アクセンチュア株式会社:精神・発達障がいのある社員が「成長」と「貢献」の実感を得られる職場づくり

「新ノーマライゼーション」2020年8月号

アクセンチュア株式会社 ビジネス コンサルティング本部
中村健太郎(なかむらけんたろう)・千代崎透我(ちよざきとうが)

1. はじめに

アクセンチュア株式会社(以下、当社)では誰もが受け入れられ、さまざまな形で活躍できるよう「インクルージョン&ダイバーシティ」という名称の下、性別(ジェンダー)、国籍(クロスカルチャー)、障がい(Person with Disabilities)、性的指向や性自認(LGBTQ)などの壁を取り払い、さまざまな能力と文化、考え方、技術、経験を持った人材が相互に連携、協力しながら、誰もが自分らしく働くことができる職場環境づくりを進めています。

2. 障がい者雇用における課題認識と取り組みの方向性

当社では障がい者雇用における社会課題について「雇用する側の都合が優先されている一方で、働き手にとってのやりがいや喜びなどの観点が見落とされていること」と認識しています。具体的には「身体障がい者の雇用を中心に法定雇用率の数字達成が先行していること」「業務は限定された単純作業が主体であること」「個人の特性ややりがいが配慮されるケースは少ないこと」などが挙げられ、これらには働き手の立場に立った視点が抜けていると考えています。そこで、当社では障がい者雇用の環境改善を持続的に行うため、精神障がい・発達障がいのある方々に特化したオフィスを設立しました。このオフィスでは、精神障がい・発達障がいのある社員にとって働きやすい環境を整備するとともに、「個の成長」と「仲間・社会への貢献」を感じられる職場で、働く意義・喜びを感じられる職場環境づくりを進めています。

3. 精神・発達障がい者の雇用の7つの取り組み

2019年9月に精神・発達障がいに特化したサテライトオフィスを横浜市内の生麦地区に設立しました。同オフィスでは、精神・発達障がいのある社員にとって働きやすい就労環境であることと仕事を通じた「成長」と「貢献」の実感を得られる職場であることを目指し、次の7つのことに取り組んでいます。

1.就労環境の整備

精神・発達障がいのある社員が安心して働くことができる就労環境を整備しています。就労にあたって、業務課題はSV(スーパーバイザー)に相談し、日々の生活・健康課題はジョブコーチに相談する両面からのサポート体制を整えています。また、採用、研修、業務・制度設計まで一気通貫で対応する専任の企画担当者も配置して、社員一人ひとりが自立して働くことができる就労環境の整備を進めています。

2.業務を用意する

小さな挑戦や成功体験を少しずつ積み重ねて、業務の難易度や業務の種類の幅を広げていけるように、さまざまなタイプの業務を用意しています。業務のリストは、「障がい者にとってのやりやすさ(定型化・納期の余裕など)」と「アクセンチュアに対する貢献度(他の事業部の社員の負荷軽減など)」の2軸で整理しており、難易度や業務の種類の幅のある業務リストから業務選定を行っています。

3.仕組み化する

業務定型化後も、現場での作業状況を日次~週次で可視化し、その場で改善方針決定・アクションを繰り返すことを仕組み化しています。それにより、本人とSVや専任の企画担当者などの関係する社員が一緒になって、業務プロセス上の課題を特定し、業務の生産性と品質の向上を図っています。

4.成長が分かるようにする

業務の生産性や品質についての成長の見える化を行っています。多くの場合、同じ業務を繰り返し経験することで一定の習熟度まで成長しますが、その成長度合いを感覚的に把握するのではなく、「業務のスピード」と「ミスの少なさ」の観点で定量化しています。そのことで、「前よりも何分作業が早くなった」や「今回はミスが何個減った」など、自身の成長を定量的に確認できるようにしています。

5.ステップアップする

日々の業務のステップを用意するとともに、長期的なキャリア志向に合わせたステップの準備も進めています。業務のステップとしては、まず安定的な定型作業から複雑な非定型業務へのステップとして目安となる指標を用意しています。また、キャリアのステップとしては、役割の階層や広がりを持つ等級体系を設計し、アクセンチュアでの長期的なキャリアプランを描くことができる人事制度の準備を進めています。

6.業務と個性を組み合わせる

社員がベストなパフォーマンスを発揮して業務を遂行できるように、業務と社員の個性の最適なマッチングの試みを進めています。業務の切り出し元である事業部の担当者と連携し業務要件を整理し、社員の個性を踏まえた最適な業務選定を行っています。

7.貢献が分かるようにする

社員の貢献度を月次で貢献金額として算出しています。貢献金額は、業務の切り出し元の作業担当者にその業務を行った場合の想定作業時間と時間単価をヒアリングして、その業務の価値を貢献金額として算出しています。自身の業務の貢献を金額で把握できるようにすることで、社員が業務に意味を見いだしやすい環境を整備しています。

図 精神・発達障がい者の雇用の7つの取り組み拡大図・テキスト
アクセンチュア作成

4. 精神・発達障がい者の雇用のこれからの取り組み

これまでの実践を通じて、精神・発達障がいのある社員は、環境を整備すれば自身の能力を発揮することができ活躍できることが分かりました。環境整備についてはまだまだ改善の余地がありますので、これから精神・発達障がいの専門家のアドバイスも取り入れ、引き続き社員の個性に合わせた生産性・品質の向上を追及していきます。また、コロナの影響によって、当初は想定していなかった在宅でのテレワーク勤務の構築が必要になりました。対面ではなく、オンラインでの仕事の進め方やサポート体制を構築することが余儀なくされましたが、我々はこれを変化の機会として捉え、精神・発達障がいのある社員にとっての最適な在宅テレワークでの働き方・環境整備も進めていきます。

そして、こうした取り組みで得た知見を型化し、社内外に展開していく予定です。社内では新拠点の立ち上げを進めているほか、社外ではすでに複数のクライアント企業から引き合いをいただいています。アクセンチュアでは今後、自社で培ったノウハウを日本の多くのクライアント企業にご提供させていただくことで、日本全体の障がい者雇用を促進していきたいと考えています。

社員インタビュー(Aさん)

これまで一般の社員に交ざって仕事をしていた時は、障がいに関係する困りごとを発信しにくかったですが、生麦のオフィスには理解のあるSVやジョブコーチの支援体制があり、遠慮なく話すことができます。また、生麦のメンバーにもオープンに話すことができるので、孤立を感じることがなくチームの一員であることを感じられ、業務に集中して働くことができます。

業務については、ずっと同じ業務をし続けた時はモチベーションを保つのが難しかったですが、今は業務の時間やミスの数を記入しているので、自分で成長を振り返ることができます。特に、初めての時には難しく感じた業務が短時間でミスもなくできるようになった時は、この業務をやって良かったなと思いました。また、1つの業務ができるようになったら違う業務を任せてもらえるので、もう少し成長すればこの業務もできるのではないかという目標が見えて、自分のスキルを上げる意欲が湧いてきます。

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