コロナ時代の新しい障害者福祉

「新ノーマライゼーション」2021年1月号

日本障害フォーラム代表 日本身体障害者団体連合会会長
阿部一彦(あべかずひこ)

新型コロナウイルス感染症拡大は、多くの人々の生活に不安とさまざまな制約をもたらしています。平常時にさまざまな社会資源やサービスなどを活用して、生活を営んでいる障害のある人々は、障害のない人よりもさらに大きな不安と大きな困難や不便を強いられています。今回はその状況について共有し、コロナ時代の障害者福祉のあり方について考えることとします。

コロナ禍で困ったこと

日本障害フォーラム(JDF)では、障害者権利条約締結後の状況に関する日本の審査に向けて、障害者権利委員会に提出する総括所見用パラレルレポートを作成しました。その中で、JDFを構成する各団体は、コロナ禍がもたらした影響と対策に関して整理しています。

一部を紹介すると、集団感染が発生した障害福祉事業所や施設等に対する差別や偏見が高まっている事例、感染防止のために自宅で過ごす間に障害のある人に対するDVの事例が報告された例があること、3密の防止などのために要約筆記、手話言語通訳、盲ろう者の通訳・介助者などの利用が困難になり、障害のある人の社会参加の機会が奪われ、孤立する場合があることなどをはじめ、さまざまな生活上の困難が報告されています。

また、就労に関する問題としては、企業の採用活動が激減したために、障害のある人の新規就職が困難になっていることや、雇用されている障害のある人であっても解雇や雇い止めが起きていること、マッサージやあんま・鍼・灸等人との接触が避けられない自営業に携わる障害のある人が、感染予防の観点から仕事をすることができず収入を失っていること、福祉的就労の場では、経済活動の自粛の影響で仕事がなくなり、工賃や賃金の確保が困難になっていること等の現状を報告し、日本の審査後に、障害者権利委員会から示してもらいたい総括所見案として、日本が行うべき対応について整理しています(https://www.normanet.ne.jp/~jdf/data/pr/jdf_report_for_the_session_jp_v2.3.pdf)。

団体活動での問題

障害者団体の活動も大きな影響を受け、全国大会や全国規模の研修会などが中止を余儀なくされています。

日本身体障害者団体連合会(日身連)では、2020年6月に加盟団体を対象とした緊急アンケートを実施しました。その結果、ほぼすべての団体が新型コロナウイルス感染症による影響を受けていることがわかりました。各団体は理事会等や年間行事の開催可否の判断や勤務体制の調整等に苦慮したことを報告しています。また、感染予防対策に関する情報不足、消毒液やマスクの入手困難など、全国的な新型コロナウイルス感染症拡大は団体運営にさまざまな影響を及ぼしました。

筆者が代表を務める仙台市障害者福祉協会(以下、仙障協)では、市のガイドラインに基づいて、10名以上の事業の実施を延期または中止しました。会員の外出の機会や集まる機会がなくなったため、事業として取り組んでいる同行援護や手話言語・要約筆記等の通訳派遣事業、福祉有償運送事業等のニーズは低下しました。

4月16日から5月25日は全国における緊急事態宣言により公共施設等の利用が制限され、加入団体(14団体)の活動も中止や延期せざるを得ない状況になりました。

新しい生活様式でさらに困ったこと

感染拡大を防ぐための「新しい生活様式」自体、障害のある人にとってさらに大きな困難を強いることになりました。仙台市では、「皆さんに知ってほしい「新しい生活様式」における障害のある方の困りごと」をホームページに掲載して、市民による理解と配慮の必要性を求めています。上述の内容との重複を避け、紙面の都合から一部を紹介します(https://www.city.sendai.jp/kenko-kikaku/komarigoto.html)。

・発達障害や知的障害のある人は、刺激に敏感なため、マスク等の着用に苦痛を感じる場合もあるため、マスクをしていないことで、注意を受けたり冷たい視線を向けられたりすることがある。

・知的障害、発達障害などの人では会話を控えることが求められる場所でも、声を出してしまうことがある。

・精神障害、知的障害、発達障害のある方の中には、感染症への不安をより敏感に感じる方もいるので、ゆっくりと分かりやすい言葉で肯定的に説明する必要がある。

コロナ禍における社会参加活動

緊急事態宣言が終了した後の地域の取り組みについて紹介します。仙障協の会員から、自宅での孤立した生活や孤独の毎日が精神的な大きいストレスになってきているという声とともに事業活動の再開を求める声が数多く寄せられました。あらためて社会参加活動の重要性が実感されました。そこで、感染防止ガイドラインをもとに、事業を再開しました。

「新型コロナウイルス感染症から身を守るために」と題した障害者健康指導教室(6月24日)から順次、事業を開始しました。しかし、多くの人々に参加していただく事業は、大きな会場を確保できない等の理由で延期されることになりました。

8月以降は、月に1~2回、複数のリフト付きバスを利用して隣県などへの観光を兼ねた移動研修も行われました。マスクの着用、アルコール消毒、換気をしながら、バスの座席間隔をあけるなど、感染症対策には入念に取り組みました。それぞれの企画には多くの障害のある人々が参加し、あらためて社会参加活動の意義、集まる機会の大切さが確認されました。

コロナ禍で確認された新しいツール

また、コロナ禍の中で、遠距離移動や大勢が集まることが難しくなってきているので、ウェブ会議やオンライン集会等が活用されるようになってきています。

患者団体や障害者団体のリーダーたちで構成されるヘルスケア関連団体ネットワーキングの会では、毎年、一泊二日でワークショップを行っていますが、今年は「VHO-netが取り組むSDGs~未来に向けて」と題してオンラインでの開催(10月24日午前10時~午後4時半)となりました。開会の挨拶や全体会の後は、異なるテーマの7つの分科会で意見交換や検討が展開され、その後、各分科会のまとめの発表をもとに全体会で意見交換などが行われました(http://www.vho-net.org/)。もちろん、顔を合わせて議論したいという声もありましたが、移動の必要がなく、自宅に居ながらにして十分に意見交換できた意義は大きいと思われます。

さらに、障害者週間の12月7日には、「障害者権利条約 日本の審査でこう変わる 私たちの暮らし―「総括所見」と今後の実施戦略―」と題して、JDF全国フォーラムがオンラインで開催されました。第一部「障害者権利条約の初審査を今後の施策にどう活かすか」に次いで、第二部では「新型コロナウイルスと障害者権利条約を活かした新しい暮らしに向けて」と題して、課題とともにその解決に向けた提案が報告されました(https://www.normanet.ne.jp/~jdf/seminar/20201207/index.html)。

さらに、今後JDFでは具体的なパラレルレポート報告会をオンラインで開催することを企画しています。

おわりに~コロナ時代の新しい障害者福祉~

コロナ禍の中で、集まる機会がなくなったことにより、あらためて適切な支援を踏まえた社会参加の重要性が確認されました。感染症が収束した後には、社会的障壁を解消して、出かける機会をつくり、出かける場所の整備を行い、出かけるための手段を充実させる必要があります。

また、コロナ禍の中で、ICTの可能性、オンライン集会やオンライン会議への期待が大きく膨らみました。もちろん、直接会って話し合うことがとても大事ですが、移動に困難があったり、遠隔地に暮らしていたりしても情報や意見の交換ができるシステムの導入は今後の活動に大事な手段です。コロナ禍が収束した後でも、多くの人が集会を行う場合には移動が困難な人のためにオンラインの併用も行われることを期待します。

コロナ禍が収束した後には、それ以前にも増して、障害のある人々の声をもとに誰もが暮らしやすい社会づくりが実現することを願っています。

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