質疑応答・総括

松崎 良美 氏:

ここから質疑応答の時間に入ります。ご質問のある方はどなた宛ての質問なのかを明記の上、質問受付事務局までチャットでお寄せください。

雄谷氏への質問:

・青年海外協力隊の経験から実施されている事業というのは日本型Community Based Inclusive Developmentと捉えても構わないのか。

・途上国における国際協力といってもなかなか実感がわかず、市民や周囲の理解とか協力などを得るのが難しかったのではないかと思う。佛子園ではどのように地域社会において国際協力の利点や価値を伝達しているのか。具体的な手法や活動があれば教えて欲しい。

・行政や制度は縦割りのままといった現状があるのではないかと思う。そのような縦割り行政、制度について、具体的にどのような課題があるか。そのような課題に対し、行政側とどのように協力し、改善を図っているのか。工夫などがあれば教えて欲しい。

雄谷氏:

ご質問、ありがとうございます。まずはCommunity Based Inclusive Developmentということ。そういう言い方ができると思います。やっぱり包括的に地域を中心にしてやっていくと思っています。僕は昭和61年に協力隊に行ったのですが、今、ご質問いただいた田中さんは、当時、向こうで一緒に活動した方で懐かしく思います。随分、久しぶりなのですが。国際協力という形もそうなのですが、障害のある人たちというのも基本的にはたとえば表現が違っていたり、いろんな意味で認知の在り方が通常のコミュニケーションとは違っていたりするわけなので。そういったことから考えると、あまり日本人である・ないというのは地域においては関係がないのかなと思います。こういうコミュニティができて、小さいときからそういった環境にいると一緒にご飯を食べたり、お風呂に入ったりしながら、そういう以前の昔懐かしいようなコミュニティの機能をもう一度復活させてくると、じっくりお互いが時間をかけて理解をし合うことができるという利点があると思います。そういう意味では、そういったことが大切なのかなと思いますし、やっぱり茶の湯というか、お茶一杯、丁寧に入れて、美味しいお茶を一緒に飲むということから始められるのではないかなと思います。青年海外協力隊というのは若者が行って、やりたがりが多いです。やりたがりが多いと、その段階で結構失敗する可能性が高いです。それはなぜかというと、やっぱり自分もそうでしたが、やはり若いときは自分がこの国を救うというようなちょっと勘違いというか、そんなもう鼻息荒い感じで行くと失敗します。帰って来てから理解したことは、やっぱり自分たちがやったり言ったりするということは控えるというか。僕は最近、言わない、やらない技術と言っています。これはなぜかというと、先ほどもご質問であったCBIDと同じでやっぱり主役はどこにあるかというと地域住民なのです。そうして、国際協力手法からいくとPCM(Project Cycle Management)という手法を使っています。これはどういうことかというと、明らかに住民主体、そういったことを地域の問題の分析から関係者分析から行いながら、誰をどのように主体としてリードしていくかということが非常に大切かなと思います。田中さんのご質問は、そうとはいえ、外国人の方々をどうしますか。外国人労働者の問題もありますので。僕はやはり非日常的なものでは解決されないと思っています。やはり日常的に関わっていくということが、いろいろな意味で人が人とつながる上で必須条件になると思います。

Share金沢とかいろんなモデルをつくってきましたが、基本的にやっぱり当初は縦割り行政の壁というのは非常に大きかったです。たとえば高齢者のサービスの施設整備のお金は介護保険から出ているわけです。障害者福祉であれば、障害福祉の支援費から出ているわけです。そうすると、出どころが違うということで、Share金沢のときには廊下を2本造りなさいと言われました。障害のある人用と高齢者用の廊下。これは出どころが違うのだから、はっきりしなさいと言われました。それはおかしいでしょう、それは区別どころか差別ですよという話をさせていただきましたが。そういったところも何回も協議を重ねながら、厚労省的には我が事・丸ごとという言い方になっていきましたが、共生型の施設整備というものが認められていくわけです。そういった最初の事例になったのは、嬉しかったです。そういったものをごちゃまぜにしていく。たとえば、厨房なんかも一本化するといいのですが、保育の厨房は他のものと共有してはダメだとか。山のようにそういった問題があります。しかし、お互いにぶつけあっても難しいところはありますが、やはりそこは一事業主として僕らが存在するという考え方ではなくて、そこに住民主体という一つの大きなキーがあると思います。住民が自らの地域をどうデザインしていくかという上で、一つの縦割り行政という問題を指摘していくことが、何よりも大きな改善していく原動力になるのかなというふうに思います。ただ、市町村の皆さんも、我々地域の住民も、それぞれできることと、できないことがあって、できないことを声高に言っても難しいです。お互いにできること、できないことというのを尊重し合いながら、お互いの立場を考えながら対話をしていくということが大切だと思います。

山口氏・野々村氏への質問:

・三方よし基金の地域に対する経済効果は測定されていますか。もしあれば、内容を教えて欲しい。

・地域で社会的孤立に怯えている高齢者が地元にたくさんいると知ったことを受け、地域連携、連帯意識の低い先行事例などがあれば教えて欲しい。

山口氏:

ありがとうございます。1つめの質問ですが、私たちも、当然、すごく興味をもっています。理事に滋賀県の琵琶湖環境科学研究センターの関係者に参加いただいておりまして、地域経済、特に2030年の東近江の将来像を環境の指標とか地域経済の指標で将来推計をするモデルをつくっていただいたことがありました。その延長線上で、三方よし基金がこれまで地域に関わってきた資金提供が、どのように地域経済に貢献しているかというのを分析いただいている最中です。私たちが調達した資金の総額や地域に提供した資金の総額というのは私たちでもわかるのですが、実際、それぞれの活動が、どのように地域経済に貢献しているかというのは、もう少し情報収集しないと分析できないところですので、その辺は研究者の方にお願いをしながらやっています。今、示せるものが無くて申し訳ないのですが、そんなことにもチャレンジはしています。2つめの質問は、野々村さんから答えてもらった方がいいと思います。

野々村氏:

任せっきりで、ぼーっとしていました。すみません。多分、私と山口さんの話を聞いていただいて、うちの地域がとっても意識が高いと勘違いされたのではないかと思いました。今日、滋賀県の方はいらっしゃらないと思うので、好き放題言うと、全然意識なんて高い人はおりません。とても辛い毎日です。言うたらダメですけど。ただ、うちはすごい田舎の地方なのですが、はっきりしていることを軸に置いてつながると、意識が少し高くなるということはすごく思っています。今回であれば、山口さんとのつながりは薪。森林のことについてというはっきりしたアイテムがありました。そこに人が集まると、一つのはっきりした目的でつながることによって、本当につながりやすさがあって、そこから生まれるおまけがどんどん広がっていくということがあったので。いろいろな意識が高い人たちばかりがいるということではないです。ただ、行政の方。たとえば、私は障害のある方の支援を柱にしていますので、障害福祉課とただ単に制度、障害者手帳の発行のやり取りだけのつながりではなく、そこに、もう少しおまけを付けた、つながりが太いパイプでもっていけるということが、もしかしたら、地域にも広がっていく大きなポイントかなと思っています。答えにはなってないかも知れませんが。

リハ協への質問:

・地域に根差した共生社会は、障害のある方だけでなく、誰にとっても望ましい必要なものであると実感しましたが、リハ協がCBIDに取り組まれたきっかけなどを教えて欲しい。

上野氏:

ご質問、ありがとうございました。日本障害者リハビリテーション協会の上野です。リハビリテーション協会は1988年に、私どもが入っているリハビリテーションインターナショナルの世界会議を東京で開催した後、資金が少し残りまして、アジア太平洋のいいプロジェクトに支援しようということで使い切るお金が5年間ぐらいありました。そのときの柱の一つにCBR(Community-based Rehabilitation)を掲げており、良いCBR活動をやっている国に支援しようということでやってきました。CBRが当時、日本から途上国で携わってきた人には理学療法士や作業療法士など、リハビリテーションの専門家が多くて、専門家が途上国に行ってリハビリテーションのやり方を教えたり、あるいは、それを家族に教えたりという活動がとても多かったのですが、実は、CBRの定義を見ますと、地域社会開発の一戦略であるという一文が既に入っておりまして。でも、それがなかなか日本でも理解されにくかったのかもしれません。活動できる人たちが理学療法士、作業療法士の方が多かったので、CBRのイメージがリハビリテーションを提供するということになっていました。WHOが、その後、世界的な議論を起こして、公助団体も加わって、CBRが障害者権利条約制定の動きと相まって、もっと当事者も大切にし、コミュニティの参加も促していくという、本来はそういうものだったということを強調するようになり、CBRガイドラインをつくりました。そのガイドラインの中で、CBRの目的はCBIDをやっていくことだとしました。よく考えると、地域の中に困った人というのは、障害者だけでなく、高齢の人、あるいは孤立している人、そういう人もたくさんいて、困っている。そういう人たち皆が、地域で暮らしていけるようにみんなで行動していくことなのだということを主張し始めましたので、それであれば、私たちとしても、もう少し幅を広げて、一時的に困っている人もいれば、いろんな人に言えない悩みを抱えた人まで含めて、そういう人たちが地域で暮らしやすくなるといった地域をつくっていくということに幅を広げていいのではないかと考えました。日本国内でもそういうことで目を向けて見ると、いろいろな良い活動があり、それらの事例を集めた事例集を2014年に作成しました。そんな経緯から、CBIDというのは、これからの日本でも、とても重要な考え方ではないかと思い、このプログラムを続けていきたいと思っています。

鈴木氏への質問:

・大都市やその周辺地域で地元連携、連帯意識の比較的低い地域の先行取り組みや事例などがあれば教えて欲しい。

鈴木氏:

鈴木です。よろしくお願いします。私は名古屋で事業活動をしておりまして、まさに名古屋という地域は大都市ですし、地元連携とか連帯意識は比較的低い地域だと思います。やっぱり人が多いので、あまり関心はないし、隣の住民に関心はないし、誰かがやってくれるし。そんな中で、この「できることもちよりワークショップ」を進めてきたのですが、実は、大都市とか連携意識が低い所であっても、人口がいれば、連携に関心はなくても、できることは多彩に多様にあります。人口が多い分、できることは非常に宝庫といいますか、宝物がいっぱい詰まっている地域なのです。ただ、もちろん自分から連携する意識も低いし、宝がつながってない状態というのが、大都市圏周辺の特徴だと思います。私たちは、大都市圏では一人の事例から徹底的にできる人を探すという作業を丁寧にやっています。たとえば、野々村さんの事例みたいに東近江であれば、周りにいる皆さんが互いに知っているような地域であれば、何かダメだったりすると、噂が広まったりするとか、失敗できない地域だと思いますが、名古屋みたいな大都市の場合は、どんどん次から次へと成功する人を探し続ければいつか出会う。そういう可能性が、実は、あります。大都市圏のいいところは、探せば、絶対いるって信じられることです。必ずこの地域にそういう人がいると。助けてくれる人が必ずいるはずだと、そんなことで手あたり次第インターネットだったり、人づてだったり、探しまくって、つながっていくということをずっとやっています。それによって、必ず出会えるので、それが結果的に地元連携とか連帯意識は低いですが、つながってしまうと、マッチングとしては非常に精度が高いので、満足度が高い人たちが増えていくというようなことが起きていきます。もし、質問された方が大都市にいらっしゃるのであれば、大都市は大都市なりのそういうメリットがあるということを活かしながら、絶対宝物が発掘できると信じてつながっていくということが、一つ大きな成果につながるのではないかと考えています。

松崎 良美 氏:

ありがとうございます。そろそろ時間が迫って参りました。会が終了した後も皆様がご歓談できるようにしばらくZoomは開いたままにしていただけるようなので、一度、ここで会を閉じさせていただきたいと思います。総括のコメントとともに発言いただきます。JICA社会保障専門員で、地域共生社会開発プログラム推進委員の中村信太郎様、よろしくお願いいたします。

中村 信太郎 氏:

JICAで高齢化および社会保障を担当しております、中村と申します。どうぞよろしくお願いします。また、この地域共生社会開発プログラム推進委員を務めさせていただいています。本日は皆さまどうもありがとうございました。ご報告いただきました雄谷様、山口様、野々村様、そして、ご説明をいただきました鈴木様、尻無浜様、それぞれ大変素晴らしいお話を聞かせいただきました。雄谷様には、青年海外協力協会 代表理事会長としてJICAにも大変いろいろと貢献いただきまして、この場をお借りいたしましてお礼申し上げます。また、山口様、野々村様におかれましては東近江ということで、JICAの研修でもたびたびお世話になっております。私自身も昨年、高齢化研修でお邪魔しました。この場をお借りしてお礼申し上げたいと思います。

雄谷様からは「輪島kabulet」のご活動をご紹介いただきました。人口減少、産業の衰退、中心部の空き家の増加といった困りごとに対処するということで、空き家などをサードプレイスとして再生させる。それが障害のある人の働く場でもあって、同時にそれらの居場所を中心に人と人とのつながりができてくる。こういった取り組みでした。

山口様、野々村様からは薪プロジェクトから始まった取り組みにつきまして紹介をいただきました。これまで、もっぱら資金提供を行うという行政の役割を、むしろ、地域でお金が回る仕組みをつくるということ。その行政の役割の変容。また、取り組みの評価の基準として、どれだけ社会につながりができたかという基準で評価をして、それを見える化する。それがさらに共感を生んで資金調達にもつながっていくという話でした。野々村様からは障害者就業・生活支援センターを運営しておられるというお立場で、少しの工夫があれば働き続けることのできる人たちがたくさんいるということで、働くことを入り口としていろいろな人たち、地域の人たちがそれぞれできることをもちよるというお取り組みでした。鈴木様からは、課題を解決するのではなくて、できることをもちよることによって、参加者の心に小さな変化が起こってくる。自分にも何かできるという気づき、あるいは放っておいてはいけないという、そういう意識が芽生えてくるという「できることもちよりワークショップ」のご紹介でした。

そして、尻無浜先生からは松本において「できもちワークショップ」をどのように導入していったかという実例をご紹介いただきました。導入にあたっての工夫、それをどのように活用し、さらに展開するかという実践例をお話いただきました。

それぞれいろいろな例がございましたが、私は、共通するポイントが3つぐらいあったような気がしました。1つは具体的な困りごとからはじまる。2つめに人々はそれぞれできることを通じて支え合う。3つめに地域が変わっていくということです。東近江の場合にはその獣害、里山の荒廃。輪島ですと、中心市街地の衰退、あるいは障害のある人の働く場所。こういったことから取り組みが始まったということ。

2つめのポイントとして、できることを通じて支え合うということですが、地域にいる人たちは皆、何かしらできることがある。引きこもりの人だからといって何もできないと決めつけない。薪プロジェクトで役割を果たしている。あるいは、輪島kabuletでも物を盗んでしまうということを繰り返していた人が、店で働くことで人々とのつながりができる。そして、物を盗まなくなったという例もご紹介いただきました。

地域が変わっていくということに関しては、もちろん、福祉・医療は重要ですが、福祉・医療だけで解決するのではなくて、むしろ、それぞれの分野で働く人たちが関わることで課題が一つひとつ解決され、豊かな関係性ができる。そして、新たな課題にも柔軟に対応できるような地域になっていくということだと思います。来月はワークショップ体験会が開催される予定です。私も以前参加しましたが、大変面白い体験でした。日本国内ではもちろんのこと、JOCV、青年海外協力隊の方々も、活動の中でこのような手法を活用していくことで何らかの変化が起こるきっかけになるのではないかと思った次第です。ぜひご参加をお勧めしたいと思います。以上、まとめでございました。ありがとうございました。

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