視覚障害者のための新しい生活様式を求めて

「新ノーマライゼーション」2021年1月号

社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 組織部長
佐々木宗雅(ささきむねまさ)

新型コロナウイルス感染症の蔓延とともに新しい生活様式を推進する声が大きくなっています。端的には3密の回避です。3密とは密閉、密集、密接とされていますが、特に密接の回避の影響は大きく、社会は人と人との接触に敏感となり、そのことに対する寛容さが希薄になってしまった印象があります。それが視覚障害者の社会的な行動を制約する方向に働いており、個々の活動を苦境に貶(おとし)めています。

視覚障害者の多くが外出に利用しているのが同行援護制度です。支援者の肩に触れ、あるいは肘をつかみ2人1組で歩き、電車やバスに乗り移動するのが視覚障害者の移動様式で、これを社会は厳しい目で見ている様子が伝わってきます。そのため視覚障害者は外出を控え、支援者は、多くの場合はガイドヘルパーですが、ガイドを控えるという対応を招いています。また、弱視者(ロービジョン)はスーパーなどでの買い物の際、商品を確認するためパッケージを手に取ったり顔を近づけたりします。この方法も今ではできなくなってしまいました。加えてレジでは待機列において一定の間隔を保って並ばなければなりませんが、これも不本意な対応を強いられています。そこで本連合では国に働きかけ、買い物に窮している視覚障害者を救うため、「利用者のニーズに基づいて買い物などの代行をした場合にも、何らかの手当を支給すること」(1)と要望を提出し、ガイドヘルパーが単独で薬の受け取り、買い物ができるように同行援護の運用の改善が図られました。待機列での困難さについても、「待機列を示す線の工夫、待機列に並ぶ視覚障害者への支援を要望します。」(3)といった要望を提出しています。また、視覚障害者の単独での外出は常に危険との隣り合わせとなっており、交差点と駅ホームでの移動がその最たるもので、一般の方から危険回避のため声かけサポートを受けておりましたが、これも減少気味であることから、あらためて国や関係機関に広くお願いをしているところです。

職業に就いている視覚障害者が多数従事しているあん摩マッサージ指圧・はり・きゅう業(以下、あはき業)は、コロナ禍で手ひどい打撃を受けています。あはき業は患者に触れなければ施術できません。それ故、3密の回避、社会的距離の確保の推奨が影を落としています。患者の減少のみならず感染拡大防止の見地から自主的に休業した治療院も少なくありません。ある治療院の経営者は、「患者からの依頼が激減して仕事にならない」(5)との悲痛な声を漏らしています。ここでは、あはき業の社会的地位の向上が思わぬ事態をもたらしました。病院と同じように自営のあはき師は医療機関として分類されているため自治体からの休業要請は出されず、従って休業補償を受けられませんでした。そこで個々に補償を求める行動に出る必要が出てきたのですが、視覚障害あはき師の多くは情報機器の操作が苦手という事情があり思うに任せません。そこで「申請手続きの援助、申請手続きのための移動の支援、および受付窓口における柔軟な対応」(2)(4)の要望を提出。この要望を受けて国が申請サポート会場を設けるなどの対応をしたことにより、一部の方は持続化給付金を受けることができました。しかし、それは稀(まれ)な例であります。

このように、本連合では2020年3月に新型コロナウイルス緊急ホットラインを設けて会員からの声を受け止め、国に要望書を提出してきました。本文にはその一端を抜粋しました。全体は以下の引用文献に収められております。ご参照ください。


【引用文献】

(1)新型コロナウイルスに関する要望書(令和2年4月)

(2)新型コロナウイルスに係る各種支援策に対する要望書(5月)

(3)移動と情報に関する要望書(6月)

(4)新型コロナウイルスに係る視覚障害あん摩マッサージ指圧師・鍼師・灸師への支援に関する要望書(7月)

(5)新型コロナウイルス・ホットライン取りまとめ資料(3月~6月)

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