修正議長草案と議長草案の比較
川島聡・長瀬修 仮訳
(2006年4月4日付)
第6条 障害のある女性
48
-
締約国は、障害のある女性及び少女が複合的な差別を受けていること並びに障害のある女性及び少女によるすべての人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を確保するための重点的なエンパワーメント措置及びジェンダーに敏感な措置が必要であることを認める 。
49
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締約国は、この条約に定める人権及び基本的自由の行使及び享有を女性に保障することを目的として、女性の完全な発展及び向上を確保するためのすべての適当な措置をとる 。
50
第7条 障害のある子ども
51
-
締約国は、障害のある子どもによるすべての人権及び基本的自由の完全な享有を確保するためのすべての必要な措置をとるものとし、また、この条約に定めるすべての権利の享有についての障害のある子どもの平等な権利を確保する 。
52
-
障害のある子どもに関するすべての行動をとるに当たっては、子どもの最善の利益が主として考慮されるものとする 。
53
-
締約国は、障害のある子どもが他の子どもとの平等を基礎としてその子どもに影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利並びにその権利を実現するための障害及び年齢に適した支援を提供される権利を有することを確保する 。
54
第8条
啓発
55
- 締約国は、次のための即時的、効果的かつ
適当な措置をとることを約束する 。
56
(a) 障害のある人に関する社会全体の意識の向上と、障害のある人の権利
及び尊厳の尊重の育成
57
(b) あらゆる生活領域における障害のある人に関する固定観念、偏見及び 有害慣行(ジェンダー及び年齢に基づくものを含む。)との闘い
58
(c) 障害のある人の能力及び貢献に関する意識の促進 - このため、措置には次のことを含む。
第9条 アクセシビリティ
- 締約国は、
障害のある人が自立して生活すること及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にするため、障害のある人に対し、他の者との平等を基礎として、都市及び農村双方において、物理的環境、輸送機関、情報通信(情報通信技術
及び情報通信システムを含む。)
並びに公衆に開かれた又は提供される他の設備及びサービスへのアクセスを確保するための適当な措置をとる。このような措置は、
アクセシビリティにおける妨害物及び障壁を明らかにし及び撤廃することを含むものとし、特に次のことに対して適用する 。
61
(a) 建物、道路、輸送機関その他の屋内外の設備(学校、住居、医療設備及び職場を含む。)
62
(b) 情報、通信その他のサービス(電子サービス及び救急サービスを含む。)
63
- また、締約国は、次のことのための適当な措置をとる。
第10条 生命に対する権利
締約国は、すべての人間が生命に対する固有の権利を有することを改めて確認し、また、障害のある人が他の者との平等を基礎として当該権利を効果的に享有することを確保するためのすべての必要な措置をとる。
- 議長草案の条文番号及び見出しに付されていた角ブラケットを削除。
- 議長草案に見られない新たなパラグラフ・内容。
- 議長草案に見られない新たなパラグラフ・内容(原文:States Parties shall take all appropriate measures to ensure the full development and advancement of women, for the purpose of guaranteeing them the exercise and enjoyment of the human rights and fundamental freedoms set out in this Convention.)。女性差別撤廃条約3条(政府訳:締約国は、あらゆる分野、特に、政治的、社会的、経済的及び文化的分野において、女子に対して男子との平等を基礎として人権及び基本的自由を行使し及び享有することを保障することを目的として、女子の完全な能力開発及び向上を確保するためのすべての適当な措置(立法を含む。)をとる。)の類似規定(この政府訳はfull development and advancement of women を「女子の完全な能力開発及び向上」と訳しているが、ここでは「女性の完全な発展及び向上」と訳した(国際女性の地位協会編『女子差別撤廃条約注解(訂正版)』尚学社(1994年)74-81頁参照))。なお、主要人権諸条約の政府訳では、for the purpose ofを、「の適用上」、「するため」、「のための」、「することを目的として」と訳す場合等がある。
- 議長草案の条文番号と見出しに付されていた角ブラケットを削除。
- 議長草案に見られない新たなパラグラフ・内容。
- 議長草案に見られない新たなパラグラフ・内容(原文:In all actions concerning children with disabilities the best interest of the child shall be a primary consideration.)。子どもの権利条約3条1(政府訳:児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。)の類似規定(shall be a primary considerationを「主として考慮されるものとする」と訳すことについての問題ないし議論等は、永井他編『新解説 子どもの権利条約』日本評論社(2000年)48-51頁、波多野『逐条解説 児童の権利条約』有斐閣(1994年)30-33頁参照)。
- 議長草案に見られない新たなパラグラフ・内容。子どもの権利条約12条1(政府訳:締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。)の類似規定。
- 「障害に関する啓発Raising awareness regarding disability」を「啓発Awareness raising」に修正(awareness raisingは、「啓発」、「意識(の)向上」、「意識(の)高揚」と訳される場合等がある)。
- 「即時的かつ効果的な」を「即時的、効果的かつ適当な」に修正。
- 「障害及び障害のある人に関する」から「障害及び」の部分を削除。「障害のある人の権利」の後に「及び尊厳」を挿入。
- 「固定観念及び偏見」を「固定観念、偏見及び有害慣行harmful practice」に修正。regardingをrelatingに修正(訳語の変更なし)。
- 「障害のある人のセクシャリティ、婚姻、親たること及び家族関係に係るすべての事項に関し、障害のある人に対する否定的認識及び社会的偏見を変更すること。」(議長草案8条2 a(ii))を削除。
- 「障害に関する感受性を磨くための計画を促進すること。」(議長草案8条2(d))を削除。
- 「障害のある人が自立して生活するための及び生活のあらゆる側面に完全に参加するための能力を確保するため、…in order to ensure the capacity of persons with disabilities to live independently and to participate fully in all aspects of life. 」を「障害のある人が自立して生活すること及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にするため、To enable persons with disabilities to live independently and participate fully in all aspects of life, …」に修正。「構築された環境built environment」を「物理的環境physical environment」に修正。「情報通信技術を含むincluding information and communications technologies」を「情報通信技術及び情報通信システムを含むincluding information and communications technologies and systems」に修正。「その他のサービスand others services」を「並びに公衆に開かれた又は提供される他の設備及びサービスand to other facilities and services open or provided to the public」に修正。「都市及び農村双方においてboth in urban and in rural areas」を追加。「…における妨害物obstaclesを明らかにし及び撤廃することにより、障害のある人のアクセシビリティを確保するための適当な措置をとる」を「…障害のある人に対し、他の者との平等を基礎として、…へのアクセスを確保するための適当な措置をとる」に修正。「このような措置は」の後に「アクセシビリティにおける妨害物及び障壁obstacles and barriersを明らかにし及び撤廃することを含むものとし」を挿入。
- 「公共の建物、道路その他の公共の目的に利用される設備(学校、住居、医療設備、屋内外の設備及び公有の職場を含む。)を構築し及び改築すること」を削除。
- 「公共の輸送設備、通信その他のサービス(電子サービスを含む。)を充実させ及び改良すること」を削除。
- 議長草案9条2(c)の規定を次のように修正。「国内的な基準」から「国内的な」を削除。「公共の設備及びサービスpublic facilities and services」から「公共の」を削除し、「設備及びサービス」の前に「公衆に開かれた又は提供されるopen or provided to the public」を挿入。
- 議長草案9条2(d)の規定を次のように修正。「公共の設備及びサービスpublic facilities and services」から「公共の」を削除し、「設備及びサービス」の前に「公衆に開かれた又は提供される」を挿入。…which provide…を…that offer…に修正(訳語の変更なし)。
- 議長草案9条2(e)の規定。
- 議長草案9条2(a)の規定を次のように修正。「公共の建物及び設備public buildings and facilities」から「公共の」を削除し、「設備」の前に「その他のother」を挿入し、「建物」の前に「公衆に開かれた」を挿入。
-
議長草案9条2(b)の規定を次のように修正。「公共の建物及び設備public buildings and facilities」から「公共の」を削除し、「設備」の前に「その他のother」を挿入し、「建物」の前に「公衆に開かれた」を挿入。「手話通訳者」の前に「専門職のprofessional」を挿入。
なお、修正議長草案9条2(e)と20条(b)で用いられているlive assistanceとintermediariesは、それぞれ「ライブ支援」と「仲介者」と訳した。この点につき、作業部会草案(U.N. Doc. A/AC.265/2004/WG.1, 27 January 2004, Annex I)に付された「注70」によれば、「『ライブ支援』には、案内者guidesや朗読者readersのような人間の支援human assistanceと、介助犬guide dogsのような動物の支援animal assistanceとを含む」。また、作業部会草案に付された「注71」によれば、「『仲介者』は、支援する者ではなく、むしろ、障害のある人の特定集団に情報を伝達するための導管conduitとして活動する者(たとえば聴覚障害者については手話通訳者)を意味する」。 - 議長草案9条2(h)の規定。
- 議長草案9条2(f)の規定を次のように修正。「通信技術及び通信システムcommunication technologies and systems」を「情報通信技術及び情報通信システムinformation and communication technologies and systems」に修正。
- 議長草案9条2(g)の規定を次のように修正。「情報通信技術information and communication technologies」を「情報通信技術及び情報通信システムinformation and communication technologies and systems」に修正。「情報社会が最小限の費用でインクルーシブになるために」を「情報通信技術及び情報通信システムが最小限の費用でアクセシブルになるために」に修正。