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ヨーク大学
SPRU

18カ国における障害者雇用政策
:レビュー No.8

パトリシア・ソーントン、ネイル・ラント

ヨーク大学社会政策研究所

Patricia Thornton and Neil Lunt
Social Policy Research Unit
University of York

ILO                                  HELIOS


ポルトガル

政策と制度的情況

障害者政策と法律

 1976年のポルトガル共和国憲法71条は、障害を持つ国民は、他の全ての国民と同様の権利を有し、また、同様の義務を負うとしている。憲法は政府に対し、障害者に関して、障害の予防、治療、再教育、社会への統合等について国家の政策を策定することを義務づけている。さらに、社会を啓発し、障害者と共生する社会の実現を目的とした施策の実施を命じ、障害者が十分その権利を享受することを保障した。

1989年の障害者総合法(9/89号、以下総合法)により、国家政策が策定された。これは、憲法で規定された障害の予防、治療、リハビリテーション、機会の均等化についての権利の行使を保障することを目的としたものである。それは、障害者のあらゆる生活側面に影響する6つの基本的な政策原則を提示しているが、それらは、雇用も含む領域でのあらゆる差別を取り除くことでもたらされる機会の均等化を含む、リハビリテーション政策をガイドしている。この法は、より普遍的かつ人道主義的な原則に基づき、革新的な概念枠を認めるものとみなされている(1992年8月22日法令184/92)。

この法はまた、保健、教育、社会保障、職業訓練、雇用、交通、住宅、公共建築物、財政、文化、スポーツ、レクリエーション分野の国の制度の政策目的も提示している。この政策の意図したところは保健、教育、社会保障、雇用の各分野での連携網を構築することにある。

この政策は、一貫して、統合の妨げとなる社会的、文化的、物理的なバリアを排除し、個々のニードに配慮をしながら機会の均等を達成することを目的としている。

ポルトガルにおいて、障害者に関する法整備を大きく前進させたのは、1981年の「国際障害者年」と「国連の障害者に関する世界行動計画」がきっかけとなっている。法律の主要項目、並びにそれらに対応する組織機構は、ほとんど全てのこの源からきている。1987年、1991年、1992年と三度にわたり、国連に対し障害者に関する世界行動計画についてポルトガルの国内実施リポートを提出した。このような動きは、ポルトガルの障害者政策が世界行動計画の内容を尊重し、これを基調にして策定されていることを物語っている。

労働市場と雇用政策

 ポルトガルでは、1993年、1994年と失業が増加の傾向にあった。それでも、1995年の失業率7.2%(MISEP)というのはヨーロッパ連合(EU)諸国の中では最も低い国の1つである。失業とは、労働力の技術水準と労働需給とのミスマッチに由来するもので、本質的には量の問題ではなく、質の問題である(Multiannual Employment Programme, 1994-1999)。多くの若者が職業資格を持たずに早期に学校を辞めており、また、ほとんどの労働者の技術水準は低い。長期失業率が増加傾向にある。現在の雇用政策は、特に労働者の技術や作業能力を高める政策に重点が置かれている。

障害者雇用政策の進展と法律

 ポルトガルは、障害者の職業リハビリテーションと雇用に関するILO第159号条約(1983)に早期に署名した国の1つである。

障害者の雇用政策は、1980年代初めに作られた。1982年には雇用主に対する財政支援制度が創設され、1983年には保護雇用を導入する法律が成立した。1980年代に、このような制度が徐々に形成されていった。

1980年代の後半に、新旧の施策を実施するための政策や規則について新しい声明がみられるようになった。新しい法律の推力となったのは、政策に一貫性を導入すること、その運営を弾力化すること、並びに障害者の機会均等を推進することであった。政策を実行させるに当たって、非政府組織(NGO)が相当重要な役割を果たした。

多角的専門家による、できる限り厳格な評価と指針作りという基本的な重要性に大きな力点が置かれた(法令247/89)。障害者の指導、訓練、及び職業紹介を支援する手続きが、厳正な施行規則に従って作られた。専門職員の研修や、訓練を向上させるための新技術の活用と併行して、職業指導や特定の職業訓練に政策の重点はとどまっている(Multiannual Employment Programme, 1994-1999)。

雇用対策法は、障害者を一般労働市場に統合することを目的としているが、対象者は雇用センターに登録されているか、もしくは評価中の障害者のみである。

障害者を一般労働市場に統合するための強制的な雇用対策はないが、銀行業界では自発的に従業員の2%を障害者に割り当てる制度を創設した。また、保険業界では、現社員及びすでに死去した社員の子供に障害があれば優先的に雇用する協約に合意した(IEFP communication)。

政策の立案と施行

 1988年、障害の予防、リハビリテーション、障害者の社会的統合に関するガイドプランが政府閣僚会議で承認された。これは、担当の部局が民間団体と協議して原案を作成したもので、労働・社会保障省が政府の実施責任機関となった。

1989年には、法令247/89号により、政府における雇用政策の担当機関は労働・社会保障省管轄下にあり、1979年に設立された雇用・職業訓練研究所(the Institute of Employment and Vocational Training, IEFP)とすることが決定され、国の雇用政策推進の骨格が形成されていった。

この法はまた、政策の策定に当たり基準の統一化と共に、民間団体の意見を重視すること、特に、具体的なプログラムの作成には必ず障害当事者の声を反映することを命じた。さらに、1990年の施行細則(99/90号)により、リハビリテーション・プログラムの実施機関に対して与えられる技術的また財政的な支援措置の実施についての詳細が規定された。
IEFPは、障害者団体、あるいは公的機関や民間組織が職業前教育、職業相談、訓練及び再訓練、一般労働市場での雇用、保護雇用、自営業等についての具体的なプログラムを実施することを支援する。

リハビリテーション・サービス局(Directorate of Rehabilitation Service)が職業訓練や雇用分野での政策実施責任機関となり、基本政策や法案の策定、教育、国際関係、調査、計画立案、及び他の公共的なサービスとの調整などに当たる。また同局は、職業リハビリテーションと雇用サービス間の技術的な調整を行い、障害者の社会的、職業的統合に携わるスタッフの研修も実施する。さらに、非政府組織(NGO)を含む職業リハビリテーションの実施機関を援助する。

政策調整
労働・社会保障省の管轄下にある全国リハビリテーション事務局(the National Secretariat for Rehabilitation, NSR)は、各省庁にまたがる政策の調整を担当する組織であり、1977年以来国のリハビリテーション政策の先導機関となってきた。NSRは、1992年8月22日発布の法令184/92により組織や機能の見直しが行われた。主な役割は以下のとおりである。

  • 障害者に関する国家リハビリテーション政策の策定
  • 障害分野やリハビリテーション分野で活動する団体の育成と調整
  • 障害者に関する社会啓発の実施
  • 科学的及び技術的な調査・研究の促進
  • 国際協力関係の構築
  • 非政府組織(NGO)の役割の推進と監督
  • 創設すべく法的施策の提案とこれに基づく創設政策の施行

 1993年に、NSRの主導により、2000年をめざしたリハビリテーション行動計画の策定と実施を目的とした委員会が発足した。この委員会は、障害者統合法の下で責任のあるあらゆる分野の政府機関代表から構成される。

ソーシャルパートナーと障害者団体
NSRの諮問機関である全国リハビリテーション協議会(the National Council for Rehabilitation)は、1992年に組織改編された。構成メンバーは17人であり、各省の代表が7人、残りの10人は非政府組織(NGO)、労働組合、経営者、公的及び民間の慈善団体の代表となっている。政策、プログラム、サービスの実施についての諮問を主な仕事とする。

ソーシャルパートナーは、IEFPの中央レベルの執行理事会や監督委員会にも参加している。地域レベルのIEFPでも、5つの地域代表団及び地域諮問協議会でも、労働組合や経営者団体の代表がメンバーとなっている。

障害当事者団体の参加を強調した国際機関のガイドラインに従って、1992年「対話グループ」が発足した。このグループは、NSRの代表と22の障害者団体の代表によって構成されている。

障害の定義

 総合法第12条(9/89)は、障害者を以下のように定義している。
「先天的あるいは後天的な理由により、精神的、知的発達的、身体的な本来の状態が失われているか、もしくは変異し、能力を発揮することが制限され、年齢や性別を考慮して通常と思われる活動や一般的な社会文化活動への参加において不利な状態にある人」

「障害者」とひとくちにいっても、障害の種類や程度、障害による不利はさまざまであり、ひとくくりにすることは決してできない。

職業的には、法令247/89において、障害者とは、「身体的、精神的な障害により、年齢や性別、能力、それまでの職業経験に適した職を得ること、又は職を維持することが困難である人」としている。

統計

 1995年のポルトガルの労働年齢人口は678万5,900人で、就業人口は475万4,300人であり、32万5,400人が失業している(MISEP, 1997)。

障害者の数は、精神障害者、又は知的障害者(mental disability)が12万1,000人、学習困難者(learning disability)が9,200人、視覚障害者が5,000人、移動障害者(a motor disability)が1万2,167人となっている(Employment Operational Programmes)。

最新のデータは、1981年に実施された国勢調査によるものであるが、15歳以上64歳までの労働年齢人口の6.4%に当たる40万2,000人が就業不可能者とされている。1996年9月の時点で、拠出性の障害年金の受給者は38万4,500人であった。この年金は、男性は65歳以下、女性は62歳以下で病気や労働災害以外の事故が原因で障害を負い、作業能力が通常での能力の最低3分の2が損なわれている人に支給される(IEFP communication)。1988年の職業上の病気や労働災害による労災年金の受給者は6万7,500人で、この中の多くは比較的軽度な障害者である(Grammenos 1992)。この数字は、1992年になってもほぼ変化はしていない(Grammenos 1995)。

障害者の失業に関するデータや統計は整備されていない。

障害者の就業に関するデータは、労働・社会保障省の統計局が1994年に従業員100人以上の企業を対象にして行ったものがある。この結果、594社に2,817人が雇用されていることが判明した。この半数以上が従業員数1,000人以上の企業に雇用されており、14%が100人から199人までの企業であった。

雇用支援サービス

職業準備

教育省とIEFPは共同で、義務教育の最終学年にある障害者に職業準備プログラムを提供し、また、16歳以上の全ての障害者には職業相談を行っている。この両者は、ワークショップの設立、機械設備の購入、訓練指導員の給料補填等の財政的、技術的な援助も行う。障害者の親の会、特殊教育の実施者等の非営利団体や公的機関が、この職業準備プログラムの提供者となる。

表P.1 職業準備プログラムの提供団体数と参加者数、1989-1995年
団体数 参加者数
1989 63 1,535
1990 49 1,275
1991 47 1,150
1992 43 1,021
1993 43 662
1994 30 645
1995 30 672

出典:IEFP communication

現在、プログラムの見直しが行われている。最近は、作業訓練に重点が置かれている。1989年から1995年までに参加者数は50%以上減少している。(表P.1)

職業指導と職業評価

 正式な評価に基づく指導を受けるか、あるいは職業訓練を成功裏に終了した場合には、障害者は一般労働市場での雇用や自営のためのプログラムに適しているとみなされる。

IEFPは、ポルトガル全土にある地方雇用サービスを通じて、雇用の可能性評価や職業指導を行っている。これはまた、全国レベルで運営されている2つの職業リハビリテーションセンター内の2つの特別ユニットを持っている。

また、公的機関や民間の非営利団体もリハビリテーション措置の一部としてサービスを提供している。

IEFPの2つのセンターのデータがあるが、これによると1995年のサービスの受給者は300人となっている。受給者の数は、1991年は560人であったが、これ以降毎年減少している。

職業訓練
障害者の高失業率の要因の1つは低水準の専門的資格であるため、職業訓練は統合を成功せしめるための基本的な必須過程とみなされている。

IEPRは、16歳以上の障害者が一般労働市場で仕事に就き、かつ、それを保持し、かつ、専門的に向上できるだけの専門資格を取得するのに必要な技能を身につけられるようにするための制度を支援している。運営費の補助金は、採用や職業指導に要するコスト、訓練生の日用生活品、訓練手当や保険、訓練生やその他スタッフの給料や研修費用に当てられる。企業が、自社において職業訓練を行う場合でも同様の財政補助制度がある。また、職業訓練事業の実施に対する無利子融資制度もある。

IEFPは、外部の民間非営利団体とも職業リハビリテーションプログラムの実施契約をしている。1985年以降、両者は共同で職業リハビリテーション事業の運営に当たり、職業指導、訓練、再訓練、目下のニーズを充足させるための研究等のサービスを実施している。小規模ではあるが、IEFPが直接運営するセンターにおいても職業訓練プログラムが行われている。

多くの自立センター(Independent Centre)でも職業訓練が行われ、その数は1989年から1995年の間に倍増した。職業訓練を受けた障害者の数は、1989年には1,195人であったが1995年には5,569人に増加した。IEFPの直接運営するセンターで訓練を受けた障害者の数は徐々に多くはなってきているが、全体でみればわずかである(表P.2)。

表P.2 職業訓練センターと参加者
直接運営センター 共同運営センター 非営利団体の運営 全体
センター数 参加者 センター数 参加者 センター数 参加者 センター数 参加者
1989 1 105 1 113 50 1977 52 2195
1990 3 175 2 193 68 2891 73 3259
1991 1 128 2 244 77 3311 80 3683
1992 3 193 2 340 90 3947 95 4480
1993 4 202 2 372 99 4807 105 5381
1994 3 210 2 251 95 4813 100 5274
1995 2 498 2 245 99 4826 103 5569

出典:IEFP Communication

1991年のIEFPのレポートによると、地域密着型の雇用・訓練統合プログラムは、4つのプログラムで500人の障害者を対象に実施された。このプログラムは、特に視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、精神障害者を対象にし、オンザジョブトレーニングやサンドイッチスタイルコースの統合型の手法をとり、地域にある通常の教育や訓練設備を使用して行われた(The rehabilitation area within IEFP)。

職業紹介

 職業斡旋についてのデータはほとんどなく、労働・社会保障省の統計局が従業員100人以上の企業に行った調査の結果、同省の雇用センター(Employment Centre)は全体の3%に当たる2,819人の職業紹介を行ったことが判明した。

職業訓練や職業紹介を行うスタッフの、養成訓練や研修の必要性がずっと指摘されてきた。1988年9月付けでヨーロッパ理事会に提出された報告の中で、現在ではまだ障害者の職業紹介サービスの提供においても、またその政策の策定においても、実施担当者の能力や経験不足があるとしている。また、同時期において全部で58カ所のジョブセンター(Job Centres)のうち、障害者に対し職業カウンセラー、産業医、職業紹介専門員を配置しているのはわずかに3カ所のみであった。

1992年に提出された「国連・障害者の十年」の国内評価レポートには、次の10年間に向けてポルトガル全土でスタッフの技術向上に力が注がれると述べられている。IEFPは、1989年から1995年までに全部で739人の専門家が、IEFPのリハビリテーションサービス委員会(Directorate of Rehabilitation Services)の各研修を受け、1995年だけで270人に対して研修が実施されたと報告している。

一般雇用:法的義務と権利

 ポルトガルには、障害者割当雇用制度のような強制的な雇用制度はない。

解雇

 ポルトガルでは正当な理由以外の解雇は法的に禁止されている。障害は解雇の理由とはなり得ない。現行法(1989年法令64A/89)によれば、解雇の理由は、契約期間の満了、労働関係の維持を妨げる労働者側の行動、経済的理由での余剰労働者に限られる。障害者の解雇に対する特別の保護はない。

ポルトガル障害者団体(APD)は1993年、障害者が直面する大きな問題は、解雇や強制退職を許し、障害者の仕事の維持を擁護しない法制度であると報告している(personal communication)。

採用

 従業員20人以上の企業に対しては、社員が業務上の事故で障害を負った場合、その障害に十分な配慮をしながら、優先的にその社員を再雇用することが義務づけられている。

啓発政策

 社会経済的な統合プログラムの1つの手段として、雇用分野においては多くの雇用を創出し、また他のリハビリテーション分野においてもその本来的な目的を達成するために、より効果的な方法としてインフォメーションや社会に対する啓発が重視される(Multiannual Employment Programme, 1994-1999)。

例えばポルト(Porto)県では、職業訓練機関とポルト経営者協会が共同で経営者クラブを設立した。このクラブは、障害者を常用雇用する雇用主に対して援助を行っている(HELIOS EIA 1995 Annual Report ' Integration')。

表彰制度

 1990年から1992年までの3年間、障害者雇用できわだった実績のあった雇用団体に対し、功績証と名誉銘板(plaque)が贈られた。特に知的障害者及び精神障害者の雇用を促進した雇用主に対しては、より高いポイントが与えられる。表彰式は、国で定めた「障害者の日」の公式行事の中で行われた。

3年間で合計181社が表彰されたが、このうち1992年だけで77社が対象となった。

一般雇用:財政的施策

 一般雇用を促進するための財政支援制度には以下のものがあるが、この制度の対象となるのはあくまでも然るべく職業評価や職業訓練を修了した障害者に限る。また、これらの支援制度は障害者だけではなく、新規学卒者、長期失業者、女性失業者、高齢失業者等の雇用や自営の促進に対しても適用される。

雇用主に対する支援

 1989年8月5日の法令247/89号は、1982年に制度化された(政府命令52/82)財政支援制度に対して新たな制度を追加した。それは、障害者の介助に対する補助金の支給であり、また、障害者を常用雇用する雇用主に対する報奨制度である。1986年に雇用主に対して、雇用する障害者の社会保険料雇用主負担分が免除となった。

このように、徐々に、特別な配慮が必要な人々あるいは優先的な措置が与えられる人々として、障害者の雇用促進制度ができあがってきた。

補償手当
再訓練又はリハビリテーション制度の下に障害労働者を雇用する企業に対する、一括払いの補償金が1982年に導入された。1989年法は、その目的が、障害労働者が仕事に適応又は再適応する間、雇用団体に対しその生産性の低さを補償することにあることを明らかにしている。ただし、その対象となる障害労働者は、開始時に仕事の生産能力の25%を達成できるものとされる。この補償額は、3ケ月後には開始時の20%、6ケ月後には40%、9ケ月後には75%とそれぞれ減額される。1年を経過しても目標生産高の80%以上を達成できない場合は、雇用主は最も低い率での適用をさらに2年間延長申請できる。

統合報償金
1989年法では、終身契約で障害労働者を雇用する雇用主に対し、障害者1人につき最低賃金の12倍の報償金が支給される。

(個人)介助手当
1989年法では、雇用主は、個人介助(社会・職業的統合、生産システム及び職場への適応のプロセスを通じてのフォローアップと支援)を提供するために契約した職員への給与を弁済するための助成金を申請することができる。具体的な助成額は、月額最低賃金の2倍を上回らない額で、雇用時より3ケ月間支給される。明白な理由が認められた場合、雇用主は最長6ケ月とし1ケ月ごとの延長申請ができる(MISEP,1992)。

職場の改善
企業やその他の団体が障害者を雇用する場合、設備や装置を改善するための費用への助成は、命令によって1982年に作られた。1989年法改正で、障害者を雇用したり従業員が障害者になった雇用主が助成金を申請した際、IEFPは技術的解決策を評価することとなった。

建築バリアの除去
1982年に命令で初めて導入されたが、1989年の法改正で、障害者を雇用したり従業員が障害者になった雇用主が助成金を申請した際、IEFPがアクセスや職場内の障壁を除去する技術的解決策を評価し、また、関連の障害を評価することとなった。助成額は、最大で最低賃金月額の12ケ月分としている。

表P.3はこれらの助成制度を利用した障害者数の年次推移である。

表P.3 年次別助成制度の利用者数
補償金 雇用報償金 (人的)介助 職場改善と障壁の除去
1989 140 - - 13
1990 177 52 13 8
1991 275 201 78 29
1992 294 247 59 31
1993 430 297 95 47
1994 293 264 80 27
1995 372 289 120 30

出典:IEFP communication

雇用主の社会保険料負担分減免
障害者を常用雇用する雇用主は、障害者1人につき社会保険料雇用主負担分の50%を免除される。この制度は、1986年9月19日の法令299/86により創設され、1987年に施行され、1991年3月21日の法令125/91で改正された。1987年の減免対象障害者数は34人であった。表P.4によると、この数は1996年には1,050人に増加した。1996年の1月から7月までに424社の800人がこの制度の適用を受けた(IEFP communication)。

雇用主には、新規求職者を雇用する場合は36ケ月まで、長期失業者を雇用する場合は無期限の社会保険料の減免制度がある。また、期間契約の場合は期間中50%の減免となる(Multiannual Employment Programme, 1994-1999)。1994年に、新規学卒者の雇用について、4万2,750人がこの減免制度の対象となった(MISEP, 1995)。

表P.4 年次別社会保険料雇用主負担分の減免制度適用障害者数
人数
1991 200
1992 381
1993 470
1994 575
1995 958
1996 1,050

出典:MISEP 1991, 1995, 1997

障害者への支援

援助
雇用や訓練の場へのアクセスを可能とする支援機器や、電動車いす取得への助成金のための措置が最近作られた。1994年のこの制度の利用者は342人であり、助成総額は1,521万9,000エスクード(1エスクード=0.79円)であったが、1995年にはそれぞれ500人、1億2,357万3,000エスクードとなった。

自営
自分で起業しようとする障害者に対する支援は、1982年4月26日の政府命令52/82によって規定された。1989年の法は、一般労働市場で職に就くことや職を維持することが難しく、自ら起業しようとする障害者で自己資金が不足している人は、開業資金の助成を申請できるとした。助成額は、最大で最低賃金月額の16ケ月分である。また、これとは別に無利子の融資制度があり、返済期間は10年間となっている。機材購入に対しては上限が最低賃金月額の20ケ月分まで、建物や設備の建設や改造に対しては上限が最低賃金月額30ケ月分までとなっている。自営障害者が他の障害者を雇用した場合、貸付金の返済についてさらに便宜が図られる。

Lheureux(1991)は、1982年から1987年までに1,500人の障害者が自営に対する助成制度や融資制度を利用したとしている。

表P.5は1989年から1993年までの利用者数である。

表P.5 年次別自営障害者に対する開業資金助成制度の利用者数
利用者数
1989 280
1990 333
1991 196
1992 145
1993 218
1994 147
1995 179

出典:IEFP communication

労働と年金の結合
1991年に、就業の状態にある障害年金受給者及び老齢年金の受給者に対し、社会保険料率が11%から9.5%に引き下げられた。

保護雇用

 保護雇用は、法令40/83によって1983年に制度化された。施行規則は1995年に出された(法令37/85合)。

Samoy(1992)は、最初のワークショップは1988年に設立されたとしているが、SeyfriedとLambert(1989)の研究によれば、すでに1980年代の初頭よりワークショップが存在しており、そのいくつかは正式の保護雇用施設に発展したということは明らかである。多くのワークショップが障害者の親によって作られた(Waddington 1992)。

重度障害者に対しては、別の対策がとられた。1989年の法令18/89は、自立能力が低く、通常の生産能力の30%以下の作業能力しかなく、一般雇用や保護雇用での就業を可能とする職業訓練を受けることができない重度障害者のために作業センターの利用を制度化した。センター利用者は、報酬と販売した商品からの純益の一部を受け取る。これらのセンターは、社会保険機関により設立された。

目的と対象者

保護雇用の原則は1983年の法令によって規定されている。1985年の改正(194/85)では、主として障害用語が削除された。
保護雇用の目的は以下の3点となる。

  • 障害のために、通常の労働市場で就業することが困難で、作業能力が同職種における障害のない人の3分の1以上ある全ての障害者に対して職業訓練を提供すること。
  • 可能な限り一般労働市場への移行を促進すること。
  • 契約がある安定した雇用の場において働く権利を可能にすること。

 申請者は、適切な医学的リハビリテーションプロセスを終了し、労働・社会保障省の適当な事務所に登録していなければならない。評価は、IEFPによって任命された4人の専門家チームによって行われる。申請者は、日常生活動作が単独で可能であり、仕事上の規則を理解し守ることができなければならない。

措置と資金

 保護雇用の形態は、保護雇用センターにおけるものと一般企業におけるもの(エンクレーブ)がある。在宅での就労は法律上保護雇用とみなされていない。

保護雇用センター(Sheltered Employment Centres, SECs):保護雇用センターでは、障害を持たない従業員の数が全体の従業員数の25%を上回ってはならない。

エンクレーブ(Enclaves):エンクレーブは、通常の労働環境において、特別の条件の下に一緒に仕事をする障害者グループと理解されている。この場合、職場は障害者だけが孤立するのではなく他の従業員との接触が可能な場所でなければならない。エンクレーブは、国の主導により導入され、公的機関や民間団体、生活協同組合等により運営され、労働・社会保障省は優先的にこれを許可する。どのエンクレーブも同省によって認可された独自の運営規則を持つ。

表P.6は、保護雇用センターとエンクレーブを行う事業所数と従業員数である。

IEFPは、保護雇用の実施に対し、技術的あるいは財政的な援助を行う。財政支援制度は、設備整備に対する貸付制度、建物や設備の維持に対する補助金制度、建物に対する貸付制度等がある。また、障害者の作業能力によって決定された賃金と国の最低賃金との差額や、最低賃金の70%とされる試用期間中の賃金が補填される。

表P.7は1989年から1992年における保護雇用への予算額である。

表P.6 年次別保護雇用を行う事業所数と従業員数
事業所数 従業員数 全体
保護雇用センター エンクレーブ
1989 13 182 178 360
1990 18 513 257 770
1991 28 794 240 1034
1992 28 791 274 1065
1993 30 846 287 1133
1994 30 689 436 1125
1995 30 689 436 1125

出典:IEFP communication

表P.7 1989年~1992年の保護雇用への予算額(単位:ESC)
1989 1990 1991 1992
375,000 558,200 329,750 553,000

出典:IEFP communication

労働条件

 保護雇用にある障害労働者も一般雇用の労働者と同様に、働く権利と義務、そして労働に対する対価が保障されている。試用期間中を除いては最低賃金の適用が義務づけられる。試用期間中は最低賃金の70%が支給される。希望があれば労働時間の短縮も法によって可能となる。夜間勤務や交替制の仕事をする場合は、リハビリテーション専門家チームの承認が必要となる(MISEP, 1995)。

活動

 Lheureux(1991)によれば、保護的就労は主として(商品やサービスの)取引活動をめぐって組織されている。彼の分類によると、多く行われているのは以下の業種である。
印刷、グラフィックデザイン、乳製品製造、ベーカリー、木工品、建具業、農業、電気、服飾、清掃、園芸。

従業員

 SamoyもLheureuxも共通して、保護雇用されている従業員に関するデータが整備されていないことを指摘している。同じく、保護雇用から一般雇用にどの位の人数が移行しているのかも不明である。Calado(1995)は、一般雇用への移行を妨げているのは生産性の高い労働力を失いたくないという保護雇用センター側の姿勢と障害者の家族の態度であると指摘している。

要約

 障害者の権利の保障と政府に対して障害者政策の策定を命じた1976年の憲法の精神に基づき、1989年障害者総合法(総合法)が成立した。基本理念は「機会の均等化」であり、障害者個々のニードをつかむこと、そして障害者を社会に統合することを妨げる社会的、文化的、物理的なバリアを除去し、全ての差別を撤廃することを目的とした。ポルトガルの障害者政策は、国連の障害者に関する世界行動計画(United Nations World Programme of Action)の影響を受けている。

1980年代初頭に障害者の雇用を促進する政策が次々と打ち出され、1983年には保護雇用を制度化した法律が成立した。総合法は、非政府組織(NGO)の役割を重視し、一貫性のある政策の施行、さまざまななリハビリテーションプログラムの標準化と厳正な実施を求めた。職業技術や障害者の能力開発が最大の課題とされ、訓練実施者に対する研修や訓練にも注意が払われた。

総合法では、障害者を「先天的あるいは後天的な理由により、精神的、知的発達的、身体的な本来の状態が失われているか、もしくは変異し、能力を発揮することが制限され、年齢や性別を考慮して通常と思われる活動や一般的な社会文化活動への参加において不利な状態にある人」と定義している。

また、職業的には、関係法令において障害者とは「身体的あるいは精神的な障害により、年齢や性別、能力、それまでの職業経験に適した職を得ること、又は職を維持することが困難である人」としている。

全国リハビリテーション事務局(NSR)が、リハビリテーション施策の実施と調整に当たっている。1993年に、2000年までにリハビリテーション行動計画の策定と実施を目的とした委員会が発足した。各界の関係者や非政府組織(NGO)がNSRに代表を派遣した。また、NSRの代表と22の障害者団体の代表によって構成される「対話グループ」も誕生した。

労働・社会保障省所管の雇用・職業訓練研究所(IEFP)は、政府の雇用政策の責任担当機関であり、障害者の職業前教育、職業相談、職業訓練及び再訓練、一般雇用、保護雇用、自営等種々の政策の予算執行を行う。また、障害者職業相談、職業訓練センターは公的機関によるものと民間によるものがある。

雇用法は、障害者を一般労働市場に統合することを目的としているが、対象者は雇用センターに登録されているか、もしくは評価中の障害者のみである。一般雇用では、大企業が自社の社員が業務上の事故で障害を負った場合、優先的にその社員を再雇用することが義務づけられているが、あらゆる施策は財政的なものである。主なものには、障害者が仕事に慣れるまでの低生産期間に対する補償制度、社会保険料事業主負担分の免除、雇用報奨金の一括払い、職場の改善や建築バリアの除去に対する助成制度等がある。また、雇用主に対し、最長6ケ月間、障害者が仕事に適応するために必要な介助者の人件費を補助する制度もある。

障害者に対しては、各種の技術支援機器や訓練や仕事の場所へのアクセスを可能とする電動車いすを支給する制度が新設された。また、自営をめざす障害者への開業資金助成制度もある。障害者雇用に実績のある雇用主を表彰する啓発制度もある。現在のものは雇用主に対する啓発を行うものであり、実際障害者を常用雇用する雇用主に対して助成を行う経営者クラブも設立された。

保護雇用は1985年に実施されて以来、1995年には30の事業体に1,125名が就労するまでに拡大した。対象者は、障害のために通常の労働市場で就業することが困難で、作業能力が通常の人の3分の1以上あるとし、その目的は障害者への職業訓練の提供、可能な限り一般雇用への移行の促進、雇用契約に基づく安定した仕事を提供し労働する権利を保障することにある。保護雇用センターにおけるものと一般企業におけるエンクレーブ方式と2つの形態がある。保護雇用の実施者に対しては、IEFPにより、設備整備に対する貸付制度や障害者の賃金と国の最低賃金との差額を補填する制度等の、技術的、財政的支援が与えられる。

1995年には就業人口は475万人であり、32万5,400人が失業状態にある。1981年に実施された国勢調査によると、15歳以上64歳までの労働年齢人口の6.4%に当たる40万2,000人が就業不可能者とされている。残念ながら障害者の就業あるいは失業に関するまとまったインフォメーションやデータは整備されていない。

スペイン 1)

政策と制度的情況

障害者施策と法律

1978年に制定されたスペイン国新憲法は、第49条において身体障害者、知的障害者、精神障害者の基本的な権利の保障、すなわち、障害のある人びとに充足された生活と社会への完全統合を保障し、障害に苦しむ人びとには的確な援助とケアを保障することを明確に規定している。この規定に基づき、政府は障害者の社会的な統合を基本とした施策を施行する義務を負う。憲法第14条において、スペイン国民は法の下に平等であり、出生、人種、性、宗教、言論、その他あらゆる個人的あるいは社会的な状況において差別されないと規定している。個人的な状況とは能力の不足や機能障害も含むが、本憲法では明確で効果的な差別の禁止までは規定していない(Sanchez-Cervera,1997)。

1982年、障害者の社会的統合に関する法律(the Disabled Persons Social Integration Act、以下社会統合法)が成立した(1982年4月7日施行第13番法)。これは1978年憲法の理念を具体化したもので、その第2条において、政府は障害者の社会的統合を進める法律を作るに際しては、1971年12月20日国連で採択された「知的障害者の権利宣言(the Declaration on the Rights of Mentally Retarded Persons)」及び、1975年12月9日に採択された国連決議第3447号「障害者の権利宣言(the Declaration on the Rights of Disabled Persons)」を尊重し、また政策もこれらの宣言の精神に十分基づいたものとする、とされている。

社会統合法は、障害者の権利を擁護するために明確で具体的な法律や政策の立案、雇用面においては一般労働市場やシェルタード・ワークショップにおける雇用や職業訓練の促進等の対策を次々と打ち出した。また、障害の予防、医療や心理的なケア、適切なリハビリテーション、教育・指導の提供、雇用面における統合化、そして経済的、法的、社会的な最低限の権利の保障や社会保障に関する政府の義務を明確にしている(第3条)。

さらに、建築物、公道、公園、庭園等においてはアクセシビリティーに十分配慮した建築設計や都市計画基準を設けることを自治体責任者に要求している。

1991年5月、社会大臣は社会統合法の施行に際する不足事項を充足するための行動計画案を下院に上程した。下院は本会議でただちにこれを承認し、社会・雇用政策委員会(the Committee on Social and Employment Policy, CES)の中に障害者問題に関する作業小委員会を設置した。

作業小委員会は1992年12月にそれまでの作業をまとめ、職業的統合、経済的・社会的手当の給付、教育、バリアの排除、予防とヘルスケア、企業や関係団体の参加等の諸分野に関して個別な政策を提案し、また行政当事者には政策の理念に基づく具体的なサービスの提供を命じた。

これらの勧告は、国連、欧州連合(EU)、欧州委員会、国際労働機関といった国際機関の最重要勧告と合わせ、国家社会サービス研究所(the National Institute for Social Services, INSERSO)が障害者行動計画を策定するに当たって考慮に入れられた。それはまた、EU加盟諸国の動向や実践をも参考にした。行動計画は、以下の3点を基本的な原則としている。

  1. 議会における全会一致の原則
  2. 関係省庁や地方自治体における行政当事者の積極的な参画
  3. 障害者団体の主体的な参加

 さらに行動計画は大きく5つの分野の計画に区分されている。

  1. 健康の増進と障害の予防
  2. ヘルスケアとリハビリテーション
  3. 教育的な統合
  4. 経済的な統合
  5. 地域での統合と自立した生活スタイルの確立

 行動計画は雇用・社会サービス省の承認を経て政府提案の決裁機関に送られ、現在その承認が待たれている。

障害者施策と法律の発展

 1978年憲法は、全てのスペイン国民に基本的な労働と完全雇用の権利を保障し、障害者も同等の権利を有するとしている(第35の1及び第40条の1)。さらに、1982年の社会統合法は、障害者の雇用政策の実施に当たっては、まず持つて一般の雇用システムにおける雇用を優先し、これが不可能な場合は次に、特別な保護雇用の形態の中で雇用されることとしている(第37条)。社会統合法における障害者の雇用に関連する条項では、「職業リハビリテーション」あるいは「労働分野での統合」が主題となっている。職業リハビリテーションサービスの方策は新行動計画の方針に基づき、具体的にはその後に策定された施行細則により実施された。「労働分野での統合」のテーマに沿った主な施策には以下のものがある。

  • 障害者雇用率制度
  • 公務員の昇進試験における平等な処遇
  • 障害者雇用に際する雇用主への、また障害者の自営を奨励する補助金制度及び融資制度
  • 求職障害者の登録制度

 社会統合法はまた、採用時や採用後においても、労働者が当該業務の遂行能力を有するかどうかを判断する時、身体的、精神的、あるいは知的能力の低下を理由としたいかなる差別をも禁止している。

1983年の王室公布令(Royal Decree、1983年5月11日公布王室命令1451号)は、障害者雇用において即時的な効果を求めるため以下の対策の実施を命じた。

  • 従業員50人以上を雇用する公的機関及び民間雇用主に対して、従業員数の2%について、雇用事務所(Employment Offices)に登録された障害者の中からの雇用を義務づけること
  • 障害者を採用する常勤の終身ポストごとに企業に支払われる助成金
  • 障害労働者に係る社会保険料事業主負担分の免除
  • 会員に障害労働者を含む労働者協同組合への支援

 この他に、企業における障害を持つ労働力を年々増やすための財政奨励がある。

社会統合法はまた、障害の程度や状態によって一時的あるいは恒久的に通常の形での雇用に就くことが困難な人たちに対し、ワークショップ内での雇用という方法を提供した。関係省庁は公的補助金を交付し、ワークショップの設置を奨励した。1985年に公布された2つの王室公布令(第1368,2273号)は、特別な形での雇用センターについての原則を定めている。個々の障害者に対し、いかなるサービスが必要かを判定する職業センターも1985年の王室公布令に基づくものである。

障害者に関する雇用政策は、基本的には社会統合法及びその施行細則によるものであり、以降の大きな変化はない。その後、2つの政府通達と1986年及び1987年の王室公布令により、雇用創出対策と公務員職の3%を障害者に割り当てることが命じられた。さらに重要な政策として、1988年4月に罰則法が成立した。この罰則法は、雇用主に対し、採用時や採用後の差別的行為等障害者の権利に対する違反行為、また割当職や義務的な雇用等雇用主に課せられた責任の不履行に対し、細かな罰則事項を規定している。罰則規定には違反した場合の罰金額が明記されている。1995年5月に改正された13号法は、政府と違反雇用主の間での示談的取引を禁じ、同時に従業員数の2%以上の障害者を雇用する公的機関及び民間企業に対し官公需の優先発注を明記した。

スペインにおける障害者の雇用政策は、国家全体の雇用政策の枠組みの中でとらえられている(労働・社会保障省編1995年版労働ガイドに詳述されている)。障害者を常用雇用する雇用主、失業障害者を雇用する雇用主には政府の報奨金が交付され、45歳以上の障害者を雇用する雇用主にはさらに高い額の報奨金が交付される。1993年の職業訓練計画(the National Plan for Vocational Training 1993, FIP)の実施に伴い、全ての失業者に対して職業訓練が行われるが、その中でも失業障害者、女性失業者、移民失業者に優先的に行われる。そして、これらの人びとには今なお訓練手当が支給されている。政府は、障害を持つ労働者に対してはある程度の特別な措置が必要ととらえ、その雇用の促進について財政的な支援措置を講じている。

障害者行動計画第4節(以下、計画第4節)は、経済的な統合について述べている。雇用対策案としては以下のものがある。

  1. 障害者雇用のための特別基金への納付により、割当義務を果たす代替手段
  2. 2000年までに、従業員25人以上の企業において4%の障害者雇用率の達成
  3. 実施規定の作成
  4. 援助付き雇用の形成
  5. 障害者雇用を促進する財政支援制度の拡充
  6. 職場の改善
  7. 特別生産センターの活性化

 行動計画は、職業統合計画の共同実施等実施機関間の連携を求めている。具体的なプログラムは、学校から職場への移行、特別な就労センターから一般雇用への移行が描かれている。

政策立案と実施

 障害者雇用政策の立案と実施は、労働・社会保障省の所管であり、政策に基づく具体的なサービスの実施機関は国家雇用研究所(the National Employment Institute, INEM)である。INEMは、労働・社会保障省に属する機関であるが、中央本部と全国各県に50の支部を持つ自治機関である。これらの県支部の下に数百もの職業センター(Centros de Formacion Ocupacional)があり、以下のサービスを提供している。

  • 求職者の登録
  • 仕事の斡旋
  • 職業訓練に関する情報提供
  • 失業やその他雇用に関する既存又は予定の公的給付金の情報提供
  • 職業相談

表S.1のとおり、一部の業務はすでに各県に移管されている。

職業訓練は、1985年に閣議決定され、王室公布令によって規定された職業訓練及びリハビリテーション国家計画に基づき実施されている。また、障害者を含む社会的な不利のある人びとを対象として特別な訓練プログラムも考案された。職業訓練の実施機関はINEMであるが、実施方法はINEMが直接行う形態、各職業センターで行うもの、又は他の公的機関や民間雇用主に依頼するものがある。

保健省所管の国家社会サービス研究所(INSERSO)は、INEMと協力して障害者の訓練プログラムの実施に取り組んでいる。この他障害者の雇用に関するサービスには、職業センターで行われているものがある。これらのサービスは、法律により、比較的中程度から重度の知的障害者もしくは精神障害者を主たる対象としている特別な就労センター(シェルタード・ワークショップ)とは明確に区別されている。この特別な就労センターは、王室公布令2274/85号の第2項によって規定されたもので、雇用センターではなく、作業療法的に比較的重度の障害者が生活技術を学習する場とされている。職業センターの利用者は被雇用者としては考えられておらず、雇用契約の対象外となっている(Sanchez-Cervera, 1995)。INSERSOはあらゆる年齢層の障害者に対し、医療やリハビリテーションの相談を含む、職業相談、職業評価を行っている。

表S.1 労働及び社会的な事項の地方自治体への権限委譲
地方自治体 職業訓練 職業援助プログラム 労働者協同組合 余剰労働力 雇用(労働契約)
アンダルシア
アラゴン
アストゥリアス
バレアリック諸島
カナリア諸島
カンタブリア
カスティーリャ・ラマンチャ
カスティーリャ・レオン
カタロニア
エストゥレマドゥーラ
ガリシア
マドリッド
ムルシア
ナバラ
バスク
リオハ
バレンシア

出典:労働・社会保障省編雇用ガイド1995年版

社会的なパートナー
1991年6月17日の法律第21号により、政府の社会経済政策及び雇用政策の法制化に関する諮問機関として経済社会協議会(the Economic and Social Council, CES)が設置された。この構成メンバーは、労働組合、雇用主団体、そして、農業、水産業、消費者団体、生活協同組合の代表、また特定分野の専門家等多岐にわたっており、幅広い社会的なパートナーシップが成立した。

CESは、社会経済や雇用政策に関する政府法案や王室公布令案に対して、常に意見や見解を述べる義務を負い、また、政府に求められたときあるいは自発的に、意見を述べたり、調査や研究を行う。

1995年10月、CESは全国身体障害者連盟(Confederacion Coordinada Estatal de Misusvalidos Fisicos de Espana, CERMI)に依頼され、1994年にCERMIがまとめた「障害者再雇用計画」への回答書として、「障害者雇用の現状と改善への勧告」を発表した。

この他政府の諮問機関としては、職業訓練協議会(the General Vocational Training Council, CGFP)があり、これは政府の13省庁の代表、雇用主団体及び労働組合の代表13名によって構成されている。また、向上訓練財団(the Further Training Foundation, FORCEM)は企業内訓練を行うために、労働組合と雇用主団体とによって設立された。

障害者団体
社会統合法は、この法の趣旨に則り、障害者自身、家族、又は法的な代理人によって運営される非営利的な団体、協会、財団等に対しての特段の配慮の必要性に言及している。

障害者団体は、障害者の予防的ケアと治療のための王立財団(the Royal Foundation for Preventive Care and Treatment of Disabled Persons)に理事を派遣し、社会サービス局の障害者委員会、また全国障害者協議会にも代表を送っている。全国障害者協議会は障害者自身の団体であり、労働・社会保障省の高級レベル官僚と定期的な会議を持っている。(EC, 1988)

障害の定義

 世界保健機関(WHO)の障害の定義は以下のとおりである。(CES, 1995)

機能障害(Impairment) 病気や事故による心理的、身体的、感覚的な機能の喪失や異常
能力低下(Disability) (個人が生活するレベルで)病気や事故による永続的な能力の低下
社会的不利(Handicap) (社会的なレベルで)病気や事故により通常の社会的な発達や役割の充足が制限されたり妨げられること

 社会統合法によれば、障害者とは、先天的あるいは後天的な原因で身体的、知的又は精神的な機能障害が生じ、これが恒久的になり、教育や労働その他の社会活動への参加が妨げられている者、とされている。労働能力が通常の人に比して33%以上減少している人は、INEMのプログラムでは失業障害者として登録される。

統計

 1995年現在、スペインの総人口は3,887万2,268人である。このうち労働人口は1,556万4,900人となっている(総人口に対する労働人口は、女性36.1%、男性62.6%)。失業状態にある者は353万7,500人であり、労働人口の22.7%に当たり、この57%は失業期間が1年以上の人たちである(MISEP, 1995)

障害者に関する最新の統計は、1986年にスペイン統計研究所が行った調査による。この調査は、セウタ(Ceuta)とメリリャ(Melilla)地方を除くスペイン全土で行われた。調査は家族と同居する全ての障害者について行われ、その結果はGrammenos(1992年)により報告されている。調査に当たっては、国際障害分類に従って、機能障害、能力低下、社会的不利に区分したことが効果的であった。

この定義によると、

  • 20%の人が機能障害を負っている
  • 14%の人は能力低下がある
  • 6%の人が機能障害や能力低下が原因で社会的不利を被っている

表S.2は、1986年における実態が年齢層別に集計されている。この後、今日に至るまでこのような詳しい調査は行われていない。

 表S.2 能力低下のある成人障害者・社会的不利を被っている成人障害者、1986年
- 能力低下のある人 社会的不利のある人
年齢 人数 全障害者に対する割合(%) 人口に対する割合(%) 人数 全障害者に対する割合(%) 人口に対する割合(%)
15-24 215,100 3.7 3.3 107,000 4.6 1.6
25-44 493,800 8.6 4.8 240,600 10.4 2.4
45-64 1,938,200 33.7 23.0 800,200 34.6 9.5

出典:Grammenos, 1992年,表4

1986年の全国調査では、機能障害により能力低下がある人、そして機能障害により社会的不利を被っている人の2種類に分類することを基本としている(表S.3)。双方のケースとも身体障害のある人が最も多く、能力低下のある人のうちでは全体の60%、また社会的不利を被っている人においては同68%となっている。Grammenos(1992年)は知的障害者や精神障害者の結果に特に注目している。これらの障害を持つ人の全障害者中に占める比率は、社会的不利を被る人においては能力低下のある人の2倍となっている。このことは、知的障害者や精神障害者が、身体障害者よりも大きく社会的不利を感じていることを物語っている。

障害者が自由に移動することを妨げる要因となることは、しばしば見受けられる。このことは、例えば場所を変えるとか、何か物事をなそうとすることに影響している(Grammenos, 1992 年)。

表S.3 機能障害の種類、 1986年
- 能力低下のある人(機能障害による) 社会的不利のある人(機能障害による)
障害の種類 人数(千人) 人数(千人)
知的障害 179.8 3.1 160.0 6.9
精神障害 181.0 3.2 144.5 6.3
その他の心因性障害 87.7 1.5 59.9 2.6
聴覚障害 836.6 14.6 278.4 12.0
視覚障害 762.8 13.3 375.8 16.3
言語障害 93.6 1.6 55.1 2.4
その他の感覚障害 190.3 3.3 65.2 2.8
肢体不自由 3,456.2 60.2 1,583.4 68.5
(うち車いす、補装具等の移動支援器具を必要とする人) (1,930.1) (33.6) (945.0) (40.9)
重複障害 28.7 0.5 25.8 1.1
その他の障害 1,192.6 20.8 286.2 12.4
合計 5,741.0 100.0 2,312.0 100.0

出典:Grammenos, 1992 , 表8A

1986年の全国調査の結果、社会的不利の内容は表S.4のとおりであった。この結果、最も多く見られるのは「職業的ハンディキャップ」であり、全体の77%にも及んでいる。ここでいう「職業」とは、同性、同年齢、同程度の教育条件の他の人と同じように物事をなす能力があるかということである。また、「経済的自立」とは、通常の社会経済的活動を営む能力、及び自活する能力をいう(Grammenos,1992)。

表S.4 ハンディキャップの種類、1986年
ハンディキャップの内容 ハンディキャップのある人
人数(千人)
意思決定力 495.2 21.4
身辺的自立 673.2 27.6
移動の自由 948.2 41.0
職業的不利 1,789.8 77.4
社会的統合 672.3 29.1
経済的自立 672.7 29.1
総数 2,312.1 100.0

出典:Grammenos, 1992,表8.C  ※複数回答式

同調査では、通常の就業をしている障害者の数を表S.5のように示している。障害者のうちの75.9%が就業しているが、このうち13%は自営である。また、20.3%は特別な就労センターを利用しているが、その多くは若年齢層である。

表S.5 就業している障害者, 1986年
- 能力低下のある人 社会的不利のある人
男性 420,177 110,008
女性 154,049 39,936
合計 574,226 149,944

出典:Grammenos, 1992, 表25

国立雇用研究所(INEM)が1995年に発表したデータによると、この年に失業している障害者数は男性で2万9,382人、女性で1万3,429人であった。この数字は1992年においては、全体の失業者数は2万284人であり、このうち1万3,666人が男性であった。

1986年の調査では、障害者の就業状況を総人口との対比において概観したものを表S.6としてまとめている。

表S.6 16歳~64歳における障害者の就業状況と総人口との対比, 1986年
- 能力低下のある人 社会的不利のある人 総人口
全体数(人) 2,626,000 1,147,800 23,247,000
労働可能者(人) 757,600 236,000 13,228,500
全体に対する比率(%) 28.8 20.7 56.9
就業障害者(人) 553,500 147,700 10,263,800
全体に対する比率(%) 21.1 12.8 44.2
労働可能者の就業率(%) 73.1 62.6 77.6
失業率(%) 26.9 37.4 22.4

出典:CES,1995,EDDM調査による上記の統計は正確に年齢層別には符合していない。

雇用支援サービス

評価

社会統合法により(第10条)、さまざまな分野の専門家による評価チームができあがった。このチームは、対象の障害者が保護雇用に適しているのか、あるいはその他の形態がよいのかを評価する。また、職業やこれ以外の分野、例えば一般教育システムへの障害者の統合の促進等の相談も行い、さらに、職業センターと連携し、障害者の一般雇用市場での就職をめざす。加えて、それまでいくつかあった評価機関や評価技術を1つにまとめることを求められた。

Samoy(1992)によれば、この評価チームの役割について特に行政命令は出なかったが、チーム自身がよくその役割を認識し動き出していた。このチームは、リハビリテーション療法士、心理学者、ソーシャルワーカーによって構成され、各県の県庁所在地や主要都市にある社会サービスセンターとも連携している。

国家社会サービス研究所(INSERSO)がこのチームを主管する。しかし、地方自治体への権限委譲が行われてからは、新たな組織体系の中に位置づけられているところもある。Samoy(1992)は、地方自治体への権限委譲は社会統合法で求めた評価の統一性に水を差すものであると指摘している。

メーンストリーム訓練(一般訓練)

 現在の職業訓練は、1993年3月5日に政府と関係機関とによって合意された国家職業訓練プログラムに準拠して行われている。これは、それまで2つあった職業訓練システムを1つにまとめたものである。従来のシステムの1つは教育機関で行われていたものであり、もう1つはそれぞれの職場において行われていたものである。国家職業訓練プログラムは、8万人にものぼる障害者、移民、新規求職者への訓練対策を優先し、1993年から1996年までの4年計画で352億ペセタ(1ペセタ=0.95円)の予算を配分した。職業訓練の質の低下を防ぐために訓練プログラムでは、訓練施設の改善、指導者用の訓練プログラムの実施、機械設備の整備、職業指導や職業相談メニューの再評価等の対策を講じている。

1993年5月3日、職業訓練と職業統合に関する国家計画の策定を命じる王室公布令第631号が出された(Plan FIP)。これは、失業者が適切な職業訓練を受けていず、また、職業技術が未熟な場合は、一般労働市場での技術レベルに達成するような訓練を行い、一般市場での雇用に導く対策を講じることを命じている。この計画においても、先の職業訓練プログラムと同様に、障害者、女性、移民等職業的な統合、及び再統合が困難な人びとに対して特別な配慮がなされた。すなわち、これらの訓練生には、特定技術の見習い職人や一部の失業農場労働者を除いてはすでに廃止となっている訓練手当を支給している。訓練コースの内容は、国立雇用研究所及び地方自治体において作成される。手工芸等の技術を習得する場合は、25歳以下の失業者に対して「特定技術見習いセンター」もある。ただし、障害者の年齢制限はない。

第3の柱は、継続的な職業訓練の実施である。1992年12月、有力な労働組合と雇用主団体は継続性のある職業訓練の実施についての合意文書に署名し、その後継続性のある職業訓練に関する3者合意が追加された。これもまた、国家職業訓練プログラムと同様、関係機関が実施機関である継続訓練財団(Fundacion para la Formacion Continua, FORCEM)と共に、組織、運営、基金の分配等全ての事項に責任を負う。継続訓練財団(FORCEM)は、合弁団体であり、合意に基づいて支給される補助金の運営管理を行う。これには就業障害者に対する補助金も含まれる。

専門訓練

 表S.7は、国家社会サービス研究所(INSERSO)によって実施されている職業訓練プログラムに関するデータである。1988年から1994年までに訓練を受けた障害者の数は1万9,446人で、年間平均は2,778人となっている。1992年以降は顕著な伸び率となっている。

国立雇用研究所(INEM)もまた、障害者の職業訓練プログラムを行っている。1988年から1993年までに2,042人が高い評価を得た。これらの人びとは、この職業訓練修了後さらに別の訓練コースを受講した。

FIPプランは、1994年以降は計画に盛り込まれなくなり、したがってこの受講者のデータはない。この受講者は優先的に他の訓練コースを受講できる。

スペインの全障害者の41%は不就学である。大学修了者は3%であり、高校修了者は21%となっている。原因として、1つは家族の過保護であり、その他学校の建築やハード面での不整備がある。

表S.7 INSERSOの職業訓練の年次受講者数
受講者数
1988 5,427
1989 7,338
1990 12,097
1991 13,766
1992 14,433
1993 14,176
1994 15,743

職業紹介

 職業紹介については、1980年の雇用基本法の中で規定され、1994年5月15日に改正された緊急雇用促進対策法10/1994の中で見直しが行われた。これまで雇用主が障害者を採用する際、国立雇用研究所(INEM)を通じて採用する義務があったが、この改正でこの義務が撤廃された。しかし、雇用主が新しい雇用契約についてINEMに報告する義務は依然残っている。王室公布令735/1995では、INEMによって認可された非営利の職業紹介センターについて規定している。求職障害者もINEMに登録しなければならない。INEMの運営する職業センターの非効率性が、雇用主、被用者の双方から指摘されている(Caleidoscopia, 1995)。

INEMは、職業リハビリテーションの訓練を修了した障害者の就職斡旋を担当し、雇用事務所は、求職障害者のデータをそろえ失業者として登録する。しかし、この登録方法はうまく機能していないことが指摘されている(Fargas,1995)。これは、登録されている障害者の数が極端に少ないことが如実に物語っている。

民間任意団体

 政府の職業紹介や雇用促進サービスに加えて、王室公布令によって規定されている全国視覚障害者協会(ONCE)も一般雇用への就職斡旋活動を行っている。この協会は、障害者の就職斡旋を専門に取り扱う会社を経営している。この会社には、2万5,000人以上の求職障害者が登録され、雇用主からの求人申し込みに対し即時に対応できるシステムを持つている。これまで150人の障害者を一般企業に就職させた。この会社はまた、対象者を以下の3種に分類した職業訓練コースも実施している。

  1. 失業障害者に向けたもの。訓練は一般雇用市場のニーズを充たすもの、あるいは自社 グループ内での雇用ニーズを充たすもの。
  2. 自社グループでの採用をめざした障害者向け、及び非障害者向け訓練
  3. 障害当事者団体、及び障害者関係団体の職員向けの経営管理技術訓練

(ONCEコミュニケーション)

援助付き雇用

 スペインにおける援助付き雇用の成り立ち、発展及び現状の総合的なレビューはVerdugoら(1997)によって行われ、この項はこの報告に依拠するところが多い。

援助付き雇用のプログラムは、1982年の社会統合法のノーマライゼーションの理念と、障害を持つ児童の普通学校への統合を支援するため1985年に教育科学省により設立されたプログラムに続いて、1986年に初めて作られた。

雇用分野における最初のプログラムは、バルセロナにおいてダウン症の人が一般企業で就業することを援助するために実施された。しかし、援助付き雇用がスペインにおいて根付くには1991年まで待たねばならなかった。1991年から1995年までに18の援助付き雇用プログラムが実施され、1995年現在24のプログラムが実施中である。

1995年半ば、サラマンカ大学大学院で障害者の社会的統合を研究するグループは、スペイン援助付き雇用協会(the Spanish Association for Supported Employment, AESE)と協力し、援助付き雇用を実施する公的機関及び民間企業32社を調査し、事例をまとめた。この結果、およそ800人の障害者が援助付き雇用の形態をとり一般企業で就業していることが判明した。このうち特に、1994年、1995年の2年間で200人増加した。このプログラムの最大の利用者は、知的障害者で全体の81%となっている。

Verdugoら(1997)は、(上記のサラマンカ大学やAESEコースにもかかわらず)専門家やジョブコーチの養成訓練不足、システマティックなプログラム評価の確立の必要性、並びに、この種の代替雇用や援助付き雇用中の労働者の採用を事業主に納得させるのに必要なインセンチブへの資金を、推進、規制及び提供するための法律の必要性などを含む、未解決の問題についてコメントしている。

一般雇用:法的義務と権利

差別禁止法制

社会統合法は、採用時、また採用後も、障害者が仕事を行う上で身体的、心理的、又は感覚的障害を理由にしたいかなる差別をも禁止した。次いで1988年4月、差別的行為を行った雇用主に対する罰則を規定した罰則法が成立した。これにより、5万から50万ペセタまでの違反金が規定された。

表S.8は、違反行為として申し立てられた件数と審査結果である。表に見られるとおり、雇用主に対して罰則行為がとられた事例はきわめて少ない。

表S.8 障害労働者の差別として申し立てられた事例とその審査結果, 1994年( )内は1995年の予測値
違反内容 事例数 違反数 被害を受けた障害者数 罰則結果数
労働条件における差別や同僚の差別 534 7 246 1
(218) (3) (13) (3)
アクセシビリティの面での差別 3,546 7 57 1
(878) (1) (1) (4)
雇用契約における 2,308 31 33 10
(1,306) (27) (34) (6)

出典:労働・社会保障省検査局(Inspection Directorate of Department of Labour and Social Security)

雇用率制度

 障害者雇用率制度は、1983年5月に導入され、常用雇用労働者数50人以上の全ての公的機関や民間企業に2%以上の障害者の雇用を義務づけた。Ahuja(1992)は、法では、「障害者に優先的に割り当てられる職の比率」や「絶対的優先として留保するもの」は労使間の労働協約によって決めることとされていると述べている。障害者雇用率制度の対象者は、雇用センターに登録されている障害者、つまり労働能力が通常の人と比べ33%以上減少している人のみである。

その後の公務員採用に関する(1987年の198号)王室公布令では、3%のポストを障害者に留保しなければならないという原則が導入された。中央政府の場合は、1988年7月20日付の法律23号で、従来はもっぱら肉体作業職員に適用されていた障害者のための公務員ポストの留保義務が拡大され、障害者の実雇用率が全政府従業員数の2%になる時まで、割当率は3%に設定されることとなった。規則がこのように変わったことは、(障害者に)留保されるポストは全ての空席の職種に適用され、当事者の障害の性質により適した等級や肉体的作業に就け得ることを意味する。

労働・社会保障省は、啓発手段として障害者雇用を促進する印刷物を整備しなければならない。また、従業員50人以上の民間企業は、障害者に対して用意されている職種について雇用センターに報告する義務がある。1988年のヨーロッパ委員会(EC)のリポートは、多くの企業がこの義務を履行していないことを報告している。1993年現在、従業員50人以上の企業で働く労働者は421万1,350人であり、雇用割当人数は8万4,277人であるが、実雇用人数は2万920人であり目標の25%でしかない。

このような低い達成率の要因としては、1つに3%の雇用率を達成できないでいる政府機関への反感がある。Garvia(1992)は、1985年から1988年までに中央政府において7万人の新たな雇用が創出されたが、このうち、障害者に割り当てられたのはわずかに300人(0.48%)だけという事実を引証している。

先に、登録している障害者の数が少ないことを述べた。Lheureux(1991)は、1989年の登録数は2万8千人としているが、1986年の調査における求職障害者数8万7,640人に比べ、この数字はいかにも小さなものである。この理由として、Lheureuxは、1つは障害者がこの登録制度をあまり評価していないこと、さらに登録すること自体が偏見を招くのではないかと考えていることをあげている。次に、社会統合法に基づいて民間企業を調査したLheureuxの分析の結果、障害者用の仕事を創出したのは多くは従業員50人以下の小企業であることが判明した。

雇用主の他の義務と同様、割当義務を果たさない場合、国立雇用研究所(INEM)がアクションをとれば、国庫に罰金を支払う必要がある行政違反となる。1988年のECリポートは、罰則規定は雇用主の義務履行に対し効果的であると伝えている。IRSの雇用トレンド(IRS Employment Trend,1990)は、雇用主に雇用義務の履行意欲を与えるものは自社の従業員や、労働者協議会等の労働団体による圧力であるとしている。

しかし、1993年には、わずかにバレンシアにおいて数社が罰則金5万~50万ペセタを支払ったのみである(El Mundo,1996)。1995年には、雇用率未達成企業は1,557社であり、未達成労働力は5,201人となった。この中で法的な処分が下されたのはわずかに7社のみである。一方、電話会社、IBM、電気会社等積極的に障害者雇用に取り組む大会社も出現してきた。

1995年5月18日の政府契約に関する第13号法は、関係行政機関に対し、障害者雇用率2%を達成している公的機関及び民間企業に対し、優先的に発注契約をする便宜を与えることを命じた。これは、政府と処分の対象企業との間で取引が行われることを防止すると共に、障害者への仕事の割当と職業的な統合を促進する義務の積極的な履行を目的とした。

経済社会協議会(Consejo Economico y Social, CES)は、一般雇用市場の厳しい状況、特に、高失業率が障害者雇用率制度の正常な施行を阻む最大の原因であるとしている。また、Sanchez Cervera(1995)は、障害者の統合は、単に労働権の確保という視点だけでは達成できないとしている。さらに、Viso(1995)は、障害者雇用率制度のより厳しい実施が必要と述べている。1995年に設立された特別雇用財団(Special Foundation for Employment)が状況打開のために多くの期待を集めたが、残念ながらINEMの障害者登録制度が効果的には機能しなかった。

障害者行動計画第4項では、割当雇用率を2000年までに従業員25人以上の企業で4%とすることが勧告されている。また、雇用主への財政的支援を行う基金の設立も提案されている。この基金の収入の一部には、雇用率未達成企業の支払う罰則金が充てられる。

解雇からの保護

 一定のリハビリテーション期間を終了した障害者には、王室公布令(1451/83)により復職を保証する特別措置がとられている。永続的、かつ部分的な障害を持つ人は、基本的にはそれまで勤めていた同じ会社に再雇用されることが保証されている。この場合、その人の作業能力が以前と変わらない場合は同職種、同賃金での復帰、残存する能力が低下している場合でも賃金は以前の25%以上の減額は許されない。常用雇用労働者の場合は、いかなる場合においても法定の最低賃金を下回って再雇用することはできない。雇用主は、障害労働者が以前と同等の作業能力を維持している場合は、以前と同じ職種に配置しなければならない。再雇用に際し試用期間を設けることはできるが、最大で6か月までとしている。Ahuja(1992)は、それでも障害を理由とした解雇が明白に起こっていると指摘している。

職場改善

 障害者が公務員の求人に応じる場合、その障害に適応するように職場の改善を申請することができる。雇用審査委員会は、その改善が職務の遂行上効果的であるかどうかの意見を聞くことができる。

表S.9は、改善要請と許可件数の結果である。労働・社会保障省のデータによれば、1995年には4件の改善要請が許可され、これに要した費用は60万ペセタであった。また、1996年の1月から9月までには11件が許可され、費用は165万ペセタであった。

表S.9 職種別の改善要請数と許可件数の結果
事務系職種 非事務系職種
改善要請数 許可数 改善要請数 許可数
1988 1 1 93 22
1989 11 11 16 35
1990 37 36 258 254
1991 27 21 330 261
1992 59 58 21 21
1993 29* 29* 345 #
1994** 224 214 # #

* 不完全データ
#データなし
**予測データ
出典:王立障害予防と障害者対策研究所

一般雇用:財政的施策

雇用主への支援

障害者を常用雇用する場合、雇用主に対しいくつかの補助制度がある。障害者は、職業的障害があること、つまり、作業能力が通常の人と比べ33%以上減少していることを表明すれば、この雇用プログラムの有資格者となり、雇用センターに障害者として登録される。

雇用報奨金
国立雇用研究所(INEM)より、雇用主に対し、雇用する障害者1人当たり50万ペセタの報奨金が支給される。この額は、1983年にこの制度が生まれたときは30万ペセタであったが、1984年に50万ペセタに増額されて以来変更はない。しかし、1996年の「地域における障害者雇用」という政府報告の中で、現行より50%増額することが提案された。この補助金の支給水準は、他の失業者に対するものと同水準である。例えば、45歳以上の失業者、25歳以上で再就職をする女性、及び未成年の女性の雇用に対しては、1人につき50万ペセタ、25~29歳の失業者の場合は40万ペセタとなっている。

この補助制度の対象となるのは、あらゆる業種の企業や労働組合である。補助制度の適用を受けようとする雇用主は、雇用した障害者に対して最低3年間は安定した仕事を提供しなければならない。また、もしこの障害者を合法的な理由により解雇する場合は、他の障害者を雇用しなければならない。雇用主が上記の条件を充たすことができない場合は、補助金を返還しなければならない。また、障害労働者が給与支払い簿に載っている唯一の労働者という場合を除き、事業主により雇用される障害労働者数は給与支払い簿に載っている全労働者数の51%を超えることはできない。

障害労働者を契約期間の定めなく雇用する場合の手続きは以下の手順で行われる。

  • 雇用事務所における求人票の掲示(新規設立会社は業務内容を含む、職種、障害者従 業員の数等が記載されたもの)。
  • 法定様式に基づく契約書の作成。
  • 契約から10日以内に労働者の法定代理人に雇用契約書のコピーが渡される。
  • 雇用契約成立後10労働日以内に、労働者の法定代理人がいる場合にはその署名のある雇用契約書のコピーを添えて雇用事務所に届ける。 
  • 労働者の社会保障登録証明書のコピー。
  • 障害者証明書のコピー。

 (雇用ガイド,1995)

1988年のヨーロッパ委員会(EC)の報告によれば、1983年の雇用報奨金の支給件数は793件であったが、1986年には3,755件に増加した。しかし、1987年には3,469件と若干減少した。表S.10はMISEPの統計で、これによると雇用報奨金の支給対象契約件数は1994年には1991年の2倍以上となっている。

表S.10 年次契約件数
件数
1988 4,210
1989 3,690
1990 3,941
1991 3,980
1992 4,508
1993 5,803
1994 8,549

出典:MISEP, 1995

1988年のLheureux(1991)の分析によると、雇用契約の成立件数は地方自治体によってかなりのばらつきがあり、1県で400以上の契約が成立するところもあり、3県合わせても50件以下のところもある。また、年齢別には、一般労働人口に比較して、25歳以下が27%と大きな比重を占め、45歳以上の雇用契約は少なくなっている。さらに、業態別では、農業分野での雇用が極端に低く、1988年には全体の0.013%に過ぎず、これは1994年に至ってもなお同じ状況が続いている。

Lheureuxは、国立雇用研究所(INEM)が、これらの制度下で雇用された障害者のほとんどは身体障害者で、感覚障害者もいくらかいるが、精神的障害を持つ者はきわめて少ないと示唆している、と報告している。

Lheureuxの分析で最も注目すべきは、雇用報奨金を受けている企業の規模で、その過半数(58%)は従業員規模6人以下である。続いて従業員6~25人の企業が36%、残る6%が100人以上の企業となっている。

社会保険料の減免
雇用報奨金の交付に加え、雇用主は雇用する障害者の社会保険料の雇用主負担分を減免される。減免率は当該障害者が45歳以上であれば90%、それ以下であれば70%となっている。

税制上の優遇措置
さらに、障害者の雇用を促進する対策として、雇用主への法人税減免措置制度がある(31/1991,20/1992,21/1993,41/1994法)。雇用主は、前年の障害者雇用数の平均を上回る常用雇用労働者の雇用1人につき70万ペセタが課税額から控除される(MISEP,1993)。この優遇措置は以前は全失業者を対象にしていたが、1992年以来障害者のみの対象となった。さらに1996年からは、対象は45歳以上の障害者のみと修正された。現在、この優遇措置制度の現況等のデータは整備されていない。

職場改善に関する助成金
障害者を受け入れるための職場の改善、及び補助機器の購入について15万ペセタまでの助成金が支給される。法律は、職場での事故を未然に防ぐためには職場の適切な改善が必要としている。

薬物中毒者の雇用に関する助成金
雇用ガイド(労働・社会保障省編,1995)は、その1項をさいて比較的新しい障害といわれる薬物中毒者に対する対策に触れている。現在、薬物中毒による障害者の数は明らかではないが、すでに彼らの職業的統合を目的とした対策がとられている。まず、薬物中毒に苦しむ人びとの詳細な調査を行い、雇用事務所に失業者、あるいは新規求職者として登録することが必要である。薬物中毒者を雇用する雇用主に対しては、雇用契約1件につき返還義務のない補助金が支給される。その額は、常用雇用ならば40万ペセタ、パートタイムの場合は25万ペセタであり、1年以内の社会保険料雇用主負担分が免除される。

障害者に対する支援制度

一般雇用障害者への直接的な財政的支援制度はなく、一般の公務員にみられるように交通費の支給ぐらいのものである。しかし、薬物中毒者に対しては特別な支援措置がある。労働組合の加入者で、薬物中毒のために職を失った者、あるいは失業者として登録している者、25歳以下の者、1年以上にわたり治療を続けている者等に対して、60万ペセタまでの補助金が支給される。同様な補助金は、経営状況の厳しい自営障害者にも支給される。

自営業者
登録されている障害者が自営業を始める場合は、以下の補助制度が適用される。

  • 一部利子補給制度:労働・社会保障省の認定の下に、政府及び民間金融機関からの借入金の利子の一部補助で、最高50万ペセタ
  • 設備資金補助制度:最高40万ペセタ

 表S.11は1988年から1994年における自営障害者数と支給された補助金の額と種類である。

表S.11 自営障害者数と補助金の額と種類 (単位:百万ペセタ)
利子補給 設備資金 全体
人数 補助額 人数 補助額 人数 補助額
1988 39 12.3 213 84.1 252 96.4
1989 20 5.9 109 42.9 129 48.8
1990* 16 4.8 177 70.8 193 75.6
1991 22 6.7 184 72.7 206 79.4
1992 23 7.2 184 73.1 207 80.3
1993 26 7.8 179 79.2 205 87.1
1994 37 10.6 294 130.9 331 141.5

* Galacia県の統計は含まない
出典:労働・社会保障省, 1995

保護雇用

 スペインでは、保護雇用はシェルタード・ワークショップにおける雇用のみである。保護雇用が開始されたのは社会統合法の成立によるが、Samoyは、いくつかの施設は定義があいまいで効率的な運営がなされていないと報告している(Samoy,1992)。家庭内職の場合は雇用契約の対象とはならず、一般雇用において行われるエンクレーブのような明確な形態もとっていない。

目的と対象者

 シェルタード・ワークショップ(Centros Especiales de Empleo)の発展をもたらした社会統合法は、その事業目的を次のように規定した。「障害を持つ労働者が必要とする個人的及び社会的援助にとどまらず、有給の就労機会を提供することを目的として、一般市場への参加をとおして生産的労働をすること。それは一般労働市場にできるだけ多くの障害者を統合する1つの手段である。」(第42条の1)。Lheureuxは、この後段の部分を保護雇用から一般雇用への移行の奨励と解釈した。それに代わる妥当な解釈は、保護雇用は通常の雇用と同様に考えられるということである。

シェルタード・ワークショップは、公的機関や民間事業体によって設立され、営利を目的とするものもあり、非営利のものもある。認可権は労働・社会保障省、あるいはこれより権限を委譲された地方自治体が持つ。

提供されるサービスは、従業員の資質向上と社会への統合を促すためのリハビリテーション、治療、社会・文化的活動、スポーツなどである(王室布告令,2273/1985)。

シェルタード・ワークショップは、基本的には障害労働者を雇用するが、生産性の向上のために障害を持たないスタッフを採用することもできる(第42条の2)。1982年の社会統合法では、シェルタード・ワークショップへの配置に適した障害者は、障害の性質や結果故に、一時的もしくは永続的に通常の作業条件の下で作業することは困難ではあるが、その生産能力が通常の作業能力の一定率と同等又はそれ以上とされている人びとである。この能力の割合は、ワークショップにおける産業関係を規制する法令で規定されている(第41条の1)。Samoy(1992)が指摘するように、その後発令された王室公布令(1368/1985)は、最低限の生産能力を示すのではなく、通常の作業能力からどのくらい能力が減少しているかという最低限の減少値を示している。この作業能力の設定には、同じ職種の障害を持たない人の作業能力が参考とされている。

シェルタード・ワークショップで契約を結ぶ手続きは次の手順で行われる。

  • 関係雇用サービスから登録障害労働者を求めなければならない。
  • 契約は、雇用サービスからの公式の書式を用いて文書で作成する。この契約は在宅労働や訓練契約ではなく、常用雇用の契約でなければならない。
  • 10日以内に契約書のコピーが労働者の法定代理人に手渡され、同時に契約の延長及び破棄について説明される。
  • 労働者の法定代理人の署名のある契約書のコピーを添えて雇用サービスに登録されなければならない。
  • コピーは多角的専門家チームにも送られる。

 (雇用ガイド,1995)

多角的専門家チームは、申請者の作業への適格性を判定する。この結果、ワークショップでの雇用ではなく、作業センターの利用を勧めることもある。

Sanchez Cervera(1995)は、ワークショップでの作業は、単に障害者の能力に適合したものだけではなく、ある雇用形態から他への移行が実現するように、施設外の一般雇用の場での就業にも通用するものでなければならないとしている。

社会・雇用政策委員会(CES,1995)は、ワークショップをうまく機能させるのに必要な障害を持たない人びとを除き、100%とされてきたのとは異なり、ワークショップにおける従業員の少なくとも半数は障害者でなければならないとしている。障害を持たない従業員を採用することは、ワークショップと一般雇用市場との間に、より現実的で密接な関係を築くことに効果的である。

対策と資金調達
表S.12に示されているように、1988年以降6年間でワークショップ数は2倍以上となったが、ワークショップに対する従業員の比率はおよそ28%、つまり、1ワークショップ当たりの従業員数はおよそ28人にとどまっている。

表S.12 年次ワークショップ数と従業員数
ワークショップ数 従業員数
1988 184 5,018
1989 211 6,043
1990 240 7,081
1991 289 7,793
1992 305 8,393
1993 351 9,249
1994 403 11,277

出典:INEM

Lheureux(1991)は、全部で17ある県において、ワークショップの設置数が非常に偏在していることを指摘した。例えば、Murcia県では全体のわずか0.1%のワークショップしかないが、Catalonia県では単独で20%にあたるワークショップを有している。また、Basque県と首都Madridの両者を合わせると全体の55%となっている。

13/1992法及び1986年2月12日、1994年3月22日付の政府命令により、常用雇用で社会保険制度に加入している障害労働者を雇用するワークショップ経営者に対して、以下のような優遇措置がとられた。

  • 国の最低賃金の50%を上限とする給料補填
  • 社会保険料雇用主負担分の全額免除
  • 30万ペセタを限度として、障害者を受け入れるための職場や住居部分の改善に要する コストの100%、あるいは50%の補助
  • 財務状況を改善し、適切な生産性と収益を維持することを目的とした1回限りの運営資金補助
  • 非営利センターへの予算補助

 (MISEP)

ワークショップでの就業申請手続きは、国立雇用研究所(INEM)の各県事務所、又は各県の担当部署が窓口となる。

申請が受理された場合は、一般雇用と同様の雇用契約書、あるいは最長で6年間の訓練契約書が送付される。障害者の作業能力が通常の水準の25%を下回る場合は、低生産性労働者のための特別契約になる。この場合、賃金は最高25%まで減額できる。しかし、この特別契約の事例はこれまでにあまりみられない(Samoy, 1992)。

CES(1995)は、障害者の一般雇用での就業を可能とするための訓練機能としてワークショップの果たす役割は大きいが、その多くが運営資金の不足のため十分な活動ができないでいる、としている。政府補助金の増加率は、1983年以来インフレ上昇率を下回り、仕事の開拓に向けられる補助金の額は十分とはいえない。

Viso(1995)は、シェルタード・ワークショップの従業員は全てが障害者であることが望ましく、健全で安定した経営のためには的確な費用効率の算出に基づく運営が必要であり、そのためには、ワークショップへの官公需の優先発注等の政府の対策が必要である、と述べている。

従業員
全就業障害者の5分の1(20.3%)に当たる人びとが、現在ワークショップに雇用されている。Samoy(1992)は、INEMの統計によれば、ワークショップの従業員の大部分(82%)が「精神的なハンディキャップを持つ人びと」であるとしている。しかし、Lheureux(1991)は、「精神的なハンディキャップを持つ人びと」というのは知的障害者なのか又は精神障害者を指すのかはっきりとしていないと指摘している。肢体不自由者は14%であり、聴覚障害者・視覚障害者が残る4%となっている。この分類には、重複障害者については触れられていないが、Samoyによればおよそ20%の従業員が重複障害があるとされている。

移行
障害者の行動計画では、ワークショップの将来的な姿は一般雇用に移行するための訓練の専門機関としている。

新たな就労形態

 スペイン視覚障害者協会(ONCE)が中心となり、障害者の新たな就労形態が生まれた。ONCEは、他の障害団体に呼びかけ1988年に財団(Fundacion ONCE)を設立した。この財団の主要目的は障害者の雇用創出であり、総予算の約50%がこの目的に支出された。財団は1989年、グループ会社60社以上の親会社となる有限会社FUNDOSA GRUPOを設立した。De Lorenzo(1997)によれば、グループ全社で6,000人の従業員を擁し、その72%が障害者であり、あらゆる職種に従事している。業種も多岐にわたり、約70のワークセンターではクリーニング、病院や地域センターでの売店、電話通信業、食品製造業、データ加工業などに進出している。

要約

 1978年の新憲法は、肢体不自由者、知的障害者、精神障害者、聴覚障害者、視覚障害者に対して、労働し、自己実現を享受し、完全に社会に統合される権利を明確に唱っている。国際連合の「障害者の権利宣言」の理念に基づき成立した1982年の障害者の社会的統合に関する法律(社会統合法)は、障害者に対して、障害の予防、教育、リハビリテーション、社会保障、最低限の経済・社会的な権利、及び職業リハビリテーションと職業的な統合に関する国の責任を規定している。社会統合法は、「障害者」とは、「先天的か否かにかかわらず、その状態が永続的である、身体的、知的発達的あるいは精神的な障害が原因で教育、職業、社会的な活動への参加が制限されている人」と定義している。

政策責任官庁は労働・社会保障省であり、サービスの実施機関は国立雇用研究所(INEM)が担当している。徐々に地方自治体への権限委譲が行われているが、自治体間の行政能力の標準化が必要となる。

障害者は、社会的に不利な状況にある人びとの中で、唯一労働市場において優遇措置がとられており、その主なものは職業訓練の実施や雇用主に対する財政的支援制度である。INEMの職業訓練や就職斡旋サービスの受給者は、作業能力が通常の作業能力より最低でも33%減少している人で、障害者として、また失業者として登録しなければならない。しかし、現実には登録している障害者の数は少ない。

採用時あるいは採用後も障害を理由としたあらゆる差別は法律によって禁止されている。違反行為には罰則金が課せられるが、多くの場合は調停となり、実際に罰金命令が出ることは少ない。障害を負った労働者の復職を保証する制度もある。1983年に導入された障害者雇用率制度は、従業員50人以上の全ての公的機関、民間企業に対し、2%は作業能力が通常の最低3分の1以上失われた登録障害者を雇用することを義務づけた。障害者雇用率制度は、1988年に未達成雇用主に対する罰則規定が導入されたが、現在の達成率はきわめて低いと報告されている。政府機関での雇用率は3%とされているが、政府及び公的機関での達成率が特に低いため、民間企業も自身の低雇用率を改めようとはしない。2000年までに政府及び民間企業の雇用率を増加する法案が準備されている。この中では、障害者を直接雇用する代わりに、一般労働市場への障害者の統合の促進を意図した基金への拠出も許可されている。

障害者を雇用するために雇用主に与えられる補助金制度は一定の効果を生みだした。とりわけ小規模企業において助成効果があがったが、補助金額は1984年以来増額されていない。しかし、現在、現行より50%増額することが検討されており、今や多くの社会的不利な状況にある人たちの中で、このような優遇制度があるのは障害者に対してのみとなっている。また、雇用主は、障害従業員の社会保険料雇用主負担分は免除され、障害者の雇用を増やすことにより事業利益に対する課税額の減免制度もある。しかしながら、現在の種々の財政的支援措置だけでは雇用主の雇用率達成意欲を刺激するには不十分であり、大部分の補助金の対象は雇用率適用外の小規模企業に向けたものとなっている。

障害者本人への補助制度はなく、例外的に薬物中毒者に対するものだけがある。一方、自営障害者に対する財政的補助制度の利用者は、特に1994年に大きく上昇した。

シェルタード・ワークショップにおける雇用は、社会統合法により開始され、1994年には403のワークショップに1万1,277人が雇用されている。ここでは、家庭内職のような作業は許可されていない。また、一般雇用以外の特別な雇用形態をとっているのはワークショップのみである。就職希望者は、複数分野の専門家による審査の後ワークショップの雇用が許可される。ワークショップの従業員の80%以上は知的障害者、及び精神障害者といわれている。就職希望者との間で、雇用契約、又は訓練契約を交わす。ワークショップの経営者は、公的機関、民間事業者、あるいはボランティア団体等である。給料補填、運営資金補助、職場改善への補助等、さまざまな国庫補助制度がある。また、ワークショップ経営者の社会保険料雇用主負担分は免除されている。一般雇用に移行するための訓練機関としてのワークショップの役割に関する情報あるいはデータは未整備である。

1995年現在、スペインの全人口は3,184万1,200人であり、16歳から65歳までの労働人口は1,556万4,900人であり、総人口の48.9%となっている。1986年に国際分類基準に基づいた国勢調査が行われた。これによると、一般雇用にある者のうち、機能障害による能力低下のある人は57万4,226人、社会的不利を被っている人は14万9,944人となっており、さらに社会的不利を被っている人で現在失業の状態にある人は8万7,640人とされている。


1. Anne Shepherd の多大な貢献に謝意を表する。

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主題:
18カ国における障害者雇用政策:レビュー No.8

発行者:
ヨーク大学社会政策研究所 1997

発行年月:
1997

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