脱入院化時代の地域リハビリテーション

概要

平成5年に障害者基本法が制定されて精神障害者が身体障害者や知的障害者と同じく障害者として法的に位置づけられた。次いで,平成7年に精神保健法が精神保健福祉法として改正され,それまでの入院中心主義から地域リハビリテーションと地域福祉の方向が法的に示された。さらに平成8年からは「障害者プラン~ ノーマライゼーション7力年戦略」が開始された。わが国の精神障害者の脱入院化がようやく始まり,地域ケアが促進されるものと期待された。しかし「障害者プラン~ ノーマライゼーション7力年戦略」が終了した平成15年に立って見ると,ユーザー活動や人権擁護活動の向上,地域ケア施設の増加など改善した面が見られる一方では,脱入院化は僅かであった。

平成14年12月,厚生労働省は平成15年度から始まる新障害者プランにおいて,社会的入院を解消することを唱い上げ,10年間に7万2千人を退院させると発表した。この7万2千人という数は社会的入院の解消にはまだ十分な数とは言えないように思われる。7万2千床を削減しても,我が国の精神科病床数はなお人口1万人に対して23床と高い水準に留まる。地域精神医療の先進国では,精神科病床数は既に人口1万人に対して10床以下になっている。

しかしともかく厚生労働省が社会的入院の解消の方向へ動き出したことは評価できる。それによって,今後,我が国の精神医療供給体制及び地域ケア体制は大きく変革することであろう。

この変革の時期に,現代の地域リハビリテーションの課題を世に問うことは何らかの意味のあることと思われる。

本書は,この激動の数年間に地域リハビリテーションと地域精神医療を主題として執筆した論文を大幅に書き換えて収録したものである。

目次

第1章 精神障害リハビリテーションの立脚点    1

― 卜一タル・リハビリテーションを目指して -

I.  はじめに  1

II.  医学的リハビリテーションと治療  2

III. 医学的リハビリテーションの奏効機転  5

IV. リハビリテーションと社会復帰と福祉  6

第2章 精神障害リハビリテーションにおける生物学的視点    7

I. はじめに  7

II. 統合失調症のシステム論的生成モデル  8

III. 統合失調症の認知障害モデル    10

IV. リハビリテーションの奏効機転    11

V.  薬物療法と心理社会的療法    72

VI. 抗精神病薬の認知障害および陰性症状への効果    13

第3章 精神障害リハビリテーションにおける評価の方法に関する実践的理論    15

I.  評価の目的15

II.  評価の構成要素    15

III. 評価される対象    17

IV. 評価される内容    18

V.  評価者    19

VI.  評価の技法    20

VII. 時間的要素    21

第4章  精神疾患における疾病性と障害性  23

I.精神疾患における疾病と障害との関係    23

II. 治療モデルとリハビリテーション・モデル    24

III. リハビリテーションと福祉    25

1V. 統合失調症の再発の防止    26

  1. 再発のメカニズム 26   2. 再発要因 27  3. 再発予防方法 27

第5章 精神障害に対する自己対応技法    31

I.  はじめに    31

II.  疾病に対する態度は予後に影響するか    32

III. 患者と疾病との相互作用    32

IV. 自己対応機制の実際    33

V.  ジュルウォルトらの自己対応技法    35

第6章 病院リハビリテーションと地域リハビリテーション    39

I.  精神科入院患者の実態    39

II. リハビリテーションの意義    40

III. 病院リハビリテーションの実際    41

IV. 地域リハビリテーション    43

V.  病院リハビリテーションと地域リハビリテ一ション    45

VI. おわりに    46

第7章 地域における精神保健福祉活動一保健師の役割    47

I. はじめに    47

II. 活動レベル    48

1. 個人レペル 49    2. 家族レペル 50    3. 地域諸団体レベル 50

4. 政治・行政レベル 51

III. 保健師と精神保健福祉士との役割関係    51

IV. おわりに    53

第8章 精神保健コンサルテーションが依頼者集団に受容される過程    55

I.  はじめに    55

II.  方法    55

1. コンサルテーションを実施した施設の概要 55    2. コンサルテ

ーシヨン・サービス導入の背景 56    3 . コンサルテーション・サー

ビスの概要 56    4.コンサルテーションの分析方法 57

III. 結果57

  1. コンサルテーションの全体的特徴 57    2. コンサルテーション

の受容過程に関する分析 62

IV. 考察    66

V. おわりに    69

第9章 精神保健福祉法第23条の運用の実態とその問題点    79

I. はじめに    79

II. 方法    71

  1. 質問紙調査法 71    2. 事例呈示 72

III. 結果    72

  1. 質問紙調査法 72    2. 事例呈示 74

IV. 考察    79

V. まとめ    82

第10章 医療社会資源の上手な使い方    83

一医療の立場から一

I. はじめに    83

II. 生物一心理一社会的疾病モデルから見た医療社会資源    83

III. リハビリテーション・モデルから見た医療社会資源    84

IV. 福祉モデルから見た医療社会資源    86

V.  保健の立場から    87

VI. ネットワークの形成    88

VII. おわりに    88

第11章 地域精神医学・医療と倫理

I. 地域精神医療の発展の背景    89

II. 地域支援ネットワークの形成と守秘義務confidentiality    91

  1. 守秘義務の歴史 91    2. 守秘義務の概念と目的 91    3. 地域精

神医療における各職種の守秘義務の法的・行政的基盤 92    4. 秘密

漏泄罪の違法性が阻却される事由 95    5. 諸外国における精神保

健医療分野での患者情報の取り扱われ方 98    6. 家族からの情報

要請と守秘義務との関係について 101

III. 地域精神医療におけるインフォームド・コンセント    103

  1. 訪問相談103    2. 訪問診察 105

文献    107

初出一覧    116

menu