行政の動き-障害児入所施設の在り方に関する検討会報告書について

「新ノーマライゼーション」2020年5月号

厚生労働省障害保健福祉部障害福祉課障害児・発達障害者支援室
障害児支援専門官
鈴木久也(すずきひさや)

障害福祉専門官
刀根暁(とねさとる)

1.はじめに

平成24年に児童福祉法の一部改正があり、それまで障害種別ごとに分かれていた障害児の福祉サービスを通所と入所に体系化し、一元化されました。障害児入所施設は、医療の提供の有無により「福祉型」と「医療型」の2つに分類されました。

その後、平成26年7月にとりまとめられた「今後の障害児支援の在り方について」において、障害児入所施設が担うべき機能として、1.発達支援機能、2.自立支援機能、3.社会的養護機能、4.地域支援機能、の4つが整理されました

障害児入所施設に入所する児童の状況をみると、被虐待児(疑いを含む)の割合が3割を超えるなど、社会的養護を必要とする児童が多く含まれています。平成29年8月にとりまとめられた「新しい社会的養育ビジョン」においては、障害児入所施設も社会的養護の役割を担っているという認識を深める必要もある、とされています。

これに加え、喫緊の課題として、18歳以上の障害児入所施設入所者への対応(いわゆる「過齢児問題」)があります。とりわけ福祉型については、現に18歳以上の入所者が約1,500人にのぼる中で、障害児入所施設の指定を受けていることをもって障害者支援施設の指定基準を満たすものとみなす措置が令和3年3月31日までとされており、この措置の在り方について検討する必要がありました。本検討会では、以上のような経緯や状況等を踏まえつつ、現在の障害福祉施策や社会的養護施策等の動向、さらには障害児入所施設の実態等を考慮して、上述の「今後の障害児支援の在り方について」で整理された4つの観点を中心に、関係団体からのヒアリングを含め、検討会を7回、福祉型ワーキンググループと医療型ワーキンググループを各4回にわたり開催し、令和2年2月10日に報告書をとりまとめました。

2.障害児入所施設改革に関する基本的視点と方向性

「今後の障害児支援の在り方について」では、「基本理念」として、「地域社会への参加・包容(インクルージョン)の推進と合理的配慮」「障害児の地域社会への参加・包容を子育て支援において推進するための後方支援としての専門的役割の発揮」「障害児本人の最善の利益の保障」「家族支援の重視」の4つが基本的な視点として挙げられました。障害児入所施設の在り方の検討に当たっては、これらの視点を踏まえ、更に現在の障害児入所施設の課題や関連する他の施策の動向等を踏まえ、1.ウェルビーイングの保障:家庭的養護の推進、2.最大限の発達の保障:育ちの支援と合理的配慮、3.専門性の保障:専門的ケアの強化と専門性の向上、4.質の保障:運営指針の策定、自己評価・第三者評価等の整備、5.包括的支援の保障:家族支援、地域支援の強化、切れ目ない支援体制の整備、他施策との連携、の5つが示され、「今後の障害児支援の在り方について」で整理された4つの機能(1.発達支援機能、2.自立支援機能、3.社会的養護機能、4.地域支援機能)が、実際に支援の現場で発揮されるよう、取組を強化することの必要性、また、これらの機能については相互に関連するものであり、総合的に取り組むことにより、障害児入所施設の質の向上につながるものであると提言しています。

3.障害児入所施設の課題と今後の方向性

本検討会では、福祉型・医療型別及び共通する課題と今後の方向性について検討を行いました(図)。

図 障害児入所施設の在り方に関する検討会 最終報告について(概要版)
(厚労省障害福祉課障害児・発達障害者支援室作成)

図 障害児入所施設の在り方に関する検討会 最終報告について(概要版)拡大図・テキスト

(1)福祉型障害児入所施設

福祉型障害児入所施設では、18歳以上の方が約1,500人在籍しています。入所児童は中高生が多くなり、入所経路も家庭や児童相談所以外に児童養護施設等からも増えてきています。さらに被虐待児の割合が増え、障害の他にさまざまな要因が重なり子どもの状態像が多様となっています。

主な内容としては、まずできる限り良好な家庭的環境の中で特定の大人と安定した愛着関係の下で支援を行うため、ユニット化等によりケア単位の小規模化、さらに地域小規模障害児入所施設(障害児グループホーム)(仮)の創設、里親やファミリーホームの活用の推進や18歳以上の入所児童(いわゆる過齢児)の対応を成人期にふさわしい暮らしの保障と適切な支援を行うこと、そして、障害児入所施設も児童福祉施設であるという原則の観点から、みなし規定の期限を延長することなく満18歳をもって退所する取り扱いを基本とすることが示されました。

また、福祉型障害児入所施設の職員配置基準は昭和51年に4.3:1になって以来、引き上げられていません。一方、児童養護施設では就学期の基本配置を4:1に引き上げる障害児入所施設の基本配置を上回る目標となっています。このことからも、適切な愛着形成を図る観点、ケアニーズの高い子どもたちをより専門的できめ細かく支援する観点から、児童養護施設と同様の仕組みの検討と、更なる人員配置の検討の必要性が示されました。

その他、ソーシャルワーカーの配置や障害児入所施設が里親フォスタリング機関と連携し委託を受けることで里親等を支援することが示されました。

(2)医療型障害児入所施設

医療型障害児入所施設は、障害者の福祉サービスである療養介護の指定を受けることにより、医療型障害児入所施設を利用している障害児は満18歳以降も引き続き施設を移動することなく利用できる(療養介護の対象に該当することが必要)児者一貫によるサービス提供の仕組みが恒久化(みなし規定の恒久化)されていることに特色があります。児者一貫により将来を見据えた支援が可能であり、入所児童の安心した暮らしの保障にもつながる一方で、一人ひとりに、より適切な支援を行う観点から、移行に当たっては自動的に行われることなく、関係機関が連携した上でアセスメントを行う必要があると示されました。

また、保育士等の配置の促進や医療的ケア児や強度行動障害等の事例に対する更なる支援、就学前から地域での子ども同士の育ちあいを促進する等の観点から、地域の児童との交流の機会を増やしていくこと、教育との連携、家庭的な養育環境の推進を目的にユニット化等によりケア単位の小規模化の推進、被虐待児の入所児童増加に伴う支援の強化が示されています。

さらに、施設が担う地域支援機能として短期入所及び通所支援、ソーシャルワーカーの配置について示されています。短期入所については、医療を必要とする障害児は利用できる事業所が地域によっては限られていることから、医療型障害児入所施設が実施する短期入所の役割は大きい。障害児の状態像やニーズは多様化してきている状況からも短期入所が地域の中で計画・運営されるよう、次期障害児福祉計画の中で明示すべきであることが示されました。

4.おわりに

本検討会報告書の「まとめ」において「この検討会により、障害児入所施設の果たすべき役割と機能を考えるとともに、日々障害児支援に取り組んでいる方々の課題の改善につながり、そのことで、障害児と家族が安心して子育てが出来る環境づくりが進むことが期待される。」と述べられています。「第2期障害児福祉計画への反映や令和3年度障害福祉サービス等報酬改定において、必要な財源を考慮しつつ実現が図られるよう速やかに検討すべきである。」との本検討会の提言を踏まえて、検討を進めたいと考えています。


【参考】

 1.重度・重複障害、行動障害、発達障害等多様な状態像への対応のための「発達支援機能(医療も含む。)」、2.退所後の地域生活、障害者支援施設への円滑な移行、就労へ向けた対応のための「自立支援機能」、3.被虐待児童等の対応のための「社会的養護機能」、4.在宅障害児及び家族への対応のための「地域支援機能」、の4つ。

【文献】

1)厚生労働省ホームページ:障害児入所施設の機能強化を目指して-障害児入所施設の在り方に関する検討会報告書-
https://www.mhlw.go.jp/content/12204500/000593531.pdf

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