身体障害者補助犬とは?~盲導犬、介助犬、聴導犬~

「新ノーマライゼーション」2020年3月号

NPO法人日本補助犬情報センター
専務理事兼事務局長
橋爪智子(はしづめともこ)

「身体障害者補助犬」(以下、補助犬)とは、盲導犬・介助犬・聴導犬の3種類の犬の総称です。補助犬使用者にとって補助犬は身体の一部と同じで、障害を補い、生活の一部を担っています。補助犬それぞれの仕事は異なりますが、「身体障害者の自立と社会参加を促進する」という目的は共通しています。

補助犬実働数1056頭

盲導犬:928頭(2019年3月31日 社会福祉法人日本盲人社会福祉施設協議会調べ)

介助犬:61頭(2019年10月1日 厚生労働省調べ)

聴導犬:67頭(2019年10月1日 厚生労働省調べ)

1.盲導犬

目が見えない、または見えにくい方(視覚障害者)の安全で快適な歩行をサポートします。白または黄色の「ハーネス」という胴輪を身体に付けています。ハーネスの形状は今までのU字ハンドルに加え、最近は、バーハンドルも増えてきています。使用者は、盲導犬のハーネスから伝わる高さや角度で歩行に必要な情報を得ることができます。盲導犬は、「障害物」を避けて歩くように訓練されているほか、「曲がり角」「段差」などを、止まることで使用者に伝えます。盲導犬がナビをしているわけではなく、視覚障害者である盲導犬使用者が頭の中に地図(メンタルマップ)を思い描きながら、ハーネスから伝わってくるそれらの情報を組み合わせ、判断し、指示を出して歩いています。よく誤解されているのが、信号の色がわかると思われていることがあります。残念ながら犬はモノトーンにしか見えないので、信号の色を判断することはできません。ですので、横断歩道での声かけは非常に助かります。

盲導犬の犬種の多くは、レトリーバー種(ラブラドール・レトリーバー/ゴールデン・レトリーバー)ですが、数は少ないながらシェパードも活躍しています。

2.介助犬

手足に障害があり、車いすや杖などを使用している肢体不自由者の日常生活動作をサポートします。介助犬は、落としたものを拾って渡す、指示したものを探して持ってくる、ドアや窓を開閉する、冷蔵庫を開けてペットボトルを運んでくる、靴や靴下を脱がせて渡す、上着等の脱衣のサポート、車いすを引っ張る(1人で乗り越えるのが困難な段差やスロープ等)など、使用者のニーズに応じてさまざまな訓練が行われます。このほか、車いすで転倒した際や、急な体調変化などの緊急時に、電話の子機や携帯電話を探して手元まで持ってきたり、緊急通報ボタンを押すなど、緊急連絡手段の確保という作業もあります。これは本人の安心はもちろん、家族にとっても大きな安心につながります。介助犬使用者は車いすユーザーに限らず、歩行障害があり杖で歩行する方も対象となっており、介助犬と共に歩くことで、歩行のバランスが安定するバランスドッグも実働しています。犬種は盲導犬と同じく、レトリーバー種が多いです。必ず、ケープやマントに「介助犬」と表示をしているので、ペットとは違うことがわかります。

3.聴導犬

耳が聞こえない、聞こえにくい人(聴覚障害者)に、生活上必要な情報となる『音』を、身体にタッチするなどして知らせ、必要に応じて音源へ誘導します。目覚まし時計、玄関のチャイムやドアのノック音、キッチンタイマーややかんの沸騰音、家族が呼んでいる声や赤ちゃんの泣き声、火災報知機、後ろからくる車や自転車などの接近やクラクション音など、使用者にさまざまな音の情報を伝えます。聴導犬の作業には身体の大きさが必要ないので、小型犬から大型犬まで雑種を含めさまざまな犬種が実働している、という点と、使用者である聴覚障害者が外見上「聴覚障害があること」がわからない、という点から『最もペットと間違われやすい補助犬』です。保健所に収容されている保護犬のなかから、適性を見極められ、聴導犬の訓練を受ける場合もあるのが聴導犬の特徴でもあります。

また、聴導犬のもうひとつの大きな役割として、一緒に社会参加することにより、外見からはわからない「聴覚障害」を周囲に認識してもらえる目印になるという役割があります。障害がわかることで、必要なサポートを受けることができ、社会参加する上でも非常に心強いパートナーとなります。必ず、ケープやマントに「聴導犬」と表示をしているので、ペットとは違うことがわかります。

4.身体障害者補助犬法による認定

補助犬を希望する身体障害者は、多くの場合、在住の自治体へ助成金申請のための手続きを進めるとともに、使用者としての適性評価を受けます。「適性あり」となれば、訓練事業者で候補犬が選ばれ、合同訓練が始まります。合同訓練とは、希望者である身体障害者と候補犬が共に訓練する期間であり、この過程が最も重要となります。最初はトレーナーの指示にしか従わない候補犬が、希望者と共に過ごす時間が長くなるにつれ、信頼関係が生まれ、お互いに大切なパートナーへと成長していきます。認定の最終段階としては、厚生労働省が指定した認定指定法人(暫定的に盲導犬は国家公安委員会指定の法人)にて、実際の社会参加のシーンも含めた動作検証が実施され、認定審査委員会を経て認定され、認定証と表示が手元に届いて初めて正式な認定となります。審査の基準としては、各補助犬が補助犬として必要な作業を実行できるとともに、使用者がパートナーとなる補助犬に対して的確な指示を出せるか、適切なコミュニケーションをとれるか、さらに補助犬使用者として、社会参加する際のマナーを守るための行動管理・衛生管理(排泄物処理等含む)ができているかなどが審査されます。認定されると、車の運転免許証の交付と同等のイメージで、補助犬使用者はパートナーである補助犬とともに、社会に参加する認定証を国から交付されます。

2002年の補助犬法施行により、認定を受けた身体障害者と補助犬のペアは、共に社会参加することができるようになりました。公共施設及び公共交通機関のほか、飲食店・小売店・デパート・スーパーマーケット・コンビニエンスストア・ホテル・旅館・映画館・レジャー施設や医療機関など、不特定かつ多数の人が利用する施設においても、受け入れが義務付けられています。2013年に施行された障害者差別解消法の中でも「身体障害者補助犬の同伴を拒否すること」は「不当な差別的取り扱い」とされています。

補助犬は、使用者の指示のもと、指示された場所で排泄するように管理されているので、むやみに排泄をすることはありません。排泄場所は、屋外の植え込み等を利用する場合と、排泄用の凝固剤を入れたビニール袋を腰につけてする、ペットシーツを敷いてその上でする、などいくつかの方法があります。もちろん後処理も使用者の大切な責務です。排泄方法は各々の状況によって異なるため、補助犬使用者から排泄場所を尋ねられた際は「どのような場所をお探しですか?」と確認したうえで、屋内であれば多目的トイレ、または、屋外の植え込みや駐車場などの施設内の排水処理がしやすい場所等を排泄エリアとして案内していただけると安心です。

補助犬は、どんな犬でも良いわけではなく、認定された補助犬ペアに関してのみ、「補助犬同伴を拒否してはならない」という補助犬法上のアクセス権が認められています。補助犬法では、補助犬であることがわかるように表示をつけ、認定証と健康管理手帳(写真1~3参照)の携帯が義務付けられているので、ペットとの区別は容易です。社会参加しても問題なし、と国が認めているので、安心して受け入れていただいて大丈夫です。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1-2はウェブには掲載しておりません。

写真1-1 表示
写真1-1 表示拡大図・テキスト

写真2 認定証
写真2 認定証拡大図・テキスト

写真3 健康管理手帳
写真3 健康管理手帳拡大図・テキスト

写真提供:NPO法人日本補助犬情報センター

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