上税(控除・分類)法、別表1の135A(1)の輸送提供項目は、一定の公共輸送機関を利用できず、かつ、「有給雇用」されている障害者が新車を購入した場合に、売上税の控除を認めている。また、同法の項目42Cは、新車もしくは中古車の改造のために使用した物品に関する売り上げ税の控除を定めている。近年の改正により、売上税控除の対象となる物品が拡大され、障害者をもっぱら輸送する車の改造に使った物品も含まれるようになった。
就職支度金
障害年金受給者で、週に最低30時間のフルタイムの仕事を開始した者、または勤労所得が基準を超える者は、300ドルの雇用支度金を受ける資格がある。1993年7月~94年6月までの有資格者数は4,129人であった。なお、就職支度金制度は97年3月に廃止された。

事業主への支援

 一般賃金補助プログラムおよび特別賃金補助プログラムは、事業主への奨励策である。
一般賃金補助プログラム
ジョブスタートは、長期失業者あるいは不利な状況に置かれた人びとの募集・採用を促進するための主要なゼネラリスト・プログラムである。ジョブスタートは1991年に開始され、94年に(ワーキング・ネーション(Working Nation)イニシアテイブの一部として)拡張及び再編された。ジョブスタートは、補助金が交付される職業紹介の中で最大のものである。
障害年金(DSP)受給者で、裏書きされた活動計画(Activity Plan)とともに障害者委員会より紹介された者はただちにジョブスタートの資格を認められる。他方、障害者で連邦雇用サービスに登録された者は、4週間後に資格を認められる。
ジョブスタートの補助金は一時的であり、最低13週間から26週間まで支払われ、また、18カ月以上の失業者に対し、定職のために1,000ドルの一時払い金が支給される。公共部門及び民間部門を問わず、事業主は、補助金の交付期間経過後、少なくとも3カ月間、雇用を継続することを期待されている。補助金の割合は失業期間の長さによって異なり、また求職者の年齢や相対的に不利な点によっても異なる。成人に関し、フルタイムの職の場合、1995~96年には週150ドル~325ドルであった。事業主は賃金裁定額(又は雇用契約の賃金)を支払わなければならない。しかし、補助金は月に最低80時間のパートタイムの仕事に対し、比例的割合で支給することができる(又は障害年金受給者では、障害の程度や特徴により、少ない支給となる)。規定に柔軟性を持たせる試みとして、週20時間超過のパートタイムの仕事に対し、補助金が交付されている。しかし、これは障害を持つ参加者のごく少数の部分しか包含していない。
全国訓練生手当(賃金)は長期失業者、特に義務教育終了者を、公認の訓練を含む仕事に就かせることをねらいとしている。1994年より、プログラムはさまざまな訓練に補助金を交付している。補助金は、ジョブスタートに類似しており、事業主への訓練終了ボーナスを含めることができる。教育・雇用・訓練・青少年問題省(DEETYA)のオーストラリア訓練システム(ATS)は通常、12カ月間の訓練で、技能教育や成人教育の専門学校を通じた正規の職場外での集合訓練と職場での訓練とを組み合わせている。このプログラムへの障害者の参加率は非常に低い(Standing Senate Committee,1992)。
特別賃金補助プログラム
障害者見習い工賃金補助プログラムは、就職の用意ができた障害者で、見習い工になることを希望しており、かつ訓練の一部として基礎的職種のコースで学ぶ予定である障害者を支援している。このプログラムのもとで、事業主が連邦雇用サービス(CES)から紹介された障害者を引き受けた場合に、賃金の払い戻しを受けることができる。見習い期間中に補助金が交付され、また、訓練終了ボーナスの支給、職場改造や個別指導の特別の助力に対して助成金が支給される。連邦、州及び地方政府を含む全ての事業主が、このプログラムを利用する資格がある。
障害者作業経験プログラム(WEPD)の下で、障害者委員会から紹介された障害者の賃金に関し、3,600ドルまで完全に償還され(1995~96年の数字)、その場合、フルタイムの職については約12週間まで、パートタイムの職(週に最低20時間)については約20週間までである。事業主は、特別の器具の購入や必要な改造費等、追加費用のために障害者1人当たり、2,000ドルまでを償還される。
賃金補助制度に対する1995~96年度予算の配分は3億9700万ドル(約167,000カ所)で、うち1,600カ所はジョブスタート・プログラムに加わった障害年金(DSP)受給者であった。1996/97年度予算計画の下で、賃金補助制度は過渡的期間の経過後に解消され、新たな職業紹介事業の「単一資金交付区分」に入れられることが留意されなければならない。
1992年、プログラムに参加した障害者の23%がジョブスタート・プログラムに基づく補助された雇用に就いた。この割合は、93年には30%に増加し、さらに94年前半では33%に達した。障害改革パッケージ(DRP)における障害者(主として障害年金受給者)だけでも、ジョブスタート・プログラムの利用率はほぼ同様であり、また、20%以上が他の補助金プログラムである障害者勤労経験プログラム(WEPD)を利用していた。質的調査では、WEPDは障害者に関する教育・雇用・訓練・青少年問題省(DEETYA)プログラムの中で最も高く評価されていることを示しており、ジョブスタート・プログラムに移る前にWEPDを利用した場合、とりわけ満足できる結果をもたらすように思われる。このため、1994年にこれらの2つのプログラムは正式に結びつけられるようになった。
職場改造の補助金
教育・雇用・訓練・青少年問題省(DEETYA)プログラムに参加する障害者を採用した民間部門の事業主に対し、職場改造補助プログラムにより、1991年以降、5,000ドルまでの補助金が交付されている。この補助金は、障害者雇用のために不可欠な機器のリースや職場の改造費に利用されている。

保護雇用

 オーストラリアにおける保護雇用は当初、ボランティア団体や慈善団体が取り組んできた問題であった。次第に、さまざまな法案の通過により、保護雇用に対して直接、財政援助がなされるようになり、その条件は1967年保護雇用(支援)法に定められている。その補助金は、移行を奨励することをねらいとしていた。その後、1967年の法律のほとんどの規定は、1974年障害者支援法に包含されるようになった。
障害者サービス法(DAS)の下で、シェルタード・ワークショップやアクティビティセンターは、もはや補助金の対象となる公認のサービス機関ではなくなった。競争的雇用サービス及び援助付き雇用サービスの方が望ましいとみられるようになった。そして、1992年6月に終わる5年の過渡的期間が設けられ、その間にこれまでのサービス提供者が新しいサービス業務を転換できるようにした。1986年以後、シェルタード・ワークショップは段階的に廃止される予定であった。当時の連邦政府は新たな補助金を交付しなかったものの、もしシェルタード・ワークショップやアクティビティセンターが改善を見せた場合、それらの組織は再び補助金を受けることができた。そのねらいは、小規模の一般的オプションに転換させ、成人療法センターを自立した生活・訓練/コミュニテイー・アクセス支援サービス機関にすることであった。上記の過渡的期間は後に1995年まで延長され、次いで無期限となった。ほとんどのシェルタード・ワークショップの作業者は保護雇用手当(後に障害年金となる)を受けた。通常、保護雇用手当は奨励手当と共に事業者に交付され、事業者はそれらを賃金と一緒に作業者に支払う。
障害者サービス法(DSA)が可決されて以来、ここ数年、保護雇用サービスのメリット等は、激しい議論の対象になっている。1996年3月に誕生した保守的な新政権は、障害者に関連するいくつかの改革を発表した。最も重要なことは、政府がシェルタード・ワークショップを障害者に対する適切なサービスと見ていることである。一般雇用の選択に重点を置いた前政権と異なり、今や、支援サービス機関は障害者を保護的措置に紹介することができる。前政権は、シェルタード・ワークショップ内の「文化」を変え、規制する手段として、全国の障害者サービス基準を導入した。しかし、現政権はその基準があまりにも厳格すぎると見ており、基準の緩和に努めることになろう。

要約

 オーストラリアでは、障害者の統合に関する法的規定は、連邦及び州レベルの立法措置と密接な関係がある。人権・機会均等委員会法(1986年)の障害者に関する規定は、障害者差別禁止法(1992年)により補足されている。この障害者差別禁止法(DDA)は、連邦、州及び地方の政府、並びに民間部門での差別を包含している。DDAは募集・採用、職場での昇進、解雇、及び建物や構内へのアクセスを含む労働の全ての分野に関して定めている。人権・機会均等委員会が、DDAの遵守について監視している。ほとんどの州は、連邦レベルで実施されている法律に合致させる目的で、差別禁止法を定めている。州の機会均等コミッショナーに対して差別等に関する不服申し立てが行われ、ほとんどの申し立ては調停により解決されている。
一般雇用に関する法的義務には、単なる差別の禁止だけでなく、公平な雇用を目的とする州の機会均等法が含まれている。同様な雇用上の公平な措置は、連邦公共サービス(1922年公共サービス法)及び連邦法定機関(1987年EEO連邦機関法)内にも存在する。近年、公共サービス法は見直されており、政府は新たな、合理化された公共サービス法の導入に取り組んでいる。
失業の増大により、とりわけ仕事の経験のない障害者の就職や雇用継続が困難になっている。1996~97年度連邦予算で発表された一連の重要な政策変更は、労働人口全体に影響を及ぼしており、障害者への影響も予想される。これらの改革は、サービスの改善、より大きな選択範囲、並びに公共部門、民間及びコミュニティ部門のサービスの間に柔軟性を持たせようとするものである。
従来、障害者サービスの利用に関して不利な立場にあったグループに対し、多くの注意が寄せられるようになった。これらのグループは原住民のアボリジニー、トレス海峡の島民、非英語系の住民、精神障害者、及び高度の支援を必要としている人びとである。
障害の定義に関し、障害者団体と、州政府・連邦政府との間に論争がある。また障害の定義は省庁間でも異なっており、このため、どのグループを指しているのか、また障害の程度や種類により、プログラムが一連のニーズを満たせるかどうか、正確に判断することが難しい。障害者差別禁止法では、障害に関して非常に広い見方をしている。つまり、身体障害、知的障害、精神障害、感覚障害、神経障害、あるいは学習障害を含めている。また、障害者差別禁止法は、体内に病原菌(たとえば、エイズ・ウィルス)を持っていることによる差別を含んでいる。
雇用支援サービスは、2つの官庁によって実施されている。教育・雇用・訓練・青少年問題省(DEETYA)と保健・家族サービス省(DH&S)である。DH&Sは、専門の雇用サービスに補助金を交付しており、また、訓練プログラムではなく、実際の雇用に対する主要な補助金交付者である。他方、DEETYAは労働市場に関係しており、訓練及び勤労経験プログラムを実施している。そのプログラムには、ジョブトレイン、ジョブスタート、ジョブサーチ・アシスタンス、特別介入及びスキルシェアが含まれている。近年、ジョブトレイン等の訓練プログラムにあまり重点が置かれなくなり、代わりに、ジョブスタートや障害者勤労経験等の賃金補助プログラムに重点が置かれるようになった。
DH&Sは障害者の訓練プログラムではなく、実際の雇用に対する主要な補助金の交付者である。同省は、障害者にリハビリテーション・サービスを提供している連邦リハビリテーション・サービス(CRS)に関して責任を負うと共に、1986年障害者サービス法(DSA)に基づく専門の雇用支援サービスを行っている。DSAは専門の障害者サービスに関する主要な改革を行った。また、同法は障害者の雇用サービスとの関連で改革を促すことをめざしており、補助金交付の重点を、分離された保護雇用から、競争的雇用訓練・職業紹介(CETP)サービス及び援助付き雇用(SE)に移行した。
CETPサービスは、一般労働市場で就職するために、時間を限定した支援サービスを必要とする人びとを対象としている。CETPは、大部分が非障害者である職場で仕事を確保することを目的としている。さまざまなサービス提供者、すなわち、民間組織、公共機関及び慈善団体がサービスを提供している。SEサービスは、雇用を維持するために継続的支援を必要とする人びとを対象としている。この支援は集中的に行うことになろう。
障害改革パッケージによって、事業主及び被用者の双方に対し、さらに多くの奨励金(補助金)が交付されるようになった。補助金交付は、リハビリテーション、訓練及び労働市場プログラムを通じて、障害者が労働能力を最大限にすることを目的として開始された。障害改革パッケージの主要な要素には、障害年金受給資格の改正、プログラム及びリハビリテーションの実施場所の増大、並びに社会保障省(DSS)、教育・雇用・訓練・青少年問題省(DEETYA)及び連邦リハビリテーション・サービス(CRS)間の調整の改善が含まれている。省庁を超えた障害者委員会は、対象となった障害年金受給者がプログラムを利用できるよう助力している。
賃金補助システム(SWS)は、1994年7月に開始された自発的プログラムである。この賃金補助システムの適用を受けるためには、その労働者が障害年金に関する障害基準を満たすことを、社会保障省(DSS)は受け入れなければならない。これには最低、週30時間の完全賃金裁定額による労働ができないと評価されることが含まれている。障害者の仕事は、比例的割合による賃金裁定額を合法とする企業の規定によりカバーされなければならない。SWSは、雇用中の障害者の労働生産性を決定するために、全国的に一致した、特別の賃金裁定方法を使用している。また、SWSは、職場での訓練への支援、試用期間中に事業主による最低、週45ドルの賃金の支払い、新たな障害者賃金補助制度を利用できる人のための所得支援、及び職場に必要な改造費として、5,000ドルまでの資金援助を行う。SWSの下で障害者を引き受けた事業主は、雇用開始金として1,000ドルの支払いを受けることができる。
訓練中の障害者又は週に最低8時間働いている障害者で、介助なしに公共輸送機関を利用できない者は移動手当を支給される。
主流の賃金補助プログラムであるジョブスタートでは、最低13週間から26週間まで一時的な補助金を交付する。障害者委員会より紹介された障害年金(DSP)受給者及び連邦リハビリテーションサービス(CRS)に登録された障害者は、ただちに、又は4週間後にジョブスタートの資格を認められる。障害者勤労経験プログラムの下では、障害者委員会から紹介された障害者の雇用に関し、12週間~20週間までの賃金が完全に払い戻しされる。
障害者サービス・プログラムは、障害者の雇用を促進するために企業に向けた、いくつかの産業ベース・イニシアティブを包含している。首相が授与する「年間度事業主賞」は、国の基本方針として障害を持つ労働者やその事業主の存在を認めたものである。
障害者サービス法(DSA)の下で、シェルタード・ワークショップやアクティビティセンターは、もはや補助金の対象となる公認のサービス機関ではなくなった。競争的雇用サービス及び援助付き雇用サービスの方が望ましいと見られるようになったからである。しかし、1996年3月に誕生した保守的な新政権は、障害者に関連するいくつかの改革を発表した。最も重要なことは、シェルタードワークショップが障害者に対する適切なサービスと新たにみられるようになったことである。一般雇用の選択に重点を置いた前政権と異なり、今や支援サービス機関は障害者を保護的措置に紹介できるようになったのである。
オーストラリアの失業率は、1989~90年の6.2%から、94年に9.5%に上昇し、97年初めには8.7%になった。オーストラリアの障害者数は、約3,176,000人と推定されている(総人口の18%)。家族と一緒に住み、かつ年齢が15~64歳までの障害者の半分をやや下回る人数が、1993年の労働力人口(就業ないしは失業中)であった。これは非障害者の4分の3の割合である。オーストラリア統計局(ABS)の数字は、さらに123,000人が障害者サービス・プログラムの恩典を受けられると示唆している(うち、38,800人は失業中、57,700人は永久的に就業できず、また26,700人は労働力人口に含まれていない)。

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主題:
18カ国における障害者雇用政策:レビュー No.1
発行者:
ヨーク大学社会政策研究所 1997
発行年月:
1997
文献に関する問い合わせ先:
Publications Office Social Policy Research Unit University of York Heslington York YO15DD UK
Telephone:+44(0)1904 433608
Facsimile:+44(0)1904 433618
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