新型コロナにおける知的障害者と家族の困りごとについて

「新ノーマライゼーション」2021年1月号

一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会 常務理事兼事務局長
又村あおい(またむらあおい)

新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という)の感染拡大に伴い、知的障害のある人や子ども、そして家族はさまざまな困りごとを抱えることとなりました。

困りごと1・移動や対人接触の制限

まず、移動や対人接触の制限については、本人活動や余暇活動の縮小という形で影響を及ぼしました。多くの地域で集まってのレクリエーションや勉強会が制限され、皆で集まる機会を楽しみに日ごろの仕事などを頑張ってきた本人たちの落胆は大きいものがありました。また、特に緊急事態宣言下では「ステイホーム」が推奨されたことから、不安定になりがちな本人と長い時間を過ごすこととなった家族の負担も増加しました。「新型コロナはいつになったら終わるのか」と繰り返す子どもに、具体的な見通しを伝えられない辛さを感じた家族の声も寄せられました。

(一社)全国手をつなぐ育成会連合会(以下「全育連」という)では、こうした状況にあっても全国の仲間と「手をつなぐ」ことができるよう、YouTube(ユーチューブ)に公式チャンネル(※)を開設し、全国から集まった笑顔の写真やアート作品などを紹介する「みんなの笑顔プロジェクト」を展開しました。これまでに最多で1,300回以上の再生があり、好評を博しました。また、それぞれの家庭でステイホーム下における本人との関わり方やマスク着用の工夫などをまとめたアイデア集も公式ホームページで公開しています。

困りごと2・新型コロナそのものへの不安

次に新型コロナそのものへの不安として、本人や家族が感染した際の支援体制があります。いずれも必要な医療が届くかどうかの問題ですが、内容は大きく異なります。本人が感染した場合には、重症であれば都道府県単位で定められた障害者等の受け入れ医療機関へ入院することとなりますが、軽症・中等症への対応が残ります。というのも、多くの軽症者療養施設はホテルを借り上げており、医療職はいるものの福祉援助職はいませんので、介助を要する人は実質的に利用できないからです。家族が感染を覚悟で対応するよりほかないのでしょうか。

ただ、より不安なのは、その家族が感染した場合です。新型コロナに関しては、重症化リスクを考えると祖父祖母や叔父叔母といった年長親族に対応してもらう選択肢はありせんから、家族が入院などになった際には公的支援で本人を支える必要があります。しかし、大半の地域でこの支援体制は手つかずになっているのが現状です。短期入所で対応するとして、濃厚接触者である本人のPCR検査をどうするのか、あるいは居宅介護で支えるとして、ヘルパーに防護服やN95マスクなどを支給できるのかどうか…。また、公的な支援で支えるしかないということは、逆にいえばサービス等利用計画にあらかじめ盛り込むことができるということでもあります。家族が感染した場合に対応できるサービスがあるのかどうか、支援者を守る体制は構築されているのかどうか、これらの検証には実態把握が欠かせません。全国でサービス等利用計画への新型コロナ対応が進むことを強く期待するものです。

全育連では、こうした内容を各所へ要望しているほか、互助的な取り組みとして「みてね基金」(子どもやその家族を取り巻く社会課題の解決に向けて活動する団体に対し、資金の提供および助成先団体の活動支援を行う目的で設立された基金)からの助成と全育連の「災害等活動支援基金」を活用し、2020年11月から知的障害児者を対象とした新型コロナ対策の衛生用品の備蓄と無償提供を開始しています。

先の見えないコロナ禍ではありますが、エッセンシャルワーカーの皆さまへの感謝を胸に、手をつないで乗り越えていきたいと思います。


(※)https://www.youtube.com/channel/UC5ku3sanVaM1u6hM4MLCKVA
または「全国手をつなぐ育成会連合会チャンネル」で検索。

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