音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

ヨーク大学
SPRU

18カ国における障害者雇用政策
:レビュー No.10

パトリシア・ソーントン、ネイル・ラント

ヨーク大学社会政策研究所

Patricia Thornton and Neil Lunt
Social Policy Research Unit
University of York

ILO                                  HELIOS


アメリカ合衆国 1)

政策と制度的情況

障害者政策と法律

1996年にクリントン大統領は、「我々は、障害者に関する国家的政策を3つの簡単な信条、すなわち、除外でなくインクルージョン(包含)を、依存でなく自立を、温情でなくエンパワーメントを、に基づいて作りださなければならない」と述べているが、雇用は、インクルージョン、自立、そしてエンパワーメントの達成にとって軸になるものと考えられる。実際、障害者雇用に関する大統領委員会の第49回年次会議でのスピーチの中で、クリントン大統領は「雇用は、アメリカ人の経済保障にとってカギである・・・障害者の3分の2の人びとが失業しているというのは今日的な悲劇である・・・そして、このような状況を変えるのは、雇用主、労働者、障害者、そして政府を含む我々全てである」と述べている。これを受けて、連邦政府機関が障害者の失業状況を追跡する際の新しく改良した方策が導入され、また、1997年には障害を持つアメリカ人法(ADA)を強力に実行することが再確認されることになった。

労働市場政策

 公民権と自由企業制(free enterprise)とは矛盾しないというのがアメリカの政策での信念であり、それは次の言にみられるとおりである。

今日の問題は、公民権と自由企業制の対立ではなく、全ての人にとっての自由企業制に対立する、不当で誰も欲しない差別と依存なのである。差別と依存は、我々全ての家族の人間性を制約し、また、類別化することと恩義をきせることとによって我々全てを押しつぶすのである。障害を持つ我々は、福祉ではなく仕事を、訴訟ではなく仕事を、あわれみではなく尊敬が欲しいのである。我々は自由企業制に完全参加をしたいのである。(Justin Dart,ADA サミットでの演説,1992)

 生産構造の変化は障害者に重大な結果をもたらした。労働市場に多くの変化が起こった。すなわち、永続し安定した職業に就いている労働者の割合は下落し、パートタイムで永続しない雇用での人数が増加したのである。これらの多くの変化や、それらが労働市場における障害者の量的、質的な位置づけに与えた影響に関しての情報は不十分であると考えている人達もある。労働市場が変化している期間中は障害者は「緩衝群」を演ずることになると考えられ、人種的マイノリティの人びとと共に、障害者雇用は労働市場が変化に対応するための主要な手段の1つとなっているのである。(Yelin and Katz,1994;Yelin and Cisternas,1996)

アメリカの政策では、障害者を労働力へ統合する際に、主として競争的雇用を指向したうえで援助を付加するという方法を通じて行い、保護雇用は相対的に小さな比重とするよう意図されている。連邦政府が行う障害者の就労促進のためのほとんどの業務は、競争的セクターに向けたものである(GAO,1996d)。競争的雇用を目標とするサービスとしては、特に障害者向けに考え出されたものがある一方で、例えば職業訓練パートナーシップ法(Job Training Partnership Act)のように、労働市場の中での被不利益者に対する就労機会の促進を目的とした、連邦主導の幅広いサービスの一部として行われているものもある。

長期の疾病給付や障害給付―社会保障障害保険(Social Security Disability Insurance(SSDI))、補完的保障保険(Supplementary Security Insurance(SSI))―の受給者数の増加、そして、労働市場への復帰者数が少ないことに格別な関心が寄せられてきている(GAO,1996a)。障害者雇用政策の成功あるいは不成功と、障害給付の管理運営のために増大するコストとの関連性は大変に注目されてきている(Rupp and Stapleton,1995)。アメリカ会計検査院(General Accounting Office(GAO))の調査では、障害者を労働力に統合する目的で行っているこれらの社会保障プログラムと連邦プログラムとに注目している。

サービスを効果的にするための調整は特に重要と考えられる。それは、障害者は「不十分な職業訓練、通勤手段の欠陥、雇用での差別等、就労に対しての重複したバリアに直面することが多いため、就労を可能にするためには複数のプログラムからのサービスを必要とする。しかし、それぞれのプログラムは独自の利用資格を求めており、そこに利用促進あるいは調整のための効果的メカニズムが備わっていないため、応募者は利用資格を別々に整えなければならないことが多い」(GAO,1996d,p.3)からである。GAO は、雇用に焦点を当てたプログラムが26あり、さらに、関連するものが57あるとしている。GAO が批判する主な点は、これらの方策の有効性についての評価が、ほとんどないかまったくないことに対してである。Berkowitz(1996)の分析によると、連邦政府は障害者のニーズに対応するものとして117のプログラムを実施しており、1995年の推定コストは1,850億米ドルである。この費用のうちの90パーセント以上は保健と所得維持・援助に当てられている。

労働復帰を奨励し、推進するための社会保障給付には特別の関心が払われてきており、「SSDI と SSI は、障害者にとっての別格で永続する収入源とみなすべきではない。それらは、できる限り各人の経済的条件を改善するための踏み石として用いられるべきである」(SSA,1994)とされている。

障害者雇用政策の展開

 障害者を労働力人口へ統合するための連邦法には長い歴史がある。発展の初期においては、復員軍人に関する施策に集中する傾向にあった(例えば1918年のSmith-Sears 法)。1935年の社会保障法(P.L.74-271)は、一般市民の職業リハビリテーション訓練計画のための財源を初めて公認した規定であった。立法は徐々に、障害のある復員軍人に対する援助から、障害のある一般市民に対する援助へと進んできた。また、身体障害への関心から、あらゆる種類の障害への関心に移ってきた(Reed,1992年)。

アメリカには、1973年に始まり1990年の障害を持つアメリカ人法(ADA)で頂点に達する、公民権型の一連の法律がある。個々人は差別的な態度・行為から開放された時に社会に貢献できるのだという、アメリカ人に深く根付いた理想が ADA に反映されているのである(Bray,1992)。

社会保障行政で行う障害者プログラムは、ここ数年間ほとんど変化していない。しかし、民間セクター内では、障害関連の費用の総額は従業員費用のうちの6~12%を占めるということがわかってきたことに起因して、「障害管理」の手法が開発されてきており、これは大きな変化である(Hunt et al.,1996)。1970年代、1980年代の間に、実業界で障害コストへの関心が高まったため(Hunt et al.,1996)、労働者災害補償制度、その他障害管理プログラムが経営管理にとって重要な分野となってきた。

政策策定と実施

 障害者を労働力へ統合する目的で行う、法律の実施、プログラム、及びサービスには多くの連邦機関が関わっている。

  • 労働省は、雇用サービス、職業訓練パートナーシップ法、障害のある復員軍人の訪問援助プログラム(Disabled Veterans Outreach Program)、及び復員軍人雇用プログラムを担当する。
  • 社会保障庁(Social Security Administration)は、障害給付の支給(DI/SSI)及び障害者の就労を奨励する給付の各種インセンチブ(benefit incentives)の活用について担当する。
  • リハビリテーション・サービス局(Rehabilitation Service Administration(RSA))は教育省の一部門として機能し、雇用への準備と就労を援助するための国家政策の策定を担当する。障害者への直接的なサービスの提供は、主として州レベルへ任されている。州は連邦からの財源提供を受けるが、独自の施策として財源を上乗せすることもできる。
  • 復員軍人機関(Veterans Agency)は、障害のある復員軍人の職業リハビリテーション及び VA 年金を受給する復員軍人の職業訓練を担当する。
  • 教育省は、企業との連携プロジェクト(PWI)を担当する。

アメリカ障害者委員会(National Council on Disability)(旧 National Council on Handicap)は大統領に任命された独立した連邦機関であり、障害者に関する問題について大統領、議会、及び RSA 局長に助言を与えるのが任務であるが、政策の見直しと評価にも関わる。

障害者の雇用促進は障害者雇用に関する大統領委員会の責任である。この委員会は、障害者の雇用機会の拡大のために共働する連邦、州、及び個人による公-民の協力事業である。その立場は独立した連邦機関であって、大統領のアドバイザーとして機能すること、及び、障害者雇用に関して雇用主その他の人が利用することのできる情報を提供することである。

障害の定義

 1973年のリハビリテーション法第505条により、「障害を持つ」者は以下のように定義されている。

(B)項に別段の規定のあるものを除いて、「障害者」とは、(1)主要な生活活動のひとつ以上を相当に制限するような身体的、又は精神的損傷を持つ者、(2)そのような損傷の記録を持つ者、又は、(3)そのような損傷を持つと見なされる者、である。2)

ADA の用語としての障害の定義も類似しており、「(a)個人の主要な生活活動の1つ以上を相当に制限するような身体的もしくは精神的損傷、(b)そのような損傷の記録、又は、(c)そのような損傷を持つと見なされている」である。障害の定義には、違法な薬物使用、同性愛及び両性愛、及び、性行動障害は含まれない。

統計

 アメリカには、障害者の数に関するデータは大量にある。しかし、障害の定義や調査方法の違いにより、障害者数の推定値は350万人から4,900万人にわたる(GAO,1996d)。障害関係の統計は、多くの保健統計や社会統計よりも遅れているという考えもある(障害者委員会,1996)。障害者数の情報を定期的に収集する全国調査はなく、また、上述のことから示唆されるように、合意された統一定義はない。表US.1は、1992年の、アメリカ家庭の年次健康聞き取り調査(annual health interview survey of US households)で損傷があると報告された人数である。

加えて、次のような報告もある。

  • 疾病対策センター(Center for Disease Control)は、施設に入所していない人口の1~2%の人が精神遅滞者であり、1,000人に2人が脳性マヒ者であると推定している。
  • 国立衛生統計センター(National Center on Health Statistics)は、アメリカにおいて約140万人が車椅子を利用していると報告している。
  • 学習障害に関する機関間委員会(Interagency Commitee on Learning Disabilities)は、議会への1987年の報告書において、人口の5~10%、すなわち、1,200万人から2,500万人が学習障害を持っていると推定している。
  • ボストン大学の精神障害者センターによると、250万人に長期の重度精神疾患があるという。
表 US.1 損傷を報告した人の総数
損傷の種類 損傷の種類 1,000人当りの人数
聴覚損傷 23,296,000 94.7
視覚損傷 7,525,000 30.6
言語損傷 2,285,000 9.3
関節炎 30,833,000 125.3
てんかん 1,174,000 4.8
四肢欠損(足指と手指を除く) 1,232,000 5.0
部分的マヒ又は完全マヒ 1,445,000 5.9
糖尿病 6,232,000 25.3
高血圧症 27,129,000 110.2
心臓病 19,307,000 78.5
腎臓問題 3,061,000 12.4
背中の損傷 17,308,000 70.3

出典:国立衛生統計センターによるアメリカ家庭の年次健康聞き取り調査。障害者雇用に関する大統領委員会により配布された1992年統計。

障害者の就業率

 障害者の就業率を算出する際には、それぞれの調査で用いた方法と定義に依存しなければならない。ADA の調査報告1991/2(1994年1月発行)では、障害者数は4,890万人で、そのうち就業者はたった1,430万人、全体のうちの重度障害者は2,410万人であった。

アメリカ国勢調査局(US Census Bureau)が行った就業年齢の障害者調査では、「家族の中に、仕事の量や種類を制約するような健康上の問題又は障害を持つ人がいるか」という質問が定義づけとなっている。この定義に従うと、1,464万8,000人が労働障害を持ち、そのうち425万484人が就業しており、1,039万7,000人が就業していない(1991年)。

多くの障害者は就労することを望んでいる。障害を持つアメリカ人に関するノッド・ハリス調査(NoD Harris Survey of Americans with Disailities)(National Organisation on Disablity のために行ったもの)では、職のない障害者の42パーセントは、就職希望があり可能であると述べている(GAO,1996d に記載)。1990年の国勢調査の数字によると、障害者で高卒未満の者は一般の2倍に近い;40%対21%。また、損傷のない者のうちの大卒以上の者は障害者の場合の2倍に近い;21%対9%(GAO,1996d に記載)。

最近の調査によると、若年の障害者の43%の者は高卒後の3~5年間就労しないままでおり、36%は卒業証書や資格をとらないでドロップアウトしている。そして、後期高等教育レベルの職業コースや教育コースへ進んでいるのは17%未満である(NIDDR,1994)。

雇用支援サービス

メインストリーム雇用サービス

 メインストリーム雇用サービス(Mainstream Employment Service)は労働省の援助で実施される。州-連邦型の雇用サービスでは、障害者に特別な留意をしなけらばならず、地域事務所には最低1人の障害者援助担当者を置かなければならない。1994年にこのサービスで援助した障害者数は62万5,133人(雇用サービスの全クライエントの3.3%)であった。

職業リハビリテーション

 アメリカ国内の職業的サービスの財源は連邦政府が賄っているが、サービスの提供は主に州の責任である。職業リハビリテーション(VR)サービス制度は、1973年のリハビリテーション法第1章で規定されている。同法には、財源の使用、及び、サービスを優先して受けられるグループを明示する規定がある。Reed(1992)は、この法の名称から「職業」という語が省かれていることを指摘し、「初めて最重度障害者への援助の優先性、及び、シェルタード・ワークショップは競争雇用に入り得ない重度障害者の就労のための場という見方が確立された(p.401)」と見ている。

リハビリテーション法では、助成金基準に基づく連邦の負担配分(リハビリテーション施設の建設費用を除く)を定めているが、各州は連邦から配布される額の21.3%を分担することになっている(GAO.1996d)。同法では、連邦財源の配布を受けるためには、州の各運営機関は3年ごとの計画書を提出し連邦政府の承認を受けなけらばならないと規定している。種々の行政部門がリハビリテーション目的のための機関として数えられているが、そのうちの半数は人的資源省(Department of Human Resources)のような多岐の業務を行う機関内にあり、4分の1は州の教育部に属している。連邦政府が財源を提供している職業リハビリテーション機関は全部で80ある。全州のうちの半数には2種の機関があるが、1つは盲人又は視覚障害者向けのもので、もう1つがその他の障害者向けのものである。

1995年にこの業務に充てられた連邦資金は20億5400万ドルである(Berkowitz,1996)。このうちの90%がリハビリテーション法に基づくものである(Hearne,1991)。表US.2は、1990年以降の VR サービスに充てられた連邦の支出である。

表 US.2 連邦のVRサービス支出 1990-1995
VR予算
1990 1,524,677,000
1991 1,628,543,000
1992 1,783,530,000
1993 1,873,476,000
1994 1,967,630,000
1995 2,054,000,000

出典:教育省ウェブサイト(Department of Education Web site)(1996)

公共機関と民間機関の両方が職業リハビリテーションを提供している。公共機関は、その利用資格規準を満たす全ての人に援助を提供する。公共機関のサービスは、職場以外の場で受傷した障害者を対象とする傾向にあるが、営利でリハビリテーションを行う企業は、仕事中に受傷した労災補償加入者を対象とすることが一般的である。この場合、費用は基本的に保険業者により支払われ、サービスに対する要求は、労働者ができるだけ早く以前の仕事に復帰することができるように迅速なリハビリテーションを必要とする雇用主から出される。ソーシャルサービス局(Social Services Administration)は1994年3月に規則を改正し、VR 機関が4カ月間取り上げなかったケースは民間セクターで取り上げられるようにした(Berkowitz,1996)。州の雇用サービスは就労経験を持つ者にも適用されるが、この場合、州職業リハビリテーション機関と非常に緊密に協力する。

州が行う職業教育のための基本的助成金(Basic State Grants for Vocational Education)に関連する多くのプログラムがある。例えば、1994年には、特別プロジェクト・デモンストレーション事業(Special Projects and Demonstration Efforts)として、援助付き雇用に関する11の新しい助成金と87の継続プロジェクトに資金を出している。その他に、アメリカ先住民(Native American Tribes)の職業的サービスのための連邦助成金も出されている。兵役中に、又は兵役の結果として障害者となった者には、復員軍人省がリハビリテーションを提供するのが普通である。これについては後述する。

サービス
VR 資金を出せるサービスには以下のものが含まれる。

  • 職業訓練
  • 評価
  • カウンセリング
  • リハビリテーション期間中の生活費
  • 介助費
  • 職業紹介とリハビリテーション支援機器費用
  • 自営事業の運営費の援助

職業リハビリテーションを受けるためには、クライエントは最初に、自分自身の意志か、又はソーシャルサービス機関からの紹介によって申し込みをしなければならない。州職業リハビリテーション機関は、どのような紹介元からでも受けるし、障害のために職業レディネスに欠ける高校生又は高校卒業生へのサービスも行う。VR プログラムへの受入れには、医学的に証明された身体的又は精神的損傷を持つこと、その損傷が職業上のハンディキャップとなっていること、及び 、そのハンディキャップは適切な援助の提供によって緩和できること、が必要とされる(Dean and Dolan,1991)。

個人の適性、能力、態度の評価が、州内で行われる職業リハビリテーションプロセスの第1段階である。この結果は、リハビリテーション計画の策定に必要な情報として提供される。リハビリテーション計画には、理学療法、作業療法、言語療法、聴覚関連サービスも含まれる。

VR プログラムの重点は、より重度の障害者へのサービス提供に置かれており、サービスを受ける人の約70%は重度障害者である(RSA,1991)。サービスは、個人がその能力いっぱいのレベルで有給就労をできるように準備することに向けられる。

州機関はワークアクティビティセンターも提供している。そこでは、保護雇用、職業訓練、又は過渡的雇用へ向けた準備が焦点となっている。シェルタード・ワークショップは、通常の職場のものと類似の条件の下で報酬のある仕事に就くことができるようにするところである。過渡的雇用センターは、通常雇用に最も近いものである。

RSA の統計によると、州機関では1991年に20万2,831人を「社会復帰」3)させたが、これは1990年より6.1%の減であった。VR プログラムで援助した総数は94万1,771人であった。「社会復帰」したと考えられる者の大多数(88.2%)は州機関が外部機関から購入したサービスを受けた者であり、クライエントの半分近く(48.1%)は州機関から直接サービスを受けた者であった。

どのようなタイプのサービスを受けたかの情報が最も整っているのは、1991年に社会復帰に成功してサービスを終了した20万2,831人のクライエントに関してのものである。応募から終了までの平均期間は22カ月であった。サービス提供に要した各機関の経費は、成功者1人当たり平均2,518ドルであった(1988年には1,573ドル)。これら成功者の94%の者は評価サービスを、54%は職業訓練、適応訓練、職場内訓練(OJT)を、40%は治療的サービスを、さらに、34%は職業紹介サービスを受けていた(Barnow,1996に記載)。

VRの効果
VRサービスが効果的か効果的でないかは、大変に注目される問題である。GAO は VR の成果について、障害給付を受けている者1,000人につき成功した者は年平均たった1人であると述べ、大変厳しい見方をしている(GAO,1996a)。VR サービスで用いている成功の基準―最低60日間は職を継続しなければならない―は不十分と考えられている。このような批判的な見方に同調して他の論者も次のように述べている。「DI の引退年金の資格に該当すると宣言された後にはその人をリハビリテートさせることができない・・・ことは近代的障害者政策の大きな欠点である」(Berkowitz and Dean,1996,p.223)。

Hearne(1991年)の報告によると、VR プログラムに参加した者は、プログラム費用1ドルにつき5.55ドルの生涯収入(lifetime earnings)を得ており、また、職業リハビリテーション費用1ドルにつき、税ベースで11ドルの貢献をしたという。しかし、このサービスは他の誘導、支援システムと統合がとれていないため、利用資格基準の難しさ、管理の複雑さ、長い待ち時間等があって問題を残している(Hearne,1991)。州の政策が紹介元を限定していること、また「クリーミング(creaming、うわずみを取る)」があるということに対する批判もある。各機関はサービス実施後に最大の効果を示しそうな者をクライエントとして選択するという問題があるというのである。このことは、より重度の障害者にサービスを提供するという目的と矛盾するし、長期失業者が不利な立場に置かれることにもつながる(Dean and Dolan,1991;GAO,1996a)。州の紹介プロセスを監視する方法が欠けていること、また、経費返還システム(reimbersement system)は、VR 機関が諸給付の受給者を積極的に受け入れる方向へ向けて効果的には働いていないことが際だった問題である(GAO,1996a)。他の連邦-州プログラムと同様、職業リハビリテーションではかなりの裁量が州職員に任されているのである。

復員軍人へのリハビリテーションプログラム

復員軍人庁(VA)は、サービスを要する障害者復員軍人で、資格・権利に合致する人に対しての特別な職業訓練、リハビリテーションサービスを提供している。このプログラムに入るほとんどの人は、大学、技術学校、その他の教育機関へ入って職業訓練や技術を取得している。これらの人は、ある種の職業についての一般的要求レベルは満たしているが、雇用就労を始めるのに必要な特定領域の技能、訓練、就労経験には欠けている。このような場合には、その復員軍人が付加訓練を受けるか、あるいは職業経験を積む期間の給与の半分までを VA 庁で支払うことができる。通常、訓練あるいは経験のための期間は9カ月以内である。

VA 庁はまた、ある人が適性、能力を示し、肉体的能力の範囲内にあるような職業について OJT を実施することができる。OJT に許される期間は6カ月から4年である。この訓練期間中、雇用主は、非復員軍人で同じ職務の訓練を受けている人と同額の給与を支払うが、VA 庁は、訓練生給与と通常給与との差を少なくするよう月額補助を支給する。

さらに、VA 庁は、訓練生が職務に就いた時によりよく働けるようにするため、道具とか器具とかの種々の物品、サービスを提供する。こうすることは、雇用主が妥当な環境整備(reasonable accommodation)を行う場合の助けにもなる。復員軍人がサービスを受けている期間中は、通勤援助、視覚障害のある復員軍人への朗読サービス、聴覚障害のある人への手話通訳等の特別サービスも提供できる。1995年には、2億9,813万2,000ドルが連邦から戦傷者職業リハビリテーションへ支出されている(Berkowitz、1996)。1995年には、4万8,000人の戦傷者が職業リハビリテーションサービスを受けている。

その他の専門的サービス

盲人に対するサービス
VR プログラムとしての売店設置プログラム(Randolph-Sheppard Vending Facility Program)はランドルフ・シェパード法によって裏付けられたもので、VR 財源を使っているが州の VR 機関とは別に設立されたものである。このプログラムには2,670万ドル(第110条資金)が充てられている。この施策は、連邦その他の建築物の中で売店を運営することを通じて盲人に収入のある就労を提供しようとするものである。1991年には、3,513人の盲人が3,337カ所の売店を運営した。平均収入は2万4,331ドルであった。このプログラムには、1936年の開始以来2万2,000人の盲人が就労している。1991年には、420人の盲人が売店主となるための訓練を受け、218人が免許を受けた売店主として配置されている。

移民者とアメリカ先住民
その他の特定障害者への専門的プログラムとしては、障害のある移民及び季節的農業従事者へのものがあり、また、連邦・州設定の居留地に住む障害のあるアメリカ先住民に職業リハビリテーションサービスを提供するプロジェクトへの援助を目的としたものがある。

重度障害者
OECD(1992)は、専門的知識を持つボランタリー組織がサービス提供に積極的である傾向があることを報告している。1つの例が全国精神遅滞者 OJT プログラム協会(National Association of Retarded Citizens On-the-Job-Training Program)である。これは、OJT 期間の最初の180時間分について新規採用者給与の半額を負担し、続く180時間については25%を負担するものである。利用資格は、IQ が80以下の「精神遅滞」があること、16歳以上であること、7日以上の失業期間があることである。訓練する職業の条件は、永続するもの、フルタイムのもの、最低賃金以上の給与のものであることである(障害者雇用に関する大統領委員会,1992)。

重度障害者職業リハビリテーション特別プロジェクト・デモンストレーション事業(Special Projects and Demonstrations for Providing Vocational Rehabilitation Services to Individuals with Severe Handicaps)には、1995年に1,990万ドルの連邦資金が支出されている(Berkowitz,1996)。このプログラムの目的は、州その他公・私機関が、重度障害者を対象として、年齢、職業的潜在性を問わずに、職業的その他のリハビリテーションサービスを拡大あるいは向上させようという際に財政的援助をすることである。

若年者
青少年障害者の職業移行に関する全国同盟(National Transition Alliance for Youth with Disabilities(NTA))は、1995年10月に、教育省、学校から職業への移行全国事務所(National School to Work Office)、労働省の3者による協同事業として設立された。趣旨は、障害を持つ若年者が学校教育終了後に、有給の就労あるいは後期中等教育・訓練、自立生活等の中で希望する方向へ移行することの促進である。TNA の目的は以下のとおりである。

  • 移行サービスと成果を向上させること
  • 州が、学校から職業への移行について効果的に計画・実施できる能力をつけること
  • 障害を持つ若年者の援助に関する整備された機構、方針、手続きの重要性を認識した統一性のある体系を構築すること

 NTA では、学校-職業移行機会システム(School-to-Work Opportunities Systems)に関する計画・実施に係わる職員と、広範多種のモデルプログラムとの橋渡しをするための技術的援助をしている。その中には、特殊教育・リハビリテーション部(Office of Special Education and Rehabilitation Services)が資金援助したものもある。

連邦職員
人事管理庁(Office of Personnel Management)は選択的配置プログラム(Selective Placement Program)を担当し、連邦職員で障害者となった者の配置、連邦職員としての障害者採用に際して、連邦諸機関を援助する(GAO,1996d)。

援助付き雇用

 保護雇用という考え方への反論が出て、それに代わるサービスモデルとして援助付き雇用を発展させることが奨励されてきた。雇用と訓練に向けた革新的な打開策を必要とする重度障害者が増加してきたことも、援助付き雇用が発展した要因である。援助付き雇用が最初に公式に定義されたのは、1986年のリハビリテーション改正法(P.L.99-506)によってであった。この法により、州が重度障害者のための援助付き雇用を創設・実施する際にはそれを援助するための助成金が出ることになった。この法ではまた、援助付き雇用の方法には種々のタイプがあることも定義づけている。

援助付き雇用は、競争的であって有給の労働を、他の従業員と一緒の職場の中で行うもの、かつ、その職場では、従来では競争的雇用に入れなかった人のための継続的援助が提供されるもの、と定義づけられる(Konig and Shalock,1991)。このような援助は、雇用が安定するまでの間、長期又は有期ベースで必要なものである(Hearne,1991)。1987年以降、援助付き雇用のプログラムは、リハビリテーション法に基づく連邦からの財政援助を得られるものとして位置づけられている。

障害者雇用に関する大統領委員会では、3種類の援助付き雇用をあげている。

  • 個人配置:キーとなる特徴は、個人は他の従業員と一緒の職場に配置され、ジョブコーチからの継続的な訓練と権利擁護サービスを受けることである。
  • エンクレーブ:このモデルでは、障害者は小集団を構成し、特別訓練又は作業援助を受けながら会社の中で就労する。
  • 移動作業班:このモデルのキーとなる特徴は、作業者は1つの共通目的を持った小集団を構成し、種々の違った場所へ出かけて就労することである。

プロジェクトと財源
援助付き雇用の資金に充てられる財源は種々ある。第1に、州は1973年のリハビリテーション法第1章に基づく基本的な職業リハビリテーションプログラム財源から支出できる。1990年に州のリハビリテーション機関は、これに基づく援助付き雇用の費用として約3,500万ドルを支出している。1986-7年には、いわゆる転換助成金(change grants)が出されたが、これは援助付き雇用の発展に相当な影響を与えた。第3章連邦財源の中から907万9,906ドルが重度障害者援助付き雇用特別プロジェクト・デモンストレーション事業(Special Project and Demonstrations for Providing Supported Employment Service)のために割り当てられ、州デモンストレーションプロジェクト(Statewide Demonstration Project:シェルタード・ワークショップを援助付き雇用に転換する目的の17プロジェクト)と地域に根ざしたプロジェクト(Community-Based Project:革新的実践を奨励する目的の12プロジェクト)に支出された。

別の主要財源としては州援助付き雇用サービスプログラム(State Supported Employment Services Program)第4章(c)財源があり、これのために1995年には3,653万6,000ドルが連邦から支出されている(Berkowitz,1996)。この定式的な助成金制度(formula grant programme)は、州機関が公的又は非営利民間団体と協同のプログラムを作って実施する際に財政援助をするものである。この制度の意図は、州機関が、重度障害者に対して従来からあった期間限定の就職後サービスを、援助付き雇用への導入として提供できるようにすることである。この場合、州機関の責任は、プログラムの管理をすることと、民間資源その他公的機関との間で協力契約書あるいは覚え書きを作成することである。この文書は、それぞれの機関がサービスを拡大して長期間の職業的援助までを行うように保証するためのものである。援助付き雇用の利用資格基準の1つは、その個人は強力な長期の職業的援助がなければ独自ではメインストリーム雇用サービスに乗る力がないことである。例としては、ジョブコーチの強力な援助を必要とする場合があげられる。

その他の援助付き雇用財源としては、州の通常予算(general state revenue)(連邦からくる財源に対応する州負担分を含む)がある。また、精神遅滞・発達障害機関用予算、精神保健機関用予算、メディケイドや教育用予算から来る財源もある。

1985年の開始以来、援助付き雇用は州-連邦型職業リハビリテーションプログラム中の不可欠な部分に成長してきている。援助付き雇用の実施状況に関する調査(ヴァージニア・コモンウェルズ大学,1991)によると、1990予算年度に約7万人が各地方の援助付き雇用プログラムを通じてサービスを受けていた(教育省の国立障害・リハビリテーション研究所(National Institute on Disability and Rehabilitation Research)、数カ所のリハビリテーション研究・研修センター(Rehabilitation Research and Training Centers)、1993-1994予算年度へ向けた優先財源提案の資料から)。1994年の資料(Bennie,1996に掲載)では、110,000人が援助付き雇用を利用したという報告がある。

評価
これらのプログラムの成果に関する実証資料は整ってはいない(Hearne,1991)。500以上の機関に関する1989年の調査では、援助付き雇用での就業者の73%は世間並みの給与を受けていた(Hearne,1991)。援助付き雇用は、精神科的障害あるいは重度の知的障害を持つ人のニードに応えている。Goldbergら(1990)は、発達障害者に対するシステムとしての援助付き雇用と従来からの保護雇用とを比較し、保護雇用にいた者よりも援助付き雇用にいた者の方が、競争的労働市場の中ではるかにうまくやっていたと結論づけていた。

Revellら(1994)は、国全体のプログラムと州が行った援助付き雇用の結果の資料とを検討している。1991年にこのプログラムに参加したのは7万4,960人であった。援助付き雇用された全数の中で、精神保健(mental health)、精神疾患の者がそれぞれ62.8%、22.2%を占め、視覚損傷と聴覚損傷とで3.1%、脳損傷2.1%であった。彼らの時給の平均は4.45ドル、週給の平均は111.44ドルであった。VR 資金の総額は7,486万404ドル、VR 以外の資金は1億6,016万4,338ドルであった。NIDRR(1993)によると、もっと重度障害者へ向けた努力が必要だという批判があるという。重度障害者はたった12.2%しかいなかったのである。

プログラムの有効性を見る際に関連情報が欠けているのは大きな問題である(GAO,1996d)。例えば、援助付き雇用サービスの提供者は、プログラムへの参加状況と最初の配置状況の詳細情報は求められるが、18カ月期間以降の追跡までは求められていない。これでは、訓練と雇用との関連の長期的評価を行うのは困難なのである。

援助付き雇用に関するその他の批判としては、連邦の財政負担のしかたが限定されている(limited nature of federal financing)というものがある(GAO,1996)。財政援助は主に2種のルートを通じて行われるが、1つは州のプログラムを援助するものであり、もう1つはプロジェクトに直接渡されるのである。また、州によっては保健サービスを通じての財源も受けている。

企業との連携によるプロジェクト(PWI)

 PWI は、雇用の促進と、障害者の未開発の可能性発揮の促進とを目的として、企業、産業、及びリハビリテーションサービス機関間に連携関係を与えようとするものである。RSA が述べているように、「PWI の目的は、企業、産業、労働者、及びリハビリテーション領域の間に独自の提携関係を作ることであり、最終的には、障害者を競争的雇用に導くことである」(1991,p.102)。これは、競争的労働市場における障害者の就職機会の創出と拡大を目指しているのである。

PWI は、障害者の雇用機会を増大する作業に、民間セクターをパートナーとして関わらせている数少ない連邦業務の1つである(GAO,1996d)。

PWI は3つの必須要素で構成されている。すなわち、民間部門とのつながり(諮問委員会の形で)、訓練場面(リハビリテーション施設)、及び障害者の送り出し元(通常は州VR機関)である。PWI では、多種多様な職業上、教育上の背景を持つ身体的、精神的障害者のさまざまなグループの雇用ニーズを満たすように、広範囲のサービスを設定して提供することになる。各プロジェクトは、法によって企業諮問委員会(Business Advisory Council)を持たなければならないことになっている。

サービスの方式はさまざまであるが、通常は、評価、カウンセリング、訓練、職場開発(job development)、職業紹介を含んでいる。助成金は、雇用主、州職業リハビリテーション部門、公私機関へそれぞれ支給される。

1973年、1978年、1984年〔訳注:1986でないか〕に種々の法改正がされている。この制度の設定以来、例えば、州職業リハビリテーション機関が資金供給を受けられるようになった等、多くの変更がされている。また、PWI 助成を受ける者が、自分で事業運営を見直し評価するのを援助する評価基準も導入されている。

1986年の修正が目指したのは、「障害者の競争的雇用への機会の推進、適切な職業紹介の提供、民間産業の能力と指導力をパートナーとしてリハビリテーション過程に活かすこと、職業レディネス養成、職業訓練のための実地場面を作ること、そして仕事の機会を見つけ、障害者が競争的雇用に備えて能力を獲得するために必要な技能と訓練を提供する際に民間産業の参加を確保すること」であった。

1991年には、1万3,000人以上の障害者が競争的雇用に入り、推定収入週平均205ドルを得ている(RSA,1991)。

職業訓練パートナーシップ法基金

 1981年の職業訓練パートナーシップ法(JTPA)(P.L.97-300)は、民間産業の中に障害者の雇用の場を配置する意図を持っている。法の目標は、労働市場の中で「経済的不利益」を被っている者を訓練し就職させることであった。これは、公共部門と民間部門の合同事業であって、プログラムの実施は各州の知事部局が担当することになっている。JTPA は、連邦最大の職業紹介及び訓練の制度である。

この制度は、特に障害者を対象としたものではなく、所得規準に該当する者がサービス利用資格を有する。加えて、JTPA サービス受益者の10%までは、同法が意味する経済的被不利益者ではなくても雇用に対する障壁に遭遇したことがある者であってよいことになっていて、これに障害者が含まれるのである。障害を持つ成人(22才以上)や若年者(16才から21才)であっても、連邦、州、又は地方の福祉制度が設定した規準と定義に合致している時には経済的被不利益者とされる。JTPA では、職場内における OJT を設定でき、この制度の利用資格のある各従業員につき、最初の6カ月の賃金の50%を雇用主に払い戻すことができる。

この制度では、新規採用、労働技能に関するカウンセリング、OJT、労働習慣体得のためのプログラム、教育から労働への移行援助、補助金なしで就職した者へのサービス提供、及び個別の訓練/再訓練計画の作成等、28種のサービスを提供できる。雇用主との合意事項は、訓練生は永続する常勤職に就かせるという意図で雇用されることである。障害者に給付される JTPA 資金のほとんどは、軽度と中度の障害者を地域での職場に就職させるために使われてきている。

労働省によると、1993年に約48万1,600人がこのプログラムを終了しているが、その14.2%が障害者であった。就職が安定した時点での障害者の稼得は、非障害者のものと比較すると平均6.5%低いものであった。

一般雇用:法的義務と権利

 1964年の公民権法(公法88-352)の第4章では、人種、肌の色、又は国籍による差別を禁じているが、障害者(差別)については禁止していない。しかし、この法律は、障害者の完全な公民権獲得を援助するための後日の立法モデルとなった。

1973年リハビリテーション法

 1973年リハビリテーション法は2つのことを推進した。まず、前に略述したように、この法律は障害者と(一般)労働力に対するサービス提供の法的基盤となっている。2番目に、連邦政府職員中の障害者の権利を取り上げている。事実、障害者の権利について記述したのは1973年のリハビリテーション法が初めてである。この法律の種々の条文で、連邦政府自体の機関(501条)、連邦政府との契約企業(503条)、連邦政府からの財政的援助を受けている機関(504条)内での、他の点では有資格な(otherwise qualified)者に対する差別を禁止している。

これらの規定は全ての連邦機関に適用され、連邦政府の各行政部門の長は細則を制定するよう求めている。しかし、最初の施行細則ができたのは、やっと1978年になってであった。各規定の性格は以下に詳述する。

第503条:連邦政府との契約企業での雇用
第503条は、連邦政府と2,500ドルを超える契約を結んで取引している全ての雇用主に対して、障害者雇用に関して差別撤廃措置(affirmative action)をとるよう求めている。

連邦との契約者はまた、有資格の障害者の身体的又は精神的な制約に対して妥当な環境整備4)をすることも求められている。これは、連邦機関との直接契約、及び主契約者から出される下請契約にも適用される。連邦政府と5万ドル以上の契約があり、従業員数50人を超える雇用主は、各事業所ごとに文書にした差別撤廃措置計画を作成、実行、継続しなければならない(RSA,1991)。

労働省内に置かれている連邦法遵守プログラム局(OFCP)(Office of Federal Compliance Programs)は、同法の第503条を施行し強制する責任を持つ。OFCP は、全国に配置する10カ所の地域事務所を通じて業務を行っている。OFCP は、法第503条、及び後述の障害を持つアメリカ人法に関する不服申し立て機関として、平等雇用機会委員会(Equal employment Opportunity Commission)を指定している(RSA,1991)。1991年には、918件の不服申し立てに対して第503条の規定に基づく調査が実施されている。

第501条
第501条9(b)は、「全ての連邦機関に、障害者の雇用、配置、及び昇進における差別撤廃措置のための計画の提出を求めている。」(1973リハビリテーション法)

これは、連邦自身が雇用主の模範を示さなければならないという考え方である。しかしながら、当初は雇用主としての連邦機関を対象とする504条はなく、差別は違法とはなっていなかった。障害者を障害に基づく差別から保護できるようになったのは、後に法改正がされてからのことである。

第504条:連邦政府の援助に基づく、及び連邦政府が実施するプログラム・活動における非差別
リハビリテーション法の第504条の可決が、障害者の雇用関連問題に議会が取り組んだ最初であった(Morin,1990)。第504条は、連邦政府から財政援助を受けているあらゆるプログラム又は活動での、「その他の点では有資格」の障害者に対する差別を禁じている。これには、障害のある就職申し込み者及び従業員に対する雇用主の責任に適用される詳細な基準がついている。これらの細則では、雇用主に対して、「その他の点では有資格」の障害者のための「妥当な環境整備」により、あるいはよらないで、障害のある就職申し込み者又は従業員が職務に「必須な機能(essential functions)」5)を果たす能力があるかどうかを見きわめることを求めている。妥当な環境整備とは、障害を補うあらゆる機械的、電気的、又は人的工夫のことである。第504条に基づき、「不当な難儀(undue hardships)」をもたらさない限り、雇用主は環境整備をはからなければならない(Morin,1990;Tucker and Goldstein,1991)。

同法のこの条は、司法省公民権部(Civil Rights Division of the Department of Justice)により扱われている。同部は、提案された全ての公民権規定の一貫性、妥当性、及び明確性について検討し、連邦機関が適切な細則を制定するよう援助する。

法の執行
平等雇用機会委員会(EEOC)は、連邦政府の障害者雇用に関して、非差別と差別撤廃措置の執行についての責任を持つ。障害者雇用に関する機関間委員会(interagency committee on employment of people with disability)は、行政部門内の連邦諸機関が、障害者の雇用、配置、及び昇進に関する連邦法令に確実に従うようにするため、EEOC と協力しこれを援助する責任を持つ。

1973年リハビリテーション法は重要な一歩ではあったが、大多数の民間雇用主が行っていた障害者差別に対する防止策がなかった点は、明らかにこの法律の限界であった。また、この法律の中の多くの用語について厳密な定義づけがなかったために、長い訴訟手続きの道が開かれてしまった。この法律の効果を考察するに当たって、Tucker と Goldstein(1991)は「まず最初に「妥当な環境整備」と「差別撤廃措置」とは区別しなければならない」と考えている。差別撤廃措置は、過去の差別の矯正を目指しているものであり、雇用主及び制度管理者に、積極的に障害者を雇用し受け入れることを要求するものである。しかし、第504条には差別撤廃措置の要求は含まれていない。むしろ第504条は、単に「雇用主及び制度管理者は、既存の障壁をなくすために障害者に妥当な環境整備をする」ことを求めているだけである(p.100)。

Kim(1996)は連邦政府内の障害者の雇用と昇進について調査し、格付け(grade)、地位(level)、採用と昇進状況を明らかにした。その結果、連邦職員の全体数は減少してきているが雇用障害者数は増加してきている、また、障害者は概して格付けの低い職位に就いており専門的、管理的職位に就く傾向は低いと述べている。結論として、「連邦政府内の障害者職員の数は徐々に増加しているが、職業上の昇進が均等化に向かっているという明らかな現象は見られない(p.82)」と述べている。非白人であるか低教育経験の障害者の場合は特に不利な状況にいる。

障害を持つアメリカ人法(P.L.101-336)

障害を持つアメリカ人法(ADA)は、1990年7月に可決された。この法は、1973年リハビリテーション法の短所のいくつかを修正することを目的としたものである。

アメリカ障害者委員会(National Council on Disability)は1986年と1988年に報告書を出して包括的な公民権法を勧告したが、これが転換のはずみとなった(Morin,1990)。ADA は、雇用問題、物品やサービスへのアクセス問題を含む種々の領域を扱う包括的方策であるが、雇用問題に関する第1章が同法の中心部分を占めている。

ADA の第1章は、1973年リハビリテーション法第504条に欠けている面を取り上げ、障害者に対する雇用差別の違法性を民間部門にまで広げている。第1章には、第504条の法文の用語、及び同節を施行するための規則用語との一貫性が備わっている。また、1964年公民権法の第7章の用語を借りることによって、差別を防止するために強制してよい基準も定めている。ADA では以下のように述べている(ss.107):
「1964年公民権法...に述べられた権限、救済、及び手続きは、平等雇用機会委員会、司法長官に対して、又は、本法の規定もしくは雇用に関する第106条に基づき公布された細則に違反しているとして障害に基づく差別の申し立てを行う者に対して、本章が定める権限、救済、及び手続きであるものとする。」

ADA の3条(2)の障害の定義は、1973年リハビリテーション法の7条(8)(B)にある定義を引き写したものである。議会は、ADA の実体上の枠組みをリハビリテーション法の第504条に模し、手続き上の枠組みは1964年公民権法の第7章にならったのである(Gannon,1991)。

ADA の適用範囲は、雇用主、職業紹介機関、労働団体及び労使合同委員会である。そして、1994年7月からは15人以上の従業員を雇用する全ての雇用主に適用されている(1992年7月から1994年7月までは25人以上の従業員を有する雇用主に適用)。EEOC の推定では、労働力全体の86%に当たる8,600万人がカバーされているという。

法の規定
ADA の規定に基づき、雇用主は、偏ることのない採用手続きと昇進規準を用いなければならず、雇用主に不当な難儀をもたらすことがない限り、現在分かっている障害者の制約に対して「妥当な環境整備」をはからなければならない。この規定は、公民権法7章及びそのモデルであるリハビリテーション法504条で定められた救済措置、実施手続きに権限を持つ EEOC により執行される。

公民権法7章では、雇用主は採用と昇進での差別が禁じられているが、ADA ではこれと異なり、雇用主は妥当な環境整備を図らなければならないとされている。

この法律が定めようとしている非差別的選考の基準には2つある。採用選考の手続きと、選考に当たっての焦点を応募者の障害に対してではなく適性と技能に当てることを確実にすることとである。この法では、種々の差別を禁じている。例えば、障害者を限定すること、隔離したり分類すること、差別的な契約関係を結ぶこと、差別を永続化する方法を用いること、障害者の関係者を差別すること、及び妥当な環境整備を図らないことである。このことは採用に関してだけではなく、全ての雇用関連の決定にも及ぶ。一方、雇用主は、必要な環境整備は何かを従業員に尋ねることが期待されている。

この法で定められたキーとなる定義は、妥当な環境整備、不当な難儀、必須の機能に関してのものである。

[妥当な環境整備]
ADA は、「妥当な環境整備」と考えることのできる多くの類型を定めている。

  • 車椅子使用者又はアクセスを困難にするような障害を持つ者に対する、職場施設の物理的配置の変更
  • 障害者が職務の必須な機能を遂行できるようにする職務の再設計
  • パートタイム、又は時間を変更した作業時間計画の作成(治療の必要があったり、疲労の問題を持つ障害者に対する環境整備の例)
  • 空席のある仕事への障害者の再配置
  • 設備、補助工具の整備や改造(聴覚障害者のための電話増幅器の購入など)
  • 試験、訓練資料、又は方針の調整と変更(例えば、失読症のある者に対する口頭による入社試験の実施、又は盲導犬をつれている人のための職場における犬の扱い方の方針変更等)
  • 視覚障害者や聴覚障害者のための資格のある朗読サービス者や通訳の供与

 環境整備が妥当であるかどうかは各事例の実状による。環境整備の際に求められる最も重要な点は、それが個別化されたものでなければならないということである(West,1991 p.8)。

Morin(1990)は、ADA と1973年リハビリテーション法との違いについて次のように述べている。「ADA の第1章は、環境整備の費用を埋め合わせるために政府資金を受けることのできない民間雇用主に適用される。しかし、リハビリテーション法の504条は、雇用主としての連邦政府、又は連邦財源を受ける雇用主に適用される。このため、どのような環境整備の費用に対してでも政府資金を支払ってもらえるという理由で、雇用主は504条の適用の方を喜んでいたのである。」

[不当な難儀]
ADA は、雇用主に著しい難儀又は費用を負荷するような行為を不当な難儀と定義している。これが実際にどのようなものになるかは、経営規模、施設、雇用主、経営形態、及び予算等の全ての状況による。不当な難儀と判断できるかどうかは個々の雇用主によって異なるため、裁判所がケース・バイ・ケースで決定する。すなわち、不当な難儀とは、雇用主と法の目的との関係の中で考慮される相対的基準なのである。

リハビリテーション法第504条が適用される連邦契約企業に関する1982年の調査によると、これらの企業ではほんの少しの費用か無費用で環境整備を実施していた。これは、ADA は重大な財政的負担を与えるという、民間の契約企業から出されそうな批判を抑えるのに役立つ結果である。

ADAに基づく就職申し込み過程
ADA の下では、就職申し込み者に尋ねることができる質問は制約されている。法の目的の1つは、労働市場への障害者の応募者を増加させることである(Gordon,1992)。ADAがやろうとしていることは、雇用主に対して、障害者の採用決定に当たっては障害がもたらすと思われる特定の制約の方を考えるのではなく、障害者個人の資質の評価に基づいて行うよう求めることを通じて、就職申し込み過程の中から障害者に対するステレオタイプな概念を排除することである。これには2つの方法がある。

第1は、雇用主が求人時に就職申し込み者の医学的状態に関する調査を行うことの禁止である。これにより、雇用主は、たとえ障害が明らかにあるとしても、申し込み書類又は面接で障害に関する質問をすることはできない。医学的調査を行うことのできるのは、採用の意思表示をした後の雇用の開始前の時期だけである。採用意思は試験時には伏せて置いてかまわないが、職務の必須機能との関係は明らかでなければならない。いかなる試験も職務の必須機能との関係が明らかでなければならないが、その試験は全ての人に対して適用されるものでなければならないし、結果は信頼できるものでなければならない。職の提供を撤回できるのは、妥当な環境整備をしても職務要件に合致しない場合だけである。しかし、申し込み者本人又は同僚の安全性を危うくするような類の職の提供は、してはならないという規定もある。

2番目に、ある人をある職位に就かせるかどうかを考慮する時には、その人がその職務の必須の機能を遂行できることが前提である。必須機能が何であるかは、その職務の機能を任せられる労働者数とか、誰に分担させ得るかによって異なる。雇用主は、水準を下げて資格のない応募者を雇い入れることを求められるのではない(Gordon,1992)。法は、職務での競争の中に特恵措置を設けることを求めているのではなく、「有資格者」という考えを重視しているのである。それが、「あなたは、環境整備を利用してでもしなくてでもかまわないが、この職務の必須機能を遂行できますか」という質問に結びつくのである。

救済措置
「1964年公民権法第705、706、707、709、及び710条で述べられた権力、救済、及び手続きは、本章が、平等雇用機会委員会、司法長官に対して、又は、本法の条項もしくは雇用に関して第106条に基づき公布された細則に違反しているとして、障害に基づく差別を訴える者に対して与えられる権力、救済、及び手続きであるものとする」(ADA)。

第7章に基づき、申し立ては訴えたい行為があってから180日以内に平等雇用機会委員会(EEOC)にしなければならない。差別の申し立ては、アメリカ全土の都市に置かれた EEOC の出先機関に連絡をすることによってなされる。EEOC はその後調査を行い、その申し立てが正当であると分かれば、雇用主にその行為を止めるよう命じる。EEOC の強調することは、常に、非公式に和解をしようとすることであるが、これが成功しないならば訴訟に持ち込むことができる。ADA が反差別法などの州法とどう関係するのかはさまざまであり、その影響力は各州において異なる。例えば、障害に基づく差別の救済に関する州又は地方の法律に規定がある時は、申し立てをするまでの期間として300日間までを与えられる。

裁判所は、雇用主が違法なやり方を行っていたことが分かった時は、雇用主にその違法な行為を止めさせる禁止命令を発することができる。裁判所はまた、従業員の復帰、雇用、その他裁判所が適切と考える救済を命じることもできる。

司法省は、州及び連邦政府の被用者に関しての ADA に基づく差別を調査、訴追するが、EEOC は民間部門の被用者に対する ADA ケースについて担当する。

ADA には若干の弱点がある。不当な難儀が生じそうであるならば企業は変更を拒否することができること、差別撤廃措置は障害者の自立を援助するためのものと位置づけられていないこと、ADA の利用法を熟知することは障害者及び援助者の負担となっていることである(Reed,1992)。

より根本的なことは、ADA は障害者が適切な訓練や教育を受けることを求めているのではないことである。すなわち、適切な教育、訓練、及び支援サービスの確立は、差別の根絶にとっての重要な要素であるとしているのである(West,1991,p.22)。

実施

ADA の手続きと義務についての情報提供に対する責任は、EEOC、障害者雇用に関する大統領委員会、及びアメリカ司法省が負っている。ADA の規定の理解を援助するための、多くの印刷物、データ表、及び電話サービスが用意されている。

大統領委員会の求人求職情報ネットワーク(Job Accommodation Network(JAN))は、1984年来、無料サービスとして企業及び個人に対する求人求職情報の提供をしてきている。1990年からは、そのサービスは拡大され ADA 情報を含むようになった。その結果、このネットワークの利用者数は格段に増加した。1994年10月から1995年9月の間に、全国で8万回の利用があったが、その34%は ADA の理解に関するもので、13%が求人求職情報に関するものであった。
JAN を利用している企業からの求人活動費用に関する報告によれば、求人活動の19%は無料でできたし、50%は1ドルから500ドルの間の費用であった。2,000ドル以上の費用がかかったのはたった12%であった。求人活動への投資に対して、1ドル当たり平均28.69ドルの利益があったという。

非常に大きな関心は、ADA が実際にどのように作用しているかに向けられている。「ADA は過去20年間に成立した労働関係法の中で最も重要なものである。しかし、雇用主に対しての影響の全貌は、法解釈としての判例の実体的部分を法廷が示すまでは分からない」 (Coil and Rice,1994,p.504)。ADA に関する最初の法廷事例が現在報告されつつあるところで、全体的評価をするには尚早である。

最初の14カ月間に報告された事例数に関するコメントとして、これは障害者集団がその権利についていかによく知らされてきたかを反映したものであるというものがある(Coil and Rice,1994)。ADA 以降、自分たちはマイノリティグループであるという認識が徐々に増大してきているというのである。

1992年7月22日から1996年11月30日までの間に、75,600件の雇用差別申し立てが EEOC に持ち込まれている。半数以上は不当解雇に関するもの、28%は環境整備が不十分、10%は採用手続きが非公正、8%は懲戒行為が非公正、そして、12%はハラスメントに対してであった(EEOCの未出版資料)。(法及び EEOC の ADA 規則では障害に基づくハラスメントについては触れていないが、EEOC はこれも一般的禁止事項に含まれるとしている。)

採用に関連した申し立て件数が大きいことは、「障害を持つ失業者で労働力の中に入ることに熱意のある人たちが多数いることを立証している」(Coil and Rice,1994,p.493-4)。しかし、ADA は、障害給付や成人 SSI を受けている人たちの労働復帰を奨励してはいない。それよりも、「ADA によってもたらされる期待は、健康状態が職務遂行を妨げ始めた時に介入することによって、離職、障害給付への申請を遅らせることである」(Burkhauser and Daly,1996)。

ADA で扱われた障害の種類のリストはなく、例示があるだけである。申し立て申告のうち、視覚障害、聴力障害、移動障害、てんかん等の障害に関連するものの数はわずかでしかない。EEOC の未公開資料によると、1996年11月までの事例で多いのは、背中の損傷(18%)、神経的問題(11%)、四肢の欠損(9%)、抑鬱(5%)、その他の精神科的問題(5%)、そして、心臓の問題(4%)である。知的損傷に対しては、雇用主も、ADA に基づく申し立てに関する公式ガイドラインでも関心は向けていない(Coil and Rice,1994)。精神障害は最も想定外に置かれたカテゴリーである。「職務内容の記述あるいは職務の必須な機能を特定する際に、雇用主はその職位の精神科的領域での要求を見過ごすことが多いが、それは大きな誤りである」(Coil and Shapiro,1996,p.28)。
法廷は、同法の中のキーとなる用語のいくつかについては解釈を始めている。例えば、妥当な環境整備は、有資格の障害者が職務に必須の機能を遂行できるようにするもの、すなわち有効なものでなければならないが、個人の好みに沿う必要はない。職場を分けることも環境整備の1形態と考えられるが、それは、完全にフレキシブルであるとか無制限のものとするのではない(Coil and Shapiro,1996)。EEOC と法廷の解釈とで矛盾が生じ、問題が生じていることもある(Coil and Shapiro,1996)。例えば、病的な肥満について EEOC は障害と考えているが、いくつかの法廷ではそうでないとしている。現在の議論で最も重要な論点は、「主要な生活活動の実質的制約」に何が入るかである。

ADA が障害者の立場をどの程度改善したかを、統計的に結論づけることはまだできない。国勢調査局のデータからは、障害者の就業率が、1991年の23.3%から1994年の26.1%へと上昇したことが示されている。このことを、障害者雇用に関する大統領委員会の委員長は「ADA が障害者雇用に与えた影響の最初の眞の評価」と呼んでいる。しかし、以前からある現人口調査(Current Population Survey)にはそのような上昇は見られない。

障害者は、同法の執行について連邦政府がもっと強力な役割を果たすよう主張している(障害者委員会,1996)。問題は、司法省と EEOC が未処理の不服申し立て件数を大量にかかえているために起こっているのである。メディアが周辺的ケースを報じ、政府の過剰規制の例として ADA を取り上げていることによる問題もある。訴訟件数は、「妥当な」ものとして費用に上限をつけることを認める「不当な難儀」という規定を削除することによってもっと減らすことができる(Oi,1996)。十分な指針が提供されていないと EEOC が批判し続けているため、規則はもっと前進するであろう(Kim,1996)。  

障害者雇用に関する大統領委員会が引用する一連の調査は、アメリカ産業界全体が ADAを多いに支持していることを示している。GAO は、ADA の雇用対策を評価すると言っているが、公的にはまだ何もなされていない。

州及び地方自治体の公正雇用法(State and Local Fair Employment Statutes)

 ほとんどの州と地方自治体には、雇用においてもその他の分野においても、障害者に対して差別することは違法であるとする法令がある6。身体的、精神的障害者に対する差別に特定した法令を持つ州もあるが、他方、他のグループの保護を含むより広範囲の公民権法の中に障害者に対する差別を含む州もある。全ての州法の共通の目的は、公共政策として、障害者は非障害者と同じ機会を与えられるべきであり、同じ条件と特典に基づく処遇を受けるべきであるということを示すことである。

一部の州では、その州法を ADA の規定に合わせて改正してきている。しかし、多くの州では前のままのものを継続している。例えば、ADA のものより少人数の従業員を雇う雇用主に適用されるものであったり、救済措置が異なったりしている。ADA の保護の方が大きい場合にはその規定が適用されるが、州又地方自治体法の方が大きな保護を規定する場合は、その法の規定が適用される(障害者雇用に関する大統領委員会,1992)。

一般雇用:財政的施策

 議会は、社会的、経済的目標を促進する手段として内国歳入法(Internal Revenue Code)を多用してきた(Schaffer,1991)。1976年以来、議会は、障害者に対するバリアを除去する企業の税負担を軽減してきたし(歳入法第190条による)、1978年から1994年の間は、一定の障害者グループを雇用する企業の減税(tax credit)を行ってきた(雇用目標達成税額控除(Targeted Jobs Tax Credit(TJTC)として知られたものであるが現在は機能していない)7 。ADA 制定後の1990年には、ADA に基づく費用を負担する中小企業の税負担を救済するために、新しい税控除として「アクセス控除(access credit)」が導入された。

雇用主への援助

所得控除と税額控除
1976年の法制定時のもともとの理由は、「障害者及び高齢者に対する建築物及び交通上のバリアの問題に取り組む連邦法は以前からあったにもかかわらず、こうしたバリアは企業と産業界に広く残っている...期間限定の税制上の奨励策を設けることによって、企業の施設と交通手段の改善をより迅速に行うことができる」というものであった。1976年の歳入法では、企業は、3万5,000ドルまでのバリア改修費用に対して所得控除を受けることができることになっていた。

1990年歳入調整法(Renenue Reconciliation Act)では「アクセス控除」(第4条)が付け加えられた。これにより、中小企業は、ADA の条件を満たすための費用の最初の1万ドルまでの半額を税額還付請求をすることができることになった。これを受けられる中小企業とは、総収入が100万ドルを超えないか、又は常勤従業員が30人未満の企業である。

アクセス控除には、以下のための支払、負担額が含まれる。

  • 障害者のアクセス、又は利用を妨げている建築上、物理上、又は交通上のバリアの除去
  • 視覚障害者に対して、有資格の朗読サービス者、テキスト用テープの供与、その他資料を利用できるようにするための効果的な方法の供与
  • 聴覚障害者に対して、有資格の手話通訳の提供、その他音声資料を利用できるようにするための効果的な方法の供与
  • 障害者のための装置やデバイスの取得又は改善
  • その他、類似のサービス、改善、資料あるいは装置の供与

1990年の規定は、以下の4点で1976年の規定と違っている。

  • 所得控除から税額控除への移行。すなわち、所得控除は課税所得から差し引かれるが、税額控除は税額から差し引かれる。
  • 新規定は中小企業にしか適用されない。
  • 第190条による控除の限度額は、35,000ドルから15,000ドルに減額。
  • 1990年の規定ではより一般的な費用も適用範囲に含められたが、それは特に「補足的補助とサービス」である。

 税額控除は、既存の建物と設備の変更にしか適用されず、新しい工事には適用されない。控除が適用される費用も、妥当と考えられるものでなければならない。

中小企業は、所得控除(第190条)と税額控除(第44条)の両方に申請資格があるが、大企業は所得控除への申請資格しかない。新しい税額控除は中小企業に対してより有利なものとなっており、この措置の実施において議会は明らかに救済を中小企業に向けている。

雇用目標達成税額控除
上述の所得控除及び税額控除と同様、雇用目標達成税額控除(TJTC)は、雇用主が利用できる税制上の恩典であった。これは1978年に最初に制定され(1978年歳入法,P.L.99-600)、以後定期的に更新されてきたが、1994年12月で終わっている。雇用主の税額控除は、ひとりの従業員に初年度支払われる賃金の40%(最高6,000ドルまで)である。これが適用されるのは、高い失業率に脅かされやすいものとして法に記された10のグループに属する者を雇用した雇用主に対してである。

この施策に要する費用の大部分は税収の欠損で、それは、1991年に8,100万ドル、1992年には1億400万ドルであると推定される。1991年には50万人がこの施策の適用を受けており、1989年には10%が障害者であった。1991年以降のデータはない。推定では、TJTC の恩恵を受けた者のうちの8%が障害者である(GAO,1996d)。「TJTCはかなりの人数の障害者について適用資格ありとしてきたが、適用を受けた者の雇用や収入を増加させたことを示す資料が欠けており、この施策を終了しても障害のあるアメリカ人にとって大きな害をもたらすことにはならないであろう」(Barnow,1996,p.323)。

障害者への援助

社会保障就労奨励策
障害給付を受けている障害者に就労を奨励する目的の、いくつかの社会保障奨励策がある。以下のものが、SSDI の受給者向けの就労奨励策である。

[試行就労期間(TWP)]は、就労を試行する期間、給付金の受給を認めるものである。その意図は、受給者に、受給資格に影響を与えることなく能力を試す機会を与えることである。この方策によれば、該当者は就労して9カ月間は給付金を受け続けることができる。この場合、就労は連続的でなくてもよく、労働報酬額は給付に影響しない。稼働総額が月200ドル以上であれば、いずれの月でも試行就労月と算定される。この試行期間後も3カ月間は給付が継続できるが、稼働収入が月額500ドルを越えると終了する。人は、5年の機関内で9カ月の試行就労期間を認められる。すなわち、TWPは、最近時の60カ月間に9カ月間試行就労に従事した時にのみ完了する(GAO,1996a)。

[資格延長期間(EPE)]は、当初、1980年(社会保障法障害改正(Social Security Disability Ammendment)P.L.96-265の一部として)に制定され、1988年に延長(P.L.100-203)されたものである。これは、職業復帰する障害者に追加保護を提供しようとするものである。この期間は試行就労9カ月の期間後に始まる。この方策では、36カ月の間に、稼働が実質的な有給活動レベル(1996年には、(盲人以外の)障害者の場合は月額500ドル、盲人の場合には月額960ドル)以下に落ちた場合にはどの月にも給付金の受給資格を再び与えられる。

[実質的有給活動とみなさない就労(SGA)]:SGA は、障害給付に伴う継続的観察プロセスにおいて、障害認定に際して就労を無視してよいかどうかを決めるために用いられる。SGA では、一定水準以下の労働収入は、ほとんどの場合に給付金の受給資格への影響なしに許可される。このように無視してもらえる収入があることは、障害者に、給付金に影響を与えないような限定された就労を探すよう奨励する役目を果たすのである。意図は、どのような限定された労働であっても、就労を試みることが最終的には給付受給者からはずれることにつながるであろうということである。実質的有給額とみなされるのは〔訳注:これに該当する給与収入範囲は〕、月額300ドルから500ドルまでの収入である。

[2次待機期間の廃止]:EPEに加えて、障害保険給付名簿からはずれた受給者が60カ月以内に再登録される時には、2回目の人に課せられる5カ月の待機期間を要求されないという制度である。就労奨励策として、この制度では、就労試行がうまくゆかなかった受給者であって制度の要件を満たしている者に対しては、より迅速な給付の回復を保証するのである。

[メディケア受給資格の延長]は、2度目のメディケア待機期間24カ月というのを廃止するものである。これが奨励策となる理由は、成功しないような職業復帰の試みを長期間行ったとしても、それはメディケアの受給者に戻ってしまうことの防止にはならないからである。就労試行を1回行った時には、メディケア期間に39カ月が追加される。

SSI 受給者向けの奨励策には以下のものがある。

[障害関連就労費用]:1980年社会保障法障害改正の第302条において、就労するために障害者が必要とする一定の物品及びサービスの費用(購入、維持、修理)は、SGA決定に当たっての所得から控除されると規定されている。

[自立達成計画]:SSI には、自立達成計画(PASS)と呼ばれる特別な規定がある。PASSは、自立を可能にするよう考案された計画のために金銭及び財産を蓄えてよいというものである。蓄えられた金銭は SSI 給付から差し引かれることはなく、計画の目標になるのは就職又は事業開始である。

[効果]
障害給付制度は、より多くの障害者を労働力に向けて奨励するという意図とは別のものと考えられる。これらの給付への申込み手続きでは、労働力の欠損に重点を置いており、損傷は就労を不可能にするものと予測しているからである。1985年から1995年の間に、DI/SSI の受給者リスト中の受給期間を長引かせるような損傷を持つ障害者の数が増加したことを経験している(Rupp and Stapleton,1995;GAO,1996a)。この10年間に、DI/SSI の受給者は70%増加している。1994年には、DI 受給者の31%と成人 SSI 受給者の57%は精神機能の損傷者(mental impairment)であった(GAO,1996a)。会計検査院によると「障害者対策は実際上時間が凍結したままの状態となった」(GAO,1996b,p.4)。種々の就労奨励策が講じられたにもかかわらず、DI 受給者で職業復帰して受給リストからはずれたのは500人中1人以下であった(GAO,1996a)。

就労奨励策が複雑であるという批判があり、また、対象者は職業復帰すると医療給付を失うのではないかということを特に恐れているのである(GAO,1996b;Mashaw and Reno,1996)。

職業復帰を奨励するためには、VR はあまり役だっていないと信じられている(GAO,1996b)。諸給付の受給者中のおそらく3分の1はリハビリテーションの可能性があるにもかかわらず、彼らはリハビリテーションシステムから激励を受けることは少ない。VR サービスは、受給者中のほんの一部、多分2%、の者にしか提供されていない(Hennesy and Muller,1995)。就労経験のある者に対してもない者に対しても、労働能力を見きわめ、拡大すること、職業復帰メカニズムを働かせることに関心を払う必要がある(GAO,1996a)。州機関では、年平均、受給者100人のうちたった1人しかリハビリテートしていない(GAO,1996a)。

Yelin(1997)によると、いずれの年度においても障害を持つ者はほとんど労働力に新規参入しておらず、したがって、彼らの労働参加を増加させる努力としては雇用の維持面に力点を置くべきである。しかし、現在の社会保障障害保険プログラムの仕組みでは、ある個人が給付の資格を取得した後でないとリハビリテーション資金を適用できない。このプログラムが障害者の就業継続の援助になるためには、個人が早急にこの資金を利用できるようにしなければならない。また、他の労働市場の諸要因と障害とが混じり合って、労働力群へ参加するかどうかの影響要因として作用している。したがって、性、人種、年齢、障害の状態等を断片的にとらえて雇用可能性を向上させようというプログラムは効果的でない(Yelin,1997)。

18歳から64歳のSSI受給者のうち、所得があると報告した者は8%で、DI受給者のうち月500ドル以上の所得があると報告したのはたった1%である(GAO,1996a)。1990年代の初期の年次統計では、DI 受給者の300万人中で職業復帰していたのは6,000人であった(GAO,1996a)。就労奨励策によって職業復帰への試みを決心した受給者は非常に少ないと考えられている(Hennessy and Muller,1995)。試行就労期間後、500ドル以上の収入を得ると給付を失うため、そのことがそれ以上の収入を得る意欲をそぐ要因となっている(Hennessy and Muller,1995;GAO,1996a)。GAO は、医療保険を失うことに格別な恐れを持つという考えを支持している。他の連邦、州の援助―食物、住宅、エネルギー援助―とオーバーラップしていることも反奨励因となっているのであろう。

自営

 新規の事業が設立される率は増加しており、これは、障害者のための新しい就労の機会、特に在宅就労の機会に結びつくものである(Greenwood,1990)。1980年代の初期以降、企業設立に対する連邦の奨励金は削減されてきているが、他方、1980年以来、州と地方自治体段階での起業援助策は拡大している(Nathanson,1990年)。リハビリテーション・カウンセラーも、自営を援助し、立ち上げ資金(start-up money)を提供することができる。

中小企業庁(Small Business Administration(SBA))は、自分で事業を始めようとする者に対し融資を行っており、障害者援助融資基金(Handicapped Assistance Loan(HAL))に基づいて新規事業のための必須な「着手資金」(seed money)を提供することができる。これには2種類がある。1つは HAL-1 で、連邦法又は州法により認可された公共団体及び民間団体であって障害者のために運営されるものに対しては、直接融資及び融資保証をするものである。シェルタード・ワークショップはこの HAL-1 の資格に該当する。他方、HAL-2 は、障害者が100%所有し経営する新しい企業に対して、直接融資又は融資保証を行うものである。この場合、障害とは、障害のない競合者と同等の基準で企業活動に携わることを妨げるようなものでなければならない。HLA-1 又は HLA-2 に基づく融資の額は、直接融資については15万ドル、保証融資については50万ドル又は保証額の90%を運用限度とする。連邦法では、SBA は民間の貸主から妥当な条件で融資を得ることのできない企業に対してのみ融資を行うことができることになっている。SBA では、民間融資機関から借りるローンのうち75万ドルまでを保証することができる。直接融資の利率は年3%である。

職業リハビリテーション制度でも中小企業への財政提供はできるが、こちらの制度の一義的力点は競争的雇用に置かれている。

障害者で自営する人の割合は一般の人の2倍である;一般が8%であるのに対して障害者は14.7%(Arnold et al.,1995)。しかし、VR アドバイザーはサービス需要に追いつけておらず、特に農村地域においては、自営に対しての関心、資源を増大させなければならない状態にある(Arnold,et al.,1995;Ravesloot and Seekins,1996)。

啓発政策

 連邦が費用負担して行う、障害及び雇用に対する態度を改善させるキャンペーンについては、国立障害・リハビリテーション研究所のプログラム開発部(Office of Special Education and Rehabilitation Servicesの1部門)が主として責任を持っている。

国立障害・リハビリテーション研究所は、10カ所の地域障害・ビジネス技術援助センター(Regional Disability and Buiness Technical Assisance Center)も設置している。これらの組織は、ADA の全ての側面に関しての技術的援助、研修、資源を提供している。

障害者雇用に関する大統領委員会の JAN は、求人求職情報に関して無料の相談を行っている。JAN はまた、2万件以上の個別情報リストのデータベースを持っている。

障害管理は、早期に介入して、就業復帰サービスの必要性を認定したうえでサービスを提供し、給付金や医療給付が確実に職業復帰の奨励になるように図るアプローチである(GAO,1996b)。このアプローチは、SSA の受給者になる可能性のある者に対して提供するよう推奨されている(GAO,1996b and 1996c)。  

保護雇用

 保護的就労という考え方は、この10年間、攻撃にさらされてきた。シェルタード・ワークショップは、障害者を労働力の世界へ統合する最善の手段を提供するもののようには見られてきていない。1970年代の末期までは、最重度の障害者に対するリハビリテーションサービスは、シェルタード・ワークショップとデイサービス事業に限られていたが、これらのプログラムは一般雇用への移行率が低いことが特徴であり(Benshoff,1990)、コストが増大するという懸念もある(Whitehead,1987)。

保護雇用は、公共又は非営利団体が、稼働能力が低い障害者に対して最低賃金以下の賃金を支給することを労働省に承認されて(労働基準法P.L.89-601第14条(c)により)行うものである(Barnow,1996)。この承認は、労働省労働基準局賃金労働時間課(Wages and Hours Division of the DL Employment Standard Administration)により行われる。そこでの労働従事者に支給される賃金は、地域内の典型的労働者のものを基準として障害者の生産性に見合うように調整された労働に対して、一般的に支払われる額である。賃金は従業員個人の生産能力を適切に反映するものでなければならないし、年度ごとに見直されなければならない。推定では、7千人の雇用主が承認をもらっており、この制度の中で20万人が就労している。しかし、プログラムを評価できる調査には欠けている(Barnow,1996)。

連邦政府は、シェルタード・ワークショップに対しては、製品買い上げ、連邦の賃金法の免除、資金ローンの提供といった間接的な支援をしている。援助付き雇用に対してと同様に、州によっては発達障害者プログラムに基づく財政援助をシェルタード・ワークショップに与えているところもある。1991年には、連邦政府は497カ所のシェルタード・ワークショップから製品やサービスを買い入れており、総額は4億3,155万ドルであった。前述のように、SBA もシェルタード・ワークショップに対して建設費、運営資金として援助ローンを提供できる。このような恩典を受けるワークショップとしての資格は、直接的生産のための総労働時間の75%以上が障害者によって行われていることである。

要約

 障害者のインクルージョン、自立、エンパワメントの達成を確実にするためには雇用が中心課題となると考えられる。公民権と自由企業制度とは矛盾しないというのがアメリカの政策での信念である。合衆国には、障害者を労働力へ統合することを目的とした連邦法の長い歴史がある。当初の法律は復員軍人を中心に置いていたが、徐々に市民向けの職業リハビリテーションの施策が発展してきた。また、身体障害の重視からあらゆる種類の障害に関わるようにと変化してきた。会計検査院(GAO)は、雇用に焦点を当てたプログラムが26あり、さらに、雇用関連のプログラムが57あると認めている。GA0が考える最大の批判点は、これらの施策の効果に関しては評価の対象とされることがほとんどないか全くないままできたことである。

最近の関心は、疾病給付と障害給付―DI と SSI―の長期受給者数が増加していることと、彼らの中で労働市場へ復帰する者の数が少ないこととに焦点が当てられている。特に関心が向けられているのは、職業復帰を奨励し促進する際の社会保障給付の位置づけについてである。民間部門での大きな変化としては、「障害管理」の開発があげられる。

障害を持つアメリカ人法(ADA)は、障害とは「a)主要な生活活動の1つ以上を相当制限する身体的もしくは精神的損傷;b) こうした障害の記録、又は;c) 障害を持っていると見なされること」と定義している。

リハビリテーションサービス局(RSA)は、雇用へ向けた準備と実際に就職することとを援助するための国家政策の推進を担当する。RSA は教育省の一部門として機能している。同局はまた、職業リハビリテーションサービス及び援助付き雇用に関する連邦関連財源を担当している。州は連邦からの財源を受けるが、自州の財源をこれに付加することもできる。

職業リハビリテーションサービスは州の責任であり、サービスのプログラムは1973年リハビリテーション法第1章で規定されている。法律は、定式的な助成金基準に基づいて連邦が財源を負担することを定めている。州段階におけるサービスは、公共及び民間団体のどちらからでも提供できる。州の職業リハビリテーション機関は、高校生及び卒業生を含め、あらゆる紹介元からの紹介を受け入れる。職業リハビリテーションの最初の段階では、個人の計画を策定するための、適性、能力、及び態度の評価を行う。この計画を満たすために与えることのできるサービスには、職業訓練、職業指導、他機関への紹介サービス、就労のための特別なデバイスの考案、職業紹介、及び追跡サービスが含まれる。VR サービスの効果が限定的であることに大きな関心が向けられている。

保護的就労という考え方への挑戦が、別なサービス提供の方法として、援助付き雇用方式の開発を奨励することとなった。就労や職業訓練のための革新的な打開策を必要とする重度障害者の数が増加してきたことも、援助付き雇用が発展するのを助長した。援助付き雇用は、雇用主から賃金を支給される競争的な仕事を、統合された作業場の中で行うものであって、必要な人には支援が提供(時に継続的に)されるものと定義される。文献の中で検討されている援助付き雇用のモデルとしては、個人配置、エンクレーブ、移動作業班、小規模事業等の種々のタイプがある。

PWI で行われる公-私のパートナーシップでは、企業、産業、リハビリテーションサービス機関を連携させようとするものである。目的は、競争的労働市場の中に障害者のための就労機会を創設し、拡大することである。

職業訓練パートナーシップ法は、民間企業に障害者を雇用させることを目指した。これは、障害者に特定した施策というよりは、労働市場の中の「被不利益者」を目標に置いたものである。この法では、就労場面の中に訓練の場を設定でき、雇用主は、利用資格のある被用者に対する賃金を払い戻ししてもらえる。この法の規定により、一連のサービスを提供することができる。

アメリカでは、障害者に対しての義務、彼らの権利に関しての種々の法律がある。1973年のリハビリテーション法は、連邦で雇用される障害者の権利に関して扱っている。この法のいくつかの節で、連邦自身の機関内(501条)、連邦政府と契約のある企業(503条)、連邦政府から財政的援助を受ける企業(504条)にいる、他の点では有資格な障害者に対する差別を禁止している。この法律が、雇用政策の用語の中へ「他の点では有資格な障害者」「必須な機能」「妥当な環境整備」「不当な難儀」という用語を導入した。この法律は EECO によって執行され、議会に対して連邦政府内の障害者雇用に関しての年次報告をする。

ADA(1990)は、1973年法の規定を基盤としてできたものである。障害者に対する雇用差別の違法性について、1973年法は連邦政府との契約に関係のある障害者にしか適用しないのに対して、ADA は民間部門にまで広げている。法としての実質的な枠組みは1973年法に従っているが、手続き面は1964年公民権法の第7部を模している。

ADA は、雇用主、職業紹介機関、労働団体、労使合同委員会に適用される。この法律は、15人以上の従業員を雇用する全ての雇用主に適用される。規定に基づき、雇用主は企業の状況に合ったケースバイケースの「妥当な環境整備」をしなければならない。採用候補者は、その職務の必須な機能を遂行することができる者でなければならない。

ある者が障害を理由に差別されていると感じたら、行為があってから180日以内に雇用機会均等委員会(EEOC)の地域事務所に申し立てをしなければならない。EEOC は、まず非公式の和解を目指すが、これが成功しないならばその件を裁判所に持ち込むことができる。裁判所は、雇用主が違法なやり方を行っていることが分かったならば、その雇用主に違法なやり方を止めさせる禁止命令を発することができる。裁判所はまた、従業員の職場復帰、従業員の雇用、又は裁判所が適切であると考えるその他の救済策を命じることもできる。

この法律ができてから数カ月の間に多くの申し立て件数があったことは、障害を持つ人びとの間に障害者の権利がよく知れ渡ったことを示唆している。1996年11月までに、7万5,600件の申し立てが記録されているが、半分は不公正な解雇に関するもの、28%は環境整備が不十分、10%は採用拒否、12%はハラスメントに関するものであった。障害という場合によく取り上げられる問題(視力問題、聴力問題、移動の損傷、てんかん)による件数は、報告事例の中でほんの少ししかない。背中のトラブルを持つ者が多く、それに次ぐのは神経学的損傷である。法律の中でキーとなる用語、「障害」「妥当な環境整備」「主要な生活活動の実質的制約」等について、それにより定義づけられるものは何かという法廷の解釈は始められたところである。

障害者を雇用へ統合することに関連して、各種の税制措置が講じられている。雇用主が建造物の改善を図ること、及び補助具と装置を取得することを援助するため、所得控除(歳入法の第190条)と税額控除(1990年歳入調停法)がある。その規定の影響度は、企業規模の大小によって異なっている。

障害給付(SSDI や SSI)の受給者を労働に向けて奨励する目的で用いられる、社会保障上の誘導策はたくさんある。SSDIの受給者対象の誘導策には、試行労働期間、資格期限の延長、医療費給付の継続、就労する障害者へのメディケアの継続、職業リハビリテーションプログラム途上の者への給付継続、損傷に関連した就労費用負担がある。SSI 受給者対象の誘導策には、自立プログラム達成計画、損傷関連の就労費用負担がある。

米国中小企業庁(SBA)は、自営業を始める者のために融資を提供し、障害者援助融資基金)は、新しい企業のために必須な着手資金を提供することができる。リハビリテーションを援助するために利用できる技術に関する認識を高めるための施策もある。

保護雇用は、稼働能力が低い人に対して最低賃金以下の賃金を支払うことの許可を得た公共及び民間非営利組織により提供される。最近の10年間は、保護的就労の原理は、雇用へ移行する率が低い、労働への統合に欠けるといった批判から攻撃されている。

障害のある人の数に関しては、アメリカにはたくさんの数字がある。障害の定義、調査手法が異なるため、推定値は350万人から4,900万人までの幅がある。障害統計は、保健統計、社会統計など多くの統計より遅れている。

障害者の就業率の算定は、それぞれの調査で用いる定義に依存する。国勢調査局の調査では、障害を持つ就労年齢成人は「家族の中に、仕事の量や種類を制約するような健康上の問題又は障害を持つ者がいるか」という質問で定義される。この定義によると、1,464万8,000人が障害を持ち、そのうち、425万484人は就労しており、1,039万7,000人は失業している(1991)。

  1. Paul O'Leary(Rutgers 大学経済研究所)の多大な貢献に感謝する。
  2. 最初の法律では「handicap」が用いられたが、その後「disability」の語に置き換えられている。
  3. RSA 統計の「ケース終了」概念で定義。
  4. この用語は後述。
  5. この用語は後述。
  6. この状況についての包括的レビューは、幾分古いが、障害者雇用に関する大統領委員会の「法と障害者:障害者の雇用と特定の権利に影響する連邦法と州法抜粋」(1980年)を参照。
  7. これについては後述。

結論

 障害者の社会的統合をめざした政策及び措置は、1990年代とそれ以降も重要な政策課題である。障害者の参加、平等、社会的統合という理念には、ほとんど全ての国がコミットしていると言明している。各国が共通のジレンマに当面したために、さまざまな国でとられている取り組みや政策並びに、社会的統合目的を達成するうえでのそれらの効果について関心が持たれてきた。本書は、1993年に出された研究(報告)の改訂版であるが、障害者のための法制、政策、措置に関する情報への継続的な関心及び需要が反映されている。

1993年に私たちは、政策は静止しているものではないということを認識した。1997年までの間にも政策や取り組みに継続的な発展が見られたし、このようなレビューは早送りの映像の一静止画像を提供し得るに過ぎない。私たちは、公式文書に記された法制、政策声明(statement)及び実施状況を叙述した。そして、可能な場合にはそれらの公式に又は、独立の評価者により行われたアセスメントで補足した。しかしながら、こうした努力にもかかわらず、私たちの説明は、実施の実状よりもむしろ政策文書から得た情報に留まっている。政策についての将来展望は、主として政府のそれであり、非政府サイドの政策や実践は、あまり考慮に入れなかった。

ここでは私たちは、18カ国の政策研究から明らかになったテーマ及び問題を整理した。その際、私たちは各国報告で提示された順番に従うこととする。

障害政策と法制

 1993年版の記述に当たって、私たちは当時検討した15カ国の障害及び雇用政策への取り組みについて2種類に大別した。まず第一に、包括的な差別禁止法―障害者雇用対策もその枠組内で位置づけられる―を持つ国がある。雇用対策は、障害者の権利を認め、彼らへの差別をなくす統合政策の一側面にすぎない―最も注目されるものではあるが…。米国、カナダ及びオーストラリアでは全て連邦及び州レベルでこうした差別禁止法制と人権法制がある。人権法制、差別禁止法制あるいは自由憲章を持つほとんどの国には、雇用機会均等法(雇用公正法)もある。

1993年に報告された第二のタイプの取り組みでは、障害政策は、いくつかに区分され、政府の特定部門の政策上の関心と関連づけられている。雇用政策は、他の政策から分離されている。いくつかの国は、歴史的に複数の政府部門に分かれてきた障害者対策間の不均等を是正するための試みについて報告しているが、私たちの結論では、ほとんどのヨーロッパ諸国においては障害政策は、抜本的な変化というよりはむしろ漸進主義で特徴づけられる。

1993年には各国は、障害者の雇用権を保障するための取り組みにより2つのグループに大別された。ヨーロッパ連合(EU)加盟国の大半は、歴史的には強制の原則に導かれ、割当雇用と留保雇用で代表されるような法的条件に基づく雇用促進アプローチを取っている。直接的な人権規定を持つ国には、こうした種類の対策はない。これらの国は、むしろ契約遵守といった、経済活動の遂行につけられた条件を通して障害者雇用を「強要」してきた。多くの点で個々のヨーロッパ諸国は、その障害者雇用政策と措置の詳細や重点ではそれぞれ異なってはいるが、「新世界」の各国と対比すると、差異よりも画一性が一層明白であると私たちは、当時コメントした。

1996年にはこれらの相違は、それほど明らかではない。(障害者の)雇用ニーズへの断片的取り組みはいまだ続いているし、多くの国では対策の分散化が著しい。自発的行動が法的義務と併行して推進される一方、一般雇用サービスにおける障害者への援助が、専門的サービスの広がりと併行して提供され、また事業主及び従業員の双方への財政的インセンティブが増えている。障害政策の断片化は続いている。同時に、ヨーロッパの数カ国では障害者の雇用政策はいまやより幅の広い障害政策の枠組み内に含まれている。

ヨーロッパの新法制度は、象徴的にも、実際上も障害者に対する個人的権利を支援してきた。ドイツ、フランス及びフィンランドで改正された憲法及び刑法では、健康や障害による不利な取り扱いを受けない権利が導入された。また、オーストリアでも憲法の改正案づくりが現在行われている。英国は、社会経済生活の一定領域で非差別の権利を導入した。また、アイルランドの法的提案でも、社会経済生活の特定領域で障害者(及びその他のグループ)の差別禁止が意図されている。スウェーデンでは、障害オンブズマンが障害者の権利を支援している。デンマークのオンブズマンは、新たな障害者機会均等センターから差別に関する報告を受けることも含め、モニターをする役割を担っている。

障害者の雇用義務という概念は、いまだヨーロッパの特色となっており、その中核的諸国は割当雇用制度に強い愛着を持っている。しかし、強制力は弱まっており、この義務を果たす責任は、ますます経済領域に置かれるようになっている。

障害者雇用政策の発展

 私たちは、各国の障害者雇用政策の歴史をたどり、内外の影響を同定しようとした。いくつかの国では、障害者差別及び雇用に積極的な取り組み姿勢を示しているのに対し、他の国々は雇用機会を主な政策的関心領域と見なすというように発展過程上異なった段階にいる。したがって、ある国にとっては大きな変化であっても他の国では時代遅れということもあり得る。私たちは発展について総括を試みるに当たって慎重でなければならない。障害者雇用政策について一般的な言い回しで表現すれば、各国の取り組みの一貫性のなさや矛盾をかくすことになる。

障害者雇用政策の理論的ベースは、大きく変わってきていると言える。研究対象となった大部分の国では、障害者の雇用及び職業リハビリテーション政策は、傷痍軍人や戦傷者に提供すべきサービス・ニーズから生まれてきた。いまでは身体障害者だけではなく、非戦闘員やあらゆる種類の障害者がそれらの対策の対象に含まれる。戦争の被害者への対策に付随する補償原則から、「働く権利」の概念に移行してきている。労働市場内の参加が、より広い社会内での参加や権利への障害者によるキャンペーンの焦点となっている。有給の労働力内での関係で価値と威信が規定される現代社会において、障害者は一戦略として、「生産手段」をコントロールすることを求める。

差別に挑戦し、個人の権利を推進することにより障害者運動は、あらゆる国で障害問題を政治化してきた。障害について抜本的に再概念化しようという動きが見られるが、最も著しいのはアイルランドである。そこでは、障害者の地位に関する委員会が政府への1996年報告の中で、権利、平等及び社会モデルを強調し、慈善、温情主義及び医学モデルを拒否している。

障害者に有給雇用を確保するための特別対策の必要性が認識されてきたが、職場や仕事へのアクセス上の不平等な機会を是正するための政策の実施が試みられるようになったのは、ごく最近のことである。政策へのこの独特な取り組みは、研究対象国を通じて支配的な傾向であるように思われる。障害者と雇用との関連でほとんどの政府の重点は、温情的な国の介入から、自立と責任を奨励する政策へと移ってきた。

集団的責任から個人的責任へのシフトは、とくに英国で際立っている(Thornton and Lunt 1995)。一層の自立を強調することは、同時に個人が(社会の中で)伍していけるようにすることにより機会の促進をはかることでもあるので、福祉支出を抑制することへの関心といった他の目的が隠蔽されることになる。いくつかのEU加盟国で見られる付随した変化は、障害者の雇用義務を国の領域とは別の経済的領域に移行させること、また、事業主、被用者及び障害者団体間のパートナーシップを発展させる試みであった。

これらの発展は、事業主がその責任を受け入れ、遂行するのを奨励し、可能にする新たな、かつ、より柔軟な方法を通して障害者の雇用を促進する戦略的取り組みに反映されている。長期障害給付コストへの危惧からくる最近の政策展開は、社会保険団体及び事業主サイドが早期介入を通して、障害労働者が労働市場に復帰するのを奨励することである。オランダは、障害の予防及び障害のある、あるいは、障害者となった労働者を継続雇用することを通して、疾病・障害保険コストを減らすよう事業主を奨励する対策を取り入れた。

際立った動向は、一般(mainstream)の労働市場対策の中に障害者を組み込むことである。高い、又は、上昇する失業率が、障害者の就業機会にもたらすインパクトにより、彼らが積極的労働市場対策の優先グループとして含まれることとなった。障害給付受給者の増加とそれに伴うコストの故に、福祉依存に取って代わる政策への関心が増し、積極的労働市場対策が消極的対策への依存に取って代わっている。確かに労働からの排除は、福祉政策というよりは経済政策問題と見なされるようになってきている。

1990年代の厳しい経済環境の中で障害者は、特別対策を必要とする社会的弱者グループと見なされてきたばかりではない。いくつかの国では、彼らには優先権が与えられている。例えば、スウェーデンは、障害者や社会的弱者が労働力全体よりも労働市場制度内ではより大きな割合を占めるようめざしている。特にフィンランドとフランスでは、労働市場での社会的弱者への「雇用創出」制度内で、障害を持つ参加者が相当の割合を占めている。多くの雇用創出対策は、高失業問題を押さえ込むうえで、一時的な解決にすぎない。それらが提供する雇用は、通常は標準化された、低水準のものである。障害者雇用の質と量を高めるうえでそれらの長期的効果は、不明である。

同時に、障害者の雇用ニーズの個別性への認識が高まっている。経済的リストラ及びますます柔軟化する労働市場により労働力からの障害者の排除が進み、また、労働市場が求めるものと、障害者の技能・適性とのミスマッチに関心が向けられるようになってきた。非施設化の広がりと障害者の要求が大きく影響している。従来は、雇用対策の対象とは考えられなかったり、あるいは、別の領域で対応されてきたグループが、雇用統合対策のクライエントと見なされるようになってきた。これらの人びとには、重度障害者、知的障害者並びに精神障害者が含まれる。雇用機会を求める障害人口がますます多様化していることに加え、個人主義の高まりは、障害者は1つの同質グループと見なされそうにない、ということを意味してきた。その結果、戦略は個々の要求を持つ人びとの機会にますますあわせるようになり、「一律的」政策アプローチは支配的ではなくなっている。

政策とサービスへの責任

 障害者雇用政策の制度上の責任の所在には、歴史的要素と共に現政策の優先順位が反映される。つまり、米国では主たる責任は、教育省の一部門にあるのに対し、スウェーデンでは、それは労働当局におかれている。多くの国では、所管部局は1つではなく、より重度の障害者の特別ニーズに対応する部門と、一般サービスを提供するものとに分かれている。部門間での調整は、必ずしも明らかではない。もっともカナダ、アイルランド及びスペインを含む各国では、部門横断的な政策の重要性は認識されてきた。

雇用支援サービスの公的責任は、全般的には一般労働市場当局に移ってきたが、なお国ごとにかなりの差異がある。次の主なタイプの制度的対応が見られる。

  • 労働市場当局(現在は、共通的に準自治的な団体)が全般的責任を担っており、一般のサービスではニーズを充足し得ない人びとには、専門家による援助を提供、又は用意する。専門家サービスへのアクセスは任意か、公的に障害者と認定される必要がある。

  • 認定された障害者への専門家による雇用支援サービスと一般雇用サービスが、地方ではある程度の調整は行われながらも、異なる当局の下で別々に運営されている。

  • 主な責任は、障害者のための専門機関が担っている。しかし、このモデルはいまや一般 的ではなく、アイルランドでは全国リハビリテーション委員会から労働市場当局への移 管が勧告されている。


資源とサービスの提供を地方に委ねる傾向がある。ベルギーやスペインの場合には、中央政府の責任にかわり、地方自治体が進めることになった。州の機能が強いカナダのような国では、従来からもそうであったが、最近の政策展開でそれが加速されてきた。この傾向は、政策の実施のモニター及び評価について問題を生ずる。障害者政策又は対策における一貫性を達成すべき試みを妨げ、地域間の公平さについて問題を提起する。

サービスが提供される手段は、国の社会構造並びにその国の伝統と経済発展段階を反映する傾向にある。例えば、アイルランドでは慈善団体や教会による法律に基づかない、自発的なサービス提供が伝統となってきた。米国では、英国と同様、より市場志向の影響を反映し、職業リハビリテーションの提供に民間がますます参画してきている。興味深いことには、伝統的なサービス供給手段に挑戦して、障害者の当事者団体がサービス提供者として出現してきている。

障害者団体の参画

 重要な国際的動向は、障害者団体が政策の策定及び実施について助言する上でより発言力が強く、かつ、より大きな関わりを持つようになってきたことである。近年の傾向は、障害を持つ当事者の参加に向けて、例えば、英国では1995年に全国障害者協議会が差別を少なくすることや、新法(障害者差別禁止法)の運営面について政府に助言するため、設置された。その委員の過半数は、障害者又は障害者の両親である。アイルランドでは、障害者の地位のための全国諮問協議会の委員は、全て障害者、その親族及び当事者団体の代表から構成されている。ヨーロッパには最近障害者及びその当事者団体が、政策を変えるのに寄与しているという、いくつかの証拠がある。ドイツやオーストリアでは、障害者が非差別の権利を広げるべく、憲法改正推進運動を行った。英国では、障害者及びその当事者団体が政府が提案する前に、雇用やその他の分野における差別を違法とする法案の提出に尽力した。アイルランド政府は、委員のほとんどが障害者又はその親族である委員会からの勧告の多くを実行に移すこととしている。また、スペインでは主要な全国的障害者団体が、障害者のための新行動計画づくりを手伝った。

障害者の利益を雇用関連団体に包含するための新たな展開は、それほど顕著ではない。監督的又は管理的団体に彼らを代表させるような制度的手はずは、あまり報告されていない。障害者が利用するサービスをコントロールしたり、影響を及ぼしたり、あるいは、提供するのに彼らがどの程度関わっているのか評価するのは、難しい。

障害の定義

私たちは、雇用政策や措置に関する限りは、障害又は障害者の定義をそのまま用いるように努めた。私たちは、雇用関連の定義と他の領域の障害者政策又は措置で用いられているものとの一致性についてはコメントすることはできない。

研究対象国を横断的に見ると、障害の定義は次のように異なる種々の目的で作られていることが分かる。

  • 国の政策でカバーする対象者(例えば、国が義務を負う人びと)を決定すること。

  • 法の下で権利(例えば、差別されない権利)を持つグループの特徴のあらましを述べること。

  • 特定の政策介入の対象グループ(例えば、雇用率にカウントされる人びと)を規定すること。

  • 特定のサービス又は対策の個々人の資格(例えば、保護雇用の資格があること)を決定すること。


機能障害がもたらす制約的効果を認める一般的動向を反映して、いくつかのEU加盟国の雇用を目的とした定義では、機能障害(又は疾病あるいは欠陥)の故に職に就き、維持し、(かつ、それにおいて向上する)見込みが減少することとしている。英国においては(商品やサービスへのアクセス、土地の取得や雇用において差別されない権利との関連で)新たな障害の定義では、通常の日々の活動を行う能力の損傷のマイナス効果に言及している。しかし、英国の法律はまた、過去に障害を受けた人びとや重い外観上の障害(disfigurements)を持つものをカバーすることで、偏見を認めてもいる。

こうした傾向に対し、雇用と訓練上の差別を禁じて提案されたアイルランドの法律の定義では、過去の障害及び病気によるものもカバーしているが、機能の欠損、機能不全や疾病をそれらがもたらす結果を考慮することなく明示した。

障害を個人の本質的な特色と見なす定義に対し、障害の「社会モデル」で新たに提起されたチャレンジにもかかわらず、障害を個人と環境との関係と法的に規定したのは、スウェーデンのみである。

機能的能力の程度を規定することは、いくつかの制度、とくに雇用率制度が中心的特徴となっているギリシア、ドイツ、オーストリア及びフランスにおいては、不可欠となっている。(同じく割当雇用制度を持っている)ルクセンブルグ、イタリア及びスペインでも、職業的障害程度が規定されている。

職業的障害の概念は、オランダでのように、一般的な労働能力に関連させたり、特定の仕事への能力にリンクされている。スウェーデンでは、障害が一定の種類の仕事の妨げとなる場合にのみ、職業的障害ということができる。

目的ができるかぎり包含的であることにある、包括的な法律で用いられる障害と障害者の非制約的な定義と、サービスへのアクセスを統制したり、制限するために用いられる定義との間には、緊張関係が見られる。しかし、英国は、障害者の定義を雇用サービスへのアクセスに適用するというまれな措置をとってきた。スウェーデンとオーストラリアは、サービス受給の対象人口について幅広い概念を採用している。これらの国々の定義は、本質的に柔軟であり、標準化された資格基準というよりも基本的には個人のニーズに基づくものである。デンマークは、障害者を対象とした運用上の定義も、資格基準も設けてはいない。つまり、ニーズに基づくサービス概念が、全ての人びとに適用される。

労働市場当局は、障害者対策に責任を持つ専門当局と比べ、そのサービスの資格についてより幅の広い、より任意の定義を用いる傾向にある。しかし、専門のサービスが測定し得る資格基準を適用する一方、労働市場当局がより開放的な運用基準を用いることで、一国内で2つのシステムが併用されることになる。

保護雇用へのアクセスは、なお典型的に能力又は生産性の評価に依存している。その慣行は、一般的には従来保護就労に振り向けられた障害者を一般の職場で援助付き雇用するのに継続されてきた。確かに低い生産性という概念が、障害労働者を雇用する事業主への財政支援対策の根拠となっている。

統計

障害統計領域には、困難さが伴っている。この所見は、障害者と雇用に関連する統計の利用でもあてはまる。例えば、米国では障害者数の推計は、どの定義を選ぶかにより、300万人から4,900万人までの幅がある。

雇用されている障害者の情報は、一般的には割当雇用制度及び保護雇用又は特別補助や就労奨励金受給者に限られている。こうしたデータの解釈は、明らかに法律の定義や資格基準を考慮しなければならない。データの意味を理解することと同様、重要なのは個人がサービスにアクセスするプロセスについての知識である。サービス提供に関する数字は額面どおりに捉えるべきではない、ということを留意することが重要である。例えば、もし制度が(一定期間内での)成果をベースに運営されているとすれば、明らかに「上澄みだけを取る」という問題が生じよう。

一領域のサービス提供に関係する統計解釈は、比較さるべく他の一連のサービスに関する数字がない場合には困難である。例えば、奨励金受給に関する数字は、他の社会的弱者グループへの供与状況と対比しない限りは無意味となり得る。

(英国を除く)EU諸国の統計は、大抵EU統計局(Eurostat)刊行物から引用されたもので、その範囲は限られがちである。私たちは、障害人口や割当雇用制度以外の雇用数についての国レベルの統計にアクセスすることはほとんどできない。オーストラリア、カナダ、英国及び米国のデータは、各国の情報源から提供されたものである。後者の国々からの情報は、総合的かつ詳細なのが特色である。

雇用支援サービス

積極的労働市場対策への移行に伴って、労働市場当局は訓練と職業紹介サービス並びに奨励金の提供者としてますます重要になってきた。労働市場当局は、通常(若年者への訓練対策の年齢制限といった)資格基準を免除したり、(訓練や財政補助といった)対策の期間を延長したり、あるいは、彼らを(例えば、訓練手当に)優先的にアクセスできるようにすることで障害者を優遇している。

専門又は一般雇用サービスにどの程度愛着しているかは、各国で異なる。例えば、スウェーデンやオーストラリアでは専門サービスは、雇用を見つけたり、確保したり、維持するために特別の資源を必要とする人びとや一般サービスが十分ではない人びとのみを対象としている。専門サービス提供は、障害の評価、分類及び登録の伝統を持つ国々で(行われる傾向)が強い。これらの国では、類似の発展形式をとっているように思われる。つまり、別々で往々にして施設ベースのサービス提供が一般のサービス提供に置き換えられるが、それは専門スタッフの導入により(次々に)修正されている。

公的に提供される支援サービスに代わるものが、登場してきている。障害者団体も含む、民間団体や非政府組織が自主的に、あるいは、委託を受けてカウンセリング、訓練や職業紹介サービスを提供している。新しい試みとしては、臨時的仕事のための機関が含まれる。例ええば、スペインではスペイン視覚障害者団体(ONCE)が障害者の職業紹介を行うための独自の機関を運営している。地方の独立機関は、公的サービスではこれまで手が届かなかった事業主の協力を引き出し得る。国立機関自体も多様化している。例えば、ドイツでは専門の統合サービスが、特に就職先を見つけることが困難な障害者に対して本人に合わせた支援を提供し始めた。1つのパターンとして出てきたのは、特定の機能障害を持つ人びと、特に知的障害を持つ人びとに対してサービスを専門的に行う小規模の地方機関がある。

サービス提供者が激増し、雇用支援サービスの責任が分散したために、現場での調整の必要性が強調されることとなった。

指導、訓練及び職業紹介は、この研究で適切に記述するのが最も難しいことが分かった。個々の国における現場でのサービス提供について総合的に理解することは、不可能であった。むしろ、入手可能な政策文書に依存せざるを得なかったが、それらからはサービス活動のより対人的な側面を引き出すことは困難であった。(例えば、こうした文書には個人が訓練や指導サービスを受けるために「評価される」と記述されているかもしれないが、実際の評価過程や利用者/専門職関係の性質を判断するには、より詳細な現場レベルでの研究が必要であろう。)

訓練を事業主や市場のニーズにより敏感なものにしようという動きがある。その反映というべき展開は、訓練当局が他の訓練団体と競争して補助金受給団体から収益を生み出すものへ移行したスウェーデンのように、サービス提供者をより競争的にさせてきた。オーストラリア、英国及びウェーデンを含むいくつかの国では、公共、民間及び非政府のサービス提供者が競合して訓練サービスを提供する「準市場」の出現が見られる。広い規模ではこの展開は、契約分化とフォード主義者以降の(post-Fordist)リストラの増大に関連している。

職業紹介に先立っての訓練よりもむしろ実地訓練(on-the-job training)をよしとする傾向がでてきている。次に議論するように、カナダ、オーストラリア、米国及び英国は、さまざまな援助付き雇用モデルといった形で統合した雇用訓練を奨励する政策をとっている。

いくつかの国では、訓練サービスの提供に従事するスタッフの資格のレベルについて懸念が表明されている。いくつかの国(例えば、米国)はスタッフ研修を(別個ではあるが)職業訓練プログラムの構成要素の一部としている。サービス提供の強調の変化―例えば、保護雇用から援助付き雇用への変化に沿って、スタッフの再研修をするニーズが認識されている。

援助付き雇用

 この研究から、オーストラリア、米国、カナダ及び英国で援助付き雇用の哲学がますます強調されていることが分かった。雇用へのこのアプローチは、一般事業所での有給就労と、雇用を維持するためにそれを必要とする人びとに継続的な職場支援を提供することを意図したものである。

援助付き雇用は、最初に米国で確立され、発展してきた。米国では、それは重度障害者が一般雇用への統合を達成するのを十分援助しえなかった伝統的なリハビリテーション・プログラムにとってかわるサービス提供モデルとして発展したのである。援助付き雇用は、「職業能力の欠如を根拠に疎外され、いやしめられ、また市民権を奪われてきた重度障害者の側の全国的な市民権運動」に類似している。オーストラリアでは、それは分離された雇用サービスからの訣別運動の一環として推進された。米国及びオーストラリアとも援助付き雇用は、法律及び公的補助プログラムに組み込まれた。

援助付き又は支援付き雇用への取り組みは、EUでも急増している。ほとんどのヨーロッパ連合加盟国では、援助付き雇用政策ということで話をすることは正確ではない。むしろ各種の取り組みがあり、その由来は多様である。NGOにより推進されてきたものや、職業紹介サービスによるものがある一方、伝統的な保護雇用から発生したものもある。ヨーロッパ委員会(EC)のHORISONプログラムは、現場での取り組みに刺激を与えてきた。ある国、例えばオーストリアや英国は、援助付き雇用をそれらの戦略的政策に取り入れてきた。他の国々では、一貫した全国的な枠組みなしに地方での取り組みが出てきている。援助付き雇用についての単一のモデルはなく、しばしば援助付き雇用へのさまざまアプローチが併行して行われている。種々のアプローチを調整する必要性が、認識され始めている。

援助付き雇用に係る取り組みへの最適資源については、多くの国で議論が行われている。援助付き雇用の費用効果や成果についての評価は、ほとんどなされていない。

障害者差別禁止法制

障害者差別禁止法制は、カナダ、米国、オーストラリア及び英国において連邦又は州レベルで制定されたもので、比較的最近の展開である。1960年代の市民権法制に根ざしたこうした法制は、1970年代及び1980年代に障害者の当事者団体からますます支持されるようになっている。

いくつかの国は、雇用上の差別と戦うための法律を作っている。1997年初期に議会に上程されたアイルランドの雇用公正法は、明らかな差別について調査し、罰金を科す法的権限を提案している。スウェーデンでは、労働生活での障害者に対する差別に対処するための提案を考慮し、英国での展開を見守ってきた。スペインは、能力低下という理由で募集における、又は、雇用中の差別を禁止する法律を強化した。

反差別法の運営をめぐる多くの活動が行われている。例えば、オーストラリアでは、現在他のどの人権や機会均等法よりも、同法についての研究が行われている。カナダでは、連邦及び州レベルの人権委員会が当面している主要なチャレンジは、取り扱い件数の多さと財政上の制約である。このため個人からの差別に関する苦情への対応が遅くなり、そのことが他の人びとがケースを追求する意欲を妨げることになる。ケースがひそかに解決されるという傾向は、法的過程を設定する妨げとなる。英国障害者差別禁止法は、ケースが法廷に持ちこまれないようにすることを目的とした懐柔的アプローチについて非難されてきた。

差別禁止法がどの程度成功しているかを確かめることは難しい。1つの難しさは、市民・人権法と差別禁止法の解釈が判例法に基づいてなされる傾向にあることである。しかし、国によって異なっている。例えば、カナダには、カナダ人権憲章第15条に照らして、法を解釈するという最高裁判決に相当する記録はない。

障害を持つアメリカ人法(ADA)は、きわめて幅広い関心を集めている。1996年11月までに同法の下に持ち込まれた7万5,600件の苦情の半分以上は、不当解雇に関連したもので、その4分の1以上は、職場改善の不充分さ、そして残りの苦情は、雇用拒否及びハラスメント事例が半々となっている。機能障害との関連では、腰痛が主で、続いて情緒/精神科的及び神経学的機能障害である。雇用機会均等委員会と同法の司法解釈をめぐって論争が生じている。障害者の雇用割合が、ADAの下で増えたかどうかについて確実なデータは存在しない。しかし、同法を過剰規制の一例として提示するためのケースとして利用するメディアの例はある。

環境整備(Accommodation)

 米国の障害者法制の中心的特徴は、障害者の既知の制約に対して妥当な環境整備をすることを事業主に要請すること―これは、機会均等の概念への動きを特徴づけるものである。妥当な環境整備には、物理的なレイアウトや用いられる設備を改善することだけでなく、職務再構築、作業スケジュールや訓練を再編成すること、並びに、補助具や人的支援を提供することも含まれる。1970年代以降、妥当は環境整備は、障害者権利運動の主要概念となってきた。

ADAに含まれているものの多くは、カナダの連邦政府が付託されている範囲内ではないが、同法は相当の影響を及ぼした。カナダは、1992年末の人権法条項に「妥当な環境整備」及び「はなはだしい難儀」を導入した。カナダでは、妥当な環境整備はほとんどの州においても取り入れられた。英国の障害者差別禁止法では、事業主は現在又は将来の障害従業員にとって実質的に不利となる場合には、建物又は雇用環境について妥当な改善を行わなければならないとされている。提案されているアイルランドの法律には、妥当な環境整備の概念は含まれていない。

「妥当な環境整備」を含む法律は、知的又は精神科的障害よりも身体的障害を持つ人びとに利益をもたらすようである。妥当な環境整備を構成するものは何かをめぐる議論は、判例法をベースに展開されている。

北米モデルで法的に要請されるのは、従業員個人の既知の制約を配慮することである。ヨーロッパでは、仕事又は職場を調整すべく法的要請は、一般的には特定の従業員との関連なく行われてきた。例えば、ドイツでは、重度障害者法の下に全ての事業主は最多数の重度障害者が永久就職できるよう、作業室、施設、機械及び道具を整備・維持したり、仕事を調整することが要請されている。スウェーデンのアプローチは、労働環境からくる障害効果(disabling effects)を最小限にすることである。

統合計画

 事業主に機会均等又は職業統合戦略を用意し、実施するよう奨励するか、要請している研究対象国は少ない。この対策は、州又は連邦レベルで行われる。差別是正措置(affirmative action plans)を確実に実施するのにおそらく最もよく知られた対策例は、1973年のリハビリテーション法で米国に導入された「契約遵守」である。カナダでは、権利憲章は「差別是正措置」を排除せず、雇用公正法制は連邦及び州の両レベルで実施されている。フランスでは強制はないが、従業員組合と職業統合計画について合意に達した事業主は、割当雇用義務を免除される。当研究の範囲内では、企業レベルでの計画の普及状況を吟味することは不可能であった。

割当雇用制度

 割当雇用制度についての議論は、雇用政策全般でのその役割との関連では不均衡である。つまり、大きく取り上げられすぎている。割当雇用制度は、障害者雇用政策全体の一部を代表しているにすぎない、ということが強調されなければならない。

多くの研究対象国は、戦後の復興状況において割当雇用制度への態度を形成してきた。1920年代のヨーロッパにおける2つの重要な影響は,1920年の連合国会議及びILOの下に設立された専門家委員会からでてきた傷痍軍人の雇用に関する勧告であった。未達成の事業主に対する罰金又は納付金を伴った、一定規模以上の事業主への法的義務という原則は、オーストリア、フランス、ドイツ及びイタリアで採択された法律のベースとなった。

第2次世界大戦末期、割当雇用の原則は,ILO会議の勧告により強化された。強制的雇用制度を持つ国の大多数は、戦後期にその範囲を拡大した。また、英国及びオランダを含むいくつかの国は、初めて割当雇用法制を導入した。特に米国、カナダ、スウェーデン、フィンランド及びデンマークといったその他の国では、職業訓練やリハビリテーションに投資すること、及び、非強制的な手段で雇用を促進することを選択した。比較的最近障害者雇用を法制化した国のうち、アイルランド、ベルギー、ギリシア及びスペインは割当雇用制度を導入したが、アイルランドとベルギーの制度は、公的セクターに限定されてきたことは、注目に値する。ポルトガルは、割当雇用制度を採らないことを決定した。この原則は、1986年のEC勧告でさらに強化された。当時ドイツ、オランダ及びフランスは、それぞれ制度改革を行っていた。

EC勧告以降、英国ではあまり効果のない割当雇用制度は廃止された。オランダは、任意の制度が期待された成果を生まなかったため、強制的割当雇用を実施する意図は中止された。ギリシアとルクセンブルグでは調整が行われ、またイタリアではより管理がしやすく、かつ、より現実的な制度にすべく、現行制度を改正中である。スペインでは、遵守を促進するためのアクションがとられたが、制度改革が計画されている。新たに割当雇用制度を導入した加盟国はない。

EU加盟15カ国の半数以上が何らかの形の割当雇用制度を設けているが、加盟国の3分の1では、障害労働者を雇用すべく強制的義務が深く根づい方式となっている。一定の制度が、限定された形で企画、実施されているということが認識されなければならない。有給従業員の割合が低く、あまり大きな企業がない国では、50人以上の職員を雇用している企業に適用される制度は,限られた効果しか持たない。同様に、登録を要件とするといった該当従業員の制限的規定は有効性を制約し得る。割当雇用制度がこうした対策に歴史を持たない国で導入されることはまずない一方、割当雇用の可能性への関心が、ベルギーやアイルランドのような公的セクターに限られた対策を持つ国には存続している。

差別禁止法制は、フランス、ドイツ及びスペインの強制的雇用と矛盾するとは見なされていないようである。また、英国では雇用上差別されない権利とあわせ、割当雇用制度を存続すべくキャンペーンは成功しなかった。

障害労働者の目標割合を設定するという原則は変わらないが、割当雇用の指導理念とその適用は明らかに変化しており、そのことが新しいアプローチの出現につながっている。補償原則と訣別し、労働の権利を促進する方向への雇用政策の変化は,割当雇用制度へのアプローチでも明らかである。戦役で被った傷害を国が補償する義務というよりは、障害者の働く権利がますます受け入れられるようになっている。

国と事業主の関係は、変化している。義務のレトリックは、強制と置き換わっている。義務という表現は、責任が国から経済領域に移ったことを反映している。ドイツでは、全ての事業主は、重度障害者の経済的統合に寄与すべきであるという原則に基づき,割当雇用―納付金制度が方向づけられた。

強制的雇用政策を変えるために最近法律を制定した国では、統合を促進するため他のメカニズムをその法律の中に採り入れてきた。フランスでは雇用義務を充たす手段として法的に提示される一方、それらは(協定の場合は)直接的に、あるいは、シェルタード・ワークショップとの下請け契約又は再分配基金への財政的寄付の場合は,間接的に統合を促進する行動に駆り立てる。こうしてよい雇用慣行が自発的にとり入れられてきた。

割当雇用制度運営の最近の展開で最も顕著なのは,柔軟性である。2種類の柔軟性が注目に値する。つまり、障害者を雇用する能力がさまざまであることを認識して、事業主への要請もさまざまであること、及び、変わりゆく政策目標を充たすため、割当雇用がますます利用されていることである。

一定規模以上の事業主に一律に適用される均一の割当雇用は,一般的ではなくなってきている。ルクセンブルグでは、割当雇用は(従来は従業員数50人以上で設定されていたのが)、いまでは従業員数25人以上の事業主から始まるが、雇用事業所の規模によりその割合は異なっている。対象企業の最低規模を下げることと、規模により変わる割当雇用は、イタリアの上院委員会でも検討されている選択肢である。承認を待っているスペインの提案は、最小規模を50人から25人に下げると共に、2000年までに割当雇用を4%に引き上げることである。規模により変わる割当雇用は、ドイツの法律では、原則として(公的又は民間)部門により違いがあるようにすることも可能である。このことは、オーストリアでも同様である。法的割当雇用の制度化が実現した場合にオランダで意図されていたのは、部門に関連した雇用率の設定である。

割当雇用制度では,誰が雇用率にカウントされるが必ず規定される。歴史的には資格は、障害者としての登録又は他の公式認知であった。一定レベル以上の機能障害の程度といった相対的に広い定義により、就職や雇用の維持に一般的に不利なグループメンバーに一定の雇用の権利が与えられる。しかし、それら自体は特別の困難に直面する人びとの雇用ニーズを十分充たすものではない。

ある割当雇用では、(概して機能障害のタイプ又は程度あるいは年齢で規定される)特定グループは、障害従業員の目標割合について1単位以上にカウントされうる。こうした倍数計算方式は、オーストリア及びドイツではずいぶん前から確立されている。これらの国は、一定の障害者を受け入れるのに直面する事業主の困難さ並びに、これらの従業員が経験する特別の不利を認める。しかし、この「倍数計算」方式は、フランスではより柔軟な政策手段として用いられてきた。事業主に新規雇入れを奨励し、重度障害者やシェルタード・ワークショップから採用されたものを一層優遇するため、1987年法が施行されて以降、倍数計算規則は改正された。その結果、割当雇用制度は最も不利な人びとを差別しているという反対論は反駁されよう。倍数計算は、また職場適応訓練や徒弟制度といった特定の職場慣行を奨励することにもなろう。

特定の政策目標は、強制雇用対策の受益者の定義により追及されうる。例えば、フランスの1987年法は、受益者の範囲を拡大し、従来は雇用促進対策の対象とされなかったグループである、部分障害年金受給者をも対象に含めた。またオランダでは、障害給付受給者が任意の割当雇用の主な対象グループであった。さらに受益者の指定は、よい雇用慣行へのインセンティブとなりうる。労働について改善がなされたり、あるいは就職するのに職場の環境整備が必要とされる人びとは、オランダの割当雇用にカウントできる。北欧における割当雇用への積年の反対理由の1つは、こうした制度の前提条件としての登録を受容することができないことであった。しかしながら、これらの例で示されているように、登録に代わるものもあり得るのである。

罰金を課したり、事業主に彼らが雇用すべきであった障害従業員の人数に応じて納付金を支払うよう要求する割当雇用は、障害労働者の地位を強化し、奨励する傾向にある。フランス及びドイツの説明では,仕事で障害者となった人びと又は、従来は自分自身障害者とは考えていなかったものに登録するよう圧力がかけられていることが報告されている。この制度は、既存の従業員に恩恵をもたらすとともに、その職業維持を支援し得る。しかしドイツでは、この制度が新規採用を促進していないことは明らかである。

割当雇用制度の「柔軟化」にもかかわらず、障害労働者の潜在的失業問題には対処し得ていないということで、依然として反対はある。概して割当雇用制度は、組織のあらゆる部門に障害従業員を配置することには関われない。

ここで議論された動向―義務よりも権利を認めること、国の強制からの訣別、国から企業への義務の移行並びに、新たな割当雇用制度の明白な行動変容目標―は、割当雇用制度の目標を不明確なものにすることになる。つまり、強制はされないが、割当雇用を充たすべく法的義務と法的割当目標を達成ないし上回る事業主への財政的報酬とは、明かに矛盾している。

割当雇用―納付金制度

 オーストリア、フランス及びドイツは、雇用義務を充たす代替手段として事業主からの任意の拠出による再分配基金を持つ、割当雇用―納付金制度を運営している。政府の承認待ちのスペインの行動計画では、障害労働者の割当雇用を採用する代わりに、事業主により再分配基金に支払われるべき類似の任意の納付金が提案されている。オランダでもこうした基金が提案されているが、実施はされていない。EUへの加盟を求めている国を含め、東欧諸国では割当雇用―納付金制度にかなりの関心がある。ポーランドはすでに割当雇用―納付金制度を運営している。

割当雇用―納付金制度には、2つの主な機能がある。一方では、それらは未充足の障害労働者数に応じて財政的寄付金を支払うのと比べ、障害者を雇用する方がより魅力的にすることを目的としている。こうして直接雇用が理論上は促進される。しかし、賦課金総額は容易に支払いうるもので、支払いは熟慮の上の選択というよりむしろ、自動的行動となる。というのは、納付金は単に事業主へのもう1つの税金と見なされるからである。

他方、納付金はある事業主が障害労働者を採用するうえで直面する困難さを認め、障害者の経済的統合を推進する義務を負うことの代替手段として計画されている。ここでの原則は,経済的理由で割当雇用を充足できない事業主から、統合を援助する地位にあるものへの再分配(又はドイツでの「均等化」)の1つである。全国の納付金基金が受領した額は、事業主や障害労働者への助成金や補助金として再分配されると共に、教育や訓練プログラム並びに、シェルタード・ワークショップを支援するためにも用いられてきた。フランスでは、小企業での障害者雇用がその結果増加してきたように見える。

しかしながら、この2つの目標は,矛盾し得る。納付金は訓練や教育を促進する一方、全般的目標が統合し,態度をかえることであるとすれば、この政策は,そうした点では成功と判断することはできない。労働と権利という対の目的の間には矛盾があり得る。

予防と維持

 仕事での障害の予防及び障害の発生故に職を失う恐れのある人びとの雇用維持が、事業主への責任の移行を反映して、法律と任意の戦略の両方により促進される、政策目標となってきている。政策への関心の程度は,研究対象国間で相当異なる。ある国では、雇用維持は、政策課題とは見なされていない。

予防と維持は,長期の障害給付コストを削る、ないしは、減らす方法として突出してきた。病気や障害での欠勤の予防は、オランダでは大きな政策課題である。またスウェーデンやフィンランドでは、早期職場復帰や雇用維持の促進は優先的政策である。これら3カ国全てで法律上のアクションがとられた。カナダ,米国及び英国では,最近障害者となった人びとで障害者名簿からはずれ、職場復帰するものはほとんどいないということがますます認識されるようになっている。米国及び英国では、事業主への法的要請よりも労働への個人の意欲づけを強化したり、給付制度が持つ意欲阻害効果を減らすことに重点が置かれている。

維持への法的アプローチでは、例えば、事業主や保険機関に個々の従業員のために介入し、リハビリテーション計画を作成したり、実施するよう要請することにより、職を失う恐れのある個人を支援する。勿論、(英国で見られるような)障害者差別禁止法は、障害従業員が非障害者と比べ不利とならないよう、妥当な調整を行うよう事業主に要請することにより、職業維持を促進しうる個別化アプローチである。これは世界的要請でもある。オランダでは、1994年以来事業主は、従業員の安全,健康及び福祉へのリスクを詳細に記し、危険を除去ないしは、減らすよう対策を講ずるよう要請されてきた。

障害の発生を予防すると共に、職を維持するよう労働環境を障害労働者のニーズに合わせることに注意が一層注がれてきた。人と環境との関係として障害が認識されるようになった結果、労働条件を個人の身体的、精神的要請に合わせ、労働条件によりもたらされる潜在的な障害を最小限にすることが、スウェーデンの長年にわたる労働環境法の場合のように、法的に義務づけられてきた。事業主への暫定的な強制的納付金からの収入の相当部分は、スウェーデンでの労働環境を改善するため,企業レベルのプロジェクトに充当された。フィンランドでは、1993年の職業安全法改正で障害者の福祉機器や特別のニーズが考慮されなければならないと規定された。

任意の対策もある。デンマークの事業主,従業員及び地方政府の代表から構成される政府主導の「特別条件下の職業のための委員会」(Commission for Jobs on Special Condition)は、作業能力が低下している従業員を任意に維持することを目的としている。しばしば「障害管理」の名目の下に企業レベルで行われている任意のイニシアティブは、この研究ではカバーされていない。

説得

 私たちは、障害者の雇用可能性についての理解を深めるためのいくつかの政府主導のキャンペーンを知っている。こうしたイニシアティブは、法的義務や財政的対策を補足するものである。

国によっては,説得対策が中心的な政策項目で、法的義務の強制よりも好まれる。長年にわたり好雇用慣例、公務員の新規雇用慣例、及び,認識を深めるためのキャンペーンを行っている英国では、任意の行動が支持される。特定の対象者の採用や雇用実践に取り組んでいる事業主の表彰が、改めて計画されている。同様のイニシアティブが、1996年にアイルランドでも始められた。ベルギーでは、Agence Wallonne及びブラッセル基金が情報を普及したり、啓発をすすめるためいくつかのメディアを活用してきた。

オーストラリア障害サービス・プログラムでは、障害者の雇用を奨励するため、法人セクターを対象としたいくつかの産業ベースの取り組みが行われている。これらは、主要な事業主の支持を得ており、障害者の職業紹介をしたり、事業主の態度や方針を変えることに関わっている。カナダでは,任意の公正雇用及び差別是正措置が国中の官民の団体で確立された。オンタリオ州政府は、最近公立、半官半民及び民間の団体に対し、州レベルでの強制的雇用公正法制を定めた、雇用公正法(Employment Equity Act)を廃止した。それは、障害者やその他社会的に不利な立場にあるグループの雇用を増やすための事業主の任意の努力に対して、さまざまな支援を与える機会均等計画に差し替えられた。

(フランスのように)全国的基金の例もあるが、それは障害者のニーズや状況への事業主や従業員の感受性を高めるために、これらの社会的パートナーに対して支援を行うものである。

一部政府の奨励により、障害者を配慮した募集及び雇用慣行を採用する事業主サイドの集団的な任意行動の例もいくつかある。英国では、主要な事業主が一緒になって「事業主の障害フォーラム」を作っている。例えば、英国やアイルランドでは、労働組合も指導したり、慣例を作ってきた。

事業主への財政支援

 この研究で明らかになった事業主への支援対策のほとんどは、財政的なもので、障害労働者を採用し、雇用を維持するための事業主へのインセンティブはますます戦略的な役割を果たすようになっている。いくつかの国は、初めて財政的インセンティブを実施した。オランダでは、いくつかの事業主へのインセンティブが、障害労働者の統合を促進するため導入された。英国は、事業主に対してほとんど財政的インセンティブを与えないことでは際立っている。

財政的対策は、往々にして「インセンティブ」と呼ばれるが、それらの目的は必ずしもはっきりしない―つまり、それは事業主の生産上のものか、あるいは、態度の変容を奨励するためのものかはっきりしない。財政的対策には、3つの目的があるように見える―障害者の雇用に関連した生産性の減少ないしはコストを補償すること、障害者を採用することへの報奨金ないしはボーナスを提供すること並びに、障害労働者の状況に対応するため職場や労働環境を整備する費用の全て、ないしは、一部をカバーすることである。

生産性の損失への補助は、研究対象国の政策としてますます用いられるようになっている。障害労働者の生産性の低下は、推測されることもある。あるいは、生産性が評価され、インセンティブは評価された損失に基づきケース・バイ・ケースで与えられる。全国的な最低賃金制度が設けられている場合には、生産性と最低賃金との差をカバーするのは国の責任にかかってくる。ドイツでは、賃金コストへの補助の理論的根拠は、特別の有給休暇(通常以上の有給休暇)といった、特別にかかるコストへの補助といわれる。

補助はさまざまな形で行われる。つまり、期限があるものもあれば、(時間が経つにつれ)次第に少なくなるものもある。また、一定の時間が経った後、再評価されるものもある。採用した人びとを対象とした事業主の社会保障給付の免除も共通に見られる対策であり、それはいくつかのEU加盟国ではかなりの額に上る。

障害者に限定された対策に加え、職業紹介が困難なグループの雇用を奨励することを意図した賃金コスト補助や社会保険納付の免除といった労働市場対策がますます多く活用されている。労働市場の優先順位でどのグループが最も恩恵に浴するのかが決まる。1990年代半ばまでの一般的な傾向は、失業中の障害者を優遇することである。フランス、スウェーデン及びフィンランドを含め、失業率の上昇に見まわれた国々では、一時的賃金補助制度が重点的に活用された。フィンランドでは、1994年には一般雇用対象とされたのとほぼ同人数の障害者が、賃金補助の対象とされた。一時的賃金補助は、除外されたグループに通常の雇用にいたる労働市場経験を与える上で重要な役割を持ち得るが、雇用を維持しないプログラムであり、それで与えられるのは比較的地位が低く、低賃金の仕事であるとの批判もある。

賃金補助は、新しい雇用形態の支援を手助けしてきた。アイルランドやドイツでは、社会企業(social firm:(訳注)わが国の重度障害者多数雇用事業所に類似したもの。)が存続し得るかどうかは、こうした支援にかかっていた。

補助を受ける事業主には、条件がつけられる。例えば、彼らは補助期間が終了しても、雇用を維持することが期待される。もしそうしなければ、今後いかなる補助も受けられないか、受領済みの補助金を返還することを要求される。事業主に対しこうした条件をつけていない財政的対策は批判されてきた。

事業主補助は、現金での補助よりもむしろ税控除の形態で与えられることもある。この制度は米国では、雇用目標達成課税猶予制度(Targeted Jobs Tax Credit)との関連で機能しているが、これは事業主を直接助成することを伝統的に嫌うことに関係している。スペインは、財政的イニシアティブを持つ唯一のヨーロッパの国のように思われる。

いくつかの国は、一時払い統合助成金の形での報酬制度を導入した。これらは、一般的には正規雇用に限定されるもので、労働力で不利な立場にあるグループを対象とした雇用創出対策である。そのかわりに、あるいは、追加的に障害者の募集に対して報酬を与える特別措置がある。割当雇用を上回る場合にも報酬が与えられる。統合ボーナスは、ポルトガルでは対策の範囲に加えられてきた。また、Agence Wallanneでは、弾力的な適応補助が与えられる。オーストラリアでは、援助付き就労制度(Supported Work Scheme)の下で労働者を採用した事業主には、雇用開始給付が支払われる。いくつかの新しいインセンティブは、目に見えるインパクトを与えてきた。フランスでは、再分配基金からまかなわれる事業主及び採用された障害者に同時に与えれる統合ボーナスは、特に小企業の事業主の間で評判がよい。

全ての国は、事業主が労働環境(建物上又は労働自体の)改善を手助けするための助成制度を設けている。これらの改善は,通常は任意であるが、米国のADAの遵守の場合のように、強制を伴いうる。これらの助成金の受給には一定の条件がつけられる。例えば、それらは登録障害者のための改善にのみ与えられる。その規定は,障害者であって、登録していない者が職場で妥当な環境整備をしてもらうにはお金がかかるということを認めるに過ぎない。税控除や減税という形での補助は、直接の現金補助というよりも、調整を可能にするため与えられる。ADAの遵守を奨励するためのさまざまな税規則の下で与えられる米国の場合が、これに該当する。

重点は、建物上のバリアーを取り除き、作業ステーションを調整することに置かれてきたが、新しいタイプの援助もカバーされうる。例えば、デンマークでは事業主は主として聴覚又は視覚障害者を援助するための措置である、職場での介助者の費用についても支払われる。オランダでも介助者費用の一部への補填制度が導入された。ポルトガルでは、事業主に対し、雇用した人びとの介助の短期的費用を弁済している。

財政的補助や助成は、労働、教育及び保健を含む、さまざまな政府部局や全国再分配基金からくる。国は、どの障害従業員がさまざま財政対策の恩恵に浴する資格を持つのかについての規定を適用する。さまざまな規定を持つ別々の機関から提供される補助や助成の種類が激増したことで、国の情報キャンペーンはチャレンジに当面している。いくつかの国では、情報の欠如が、助成及び職員に係る予算的制約と相俟って、(助成)給付が低水準という結果を招いているように見える。

さまざまな個別のプログラム提供に関わるものとしては、英国の「労働へのアクセスプログラム」がよい例となる。これは、事業主及び従業員を対象としたいくつかの制度を1つの弾力的なプログラムにまとめたものである。

1990年代に導入されたインセンティブは、募集と初期段階の雇用を対象としたものである。しかし、フランスの再分配基金は、雇用維持及び再開発を促進するための助成を与えるものである。

従業員への財政的支援

 助成金は、障害者自身も対象となりうる。ドイツ、オーストリア及びベルギーは、労働へのアクセス、器具や設備について障害者に直接的援助を伝統的に与えてきた。フランスの再分配基金は、同様のタイプの援助財源を共同負担している。設備や教材費の弁済は、オランダで導入された。アイルランドでの最近の展開には、試験的な「交通費補助」制度及び朗読者の経費について視覚障害を持つ従業員への援助が含まれる。訓練及び雇用にアクセスするための障害者への福祉機器や移動用機器の助成制度が、1994年ポルトガルで導入された。各国を通じての共通の措置は、自動車の改造に利用できる財源と施設である。

研究では、労働力への参入を奨励することを目的とした社会保障制度によるいくつかの対策を明かにできた。これらには、仕事を始めるための1回限りの現金助成(オーストラリアとフランス)及び仕事に就く人びとに対する医療給付の拡大(米国)も含まれる。ドイツは、徐々に就業時間を増やすその割合に応じて給付が減らされ、もし就職に失敗した場合には、経済的損失が補償されるといった制度を設けている。フィンランドのように、リハビリテーション給付にインセンティブが組み込まれていることもある。しかし、ドイツではリハビリテーション給付の額は減らされ、積年のリハビリテーションへの権利は取り去られる。

フィンランド、フランス、スウェーデン及びオランダといった国では、障害者は障害給付と賃金を組み合わしうるが、英国では通常、限られた稼働能力を持つ人びとが仕事につくためのインセンティブとしては限定された就労障害者給付が与えられる。カナダでは、目標補足給付(Targetted Earnings Supplement)が暫定的ベースで与えられる。オーストラリアの援助賃金制度(Supported Wage System)は、研究結果から、障害者も生産性に基づく賃金制度の恩恵にあずかれるということが判明した後、導入された任意のプログラムである。

自営業に従事する障害者も補助や助成の対象となり得る。一定の財政支援対策が,自営業開業を望む障害者のために特に作られているが、その利用率は、自営業従事率が高い国でも一般的に低い。

保護雇用

 保護的措置は,一般雇用市場では対応することができない障害者の就労機会を作るために創設された対策である。シェルタード・ワークショップは往々にして民間のイニシアティブで作られ、後になって国の規制に従うようにさせられた。保護雇用法制は、他の雇用対策と別に、又は、並行して形成されてきた。最近になって保護雇用の役割は,障害者のための総合的雇用戦略の中で考慮されるようになってきた。私たちは、オーストラリアや米国の保護雇用は、より好まれる援助付き雇用に取って代わられていることに注目した。援助付き雇用や「一般雇用」の促進への関心の増大にもかかわらず、ヨーロッパでは保護就労の将来についてのコンセンサスはない。ほとんどのEU加盟国では、それは依然として一般雇用以外の主たる選択肢である。加盟国のほぼ半数での政策は、保護措置を増やすこと―中でもフランス,スペイン及びポルトガルでは著しく拡大している。興味深いことには、つい最近保護雇用セクターを法制化したEU諸国(スペイン,ポルトガル及びギリシア)は、明かにその必要性を認めている。また、これらの3カ国では―全て大規模の保護雇用セクターを持っているが―その水準は維持されている。しかし、オランダの場合には、拡大を抑制すべく一致した努力がなされている。

一定の国では保護就労は、障害者雇用政策にとって大して重要ではないように見える。デンマーク、米国及びアイルランドではそれは、主として社会サービスとして提供され続けている。(保護就労での)所得は、障害給付の補足である。雇用の権利は限られており、その数はほとんど、あるいは、まったく増えていない。保護就労の将来についてアイルランドでは検討中である。フィンランドでは保護就労は、社会福祉と保健ケアの一部であり、サービス水準が低く、定員数は年4%の割合で減っている。シェルタード・ワークシップの役割は議論されている。イタリアではシェルタード・ワークショップは、(協同組合とは逆に)好まれず、サービスは大して利用されていないと報告されている。利用者(とシェルタード・ワークショップ間に)は、雇用契約はない。これらの諸国のほとんどは、援助付き雇用ないしは他のそれにかわるものをめざしているように見える。

英国では、政府の政策により、シェルタード・ワークショップ数は減少してきた。一方、企業内保護就労(supported placements)は、英国の「援助付き雇用プログラム」全体の半分近くに拡大してきた。

一般雇用への移行は、ほとんどの国の保護雇用対策の一応の目標ではあるが、いかなる程度にしろ、ほとんど実現されてはいない。大部分のEU加盟国にとってシェルタード・ワークショップの特別訓練及び社会的支援機能は、利用者を外部雇用に備えるというより保護就労の場での能力と個人的安定を高めることに役立っている。国の介入にとっての障害(obstacle)は、このセクターの経済力と一般雇用セクターでの新たな機会創出上の問題が含まれる。スウェーデンのSAMHALLや英国のレンプロイの場合のように、移行目標を提示する実績協定が適応できる。

(一般雇用への)移行の促進と保護セクターの計画的拡大が並行して行われているフランスでは、保護就労を離れる人びとの採用は、(一般企業にとって)割当雇用目標達成の一助となる。また、フランスではシェルタード・ワークショップと一般企業を新たにリンクする手続きがとられてきた。移行を奨励するメカニズムは、国の財政援助の撤回(オーストラリア)からシェルタード・ワークショップ経営者への経済的補償に及ぶ。いくつかの国ではこうした動きを成功させるために、支援サービスを推進し始めている。スペインの行動計画では、訓練及び移行を促進する上で保護雇用に新たな役割を期待している。ドイツでの新しいアプローチは、障害者の移行を援助するため、専門の統合ワーカーを採用することである。

障害者に対する別立ての特別雇用対策の将来に係る議論は、重度障害者のニーズを充たす最善の方法は何かという問題を浮上させることになる。移行が適当な目標であるという合意はない。イタリアの協同組合は、組合内自足に留まり、移行の概念を避けることを望んでいる。フランスのCATの支持者も、同様の社会的経済モデルを推進する。

いくつかの国では保護対策は、適切な労働条件と雇用契約を提供できないが故に批判されている。

新たな雇用形態

保護雇用か一般雇用かの二者択一は、一定の障害者グループにとっては十分な選択肢ではない、ということが次第に認識されるようになっている。そのギャップは、隔離度が比較的低い、(例えば、エンクレーブ(企業内保護就労)やワークショップ外の)個別就労(individual out-placement)での「保護的」就労機会や援助付き雇用により部分的には埋められているが、新たな雇用形態も求められている。ドイツ政府は、特に高齢者、長期失業者及び、まともな資格をもたない者といった、保護雇用も一般雇用も適当ではない人びとのために全国的な「ハーフウェイハウス」のパイロット・プロジェクトをもくろんでいる。

社会企業又は自助会社は、もう1つの選択肢である。ドイツで最もよい形で設立され、NGOによって運営されるそれらの企業では、障害を持たない人びとも雇用される経済事業において障害者に通常の契約と賃金での普通の仕事が提供される。ほとんどの社会企業は、保護雇用からも一般雇用からも除外されるグループである、精神科的な健康問題を持つ人びとのために作られた。アイルランドでは、政府が最近従業員の少なくとも50%が障害者である会社の障害労働者の賃金を補助するパイロット事業を始めた。

労働協同組合は、EUの他の国でも小規模なものはあるが、イタリアで一番よく知られている。1991年に法律で認められ、かつ、規制されることとなったイタリアの労働統合協同組合は、連帯の原則で運営される自己管理組織である。それらは、社会的不利な立場にいる人びとや障害者の中でも特に精神科的なニーズを持つ人びとに労働の機会を提供している。

結語

 私たちは、障害者の労働力への統合を促進するための政策上の展開を観察するために15カ国の法制とサービスを初めて検討して以来、これまでの4年余を振り返ることができるという、特権的な地位を与えられてきた。

私たちが1990年にレビューした18カ国のほとんど全てで障害は明らかに課題となっている。障害者の失業を減らす新たな方法をすすんで探求したり、試みるための膨大な量の活動や意欲を観察してきた。1990年代始めの不況と、障害者グループの特に不利な状況を際立たせた労働市場状況の悪化が、消極的な福祉対策のコスト増大と相俟って、新しいアプローチが奨励されることとなった。これらの中でも主要であり、かつ、今後の傾向と思われるのは、失業を防ぐための動きである。新しい政策では、職業の維持が強調されている。これらは、国から事業主への責任のシフトを反映すると共に、それを強化するものである。

従来は、一般雇用で働く権利を望まなかったり、あるいは、否定されてきた重度障害者に機会がますます広げられてきている。技術ベースのプログラムや援助付き雇用といった革新的な制度の多くは、こうした人びとのニーズを充たすことを目的としている。特定のタイプの障害を持つ人びとのニーズに合わせた小規模の地方化された職業準備及び職業紹介の専門サービスが芽生えてきている。しかしながら、知的障害を持つ人びとの雇用ニーズへの対応は、精神科的障害や疾患を持つ人びとのそれよりも進んでいるように見える。

人びとの雇用を維持したり、あるいは、彼らを労働市場へ復帰させることを目指した政策と人びとを初めて就職させることを目的としたものとの違いが、大きくなっているように見える。これまで働いたことのない障害者が今後は優先グループとなってくるであろう。したがって、単一の障害政策というよりも複数の障害政策について議論したり、それに伴って公正問題が出てくることを認めることがより適当であろう。

一方では、個人のニーズへの対応として、また他方ではサービス提供の民営化と競争傾向の故に、公的に提供されるサービスに取って代わるものが増えている。それは、障害者自身がサービス提供者として市場に参入する機会を提供することにもなる。その結果、障害を持たないサービス提供者と障害を持つ「クライエント」間の伝統的な隔壁が克服されることになる。一方、この分野での調整の欠如や誰が何を提供するのかについての混乱が、問題となっている。

ほとんどの国では、法制,自発的及び財政的対策やサービスの範囲を広げてきた。範囲拡大の1つの方法としては、差別禁止事項の導入が留意される。もう1つの傾向と思われるのは―1996年の研究には英国が含まれた故におそらくより顕著ではあるが―説得によって事業主の態度を変えることである。これは、規制よりも自発的な行動を好む事業主団体自体並びにいくつかの政府により促進される戦略である。その理論的根拠には、興味深い違いがある―デンマークのキャンペーンでは、企業の社会的責任が強調され、一方英国では、障害者を雇用することが「ビジネスとして引き合う(business case)」ことが強調される。

1993年に(英国中心の立場で)報告書をまとめるにあたって、私たちは1つの国から他の国への政策の移植の可能性を疑問視し、ある特定の対策とか幅広いアプローチの適切さは、一国の雇用及び障害者の両対策内での歴史的及び現代的位置づけ次第であると主張した。1997年初めには、国の政策策定者は、障害者の雇用「問題」の「解決策」をますます他の国に求めるようになっていること、また、障害者とその味方も国内での抜本的な変革を促進したり、それを達成するのに他国の経験に頼るようになっていることは、明かである。ヨーロッパへの市民権方式の移入は,明かに国の政策の首尾一貫性を高める可能性のある、例である。もう1つのよくある結果は、障害者の雇用機会を促進する戦略の拡散及び、ある場合には政策アプローチ上の内部矛盾と対立の増加である。

この研究は、18カ国における障害者の雇用対策を幅広く概観することを意図したものである。私たちは、障害政策及びサービスを利用者ではなく、政策策定者あるいはサービス供給者の観点から報告した。性、人種、年齢、教育、職歴、障害の種類や原因及びそれらの相互作用といった重要な変数については、ほとんど取り上げなかった。1993年の際と同様、新たに得られたか、維持された雇用の質あるいは雇用での向上についてもほとんど触れなかった。教育、輸送、住宅、人的支援及び所得保障政策の領域での統合への寄与あるいは障壁を考察するために、労働市場の範囲を超えた検討はしなかった。実際、職業的統合政策のみを通しての変革の可能性について疑問視する人もあろう。

記述的概観では、異なる法的対策や他の工夫の有効性について明確な答えを提供することはできない。私たちは、記述からは対策への啓発や態度についてほとんどわからない。数が増え、しかも断片的であるのは政策の性質にある。したがって、研究対象となったいずれの国にも単一の首尾一貫した障害者雇用政策がないということは、驚くにあたらない。概して政策の目的は不明確で、そのために内的矛盾と緊張状態にあることに私たちは留意した。政策対応と対策についての総合評価は、限られている。実際私たちは、2つの主要な疑問―つまり、障害者雇用政策は何のためか?そして首尾一貫した政策とは一体どのようなものなのか?―にはいまだほとんど答え得ていないのである。

▲戻る


主題:
18カ国における障害者雇用政策:レビュー No.10

発行者:
ヨーク大学社会政策研究所 1997

発行年月:
1997

文献に関する問い合わせ先:
Publications Office Social Policy Research Unit University of York Heslington York YO15DD UK
Telephone:+44(0)1904 433608
Facsimile:+44(0)1904 433618
Email:Spruninfo@york.ac.uk