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第7回国連障害者の権利条約特別委員会

短報 2006年1月24日(火) (第23条まとめ及び第24条審議終了まで)

JDF(日本障害フォーラム)条約委員会

国連本部のロビーに展示してあるパブロ・ピカソの絵画「ゲルニカ」

 1月24日(第7日目)はまずはじめに、前日に進められた第23条「家庭及び家族の尊重」の審議のまとめが行われ、午前・午後を通じて第24条「教育」の審議が行われた。その後第25条「健康」条項の議論へと移った。


○第23条(家庭及び家族の尊重)のまとめ―前日からの続き

 本委員会のドン・マッケイ議長が論点等を整理したが、その中で、議論を通して合意に近づいた事項としては、第23条を独立した条文として維持すること、各国の多様な文化や国内法、慣習等を考慮した上で文言追加・修正を検討すること、「セクシュアリティ」という文言について削除する方向で検討すること、現存する他の人権条約の内容を超えるような新しい内容を第23条に盛り込むことはしないこと等を挙げている。

○第24条(教育)の議論

 本条文案は、他の条文案と比べても非常に長い協議時間が費やされてきたこともあり、教育をテーマにした条文を盛り込むこと並びに議長テキストで提示された内容に対して、この日の審議においても強い支持を表明する国が圧倒的であった。

 特に、教育への各国政府の取り組み意識や責任感は非常に高いものがあり、締約国が障害のある人のインクルーシブな教育を差別なく平等に確保することや、一般教育制度や初・中・高等教育から排除しないこと等は、今回もGO/NGOの区別、地域的、宗教的、政治的体制のちがい等を問わず、幅広く追認された。

 この日に発言した各国政府代表らのみならず、マッケイ議長も‘パラダイム・シフト’という言葉を多用していたことが示すとおり、障害のある人への教育は、「インクルージョン教育」という大きな流れの中で構成されつつも、その中で個々の支援ニーズに即した制度や施策、技術、訓練、スタッフ等、ハード・ソフト両面での配慮が保障されるという新しい考え方の枠組みが、世界レベルでダイナミックに構築されようとしていることがと伝わってくる、極めて有意義な審議が展開された。

 特筆すべきは、多くの国の政府から、障害のある人の教育の保障に非常に積極的な姿勢が随所に垣間見えたことである。一例を挙げると、教育についての権利実現のために締約国が確保すべき事項として、議長テキスト・第2パラグラフ(b)で「障害のある人が、可能な程度まで(to the extent possible) 自己の住む地域社会において、インクルーシブで質の高い無償の初等教育及び中等教育にアクセスすること」としていたが、この中の‘可能な程度まで(to the extent possible)’という表現を削除すべきとするカナダ提案に対し、多くの国から賛意が示された。また、教育に従事する専門家や職員等向けの訓練に関しても、議長テキストの内容よりさらに踏み込んだ提案を行う国も目立った。

 教育におけるジェンダー問題の解決に関する条文内での明記を求める意見が、国際障害コーカス(IDC)を中心に提示されたが、マッケイ議長は、現在も続けられているファシリテーターズ・グループでのより活発な議論を促した。

 ところで、前述のとおり、あらゆる段階におけるインクルーシブな教育、一般教育制度を受ける権利の保障については、各国政府から圧倒的な支持が得られたわけだが、日本政府から出された議長テキストに対する主な発言は、以下のとおり。

  • パラグラフ1の柱書き「締約国はあらゆる段階におけるインクルーシブな教育及び、インクルーシブな生涯学習を確保する。」という文中に「可能な限り」という表現を加えよ。
  • パラグラフ2(a)「障害のある人が障害を根拠として一般教育制度から排除されないこと、~」にある「一般教育制度」という文言の「一般」という表現を削除せよ。
  • パラグラフ2(d)「~ 一般教育制度が障害のある人の支援ニーズを十分に満たすことができない例外的な環境においては、締約国は、完全なインクルージョンという目標に即して、効果的な代替支援措置が提供されることを確保する。」との議長テキスト案文を、「~ 一般教育制度が障害のある人の支援ニーズを十分に満たすことができない環境においては、締約国は、その児童(生徒)の最大利益を注意深く考慮することに基づき、効果的な代替支援措置が提供されることを確保する。」という表現に改めよ。
  • パラグラフ4「締約国は、手話又は点字に通じた教員を雇用することにより、~」としている案文は、個々の児童(生徒)の状態に合わせて対応できるような表現に改めよ。

 なお、この日本政府の発言後、特殊教育の位置づけについて、今日も現存している実態を直視した対応を求める意見も他に数か国からあったが、結局、最後まで議論の中心テーマとして扱われることはなかった。

 今回のアドホック委員会において日本政府は、地域社会における自立生活等の保障に関する積極的な発言(提言)等を重ね、各国政府やNGOから高い評価を受けてきた。しかし、こと文部科学省が管轄する障害児(者)教育においては、世界的な潮流に敢えて逆らい、旧来の教育システムの維持のみに執着した態度を取り続けている。それがこの日も日本政府発言という形で繰り返し表明され、他国政府から名指しで厳しく反対される結果すら招き、わが国に対する評価を著しく失墜させてしまった懸念は、払拭できない。今後もこうした事態が放置され続けるならば、わが国の教育施策全体の膠着化を引き起こしかねず、JDFとして、今後もより強力な働きかけやロビィング活動が必要であろう。

○第25条(健康)の議論

 第25条(健康)の議論が始まった。また、この日は、女性条項のファシリテーターの議論が5時半から別個に開催された。議長草案では作業部会草案を第25条「健康への権利」と第26条「ハビリテーション・リハビリテーション」の2つの条項に分離したものとなった。

 25条も各国の関心が高い条項である。まずアメリカが、大幅な修正提案を出してきた。新しいパラグラフの創設を求めた。新しいパラグラフeでは、ユネスコの遺伝子データに関する国際宣言などを考慮した遺伝情報に関する規定である。遺伝子データの使用に関して了解を得ないで使用する例がありこれを防止するといった理由である。これについては賛否両論であった。また、パラグラフaに関して「性と生殖に関する保健サービス」という文言について多くの争いがある。アメリカやイランなどが削除を求めた。イスラエルやIDCは文言を残すように主張している。パラグラフcにおいては、IDCやイスラエルが「インフォームド・コンセント」を入れ込むように主張した。ここで、時間となり、第25条の続きは明日の午前へと持ち越された。

 以上で24日の会議は終わったが、午前の第24条教育条項での日本政府の発言は今後波紋を呼ぶだろう。各国の政府が、さまざまな限界のある中でもパラダイム・シフトなどと言った言葉を使用しながら、教育の分野に限らず、障害者が社会の中で見えない状態にされている状況を何とか打破しようと知恵を絞っている中、こうした後ろ向きとも取れる発言は残念でならない。