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修正議長草案と議長草案の比較

訳者:川島聡・長瀬修(2006年4月4日付仮訳)
比較作成者:川島聡(2006年4月4日作成)

これは、「障害のある人の権利に関する国際条約:ワーキングテキスト(U.N. Doc. A/AC.265/2006/2, 13 February 2006, Annex II)」(以下では修正議長草案と記す。)と、「障害のある人の権利及び尊厳の保護及び促進に関する包括的かつ総合的な国際条約草案(U.N. Doc. A/AC.265/2006/1, 14 October 2005, Annex I)」(以下では議長草案と記す。)とを比較したものである。

議長草案は、2006年1月16日から2月3日までニューヨークの国連本部で開催された第7回特別委員会において討議の叩き台とされたものであり、修正議長草案は、この第7回特別委員会の最終日に採択されたものである。

ここでの比較の主たる目的は、両テキストの字句等の表面上の異同を明らかにすることにある。議長草案の内容が変更された又は変更されなかった経緯と理由、両テキストの具体的な文言の法的意味、両テキストと人権諸条約その他の国際文書との関係等についての検証・分析は、ここでの目的としていない。そのような検証・検討に向けた前提作業の一つとして、ここでの比較は位置づけられる。

上記の目的に照らして、議長草案から変更された部分は文字色を「青字」にし、読み上げソフト対応のための画像を変更があった部分の先頭に設置した(ALT属性=「変更部分」とした)。議長草案から変更されなかった部分を「黒字」で記した。
 また、注釈を付した部分には「注釈」の画像を文末に設置し、各注釈部分とリンクさせた。(ALT属性=「注釈」とした)。修正議長草案の原文に付された計6つの注は、「原注」と記した上で該当する本文に組み込んで訳した。

また、この仮訳には、計160の訳者注(注釈)を付した。この訳者注では、議長草案から修正議長草案への変更点を必要に応じて指摘した。たとえば、議長草案から変更されたことを表わす言葉として「修正」「削除」「追加」「挿入」等を用いた。議長草案から変更されたにもかかわらず、その訳語を変更する必要がないと判断した場合には、「訳語の変更なし」とした。また、訳語の選定に当たっては判断に迷う箇所が多数あったため、訳者注において訳語に関しても若干の補足説明をしたが、これは網羅的なものではなく極めて簡単なものである。

なお、条約の構成に関しては、第1条から第33条までの構成は、両テキストの間に基本的な違いはない。ただし、見出しの言葉が若干変更された条文や、角ブラケットが削除された条文はある。また、議長草案の内容の一部(第1部、第2部、第3部及び第4部という表記、第34条及びその見出し(国際モニタリング)、並びに第4部に置かれた9つの条文(条文番号は記入されていない))は、修正議長草案には見られない。

変更部分 障害のある人の権利に関する国際条約:ワーキングテキスト 注釈 1

この条約の締約国は、

a 世界における自由、正義及び平和の基礎をなすものとして、人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利を認める国際連合憲章において宣明された原則を想起し、
b 国際連合が、世界人権宣言及び人権に関する国際規約において、すべての人はいかなる区別もなしに同宣言及び同規約に掲げるすべての権利及び自由を享有することができることを宣明し及び合意したことを認め、
c すべての人権及び基本的自由の普遍性、不可分性及び相互依存性と、障害のある人に対してすべての人権及び基本的自由の差別のない完全な享有を保障する必要性とを改めて確認し、
d 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、市民的及び政治的権利に関する国際規約、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約、女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約、拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約、子どもの権利に関する条約並びにすべての移住労働者及びその家族構成員の権利保護に関する国際条約を変更部分想起し、注釈2
e 変更部分障害者に関する世界行動計画及び障害のある人の機会均等化に関する基準規則に含まれる原則及び政策指針が、障害のある人の機会を更に平等化するための国内的、地域的及び国際的な場における政策、立案、計画及び行動の促進、形成及び評価に影響を与えるに当たって重要であることを認め、注釈3
f また、いかなる人に対しても障害に基づく差別は人間の固有の尊厳を侵害するものであることを認め、
g さらに、障害のある人の多様性を認め、
変更部分 h 変更部分 障害のあるすべての人(一層集中的な支援を必要とする人を含む。)の人権を促進し及び保護することが必要であることを認め、 注釈 4
変更部分 i これらの種々の文書及び約束にもかかわらず、世界のすべての地域において、社会の平等な構成員としての参加を妨げる障壁及び人権侵害に障害のある人が依然として直面していることを憂慮し、注釈5
変更部分 j あらゆる国特に途上国における障害のある人の生活状況を改善するために国際協力が重要であることを認め、注釈6
変更部分 k 地域社会の全般的な福利及び多様性への障害のある人の変更部分貴重な既存の及び潜在的な貢献変更部分を認めることが重要であることを強調し、さらに、障害のある人による人権及び基本的自由の完全な享有並びに完全な参加を促進することにより、変更部分その帰属意識が高められること並びに社会の人間開発、社会開発及び経済開発並びに貧困の根絶に多大な前進がもたらされることを強調し、注釈7
変更部分 l 障害のある人にとって、その個人の自律及び自立(自己の選択を行う自由を含む。)が重要であることを認め、注釈8
変更部分 m 障害のある人が、政策及び計画障害のある人に直接的に関連する政策及び計画を含む。)に係る意思決定過程に積極的に関与する機会を有するべきであることを考慮し、注釈9
変更部分 n 人種、皮膚の色、変更部分ジェンダー、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、変更部分民族的若しくは社会的出身、財産、出生、変更部分年齢又は他の地位に基づく複合的又は加重的な形態の差別を受けている障害のある人の困難な状況を憂慮し、注釈10
変更部分 o 変更部分 障害のある女性及び少女が、度々家庭の内外で暴力、傷害若しくは虐待、放置若しくは怠慢な取扱い、不当な取扱い又は搾取(それらのジェンダーに基づく発現形態を含む。)を受ける危険に一層さらされていることを認め、 注釈 11
変更部分 p 変更部分 また、障害のある子どもが他の子どもとの平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を完全に享有するべきであることを認め、また、このために子どもの権利に関する条約の締約国により約束された義務を想起し、 注釈 12
変更部分 q 障害のある人による人権及び基本的自由の完全な享有を促進するためのあらゆる努力にジェンダーの視点を組み込む必要があることを強調し、注釈13
変更部分 r 障害のある人の変更部分大多数が貧困の状況下で生活している事実強調し、また、変更部分これに関しては、障害のある人に対する貧困の負の影響変更部分に取り組むことが必須であることを認め、注釈14
変更部分 s 武力紛争の状況変更部分及び自然災害の発生が、戦時下にある国及び被災しやすい国において障害の経験を著しく増加させること、並びに障害のある人の人権に特に甚大な被害をもたらすことを憂慮し、注釈15
変更部分 t 障害のある人がすべての人権及び基本的自由を完全に享有することができるようにするに当たり、物理的、社会的及び経済的環境のアクセシビリティ、変更部分保健及び教育のアクセシビリティ並びに情報及びコミュニケーションのアクセシビリティが重要であることを認め、注釈16
変更部分 u 変更部分 個人が、他人に対し及びその属する地域社会に対して義務を負うこと並びに国際人権章典において認められる権利の促進及び遵守のために努力する責任を有することを認識し、 注釈 17
変更部分 v 途上国及び先進国の双方において、変更部分障害のある人の権利及び尊厳を促進し及び保護するための包括的かつ総合的な国際条約が、障害のある人の著しく社会的に不利な立場を是正することに意義深く貢献すること並びに市民的、政治的、経済的、社会的及び文化的分野への障害のある人の平等な機会での参加を促進することを確信して、注釈18
変更部分[家族が、社会の基礎的な集団として、障害のある人の権利の完全かつ平等な享有に貢献することを 可能とするための支援、情報及びサービスを受けるべきであることを確信し]
次のとおり協定した。注釈19
  1. 「障害のある人の権利及び尊厳の保護及び促進に関する包括的かつ総合的な国際条約草案」(議長草案の条約名称(題名))を「障害のある人の権利に関する国際条約:ワーキングテキスト」残疾人权利国际公约:工作案文-->(中国語版)
    International Convention on the Rights of Persons with Disabilities: Working Text(英語版)、Convención Internacional sobre los Derechos de las Personas con Discapacidad: Texto de trabajo(スペイン語版)、Convention internationale des droits des personnes handicapées: Texte de travail(フランス語版))に修正。persons with disabilitiesの訳語は、さまざまなものが考えられるが、本翻訳では「障害のある人」とした。 
     なお、本翻訳において、Disabled Personsは「障害者」(前文(e))、a person with disabilitiesは「障害のある個人」(4条1(f)(i))、a personは「個人」(29条(a)(iii))、individualは「個人」(前文(l)、前文(u)、3条(a)、17条4(d)、24条2(c)、24条3(c)、26条1(a))、other individualsは「他人」(前文(u))と訳した。24条2(d)については、the individual support needs of persons with disabilitiesは「障害のある人の個別的な支援ニーズ」、individualized support measuresは「個別化された支援措置」と訳した。
     そのほか、personal representationは「人格代理人」(12条1(b))、personal assistanceは「人的支援」(19条(b))、personal… informationは「個人情報」(22条2)、personal relationsは「対人関係」(23条1)、personalityは「人格」(24条1(b))、Liberty and security of the personは「身体の自由及び安全」(14条)、the integrity of the personは「個人のインテグリティ」(17条)、personal mobilityは「個人の移動性」(20条)と訳した。
  2. 「また、…改めて確認し」を「想起し」に修正。なお、以下の訳者注では、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」は「社会権規約」と、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」は「自由権規約」と、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」は「人種差別撤廃条約」と、「拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約」は「拷問等禁止条約」と、「女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」は「女性差別撤廃条約」と、「子どもの権利に関する条約」は「子どもの権利条約」と、それぞれ略記する(本翻訳では、政府公定訳で用いられている「女子women」と「児童child」を、それぞれ「女性」と「子ども」と訳す)。また、これらの人権条約を総称する際に、以下の訳者注では、主要人権諸条約という言葉を用いる。
  3. 「障害のある人の機会均等化に関する基準規則」の前に「障害者に関する世界行動計画及び」を挿入。
  4. 議長草案前文に見られない新たな内容。
  5. 議長草案前文(h)。
  6. 議長草案前文(i)。
  7. 議長草案前文(j)。「既存の及び潜在的な貢献」を「貴重な既存の及び潜在的な貢献を認めることが重要であること」に修正。「社会の人間開発、社会開発及び経済開発並びに貧困の根絶に多大な前進がもたらされること」の前に「その帰属意識が高められること並びにin their enhanced sense of belonging and」を挿入(sense of belongingは帰属感覚、帰属感と訳される場合等もある)。development of their societiesをdevelopment of societyに修正(訳語の変更なし)。
  8. 議長草案前文(k)。
  9. 議長草案前文(l)。「特にespecially」を「を含むincluding」に修正。
  10. 議長草案前文(m)。「性」を「ジェンダー」に修正。「出生」の後に「年齢」を挿入。「国民的若しくは社会的出身」を「国民的、民族的若しくは社会的出身national, ethnic or social origin」に修正。ethnicは「エスニック的」や「種族的」と訳される場合もあるが、ここでは「民族的」と訳した(永井他編『新解説 子どもの権利条約』日本評論社(2000年)41頁等参照)。主要人権諸条約の政府訳では、たとえば、「national or ethnic origin民族的若しくは種族的出身」(人種差別撤廃条約1条1, 5条等)、「national, ethnic or social origin国民的、種族的若しくは社会的出身」(子どもの権利条約2条1等)、「national or social origin国民的若しくは社会的出身」(社会権規約2条2、自由権規約2条1, 24条1, 26条等)などと訳される。
  11. 議長草案前文に見られない新たな内容。
  12. 議長草案前文に見られない新たな内容。
  13. 議長草案前文(n)。
  14. 議長草案前文(o)。「障害のある人の不釣合いに大多数a disproportionately large number of persons with disabilities」を「障害のある人の大多数the majority of persons with disabilities」に修正(「大多数の障害のある人」と訳すと、「大多数の」が「障害」を形容すると誤解される可能性があるため、「障害のある人の大多数」と訳した)。「事実the fact that」を挿入。「認めRecognizing」を「強調しHighlighting」に修正。「また」の後に「これに関してはin this regard」を挿入。「を軽減することが必要であることに留意しmindful of the need to alleviate」を「に取り組むことが必須であることを認めrecognizing the critical need to address」に修正。
  15. 議長草案前文(p)。「武力紛争の状況」の後に「及び自然災害の発生が、戦時下にある国及び被災しやすい国において障害の経験を著しく増加させること、並びに」を挿入。
  16. 議長草案前文(q)。「物理的、社会的及び経済的環境のアクセシビリティ」の後に「保健及び教育のアクセシビリティaccessibility…to health and education」を挿入(本翻訳では、文脈に応じてhealthを「保健」、「健康」、「衛生」に訳し分けたが、ここでは「保健」とした。public healthは、議長修正草案17条3及び25条(a)で用いられているが、前者では「公衆の健康」、後者では「公衆衛生」と訳した)。「情報及びコミュニケーション(情報通信技術を含む。)information and communication, including information and communication technologies」から「(情報通信技術を含む。)」の部分を削除。
  17. 議長草案前文に見られない新たな内容。関連内容として自由権規約及び社会権規約の前文。
  18. 議長草案前文(r)。「障害のある人の人権を特に取り扱う条約」を「障害のある人の権利及び尊厳を促進し及び保護するための包括的かつ総合的な国際条約」に修正。
  19. 議長草案前文に見られない新たな内容で、角ブラケットが付された。関連内容として主要人権諸条約の前文。

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