音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

アジア太平洋障害者の10年(2013-2022)に関する閣僚宣言、およびアジア太平洋障害者の「権利を実現する」インチョン戦略(JDF仮訳)

アジア太平洋経済社会委員会
バンコク 2012年11月

日本語訳:日本障害フォーラム(JDF)

目次

序文

ESCAP加盟国政府は、2012年10月29日から11月2日まで大韓民国・インチョン(仁川)に集まり、新たなアジア太平洋障害者の10年(2013-2022)がとるべき方向性を策定した。協議には、障害当事者団体および障害者支援団体をはじめとする市民社会団体も加わり、さらに政府間組織、開発協力機構、国際連合システムも参加した。

「アジア太平洋障害者の10年(2003-2012)の実施に関する最終評価のためのハイレベル政府間会合」が、ESCAPの運営および大韓民国政府の主催により開催された。同会合は、2期目となるアジア太平洋障害者の10年(2003-2012)を締めくくるとともに、新たな10年を開始する場となった。

ハイレベル政府間会合に出席した加盟国政府は、「アジア太平洋障害者の10年(2003-2012)に関する閣僚宣言」および「アジア太平洋障害者の『権利を実現する』インチョン戦略」を採択した。
インチョン戦略は、アジア太平洋地域および世界に対して、地域で合意に至った、障害インクルーシブな一連の開発目標を初めて提示するものである。
加盟国政府および市民社会ステークホルダーとの2年以上にわたる諮問を経て練り上げた結果、インチョン戦略は10の目標と27のターゲットと62の指標を含むものとなった。
インチョン戦略は、「障害者の権利に関する条約」「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」「アジア太平洋地域の障害者のためのインクルーシブでバリアフリーな権利に基づく社会に向けたびわこプラスファイブ」を基盤としている。
インチョン戦略を利用することで、アジア太平洋地域においてこの地域に暮らす6億5千万人の障害者、その大部分は貧困生活を送っている、が生活の質を改善し、権利を充足させるための過程を辿ることが可能となる。ESCAP事務局は、閣僚宣言およびインチョン戦略の実施に関する進捗状況について、10年の最終年である2022年まで3年ごとに報告するよう定められている。

アジア太平洋障害者の10年(2013-2022)に関する閣僚宣言

私たち、国際連合アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の加盟国政府および準加盟国政府の閣僚および代表は、2012年10月29日から同年11月2日まで大韓民国・インチョンにおいて開催された「アジア太平洋障害者の10年(2003-2012)の実施に関する最終評価のためのハイレベル政府間会合」に集まり、

「障害者に関する世界行動計画」1 を採択した1982年12月3日付け国連総会決議37/52および「障害者の機会均等化に関する標準規則」を採択した1993年12月20日付け国連総会決議48/96において、障害者が開発のあらゆる側面で主体および受益者として認識されていることを想起し、

2008年5月3日に効力を発生することとなる「障害者の権利に関する条約」およびその選択議定書を採択した2006年12月13日付け国連総会決議61/106をあわせて想起し、

障害者を含む貧困層および困窮した状況下で生活する人たちに政策および活動の重点を置き、その人たちがミレニアム開発目標達成に向けた進展から利益を享受するようにしなければならないことをなかんずく認識する「約束を守る:ミレニアム開発目標の達成に向けた団結」と題された2010年9月22日付け国連総会決議65/1をさらに想起し、

「ミレニアム開発目標およびその他の国際的に合意された障害者関連の開発目標に関するハイレベル会合」を、「さらなる前進へ:2015年およびそれ以降に向けた、障害インクルーシブな開発課題」を全体テーマとして各国の政府代表レベルで2013年9月23日に開催することを国連総会が決定したこと 2 を歓迎し、

人間の安全保障について共通理解に合意したことを定め、なかんずくすべての個人とりわけ脆弱な人々が恐怖からの自由と欠乏からの自由を有するとともにあらゆる権利を享受し人間としての可能性を開花させる機会を平等に有することを明記した2012年9月10日付け国連総会決議66/290をあわせて想起し、

この種の地域10年計画を世界ではじめて宣言した「アジア太平洋障害者の10年」(1993-2002)に関する1992年4月23日付けESCAP総会決議48/3をあわせて想起し、

「アジア太平洋障害者の10年」(1993-2002)をさらに10年(2003-2012)延長することを宣言した、21世紀におけるアジア太平洋地域の障害者のためのインクルーシブでバリアフリーな権利に基づく社会の促進に関する2002年5月22日付けESCAP総会決議58/4をさらに想起し、

委員会が加盟国政府および準加盟国政府にびわこミレニアム・フレームワーク実施への支援をなかんずく要請した「アジア太平洋障害者の10年」(2003-2012)の間に採択された「21世紀におけるアジア太平洋地域の障害者のためのインクルーシブでバリアフリーな権利に基づく社会に向けた行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の地域内での実施に関する2003年9月4日付けESCAP総会決議59/3を想起し、

「アジア太平洋障害者の10年」(2003-2012)の最終年である2012年に「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」および「びわこプラスファイブ」の実施に関する評価のためハイレベル政府間会合を召集することを定めた、「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」および「21世紀におけるアジア太平洋地域の障害者のためのインクルーシブでバリアフリーなかつ権利に基づく社会に向けたびわこプラスファイブ」の地域内での実施に関する2008年4月30日付けESCAP総会決議64/8をあわせて想起し、

ハイレベル政府間会合につながる準備プロセスにアジア太平洋地域の障害者団体を含むすべての主要なステークホルダーが関与することを奨励した「アジア太平洋障害者の10年(2003-2012)の実施に関する最終評価のためのハイレベル政府間会合」に向けた地域での準備に関する2010年5月19日付けESCAP総会決議66/11をさらに想起し、

「アジア太平洋障害者の10年」(2013-2022)を宣言するとともに、加盟国政府および準加盟国政府に対して、ハイレベル政府間会合に積極的に参加すること、そして「障害者の権利に関する条約」に定められた諸原則および義務に基づく「10年」を実施する指針となる戦略的な枠組みを検討および採用することを促す2012年5月23日付けESCAP総会決議68/7 を想起し、

『障害に関する世界報告書』の推計によれば、世界人口の15%が何らかの形で障害を持っており、これはアジア太平洋地域では障害者が6億5千万人いることに相当し、そのうち80%が開発途上国に暮らしていること3 に留意し、

1993年から2012年にわたって2度の「アジア太平洋障害者の10年」が実施される過程で、ESCAP加盟国政府および準加盟国政府が、とりわけ政策的・制度的な関与や法制度およびエンパワーメントにおける新たな進展を通じて、インクルーシブな開発に向けた権利に基づくアプローチのための基盤を確立する観点から達成してきた進歩を歓迎し、

市民社会、とりわけ障害者の当事者団体および支援団体が、多様な障害者の権利に関する継続的な啓発活動、良好な実践例の採用、政策的な対話への関与などを通じて達成してきた進歩に感謝とともに留意し、
太平洋地域のリーダーたちが、ポート・ヴィラで開催された第41回太平洋諸島フォーラムにおいて、2010年8月5日付けのコミュニケ4 を通じて、障害者の権利を保護・促進し、障害インクルーシブな太平洋地域を築き上げるための枠組みを提供し、「障害者の権利に関する条約」および障害に関連するその他の人権文書の実施に向けたステークホルダーの関与を強化する「障害に関する太平洋地域戦略2010-2015」 5 を強く支持していることを念頭に置き、

インドネシア・バリで開催された第19回ASEAN首脳会議が、ASEAN地域の経済・政治保障・社会文化の全分野を通じたASEANの諸政策・諸制度のなかで障害者が有効に参加でき障害の観点が主流化されることをめざして、「ASEAN地域に暮らす障害者の役割と社会参加の強化に関するバリ宣言」 6 を2011年11月17日付けで採択し、あわせて2011~2020年を「ASEAN障害者の10年」にすると宣言したことに感謝とともに留意し、
大韓民国・プサン(釜山)で開催された「第4 回援助効果向上に関するハイレベル・フォーラム」が、2011年12月1日付けで「効果的な開発協力のための釜山パートナーシップ」 7 を採択し、効果的な開発に向けた協力の基盤を形成するために障害に関する国際的な関与が重要であることを認識したことを歓迎し、
「バリアを撤廃し、インテグレーションを促進する」をテーマとする北京フォーラムが、なかんずく「障害者に関する権利条約」を推進し2015年以降多様な部門における国際連合開発課題に障害の側面を組み入れる意義を認識した「障害インクルーシブな開発に関する北京宣言」 8 を2012年6月8日付けで採択したことをあわせて歓迎し、
「障害者の権利に関する条約」を実施するための包括的で分野横断型の貧困削減戦略を提供する、世界保健機関(WHO)、国際労働機関(ILO)、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)、国際障害・開発コンソーシアム(IDDC)の共同文書である「地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)ガイドライン」 9 に留意し、

「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」の成果文書として国際連合加盟国が2012年6月22日付けで採択した「私たちが望む未来」10 において、持続可能な開発への関与の実現を加速させる対策としてなかんずく障害者を挙げてそのインクルージョンの権利を認識したことを想起し、

アジア太平洋地域の障害者が経済的・社会的な機会や政治参加への公正なアクセスの権利を有することが保障されるためには、いまだに数多くの課題に対処しなければならないことに懸念とともに留意し、

アジア太平洋地域で進行している急速な人口高齢化の長期的な結果に関して障害の課題に対処する必要性を強調し、

過去30年間でもっとも多くの自然災害が発生しているアジア太平洋地域において、障害者が災害の被害を受ける度合いが不均衡に高いことに深刻な懸念とともに留意し、

障害者に対するネガティブな偏見や差別的態度がいまだに横行していることにあわせて留意し、

物理的環境、公共交通機関、知識、情報およびコミュニケーションのアクセシビリティを高めるための新しい技術を活用するなど、障害者の権利を促進する機会が高まりつつあることを心に留め、

1 新たな「アジア太平洋障害者の権利を実現する10年」(2013-2022)の間にアジア太平洋地域のすべての障害者の権利を保障、促進および下支えするインクルーシブな社会の地域的なビジョンの達成を加速させる行動を引き起こす媒介となるべく、添付の通り「アジア太平洋障害者の『権利を実現する』インチョン戦略」(以下、インチョン戦略と称する)を採択し、

2 政府が、障害者の権利を保障、促進および擁護し、ならびに多様な部門において2015年以降の開発計画に障害の観点が含まれるよう促進するために中心的な役割を果たすことを認識し、

3 2022年までにインチョン目標およびターゲットに到達するための行動を促進することで本宣言およびインチョン戦略を実施することを誓い、

4 以下に掲げるように、関係するすべてのステークホルダーが、本宣言およびインチョン戦略の実施に貢献する全地域のパートナーシップに参加するように呼びかけ、

a 東南アジア諸国連合(ASEAN)、経済協力機構(ECO)、太平洋諸島フォーラム(PIF)および南アジア地域協力連合(SAARC)といった、小地域の政府間組織が、ESCAPと連携しながら、障害インクルーシブな開発に向けた小地域レベルの協力関係を促進および強化すること。

b 開発協力機構が、その政策、計画および制度について、障害インクルーシブな度合いを強化すること。

c 世界銀行およびアジア開発銀行が、その技術的・財政的資源を、アジア太平洋地域において障害インクルーシブな開発が促進されるように活用すること。

d 制度、基金および専門機関を含む国際連合システムとESCAPとが共同で、国際連合開発グループ(UNDG)および国連カントリーチーム(UNCTs)といった、国レベル、地域レベルおよび国際レベルでの既存の諸機関を有効に利用するなどして、アジア太平洋地域において障害インクルーシブな開発を遂行すること。

e 市民社会団体、とりわけ障害当事者団体および障害者支援団体が、多様な障害者グループと連携し政策・制度の開発および実施に貢献するなどして、障害者の要望やニーズに対する継続的な呼応を醸成するために「10年」のモニタリングおよび評価に実質的な参加を果たすこと。

f 障害当事者団体および障害者支援団体が、インチョン戦略に関わる政策決定プロセスに積極的に参加すること。

g  民間部門が、障害インクルーシブな事業の実践を促進すること。

5 ESCAP事務局長に対して、以下の事柄を要請し、

a 加盟国政府および準加盟国政府が、ほかの関係団体と協力して本宣言およびインチョン戦略を完全かつ有効に実施できるように、優先して支援を行うこと。

b 本宣言およびインチョン戦略を完全かつ有効に実施できるようにステークホルダーの関与と、参加を奨励すること。

c 本ハイレベル政府間会合の成果文書をESCAP総会第69回セッションに提出し、承認を得ること。

d 本ハイレベル政府間会合の成果文書を、2013年9月23日に召集される予定である「ミレニアム開発目標およびその他の国際的に合意された障害者関連の開発目標に関するハイレベル会合」に、国連総会議長を通じて提出すること。

e 以後、「10年」が終了するまで、本宣言およびインチョン宣言の実施について進捗状況を3年ごとにESCAP総会に報告すること。[訳注:原文の見出しはdになっている]

f 必要条件の報告を含め、障害者の「権利を実現する」インチョン戦略を実施するためのロードマップを策定し、第70回総会会議に提出すること。

6 「10年」の中間時点(2017年)で「10年」の進捗状況を検証し、「10年」の最終年(2022年)を締めくくるために、第69回委員会会議においてハイレベル政府間会合の召集を決定することを勧告する。

アジア太平洋障害者の「権利を実現する」  インチョン戦略

A. 背景

1 アジア太平洋障害者の「権利を実現する」インチョン戦略草案の策定は、2度にわたって実施された「アジア太平洋障害者の10年」(1993-2002および2003-2012)のほか、2006年の国際連合総会で採択された歴史的な「障害者の権利に関する条約」1 における諸々の経験からもたらされたものである。

2 インチョン戦略の策定は、政府、障害当事者団体・支援団体、およびその他の主要なステークホルダーの貢献によるものである。以下に示す地域コンサルテーションを通じて得られたフィードバックおよび知見を反映している。すなわち、「アジア太平洋障害者の10年(2003-2012)―行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク―の実施に関する評価のための専門家会議兼ステークホルダー・コンサルテーション(2011年6月23日~25日・バンコク)、「社会開発に関する委員会」第2セッション(2010年10月19日~21日・バンコク)、「アジア太平洋障害者の10年(2003-2012)の実施に関する最終評価のためのハイレベル政府間会合に向けた地域ステークホルダー・コンサルテーション」(2011年12月14日~16日・バンコク)、「アジア太平洋障害者の10年(2003-2012)の実施に関する最終評価のためのハイレベル政府間会合に向けた地域準備会議(2012年3月14日~16日・バンコク)である。

3 アジア太平洋障害者の10年(2003-2012)を最終的に評価するためのESCAP 地域調査に対する政府および障害者団体・支援団体からの回答によって、インチョン戦略を策定するにあたり豊富なエビデンスの基盤が得られた。

4 インチョン戦略は、「行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」「アジア太平洋地域の障害者のためのインクルーシブでバリアフリーな権利に基づく社会に向けたびわこプラスファイブ」および「障害者の権利に関する条約」を繰り返すことを意図したものではない。これらはいずれも、障害の分野における地域活動の包括的な政策の枠組みとして、今後も継続的に役割を果たすものである。

5 ミレニアム開発目標 2と同様に、インチョン目標および指標は、新たな「10年」(2013-2022)の間に優先度の高い目標およびターゲットを達成することに特に重点を置き、実施のスピードが速まるように、また、アジア太平洋地域での進捗状況の測定を容易にするため、期間を区切っている。

B. 主要な原則および政策の方向性

6 インチョン戦略は、「障害者の権利に関する条約」の原則に基づくものである。

a  固有の尊厳、個人の自律(自ら選択する自由を含む。)および個人の自立の尊重
b 無差別
c 社会への完全かつ効果的な参加及び包容
d 差異の尊重並びに人間の多様性の一部及び人類の一員としての障害者の受入れ
e 機会の均等
f 施設及びサービス等の利用の容易さ
g 男女の平等
h 障害のある児童の発達しつつある能力の尊重及び障害のある児童がその同一性を保持する権利の尊重
(政府公定訳)

7 アジア太平洋地域の障害者の権利を実現しそれを保護するために、インチョン戦略は以下に定める政策の方向性に重点を置く。

a 障害に基づく差別を撤廃するために、権利を実現する支えとなる司法、行政その他の対策を採択、実施、検証、強化する。

b 開発政策およびプログラムは、障害がインクルーシブでかつジェンダー(男女平等)に配慮したものとし、障害者がその権利を実現できるようにユニバーサルデザインと技術的な進展とを結びつける可能性を引き出すようにする。

c 開発政策およびプログラムは、貧困生活を送る障害者およびその家族の基本的なニーズに対処するものとする。

d エビデンスに基づく政策立案を行うために、障害に関する男女別データを効果的かつ速やかに収集、分析する。

e 国家、準国家および地方(政府)の政策および制度は、明確な形で障害者をインクルーシブし、障害者がその代表団体を通じて、関連する意思決定プロセスに積極的な参加を果たせることを優先するものとする。

f 障害インクルーシブな開発のあらゆるレベルにおいて、必要な財政的支援を提供し、障害者のインクルージョンを容易にする税政策をとるものとする。

g 開発に関わるすべての国家、小地域、地域および国際組織は、その政策および制度に障害の観点を含むものとする。

h 「10年」の実施を促進し検証するために、また関連する好実践例を共有するために、部門横断型の協力を強化することで、小地域と地域とリンクした、国家、準国家、地方(政府)のコーディネーションをさらに強固なものにする。

i すべての障害者が、社会的・経済的な地位、宗教、民族および門地に関わりなく、開発イニシアティブ、とりわけ貧困削減プログラムに参画およびその利益を享受できることを保障するために、コミュニティおよび家庭を基盤としたインクルーシブな開発を促進する。

j 障害者はメインストリーム(主流)のコミュニティ生活の一員であり、自立した生活を送る選択肢を含め、ほかの人と同等の選択権が守られる。

k 障害者は、合理的配慮の提供を伴ったユニバーサルデザインおよび支援技術を通じて、ならびに経済的、地理的、言語的およびその他の文化的な多様性に配慮する必要性が考慮されたうえで、物理的環境、公共交通機関、知識、情報およびコミュニケーションに、利用可能な様式でアクセスできるものとする。これらは一体として障害者の権利を実現するために不可欠な架け橋となる要素である。

l 多様な障害者グループがエンパワーメントされる。それらのグループには以下の障害者が含まれるが、これに限定するものではない。すなわち、障害のある少女・少年、障害のある青年、障害のある女性、知的障害者・学習障害者・発達障害者、自閉症者、心理・社会的障害者、ろう者、難聴者・聴覚障害者、盲ろう者、重複障害者、全身性障害者、障害のある高齢者、HIVとともに生きる障害者、非伝染性疾患に起因する障害者、ハンセン病に罹患した障害者、医療状況や治りにくいてんかんにより引き起こされた障害者、交通事故による障害者、先住民・民族マイノリティの障害者、ホームレスの・十分な住環境のない障害者、紛争・人道的危機・自然災害・人災など危機的状況に瀕した障害者、地雷生存者である障害者、法的地位のない障害者、家庭内暴力の被害者である障害者(特に女性・子ども)、家族アドボカシー(権利擁護)団体、また、貧民街・過疎地域・遠隔地や島の環礁に暮らす特に周縁的な障害者である。

m 障害当事者団体、障害者支援団体、自助グループおよびセルフ・アドボカシー・グループは、家族および介護者の必要に応じて支援を受け、適切な場合には意思決定に関与し、周縁的なグループにまで利益が十分に行き届くようにするために保障される。

n アジア太平洋地域において「10年」を通じて、財政的支援を十分に提供することを含めて、啓発に関する活動を強化および継続することで、考え方および行動を改善し、実施のモダリティに対して部門横断型の関与が効果的になされるように働きかけるものとする。

C. インチョン目標およびターゲット

8 インチョン戦略は、相互に関連する10の目標、27のターゲット、62の指標から成り立っている
9 目標およびターゲットを達成する期間は、アジア太平洋障害者の10年、2013から2022年までである。
10   「目標」とは、達成すべき望ましい結果を記述したものである。「ターゲット」とは、与えられた期間内に達成することをめざすものである。「指標」は、ターゲットが達成したことを測定および検証するものである。指標には、「主たる指標」と「補助指標」 3の2種類がある。すべての指標は、可能な限り男女別のデータを算出すべきである。

目標 1
貧困を削減し、労働および雇用の見通しを改善すること

11   新しい「10年」は、障害者およびその家族の貧困を削減する点において、大きな進歩を遂げなければならない。障害者の大多数は、労働市場できわめて不利な状況に立たされ、経済的な関与が乏しいゆえに、障害のない人に比べて不均衡に貧困の状況にある。正規の職に就き、その職を維持するために必要な教育、訓練、および支援を受けることが、貧困を克服するための最良の手段のひとつである。したがって、就労可能であり、かつそれを望む人には、働けるようにするために十分な支援、保護および必要なものを与えなければならない。このためには、労働市場をより配慮に富むものとする必要がある。障害者およびその家族を貧困から脱出させることで、インクルーシブな成長と持続可能性のある開発の達成に寄与することになる。

ターゲット 1.A
障害者の極度の貧困を削減する。

ターゲット 1.B
就労可能であり、かつそれを望む就労年齢の障害者の仕事および雇用を増大させる。

ターゲット 1.C
政府が助成する職業訓練およびその他の雇用支援制度に対する障害者の参加を増大させる。

進捗状況を確認するための指標

主要な指標

1.1 世界銀行が更新する数値であり、総人口と比較して、国際的な貧困線である1日1.25米ドル未満(PPP)で生活する障害者の割合

1.2 雇用総人口に対して、雇用されている障害者の割合

1.3 政府が助成する職業訓練およびその他の就労支援制度に参加する人のうち、障害者の割合

補助指標

1.4 国の貧困線を下回る生活を送る障害者の割合

目標 2
政治プロセスおよび政策決定への参加を促進すること

12   政治プロセスおよび政策決定への障害者の参加は、障害者の権利を実現するための要である。投票権および被選挙権を行使できることは、この目標に欠かせない。2013~2022年の「10年」は、障害のある女性および障害のある青年を含めて、多様な障害者グループがあらゆるレベルで政治プロセスおよび政策決定に参加できるように、大きく広範にわたる進捗が示されなければならない。さらに、障害者が政策決定プロセスに参画し、社会の完全な一員としてその権利を行使し責任を果たすことができるために、技術の進歩が活用されるべきである。その進歩には、最高裁判所判事、閣僚および国会議員を含め、司法、行政および立法に関わる政府の部署に障害者が平等に任用されることを可能とする環境を提供することも含まれる

ターゲット 2.A
障害者が政策決定機関において代表者を送ることを保障する

ターゲット 2.B
障害者が政治プロセスに参加しやすくするために合理的配慮を提供する

進捗状況を確認するための指標

主要な指標

2.1 障害者が、国会またはそれに相当する国の立法機関に占める議席の割合

2.2 障害に関する国のコーディネーション機関のメンバーとして参加する多様な障害者グループの割合

2.3 性の平等および女性のエンパワーメントを目的とする国の女性機構に参加する、障害のある女性の割合

2.4 国の首都および、準国家レベルの適切な場所において、アクセシブルであり、障害者の投票の秘密が守られるように対策がとられた投票所の割合

補助指標

2.5 国家レベルで障害者が占める閣僚の地位の割合

2.6 最高裁判所判事である障害者の割合

2.7 国の選挙機関に対して、多様な障害者にアクセシブルな様式で選挙プロセスを遂行することを定める法制度の有無

目標 3
物理的環境、公共交通機関、知識、情報およびコミュニケーションへのアクセスを高めること

13 物理的環境、公共交通機関、知識、情報およびコミュニケーションへのアクセスは、障害がインクルーシブな社会においてその権利を実現するための前提条件である。ユニバーサルデザインを基盤とする、都市部、地方および遠隔地のアクセシビリティは、障害者はもちろんその他すべての社会の構成員にとって安全性および利便性を向上させるものである。アクセスの監査は、アクセシビリティを保障する大切な手段であり、プランニング、デザイン、建設、メンテナンス、およびモニタリング・評価プロセスのすべての段階を網羅しなければならない。支援機器および関連する支援サービスへのアクセスもまた、障害者が日常生活の自立度を最大限に高め、尊厳のある生活を送るための前提条件である。限られた資源環境で生活している障害者が支援機器を利用できることが保障されるように、研究、開発、生産、流通およびメンテナンスを働きかける必要がある。

ターゲット 3.A
国の首都において、公に開かれた物理的環境のアクセシビリティを増大させる

ターゲット 3.B
公共交通機関のアクセシビリティおよび利便性を高める

ターゲット 3.C
情報およびコミュニケーション・サービスのアクセシビリティおよび利便性を高める

ターゲット 3.D
適切な支援機器または支援製品を必要としながらそれを持たない障害者の割合を半減させる。

進捗状況を確認するための指標

主要な指標

3.1 国の首都において、アクセシブルな政府機関の建築物の割合

3.2 アクセシブルな国際空港、港湾および主要交通拠点の割合

3.3 公のテレビニュース番組に毎日字幕および手話通訳が付与されている割合

3.4 国際的に認められたアクセシビリティ基準を満たす、アクセシブルかつ利用可能な公的文書およびウェブサイトの割合

3.5 支援機器または支援製品を必要とし、それを所有する障害者の割合

補助指標

3.6 障害者の専門家を参加させることを求める政府のアクセス監査制度の有無

3.7 一般市民が利用しうる建築物のあらゆる設計を承認するさいに適用される、国際標準化機構(ISO)による基準のような国際的に認められた基準を考慮に入れた、バリアフリー・アクセスに対する義務的な技術基準の有無

3.8 手話通訳者の数

3.9 一般向けのウェブサイトなど、あらゆる出版およびICT関連のサービスを承認する際に適用される、国際標準化機構(ISO)による基準のような国際的に認められた基準を考慮に入れた、バリアフリー・アクセスに対する義務的な技術基準の有無

目標4
社会的保護を強化すること

14 アジア太平洋の開発途上地域では、社会的保護の範囲が社会保険制度に限られ、対象者は正規の部門で常勤の雇用契約を結んでいる労働者のみであって、人口の大部分、とりわけ障害者には十分に適用されないことが多い。従って、一般的な社会的保護の図式のなかで障害の観点を主流化させ、保健ケアおよび基本収入保障に焦点を当てた社会的保護をいっそう促進することが重要である。さらに、自助グループが提供するパーソナル・アシスタンスやピア・カウンセリングのサービスといった、障害者が地域社会のなかで自立した生活を送れるための低額なサービスが不足している。そのようなサービスは、多くの障害者にとって、社会参加のための前提条件である。

ターゲット 4.A
障害者に対して、リハビリテーションを含むすべての保健医療サービスへのアクセスを増大させる。

ターゲット4.B
社会的保護制度の中で障害者の適用範囲を増大させる。

ターゲット 4.C
障害者、とりわけ重複障害者、重度障害者および多様な障害者が、地域社会のなかで自立した生活を送れるように支援する介助者およびピア・カウンセリングなどのサービスおよびプログラムを強化する。

進捗状況を確認するための指標

主要な指標

4.1 一般国民と比較して、政府が助成する保健ケアプログラムを利用する障害者の割合

4.2 社会保険および社会支援プログラムを含め、社会的保護プログラム内における障害者の適用範囲

4.3 介助者およびピア・カウンセリングを含め、障害者が地域社会のなかで自立した生活を送れるように支援する、政府が助成するサービスおよびプログラムの有無

補助指標

4.4 レスパイト・ケアを含め、政府が助成するケアサービスプログラムの数

4.5 コミュニティを基盤とする国の、地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)プログラムの有無

4.6 障害者のための健康保険の有無

4.7 アシスタンスおよび支援サービスに対するニーズが満たされないケースの減少

目標5
障害のある子どもへの早期関与と早期教育を広めること

15   発達の遅れや障害のある子どもがいるという問題は、これまで比較的見過ごされてきた。そのような子どもの多くは、貧困生活を送る家庭に育っている。アジア太平洋地域の大部分では、障害のある子どものうち少なからぬ割合が、早期関与および教育プログラムにアクセスできない状態にある。発達上重要な地点に到達するのが遅れていることを早期に発見することは、乳幼児や児童の身長と体重を定期的に計測するのと同じように大切である。発達上重要な地点に到達するのが遅れていることを早期に発見したら、その子どもの全体的な発達を最大限活用するために速やかにかつ適切な対策をとる必要がある。そのような早期関与の対策には、なかんずく、刺激、養育およびケア、ならびに就学前教育を与えることが含まれる。早期に子どもを支援するプログラムに投資することは、その後に続く教育および訓練と比べても大きな見返りをもたらす。政府が早期に子どもを支援するプログラムを実施すれば、子どもたちの発達の結果は目に見えて改善すると考えられる。さらに、障害のある子どもが、自分たちの暮らす地域での他の子どもたちと同等に質の高い初等・中等教育にアクセスできるように、政府が保障することが不可欠である。このプロセスには、障害のある子どもにより効率的な支援を提供するパートナーとして、家族の関与を深めることも含まれる。[訳注:原文は見出しの15が抜けている]

ターゲット5.A
出生時から就学前までに障害のある子どもを早期発見し、早期関与するための対策を強化する。

ターゲット 5.B
障害のある子どもと障害のない子どもとの初等学校・中等学校在籍率の差を半減させる。

進捗状況を確認するための指標

主要な指標

5.1 早期関与を受ける、障害のある子どもの数

5.2 障害のある子どもの初等学校在籍率

5.3 障害のある子どもの中等学校在籍率

補助指標

5.4 子どもの障害の早期発見および障害のある子どもの権利保護に関する情報ならびにサービスを提供する出産前・出産後のケア施設の割合

5.5 手話で指導を受けるろうの子どもの割合

5.6 あらかじめアクセシブルな形式で作成された教育素材を与えられた、視覚障害の生徒の割合

5.7 支援機器、調整されたカリキュラムおよび適切な学習教材を与えられた、知的障害、発達障害、盲ろう、自閉症およびその他の障害のある生徒の割合

目標 6
性(ジェンダー)の平等と女性のエンパワーメントを保障すること

16 障害のある少女および女性は、重複した形で差別および虐待に直面している。扶養者への依存によってさらに深まる孤立のせいで、女性たちは多様な形態の搾取、暴力および虐待にきわめてさらされやすい。さらに、HIV感染、妊娠、出産期・出生時の死亡など、附随するリスクもある。障害のある少女および女性は、主流となる性の平等をはかる制度から見過ごされていることが多い。性や生殖に関する保健、一般的な保健ケア、および関連するサービスに関連する知識の情報がアクセシブルな形式および言語で提供されることは稀である。2013~2022年の「10年」の約束は、障害のある少女および女性が主流の開発において活動的な主体となってはじめて、完全に実現したことになるのである。

ターゲット6.A
障害のある少女および女性が、主流となる開発の機会に平等にアクセスできるようにする。

ターゲット 6.B
政府の政策決定機関において障害のある女性の代表が参加することを保障する。

ターゲット 6.C
障害のある少女および女性が、障害のない少女および女性と同様に、性や生殖に関する保健サービスにアクセスできるように保障する。

ターゲット6.D
障害のある少女および女性をあらゆる形態の暴力および虐待から守るための対策を増大させる。

進捗状況を確認するための指標

主要な指標

6.1 障害のある少女および女性が性の平等および女性のエンパワーメントに関する国の行動計画に参加することを促進している国の数

6.2 国会またはそれに相当する国の立法機関に障害のある女性が議席を占める割合

6.3 障害のない女性および少女と比較して、性や生殖に関する政府および市民社会の保健サービスにアクセスする、障害のある少女および女性の割合

6.4 性的虐待や搾取を含め、障害のある少女および女性に対する暴力を削減することを目的とする、政府および関連機関が主導するプログラムの数

6.5 何らかの形態の暴力および虐待の被害を受けた障害のある少女および女性に対してリハビリテーションを含むケアおよび支援を提供する、政府および関連機関が主導するプログラムの数

目標 7
障害インクルーシブな災害リスク軽減および災害対応を保障すること

17 アジア太平洋地域は、気候変動によって引き起こされるものを含め、災害による悪影響をきわめて受けやすい地域である。障害者およびその他の弱者グループは、災害リスク軽減のための政策、計画およびプログラムから疎外され、その結果として死亡、負傷およびさらなる障害の被害を受けるリスクが比較的高い。公的サービスの告知は、障害者にとってアクセシブルでない形式や言語で発信されることが多い。加えて、非常口、避難所および施設はバリアフリーでないものになりがちである。地方および地区レベルで実施される防災訓練やその他の災害リスク軽減対策に障害者が定期的に参加することで、災害が発生した場合のリスクおよび被害を防止または最小限に抑えることができると考えられる。ユニバーサルデザインの原則を取り入れた物理的および情報面のインフラストラクチャーを整えることで、安全および生存の可能性を高めることができよう。

ターゲット7.A
障害インクルーシブな災害リスク削減計画を強化する。

主要指標 7.B
災害への対応にあたり、障害者に対して速やかに、かつ適切な支援を提供する対策の実施を強化する。

進捗状況を確認するための指標

主要な指標

7.1 障害インクルーシブな災害リスク削減計画の有無

7.2 関連するすべてのサービス担当職員を対象とする、障害インクルーシブな訓練の有無

7.3 アクセシブルな避難所および災害救援所の割合

補助指標

7.4 災害で死亡したまたは重傷を負った障害者の数

7.5 被災した障害者を支援する能力がある心理的・社会的支援サービス担当職員の有無

7.6 災害のために準備され災害に対応できる、障害者のための支援機器および支援技術の有無

目標8
障害に関するデータの信頼性および比較可能性を向上させること

18 障害者は見過ごされがちであり、話題に上らず、ものの数に入れられない存在となりがちである。近年はますます、障害者の数を計測するにあたって、障害に関するデータを収集する際に使われる「障害(disability)」および「障害のある人(persons with disabilities)」という語句の定義は、アジア太平洋地域内で多様になってきている。これらが相まって、国を越えたデータの比較が信頼性を欠くことがしばしばである。アジア太平洋地域では、多様な障害者およびその社会的・経済的地位に関するより正確な統計を必要とされている。障害に関して適切な統計が得られれば、障害者の権利を実現する支えとなる政策立案を、エビデンスに基づいて策定することができるだろう。この「10年」は、時期と国境を越えた比較が可能な障害関連の統計の作成をめざしたデータ収集を強化する好機である。インチョン戦略の目標およびターゲットの達成に向けて有効に進捗状況を確認することができるように、その指標の基準となるデータを利用できる状態にしておくことが肝要である。

ターゲット 8.A
障害者にアクセシブルな形式で、信頼しうる、国際的に比較可能な障害関連の統計を作成し、普及させる。

ターゲット 8.B
インチョン戦略の目標およびターゲットの達成に向けて有効に進捗状況を確認するための源として、信頼しうる障害関連の統計を「10年」の中間年である2017年までに確立する。y

進捗状況を確認するための指標

主要な指標

8.1 国際生活機能分類(ICF)を基盤とする、年齢、性別および社会的・経済的地位による障害者の比率

8.2 インチョン戦略の目標およびターゲットの達成に向けて進捗状況を確認するための基準となるデータを、2017年までに確立した政府の数

8.3 保健、ならびに性および生殖に関する保健プログラムを含め、主流となる開発プログラムおよび政府サービスを受ける、障害のある少女および女性に関する個別のデータの有無

目標 9
「障害者の権利に関する条約」の批准および実施を推進し、各国の法制度を権利条約と整合させること

19 「障害者の権利に関する条約」(権利条約)は、障害者の権利を尊重し、保護し、実現させるための包括的なアプローチを提供する、障害に特化した初の国際法令文書である。権利条約により、障害者は、慈善の対象として扱われる存在ではなく、権利を持つ主体として明確にエンパワーメントされている。ESCAP地域は、権利条約の起草と条文作成に重要かつ歴史的役割を果たした。2012年10月30日時点で、世界126ヵ国が条約加盟国、154ヵ国が署名国である。そのうち、アジア太平洋地域で35ヵ国の政府が権利条約に署名し、同地域で25ヵ国の政府が本条約の批准国または加盟国となった。

ターゲット9.A
「10年」の中間年(2017年)までに10ヵ国のアジア太平洋諸国政府が新たに「障害者の権利に関する条約」を批准し、「10年」の最終年(2022年)までにさらに10ヵ国のアジア太平洋諸国政府が新たに権利条約を批准する。

ターゲット 9.B
国の法制度を権利条約と整合させる観点から、差別禁止条項、技術的な基準、および障害者の権利を下支えし保護するその他の対策を盛り込んだ国内法を立法化するとともに、障害者を直接的または間接的に差別する国内法を改正または廃止する。

進捗状況を確認するための指標

主要な指標

9.1 権利条約の批准国または加盟国となった政府の数

9.2 障害者の権利を下支えし保護する、国の差別禁止法制度の有無

補助指標

9.3 「障害者の権利に関する条約」の選択議定書を批准したアジア太平洋諸国の政府の数

9.4 障害者を直接的または間接的に差別する国内法が改正または廃止された法令の数

目標10
小地域、地域内および地域間の協力を推進すること

20 2度にわたる「アジア太平洋障害者の10年」の経験から、得られた教訓、良好な実践例および革新的な解決策を共有することなどを通じて円滑な相互支援ができるように、小地域、地域内および地域間の各レベルで協力することの貴重さが浮き彫りになった。2011年12月1日に大韓民国・プサン(釜山)で「第4回援助効果に関するハイレベル・フォーラム」 4が採択した「効果的な開発協力のためのプサン・パートナーシップ」では、有効な開発の協力基盤を形成するために、障害に対する国際的な関わりの重要性が認識されている。市民社会および民間部門は、インチョン宣言およびターゲットを実現する革新的なアプローチの媒介となる重要な役割を果たしうる。アジア太平洋地域は、いまだに長期にわたる課題に直面している。紛争を経験した地域では、地雷や戦争の名残といった困難が残り、障害や脆弱な生活環境が引き続き生じている。この「10年」は、そのような課題を克服し、効果的な実施がなされるよう支援するために、多部門にわたる次元から、国際的に協力する機会を提供するものである。

ターゲット10.A ESCAPが運営する「アジア太平洋マルチ・ドナー基金」、また「アジア太平洋障害者の10年(2013-2022)に関する閣僚宣言」およびインチョン戦略の実施を支援するイニシアティブおよびプログラムに貢献する。

ターゲット10.B アジア太平洋地域の開発協力機構が、その政策およびプログラムにおいて障害インクルーシブな度合いを強化する。

ターゲット 10.C 国際連合の地域委員会が、障害の諸問題および「障害者の権利に関する条約」の実施に関わる経験および良好な実践例について、地域間の情報交換を強化する。

進捗状況を確認するための指標

主要な指標

10.1 政府およびその他のドナーによる、「アジア太平洋障害者の10年(2013-2022)に関する閣僚宣言」およびインチョン戦略の実施を支援するための「アジア太平洋マルチ・ドナー基金」への年間の自発的な貢献〔寄付〕の額

10.2 「アジア太平洋障害者の10年(2013-2022)に関する閣僚宣言」およびインチョン戦略の実施を支援するための「アジア太平洋マルチ・ドナー基金」に貢献する毎年のドナーの数

10.3 政府およびその他のドナーによる、「アジア太平洋障害者の10年(2013-2022)に関する閣僚宣言」およびインチョン戦略の実施を支援するためのイニシアティブまたはプログラムへの年間の自発的な貢献の額

10.4 南南協力を含め、「アジア太平洋障害者の10年(2013-2022)に関する閣僚宣言」およびインチョン戦略の実施を支援することを明示する地域および小地域協力プログラムがある国際連合機関の数

10.5 南南協力を含め、「アジア太平洋障害者の10年(2013-2022)に関する閣僚宣言」およびインチョン戦略の実施を支援することを明示する地域協力プログラムがある小地域政府間機関の数

10.6 南南協力を含め、「アジア太平洋障害者の10年(2013-2022)に関する閣僚宣言」およびインチョン戦略の実施を支援することを明示する地域協力プログラムがある地域プロジェクトおよび小地域プロジェクトの数

10.7 アジア太平洋地域で活動する開発協力機構のうち、権利条約の批准および実施ならびに関連する検証について支援し、障害インクルーシブな開発に関する要請、政策、活動計画およびフォーカルポイント(拠点)を備えるものの割合

10.8 5つの国際連合地域委員会における「障害者の権利に関する条約」の実施を支援する共同活動の数

10.9 ESCAPおよびその他の関連機関による障害に関する統計、とりわけICFのアプローチに基づく統計について、訓練を受けたアジア太平洋地域の統計専門家の数

10.10 国レベルの国際連合プログラム作成にあたって障害者の権利を含めるように明示した国際連合開発グループの指導に沿い、障害をインクルーシブした開発に明確に言及している、国際連合の国または地域レベルでの開発支援の枠組みの数

D. 「10年」を効果的に実施するためのモダリティ:国レベル、小地域レベルおよび地域レベル

21 本セクションでは、一体となって実施を促進および支援すべきモダリティ(様式)を定める。とりわけ、これらのモダリティは、この「10年」の間にインチョン戦略の実施を通じて障害者の権利の実現を推進するために、データおよび情報を構築し、複層レベルにわたる協力関係を強化するものである。

1. 国レベル

22 インチョン戦略を実施する核となるのは、国内のあらゆる重要な諸機関を結びつける、障害に関する国のコーディネーション機関である。

23 これまでの2度にわたる「アジア太平洋障害者の10年」で、そのような機関が数多く設立された。したがって、それらの機関がインチョン戦略の実施を国レベルおよび地域レベルでコーディネートし、触媒の役割を果たす主要な責任を担うのは当然である。

24 国の統計局は、国のコーディネーション機関から後援を受けて、指標の基盤となるデータを確立し、インチョン戦略の実施について進捗状況を確認するフォーカル・ポイントとなることが期待される。

25 障害に関する国のコーディネーション機関は、以下に掲げる任務を遂行すべきである。ただしこれに限定するものではない。

a あらゆるレベルにわたる多様な部門の省庁、部局および政府機関、障害者団体、障害者支援団体および家族支援グループを含む市民社会、研究機関、ならびに民間部門に働きかけ、部門を横断し全国規模でインチョン戦略の実施に関与させること。

b インチョン戦略の目標およびターゲットを達成する国の活動計画の実施について、開発、検証および報告すること。

c あらゆる部門およびすべての行政レベルに広く周知されるように、インチョン戦略を当該国の言語に翻訳し、その言語で記された戦略をアクセシブルな形式で利用できるように保障すること。

d この「10年」を通して、認知度を高め、障害者に対して前向きな見方が育まれるように、たとえば「権利実現」キャンペーンのような、国および地方のキャンペーンを実行すること。

e 政策立案の基盤として、障害者の状況に関する研究を促進および支援すること。

26 国際連合カントリーチームは、実施に向けたアドボカシー、コーディネーション、協力関係に特に注意を払いながら、地方レベルを含めて、国のコーディネーション機関が再活性化し、機能するように必要に応じた支援をすべきである。

2. 小地域レベル

27 小地域の政府間組織、たとえば東南アジア諸国連合(ASEAN)、経済協力機構(ECO)、太平洋諸島フォーラム(PIF)および南アジア地域協力連合(SAARC)は、障害インクルーシブな政策および制度をその権能において積極的に促進し、閣僚宣言およびインチョン戦略の実施を加速させるために重要な役割を果たす。

28 ESCAP事務局は、「アジア太平洋障害者の10年」(2013-2022)の促進活動において、小地域の政府間組織と連携しながら、小地域および小地域間の協力を支援するものとする。そうすることで、北・中央アジア、東・北東アジア、太平洋、および南・東南アジアにある各小地域事務所が、各地域機関 5の支援を受けながら、障害インクルーシブな開発に積極的に参加できるようにする。

3. 地域レベル

29 ESCAP加盟国政府および準加盟国政府は、閣僚宣言およびインチョン戦略を実施するにあたり、進捗状況、課題および良好な実践例について、社会開発委員会またはそれに相当する会合を定期的に開催して協議すべきである。その協議には市民社会団体の代表者が参加することが奨励される。

30 「アジア太平洋障害者の10年(2013-2022年)に関するワーキンググループ」を設立する。ワーキンググループは、「10年」を通じて完全かつ有効な実施がなされるように支援するものとする。その機能は、閣僚宣言およびインチョン宣言の地域的な実施についてESCAP事務局への助言および支援、市民活動団体への支援の動員を適切な方法で行うことが中心となる。ワーキンググループの委託事項は附属書として添付する。

31 ESCAP事務局は、地域を召集する役割、分析作業および政府に対する技術的な支援を通じて、閣僚宣言およびインチョン戦略の実施に貢献するものとする。とりわけ、国際連合機関と協力して以下の各項を実行することが求められる。

a 法制度が「障害者の権利に関する条約」と整合するように、また、「権利実現」キャンペーンの促進について、政府を適切な方法で支援すること。

b 「障害者の権利に関する条約」を促進および支援するために、国の法制度および行政制度に関する経験を共有することを含めて、障害インクルーシブな開発ならびに障害者の権利の保護および下支えに関する国の経験および良好な実践例について、加盟国政府および準加盟国政府の間で情報交換を促進すること。

c 「10年」の進捗状況を確認し、障害に関する統計が改善されるように支援すること。

d 障害インクルーシブな開発を促進するために、加盟国政府および準加盟国政府を能力構築の面で支援すること

e 市民社会団体、とりわけ障害当事者団体および障害者支援団体と連携し、ステークホルダー・コンサルテーションのための地域的な場(プラットホーム)を提供すること。

32 アジア太平洋障害開発センター(APCD)は、最初の「アジア太平洋障害者の10年」の遺産として障害者のエンパワーメントおよびバリアフリーでインクルーシブな社会を促進するために設立された機関であるが、とりわけ障害者の立場に沿った製品、サービス、雇用機会および起業家精神開発を促進するような、障害インクルーシブなビジネスに民間部門が関わるように奨励することに特に配慮しながら、継続して障害者の能力を構築し部門横断型の協力関係を築き上げていくことが求められる。

33 「権利実現基金」が、大韓民国の主導により同国を本拠として設立される予定であり「アジア太平洋障害者の10年(2003-2012)に関する閣僚宣言」およびインチョン戦略が成功裡に実施されるように支援することが求められる。

34 市民社会団体ならびにとりわけ障害当事者団体および障害者支援団体は、この「10年」の間、継続して障害者の要望とニーズに応えることが保障されるように、閣僚宣言およびインチョン戦略の実施に関与することが奨励される。

附属書
アジア太平洋障害者の10年に関するワーキンググループの委託事項

目的

1 本文書で提案する、「アジア太平洋障害者の10年」に関する地域ワーキンググループの目的は、加盟国政府および準加盟国政府に対して技術的な助言と支援を提供し、「アジア太平洋障害者の10年(2003-2012)」が完全かつ有効に実施されるように促進することである。

機能

2 上記第1パラグラフで定めた目的を遂行するために、ワーキンググループは加盟国政府および準加盟国政府に対して以下に関する助言を行うものとする。

a 「10年」の進捗状況、とりわけ「アジア太平洋障害者の10年(2003-2012)に関する閣僚宣言」および「アジア太平洋障害者の『権利を実現する』インチョン戦略」の実施に向けた進捗状況について検証すること。

b 閣僚宣言およびインチョン戦略の実施を推し進めるために地域および小地域レベルで協力すること。

c アジア太平洋地域に暮らす障害者の状況がどのように変化しているかについて調査すること。

d 国および地方レベルの多様な障害者グループと連携すること。

委員

3  ワーキンググループは、ESCAP加盟国政府および準加盟国政府からの代表者に加えて、アジア太平洋の地域および小地域レベルで活動する市民社会団体で構成するものとする。

4 ワーキンググループ委員の任期は5年間とし、再選によりさらに5年間の任期を務めることができる。

5 すべてのESCAP加盟国政府および準加盟国政府は、委員に立候補する資格を有するものとする。

6 ワーキンググループは、男女の平等を考慮に入れた上で、30名の委員から構成する。そのうち15名は加盟国政府および準加盟国政府、残りの15名は市民社会団体からの代表者とする。市民社会団体に割り当てられる議席のうち少なくとも半分は障害者および新生の市民社会団体に保障する。

7 下記の基準に合致する市民社会団体は、委員に立候補する資格を有するものとする。(a) アジア太平洋地域において地域および小地域レベルで活動を行っている。(b) 多様な障害者の利益を代表、支援および/または促進している団体または組織である。(c)閣僚宣言およびインチョン戦略を推し進めるために必要な専門技能・知見を有している。

8 ワーキンググループ委員を務めることに関心のあるESCAP加盟国政府および準加盟国政府、ならびに市民社会団体は、2012年10月29日から同年11月2日まで大韓民国・インチョンで開催される「アジア太平洋障害者の10年(2003-2012)の実施について最終的に検証するためのハイレベル政府間会合」において、意思表示を行う。

9 ワーキンググループの委員構成案は、ハイレベル政府間会合後のESCAP総会に提出され、最終決定を受けるものとする。従って、総会は、2013年の第69回セッションで、2013~2017年の第1期ワーキンググループの構成について最終決定することになる。ワーキンググループ委員を務めることに関心のある者の第2回目の意思表示は、「10年」の中間年(2017年)に開催される、その次のハイレベル政府間会合において行う。委員会は、2018年の第74回セッションで、2018~2022年の第2期ワーキンググループの構成について最終決定する。

10 ESCAP加盟国政府および準加盟国政府、市民社会団体、とりわけ障害当事者団体、小地域政府間機関、国際連合機関、開発協力機関および開発銀行は、オブザーバーとしてワーキンググループの会合に出席することができる。

手続規則

11 ワーキンググループは、独自にその手続規則を採択するものとする。

事務局

12 ESCAP事務局は、ワーキンググループ事務局を担うものとする。なかんずく、ワーキンググループの文書をアクセシブルな形式で普及させるものとする。


Footnote

アジア太平洋障害者の10年(2003-2012)に関する閣僚宣言

1. A/37/351/Add.1および Corr.1, annex, sect. VIII, recommendation 1 (IV)。
2. 2011年12月19日付け国連総会決議66/124 of 19 December 2011を参照。
3. World Health Organization/World Bank, World Report on Disability (Geneva: World Health Organization, 2011)(世界保健機関・世界銀行『障害に関する世界報告書』ジュネーブ:世界保健機関、2011年), p.29。
4. www.forumsec.org/resources/uploads/attachments/documents/2010_Forum _Communique.pdf を参照。
5.太平洋諸島フォーラム事務局、文書PIFS(09)FDMM.07(www.forumsec.org.fjより入手可能)。.
6. www.aseansec.org/documents/19th%20summit/Bali_Declaration_on_Disabled _Person.pdf を参照。
7. www.aideffectiveness.org/busanhlf4/images/stories/hlf4/OUTCOME_DOCUMENT_-_FINAL_EN.pdfを参照。
8. E/ESCAP/APDDP(3)/INF/5 を参照。
9. www.who.int/disabilities/cbr/guidelines/en/index.html.を参照。
10. 国連総会決議 66/288 of 27 July 2012 を参照。

アジア太平洋障害者の「権利を実現する」 インチョン戦略

1.国連総会決議61/106, annex I。
2.ミレニアム開発目標は、8の目標、21のターゲット、および60の指標で成り立っている。
3.主たる指標を利用すれば、新しい「10年」の過程でどの程度進捗があったかを国を越えて共有することが容易になる。その指標の基となるデータは一定の努力で算出できるものである。補助指標は、社会的・経済的な開発条件が同程度の国の間で進捗状況を確認するのに役立つが、基となるデータを集めるのが比較的困難である。
4. www.aideffectiveness.org/busanhlf4/images/stories/hlf4/OUTCOME_DOCUMENT_-_FINAL_EN.pdfを参照。
5. アジア太平洋情報通信技術センター(APCICT、大韓民国・インチョン)、アジア太平洋技術移転センター(APCTT、ニューデリー)、アジア太平洋統計研修所(SIAP、東京)、持続的農業による貧困削減アジア太平洋研究センター(CAPSA、インドネシア・ボゴール)、国連アジア太平洋農業土木・機械地域センター(UNAPCAEM、北京)。