これからの新しい働き方

「新ノーマライゼーション」2020年9月号

埼玉県立大学 教授
朝日雅也(あさひまさや)

少子高齢化に伴い生産年齢人口が減少する中、仕事と育児や介護との両立などにも対応した多様な働き方を実現させる、いわゆる「働き方改革」が進められています。こうした状況を背景に、障害のある人についてもさまざまな働き方が生まれてきているといえます。また、「働き方」の改革の前に、そもそも障害のある人には、改革を必要とするほどに働く機会が十分に提供されていたのか、という声も聞こえてきそうです。そこで、障害のある人の働く現状を踏まえながら、これからどのような新しい働き方が展望できるのか、その支援のあり方も含めて概観していくことにします。

1.一般就労か福祉的就労かの二者択一の世界

日本の障害者就労は、企業等に雇用されて働く「一般就労」と障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスとして就労の機会を利用するいわゆる「福祉的就労」の2つに大別されます。働く上で、本来的に「一般」も「福祉的」もないはずですが、実際には労働者か、福祉サービスの利用者かに分けられてしまいますので、障害のある人はいずれの働き方をするかによって、その職業生活の質は大きく変わってきます。例えば、企業で雇用されれば、最低賃金以上の賃金が保障されますが、就労継続支援B型事業所であると、月額平均工賃は約16,000円(2018年)に過ぎません。すなわち働いて得た収入だけで生計を成り立たせるのは困難です。もちろんそれぞれの働き方において、改善が積み重ねられてきましたが、これからの新しい働き方の探求は、まさに従来の二者択一の世界からの脱却でもあるのです。

2.障害のある人の多様な働き方

障害のある人の多様な働き方については、従来から「ソーシャルファーム」や「労働者協同組合」あるいは自治体独自の「賃金補填」による障害者事業団などのさまざまな実践や提案がなされてきました。

例えば、社会的企業とも呼ばれるソーシャルファームは、欧州や韓国では根拠法がありますが、日本では、それらの考え方を踏まえた新たな「働き方」として、いくつかの実践が取り組まれています。考え方や経営形態はさまざまですが、通常の水準の賃金や労働条件で生産活動を行い、製品・サービスを市場で販売し、利益を事業に再投資する形で、社会的目的を実現させるものといえます。

協同労働の協同組合は、働く人々・市民が出資を行い、民主的に経営し、責任を分かちあって、人と地域に役立つ仕事をおこす活動です。協同労働は株主会社と違って、その目的が利益の株主への還元ではなく、出資者への仕事の機会の提供にあります。

賃金補填(公的支援)を伴う就労も多様な働き方の実践のひとつです。社会的事業所等と呼ばれる就労形態は障害者の就労継続のための機能を有しつつ、障害のある人全員と雇用契約を締結し、最低賃金を保障する就労の場として、いくつかの自治体で先駆的に取り組まれています。

こうした組織的な対応のみならず、障害のある人自身が経営者になって、多様なビジネスを展開する例も多く見られるようになってきました。従来の枠組みにとらわれることのない、いわば起業ともいえるものです。障害者福祉に関連する事業から全く違う分野まで、その内容も多岐にわたります。その際には、ICT(情報通信技術)の活用により、表現が適当かどうかわかりませんが、それこそベッドにいながらビジネスを展開している例も少なくありません。

3.多様性を特色づけるもの

これらの取り組みにおいては、一口に「多様性」といっても、いくつかの側面があることに気づかされます。そこで、図に示すように「多様性」を整理・分類してみました。

図 障害のある人の働くことをめぐる「多様性」
図 障害のある人の働くことをめぐる「多様性」拡大図・テキスト

「理念の多様性」とは、働くことの意義を多様に捉えていく視点です。キャリア発達の可能性ではスキルアップを目指すことを重視するかもしれませんし、健康面では、あまり無理をせずに自分の最適なペースを守りながらの働き方が希求されるかもしれません。すなわち働き方の基本的な考え方に多様性があるということです。そうでないと、障害のある人に働くことを通じての経済的な自立だけを要求したり、本意ではないのに継続を迫ったりすることに繋がってしまいます。

「働くことを構成する要素」は、労働時間や職場に留まらず、そもそも多岐にわたります。例えば、「時間」については、一般の職場での正規雇用であれば、週40時間労働が基準になりますが、障害の有無にかかわらず非正規であれば、より短い時間での働き方があります。いわゆる障害者雇用率に算定する障害者については、週あたりの労働時間が30時間以上ですが、20時間以上30時間未満の障害者については、0.5人分としてカウントすることになっています。すなわち、障害の状況に応じて、短い労働時間でも雇用されることを促進する仕組みです。一方、障害者雇用率には反映しないが、ごく短時間でも働きたいというニーズに対応していくことも時間軸における多様性を考える上で重要です。その際には、障害者だから短時間で良いということではなく、たとえ短い時間でも一般の職場で働くことの意義を中心に据えていく必要があります。

さらに場面の多様性としては、在宅就業があります。その際には、企業等に雇用され在宅で勤務する、いわゆる「在宅勤務」と、雇用関係は結ばずいわゆる「請負契約」で働く形態があります。雇用契約を結ぶ「在宅勤務」の場合には、週20時間以上の勤務時間により障害者雇用率の算定対象となることが多く、請負契約の場合には、時間等について柔軟な対応になりやすい特徴を持っています。

「支援の多様性」は、障害のある人の働き方を考える上で、特徴的な側面です。一口に支援といっても、やはり多岐にわたります。どのような支援を受けながら、あるいは提供しながら多様な働き方を実現するのか、その際には何らかの支援があれば、必ず働くことが実現するという確信を持ちたいものです。

4.多様な働き方を目指すために

人々の健康と暮らしに未曽有の影響を与えている新型コロナウイルス感染拡大によって、誰もが在宅勤務やリモート就労といった従来とは異なった方法で仕事を進めせざるを得ない状況です。まさに、東京大学先端科学技術研究センターの熊谷晋一郎氏が言うコロナ禍による社会の「総障害者化」でもあります(朝日新聞2020.8.26)。そうなると、障害のある人の新たな働き方の探求は、実は誰もが望む働き方を真に実現する牽引力なのかもしれません。

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