「地域共生社会開発プログラム」実施報告 : 尻無浜 博幸(しりなしはま ひろゆき)氏

尻無浜です。先ほど「できることもちよりワークショップ」(以下、できもちWS)の紹介のビデオでもあったとおりですので、もうそれに尽きるのかなと思いますが、与えられた時間の中で少し補足をしたいと思います。先ほどの紹介のビデオはすごく良くできていまして、鈴木さんの所をはじめとするできもちWSの取り組みなど、実はスタートがそんなにスムーズではなくて、私自身も実は半信半疑でした。最初にリハ協とか、鈴木さんとか、渡辺さんから紹介していただいたときに、本当にそんなに上手くいくのかなあとか。松本の地域でうまく導入ができるのかなあとか。ちょっと面倒くさいなあとか。正直なところ思っていました。導入するためには、一工夫必要だろうという観点でした。

松本市の地域特性と既存の仕組み

紹介にあったように2016年の導入のときに、リハ協で3箇所、モデル的に取り組んでもらい、入善町も名古屋市もそうですが、その1箇所として、地方都市、人口24万人の松本市を選んでいただいたという経緯があって、松本市でできもちWSを展開しました。ここにあるように、松本には三がく都(岳都・楽都・学都)などの特徴があって、人口は24万弱で35地区、48町会が存在するという所です。皆さんが関わってらっしゃる地方自治体には行政の地域づくりの仕組みなどがあるかと思いますが、松本も、こういった形であります。先ほどいいました24万を35の自治地区。これは伝統的に長い歴史の中で区画をしているということです。松本の特徴は、近年の平成の合併など、諸々も一つの地区として組み入れていっているところです。自治システムというものが結構充実をしているというか、地域に幾重にもなった仕組みがある。住民主体のここを中心としながら展開していくということで、介護保険の仕立てだったり、防災の仕組みだったり、いろいろなことを個々に中心として展開しているという特徴があります。この地域システムと行政システム等を結ぶその中間的なところで、地域づくりセンターというようなものもあって、自主的な住民の流れと行政の仕組み、制度に基づくものをここがベースとなってつないでいるということです。窓口的なことをいうと、松本の行政の仕組みは少し重た過ぎます。いくつあってもいいのですが、少し重たい。重たいと言ってはいけないのかもしれませんけど、粘りがいいのですが、何か動こうと思ったときに、少し動くのには、重たいという感じがします。確かに地域包括ケアシステム、介護保険、高齢者などは、地区単位で中学校区だとか生活圏域を示しなさいということが言われていますが、こんな形になっているということです。このような松本の地域システムの中で「できもちWS」が、本当に受け入れてもらえるのか。また面倒くさい話を地元の学校が持って来てみたいなことを言われるのではないかと思っていました。

「地域共生社会開発プログラム」実施報告:スライド1(図の内容)

「地域共生社会開発プログラム」実施報告:スライド2(図の内容)

できもちWSの活用と展開~導入に向けて~

この地域システムの中で、市と大学の地域づくりインターンという、うちの大学を卒業した者を総務省の地域づくり協力隊の松本版のように3年間有給で地区に配置して、様々な地域づくりに取り組むという事業をしていて、そのメンバーをうまく使いながら、今回、紹介いただいた「できもちWS」を導入しようと目論みました。成功したのか、失敗したのかは、分かりませんが、そういう想定の下、松本の場合には地区に「できもちWS」をしみ込ませていったということを理解いただけたらと思います。そういうような地区に「できもちWS」。私自身も、先ほど言ったように、先ほど紹介していただいたように鈴木さんはおっしゃるけれども、本当に大丈夫なのかというのは、ずっとありました。それでも7年間、私なりに準備しながら、取り組んできました。一つの視点としては、ここにあります個別支援による地域づくりというところを少し掲げたということです。この視点の理由は、個別というのは、できもちWSの紹介にもありましたけれども、このワークショップでは、事例を使っているので、その事例が、当たり前ですが、ワークショップのための事例というのではなく、極力、その地域で起こっている生の声を事例に反映するということが要求されます。本当の事例をフェイクというような形で言って、より事例のつくり込み、事例をつくるということは、地域に実際の困りごとなどがあるのかというところを拾って来ないといけない、把握してないといけない。そこから拾って来たものをどう地域に展開していくのか。専門家ではないですから、実は、つながるようでつながりにくいのです。でも、そこはやはりこのワークショップを導入するためには外せないだろうと思ったものですから、このような個別支援の地域づくりの可能性を探り、掲げさせてもらいました。時間の関係だとか、いろんな歴史的な諸々も踏まえて、このワークショップを一から導入するのは無理だろうと思ったので、既存のいろいろなものを使おうと思ったのです。一つは制度の活用で、介護保険でご存じの方いらっしゃるかと思いますが、地域ケア会議をそれぞれの市町村で取り組み、そこから地域の課題を地域で上げて解決しなさいということが介護保険制度の中で盛り込まれているので、ここに事例はあるだろうと、そういったところを使うとか。もう一つは、そういったところから地域の生活支援を整えなさいという。要するに、こういう制度をできもちWSと抱き合わせで展開することはできないかということでした。そう思ったのですが、実際はケア会議など、地域で形だけやっています。形だけやっていると言ったら怒られるかもしれませんが、課題は上がりやすいのですが、大体そこで止まっている。その後のところで、少しこの「できもちWS」を活用することができないかと持ち込こみました。松本の場合ですけれども、地域に様々な人材がいますが、既存の人材、新しい人材を発掘するというよりは、制度だとかで配置されている、地域包括センターの専門職であったり、民生委員であったり、自治会の役員であったり。そういう人を活用しよう、使おうというようにできないかと思ったわけです。こういった中で、大学と市と連携を組ませてもらった若い地域づくりのメンバーも入れ込んで、人材の活用というか、人材をどう養成できるのかという養成の観点も少し組み込ませてもらったというのが、半信半疑で思った私の最初の目論みでした。これが正しいのか、正しくないのか、分かりませんが、このような視点に至ったのは、先ほども言いましたけれども、松本は比較的歴史的に公民館活動、それに起こる地区の活動などが盛んに行われている。行われてはいるが、それが一方では、重たいとか、若い人たちが介入しづらい、NPOだったり、新しい視点をもった人たちも地区に関わりにくいであったりがあるので、その辺を入れ込んだという特徴があったということです。

「地域共生社会開発プログラム」実施報告:スライド3(図の内容)

「地域共生社会開発プログラム」実施報告:スライド4(図の内容)

できもちWSの活用と展開~地域資源に発展~

先ほどの紹介ビデオにもありましたが、ここにあります共通の言語がこのワークショップの導入では非常にもちやすいという印象がありました。「できることもちより」です。課題の解決を目指さないという説明が理論的にありましたが、そんなことを言っても、普通の住民には分からない。そういう説明は、一切抜きにして、今日はできることを皆さんで出し合いましょうというようなことでワークショップは展開されているということ。ここは共通言語をもつということと、この辺の響きというのは、私の判断としては、地域にこのワークショップがなじんでいった一つの大きな原因だったのではないかと思っています。しかし、できることということは、実は、難しい。何そんなことでいいの?というような意見も多く聞かれました。できることって何?のように。住民として、あなたにできることですと言うのですが、それだけでは、やはり理解が進まなかったということがありました。でも、納得すると、先ほど言った参加のしやすさで、結構満足いただけたような印象がありました。松本を想定とした目論みとしては、以上の観点でワークショップを展開させていただいたという経緯になります。

「地域共生社会開発プログラム」実施報告:スライド5(図の内容)

今年で4年が過ぎることになりますが、最初の1、2年はそういったところから、いろいろな所でできもちWSの実践をしました。例えば、先ほど紹介した地域づくりが担当している担当地区をベースに、35地区48の町会、公民館など。そこには公民館主事、民生委員、包括などの人が、この辺はどこの市町村も配置されているかと思います。そういう地域に関わる支援専門家がいると思うのですが、そういう人たちをピックアップして「できもち」の紹介、その有効性など、半分は騙しながら、いいですよ、いいですよ、ということで実践させていただきました。もう一つが、ここは団体と書いてありますが、社協です。社協の取り組みとしての実施と松本の周辺に朝日村、人口5,000人ぐらいとか、麻績村という人口4,000人ぐらいの小さな所ですが、こういったところが住民の支え合いのツールという形で活用してみたいという依頼があり、2年間実践してきました。今年はコロナで、実践はしていませんが、3年継続で進んでいるという展開が見えています。展開があるということと、受け入れられているということは、別ですが、何もやることもないし、気の利いたツールのようにも見えるから、まあ、いいのではないかということでお付き合いいただいているところです。写真は、インターンを使って地区に「できもち」をやっている感じです。こういうファシリテーションも、先ほどご案内があったようなところで、訓練の時間を活用させていただいて人材育成などにも使わせてもらっています。

「地域共生社会開発プログラム」実施報告:スライド6

できもちWSきっかけに発展した活動へ

ここ1、2年ぐらいは、この「できもち」で、できることをもちよった後、実際、どのような動きにつなげていけばいいのかということで、その展開として、先ほど紹介しました宮田中の動きともずみ商店の動きを見てもらいました。宮田中は、ポイントは民生委員だった方々がその後にチームをつくって動いてくださっているということだと思います。民生委員時代に知り得た困難ケースを、民生委員は終わってしまったけれども、その取り組みをそのままにしておくことができないということで組織化されたところ。もずみ商店は、地域の中の個人の方です。個人の方が有償ボランティアをやるというところ。個人の方が、ある種、公的なサービス、生活支援などを受けるというのは、実はいいことなのですが、いいと言いながら、利用する住民の方々というのは警戒します。だから、そこに個人の方だけではなくて、地区ベースの包括と民生委員などの人たちとうまく絡んで、現在の個人による有償ボランティアのもずみ商店というものに至っているということです。住民は住民で、自分たちの地区の困りごとなのだから自分たちでやりなさいと言ったところで、もうできなくなってきている部分があって。そこに住民の意思だとか自治だとかの主体を維持しながら、少しプラスα。どこを助けたり、サポートしたり、できることを考えながら、そこに「できもち」の具体的なツールを入れ込んで今に至っているというのが松本の取り組みだと思います。以上、かいつまんで取り組みの実践例を説明させていただきました。ありがとうございました。

「地域共生社会開発プログラム」実施報告:スライド7(図の内容)

松崎 良美 氏:

尻無浜先生、ありがとうございました。鈴木さん、尻無浜先生のお話でプログラムの概要やプログラムの実際について、とても具体的な工夫など、地域の皆さんの反応などについてうかがい知ることができたのではないかなと思います。

menu