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第8回国連障害者の権利条約特別委員会

短報 2006年8月16日(水)

(午前)中村尚子:立正大/JD(日本障害者協議会)

(午後)玉村公二彦:玉村公二彦:奈良教育大/JD(日本障害者協議会)

午前(中村尚子)

国連本部の様子

 まず、議長から、モニタリング、定義に関するそれぞれのインフォーマルミーティングを、ランチタイム、会議終了後、明朝と、つづけて開催する旨の提案があった。続けて、本日の最初の議題、「障害のある女性」(第6条)と「障害のある子ども」(第7条)の議事に入った。


○「障害のある女性」「障害のある子ども」

 最初に議長から次のような説明があった。

 障害者権利条約の中に、女性、子どもという特定のグループの権利に関する条項を設けるかどうかについて、前7回特別委員会で議論された結果、ジェンダーと年齢という視点をすべての条項に盛り込むこととあわせて、これら二つの特別の条項を設けるという「ツイントラックアプローチ」の必要性が確認された。ただし、第4条「一般的義務」に並記するという案もあるし、なによりもその内容はまだ確定してない状態なので、「どこに置くか」「中身をどうするか」について議論してほしい。全体的な事柄は次週の議題とする。

 約20の国(地域)から活発な発言があり、ほとんどが議長の提案であるツイントラックアプローチを支持するものであった。

 これらの条文案が今回初めて具体的に提案されたので、もっと時間をかけるべきだという意見(シリア)や、特別な集団をリスト化することへの疑問(コスタリカ)、第4条に含み込んでもよい(EU)という内容の発言であっても、原則的には反対しないという態度であった。

 第6条(女性)については、この条項の対象がwomen and girls とされている点について、少女と成人女性がまったく同列でよいのか、girlsを削除すべきであるといった意見や、第6条の第2パラグラフの女性に保障されるべき「条約に定める人権及び基本的自由」についてを「条約に定める」という限定をはずして「すべての人権…」とすべきというシリアの発言にかかわって、この部分の修正意見がいくつかあった。

 第7条(子ども)は子どもの権利条約の内容を基本においているが、同条約以上の権利を認めるべきではないという視点から、たとえば子どもの権利条約第12条(意見表明権)でふれている、「年齢と成熟に従い…」という文言を加えるべきであるといったさらに細かい文言の修正や挿入などについて発言があった。

 日本政府は、2つの条項について基本的に了承したが、「子ども」の第3パラグラフ(意見表明権)について、第7回委員会に引きつづき、同条約との整合性を図る観点から「同条約による」意見表明権であることを明示すべき旨、懸念を表明した。

 最後の4つのNGOから発言は、すべて二つの新設条項を歓迎するというもので、さらにIDCとしての補強する内容を提案するので検討してほしいという発言もあった。

○第24条(教育)

 午前の後半から、第24条(教育)の議論に入った。

 議長は、あらかじめ、ここでの討論は第24条全体にわたるものではなく、[  ](角ブラケット)付きの文言についてのみ集中して意見を出しあいたいということを告げた。第2パラグラフのdの[  ](角ブラケット)はつぎの2点である。

 障害のある人が、その効果的な教育を容易にするために必要な支援を一般教育制度内で受けること。障害のある人の個別的な支援ニーズを①[十分に満たすため]②[一般教育制度が十分に満たすことができない環境においては]、締約国、完全なインクルージョンという目標に即して、学業面の発達及び社会性の発達を最大にする環境において、効果的で個別化された支援措置が提供されることを確保する。

 まず、すべての国がインクルーシブ教育という方向性については賛意を示した。しかし約30ほどの意見を整理すると、①②の両者ともに削除する、①②ともに採用する、①を採用し②を削除する、②を採用し①を削除するの4つに分かれた。なかでも、①と②のどちらかを採用するかが最大の争点として残された。

 ②を採用する意見の根拠は、一般教育制度がすべての子どもにとってふさわしいわけではない(適切ではないグループとして重度の障害や知的障害が例としてあがっていた)ので、特別な教育サービスの必要性を示すべきだ、「特別なニーズをもつ子どもを一般教育制度に入れる場合の困難を考慮すべきだ」といったところにある。イスラエル、中国、タイベネズエラ、バーレーン、エチオピア、ロシア、シンガポール、マレーシア、チリなどがこの意見であった。日本は初めて基本的にこの条項全体を認め、②を選択する立場を表明した。

 ①を選択した国々は、EU(フィンランド)、ノルウェー、カナダ、ニュージーランド、セルビアモンテネグロ、南アフリカなどである。①の選択をした理由としては「完全なインクルージョンを目的とするから」(カナダ)、②の選択をすることは「二流の教育をつくることになる」(ニュージーランド)などである。

 両者の選択のちがいは、インクルージョン教育をどうとらえ、どう実現するかということと深く関わっているようだ。

 各国からの発言が一区切りついたところで、NGOから発言を受けた。第一発言者は、これまでの経過から「インクルーシブ教育か選択か」という論議からようやくインクルーシブ教育の方向でまとまりかけてきたかと思ったが、各国政府の議論を聞いて「選択」へ逆戻りしたと感じたと、率直な感想を述べた。そのほかの発言者も、一般教育制度、学校教育そのものの変革なくして、インクルーシブ教育の実現はない、「代替的教育」は例外を認めることになるといった意見が相次いだ。

短報 2006年8月16日(水)午後(玉村公二彦)

○第24条「教育」の続き

 午前に引きつづき、NGOからの発言があった。いずれも、[①]([十分に満たすために])を採用するというものであった。国内人権機関は、教育の権利という観点から、知的障害権利インターナショナルは、法的な義務の有無にかかわらずインクルーシブな教育にならなければならないことを強調し、知的障害のある人も一般的な教育に含まれ、その中で適切な支援が必要であることを強調した。アフリカ南部障害者団体もインクルーシブ教育を主張。IDC(コーカス)は、例外なくインクルーシブ教育が必要であり、一般教育が変わらなければらないことを強調した。

 マッケイ議長は、議論を鳥瞰して、(1)2つ目のブラケット([一般的教育制度が十分に満たすことができない環境において])を採用するという意見、(2)二つとも残す提案(ブラジル)、(3)1つ目の角ブラケット([十分に満たすために])を採用するという意見が出され、(1)が比較的多くの意見となっていたと指摘した。その上で、いずれの意見もインクルーシブ教育を否定するものではなく、バランスをとる必要を強調した。角ブラケット部分は、第24条全体にも関わっており、全体の条項の構造を念頭において検討する必要があること、また、モニタリングメカニズムとの関係で、一般教育と特別教育に関して各国の政策・報告などのチェックにも関係してくると提起した。また、教育の条項の第2パラグラフは、社会権であり、資源との関係で完全にインクルーシブな教育を実現するという社会的経済的義務が果たせないことがあることは明らかで、資源に基づいて漸進的に実現することが求められると指摘した。こうしたことを考慮して、どのような文言がよいか歩みあえるものを検討することが要請された。

○第25条 健康([性と生殖に関する保健サービス])

 マッケイ議長から、健康に関する条項のブラケット部分について、脚注4について、「性と生殖に関する保健サービス」が新たな義務や権利をつくるものでなく、障害の基づいた差別なしに保健サービスが提供されるという非差別を示したものであることが説明された。各国代表の議論では、イスラム教のアラブ諸国イスラム諸国、カトリック教のバチカン市国ならびにアメリカなどが「性と生殖に関する保健サービス」の部分を削除するという強い発言があった。文化的宗教的な背景を持つ発言であるが、曖昧で定義について結論が得られない、文化的な問題がある等を理由として、条約の批准のためにならないとの理由があげられた。それに対して、EU、南アメリカ諸国、カナダなどから、障害のある女性などの性と生殖に関する保健サービスが拒否される現実に対して強い懸念があり、ブラケット部分は残すことが強く要望された。ただ、アラブ系でもヨルダンは、センシィティブな問題であるとしながらも、性と生殖に関する保健サービスの文言を残すことを主張。中間的には、「国内法に基づいて」の文言を入れる修正案もだされたり、意見の対立の中で文言の削除をしてもよいと立場をかえる国もあった(ノルウェー)。

 コーカスからは、アラブの立場であっても、イスラム教の国内法に抵触するものではないことが主張された。マッケイ議長は、障害のある人も同じ保健サービスを受けること、そしてその中には性と生殖に関するものも含まれることについては反対はなく、意見の相違はないことを指摘した。その上で、「性と生殖」には現実的に問題が多いことがあり特に言及していること、しかし、この文言は微妙な問題を引き起こすことがあるので、表記の問題として考慮し、合意にいたることが要請された。