マスク社会はストレッサー

「新ノーマライゼーション」2021年1月号

一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 副理事長
宮本せつ子(みやもとせつこ)
一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 常務理事
湯浅はるみ(ゆあさはるみ)

難聴・中途失聴という障害は外から見えにくいため軽い障害と思っている人が多く、理解がなかなか進んでいません。全日本難聴者・中途失聴者団体連合会(以下、全難聴)では、音声情報に字幕や要約筆記(文字通訳)など文字情報の必要性を訴える啓発活動を長い間してきました。福祉制度も少しずつ整えられ、暮らしやすい社会になりつつあったのに、新型コロナウイルスが突然私たちの生活を脅かしました。

一番困っているのは『マスク』です。感染拡大防止のためのマスク着用は仕方がありませんが、顔の半分を隠されると「きこえ」が困難な者にとっては会話ができないのです。相手の口形や目の動き・うなずきなどで感情を読み取りながらコミュニケーションを取っているからです。行政や病院関係者・テレビの出演者などがマスクをしていると、「透明マスクをしてー!」と叫びたくなります。

『耳マーク』という、聞こえが不自由なことを示すと同時に聞こえの不自由な人への配慮を表すマークを全難聴が出しています。ある病院に行った時、診察室と会計受付でともに耳マークカードを提示し、髪をかき上げ補聴器を見せ聴覚障害者であることを伝えたら、マスクを取らずに耳元で大きな声を出されたのにはびっくりしました。カードには「口元を見せて」と記しているのにと思いました。

新型コロナウイルス感染拡大の収束が見えない今、私たちも情報・コミュニケーションを取りやすくするため、障害への理解を広げる工夫や活動が大切であると感じています。

(宮本せつ子)


昨年の春に始まった新型コロナウイルス感染拡大の影響が難聴者の私たちの生活まで及ぶとは半年前までは夢にも思いませんでした。

いつも行っている病院の先生に診察結果を聞こうとしたら、先生は話すのを躊躇(ちゅうちょ)されマスクを外し後ろに下がって話し始めたのにびっくりしました。口元が遠くて見づらいですと言ったら、先生はマスクをかけ直し筆談に切り替えてくれました。今では私が診察を受ける時は、マスクをかけたままでもすぐに筆談してくれるので助かっています。他に、いつも行くお店や銀行等でもマスクをしたままで話しかけられると「すみません」と一言謝ってから「マスクを外してください」とお願いします。

マスク着用はコロナ感染拡大防止のためとはいえ、聞こえない私たちは話をする時に、マスクを外してもらわないと会話ができないので不便に感じる一方、感染の恐怖を感じる時もあります。筆談をお願いできるような状況であればそんな気づかいは不要ですが、なかなかそういう訳にはいかない時もあります。「マスクを外してください」とお願いするのは、とても勇気がいることで気兼ねもします。

最近では音声認識アプリを利用すれば、相手の長い話も誤変換があるものの文字となって見えるので、同じように困っている難聴の知人にも教えています。

難聴者がリラックスして会話を楽しめるようになるには、感染拡大が収束されるのを待つしかなさそうです。

(湯浅はるみ)

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