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2003年―2012年アジア太平洋障害者の十年中間評価ハイレベル政府間会合報告

APDF(アジア太平洋障害フォーラム)財務担当役員 PT リム
2007年10月

I.序論

  1. 2003年―2012年アジア太平洋障害者の十年中間評価ハイレベル政府間会合は、以下の目的のため、2007年9月19日から21日まで、タイのバンコクにおいて、アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)によって開催された。
    • 行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク(BMF)の実施における進捗状況と課題を再検討する。
    • BMFに対する補足として、「びわこプラス5:アジア太平洋地域における障害者のためのインクルーシブでバリアフリーな権利に基づく社会に向けてのさらなる取り組み」を検討し、採択する。
  2. 本会合には以下のESCAP加盟国および準加盟国の高官代表が参加した。アゼルバイジャン、バングラデシュ、ブルネイ、カンボジア、中国、朝鮮民主主義人民共和国、インド、インドネシア、イラン、日本、キルギスタン、ラオス、マレーシア、ミャンマー、パキスタン、パプアニューギニア、フィリピン、大韓民国、ロシア連邦、スリランカ、タイ、アメリカ合衆国、バヌアツ、ベトナム、クック諸島および香港。
  3. 以下の国連事務所、国連機関および専門機関が代表として参加した。事務局の経済社会局、人権高等弁務官事務所、国連難民高等弁務官、国連人口基金、国際労働機関、国連教育科学文化機関および世界保健機関。
  4. 政府間組織である、太平洋諸島フォーラムから代表が参加した。
  5. 経済社会理事会の諮問機関であるNGOや、障害者の権利及び尊厳の保護及び促進に関する包括的かつ総合的な国際条約特別委員会に参加したという理由で公認されたNGOの代表が多数、会合に参加した。これらのNGOには、松井亮輔教授が代表を務める日本障害フォーラム(JDF)と、PT リム氏が代表を務めるアジア太平洋障害フォーラム(APDF)が含まれており、リム氏は本会合の全体会議において声明を発表した。

II.開会

  1. ESCAP事務局次長持田繁氏は、開会の辞の中で、全関係者の連携が不可欠であることを強調し、それが障害者の完全参加と平等の促進において最も重要であるとした。持田氏は、BMFの目標達成に向けた進捗状況に関する、ESCAPによるさまざまな見直しに言及し、「十年」の開始以来、フレームワークのあらゆる優先分野において全体的に進展が見られたことを明らかにした。
  2. 日本のESCAP常駐代表を務めている、在タイ日本大使館新見公使が、歓迎の辞を述べた。新見公使は、障害者の市民的、文化的、経済的、政治的および社会的権利の保護における、慈善に基づくアプローチから権利に基づくアプローチへの移行の始まりとしてBMFを振り返った。さらに、タイ王国政府の後援の下、日本政府の支援を受けて、この地域の障害者のエンパワメントにかかわる分野における各国の協力を推進する、地域機構としてのアジア太平洋障害開発センター(APCD)の重要な役割を認めた。
  3. 日本の嘉田由起子滋賀県知事による歓迎の辞が、ビデオ送信された。2002年にBMFが採択された会議の開催都市の知事として、嘉田知事は、フレームワークの実施におけるあらゆる成果に対して感謝の意を表明し、アジア太平洋地域のすべての関係者による、2006年の障害者権利条約採択への貢献に向けた取り組みを認めた。
  4. タイ王国政府副首相兼社会開発・人間安全保障大臣パイブーン・ワタナシリタム閣下より開会の辞が述べられた。閣下は、障害者権利条約とBMFの共通の目標に向けたタイ王国政府の責務を再確認し、同時に、障害者のエンパワメントのために、特に障害分野に関する地域のイニシアティブにおいて、すべての関係者による連携が重要であることを強調した。

III.討議内容

  1. タイ盲人協会会長で、世界盲人連合執行委員のモンティアン・ブンタン氏は、基調演説の中で、障害者の強い願望を実現したBMFの精神に言及し、慈善に基づくアプローチから権利に基づくアプローチへのパラダイムシフトに注目した。ブンタン氏は、BMFのすべての優先分野における過去五年間の好ましい変化と、APCDおよび障害者権利条約の実現について言及した。そして、BMFの原則を反映したバンコク草案が、障害者権利条約の策定に大きく貢献したと付け加えた。さらに、現在の地域的な課題、特に、アクセシビリティの基準およびガイドラインの実践と、貧困緩和および社会保障プログラムに障害を組み込むことを強調した。
  2. 本会合では以下の四文書について検討した。
    1. E/ESCAP/APDDP(2)/1「2003年から2012年までの、アジア太平洋地域における障害者のためのインクルーシブでバリアフリーな権利に基づく社会へ向けての行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク(BMF)の実施における進捗と直面している課題の検討」
    2. E/ESCAP/APDDP(2)/INF/1「パートナーシップ:2003年から2012年までの、アジア太平洋地域における障害者のためのインクルーシブでバリアフリーな権利に基づく社会へ向けての行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク(BMF)の実施を成功させるための鍵」
    3. E/ESCAP/APDDP(2)/INF2「太平洋準地域における行動のためのびわこミレニアム・フレームワークの実施の強化」
    4. E/ESCAP/APDDP(2)/INF/3「アジア太平洋地域における障害者のための開発への権利に基づいたアプローチ:行動のためのびわこミレニアム・フレームワークとミレニアム開発目標および障害者権利条約との関連」
  3. ESCAP事務局は本会合に提出された文書に基づき、BMFの実施に関する中間評価   概要を発表した。概要では、過去五年間の主要な成果、特に国内での調整機構、障害関連政策、障害に関するデータ、準地域レベルでのイニシアティブと関係者間の協力に焦点が当てられた。そして、目立った進展がみられた一方で、取り組まなければならない多くの課題も残されているという見解が示された。最重要課題は、持続性のある資源を伴った法律および計画の実施である。また、貧困を緩和し、障害者のために教育および雇用の機会を促進する迅速な行動がとられなければならないと考えられる。その他の課題としては、北アジアおよび中央アジアにおいて、災害に強いアクセシブルなコミュニティと障害関連の基準を定めた枠組みの開発を推進することがあげられる。びわこプラス5が、完全にバリアフリーで、かつ権利に基づく社会の実現をさらに促進することが期待される。
  4. 太平洋地域におけるBMFの実施に関する発表では、障害者団体、政府間組織、各国政府およびESCAPなどのさまざまな関係者間の、共同イニシアティブの成功に焦点が当てられた。インドのアミタ・ダンダ教授は、心理社会的障害者のアイデンティティを否定する法令、規則および司法判断など、規範に関する障壁を克服するためには、心理社会的障害者によるセルフアドボカシー(自己権利擁護運動)が必要であることを強調した。オーストラリアのアンドリュー・バーンズ教授は、障害者権利条約およびその選択議定書の概観を述べた。バーンズ教授は、同条約には、アクセシビリティの権利や危険のある状況および人道上の緊急事態における保護と安全の権利、地域社会へのインクルージョンに加えて、自立した生活をおくる権利、そして個人的な移動の権利など、革新的な規定が盛り込まれていることを指摘した。障害者が自ら選択したあらゆるコミュニケーション形態を通じてコミュニケーションをとる権利と、国際協力に関する詳細な規定も、人権条約としは初めて保証された。BMFとの関連については、バーンズ教授は、 どちらも権利に基づくアプローチや障害者の参加および能力開発に焦点を当てていることから、両者は広い意味で一致していると述べた。ミレニアム開発目標に関しては、その目標および指標では障害について何も具体的に言及してはいないが、目標達成のためには、障害者の状況に取り組み、障害に関する分析を政策に取り入れることが必要であると指摘した。
  5. 本会合において意見が交わされた、その他のさらに重要な点は、以下のとおりである。
    1. 多くの国では、障害者のニーズと問題への取り組みにおいて、権利に基づくアプローチをとることを約束していた。2006年12月13日の障害者権利条約および選択議定書の採択に向けたプロセスは、権利に基づくアプローチをさらに強化した。同条約は、障害に特化した最初の人権条約であり、BMFと並行して、障害問題に対する慈善に基づくアプローチから権利に基づくアプローチへのパラダイムシフトを、法的に裏付けることとなった。
    2. 障害を含めた開発は、開発分野においてもますます認められるようになって来た概念である。この結果、障害問題を一般の開発政策およびプロジェクトへ統合させることに、より多くの注意を払う国や二国間・多国間開発銀行、世界および地域の両レベルの国際開発機関の数が増加した。
    3. BMFおよび障害者権利条約は、国内の法律や計画によい意味で影響を与えた。憲法の中に障害について言及した特別な条文を入れている国もあれば、BMFの七つの優先分野を網羅した包括的な障害者法を持つ国もある。そして、障害に特化した差別禁止法を持つ国の数が増えている。さらに、この地域では、この問題に関して地方政府レベルでも開発計画があることが認められた。
    4. 各国政府は障害に関する国内計画およびプログラムの実施のための予算配分の増加を着実に実施することを約束した。中でも、子供の教育、無利子のローンを含む助成金および貸付金の支給、住宅支援、および就職のための研修など、障害者への財政支援に特に資源が投入された。
    5. 数カ国が、アジア太平洋地域の障害者の完全な参加と平等に関する宣言に署名した。その他の方策として、国内における障害者の十年や障害者年の設定を行った国もあった。
    6. ESCAP地域では、国内レベルで障害問題を調整する機構を設ける国の数が着実に増えてきた。この地域では障害に関する多様な形態の制度が制定されてきたが、それには複数の省庁と障害者も参加していた。国内の調整機構が、内閣総理大臣の責任の下に設置されたと報告した代表もいた。
    7. 数人の代表が、各国政府、国連機関、開発機関、特に「十年」の前半の成功に貢献した障害者団体や民間セクターなどのNGO等、全関係者の協力の増加を報告した。そして、「十年」の残り五年について、全関係者間の連携が、BMFの実施を成功させるための戦略の重要な鍵であることを指摘した。
    8. 災害が起こりやすいというこの地域の特性と紛争状態とが、BMFの実施に対する深刻な課題をもたらした。自然災害および紛争が障害者の数を増加させ、障害者の脆弱性に拍車をかけ、その結果貧困の増加につながった。しかしながら、被災した地域社会については、再建のニーズが、政府、開発機関および障害者がともに、障害者にとってアクセシブルな地域社会の再建のために活動する機会をもたらした。
    9. 国内レベルおよび地域レベルの特別な公的行事は、障害者の地位向上に貢献する点で重要である。これに関して中国代表が、2007年10月に上海で開催される予定のスペシャルオリンピックスと、第29回北京オリンピックに続いて2008年9月に開催が予定されている第13回パラリンピックについて発表した。さらに韓国代表が、2012年に現在の「十年」を締めくくるハイレベル政府間会合を同国が主催する提案を発表した。
  6. 本会合ではさらに、以下の七つのBMF優先分野に関して、この地域における各国の成果を見直した。
    1. 第一の優先分野について、本会合では、この地域のいくつかの国で、障害者の自助団体(SHO)および関連する家族・親の会の結成と強化を支援する具体的な措置が講じられたことが認められた。さらに、過去五年間で、障害者権利条約の草案作成のプロセスなど、政策決定のプロセスへの障害者の参加が大きく増加した。
    2. 第二の優先分野は、障害のある女性にかかわる分野であるが、本会合では、この地域のいくつかの国で、障害のある女性の権利を保護する非差別政策がとられていることが指摘された。これに関して、ある代表が、国内の諮問評議会の下に障害のある女性に関する専門作業部会が設立されたと述べた。しかし、障害のある女性の多くは、継続する社会的排除と、エンパワメントや研修、機会の欠如のために、今なお指導的な役割を果たすことができないでいるという問題があった。
    3. 第三の優先分野について、本会合では、各国政府による障害のある子どもと青年の教育へのアクセスを強化する取り組みが増加していることが認められた。しかし、教育へのアクセスは健常者に比べれば著しく低いレベルにとどまっていた。いくつかの国では、幼児を対象とした地域社会に根付いた早期介入のサービスや訓練プログラムを提供する措置もとられていた。
    4. 第四の優先分野は、「訓練および自営を含む雇用」で、本会合では、いくつかの国が過去五年の間に、1983年のILO(障害者)職業リハビリテーションおよび雇用条約(159号)を批准したことが確認された。さらに多くの国々が、非差別に関する法律や政策を採択したり、技術研修や雇用促進に関連したサービスを提供したりしていた。これに関して、いくつかの国が障害者も対象とした職業訓練センターを設立し、その他の雇用のための研修サービスを提供していた。
    5. 第五の優先分野について、本会合では、構築環境に関連する具体的な法律や規則の制定に関して大きな進展があったことが指摘された。障害者だけでなく、観光業界にも利益をもたらす有用な手段としての「アクセシブルな観光」についても注目が高まった。しかし、特に農村地域や遠隔地域における既存の構築環境と交通のアクセシビリティを強化するために、この地域において取り組むべき課題が残されている。
    6. 第六の優先分野は、「情報、通信および支援技術を含む情報通信へのアクセス」に関連しており、本会合では、多数の国が障害者のためのICTアクセシビリティガイドラインを導入し、いくつかの国では、障害者によるインターネットへのアクセスに対応する国内のコンテクストおよびデータに、世界的な基準を適用していることが確認された。さらに本会合では、手話および点字の標準化についても進展があったことが指摘された。
    7. 第七の優先分野は能力開発、社会保障および持続的生計プログラムによる貧困の緩和にかかわるもので、本会合では、この地域の国々が、無利子の小口融資の提供、重度障害者を対象とした毎月の現金支給による支援、およびあらゆる教育段階における障害のある学生への教育補助金の支給など、政府の貧困緩和計画に障害者を含むことに有意義な取り組みを行ったことが指摘された。本会合では、国の経済状態とは関係なく、障害者と健常者の間に際立った格差があることが懸念された。
  7. 本会合ではさらに、E/ESCAP/APDDP(2)/L.3「びわこプラス5:アジア太平洋地域における障害者のためのインクルーシブでバリアフリーな権利に基づく社会へ向けてのさらなる取り組み」の草案も検討され、採択された。そして、びわこプラス5がBMFを補足し、「十年」の残りの五年間のために、両文書がアジア太平洋地域の障害者のためのインクルーシブでバリアフリーな権利に基づく社会を実現する地域ガイドラインとしての役目を果たすだろうということで同意が得られた。

IV.結論

  1. 「十年」の残り五年間で、アジア太平洋地域の障害者のためのインクルーシブでバリアフリーな権利に基づく社会に向けたBMFおよびびわこプラス5の実施にさらに進展が見られるであろうという楽観的な見方があった。しかし、BMFとびわこプラス5が不必要であるとされ、障害者権利条約の気運の高まりに取って代わられる可能性もある。アジア太平洋地域は障害問題とその関連課題を検討する際、慈善に基づくアプローチから権利に基づくアプローチへの差し迫ったパラダイムシフトを迅速に受け入れていかなければならない。
  2. 本会合はハイレベル政府間会合であるので、いくつかのNGOにはその見解および懸念を表明する十分な時間や機会が無かった。また、NGOには交渉権も無かった。
  3. 参加者は、タイホイール工場や支援技術センター、およびタイ高速鉄道公社(MRTA)など、さまざまな分野の現地視察に招待された。
  4. 本会合の興味深い特色としては、参加者が以下の点についてさらに学べるような特別なイベントが二件、昼食時間帯に開催されたことがあげられる。
    1. 「構築環境および公共輸送機関へのアクセス―好事例」として日本の岐阜県高山市の事例
    2. 世界ろう連盟アジア太平洋地域事務局理事宮本一郎氏、全国盲ろう者協会門川紳一郎氏、および障害者インターナショナル(DPI)アジア太平洋地域開発オフィサー、サワラック・トングクウェイ氏によるパネルディスカッションを中心とした障害者の自助団体および関連する家族・親の会の情報